恋柱の継子、人の恋路に世話を焼く   作:大同爽

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どうも皆さまこんにちは。
今回のお話は現在炭治郎達と行動を共にするという長期任務に出ている間の他の楓子の知り合いたちの様子のお話です。
楓子の登場が極端に少ないので今話は「.5」となっています。
でも、番外編とかではないですので。ちゃんと本筋のお話なので。
それではお楽しみください!





恋25.5 恋柱の継子のいない○○

○恋柱の継子のいない恋柱邸

 

 

 

 楓子が耀哉の要請によって炭治郎の調査に行って数週間、現在楓子は炭治郎達と共に藤の花の家紋の家で過ごしながら三人の主に知識面での修業を行っている頃のこと。

 楓子のいない恋柱邸では――

 

「うぅ~……ふーちゃ~ん……」

 

 蜜璃は楓子から贈られてきた手紙を読みながら涙を浮かべていた。

 

「ふーちゃん、頑張ってるんだねぇ~……でもぉ~!でもぉ~!!」

 

「だ、大丈夫か、甘露寺……?」

 

「うわぁ~んッ!伊黒さ~ん!私はダメな師匠なのぉ~!」

 

 対面に座る小芭内がオロオロと問いかけるが、蜜璃はとうとう泣き出す。

 

「ふーちゃんはお館様からの直接の任務を一生懸命頑張ってるの!わかってるの!それはわかってるのに~!」

 

「わかってるのに?」

 

「ふーちゃんに会えなくて寂しいのぉ~!」

 

 小芭内の問いに蜜璃は机に泣き崩れながら言う。

 

「ふーちゃん大丈夫かなぁ!?風邪とかひいてないかしら!?」

 

「あいつなら元気にやってるだろう。手紙もこうして届いてることだし」

 

 小芭内は言いながら蜜璃の投げ出した手の中から手紙を抜き取り眺める。

 手紙には簡単な近況報告、自分は元気にしてること、今は同行している新人隊士達の療養のために藤の花の家紋の家に逗留していることが書かれていた。

 ちなみに蜜璃達に対して楓子は任務の詳細を秘密にしている。鬼を連れた隊士の素行調査、などと真実を話してしまえば禰豆子が安全である証明のための根拠を用意する前に断罪されかねないからだ。なので、蜜璃達にはお館様からの勅命で「新人隊士に中堅隊士が着き、補助をすることで新人隊士の生存率を上げる」という試験的な試みに就いている、と説明している。

 

「ほら、手紙には怪我の療養中の新人隊士に座学で知識面を強化中だって書いてある。相変わらずあれこれ世話を焼いているようだな」

 

「うぅ~…ふーちゃん……」

 

「あいつなら心配ない。すぐに帰ってくるさ」

 

 ぐずる蜜璃に優しく微笑みかけながら小芭内は言う。

 

「……私もね、ちゃんとわかってるの。ふーちゃんは私も持てる技術は全部教えてるし、煉獄さんも今でも時々修業をつけてる。伊黒さんだって時々見てくれてるもの。ふーちゃんの実力は疑う余地もないわ!」

 

「だったら」

 

「でもね、私たちの身を置いてるこの世界は何があるかわからないわ。私これまでに知り合いを何度も見送ったもの……」

 

「それは……」

 

 小芭内は蜜璃の言葉に言い淀む。

 

「ふーちゃんの実力を私は疑ってないわ。でも、この世界に絶対なんてないもの。何が起こるかわからない。私はそれが怖いの……」

 

「……今日はやけに弱気だな」

 

「ふーちゃんが継子になってから今日までこんなに長い間ふーちゃんと離れたことないんだもん……可愛い妹のことをお姉ちゃんが心配するのは当然でしょ?」

 

「そうだな……」

 

 蜜璃の言葉に小芭内は頷き

 

「なら、心配する以上に信じてやったらどうだ?」

 

「え?」

 

 その言葉に蜜璃は呆ける。

 

「あいつの実力は俺も認めるところだ。何より、あいつの強さは肉体的な強さだけじゃない、隊士の生存率を引き上げた頭の良さがある――まあ普段はその頭の良さが人をおちょくる方向にしか使われんが……そう考えるとあいつ、あの性格が無ければ年下ではあるが尊敬に値する人物なのに、あの性格のせいで尊敬しきれないんだな……」

 

 言いながら小芭内は遠い眼をしてため息をつく。

 

「まあとにかく、あいつの実力ならそれこそ十二鬼月の上弦でも相手にしない限り問題ないだろう。少なくとも俺はそう評価するし、信じている」

 

「伊黒さん……」

 

「だから、あいつの師匠の君が信じてやらなくてどうするんだ?」

 

「…………」

 

 小芭内の言葉に蜜璃は数秒押し黙り、大きく頷く。

 

「そうね、伊黒さんの言う通りね!私、ふーちゃんのこと信じて待ってることにする!」

 

「ああ、そうしてやれ」

 

 笑顔で言った蜜璃に小芭内は優しく微笑みながら頷いた。

 

「ありがとう伊黒さん!ごめんなさい、私少し弱気になっちゃってたわ……」

 

「このくらい構わん。むしろこういう時は頼ってほしい。これでも俺は…その…君の恋人なわけだしな……/////」

 

「伊黒さん……/////」

 

 小芭内が頬を赤く染めながら言うと、そんな小芭内に蜜璃は彼女の言葉を借りるなら「キュンキュン」した様子で熱い視線を向ける。

 そんな蜜璃の視線を受けて小芭内は耐え切れず頬を赤く染めたままそっと視線を外す。

 蜜璃はそんな小芭内の机に無造作に置かれた手にそっと自身の手をのせる。

 

「か、甘露寺……!?」

 

 そんな蜜璃の行動に小芭内はドキリと心臓を高鳴らせながら目を見開いて視線を向ける。

 蜜璃は小芭内の視線を受けながらモジモジと視線を彷徨わせ、しかし、すぐに意を決した様子で顔を上げ

 

「あ、あのね!早速頼ってもいいかしら!?」

 

「あ、ああ…!お、俺にできる範囲なら……」

 

 声を震わせる蜜璃に小芭内は恐る恐る頷く。

 

「あ、あの……ふーちゃんが任務に出てからずっと私一人でね?最近ちょっと心細くなっててね……だ、だから……」

 

 モジモジと身を縮めた蜜璃は恐る恐るといった様子で小芭内の顔を見て

 

「今日……泊まっていかない?」

 

「………は?」

 

 

 

 ○

 

 

 そして、数時間後。

 小芭内は現在敷かれた布団の上で寝間着の浴衣姿で一人正座していた。

 時刻は現代で言えば22時を回ったころ。

 蜜璃から今日は泊ってほしいという頼みに応じた小芭内はその後二人で夕食を食べ、ゆったりと話に花を咲かせた。

 ――そして、夜も更けてきたころ

 

「そ、そろそろ寝る用意しよっか、その……お風呂、とか……?」

 

 という蜜璃の言葉に小芭内はゴクリと生唾を飲みながら、なんとか頷いた。

 そして、いつもより入念に身体を洗い、丹念に身を清めた小芭内は風呂から上がった。それが約一時間前のこと。

 現在は小芭内と入れ替わりにお風呂に入った蜜璃を寝室で並んで敷かれた布団の片方に座りながら待っている状態だ。

 

「…………」

 

 小芭内はソワソワと落ち着かない様子で部屋の中を見渡し、その視線は最後に自身の座る布団と、その隣にぴったりと寄せられて敷かれた布団に向く。

 これは小芭内がお風呂に入っている間に蜜璃が敷いたものだ。

 小芭内としては結婚前に同じ部屋で寝るのは……と渋ったのだが、蜜璃に少し寂しげな顔で上目遣いに見られては抗うことはできず、最終的には頷いていた。頷いていたのだが――

 

「こ、これは些か近すぎないだろうか……?」

 

 布団と布団がぴったりと寄り添い、畳の目が一ミリも見えないほどにくっついているその様子に小芭内はため息をつく。

 確かに同じ部屋で寝ることは了承した。しかし、この近さは予想外だ。

 これをしたのが自身の恋人の弟子であればすぐに殴り込み、小言を小一時間かけて行ってやるところだが、生憎今日はその弟子がいない蜜璃からの誘いで泊まることになった上、この布団を用意したのはその蜜璃である。わざわざ自身の手で布団を離すのも気が咎められた。

 

「さすがにこの距離は……しかし、これを突っぱねて甘露寺を悲しませてしまうのは……」

 

 と、小芭内が葛藤していると

 

「ッ!?」

 

 襖の向こう、廊下から聞こえてきた足音に小芭内はビクリと身体を震わせる。

 そして、数秒後――

 

「お、お待たせ……」

 

「あ、ああッ……!」

 

 襖を開けて蜜璃が現れる。

 

「ご、ごめんなさい……その、髪を乾かしてたら時間がかかっちゃって……ふーちゃんから髪は女の命だから大事にしないとダメって言われてて……」

 

「そ、その髪ならしょうがないな……」

 

 蜜璃の言葉に小芭内は頷く。

 そのまま数秒見つめ合った二人は

 

「そ、それじゃあ、寝る…か……?」

 

「ッ!……そ、そうね」

 

 小芭内の言葉に蜜璃は頷き、二人はどちらともなく部屋に灯されていた行燈を消す。

 部屋に夜の帳が訪れる。縁側の方の障子からもたらされる月の光でうすぼんやりと室内を照らすお陰で完全なる暗闇とはなっていない。

 二人はそっと布団に入り、向き合う。月の光によって薄暗く、加えて鬼と戦う上で自然と身に着いた夜目の効く眼のお陰で、二人は互いの顔を十全に認識し合うことができた。

 

「……ねぇ、伊黒さん」

 

「……どうした?」

 

「……手、握ってもいい?」

 

「……ああ」

 

 頷いた小芭内はそっと布団から右手を出す。

 そんな小芭内の右手に蜜璃は自身の右手を伸ばし、そっと重ねる。

 

「……伊黒さん」

 

「どうした?」

 

「……ありがとう」

 

 言いながら蜜璃はそっと微笑む。

 

「俺は何もしていない」

 

「そんなことないよ」

 

 小芭内の言葉に蜜璃はそっと首を振る。

 

「今、こうして一緒にいてくれてるもの。それで十分すぎるくらいよ」

 

「……そうか」

 

 そう言ってニッコリ笑う蜜璃に小芭内は頷く。

 

「私、伊黒さんとお付き合いで来て、伊黒さんの恋人になれて、本当に幸せだよ」

 

「それは、俺の台詞だ」

 

 蜜璃の言葉に小芭内が言う。

 

「俺も、君と一緒に居られて、幸せだ」

 

「……うん」

 

 そう、慈愛に満ちた瞳で微笑んで言う小芭内に蜜璃も優しく微笑む。

 小芭内は今、幸せを噛みしめていた。

 例えそれが――

 

『何紳士ぶってんですか、いいから襲っちゃえばいいじゃないですか。ここまで来てるんだから、本気で嫌がるわけがないでしょ!?』

 

 なんて、楓子の顔をした悪魔が囁いていたとしても、である。

 

『ほら、行け行け!据え膳喰わぬは男の恥って言うじゃないですか?やっちゃえって!男見せたれー!』

 

(というか、何故俺の中の悪魔はあやつの見た目なんだ?実に腹立たしい……!)

 

 悪魔の囁きに内心辟易しながらスルーする。しかし、なおも悪魔は小芭内に囁き続ける。

 

『というかここまでして指一本も触れないというのは蜜璃さんの女としての尊厳を無視しているのではないでしょうか?これで何もなかったら蜜璃さん可哀想ですよ!』

 

(それは……)

 

 そして、その囁きは小芭内の理性をゴリゴリと削る。

 

『蜜璃さんに恥をかかせないためにも、ここは行くべきです!さぁ抱くのです!さぁ!さぁ!!さぁ!!!』

 

 小芭内の理性が押されていることに気付いている悪魔はなおも続ける。

 

『抱けぇッ!!抱けぇッ!!抱けッ!!抱けーッ!!抱けーッ!!』

 

(だまれッ悪魔!!)

 

 なおも誘惑の声を上げ続ける悪魔に心中で叫ぶ小芭内。と――

 

『そうよ、襲うなんていけないわ』

 

 新たな声が加わる。

 それは悪魔同様小芭内の知る声だった。

 新たに現れたのは小芭内の恋人である蜜璃の顔をした天使だった。

 

【挿絵表示】

 

 

『襲うなんていけないわ。そういうことは段階を踏んでいくべきよ』

 

(おお、流石は甘露寺の顔をしているだけあって素晴らしい意見だ)

 

 天使の言葉に小芭内はホッとし

 

『ここはちゃんと段階を踏んでまずは接吻!それから彼女(わたし)にちゃんと今からしようって伝えてから行為をするべきよ!』

 

 続いた天使の言葉に絶句する。

 

『なるほど、一理ありますね』

 

『でしょう!』

 

 と、天使の言葉に頷いた悪魔に天使は自信満々に頷く。

 

『やっぱりこういうことは合意の上で行われるべきよ!どちらか一方が満足するなんてダメ!独りよがりはいけないわ!』

 

『うぅむ、確かにそれは少なからず同意見ですね』

 

『そうでしょうそうでしょう!』

 

 頷く悪魔に天使はふふんと胸を張り

 

『さあまずは彼女(わたし)に甘く愛を囁いて!それからそっと口づけを!それからあなたのしたいことを素直に伝えるのよ!』

 

(いや、しないからなッ!?)

 

『『えぇ~……!?』』

 

(えぇ~、じゃない!!)

 

 声を揃えて不満を口にする天使と悪魔に小芭内はツッコみ

 

(というか、さっきからおかしいと思っていたが、お前本当に天使かッ!?甘露寺と同じ顔してるくせに何を推奨してる!お前は俺の理性じゃないのかッ!?)

 

『『…………』』

 

 小芭内の問いに天使と悪魔は顔を見合わせ

 

『『フッフッフッフッフ~!バレてしまったようですね~!』』

 

 笑い始める。

 と、同時に天使の翼がポロリと転がり落ち、純白だった服が真っ黒に染まり、その背に蝙蝠のような翼と矢印のような尾が伸びる。そのまま顔の前で両手を交差させるように通過させる。と、一瞬前まで蜜璃とそっくりの顔が楓子のものに変わる。

 

(なッ!?)

 

『『最初から天使なんていませんでしたぁ~!』』

 

 驚く小芭内に悪魔×2はニヤリと笑いながら煽るように言う。

 

『さあ、種明かしも済んだところで!』

 

『男らしくいくのです!』

 

『抱けぇッ!!抱けぇッ!!抱けッ!!抱けーッ!!抱けーッ!!』

 

『抱けぇッ!!抱けぇッ!!抱けッ!!抱けーッ!!抱けーッ!!』

 

『『抱けぇッ!!抱けぇッ!!抱けッ!!抱けーッ!!抱けーッ!!』』

 

 言いながら悪魔×2が小芭内の頭上をくるくると飛び回りながら声を揃えて大合唱する。

 

(う、うわぁぁぁぁぁぁぁッ!!)

 

 そんな悪魔たちの囁きから逃れようと頭を抱えた小芭内は――

 

「ハッ!?」

 

 ――そこで目を覚ました。

 

「……夢、だったのか?」

 

 体を起こして周りを見渡した小芭内は安心したような、困惑したような顔で呟く。そして――

 

「甘露寺……?」

 

 自身の隣の布団が空になり畳まれていることに気付いた。

 

「どこに……?」

 

 首を傾げる小芭内。するとそのタイミングで襖が開き

 

「あ、伊黒さん起きた!?」

 

「甘露寺……!」

 

 ひょこッと開いた襖から甘露寺が顔を出す。

 

「ごめんなさい、本当はもう少し早く起こそうかと思ったんだけど、すごくよく寝てたから……」

 

「そ、そうか……いや、気にしなくていい」

 

「そう?――朝ごはんもうできるから着替えて顔洗ってきてね」

 

「ああ」

 

 小芭内は蜜璃の言葉に頷き布団から出ようとして

 

「……どうした?」

 

 いまだ襖から顔を出したままの蜜璃に訊く。

 

「う、うん……その、大したことないんだけどね……?」

 

 小芭内の問いに蜜璃は頷き

 

「なんかこういうのいいなぁ~って思って……」

 

「こういうの?」

 

 何かを噛みしめるように言う蜜璃に小芭内が訊く。

 

「うん、なんて言うか……夫婦みたいだなぁって思って」

 

「ふッ、夫婦ッ……!?」

 

 蜜璃の答えに小芭内はボッと音が出聞こえそうな勢いで顔を真っ赤にする。

 

「そ、それだけ!じゃあね!早く来てね、待ってるから!」

 

「あ、ああ……」

 

 小芭内に負けず劣らず顔を真っ赤にした蜜璃はそれだけ言い残すと去って行った。

 そんな蜜璃の背中を見送った小芭内は

 

「……悪くないな」

 

 数年後に待っているかもしれない〝家庭〟に思いを馳せる。

 

『いや、あの状況で接吻の一つもしないとかヘタレすぎません?』

 

 ――気のせいか夢に見た悪魔の呆れたようなつぶやきが聞こえた気がしたが、無視するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○恋柱の継子のいない蝶屋敷

 

 

 

 

「――え、ふうちゃんって今お館様からの勅命の長期任務に出てるんですか?」

 

 蝶屋敷にて、冨岡と共に軟膏を取りに来た真菰は対応したカナエとしのぶの言葉に驚きの声を上げる。

 立ち話もなんだから、ということで今に通された二人は出されたお茶を飲みながら、話題は最近姿を見ない楓子の話になっていた。

 

「知らなかったの?」

 

「え、ええ……ふうちゃんからは何も聞いてないです……」

 

「まあ私たちもまた聞きのまた聞きだから」

 

「また聞きのまた聞き?」

 

 カナエの言葉に真菰が首を傾げる。

 

「楓子ちゃんが定期的に蜜璃さんに報告の手紙を送っているらしくて、その話を彼女たちの師匠の煉獄さんが聞いて、その話を私たちが聞いた、って感じかな」

 

「そうだったんですか……」

 

「煉獄さんも喜んでいましたね。『俺の弟子がお館様からの特命を受けてそれを全うしているとは!師として鼻が高いぞ!』って」

 

「……その声帯模写あんまり似てませんね」

 

「しょ、しょうがないじゃない!楓子のようにはいかないわよ!」

 

 真菰の苦笑いの指摘にしのぶが照れた様子で口を尖らせる。

 

「でも、そっか……ふうちゃん、私には何も教えてくれなかったなぁ……」

 

 しのぶの様子に苦笑いを浮かべながらも、真菰はそっと視線を下げて呟く。

 

「たぶんだけど、楓子ちゃんは言いたくても言えなかったんじゃないかな?」

 

「え……?」

 

 と、カナエの言葉に真菰が首を傾げる。

 

「蜜璃さんに届く手紙には詳しい内容は書かれていないらしいわ。大まかに『新人隊士に中堅隊士が着き、補助をすることで新人隊士の生存率を上げる』そのための試験的な試みらしいってことみたいよ」

 

「お館様からの勅命だからね。言えないこともあるのかもしれないわ。私たちだって長期任務に出てるってこと煉獄さんから聞くまで知らなかったくらいだし」

 

「なる…ほど……」

 

 カナエとしのぶの言葉に真菰は少し納得した様子で頷く。

 

「だから、任務が終わって帰ってきたらいろいろお土産話聞きましょ?」

 

「きっと楓子のことだから色々世話を焼いているわよ」

 

「そう…ですね……はい!その時は、四人で女子会しましょう!」

 

 二人の言葉に頷いて真菰が提案すると、カナエとしのぶもニコニコと笑みを浮かべて頷いた。

 

「でも一つ気になるのが、新人隊士の補助って話だけど、今年の最終選別を合格できたのはカナヲを含めて五人で、女の子はカナヲだけだったってことなのよねぇ~」

 

「あッ……」

 

 カナエの言葉に真菰もふと気付く、その後人のうちの一人は自身の弟弟子であることに。

 

「フフ、案外楓子ちゃんも今頃、その新人隊士君と親密になってたりしてね~」

 

「あの楓子がそうなるかなぁ……自分の恋路より他人の恋路ばっかり世話焼いてる印象だけど?それにもう鬼籍に入ってるけど、楓子には思いを寄せてる人がいるわけだし」

 

「…………」

 

 二人が楓子の恋路の話で盛り上がる横で、真菰は一抹の不安を感じていた。

 

(もしもふうちゃんの補助してる新人隊士が、炭治郎だったら……?そうなったら、禰豆子の存在が……)

 

 真菰はそんな不安を胸中に渦巻かせながら、しかし、言葉にせずに押し留めるのだった。

 ちなみに、その隣では冨岡がいつもの感情の窺えない無表情のまま無言でお茶を啜っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○恋柱の継子のいない産屋敷邸

 

 

 

 産屋敷のお屋敷にて、普段は柱たちの会議や楓子による医療技術その他の報告に使われる部屋には、現在当主である耀哉、その妻であるあまね、その二人の対面に二人の唯一の息子である輝利哉が座る。

 

「父上、母上、お二人に確認したいことがございます」

 

「ああ。何が知りたいんだい?」

 

 真剣な表情で言う輝利哉の言葉に耀哉が頷く。

 

「楓子さんのことです」

 

「「ッ!」」

 

 輝利哉の言葉に二人は息を呑む。

 

「楓子さんが、今新人隊士の方と――男性と一緒にいるというのは本当ですか?」

 

「それは……」

 

 輝利哉の問いにあまねは言い淀み

 

「……そうだね、本当のことだよ」

 

「ッ!やはり、そうなのですね……!」

 

 頷いた耀哉の言葉に輝利哉が頷き

 

「どうして……どうしてですか父上!何故、何故楓子さんがその任務に就く必要があったのですか!?」

 

「輝利哉……」

 

「男女が長期間共に共に過ごし、苦楽を共にするなど!な、何かあっては……!」

 

「落ち着きなさい、輝利哉」

 

「ッ!」

 

 興奮した様子で言う輝利哉に耀哉がそっと、その安らぎの声で語りかける。

 

「確かに、輝利哉の心配はわかる。でも、この任務に関しては楓子以上に安心して任せられる子はいないんだ」

 

「それは、どういうことですか?」

 

「そうだね、輝利哉にも話しておいた方がいいね」

 

 輝利哉の問いにそっと頷いた耀哉は、楓子に命じた任務の本当の内容を語る。

 その内容を聞いた輝利哉は――

 

「そんな…鬼を連れた隊士の調査とその鬼の安全性の証明のために……」

 

「そう。そんな任務彼女以上に信頼して任せられる人物はいないと思う。柱の誰かであれば、きっと鬼への憎しみで公平な判断は難しいだろう。彼女でなければいけないんだ。わかってくれるかい?」

 

「そのお気持ちはわかりますが……」

 

 耀哉の言葉に輝利哉は頷きながら、しかし、まだ納得しきれない様子で呟く。

 

「それにね、その楓子が着いているその件の新人隊士の竈門炭治郎は、鬼を連れている以上に重要な要素があるんだよ」

 

 そんな輝利哉にダメ押しといわんばかりにさらに続けて言う。

 

「炭治郎はね、あの鬼舞辻無惨に遭遇してるんだよ」

 

「ッ!?あ、あの鬼舞辻無惨と……!?」

 

 耀哉の言葉に輝利哉は息を呑む。

 

「そして、これが炭治郎の証言によって楓子が描いた鬼舞辻無惨の似顔絵だよ」

 

 言いながら耀哉があまねの方に顔を傾けると、あまねはそっと一枚の封筒を差し出す。

 受け取った輝利哉は封筒を開けると、中から一枚の紙が出てくる。

 

「こ、これが…鬼舞辻無惨……!」

 

「そう、この千年間でやつと会うことができた隊士は片手で数えるほど。しかも、生存しているのは炭治郎を含めて二人だけ。そんな鬼舞辻無惨の顔が、いまこうして目にすることができた……まあ、私の光を失った両目では見ることはかなわないけどね。とにかく、これは大きな快挙と言っていいだろうね」

 

 似顔絵に衝撃を受ける輝利哉に耀哉が言う。

 

「きっと、今後も彼には鬼舞辻の追手が差し向けられる。彼は鬼舞辻へと繋がる重要な糸なんだ。私はそれを離したくはない。彼には今後とも頑張って強くなってもらわなければいけない。それには楓子の知識はとても重要な要素となるだろう。彼女には今後も彼を教え導いていってほしい」

 

「ですが……」

 

 それでもなお悩む様子の息子に耀哉はそっと微笑み

 

「大丈夫、楓子は炭治郎とどうこうなることはないと思おうよ。彼女は世話焼きだからね。せいぜい可愛い弟分くらいでとどまると思うよ」

 

「…………」

 

 耀哉の言葉に少し考えこんだ輝利哉は

 

「……わかりました」

 

 渋々といった様子で頷いた。

 

「ですが、何かあれば私にも教えてください。お願いします」

 

「ああ、もちろんだよ。一緒に楓子の活躍を楽しみにしようじゃないか」

 

 輝利哉の言葉に頷いた耀哉は

 

「あと、最後にこれは父として息子への助言なんだけどね」

 

 にっこりと微笑んで輝利哉へ口を開く。

 

「お前はまだ幼い子どもだ。でも、この産屋敷という環境がお前を子どもではいさせられないのも承知している。だからこそ、お前が今抱えている感情を持て余していることもわかる」

 

「父上……」

 

 父の優しい声音での言葉に輝利哉は呟く。

 

「だから、急かすつもりはない。でも、楓子も彼女自身の能力の高さで今後もあらゆる任務に就くことになるだろう。だから、お前がその感情に向き合い早めに行動することを勧めておくよ。私もあまねさんも、できるなら孫の顔は見たいからね」

 

「で、ですが……産屋敷の当主は代々……」

 

「神職の出のものと結婚してる、かい?」

 

「……はい」

 

 耀哉の問いに輝利哉は頷く。

 

「そのことだけどね、面白い仮説を聞いてね」

 

「面白い仮説?」

 

「うん、その仮説では、どうやら産屋敷の呪いには、何も神職の出の女性との婚姻をする必要はない可能性があるんだよ」

 

「ッ!?そ、それは……」

 

「そして、私もその仮説を推している」

 

 言いながら耀哉はにっこりと微笑み

 

「ちなみにその仮説を私にもたらしてくれたのは、何を隠そう件の楓子だよ」

 

「ッ!?ふ、楓子さんが!?」

 

 父の思わぬ言葉に輝利哉は驚きの声を上げる。

 

「ああ。だからね、輝利哉。君は将来の伴侶について、これまでの歴代の当主のことを意識する必要はないんだよ」

 

「それって……」

 

「私は、私たちは息子の恋愛を大いに応援しているよ」

 

「ッ!?」

 

 父の言葉に驚き声を失った輝利哉は目を見開き、あまねに視線を向ける。あまねは輝利哉の視線を受け、そっと優しく微笑むとゆっくりと頷いた。

 

「輝利哉、君は自分の想う人と添い遂げていいんだよ。応援してるよ」

 

「頑張りなさい」

 

「父上……母上……はい!ありがとうございます!」

 

 二人の言葉に輝利哉は晴れやかな顔で頷いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ヘクチッ!」

 

「うわぁッびっくりしたぁ~!大丈夫ですか?」

 

「風邪ですか?この間夜の散歩なんていくから……」

 

「へんッ!風邪なんか引いて案外弱ぇ体してんな!俺は生まれてこの方風邪なんか引いたことねぇぜッ!」

 

「いや~、特に風邪とかではないと思うんだけど……誰か噂してるのかな?」

 




と、いうわけで楓子ちゃんのいないそれぞれの様子でした。
こうしてみると、楓子ちゃんはあっちこっちで愛されてますねぇ~。
これも彼女の人徳のなせる業でしょうか?



さて、ここで二つほどお知らせとご協力をお願いしたいことがあります。

まず一つ目に、活動報告にて楓子ちゃんへの質問を募集しています。
楓子ちゃんについてあれこれ聞きたい事ございませんか?
本編のお話に今後関わってくることなどはお答えできないこともあるかもしれませんが、ご質問ありましたら今後このあとがきにて楓子ちゃんがお答えします。
質問の内容は何でも構いません。
例えば好きな俳優はいる?とか

楓子「日本人ならオダギリジョーと西島秀俊、女優さんなら米倉涼子と浜辺美波。海外の俳優さんはライアン・レイノルズとキアヌ・リーブスとロバート・ダウニーJr、女優さんならミラ・ジョヴォヴィッチが好きかな~」

前世での思い残しを一つあげるなら?

楓子「シン・ヱヴァンゲリヲンが見れなかったことかなぁ~。完結楽しみにしてたし。私が死んだ一か月後くらいが公開予定日だったのになぁ~」

それコロナのせいでまた延期したよ?

楓子「うっそマジで!?」

――とまあこのようにこういう軽いもので構いませんので、何かありましたらドシドシお寄せ下さい。

さて、続いて二つ目のお知らせ。
現在今話を投稿した時点で、お陰様でお気に入り件数が2500件が見えてきました。
そこで、キリがいい数字なのでそれを記念して番外編を書きたいと思っています。
ただ、話が中途半端なところで番外編は極力入れたくないので、那谷蜘蛛山のお話に入る前にできるなら番外編はやりたいと思っています。
那谷蜘蛛山編は二話後から入ろうと思っていますので、次回までにもしお気に入り件数が2500件を超えるようなら番外編を、越えなければ本編を勧めようと思っています。
皆さんにご協力いただきたいのは、もしお気に入り件数が2500件を超えた場合の番外編の内容についてです。
現在番外編の内容は以下のもので考えています。
一つは楓子自作の人生ゲームを蜜璃、小芭内、しのぶ、カナエ、義勇と共に遊ぶお話。
もう一つは楓子が寝ぼけてあれこれいろんな薬を実験用の動物に投与した結果謎生物を作り出してしまった、というお話。
この二つで考えています。
皆さんにはどちらの内容が読みたいですか?というアンケートにご協力いただきたいです。もしよろしければご協力ください。ちなみに今回選ばれなかった方は以降の別の機会に投稿します。
アンケートの結果はお気に入り件数が2500を超え次第締め切りますのでよろしくお願いします。それと、アンケートには「番外編より本編を進めて!」という方様にその項目も設けていますのでよろしくお願いします!

長々とお願いとお知らせを書き連ねましたが、ご協力いただけると幸いです。
よろしくお願いします!



~大正コソコソ噂話~
楓子が炭治郎と行動を共にしていることを輝利哉が知ったのは偶然耀哉とあまねの話ているのを聞いてしまった他の姉妹たちによる情報です。
ちなみに楓子が現在炭治郎だけでなく善逸と伊之助とも行動を共にしていることは耀哉もあまねも知っていましたが、言うと余計に拗れるので輝利哉には黙っています。

お気に入り件数2500件記念の番外編、その内容は?

  • 恋柱の継子と人生ゲーム
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