恋柱の継子、人の恋路に世話を焼く   作:大同爽

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恋33 恋柱の継子と謝罪

 

「この度は、ご迷惑をおかけしました」

 

「「「…………」」」

 

 私が正座したまま頭を下げる。

 私の言葉に対面に座る蜜璃さん、伊黒様、そして杏寿郎さんは押し黙る。

 今日の昼間にあった柱合会議の後、お館様のお屋敷でお風呂を借りた私は一足先に蜜璃さんの家に戻り、蜜璃さんが帰ってくるのを待っていた。

 夕飯の時間も回った頃、蜜璃さんは伊黒様と杏寿郎さんと共に帰ってきた。

 お二人にも迷惑をかけたのでちゃんと話しておかなければと思っていたのでちょうどよかった。

 二人も私に話があったようで少し遅めの時間だったがこうしてやって来たらしい。

 そんなわけで三人と共に居間にやって来て机を挟んで向かい合って座った。

 そして、私が畳に手をついて頭を下げて数秒

 

「……顔を上げて、ふーちゃん」

 

 蜜璃さんが口を開く。

 私はその言葉に従ってゆっくりと顔を上げる。と、蜜璃さんは真剣は顔で私の顔を見据えていた。

 

「私、ふーちゃんが継子になってから、今日まで一緒に過ごして、継子って以上に本当の妹みたいに思ってた。今でもそう思ってるわ」

 

「蜜璃さん……」

 

「でもね」

 

 言いながら蜜璃さんは少し言い淀む素振を見せ

 

「でもね、私ふーちゃんと暮らしてて一つだけ後悔してることがあるの」

 

「後悔……?」

 

 私の問いに蜜璃さんが頷き

 

「私ね、ふーちゃんを叱ったこと一度もなかったよね?――ふーちゃんは年齢以上に大人びてて物分かりがいいし私よりもしっかりしてたから叱らなきゃいけないこともほとんどしない子だったからって言うのもあるけど」

 

 言いながら蜜璃さんは苦笑いを浮かべ、しかし、すぐに真剣な表情に戻り

 

「両親を亡くして一人残されたふーちゃんに、助けられなかったご両親の分まで私がふーちゃんの『家族』になろうって思って、たくさんたくさん褒めて、たくさんたくさん楽しい時間を作ろうって……ふーちゃんは凄く優秀だし、私が教えた鬼殺の技術以外でももとから持ってた医学知識で鬼殺隊で活躍してた。私はそれに口出ししたことも、ふーちゃんの相談に乗ったこともなかった。今、私はそれを凄く後悔してるの。もっとたくさん話しておけばって、今日のふーちゃんの様子見てすっごく思った……」

 

 私の目を見て言う。

 

「ふーちゃん、何か悩んでたんだよね?」

 

「ッ!?」

 

 蜜璃さんの言葉に私は息を呑む。

 

「私のせいだよね?私の方がいつもふーちゃんに頼ってばかりで、ふーちゃんも私の話をいつもニコニコ聞いてくれてたのに、私はふーちゃんが何かに悩んでたのに何もできなくて……」

 

「そんなことッ!」

 

 私が言いかけて、しかし、蜜璃さんが首を振って遮る。

 

「あの時も、ちゃんと叱るべきだったわ。ふーちゃんが不死川さんを笑った時も、不死川さんに失礼なこと言っちゃったときも……」

 

 一瞬蜜璃さんは目を伏せてからすぐに視線を戻し

 

「だから、今はちゃんと言うね」

 

 そう言って一拍開けて息を吸い込み

 

「ふーちゃんはいつも周りの人のことばっかりで自分のことは後回しにしてる!悩んでるときは誰かにちゃんと相談して!できるなら私が相談に乗れたらいいけど…私じゃなくてもいいわ!悩んでるなら悩んでるってちゃんと言ってくれないと誰もふーちゃんの悩みに気付けないよ!」

 

「ッ!」

 

 蜜璃さんの言葉がドスンと胸を打った。

 

「あと、いくら悩んでたって不死川さんに失礼な態度をとったことは駄目!私も一緒に行くからちゃんと謝りに行こう!」

 

「…………」

 

 蜜璃さんの言葉に私は押し黙る。

 

「……ふーちゃん?」

 

 黙った私に蜜璃さんが恐る恐る訊く。

 伊黒様と杏寿郎さんは黙って見ている。

 三人からの視線を受けて私は

 

「………フフッ」

 

 笑みを漏らす。

 

「「「???」」」

 

 そんな私に三人は困惑した表情を浮かべ

 

「あ…す、すみません!その…前に似た話を私も別の人に言ったことがあったもので……『痛いときにどこがどう痛いのか言ってくれないと医者はどうすることもできない』って……人のこと言えないなぁって思って……」

 

 そんな三人に私は苦笑いを浮かべて答える。

 

「今回の件で炭治郎くん達に付き添ってて、あの那田蜘蛛山を根城にしてる十二鬼月に遭遇したのに私はそいつを取り逃がしたんです。そいつが後々炭治郎くん達を苦しめて、冨岡様が間に合ったからよかったですが、私があそこで倒してたらって思って……しかも、あの山には他にも十二鬼月が二体も現れて、そいつらは私狙いでした。その時私、もっと他にも強い鬼が来てたら……私のせいで炭治郎くん達が死んでたかもしれないって思ったら、絶対にあの二人が生き残れるように皆さんに認めさせなきゃって思って……」

 

「ふーちゃん……」

 

「蜜璃さんの言う通りです……私、自分一人でやらなきゃって躍起になってました。すみません」

 

 私は改めて頭を下げる。

 

「ふーちゃんはとっても優秀な子だから、何でも一人で抱え込んじゃうのかもしれないけど、これからはもっと私や伊黒さん、煉獄さんのことも頼ってね。約束よ」

 

「はい」

 

 蜜璃さんの言葉に頷くと、少しの間をあけ

 

「はぁぁぁぁッ!緊張したぁぁぁぁ!」

 

 蜜璃さんが大きくため息をつきながら机に突っ伏す。

 

「うむ!俺の言いたいことは全部甘露寺に言われてしまったな!」

 

 と、ここまで黙っていた杏寿郎さんが口を開く。

 

「甘露寺も俺のもとで学んでいたころから成長したな!楓子君へ真摯に向き合っている!」

 

「煉獄さん……」

 

 杏寿郎さんの言葉に蜜璃さんは嬉しそうに微笑み

 

「楓子君も、君が優秀なのは以前から知っていたが、個人でできることには限りがある!これからは俺を含めてドンドン周りに頼るといいぞ!」

 

「はい、そうします」

 

 杏寿郎さんの言葉に私も頷く。

 

「まったく、不死川に喧嘩を売った時はどうなるかと思ったぞ」

 

 と、伊黒様もため息混じりに口を開く。

 

「一つだけ聞かせろ、あの鬼の娘は本当にお前の命を懸けられるだけの〝何か〟があるんだな?」

 

「はい、間違いなく」

 

「……そうか」

 

 私の返事に頷いた伊黒様は大きくため息をつき

 

「なら、もう何も言わん。お前はお前の信じる様にしろ。俺もお館様がお認めになった以上はそれに従う」

 

「伊黒様……」

 

「勘違いするな、今でも鬼は大嫌いだし信用しない。あの娘が人を喰った瞬間、俺があの娘の頸を斬る」

 

「……はい、わかりました」

 

「ふん、せいぜいあの娘が人を喰わんように目を光らせておくんだな」

 

 私の言葉に鼻を鳴らした伊黒様。そんな伊黒様の様子に

 

「フフ…」

 

 蜜璃さんが笑みをこぼす。

 

「……な、なんだ?何か変なことを言っただろうか?」

 

 そんな蜜璃さんの様子に伊黒様は困惑した様子で訊く。

 

「だって、今のってふーちゃんが目を光らせておけばあの女の子が人を食べるようなことはないって、ふーちゃんのこと信頼してるってことでしょ?」

 

「ッ!?い、いや!それは!!」

 

 微笑みながら言う蜜璃さんの言葉に目を見開いた伊黒様は慌てた様子で言うが蜜璃さんはニコニコしながら続ける。

 

「今だってわざと口悪く言って、ここまで帰ってくる道中にはふーちゃんのこと褒めてたのに」

 

「そ、そんなことは!!」

 

「『十二鬼月二体を相手によく生き残ったものだ。しかも二対一という不利な状況で一体を屠ることに成功している。その点は評価してやらんとな』って言ってたじゃない?」

 

「うぐッ!」

 

 蜜璃さんの言葉に伊黒様は照れて頬を少し赤く染めながら声を漏らす。

 

「え?え?え?そうなんですか?私のことそんな風に?」

 

「い、いや!そんなことは無い!」

 

「むッ!?俺も聞いていたぞ!」

 

「れ、煉獄までッ!?」

 

「もう!やっぱ私のこと大好きじゃないですか~!素直になれよ~!」

 

「~~~ッ!そうやって!調子に乗るのが目に見えてたから!!言わなかったんだ!!!」

 

 伊黒様が頭を抱えて悶えながら叫ぶ。

 

「まあまあ、会議でのことはあったけど、十二鬼月二体相手に戦って生き残るだけじゃなくて、一体倒したことはちゃんと褒めてあげないと!」

 

 そんな伊黒様に微笑みながら蜜璃さんが言い

 

「うッ……まぁ、それは……」

 

 伊黒様はその言葉に言い淀み、チラリと私に視線を向けてから

 

「……まあ、アレだ……よくやったんじゃないか?」

 

「伊黒様……」

 

 すぐにフイと顔を背け照れたように言う。

 そんな伊黒様に私は――

 

「伊黒様が素直に私のこと褒めるなんて、なんか逆に怖いですね」

 

「お前ホントそういうところだぞ!!」

 

 思わず言った言葉に伊黒様が大きくため息をつきながら叫び、しかし、その顔は少し微笑んでいるように見えた。そんな伊黒様の様子に私も微笑む。

 そんな私達を見て

 

「うむ!甘露寺と楓子君も仲がいいが、伊黒とも大変仲が良くていいな!」

 

 杏寿郎さんが笑って言う。

 

「はい!仲良しです!」

 

「違う」

 

「も~!照れんなよ~!」

 

「うるさい黙れ」

 

「私のこと大好きってもう知ってんだぞ~?周知の事実だぞ~」

 

「死んでしまえ」

 

「ひどいッ!」

 

 伊黒様の言葉にショックを受けたように私が言う。

 まあこの流れも今までに何度か似たようなことしてるのでもう定番のパターンだ。

 この流れを何度か見ている蜜璃さんも杏寿郎さんも特にツッコまない。

 むしろ――

 

「うむ!やはり仲が良いな!」

 

「兄妹みたいですよね~」

 

 兄妹喧嘩でも見る様に微笑ましげに言うのだった。

 そんな二人の言葉に笑った私はコホンと咳ばらいをし

 

「まあ伊黒様とのいつもの漫談は置いておいて――」

 

「おい待て。勝手に漫談にするな」

 

 私の言葉に伊黒様がツッコむがそれを華麗にスルーし

 

「それでその……今日の件でですね……」

 

 私はボソボソと言い淀みながら

 

「やはり、その…自分でも不死川様への態度はよくなかったと思って……早めに謝罪したくて……」

 

「うむ!それは確かにな!」

 

 と、私の言葉に杏寿郎さんが頷く。

 

「まああの時は不死川も不死川だったが、お前が先にしかけてるわけだし、あいつの方が階級は上だ。ちゃんと謝って来い。でないとお前のせいで甘露寺が他の柱との関係が悪くなる」

 

 伊黒様も頷く。

 

「任せて!私も一緒にちゃんと謝れば不死川さんもわかってくれるわ!」

 

 蜜璃さんもグッと拳を握って言う。

 

「い、いや、私のしでかしたことなので蜜璃さんにまで来てもらうのは……」

 

「ううん!ふーちゃんがやったからこそだよ!なんてったって私はふーちゃんの師匠だもん!継子のしたことは師匠の責任!!」

 

 私の言葉に首を振って蜜璃さんがムフンと鼻息荒く言い、「それに」と断ってスッと優しい微笑みを浮かべ

 

「さっきも言ったけど、ふーちゃんはもっと周りを頼っていいんだからね!まずは師匠で〝姉〟の私にどーんッと頼って!ね!」

 

「蜜璃さん……」

 

 蜜璃さんの言葉に私はグッときて

 

「……はい、重ね重ねご迷惑をおかけします」

 

「うん!任せなさい!」

 

 ペコリとお辞儀をする私に蜜璃さんは胸を張ってそのたわわなオパーイをドーンと叩き

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――そして、五日後

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、先日の柱合会議の時の楓子と実弥の一件についての話をしようか」

 

 と、机の私から見て右手側に座るお館様が言う。

現在机に時計で言うと12時の位置にお館様、3時の位置に私と蜜璃さんが座り、9時の位置――私達の対面に

 

「…………」

 

 不死川様が座っていた。それはもう恐ろしいまでの眼光でこっちを見てる。その目は「ヤの付く職業の方ですか?」って訊きたくなるほどの目力だ。おぴっこチビりそう……。

 

「それで、今回は蜜璃と楓子の方からの申し出でこうして場を設けた訳だけど……」

 

「「ッ!」」

 

 そう言って私と蜜璃さんに視線を向けるお館様。

 お館様の視線を受けた私達は息を飲み、と、蜜璃さんが私に視線を向けて頷き

 

「し、不死川さん!」

 

 意を決した様子で口を開き――

 

「セッ!先日はうちの継子のふーちゃ――大好楓子が失礼な態度をとってしまい、しゅみましぇんでした!」

 

 めっちゃ声が裏返った。そして、噛んだ。

 どうやら蜜璃さんも不死川様の眼光にやられていたらしい。

よくよく見れば脂汗だらだらかいてる。――いや、これは今声が裏返ったり噛んだせいもあるか……。

 

「あ、あぅ~……」

 

 蜜璃さんは恥ずかしそうに顔を赤らめて眉を寄せて声を漏らす。

 

「それで……!その……!」

 

 テンパってしまった蜜璃さんはアワアワとしている横で

 

「不死川様」

 

 私は口を開き、頭を下げる。

 

「先日の件、本当にすみませんでした」

 

「…………」

 

 そんな私に蜜璃さんから視線を私に移す不死川様。

 こ、怖ぇぇぇぇッ!?あの日の私よくこんな目の人に喧嘩売ったな!?どんだけ周り見えてなかったんだよ!?――と、考えているが、それを必死に顔に出さないように真剣な顔を維持しながら私は続ける。

 

「私のような下の者が『柱』である不死川様に失礼な態度を取ったり、あまつさえ挑発するような発言をしてしまい、本当に…本当にすみませんでした」

 

「…………」

 

 そのまま私の言葉の後に不死川様はジッと私の顔を睨みつけ

 

「…………」

 

 私もその視線を正面から受け止めて見つめ返し

 

「…………」

 

「…………」

 

「………………」

 

「………………」

 

 数秒間無言で視線を躱した私は

 

「あ、すみません小指詰めますんで、それでどうか……」

 

 その視線の圧に負けて机に左手の小指だけ伸ばした状態で出し、横に置いていた日輪刀に手をかける。と――

 

「待てェ」

 

 そこで初めて不死川様が口を開く。

 

「あ、もしかして小指だけじゃ足りませんか!?では薬指も差し出しますんでどうか!」

 

「だから待てェ!」

 

「ま、まだ足りませんか!?こ、これ以上は刀を握るのに支障が出るのですが……!?」

 

「だから待てつってんだろうがァ!!」

 

 バンッ!

 

 叫びながら不死川様が机を叩くので私と、隣の蜜璃さんも一緒になってビクゥッ!と身体を震わせる。

 

「実弥、落ち着いて」

 

「……はい」

 

 と、そんな不死川様をお館様が優しく微笑みながら窘め、不死川様もそれに頷く。

 

「楓子達も落ち着いて」

 

「「は、はい……」」

 

 お館様が続いて私と蜜璃さんにも視線を向けて言うので私たちは揃って頷き、改めて不死川様に視線を向ける。

 

「…………」

 

 私と蜜璃さんに加えてお館様の三人分の視線を受けた不死川様はフゥと息をつき

 

「この間のことは俺も冷静さを欠いてまだお館様の意思も確認してないのに勝手な行動を取ったァ。その後もお前に必要以上に突っかかったァ。お前の前で甘露寺のことを言う必要のない言葉で貶したァ。それはこっちの落ち度だァ」

 

 そう言ってスッと頭を下げ

 

「その、悪かったァ」

 

 と、謝罪の言葉を口にし――ってえぇぇぇぇぇッ!?

 

「ほう?」

 

 お館様もその光景に少し驚いた様子で呟き

 

「し、不死川さん!?」

 

 蜜璃さんも唖然としている。

 いや、実際私も驚きであんぐりと口を開けている。正直今日は二、三発殴られる覚悟で来ていたのに、フタを開けてみればこれである。

 

「……なんだ、その間抜け面はよォ?」

 

「す、すみません……」

 

 私が相当茫然としていたのだろう。ギロリと不死川様が私を睨む。

 

「な、なんて言うか……そんなにあっさりと謝られるとは思ってなくて……」

 

「ああァ……」

 

 私の言葉に不死川様が言い淀みながら頬を掻き

 

「その…なんだァ……あの会議の翌日に知り合いから説教喰らってなァ」

 

 ため息交じりに答える。

 

「お前も反省してるみてェだし、なら俺もちゃんと頭を下げるのが筋ってものだと思ってなァ……それだけだァ」

 

「そう…ですか……」

 

 私の言葉に頷いた不死川様は改めて私を見つめる。その目は先程までよりも幾分か和らいでいるような気がした。

 

「甘露寺のことをお前は『姉』みてェに慕ってるんだよなァ?『家族』のこと悪く言われりゃ、腹が立っても仕方ねェ」

 

「不死川様……」

 

 そう言って私を見る目は私を見ているようで、誰か別の人のことを思い浮かべているようで

 

「だから、あの日のことは俺は頭を下げる。そして、お前も頭を下げたんだから俺もこれ以上とやかく言わねえェ。これで手打ちとしようやァ」

 

「……はい、ありがとうございます」

 

 すぐに元通りに私を見据えた視線で言った不死川様に頷き

 

「本当に、すみませんでした」

 

「ああァ」

 

 再び頭を下げる。

 

「あの、それで…ささやかですがお詫びの品として……」

 

 言いながら私は脇に置いていた荷物を机の上に置く。それは風呂敷で包んだ二段のお重で――

 

「不死川様はおはぎがお好きと伺いましたので、用意してきました!お納めください!」

 

「……お前、それ誰から聞いたァ?」

 

「はい!カナエさんから!このおはぎの作り方もカナエさんから習いました!」

 

「……そうかァ」

 

 私の言葉に深くため息をついた不死川様は

 

「……ああ、貰っておく」

 

 仏頂面で私からお重を受け取る。

 

「………あのぉ~?」

 

 そんな不死川様に私恐る恐る手を挙げる。

 

「実は謝罪ついでにもう一つ不死川様に謝らないといけないことがありまして……」

 

「あァ?」

 

 私の言葉に不死川様が私に視線を向ける。その視線を受けながら私は口を開き

 

「その…不死川様の弟の玄弥君の件で――」

 

「――いねェ」

 

 言いかけたが、その言葉を不死川様に遮られる。

 

「でも、炭治郎くん達の同期で『不死川玄弥』って――」

 

「俺に弟なんざいねェ!!」

 

 一層鋭い視線を向けて恫喝する不死川様に私はビクッと身体が震え

 

「そ、そうですか……」

 

「ああァ」

 

 とりあえずそれ以上は言うとまずそうなのでここは引いておくことにする。

 

「…………ちなみにだがよォ」

 

 と、不死川様がソワソワした様子で呟くように言う。

 

「ちなみに、そいつが仮に、仮にもしも万が一俺の弟だったなら、どうだって言うんだよォ?」

 

「え?あぁ……」

 

 私はその問いに私は少し考え

 

「いや、ご兄弟じゃないならいいです」

 

 私は首を振る。

 

「いいから教えろォ」

 

 そんな私に不死川様が一瞬ムッとした顔をし、しかし、すぐに気を取り直した様子で訊く。

 

「いや、本当に大した話じゃないんで」

 

「いいから言え」

 

「身内じゃないならホント――」

 

「おい」

 

 なおもしつこく訊いてくるので私も頑なに口を閉ざし、しかし、そんな私にいい加減イラついたようで目を細めて私を睨みつけ

 

「いいから言えェ」

 

「う、うっす……」

 

 その圧に私はこれ以上は口を閉ざしては置けないとため息をつく。

 

「いえね?実は私、その玄弥君たちが受けた今年の最終選別の監督係でついてたんですがね」

 

「おおォ」

 

「私その時に詳細は省きますが、結果から言うと玄弥君のこと投げ飛ばしたんですよ。なので、もし不死川様がお兄さんならちゃんと謝っておかないと、と思って――」

 

「あぁんッ!?」

 

 が、私が言いかけた言葉を低く、しかし、確かな怒気を孕んだ不死川様の声が遮った。

 

「てめぇ、今投げ飛ばしたつったかァ?」

 

「え、ええ……」

 

「玄弥を…投げ飛ばしただァ……!?」

 

「は、はい……」

 

「そうかァ……」

 

 頷く私に不死川様はゆっくりと脇に置いている日輪刀に手を伸ばし――

 

「で、でも!不死川様と玄弥君は無関係ですもんね!!ねッ!?」

 

「ッ! お、おうゥ……!」

 

 慌てて私が言うと、ハッとした様子で不死川様が頭を振って頷く。日輪刀からも手を離す。

 あぶねぇ~!てかやっぱ気にしてんじゃん!このツンデレヤクザがぁッ!!――と、思ったがそれを口にせずに息をつく。と、

 

「あぁ、思い出した」

 

 お館様がポンと手を打ち

 

「今年の最終選別の後、進行役についていたうちのかなたに刀を寄越せと言って恫喝して掴み掛ろうとして楓子に投げ飛ばされて取り押さえられた血気盛んな子がいたって報告を受けていたね。確かその子の名前が『不死川玄弥』だったっけね」

 

「なッ!?」

 

 世間話のように言ったお館様の言葉に不死川様が唖然と口を開けて息を呑む。

 

「まあでも、実弥は無関係だというんだから、そうなんだろうね?ね、実弥?」

 

「ッ!? は、はい……」

 

 にっこりと微笑みながら言うお館様の言葉に不死川様はぎこちなく頷く。と、言うかこれ絶対お館様わかってて言ってる。わかった上で話してる。

 

「ちなみにですが……」

 

 それに気付いていないらしい不死川様はぎこちなく口を開き

 

「そのお館様のご息女に掴み掛ろうとしたその新人隊士は、何か罰則があったのでしょうか?」

 

「気になるかい?」

 

「ッ!? え、ええ、まぁ……」

 

 ぎこちなく頷いた不死川様にお館様が優しく微笑み

 

「まあ、その場は楓子がよく言って聞かせたようだし、本人も謝罪したようだからね。今回はお咎め無しだよ」

 

「そう…ですか……」

 

 お館様の言葉に不死川様は一瞬安心したように表情をやわらげ、しかし、すぐに顔を引き締める。

 

「お館様のご息女を恫喝して掴み掛ろうとした輩、何かしらの罰則があってもよかったかもしれませんねェ」

 

「そうかい?」

 

 気を取り直した様子で言った不死川様にお館様は微笑みながら首を少し傾げ

 

「では、今からでも罰則を与えようか。確かに、私の可愛い娘を脅そうとしたんだから、お咎め無しと言うのは――」

 

「――と、思いましたがもうすでにお館様が『お咎め無し』と決めたのならそれを覆すのは他の隊士への影響もあるでしょう。今回はこのままお咎め無しでいいと思われます」

 

「ん?そうかい?じゃあそうしておこうか」

 

 言いかけたお館様の言葉を遮って早口で言う不死川様にお館様はニコニコと笑いながら頷く。

 私が言うのもなんだが、ホントこういう時お館様はいい性格してらっしゃると思うわ……と思いつつ私はふと、この際だからと思い

 

「あの、じゃあ失礼ついでにもう一つ」

 

 手を挙げて質問する。

 

「この際、不死川様の口から聞いておきたいことがあるんですが」

 

「あァ?なんだァ?」

 

「ぶっちゃけカナエさんにはいつ告白されるんですか?」

 

 私の問いに

 

「へ?」

 

 蜜璃さんは呆けた顔をし

 

「ほう?」

 

 お館様は興味深そうに目を光らせ

 

「………はァッ!?」

 

 一瞬呆けた不死川様は珍しく素っ頓狂な声を上げる。

 

「お、おまッ!?な、何をォッ!?」

 

「カナエさんから聞いた…っていうか時々相談されてたんで……『実弥君ったらなかなか言葉にしてくれなくて、彼のことだから鬼舞辻無惨を殺すまでは言わねェ、とか考えてそうで、このままじゃ私白無垢着る頃にはおばあちゃんになってそうだわ~』って」

 

「なッ!?お前…今の声ッ!?」

 

「あ、私の特技の声帯模写です」

 

 驚く不死川様に私は胸を張って答えた。

 

「どうなんだい、実弥?」

 

「お、お館様ッ!?」

 

 お館様も興味深そうに目を細めて訊く。そんなお館様の問いに不死川様が驚きの声を上げる。

 

「私の大切な剣士(子ども)たち同士の恋愛だからね、とても気になるよ。……と言うか珍しいね、しのぶや蜜璃達の関係には嬉々として介入していた楓子が今回は何もしていなかったんだね?」

 

「ええ、まあ。なんて言うか、カナエさんはしのぶさんや蜜璃さん達みたいに拗れることは無いかなぁって思ってたんで、私は最低限だけにして他の方々にバレない様に知らんぷりしてたんです――してたんですけど……」

 

言いながら私はため息をつき

 

「いや、まさか何度か逢引を重ねてお互いの気持ちにお互い分かり合ってる状況で膠着するなんて思わないじゃないですか……」

 

「ウッ……」

 

 ジトーッと不死川様を見る。私の視線に動揺した様子で不死川様が顔を顰める。

 

「で?どうするんですか?このまま言わないつもりなんですか?カナエさん、きっと本当におばあちゃんになるまで待ちますよ?」

 

「そ、それはァ……」

 

 私の問いに不死川様が言い淀む。

 

「……ねぇ、不死川さん?」

 

 と、そんな不死川様に蜜璃さんが口を開く。

 

「その…私ね、本当は伊黒さんに気持ちを伝えるつもりはなかったの。私じゃ伊黒さんには相応しくないと思ってたから……でもね!今は伝えてよかったって思ってるの!」

 

「甘露寺……」

 

「私達はいつ死ぬかわからない場所にいるんだもん。大事な気持ちは胸に留めてるだけじゃダメなの。ちゃんと言葉にしないと、絶対にあとで後悔すると思うから……」

 

「…………」

 

 蜜璃さんの言葉に不死川様が押し黙る。

 

「私の言いたいことは蜜璃さんに全部言われちゃいましたし、不死川様も重々承知の上だと思いまうからこれ以上私からは言いませんけど……いえ、最後に一つだけ、失礼を承知で言います」

 

「ああァ」

 

 不死川様が頷いたのを確認して私は大きく息を吸い込み

 

「ゴチャゴチャ考えすぎなんですよ!!あんたは覚悟ガンぎまりのヤクザかッ!?もっと素直に生きろよッ!!カナエさんを行かず後家にするつもりかッ!!?もしそうなったら死後にカナエさんとの逢引の詳細を全鬼殺隊員に言って回ってやりますからッ!!カナエさんと相合傘して自分の肩を濡らしてたこととか蝶屋敷でうっかり眠りこけた時に寝惚けてカナエさんのことを『母さん』って呼んじゃったこととか!!」

 

「ッ!?な、なんでてめぇが知ってんだッ!!?」

 

「カナエさんから惚気られました!!」

 

「~~~ッ!!」

 

 私の返事に不死川様があんぐりと口を開けて頭を抱える。

 

「あと個人的に早く冨岡様と義兄弟になった不死川様が見てみたいです!!」

 

「なッ!?なんだそりゃァ!?なんで俺があの仏頂面と義兄弟にならなきゃいけねぇんだァ!?」

 

「「「………え?」」」

 

 不死川様の問いに私と蜜璃さんとお館様は声を揃えて首を傾げる。

 

「……え、まさか……でも……」

 

 三人でそっと顔を見合わせ、私が代表して口を開く。

 

「あの……不死川様ってしのぶさんと冨岡様の関係知らないんですか?」

 

「あァ?」

 

 私の問いに不死川様は怪訝そうな顔で首を傾げる。その顔に私を含め三人とも察し――

 

「しのぶさんって、冨岡様のことが好きなんですよ」

 

「……はァ?」

 

「冨岡様はあの通り感情が読めないんで詳細は分かりませんが、恐らく冨岡様の方も憎からず思ってらっしゃるので、うまく進めばそのうち夫婦になるかと」

 

「…………」

 

 私の言葉にあんぐりと口を開けた不死川様は

 

「……はぁぁぁぁぁぁッ!!!?」

 

 驚愕で絶叫を上げた。

 その絶叫は産屋敷の屋敷中に響き渡ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~おまけ~

 

 

 

 柱合会議の翌日、少なくなった軟膏などの薬を補充するために蝶屋敷を訪ねた実弥は――

 

「ねぇ?実弥君?教えて?」

 

「……ああァ」

 

 現在実弥は機能回復訓練用に蝶屋敷内に併設されている道場の固い木の床の上に正座させられていた。

 実弥の眼前にはカナエが仁王立ちしており、その顔にはニコニコと笑みを浮かべている。……浮かべているのだが――

 

「ねぇ?なんで兄である炭治郎君の目の前でわざわざ禰豆子ちゃんのことを刺したの?どうしてそんなひどいことしたの?」

 

「…………」

 

 その笑顔はいつもの柔和なものではなく、確かな圧があった。

 

「ねぇ?なんで?」

 

「……鬼だから」

 

「へー、そう。そうなの…そうなのねぇ~……」

 

「ああァ……」

 

「じゃあ相手が鬼だったら何をしてもいいの?兄の目の前で鬼の妹を必要以上に痛めつけるの?」

 

「…………」

 

「ねぇ?なんで黙ってるの?何か言ったら?」

 

「ああァ……」

 

「さっきから頷いてばかりね?鹿威しかしら?返事はいいの、実弥君がどう思ってるか訊きたいの」

 

「……ああァ」

 

「……まあ、いいわ。実弥君のことはよく知ってるし、あなたが過去のことで鬼に対して譲れないものがあることも知ってるわ。でもね、だからって女の子を急に刺すのってどうなのかしら?禰豆子ちゃんはその時箱の中にいただけよね?別に襲われたわけでもないのにあなたはただ箱の中に入っていただけの大人しい禰豆子ちゃんを刺したのよね?しかもわざわざ炭治郎君の前で」

 

「…………」

 

「ねぇどうなの?襲われてないなら正当防衛じゃないわよね?ねぇ?ねぇ?ねぇ?」

 

「…………」

 

「また黙ってる。その口は飾りなのかしら?」

 

「ああァ……」

 

「ねぇなんで下向いてるの?今話してるのは私なんだけど?私の顔はそこにはないわよ?ちゃんと話を聞くときは相手の目を見ないと失礼よ」

 

「…………」

 

 カナエの言葉に実弥はそっと顔を上げる。

 

「うん、それじゃあ話し続けるわね」

 

 そんな実弥に変わらず圧のある笑顔で頷くカナエ。

 実弥はそんなカナエの背後に怒り狂う般若の顔を幻視した。

 

 

 

――このやりとりは一時間続いたという。

 

 

 

 




と、言うわけでこれにて一連の柱合会議や炭治郎達の裁判に関するごたごたの終了です。
一応は不死川さんも楓子ちゃんとのことはこれ以上は手打ちと言うことになりました。
まあ先日の件とは別の問題が発生しましたが……それは追々楓子ちゃんが関わっていくことでしょう!
と言うわけで次回より蝶屋敷編!
お楽しみに!



そして、今回の質問コーナーです!
今回の質問は漣十七夜さんから頂きました!

――煉獄家に対してどんな手を打ったのか。
楓子が煉獄家の状況を見逃すとは思えません。
そして師匠でありながら杏寿郎の出番が少ない事から、楓子が奔走して煉獄家はすでに和解済みなんじゃないかと思ってます。

楓子「まあ煉獄家には最初の呼吸習得で一年お世話になって、実はそれ以降もちょくちょく顔出してるんですよね。もちろん和解に向けて介入しましたよ。どう介入したかはそのうち本編で触れるのでそちらをお楽しみに、とだけ。まあさわりだけ言うなら、ネグレクトするのんだくれ親父の愼寿郎さんに『鉄 拳 聖 裁(おはなし)』しました、とだけ」

と、いうことでした!
と言うわけで今回はこの辺で!
また次回もお楽しみに!



~大正コソコソ噂話~
実弥と和解したことで正式に楓子への今回の一連の任務の評価が下りました。その結果、下弦の鬼を一体討伐していることもあり今までの階級『乙』から『甲』へと繰り上がりました。
さらに真菰も下弦の鬼討伐の功績で階級が『甲』へと上がりました。


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