恋柱の継子、人の恋路に世話を焼く   作:大同爽

34 / 109
恋26 恋柱の継子とかまぼこ隊

○伊之助の場合

 

 

 藤の花の家紋の家、その飯を作る場所で俺は今――

 

「どっせい!!」

 

「ガハッ!!」

 

 ぷー子に後ろから両腕を腰に回して掴まれ、そのまま仰けに反って床に叩きつけられていた。

 今の時間は昼飯前、ここには俺とぷー子の他に家主であるばばぁがいる。

ぷー子に床に叩きつけられた俺の手にはエビ天が握られている。そうだ、俺は今昼食を作っている最中だったぷー子たちの目を盗んでつまみ食いをしようとしたが、ぷー子に見つかり返り討ちにされたのだ。

 そして――

 

「い~の~す~け~く~ん?」

 

「…………」

 

 俺は正座させられ、その目の前にぷー子は笑顔で腕を組んで仁王立ちしていた。

 

「私、前にも言ったよね?つまみ食いするやつに容赦しないって」

 

「へ、へんッ!!知るかッ!!俺は食いたい時に食う!!俺は山の王だからなッ!!」

 

「……はぁ~」

 

 ぷー子に怒られながらも言い返す俺にぷー子はため息をつきギロリと睨む。

 

「いい?まだ伊之助君は理解して無いようだからはっきり言ってあげる」

 

 そう言ってぷー子は

 

「山の王?はあぁ?それがどうした?私はこの調理場の王だぞ」

 

「何!?」

 

 ぷー子の偉そうな言い方に俺は驚きの声を上げる。

 

「私はぁぁ調理場(ここ)の王だぁぁぁッ!砂糖の一粒までが私に従うッ!君が山の王だろうが関係ない!ここでは私たちが絶対なる支配者!従うか…死ぬかだ!」

 

「ッ!!」

 

 ぷー子の言葉に俺は思わず息を呑む。

 

「どんなにえらい奴も、強い奴も空腹に勝つことはできない。どんなに強い力があっても空腹ではそれを振るうことはできない。美味しいご飯はそれだけで人を幸福にし、士気を高め、人を育てる。美食とは力だ。美食の前に肉体的な力など意味を持たない。食は剣よりも強し、だ!」

 

「くッ……!」

 

 その言葉に俺は納得してしまい、それでも何とか言い返そうと言葉を絞り出す。

 

「へ、へんッ!料理くらい、俺にもできる!偉そうに言うんじゃねぇ!」

 

「ほう……」

 

 俺の言葉に、しかし、ぷー子は眉をピクリと動かす。

 

「言ったな、山の王。覆水盆に返らず、吐いた唾は飲めないぞ?」

 

「な、何だ?どういう意味だ?」

 

 意味が分からず首をひねる俺に、ぷー子はドンとおひつを目の前に出す。

 

「ここに炊き立てのご飯がある。そっちの机には今日の昼食用に梅干しや沢庵、明太子やその他いろいろなご飯のお供がある」

 

 俺を指さしながらぷー子は言う。

 

「ここにあるものは好きに使っていい。ここにあるものを使って君の思うようにおにぎりを作ってみて。私の作ったおにぎりと食べ比べてみようじゃない。ちなみに私は、塩だけで作るわ」

 

「は?」

 

「私の作ったものよりも君の方が美味しければ、今後私は君の行動を咎めない。つまみ食いでも何でもいくらでも好きなだけすればいいよ」

 

「何ッ!?それ本当かッ!?」

 

「ええ、もちろんよ」

 

「うおッしゃぁぁぁぁ!!やってやろうじゃねぇかぁぁぁぁッ!!」

 

 ぷー子が頷いたのを見て俺は叫ぶ。

 馬鹿め!!いくら自信があっても塩だけでうめぇ握り飯が作れるわけがねぇ!!これは俺の勝ちだなぁ!!

 そうして、俺は意気揚々と握り飯を作り――

 

「まっず!!」

 

 俺の握り飯を食ったぷー子がオエッとえづきながら言う。

 

「はぁぁぁぁッ!!?んなわけあるかぁぁ!!うめぇもんを詰め込みまくったんだぞ!!」

 

「うん、だからだね」

 

「はぁぁッ!?どう意味だコラァァァッ!?」

 

「いいから自分で食べてみ」

 

「よこせオラッ!!」

 

 ぷー子の差し出す俺様作の握り飯を引っ手繰り頬張り

 

「まじぃ……!」

 

 予想以上の不味さに俺は思わずつぶやく。

 

「なんだよこれ、クソまじぃじゃねぇか!!なんでだ!?うまいもん詰め込みまくったのに!!」

 

 そんな俺の言葉にふふんと笑ったぷー子は

 

「じゃ、次は私のおにぎり食べてみて」

 

 と、皿に乗った握り飯を差し出す。

 

「はんッ!!確かに俺のはクソ不味かったがな!!てめぇのは塩だけだろうがッ!!それがうめぇわけが――」

 

 言いながら俺はぷー子の差し出す握り飯を頬張り

 

「……うめぇ」

 

 思わず声を漏らしていた。

 なんだこれ、まじでうめぇ。

 

「てめぇ!さては塩以外にもなんか入れやがったな!?」

 

「まっさかぁ!塩だけだよ」

 

 俺の言葉にぷー子は肩をすくめて答える。

 

「んなわけねェ!!塩だけでこんなにうまくなるわけねぇ!!なんか秘密があるはずだ!!」

 

「お?いいとこ突くね。そう、確かに塩しか使ってないけど、それ以外で秘密の工夫があるんだよ」

 

 俺の指摘にぷー子が笑って頷き

 

「一口に『おにぎり』って言っても実は奥深くてね。塩加減や握るときの力の入れ方、ちょっとの差で味はがらりと変わるんだよ。そこを気を付ければ塩だけのおにぎりもこんなに美味しくなるんだよ」

 

 ぷー子は言いながら今度は俺の作った握り飯を指さし

 

「対して、君のおにぎりは塩使いすぎて塩辛いし、組み合わせも考えずにあれもこれもと欲張って鮭だ昆布だ明太子だ沢庵だって詰め込みすぎてそれぞれの良さを打ち消し合ってる。これじゃあ不味くなるのも当たり前」

 

「うッ……」

 

 俺は返す言葉が思いつかず押し黙る。

 

「たかが料理、されど料理。料理って言うのは日々の研鑽と経験の積み重ねなの。一朝一夕にできるようにはならない、美味しいものを作るって言うのは簡単じゃないの。だから私たち料理をする人間にとってこの調理場という場所は自分たちの王国であり、修練場であり、戦場なの。お分かり?」

 

「むぅ……」

 

「あとね、私はさっき自分をここの〝王〟と言ったけどね、私が〝王様〟なら、ひささん――このおばあちゃんは調理場(ここ)の〝神〟よ」

 

「か、神ッだとッ!?」

 

 ぷー子の衝撃的な言葉に俺は絶句する。

 

「そうよ。私はせいぜい十年にも満たない研鑽と経験。対してこのおばあちゃんは50年以上の積み重ねがあるわ。このおばあちゃんの技量を以てすれば、塩だけで美味しいお吸い物が作れるわ!」

 

 ぷー子の言葉にばばぁは否定せず、ただニコニコといつもの笑みを浮かべている。が、その笑みも俺には今は何か得体のしれねぇものに見える。

 

「これでわかったかしら、山の王?家の中で一番偉いのは家主じゃないわ!調理場を任されるものこそがその家で一番偉いし強いの!!」

 

「…………」

 

 俺はもうぷー子の言葉に何も反論することができなかった。

 こいつのすげぇところは強さだけじゃねぇ。俺はこれまで飯の重要性がわかっていなかった。俺はこいつの作る飯を食っていた時点で、こいつに敗北していたということだったのだ。流石〝王〟を自負するだけのことはあるぜ。

 

「わかったら、今後はもう少し作ってもらったものに敬意を払ってありがたく食べるのね!それと、作ってくれた人に対してもね!」

 

「チッ……わかったよ!!」

 

 俺は悔しさを紛らわせるために叫んだのだった。

 飯に関しては俺の完敗だ。だが、いつかこの女にぎゃふんと言わせてやるからなぁッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○善逸の場合

 

 

 

 大好楓子さん、という人は不思議な人だ。

 俺と同い年なのに俺よりもずっと前から鬼と戦っていて、女の人なのに鬼と戦い続けていたなんて、俺みたいな臆病なやつとは違う。勇気と知性にあふれた人だ。

 それに、性格もとても優しい。炭治郎に似た、また少し違った雰囲気の優しい音のする人だ――時々めちゃくちゃ感情の音がやかましい時があるけど。

 だから――

 

「楓子さんは、凄いですね」

 

 俺はある日の座学教室の後、楓子さんと二人だけになったときに思わずつぶやいていた。

 

「へ?」

 

 俺の言葉に楓子さんは目を見開き、きょとんとした顔をした。

 

「何?藪から棒に。褒めても何も出ないよ?」

 

「い、いえ、ただ何となくそう思って。だって、俺と同い年なのに階級も『乙』だし。強いって言う柱の弟子だし。こうして炭治郎のところに来て禰豆子ちゃんと炭治郎のことを調べるって言う特別な任務を任されるくらいに信頼されてるってことでしょ?」

 

「おいおい、ホント急にどうしたの?あ、そうだ朝作ったべっこう飴あるけどいる?」

 

 俺の言葉に楓子さんは照れたように微笑み、羽織の袖から飴を取り出して俺に差し出した。ていうか何も出ないって言ってたのに出てくるんじゃん。

 受け取った俺に頷きながら楓子さんも飴を口に放り込む。

 

「いや、なんか羨ましいなぁって思って……同い年でそんなにすごいのに、それに引き換え俺は臆病で怖がりだし、弱いし……」

 

「善逸くん……」

 

 俺が苦笑いを浮かべながら言うと楓子ちゃんはジッと俺の顔を見て、すぐにニッと笑みを浮かべ

 

「君が弱いかどうかはともかく、私は君のその臆病なところとか怖がりなところは悪いことじゃないと思うけどなぁ?」

 

「はぁ?」

 

 そういった楓子さんの言葉に、俺は意味が分からず首を傾げる。

 

「いやいやいや、怖がりも臆病なのも短所でしょ?」

 

「フフ、それは悪いように考えてるからだよ。いい?短所って言うのは見方を変えれば長所にもなりえるんだよ」

 

「??? どういうことですか?」

 

 意味が分からず訊くと、楓子さんはいい?と断って話し始める。

 

「臆病とか怖がりって言うのは一見欠点でしかないように見えるけど、その二つは言い換えれば『慎重である』ともいえると思うの」

 

「慎重?」

 

「そりゃぁ伊之助くんみたいに当たって砕けろ精神や、炭治郎くんみたいに考えて行動することも大事だよ?でもね、物事に取り組むときは慎重に考えて答えを出すことも大事だと私は思うよ。そう考えると君たち三人はすごく相性がいい気がするよ」

 

「え?そ、そうですか?」

 

 楓子さんの言葉の意味が分からず俺は思わず聞き返してしまう。

 

「うん。君たち三人は、伊之助くんが先陣を切って、善逸くんが慎重に考え、炭治郎くんがその善逸くんの考えを元に判断を下す。ほら?すごく相性いい気がしない?」

 

「た、確かに……」

 

「この相性は誰かひとりが欠けてもダメ。炭治郎くんとも伊之助くんとも違う視点を持ってる慎重な善逸くんがいてこそだよ。炭治郎くんには炭治郎くんの、伊之助くんには伊之助くんの、善逸くんには善逸くんの強みがあるってことだと思うよ」

 

「…………」

 

「まあ、あと言えることがあるとしたら、善逸くんはもっと自分のことを好きになって、もっと自信を持っていいと思うよ」

 

「自信…ですか……」

 

俺は呟くように口を開く。

 

「でも、俺にはやっぱり……楓子さんは『慎重』っていいように言ってくれましたけど、それでもやっぱり、俺にもっと勇気があればって思うことあるし……」

 

「勇気、ねぇ~……」

 

 俺の言葉に楓子さんは少し考え

 

「じゃあ、善逸くんは『勇気』って何だと思う?」

 

「え?」

 

 楓子さんの問いかけの意味が分からず、それでもよく考え

 

「その……恐怖をなくすこと、とか?」

 

「ん~、なるほどね~」

 

 俺の答えに楓子さんはうんうん頷き

 

「恐怖心って無い方がいいのかな?」

 

「え?そ、そりゃ無い方がいいに決まってるじゃないですか」

 

 俺の答えに楓子さんはフフッと笑う。

 

「私の尊敬する人がね、『勇気とはいったい何か?〝怖さ〟を知り、〝恐怖〟を我がものにすること』って言ってるの」

 

「恐怖を、我がものに……」

 

「そう。別に無くさなくていいんだよ。自分が何に恐怖してるのかを知ることから始まるんだと思うよ。告白してフラれるのが怖い、試験を受けて不合格になるのが怖い、人前で恥をかくのが怖い、大事な人を失うことが怖い、鬼と戦って死ぬのが怖い、ってね。それにさ、恐怖心を完全に無くしちゃったら、その対象を警戒しなくなる。警戒しなくなるとその対象を嘗めてかかって足元すくわれる結果になるかもしれない。そう言う意味でも『恐怖心』ってものはある程度心の片隅に置いておかなきゃいけないと思うんだ」

 

 今までそんな風に考えたことなかった。

 恐怖はなくさなければいけないものだとずっと思っていた。でも、そうじゃないと、楓子さんは教えてくれる。

 

「それに、善逸くんは自分を臆病者だとか怖がりって言うけど、なら、善逸くんは鬼を怖がる人達の気持ちにより一層寄り添えるってことじゃない?それはとってもいいことだと思うよ」

 

 楓子さんはそう言って優しく微笑んだ。その笑顔と言葉に俺は言葉を失った。

 今まで出会った女性たちは俺の目の前では優しい言葉を言う子たちも、聞こえてくる音は真逆だったり、陰で俺のことをあざ笑っていることが多かった。でも、楓子さんの音を聞いていると、今話していることは一切の嘘偽りなく、本心で言ってくれているのが分かる。

 この人は本当に優しい人なんだなぁって言うのを再確認させられた。

 

「どう?少しは自分に自信持てそう?」

 

「それは……わかりません。でも、もうちょっと頑張ってみようと思います」

 

「そう。応援するよ。頑張って」

 

「ありがとうございます」

 

 ニッコリ微笑む楓子さんにお礼を言い

 

「あの、ひとつ訊いてもいいですか?」

 

「ん?何?」

 

「……その」

 

 首を傾げる楓子さんに俺は言い淀み、それでも意を決して口を開く。

 

「その、楓子さんも怖いもの、あるんですか?」

 

「……そうだねぇ」

 

 俺の問いに楓子さんは優しく微笑み

 

「いっぱいあるよ。鬼と戦うことは怖いし、私は大切にしてる人がたくさんいるからそういう人たちがもし鬼に殺されたらって思ったら怖くて仕方ないよ。でもそうだな、あえていま一つ選ぶなら――」

 

 そう言ってニヤリと笑った楓子さんは

 

「べっこう飴食べたし、ここらでいっぱい熱ぅいお茶がこわいかな」

 

「落語かよッ!!」

 

 そんな楓子さんの言葉に俺は思わず叫んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○炭治郎の場合

 

 

 

 

「もぉ~、なんですぐ言わないの!?あの鬼舞辻無惨の似顔絵が全然似てないって!」

 

「す、すみません……」

 

 口を尖らせながら紙に向かう楓子さんに俺は申し訳なく思いながら頭を下げる。

 

「もうちょっとはやく言ってくれたらさぁ~……私、あの似顔絵をお館様に送っちゃったよ?どうすんの?間違った似顔絵を鬼殺隊に広まっちゃったらどうすんのさ?」

 

「ほ、本当に申し訳ないです……」

 

「まあもう送っちゃったものしょうがない。すぐちゃんとしたもの描き直して送るしかないよ」

 

「は、はい!」

 

 楓子さんの言葉に俺は頷く。

 そこから楓子さんは以前した同じように髪型や輪郭などについて質問をいくつか投げかけてくるので、俺は鬼舞辻無惨の顔を思い出しながら答える。

 そのまま楓子さんは描き進めていく。

 

「…………」

 

 俺は隣で黙って似顔絵を描く楓子さんの様子を見ている。と――

 

「……黙って見られてるのも気になるなぁ~」

 

「えッ!?す、すみません!」

 

 苦笑いを言う楓子さんに思わず俺は謝る。

 

「あぁ、別にいいよ。ただそうだね、じゃあ何かおしゃべりでもしようか」

 

「おしゃべり…ですか?」

 

「そう。なんでも好きに訊いてくれていいよ。なんでも答えてあげよう」

 

「なんでも、ですか?」

 

「そう、なんでも。あ、胸の大きさとかはもうちょっと親しくなってからね」

 

「訊きませんよ!?――というかもうちょっと親しくなったら教えてくれるんですか!?」

 

「さぁてね」

 

 そう言って楓子さんはケタケタと笑う。

 そんな楓子さんの様子にからかわれたのだとわかって俺はため息をつく。

 

「それで?何か訊いてみたいこととかないの?鬼殺隊のことでもなんでもいいよ」

 

「そうですねぇ~……」

 

 楓子さんの言葉に俺は少し考え

 

「あ、そうだ。じゃあひとつ訊いてもいいですか?」

 

「ん?何々?何が訊きたいの?」

 

 一つ思いついた俺の言葉に楓子さんはチラリと視線を俺に向け笑いながら先を促す。

 

「あの、前から時々話に出てくる楓子さんの師匠さんってどんな人なんですか?」

 

「お?それ訊く?それ訊いちゃう?」

 

 と、俺の問いに楓子さんはニヤニヤと笑みを浮かべて言う。

 

「私の師匠はね、前にも少し話したね、鬼殺隊の最高戦力である〝柱〟の一人、恋柱・甘露寺蜜璃さんって言うんだけどね」

 

「甘露寺蜜璃さん、女性ですか?」

 

「そうだよ。しかもとびっきりの美人さん。私なんて足元にも及ばないよ」

 

「へ~!なら相当お綺麗なんですね」

 

「お?それは暗に私のことも美人って認めてくれての発言かな?口がうまいねぇ~」

 

 俺の言葉に楓子さんは笑う。

 

「あと、蜜璃さんは美人なだけじゃなくて、柱になっただけあってすっごく強いのよ。自分で独自の呼吸を編み出した凄い人なの」

 

「へぇ~!なんて呼吸なんですか?」

 

「うん、『恋の呼吸』だよ」

 

「??? 恋、ですか?」

 

「そう、恋」

 

「……どんなのか全然想像がつかないですね」

 

「だろうね。炎とか水、雷とかに比べて戦いの印象ないもんね。でも、凄い呼吸なんだよ。音感と柔軟性が重要で、蜜璃さん本人の柔軟性と関節の可動域のお陰で柱の中でも屈指の攻撃速度でね」

 

「へぇ~!それは凄い!!」

 

「えへへ、そうなの。蜜璃さんは凄い人なの」

 

 と、俺の言葉に楓子さんはまるで自分のことのように嬉しそうに笑う。

 

「私にとって師匠である以上に大事な家族で、姉みたいな存在だよ」

 

「じゃあ、楓子さんはどうやってその甘露寺さんの弟子になったんですか?昔からお知り合いだったとか?」

 

「ううん。私が蜜璃さんに出会ったのは正式に弟子になる一年前だよ」

 

「へぇ~?鬼殺隊として活動してて出会った、とかですか?」

 

「ううん」

 

 俺の問いに首を振った楓子さんは視線を紙に向けたままさらりと、まるで天気の話でもするように

 

「私の両親が鬼に殺されてね。私自身も鬼に喰われそうになってたところを助けてくれたのが蜜璃さんだったんだよ」

 

「え……?」

 

 あっさりとした様子で言われた言葉に俺は息を呑む。

 

「私はね、自分の両親を殺されて、同じような目に遭う人が一人でも減る様に、私を救ってくれた蜜璃さんみたくなりたくて、鬼殺隊に入ったの。私が鬼と戦うことで誰かが救われるなら、誰かの幸せを救えるのなら、ってね」

 

 そう言ってにっこりと微笑む楓子さん。しかし、俺にはそれよりも気にかかったことがあった。楓子さんの両親は鬼に殺された、それなのに楓子さんは――

 

「……楓子さんは、鬼が憎くないんですか?」

 

「…………」

 

 俺の問いに楓子さんは少し考える素振りを見せ

 

「……難しい質問だね」

 

 楓子さんは苦笑いを浮かべる。

 

「鬼って言うのは、みんなもとは私たちと同じ人間だ。鬼になって嬉々として人を襲うものもいれば、鬼になりたくてなったわけじゃない鬼もいる。禰豆子ちゃんみたいにね。そう思うと、私は鬼を絶対悪だとは思えないの」

 

「楓子さん……」

 

「もちろん許せない鬼はたくさんいるよ。私の両親を喰った鬼みたいなやつは許せない。人殺しを楽しんでるやつとかね。でも、すべての鬼が人殺しを楽しんでいるとは思えないんだ。響凱氏のように自分の行いを悔いている鬼には救済があるべきだと思う」

 

 そう言って楓子さんは俺にニッコリと笑顔を向ける。

 

「だからさ、君の妹の禰豆子ちゃんや、君が浅草で出会ったタマちゃ――珠世さんとか愈史郎くんのように、人であろうとするならきっとそれは人なんだと思うんだ。人であろうとする鬼を殺すのは、人殺しと変わらないんじゃないかってね」

 

「…………」

 

「まあ結局一番思うのはさ」

 

 押し黙る俺に楓子さんは紙に視線を向けてジッと視線を巡らせて納得した様子で頷くと

 

「とりあえず一番悪いのコイツだなぁって思うから、こいつを殺っちゃえば全部解決だよね」

 

 そう笑顔で言いながら楓子さんが見せた紙に描かれた似顔絵は、俺の見た通りの鬼舞辻無惨の顔だった。

 

「どう?こんな感じ?」

 

「はい、完璧です」

 

「うっし!じゃあさっそく送っちゃおう!」

 

 頷いた俺に嬉しそうに言った楓子さんはすぐに楓子さんの鎹鴉を呼び寄せ描いた似顔絵を託す。

 飛び去って行く鎹鴉を見送りながら楓子さんはスッと俺の方に視線を向け

 

「まあいろいろ言ったけどさ、私の考えはたぶん鬼殺隊の中でもかなり少数派だよ。ほとんどの隊士や柱の人達は禰豆子ちゃんの存在をよしとはしないと思う」

 

「そう…ですか……」

 

「きついことを言ってるのはわかってる。でも、知っておいてほしいから。ごめんね?」

 

「いえ、大丈夫です」

 

 楓子さんが申し訳なさそうに言うのを俺は首を振って答える。

 

「ちゃんと言ってもらえてよかったです。楓子さんは優しいですね。普通気を使ってなかなか言ってもらえないと思うので。いい人ですね、楓子さんは」

 

「…………」

 

 俺の言葉に楓子さんはスッと目を細めすぐに笑みを浮かべる。

 

「買い被りすぎだよ。私、君が思ってるほどいい人じゃないよ?」

 

 そう言った楓子さんの笑顔がどこか悲しげで俺は何故かそれがすごく気になった。同時に俺の鼻が何かを嗅ぎ取る。それは恐らく楓子さんの感情で、何かいろいろ複雑に絡み合っていた。その臭いをあえて言葉にするのなら『申し訳なさ』『罪悪感』という感じに思えた。

 その楓子さんの悲しげな笑顔と臭いが気になったけど、俺はそれを詳しく訊くことができなかった。

 結局その笑顔も臭いも一瞬で、楓子さんはすぐに朗らかな優しい笑みと臭いに戻り、話題は別のものになった。

 




お陰様でお気に入り件数がもうそろそろ2500件です。
恐らく次回は記念の番外編になるかと思います。前回のアンケートの結果から恐らく人生ゲームの話になるかと思いますのでお楽しみに!
それに伴い今回も皆さんにご協力をお願いしたいことがあります。
前回のアンケートの後、感想にて「人生ゲームに真菰は参加しないの?」というご意見をいただきました。
というわけで今回のアンケートは、前回の説明時にあったメンバーに加え真菰は番外編に登場――『する?』or『しない?』です。
早ければ明後日には書いて明々後日中には番外編を出す予定にしていますので、それまでのアンケートの結果を反映させたいと思います。
どうぞご協力のほどをお願いします。
あ、もちろんそれまでにお気に入り件数が2500件に行かなければ那谷蜘蛛山編に入りますので!



前回のあとがきにて募集しました質問、たくさんのご質問をいただき誠にありがとうございます。
早速今回より答えていこうと思いますが、今回は活動報告の方に来たものではなく、感想で来ていたもので、私自身「あ、そう言えばその事詳しく話してなかったなぁ」という感想をいただきましたので、それを質問として答えさせていただきます。
ganmodokiさんから頂きましたもので、「楓子ちゃんの刀はマゼンダ色なら、恋でも炎でもないのでしょうか?」といことなのですが

楓子ちゃんの日輪刀の色は以前から言っている通り『マゼンタ色』です。
マゼンタ色は日本語で書くと『紅紫色』。色の三原色、カラー印刷のトナーにも色料の三原色の一つとして含まれています。
これらのことからもわかるかと思いますが、楓子ちゃんの呼吸の適性が一番高いのは『炎』です。ただ、マゼンタ色の見た目は赤っぽいピンクであること、『炎』の派生であることもあり、楓子ちゃんには『恋』の適性もあります。
また、マゼンタ色を日本語にした『紅紫色』には『炎』の適正である赤(紅)ともう一つ色がありますね?
実は楓子ちゃんはもう一つ呼吸の適性があるのですが……そのあたりは本編で触れる予定ですので、お楽しみに!

と、言ったところで今回の質問はこの辺で!
それでは皆様また次回お会いしましょう!



~大正コソコソ噂話~
伊之助がつまみ食いに来たのは今回が最初では無いです。
これまでに五回つまみ食いに来て、そのすべてで楓子に返り討ちにされています。
これまでの五回では4の字固めや腕ひしぎ十字固めなどサブミッション系のお仕置きをされていました。が、六回目である今回ついにジャーマン・スープレックスを喰らい、本格的に諭されることになりました。


番外編に真菰ちゃんは

  • 出る!
  • 出ない
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。