恋柱の継子、人の恋路に世話を焼く   作:大同爽

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連日投稿です。
柱合会議を経て何とか炭治郎くん達の公認を勝ち取った楓子ちゃん。
しかし、彼女の中にはわだかまりが残る結果となりました。
果たして楓子ちゃんの調子を崩していたものとはいったい!?

――と言うわけで本編ですが、その前に先に謝罪を。
前回のお話に挿絵を用意していたのにうっかり入れ忘れていました。
今は入れ直しましたが、昨日やこのお話を投稿するまでに読んだ方は見ていないと思いますのでこちらにも乗せておきます。
ブチギレてる楓子ちゃんです↓

【挿絵表示】

どこに入っているかは改めて確認していただければと思います。


そんなわけで最新話です!!
どうぞ!!






恋32 恋柱の継子と原作知識

 

「ここが浴室です」

 

「……ありがとうございます、輝利哉くん」

 

「…………」

 

 廊下を進んだ先で私に向き直り言った輝利哉くんにお礼を言う。と、輝利哉くんがジッと私の顔を見つめる。

 

「……? どうかしましたか?」

 

「……その」

 

 首を傾げて訊くと輝利哉くんがおずおずと口を開く。

 

「大丈夫ですか?」

 

「???」

 

「その……なんだかいつもより元気がないように見えて……」

 

「ッ!」

 

 輝利哉くんの言葉にドキリと心臓が跳ねる。

 私は少しの逡巡の後

 

「疲れが出たのかもしれませんね」

 

 微笑みながら答える。

 

「今回は流石に私も疲れましたよ。何せ十二鬼月の下弦二体と鬼ごっこしましたから」

 

「そう、ですか……」

 

 私の言葉に輝利哉くんは頷くが、その顔はどこか腑に落ちない様子だった。

 

「…………」

 

「……?」

 

 そのまま何か言いたげに私の顔を見ながら、しかし、迷っている様子の輝利哉くんの視線に首を傾げながら少し考え

 

「……あぁ」

 

 私はポンと手を打ち

 

「一緒に入りたいんですか?」

 

「ッ!?ち、違います!入りたくないです!」

 

 言った私の問いに輝利哉くんがボッと顔を真っ赤に染めてブンブンと全力で首を振って否定する。

 

「なんだかそこまで否定されると私の女としての魅力が皆無みたいで悲しくなりますねぇ~シクシク」

 

 そんな輝利哉くんの反応にお道化てわざとらしく目に両手を当てて泣いた真似をすると、今度は顔を青くした輝利哉くんが慌てて言う。

 

「ち、違います!楓子さんはとても魅力的だと思います!」

 

「わお!私今口説かれてます?」

 

「ッ!?!?」

 

 私の言葉に輝利哉くんは耳まで赤く染まった顔で口をパクパクさせる。

 可愛らしい反応だが、少しからかいすぎたかもしれない。

 

「すみません、冗談です」

 

「へ?」

 

「一緒に入ります?のあたりから。すみません、少しふざけすぎましたね」

 

 呆ける輝利哉くんに私はペロッと舌を出して言う。

 

「では、そろそろ…その……」

 

「ッ!は、はい。呼び止めてしまってすみませんでした」

 

「いえいえ。では」

 

「は、はい!ごゆっくり!」

 

 と、私の言葉に慌ててお辞儀した輝利哉くんはピュ~ッと走――ってないな、競歩で世界狙えそうな速度ですり足で去って行く。たぶん廊下を走っちゃダメ、と教育されているのだろう。

 

「さて……」

 

 私はフッと息をつき、脱衣所に入った。

 

 

 ○

 

 

 

「はぁぁぁぁぁぁ……」

 

 湯船に肩まで浸かった瞬間ため息が漏れる。

 暖かな湯が疲れた身体に染み渡る。

 

「風呂はいいね」

 

 私一人しかいない広い浴槽で私は目を瞑って手足を脱力して伸ばし湯のぬくもりを感じながら呟く。

 

「風呂は心を癒してくれる。リリンの生み出した文化の極みだよ。そう思わないかい?」

 

 と、問いかけてみるものの、もちろん誰も返事しない。と言うか返事があったら怖い。

 

「はぁ……」

 

 私はため息をついて体育座りをし膝に額を当てる。ギリギリ膝小僧が顔を出していた程度だったので私の顔は水面に浸かる。

 

「ブクブクブク~……」

 

 水中で目を閉じて口から息を吐きだし

 

「プハッ!」

 

 息が続かなくなったところで顔を上げ顔の水分を手で拭って前髪をかき上げる。

身体をクルリと回転させ浴槽の縁に両手を組んで乗せてその腕の上に顎を乗せ

 

「…………」

 

 ぼんやりとどこを見るともなく視線を巡らせ

 

「あぁ~……クソッ!クソクソクソッ!」

 

 浴槽の縁を拳で叩く。

 

――失敗した。大失敗だ、完膚なきまでに。

 

「ちくしょう……」

 

 数度叩いたのちに最後に一番強く拳を叩きつけ、私は腕に顔を押し付ける。

 

――うまくいくはずだった。原作でもできたんだ、原作を見て知っていた私なら何の問題もなかったはずだ。それなのに……

 

「危うく禰豆子ちゃんを認めさせ損ねるところだった……なんで……なんで……」

 

――私なら出来るはずだった。これまでもそうだ。原作知識と現代知識で上手く立ち回り、上弦の弐・童磨すら倒した。それなのに……

 

「私は、失敗した……」

 

 呟きながら私は身体を動かし頭を浴槽の縁に乗せたまま天井を向き、目元に腕を乗せて覆う。

 

――考えろ、今回の失敗の原因を。私は何故失敗した?この失敗を糧にしないと、ここから先もっと難しくなる。もうすでに、『鬼滅の刃』の物語は歪み始めてる。歪ませたのは

 

「私…自身……」

 

――私と言う本来なら原作にいない異物がいることで物語が変化している。大きな変化で言えばまこちゃん…真菰の生存、原作前に倒された童磨とそれによって生存したカナエさん、抗生物質や輸血などその他もろもろの医学技術によって多少低下した隊員の死亡率、蜜璃さんと伊黒様の交際。他にも細かな変化はもっとあるだろう。それらが巡り巡って今少しずつ原作から外れ始めている。那田蜘蛛山に現れた零余子たちなんかがいい例だ。

 

「これからもっと変わるはずだ……起きたはずの出来事が起きない、起きなかった出来事が起こる……そうなれば、私のアドバンテージは無意味になる……」

 

――今回は下弦だったが、次は上弦が来るだろう。上手くやらなければ下手をすれば原作で生存した人が死ぬ可能性もある。原作で死んだ人の死が早まることもあるかもしれない。それは……

 

「蜜璃さんと伊黒さんが、そうなる可能性だって……」

 

――正直もうすでに私の原作知識はもうあてにならない。いつ原作にない大きな事件が起きるかわからない。全部、私自身が招いたことだ。

 

「……私がしたことは、正しかったの?」

 

 私はふと頭に浮かんだ疑問を呟く。

 

――そうだ、私がいなければこうはならなかった。私が関わったことでいい方向に変化したことは多い。でも、その逆もあるはずだ。バタフライエフェクト、小さな蝶の羽ばたきが巡り巡って地球の裏側で台風を起こすかもしれない。これまで大きな失敗が無かったから調子に乗っていた。その結果がこれだ。私が関わったせいで禰豆子ちゃんが公認されなかったかもしれない。下手をすれば炭治郎くんともども処刑されていたかもしれない……。

 

「そうなれば、詰んでいた……」

 

――私が動けばこれ以上に原作の流れを歪めてしまうだろう。そうなれば状況はもっともっと悪くなるかもしれない。

 

「私は…やっぱり異物なんだなぁ……」

 

――あってはならないモノ、いてはいけいないモノ、異物……原作通りにやれば鬼舞辻無惨は倒せたんだ、私は関わるべきじゃなかった……でも、ここまで関わってしまった以上、私がやらなければいけない。私が……

 

「私が……私には物語を歪めた責任がある……私は…私は……!」

 

 グッと歯を食いしばって呟く私。と――

 

「楓子さん」

 

「ッ!?」

 

 突如聞こえた呼びかける声に私はビクリと身体を震わせる。

 

「楓子さん、着替えお持ちしました。脱衣所の楓子さんの脱がれた服の横に置いておきますね」

 

「あぁ…輝利哉くんか……」

 

 声の主の正体に私はホッと息をつき

 

「うん、ありがとうございます!」

 

 先程までの考えをいったん横に置き、努めて明るい声で応じる。

 着替えも届いたことだし、そろそろ上がろうか、と身体を起こしたところで

 

「………あの」

 

 まだ脱衣所にいたらしい輝利哉くんのおずおずと扉越しに声が聞こえる。

 

「楓子さん、本当に大丈夫ですか?」

 

「え……?」

 

 輝利哉くんの問いに私は再びドキリと心臓が脈動する。

 

「な、なんで……?」

 

「す、すみません、何度も同じこと訊いて……」

 

「い、いえ…大丈夫ですが、なんでそう思ったんですか?」

 

 謝る輝利哉くんに私は訊く。

 

「その…なんだか今日の楓子さんは様子がいつもと違う気がして……」

 

「そう…ですか……?」

 

「は、はい。その……例えば、さっきの『お風呂に一緒に入りますか?』って言うやつとか、普段の楓子さんならそう言う冗談ってあまりおっしゃらないので……」

 

「そう、でしたっけ?……いや、そうかも……」

 

 言われてハタと気付く。伊黒様たちならまだしも輝利哉くんにそんな失礼な冗談、お館様に伝わったら『息子を誘惑する不埒者』とか認識されて今まで積み上げてきた実績がパァになる。

 そんなこと、いつもなら無意識に制限かけるはずなのに……

 

「あの、もしかしてなんですが……」

 

 私が一人困惑していると

 

「その…不死川様と何かあったのでしょうか……?」

 

「へ……?」

 

 輝利哉くんが言った言葉に私は呆けた声を漏らす。

 

「な、なんでここで不死川様の名前が……?」

 

「その……実は私、今日の柱合会議…と言うか、裁判の様子を隣の部屋から聞いていたんです。父上から今後の鬼殺隊の重要な指針になるだろうから、次の当主として聞いておきなさいって言われて……」

 

「は、はい……」

 

「それでその、楓子さんって他の柱の方には敬うような態度で接してらっしゃるのに、不死川様に対しては、なんて言うかその…不快感と言うか敵対心みたいなもの向けてるように思えて……」

 

「ッ!?」

 

 輝利哉くんの言葉に私は息を呑む。

 言われてみればそうだ。

今世で私はほとんど不死川様と面識はない。

無論、前世で原作に触れていたので人となりは知っていた。

 そう言えば、前世では今日の柱合会議のあたりの不死川様は苦手だった覚えがある。無論後々明かされた不死川様の過去や真意を知ってからは多少は苦手意識は少なくなったし、むしろ泣いた赤鬼みたいな人だなぁと、好感を持ったりもした。それでもやっぱり、あの柱合会議の頃の不死川様には真意を知ってなおモヤモヤしていた。

 

「それで、その……不死川様と何かあったのかな…って……」

 

「い、いや…特にそう言うことは無くて……」

 

 輝利哉くんの問いに私は口ごもりながら答える。

 

「今日の私は炭治郎くんや禰豆子ちゃんを柱の皆さんに認めてもらえるように、彼らを弁護しようと思ってて……それなのに目の前で禰豆子ちゃんを刺されて、なんていうか『何すんじゃこんにゃろう!?』って思っちゃって……」

 

「な、なるほど……」

 

 私の言葉に納得したような輝利哉くんの声が聞こえてくる。

 でも、言われてみればそうだ。

 本当に私らしくない。そう、まるで――

 

「でも、そうなると……」

 

 輝利哉くんはそう言って

 

「こう言っては何ですが、今日の楓子さんは余裕が無いような気がします」

 

「ッ!?」

 

 続けられた輝利哉くんの言葉はまさに今私は考えていたことだった。

 そうだ、今日の私はなんだかおかしい。余裕がないというか視野が狭くなっているというか。今にして思えば禰豆子ちゃんが人を襲わない証明をするためにわざわざ他から『稀血』を用意しなくても不死川様から分けてもらった方が確実だ。私だって逆の立場ならそれが『稀血』かどうか疑うだろう。そんなことにも気付かないなんて――

 

「私は、私が気付かない以上にいっぱいいっぱいになっていた……?」

 

 私は茫然と呟く。

 そうか…私は自分でも気付かないうちに余裕をなくし視野が狭くなっていた、だからこそ、今日の失敗は起こるべくして起こったわけだ。

 

「あの、楓子さん?」

 

「あ、は、はい!」

 

 ブツブツ呟いていた私を不審に思ったのか輝利哉くんの怪訝そうな声に私は慌てて返事をした。

 

「いや、その…不死川様と何かあったわけじゃないです。全部私が勝手に思い込んじゃったと言うか、今日の私ちょっと余裕をなくしてたと言うか……」

 

 私は言いながら膝を抱える。

 

「……その…那田蜘蛛山で、私実は炭治郎くんが相対した下弦の伍に遭ってたのに取り逃がしちゃって、私があそこで仕留めてたら炭治郎くんや禰豆子ちゃんがあんなに傷つかなくて済んだのに~とか」

 

 少しの逡巡の後、私は胸の内に渦巻いているものを吐き出したくなってポツポツと呟く。

 

「私の方に下弦の鬼が二体も来て、下手したら他の所にももっと強力な鬼が来てたのかなぁって思ったら、今回は何もなかったけど、私のせいで炭治郎くん達を危険な目に遭わせたのかなぁって……」

 

「それは……」

 

「だから、この柱合会議では絶対に二人のことを柱の皆さんに認めてもらわなきゃって……でも今度は失敗できないって気負いすぎて余裕なくなって……そのせいで一番認めてくれなさそうなうえに禰豆子ちゃん傷付けた不死川様がものすごく嫌な人に思えて……」

 

 本当に、我ながらここまでグダグダで、よくもまあ公認を貰えたものだ。お館様が機転を利かせてくれなければ危なかっただろう。

 

「炭治郎くんも禰豆子ちゃんも二人とも助ける、なんて言ったくせに、私が関わったせいでむしろ状況を悪くして……」

 

 言ってるうちに鼻の奥がツーンとしてきて視界がぼやける。

 

「これじゃあ…炭治郎くん達に合わせる顔がないや……」

 

 ズズッと鼻をすすり、慌てて顔にバチャバチャと湯を被る。

 

「……どうして」

 

「え?」

 

 と、輝利哉くんが呟くように言う。

 

「どうして…そんなにあの兄妹を気に掛けるんですか?」

 

 輝利哉くんの問いに私は何と答えたものかと考える。と、

 

「そ、その……もしかして……」

 

 黙る私にさらに輝利哉くんがモニョモニョと歯切れ悪く言い淀みながら

 

「もしかして、楓子さんは…その……あの竈門炭治郎と言う方へ特別な感情を持ってらっしゃるんでしょうか……?」

 

「すみません。特別な感情、とは?」

 

 その問いの意味が分からず訊き返す。

 

「だ、だからですね?その……」

 

 私の問いになおも言い淀む輝利哉くんは意を決したように息を吸い込んだ吐息が聞こえ

 

「だ、だから、楓子さんはあの竈門炭治郎と言う方のことを、異性として好意を寄せていらっしゃるんでしょうか!?」

 

「………へ?」

 

 その問いに私は間の抜けた声を漏らし

 

「……プッ!アハハハハハハッ!」

 

「え?え?な、なんですか!?」

 

 思わず笑いだした私に輝利哉くんは困惑した声で訊く。

 

「い、いえ…なんて言うか、輝利哉くんって意外と耳年増ですね。恋愛ごとに興味をお持ちとは」

 

「ッ!?そ、それは……」

 

 私の言葉に輝利哉くんが言い淀む。恐らく顔が見えていたら羞恥で真っ赤に染まった顔が見えたことだろう。

 

「私が炭治郎くん達を気に掛けてたのはそう言う私の好きな分野の話じゃないですよ」

 

「じゃあ…どうして……?」

 

「そうですね~……」

 

 輝利哉くんの問いに私は少し考え口を開く。

 

「私が炭治郎くん達に抱いている感情をあえて言葉にするなら、それはきっと……」

 

 言いながら私は心中で独り言ちる。

 あぁ、本当に今日の私は様子がおかしい。こんなこと、言う必要ないのに。上手くごまかせばいいものを、何故かこの胸にわだかまっているものを吐き出したくなって

 

「それはきっと……『罪悪感』とか『罪滅ぼし』ですよ」

 

 私は正直に答えた。

 

「それって、どういう……?」

 

 私の言葉が意味が分からないように訊く。そんな輝利哉くんに

 

「私って、ズルくて悪いしたたかな女なんですよ、自分で自分が嫌になるくらい」

 

 私が勤めて明るく言った言葉に困惑した吐息が返ってくる。

 

「私はね、輝利哉くん」

 

 そんな輝利哉くんの疑問に答えるために私は口を開く。

 

「私は…命と命を天秤にかけて、より多くの命を救うために少数の命を見捨てたんです。それも一度だけじゃなく、何度も……」

 

「え……?」

 

 私の言葉に輝利哉くんが驚きで息を呑む。

 

「『トロッコ問題』って言うものがあります。トロッコはご存じですか?」

 

「は、はい…『トロッコ問題』は知りませんが、トロッコなら……鉱山とか使われるものですよね?」

 

「その通りです」

 

 私の問いに答えた輝利哉くんに応じながら私は続ける。

 

「『トロッコ問題』というのは、大雑把に言えばこういうものです。

――線路を走っていたトロッコが何らかの理由で制御不能になり、このままでは前方で作業中の五人がこのトロッコにひき殺されてしまう。そんな中であなたは線路の分岐点におり、あなたが進路を変更すればその五人は確実に助かります。しかし、切り替えた先の進路にも一人作業をしている人がいます。さて、あなたはこのまま五人を見殺しにしますか?それとも進路を切り替えて一人を殺しますか?

 って言うものです」

 

「それは……」

 

「そして、私はそこでより少数を見捨てる方を選んだんです」

 

「ッ!」

 

 私の言葉に輝利哉くんの息を呑む気配が聞こえた。

 

「そ、それは、本当にどうしようもなかったんですか?例えば何か他の方法でトロッコを止めて全員を救う方法は――」

 

「私もそれは模索しました。でもね、厄介なことにそのトロッコにはダイナマイトが乗っていて下手な止め方をすればその場どころかもっともっとたくさんの人に被害が及ぶかもしれなくて、どちらかに引き込むしかなかったんです」

 

「そんな……」

 

 私の言葉に輝利哉くんが呟くように声を漏らす。

 

「私はそうやってより多くの命を救うために少数を切り捨てた。もしかしたらダイナマイトを爆発させずにトロッコを止められたかもしれないのに、私は失敗したときのことを考えて、そうなる可能性の方が高くて両方を救う努力を怠ったんです」

 

 そう言って私は自嘲の笑みを浮かべる。

 

「私はきっと死んだら地獄に落ちるでしょう。でも、私はまだ生きている。なら、目の前にある救える命には手を伸ばしたいんです。手を伸ばさなきゃきっと死ぬほど後悔するから……」

 

「楓子さん……」

 

「何より、炭治郎くんと禰豆子ちゃんにはうまく言葉にできませんが、彼らはきっと後々重要な活躍をしてくれます。納得してもらえるだけの確証は言えません。私の女の勘、とでも思っていただければいいです。だから、私はこれまで私が切り捨ててしまった命に報いるために彼らを守らなければいけなかったんです」

 

 言いながら私は一人苦笑いを浮かべる。

 いったい私は何を言ってるんだろうか?自分の半分の年齢の男の子にこんな弱音吐いて、原作知識のことは言えないから要領を得ない説明までして。

 本当に今日の私はおかしい。

 

「すみません、わけのわからない話をして。忘れてください」

 

 私は朗らかに輝利哉くんに声をかける。

 さあ、そろそろお風呂から上がろう。

 私にはやるべきこと、考えるべきことが山ほどある。今後の為に一分一秒でも時間が惜しい。

私がやらなければいけないのだ。

 私が守られなければいけない、蜜璃さん達の――登場人物たちの命を、幸せを。

 この『世界』の在り方を歪めてしまったのは私のだから、それが私の責任だ。

 そんなことを考えながら私はザバッと湯船から体を起こし

 

「その…楓子さんの苦悩も覚悟も、きっと私には計り知れないものだと思います」

 

 と、脱衣所への扉の向こうから輝利哉くんの声が聞こえる。

 

「だから、私なんかがどれほど楓子さんのお力になれるかわかりません……でも、それでも!」

 

 言いながら輝利哉くんは語調を強くする。

 

「私は楓子さんのことを肯定し続けます!だって、楓子さんがいつも頑張ってらっしゃるのを知ってるから!」

 

「輝利哉くん……」

 

 輝利哉くんの言葉に私はそっと名前を呼ぶ。

 

「たとえ、鬼殺隊の隊員の皆さんが楓子さんを否定しても私は楓子さんを肯定し続けますから!」

 

 輝利哉くんはなおも強く叫ぶ。

 

「私の弱い体では何の役にも立たないかもしれませんが、楓子さんが迷った時は一緒に考えます!父上に頼んで産屋敷の持てる力を総動員します!楓子さんは神様じゃありません!人間です!人間には限界だってあります!でも一人でできなくても二人でなら出来ることもあります!だから――」

 

「ッ!?」

 

 一生懸命に言葉を紡ぐ輝利哉くん。そんな彼の言葉に私はハッとする。

 

――そうだ、そうなのだ。何故忘れていたのだろう?

 

「一人でできなくても二人で……」

 

――そうだ、『鬼滅の刃』とは、初めからそう言う物語だったじゃないか。人間の最高峰ともいえる最強の剣士『継国縁壱』さんでも鬼舞辻無惨は仕留められなかった。でも、炭治郎くん達は『最強の個の力(継国縁壱)』に劣る『個の力』を集めて束ね、『全の力』で鬼舞辻無惨を倒したのだ。

 私がやらなければいけない?私が守られなければいけない?――バカじゃないのか!?何自惚れてんだ!!

 私は『最強の個の力(継国縁壱)』ではない!ただちょっと『この世界(鬼滅の刃)』に詳しいだけのただの人間だ!

 そんな私がたった一人で何ができる!?おこがましいにも程がある!!

 確かに私は『異物(イレギュラー)』だったのかもしれない。しかし、今や私も『この世界(鬼滅の刃)』の一部だ!『全の力』の一部なのだ!

だったらやるべきことは一つだ!

 

「スゥゥゥゥ……」

 

 私は大きく息を吸い込み

 

「ッ!」

 

 ドボンと湯船に頭まで沈む。

 水によって無音で聞こえるのは自分の心臓の音だけ。そこからさらに目を開く。ゆらゆら揺れる水面に窓から差し込む光が反射しキラキラと輝いている。

 さっきまでのごちゃごちゃした思考が嘘のようにクリアになった。

 

――やるべきことは一つ!私も『この世界』の一部として全力で生きる!他の人達と共に一緒に勝利を勝ち取るのだ!私が引っ張るのでなくみんなで目指すのだ、全員が笑っていられる未来の為に!

 

 

 

 ○

 

 

 

「――あ、あれ、楓子さん?」

 

 途中から自分でも何が言いたいのかよくわからないような思いの丈を叫んでいた輝利哉はいつからか楓子の声が聞こえなくなっていることに気付く。

 

「ふ、楓子さん……?」

 

 恐る恐る呼び掛けてみる。――が、返ってくるのはのは静寂のみ。

 

「楓子さん!?」

 

 今度はさらに大きく呼びかける。しかし、やはり返事はない。

 

「楓子さん!!」

 

 慌てて脱衣所の戸を開ければ、そこに楓子の姿はなく

 

「ッ!?」

 

 湯船に微かにボコボコと泡が浮いてくる。

 

「楓子さん!!」

 

 慌てて輝利哉は湯船に駆け寄り――

 

「ぶはぁぁッ!!」

 

「わぁッ!?」

 

 突然目の前に飛沫が上がり、輝利哉は驚いて尻餅をついて目を瞑る。

 何事かと輝利哉は慌てて顔を戻す。そこには――

 

「ふっかぁぁぁぁつッ!!!」

 

「ブゥッ!?」

 

 輝利哉に背負向けて仁王立ちで両手の拳を上に突きあげる楓子がいた――無論、一糸纏わぬ姿である。

 

「今霧は晴れた!!我が人生に一片の迷い無し!!フハハハハハハァ!!!」

 

「…………」

 

 いつも明るい楓子がいつも以上にハイテンションで高笑いする様に輝利哉は茫然と見つめ

 

「フハハハハ…は?」

 

 と、そこで楓子は自身の背後に輝利哉がへたり込んでいることに気付き

 

「あれ?輝利哉くん?なんでここに?」

 

「ッ!?」

 

 クルリと輝利哉の方に向き直る、一切隠す様子無く。

 

「ふ、楓子さん!ま、前!!前を隠してッ!!」

 

「前?」

 

 顔を真っ赤にして顔を手で覆う輝利哉くんの言葉に首を傾げながら自分の身体を見下ろし

 

「あ……」

 

 自分が全裸だったことを思い出す。

 

「これはこれは失礼しました。お見苦しいものを……」

 

「い、いえ!楓子さんの身体は…その…とても綺麗で……

 

「え?すみません、今なんて?」

 

「だぁぁぁ!?だ、だから前を隠して――」

 

 ボソボソと呟く輝利哉の言葉が聞きとれず聞き返しながら自身の方へ寄って来る楓子に輝利哉は再び絶叫し

 

「あ……」

 

 その時、輝利哉の鼻から一筋の血が。

 

「ちょッ!?鼻血出てる!お風呂入ってないのにのぼせたんですか!?とにかく止血を!!」

 

 その光景に眼を見開いた楓子は慌てて湯をかき分け輝利哉に駆け寄り鼻血の状況を見ようと顔を寄せる。

そのせいで輝利哉の目の前に楓子の裸体、その胸元が至近距離まで近づき

 

~~~~!!/////

 

 輝利哉は顔を真っ赤に染めてその光景に声にならない悲鳴を上げ

 

「し、失礼しましたぁぁぁぁぁッ!!!」

 

「あ、ちょッ!輝利哉くんッ!?」

 

 大声を上げながら走り去って行く。

 輝利哉を茫然と見送った楓子は

 

「大丈夫かな?鼻血止まってなかったけど……」

 

 フゥとため息をつき

 

「しっかし、慌ただしいなぁ~。さっきはあんなに頼もしいこと言ってたのに……」

 

 楓子は微笑み

 

「不覚にもちょっとドキッとしてしまった……おっかしいなぁ~、私ショタコンじゃないんだけどなぁ~……」

 

 一人首を傾げるのだった。

 

 




と言うわけで、楓子ちゃん復活です!
そして、ラッキースケベられてしまいましたね(;^ω^)
さあ心境新たな楓子ちゃんの活躍やいかに!?
次回からもお楽しみに!


さて、今回の質問コーナーです!
今回はトサカがある生物さんからいただきました!

――自分の前世を思い返してみてどう考えていますか?良かったことや辛かったこと諸々含めてお願いします。

楓子「前世かぁ、いろいろあったなぁ~。アイマスのシンデレラガールズのライブのチケット当たって見に行った時は夢のようなひと時だったし、夏コミに出店してかんばいしたときはうれしかったなぁ。よかったことはたくさんあるから上げきれないかな。辛いこともいろいろあったね。イベントの締め切り直前とか修羅場だし、友達とCPの攻め受けの解釈でもめて絶交しかけたのもねぇ~……でも、今にして思えば親より先に死ぬって言う最大の親不孝しちゃったのがなぁ……」

――心に残ってる名言とかありますか?

楓子「個人的に好きな言葉はたくさんあるけど、一つ上げろって言われたら『キノの旅』って作品に出てくる言葉なんですが、主人公が師匠に、全員が笑顔で生きられる世界ってあると思いますか、って訊いた時の師匠の答えですね。『いいえ。だからせめて、自分だけは笑える時に笑おうと思いますよ』です。なんていうかうまく言えないですけど、自分が笑って、自分の周りの人も笑わせて、その周りの人たちがさらに周りの人を笑わせて、って繋いでいけばいつか全員が笑える日が来るのかなぁって思ったんですよねぇ」

と、いうことでした!
と言うわけで今回はこの辺で!
また次回もお楽しみに!



~大正コソコソ噂話~
楓子が帰り、柱合会議も終わった産屋敷では

輝利哉「これは…そう!転んで鼻をぶつけたせいなんです!」

ひなき(絶対楓子さんと何かあった……)

にちか(絶対楓子さんと何かあった……)

くいな(絶対楓子さんと何かあった……)

かなた(絶対楓子さんと何かあった……)

あまね(絶対楓子さんと何かあったわね……)

耀哉(絶対楓子と何かあったんだね……)

いろいろバレバレでした。


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