恋柱の継子、人の恋路に世話を焼く   作:大同爽

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前回のお話の別視点。
楓子ちゃん達が目撃した押し倒し事件の経緯です。
ちなみに、楓子ちゃんが下弦の鬼達と戦っている間の炭治郎くん達は基本的に原作通り進んでいるので端折ります。
そんなわけでどうぞ!





恋28.5 水柱と蟲柱、そして……

「冨岡さん、どういうことですか?」

 

「…………」

 

 しのぶは抜き構えた日輪刀を対する義勇に向けながら訊く。

 対する義勇は地面に倒れる桃色の麻の葉模様の着物の少女と、それを庇う市松模様の羽織の少年を庇いながら日輪刀を黙って構える。

 

「答えてください、冨岡さん。あなたの後ろにいるのは、鬼ですよね?」

 

「…………」

 

「あなたが鬼に気付かないはずがありません。わかった上でこうして日輪刀を構えていらっしゃる、鬼を庇っていらっしゃる、ということですよね?」

 

「…………」

 

 問い続けるしのぶに、しかし、義勇は黙ったまま答えない。そんな義勇にしのぶは

 

「ッ!」

 

 グッと唇を噛み義勇を睨みつけ

 

「答えなさい冨岡義勇!!あなたは今鬼を庇っている!!隊律を犯す、ということでいいんですね!?」

 

「…………」

 

「否定しない…してくれないんですね……」

 

 なおも黙る義勇にしのぶは義勇を睨んだまま悲しげに口を震わせ、しかし、真剣な表情に変え

 

「冨岡さん、それにそこのぼうや、そこをどいてください。そこにいるのは鬼です。鬼殺隊の柱として、鬼を見過ごすことはできません」

 

「ッ!?ち、違います!」

 

 しのぶの言葉に義勇に庇われていた市松柄の羽織の少年――炭治郎は麻の葉模様の着物の少女――禰豆子を抱き抱えながら身を起こし

 

「い、いや、違わないけど……あの、妹なんです!俺の妹で…それで……!」

 

「そう、妹……」

 

 炭治郎の言葉に悲しそうに目を細め

 

「妹が鬼になったことは同情します。それでも、私は私の職務を全うします。どんな事情があれ、鬼を見逃すことはできません」

 

 そう言いながら日輪刀を構え

 

「せめて、苦しまないように優しい毒で殺します」

 

「ッ!」

 

 しのぶの言葉に悲しそうに顔を顰めた炭治郎。そんな彼に

 

「……動けるか?」

 

 義勇が問いかける。

 

「動けなくても根性で動け。妹を連れて逃げろ」

 

「冨岡さん……すみません!ありがとうございます!」

 

 義勇の言葉に真剣な表情で頷いた炭治郎は禰豆子を抱えて駆け出す。

 そんな光景を見ていたしのぶは

 

「逃がしません!」

 

 日輪刀を構え得意の突きで炭治郎を狙い――

 

 ガギンッ!

 

 瞬間、炭治郎としのぶの射線に飛び込んだ義勇が日輪刀を振るいしのぶの刀を弾く。

 

「くッ!」

 

 しのぶは義勇に弾かれた勢いのまま身を翻し義勇に向き

 

「やはり邪魔をするんですね、冨岡さん」

 

「…………」

 

 しのぶの言葉に義勇は黙って視線を向けるだけだった。

 

「何故ですか、何故なんですか冨岡さん!?」

 

 いつもの無表情の義勇の瞳にしのぶはキッと睨みつけながら訊く。

 

「何故あなたが……柱であるあなたなら、私の姉を鬼の魔の手から救ってくれたあなたなら、鬼の恐怖も、残忍さも、被害者の無念も、すべて痛いほど知っているはずじゃないですか!?」

 

「…………」

 

 しのぶの問いに義勇は少し考える素振りを見せ

 

「お前に話すことはない」

 

「ッ!?……それはどういう意味ですか?」

 

 義勇の言葉に息を飲んだしのぶは一層険しくなった視線で義勇を見ながら問いかける。

 

「そのままの意味だ」

 

 しのぶの問いに義勇は表情を変えずに言う。

 

「これは俺たちの問題だ。お前には関係ない。お前は部外者だ」

 

「………そうですか」

 

 義勇の言葉にしのぶはフッと息をつき

 

「では、本気で来てください。本気で来ないと、私は先程の鬼を殺します」

 

「…………」

 

「刀すら構えず、私を足止めする気ですか?」

 

 しのぶは義勇に問う。

 しかし、義勇は先程から終始刀は抜いているが、その刃を下に向け構えすらしていない。そして、今も構える素振りも見せない。

 

「私を馬鹿にしてるんですか?私程度、本気じゃなくてもなんとでもなると?」

 

「……お前に刀を向けるつもりはない」

 

「そうですか、残念です冨岡さん……」

 

 義勇の返答に悲しげな瞳でしのぶ言い、しかし、すぐに真剣な瞳で義勇を見る。

 

「あなたが私を拒絶するのなら、私も私の責務に乗っ取ってあなたの罪を問います。あなたが本気で来なくても、私は本気で行きます」

 

「…………」

 

「まずは、先程逃げたあの兄妹を追わせていただきます。あなたの足止めに付き合うつもりはありません」

 

 そう言ってしのぶは大きく跳躍する。

 

「ッ!?」

 

 義勇が慌てて目で追うとしのぶは重力を感じさせない軽やかな足取りで木の枝の上を足場に飛び越えていく。

 そんなしのぶを慌てて義勇も駆け出す。

 

「それで私を止める気ですか!」

 

 地面を走る義勇にしのぶは言う。

 

「私に刀を向けたくない!?でも、私を止める!?笑わせないでください!!」

 

「…………」

 

 しのぶの真剣な言葉に義勇は答えず黙って走り続け、言いながらしのぶは跳び上がる。

 

「そんな中途半端なあなたに、私は止められませんから!!」

 

 しのぶの言葉にスッと目を細め一層真剣な表情を浮かべた義勇は

 

「フッ!」

 

 握っていた日輪刀を鞘に納めながら一息にしのぶ目掛けて跳び上がる。

 

「ッ!?」

 

 自分に目掛けて跳んでくる義勇にしのぶは一瞬驚き、しかし、自身もいまだ空中で回避できずに避けきれなかった。

 義勇に掴まれ一緒になって落ちるしのぶ。

 義勇もそのまましのぶを傷つけないように無力化する方法を考え、気道を塞いで落とすことを思い至り即実行――しようとしたが、そこで

 

『いいですか!?絶対!絶対ダメですから!!誰に対してもそうですけど特に女の人!!女の人の首絞めちゃ絶対ダメですからね!!わかりましたかッ!!?』

 

 以前に同じように首を絞めてめちゃくちゃ叱られた楓子の言葉が頭をよぎり義勇の手が一瞬止まる。

 そして、そんな絶好の隙を見逃すほど、しのぶも甘くはなく

 

「このッ!!」

 

「ッ!」

 

 義勇の手から逃れようと身を捻るしのぶ。

 そんなしのぶに一瞬鈍った思考から脱した義勇は逃がすものかと再び拘束し直そうと手を伸ばし

 

「ッ!?キャッ!?」

 

「ぐッ!?」

 

 互いが互いに気を取られ、二人はもみ合ったまま木の幹に激突。

 そのまま跳ね返って地面へと急降下し

 

「ッ!」

 

 義勇はとっさに身を捻ってしのぶを庇って自身の身体を地面に向ける。

 

「ぐッ……」

 

 地面に激突した義勇の口から苦悶の声が漏れる。

 義勇が庇ったおかげでしのぶは殆どダメージはない。せいぜい義勇をクッションにして殺しきれなかったそれほど大きくない衝撃がその身に響いたくらいだろう。

 義勇に礼を言おうとするも、しかし、そのまま二人はくっついたまま地面を転がり

 

「つぅッ……」

 

「いたたたぁ~……」

 

 固い地面を転がった痛みに眉を顰める二人。

 

「と、冨岡さん、すみません。庇ってもらって――」

 

 さきほどまで追いかけっこをしていたことはさておき、庇ってもらったことに関しては礼を言おうと閉じていた瞼を開いたしのぶは

 

「……へ?」

 

 視界に飛び込んできたドアップの義勇の顔に思考が停止した。

 どうやら二人でもみくちゃになりながら地面を転がった結果、地面に倒れるしのぶの上に義勇が覆いかぶさる形で密着しているようだ。その事実に義勇も能面のような顔に驚愕の色をにじませて固まっている。

 ほんの少し顔を近づけただけで唇が触れるほどの、互いの吐息がかかるほどの距離で二人は見つめ合う。

 

(え、なにこれ?嘘、顔ちかッ!なんですかこれ!?冨岡さんの顔がこんなに間近に!?顔がいいッ!!あ、冨岡さんの瞳って少し青みがかかってるんですね。綺麗……じゃなくて!こんなに顔が近かったら私の息とか匂いとか全部冨岡さんにもバレちゃうんじゃ!?私お昼何食べた!?それにさっきまで私走ってたし汗とかかいたし!私今汗臭くない!?大丈夫!?)

 

 しのぶは頭の中でグルグルと思考が巡る。巡る思考と共に顔が真っ赤に染まっていく。

 そんなしのぶに

 

「……しのぶ」

 

「ひゃいッ!?」

 

 義勇の呼びかけにしのぶは素っ頓狂な声を上げる。

 

(こ、声がこんなに間近で!?わ、私の名前を呼んでる!!というか冨岡さんの吐息が!?ほ、頬にあたって……!!)

 

 心中で絶叫するしのぶ。

 しのぶの顔がさらに紅潮。

 体温が急上昇した。

 

「しのぶ、俺は……」

 

「は、はい……」

 

 義勇は何かを言いかけ――

 

「「炭治郎くん!!?」」

 

 その時、義勇の背後で声が響いた。

 しのぶには義勇の身体に隠されよく見えなかった。

 二人はゆっくりと声のした方に視線を向け

 

「お、大好ッ!?真菰ッ!?」

 

 義勇はその乱入者二人に驚きを隠せない様子で驚愕の表情を浮かべる。

 しのぶも突然の楓子達二人の登場に思考が真っ白になる。

 

「「………はへ?」」

 

 対する楓子と真菰も目の前の光景が理解できず呆けた顔をする。

 あまりに予想外すぎて彼女たちの思考は宇宙まで飛び去っているようだった。

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

 そのまま見つめ合うこと二十秒。

 先に動いたのは――

 

「「ッ!」」

 

 楓子と真菰だった。

 硬直から脱した二人は直後にどちらからともなく口を開き

 

「「あ、お邪魔しました……」」

 

 楓子達は揃ってそそくさとその場を後にしそのまま全速力で走りだした。

 

「ッ!?ま、まって楓子!真菰!違うの!!」

 

 その光景にしのぶは慌てて顔を起こし

 

「ガッ!?」

 

「いッ!?」

 

 しのぶの額が義勇の鼻に叩き込まれ、揃って二人は苦悶の声を漏らす。

 しかし、しのぶはその痛みに構っていられない。

 このままでは楓子達に誤解されたままだ。

 特に楓子に誤解されたままなのは非常にマズい。あの楓子の性格上あんな光景を見られては後々どんなことになるかわからない。まず確実に姉の耳に入るのは確定。下手をすればお館様の耳に入る可能性すらある。そうなればあのノリのいいお館様だ、楓子以上にどんな行動に出るか読めない。

 そんな思考がしのぶの身体を突き動かす。

 しのぶは目の前に義勇が覆いかぶさっているのもお構いなしでそのまま体を起こそうと身を捩り

 

キョッ!?」

 

 しのぶの右足の膝が義勇の男性最大の弱点に直撃した。

 義勇は異様な小さな悲鳴を漏らしその痛みで身体を強張らせてしのぶに倒れてくる。

 

「ちょ!冨岡さん!?ど、どいてください!!というかどこ触ってるんですか!?」

 

 のしかかってきた義勇にしのぶは叫ぶ。その際義勇の手がしのぶの身体のとある部分に触れているので一層しのぶの語調が強くなるのだが、残念ながら義勇自身は絶賛股間に絶えず響く鈍痛にそれどころではない。

 結局その後

 

「もう!いつまで触ってるんですか!!?」

 

 ぶちぎれたしのぶに半ば蹴り飛ばされる形でどけられる義勇。

 慌てて身を起こしたしのぶだったが、時すでに遅し。楓子と真菰の姿は見えなくなっていた。

 そして――

 

『伝令!!伝令!!カァァァ!!伝令アリ!!炭治郎・禰豆子・両名ヲ拘束、本部ヘ連レ帰ルベシ!!』

 

 どうしよう……と呟きながらへたり込むしのぶと、未だダメージから復活できず地面に突っ伏す義勇の頭上を鎹鴉が飛び回るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――一方その頃炭治郎は

 

「…………」

 

 カナヲに踵落としを入れられ顎を割られて気絶していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ベベンッ

 

 琵琶の音が響く不可思議な空間の中、男――鬼舞辻無惨は

 

「……やはり下弦程度では駄目か」

 

 大きくため息をつきながら言う。

 

「あの女……童磨を殺した最大の功労者、か……まぐれや偶然では無いようだな」

 

 無惨は言いながらスッと目を細め

 

「あの花札の髪飾りの子ども同様、あの女の存在は目障りだ。直感的に感じる。あの女はいずれ障害になる」

 

 忌々しそうに言う。

 

「奴の厄介なところは剣の腕だけではない。あの忌々しい小細工の数々……やつを倒すのに下弦では駄目だな。もっと上、多少の小細工では埋まらないほどの実力差で捻じ伏せるほかあるまい……」

 

 言いながら無惨は自身の額にそっと右手を当て

 

「全上弦の鬼に通達する、紅葉の羽織を着た女の鬼殺隊士、大好楓子、並びに花札の耳飾りの隊士を見かけた場合、即刻殺せ」

 

 配下の鬼たちへと命令を下す。

 そして、背後に座り琵琶を奏でる女性の鬼に向き

 

「鳴女、残った下弦の鬼をここに集めろ」

 

 静かに命令を下す。

 

「やはり下弦は駄目だ。弱すぎて話にならない」

 

 言いながら無惨は

 

「もういらん。下弦は今日で解体する」

 

 まるでゴミが溜まったから処分しよう、という程度の気軽さで言った。

 無惨の言葉に頷いた琵琶の鬼――鳴女は

 

 ベベンッ

 

 琵琶を響かせた。

 




以上、冨岡さんとしのぶさんの押し倒し事件の経緯でした!
そして、楓子への殺意がマシマシになる無惨様……
果たして楓子は生き残れるのか!?
戦え楓子!戦わなければ生き残れない!!



そして、今回の質問コーナーです!
今回は漁火さんからいただきました!

――コスプレ衣装の自作をしていたとのことですが、蜜璃やしのぶたちに着せてみたい衣装などはありますか?

楓子「そうですねぇ~。やっぱり時代背景もあってみなさん隊服以外の私服って基本和装なんですよね~。だから洋装とかが着てほしいですね~。メイド服にナースにチャイナetc…あと中の人繋がりの服とか……というわけでそんな中から蜜璃さんとしのぶさんにこちらを着てもらいました」

【挿絵表示】


【挿絵表示】


楓子「……これ蜜璃さんの服の元ネタ分かる人、何人いるんだろ?アニメやってたのかな~り前だけど……」

――将来的に伊黒の口の傷を、できるかどうかはともかく、治すことを考えていますか?

楓子「これはぶっちゃけどうにかしたいって思ってます。たくさんご飯を食べる蜜璃さんと一緒にいるなら一緒にご飯を楽しめるように口の傷はどうにかできた方がいいと思うので。ただご本人が望まないならそれを強要はできないので、まずはできる手段を確立してから本人に相談して考えようと思ってます」

ということです!
質問はまだまだ募集していますので、ドシドシどうぞ!
それでは今回はこの辺で!
次回より柱合会議です!
お楽しみに!



~大正コソコソ噂話①~
義勇のしのぶへの「お前に話すことはない」「これは俺たちの問題だ。お前には関係ない。お前は部外者だ」は、「もしも事情を話してしのぶもこちら側についてしまえば、否応なしに巻き込む。他の柱たちに禰豆子を受け入れてもらえなければしのぶまで罰せられるかもしれない。しのぶを巻き込みたくないから事情は話せない。しのぶには無関係のままでいてほしい」という意味で言っていますが、義勇のコミュ障と言葉足らずが安定の悪い方向に働いた結果あのような発言になりました。

~大正コソコソ噂話②~
鬼舞辻無惨が初手で上弦の鬼を楓子にぶつけなかったのは、それで倒せれば上出来、もし倒せなくても楓子の手の内が分かればいいや、くらいの捨石感覚でした。
捨石扱いのくせに勝手に失望して下弦を解体するとか、無残様マジ頭無惨ですね!


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