そんなわけで最新話!
人の身の丈を超えるような真っ二つに割れた大岩の上に座る宍色の髪の少年――錆兎は生い茂る木々の隙間から見える青空を見上げる。
思うのは弟弟子にあたる炭治郎のこと。
彼の力量なら大丈夫だと思うが、彼の連れる鬼の妹という存在は彼の所属する鬼殺隊の中では異質であり、受け入れがたい人間も多いだろう。
彼がこの狭霧山から旅立ってからかなり経った。
「そう言えば、あの頭のおかしい女は上手くやったのだろうか?」
同時に思い出すのは炭治郎が旅立って少ししてから現れた鬼殺隊の隊士である女――大好楓子。
彼女は炭治郎と禰豆子を救うために他の鬼殺隊の隊士を説得するための材料を揃え、禰豆子の安全性を証明すると言っていた。
「……はたしてアレを信じていいものか、不安だ」
ほぼ初対面の状態で楓子の奇人変人っぷりを嫌というほど味わった錆兎は彼女をどこまで期待していいものか、と頭を抱える。
そんな彼の視界が突如塞がれる。
「ッ!?」
突然のことに困惑した錆兎の耳元で
「だ~れだ?♡」
囁き声が聞こえる。
その声に錆兎の身体にゾワリと鳥肌が立つ。
「お、お前ッ!?大好楓子ッ!?」
「ピンポンピンポ~ン♪大正解!」
叫ぶ錆兎にパッと手を離して彼の目の前に回り込んで楓子が笑顔で言う。
「ボンジュール、錆兎さん!またお会いしましたねェ!♡ 巡り合わせか!?はたまた運命!?二人はドッキングする星のもとに生まれたのでしょうか!?ドッキンッ!!私はそう思いた~い!!ア~ハハハハハ~ッ!!」
「ッ!」
その楓子の笑顔に咄嗟に逃げようと岩から飛び降りる錆兎だったが、楓子はすぐに錆兎を捕まえるとまるで社交ダンスのように右手を錆兎の背中に回して支える様に抱きかかえて顔を寄せる。
「キスしてMyダーリン!!そして、あなたのホッカホッカのクロワッサンに私のパテを塗らせて!!あなたのフランスパンをピチャピチャしよう、私のポテトスープで!!」
そのまま顔を寄せていく楓子だったが
「するかぁ!!」
楓子を振りほどいて錆兎が再度逃走する。
「なんてシャイな人……気に入ったゼ~!!♡」
そんな錆兎にペロリと舌なめずりをした楓子は驚きの脚力ですぐさま追いつき逆に回り込む。
「私達の恋は深紅に燃える真っ赤な一輪の薔薇!だから態度も刺々しいのねェ?アイラブユー!!愛してる!!アレしてる!?なーんちゃって!!アハッアハハハッ!!」
言いながら楓子は某三代目怪盗の如く錆兎に飛びかかり
「はぁッ!!」
「キャインッ!!?」
錆兎の全力の右ストレートが楓子の頭頂部に叩き込まれた。
○
「……すみません」
「まったく……」
地面に正座して謝る楓子にその前に立った錆兎が大きくため息をつく。
「何だったんださっきのは?この間以上に気持ち悪かったぞ」
「あ、アハハハ……すみません、愛しの錆兎さんの匂いを嗅いだらつい興奮しちゃって辛抱たまらなくなって……テヘッ♡」
「舌を出しても何も可愛くないぞ、まったく……」
ペロリと舌を出しながら自身の頭にコツリと右手の拳を当てる楓子に錆兎が言う。
「マタタビ与えられた猫かなんかかお前は?」
「そ、それはつまり、『今日からお前は俺のペットだ』って言うことですか!?私錆兎さんに飼われちゃうんですか!?優しく躾てください!!」
「お前、前にも増して本当に頭大丈夫か?どこをどうとったら今の言葉がそう聞こえるんだ?」
「え?私の身を心配してくれるんですか?優しいッ!!」
「今の皮肉を好意的に取るとは本格的に重症だな」
目を輝かせる楓子に錆兎は再び大きくため息をつき
「と言うか、俺は二度と来るなと言ったはずだが?」
ギロリと睨む。
「……ええ、そうですね。確かに言われました」
そんな錆兎の視線に頷きながら楓子は答える。
「私も愛する人に嫌われたくないのでちゃんと言うとおり二度と来ないつもりでした」
「だったら――」
「二度と来る気はなかったので一度だけ来ました!!」
「屁理屈じゃないかッ!!」
キリッとした顔で言う楓子に錆兎がツッコむ。
そんな錆兎に楓子は両頬に手を当ててクネクネと体をくねらせる。
「とか何とか言って~!錆兎さんだって私に会いたかったんでしょ~?♡」
「寝言は寝て言え」
「もう!照れなくたっていいじゃないですか~♡」
「照れてない。というか何をもってして俺がお前に会いたがっていたと思ってるんだ?」
「だって、こうして私の目の前に現れてるじゃないですか?会いたくないなら霊体化とかして隠れればいいのに」
「……あ!」
楓子の指摘に錆兎は改めて自身の身を確認する。
「なんだかんだ言って私のこと好きなんでしょ~?素直になれよ~♡」
困惑する錆兎に楓子はウリウリと肘でつつく。
「お、お前、俺に触れるのか!?」
「??? ええ。さっき目を塞いだり抱き着いたりしたじゃないですか。前に会った時だって錆兎さん私の浴衣脱がせようとしたり、倒れた私を優しく抱きしめてくれた時とか、私の接吻を頬に受け入れてくれた時とかも……/////」
「捏造するな!脱がせようとなんてしてないし抱きしめてもない!接吻を受け入れたんじゃなくて避け切れなかっただけだ!」
頬を赤く染めて言う楓子に錆兎が叫びながら言い
「あの時俺は一時的に実体化していたから俺からもお前からも干渉できた。でも、少なくともお前が来る前までは俺は霊体だった。普通の人間には見ることも触れることもできないはずだ」
「……どういうことですか?」
「知らん!こっちが訊きたい!お前霊感とかあったのか!?」
「いや…この16年間そう言うことは一切ありませんでしたけど……ハッ!もしや!」
「ッ!何か思い当たる節があったのか!?」
何かに気付いた様子の楓子に錆兎が訊く。
そんな錆兎に楓子は神妙に頷き
「本来干渉できないはずの錆兎さんに私が触れて認識できた理由、それは……」
「そ、それは!?」
「〝愛〟です!!」
「………はぁ?」
「〝愛〟なんです!!」
「いや、聞こえてなかったわけじゃない」
再び叫んだ楓子の言葉に錆兎は首を振って返し
「なんでそこで〝愛〟が出てきたんだ?」
「私の錆兎さんを想う〝愛〟と、錆兎さんが私を想う〝愛〟!この二つが懸け合わさって奇跡を起こしたんですよ!!」
「勝手に俺がお前を想ってるなんて虚偽を想定して話を進めるな。だいたいそんな摩訶不思議なことが起こるわけ――」
「なんと!?錆兎さんは〝愛〟の力を知らないんなんて、嘆かわしい!〝愛〟とはすばらしいものです!愛さえあれば何でもできる!!愛さなければどうなることか!!愛せばわかるさありがとぉぉぉぉぉッ!!!」
「鬱陶しいな!!!」
楓子の叫びに錆兎はため息をつく。
「真面目に聞いた俺が馬鹿だった」
「えぇ~?結構真面目に言ったのになぁ~……」
楓子は口を尖らせて言いながら頭を掻き
「あと考えられるとすればそうですねぇ……この間会った時に私錆兎さんの頬に接吻したじゃないですか」
「ああ、不本意ながらな」
楓子の言葉に錆兎が嫌そうに顔を顰めて頷く。
「その時に私と錆兎さんの間に霊的な繋がりができたんじゃないですかね?」
「…………」
楓子の説を聞いた錆兎は少し考えこみ
「……まあ、さっきの〝愛〟がどうとかって話よりは信憑性はあるな」
「でしょう!というわけで実験しませんか!?」
「実験だと?」
「そうです!」
首を傾げる錆兎に楓子が目を輝かせて言う。
「考えてもみてください。頬への接吻で本来なら干渉できない霊体に干渉できるようになったんですよ?ならもっと深い繋がりができればどうです?」
「深い繋がり?」
「そう!例えば頬ではなく唇同士での接吻!さらにはもっと深く、性行為とか!!試してみましょう!!」
「断る」
「フフ、そうでしょうそうでしょう!錆兎さんも気になりますよね!では早速接吻から……――って、ええッ!?なんでッ!?」
勝手に頷いた楓子だったがすぐに驚愕の表情で錆兎を見る。
「なんでですか!?錆兎さんだって気になりません!?私は気になります!!」
「いや、別に」
「実験と称してこの巨乳美少女楓子ちゃんと接吻やらナニやら、あんな事やこんな事が出来るんですよ!」
「興味ない」
「ハッ!もしや錆兎さん幼女愛好家ッ!?くッ!まさかナイスバディに成長した自慢の肉体を恨めしく思う日が来るなんてッ!!」
「違う。勝手に人の性癖を決めるな」
「待ってください!私に挽回の機会を!声だけなら幼女っぽくできると思うんで!!」
「だから違うしやらんでいい」
「あ~ンンッ!『あたち、おおよしふーこ!さびとおにぃちゃんのこと、だいちゅき!』どうですか!?」
「やらんでいいと言ってるだろうが!と言うか無駄に上手いな!?」
楓子のロリ声に驚きながら錆兎はため息をつき
「とにかく実験はしない。だからお前も実験でそういうことをしようとするな。もっと自分を大事にしろ」
「やだ硬派、しゅき!!」
「うるさい黙れ」
「辛辣!でもそう言うの、嫌いじゃないわ!!」
「お前本当めげないな……」
楽しそうに笑う楓子に反して錆兎は疲れた様子で大きくため息をつく
「ちょっとちょっと錆兎さんや」
「……なんだ?」
「さっきからよくため息ついてるけど、ため息つくと幸せ逃げますよ?」
「お前のせいなんだが!?」
「それはつまり、『逃げた幸せの分俺を幸せにしろ』と言うわけですね!!」
「一切言ってない」
「任せてください錆兎さん!錆兎さんを世界で二番目に幸せにしてみせます!」
「別にしなくていいけど、なんで二番目なんだ?」
「一番は私ですから!!」
「その『言ってやったぜ』みたいな顔がムカつく」
「甘ぁぁぁぁいッ!!!」
「うるさいな!!!」
ドヤ顔で叫ぶ楓子に錆兎はツッコみを入れてから面倒臭そうに額に手を当て頭が痛そうに顔を顰める。
「お前、結局何しに来たんだ?こうやって無駄話をしに来たのが目的ならもう十分楽しんだだろ?」
そんな錆兎の言葉に楓子は朗らかに笑う。
「別に遊びできたわけじゃないんですよ。鱗滝さんと錆兎さんに報告したいことがあったのでこうして足を運んだんです。報告がすめばさっさと消えますよ」
「報告だと?」
楓子の言葉に錆兎は怪訝そうに楓子を見る。
「はい、炭治郎くんとその妹の禰豆子ちゃんについてです」
「ッ!?何か動きがあったのか!?」
「ええ、順を追って説明しましょう。まずは、私と炭治郎くん達が合流したところから――」
~20分経過~
「――と、言うわけで負傷した炭治郎くんと善逸くん、そして、新たに仲間に加わった伊之助くんの治療の為に藤の花の家紋の家に一時身を置くことになり」
「ちょっといいか?」
「ん?何か?どこかわからないところでもありましたか?」
自身の話に待ったをかけた錆兎に楓子は首を傾げながら訊く。
「いや、話の内容自体に疑問はない。炭治郎の奮闘具合や成長具合もよくわかる。だが、内容以外で一つどうしてもわからないんだが……」
「はいはい?」
「今のところ炭治郎達の身に何か起きる様子が見られないんだが?」
「…………」
錆兎の問いに神妙に頷いた楓子は
「まあそう急かずに。ここからですから」
「そうか……すまない、話を遮った。続きを頼む」
「はい」
頷いた楓子はコホンと咳払いをして気を取り直し
「藤の花の家紋の家にお世話になることになった私達ですが、三人の完治に時間がかかると言うことでその期間を利用して私が講師となって知識面で鍛えるべく勉強の期間とすることにしました――」
~さらに20分後~
「――そうして何とか下弦の鬼の一体を倒すことに成功した私でしたが、もう一体の鬼に一瞬の隙をつかれ反撃を喰らい日輪刀を弾き落されてしまう!絶体絶命!あわや一貫の終わりかと思われた瞬間!駆け付けた親友のまこちゃんこと鱗滝真菰の活躍によりもう一人の下弦の鬼を撃退!こうして私は圧倒的不利な状況から生還したのです!」
「ちょっといいか?」
「はいはい?」
話が一区切りついたところで錆兎が再び待ったをかける。
「今のお前が下弦の鬼二体と大立ち回りをした話は炭治郎達と関係あったのか?」
「まったくありませんね」
「だよなッ!?」
楓子の言葉に錆兎は声を上げる。
「すいません、つい錆兎さんに私の大活躍を知ってほしくて……」
「いや、まあ俺もついお前の語り口に聞き入ってしまった。昔…生前に聞いた講談師の語りを思い出させる腕前だった……と言うかお前実はすごく強かったんだな」
「お?見直しました?」
「ああ。ただの変態だと思っていたが、有能な変態に認識を改めよう」
「有能だなんてそんな、照れるじゃないですか~/////」
「お前ホントそう言う前向きなところは素直に尊敬するよ」
頬を赤く染めて頭を掻く楓子に錆兎は呆れた顔で言う。
「お前の語りが上手くて引き込まれたが、炭治郎の件に関係のある部分だけ話してくれないか?俺が一番聞きたいのはそこだけだ」
「そうですか?まあそう言うことならわかりました」
錆兎の言葉に頷いた楓子は再び咳払いをして話を再開する。
「そうして合流したまこちゃんの話によると、どうやらその那田蜘蛛山の惨状を危険視したお館様によって冨岡様ともう一人柱である胡蝶しのぶさんと言う女性、そして、それにまこちゃんとしのぶさんの継子が送り込まれていたんです。もしもしのぶさんとその継子が炭治郎くん達を発見したら問答無用で禰豆子ちゃんが殺されてしまうと危惧した私達は急ぎ炭治郎くん達と合流すべく探し始めました」
「ああ」
「炭治郎くんを探して山の中を探し回った私とまこちゃんは途中冨岡様がしのぶさんを押し倒している場面に遭遇しましたが邪魔してはいけないと思い見なかったことにして、炭治郎くん捜索を続け――」
「待て待て待て!!」
「なんですか?」
「なんですか、じゃない!!今あきらかに聞き逃せないことが起きてたぞ!!」
キョトンと首を傾げる楓子に錆兎は混乱した様子で叫び
「義勇の奴が!?戦いの場で!?女を押し倒していた!?あの無口で真面目一辺倒の義勇に何があった!?」
「まあ錆兎さんが死に別れてから何年も経ってますから、冨岡様にもいろいろあったんですよ」
「何があったらそうなるんだ!?」
「錆兎さん、それ炭治郎くん達の件に関係ないんでいったん置いておいて私の話聞いてくれますか?」
「えぇぇぇッ!?置いておけないぞこんな話!」
「錆兎さんが炭治郎くん達に関係ある部分だけ話せって言ったんじゃないですか」
「いや…そうなんだが……」
「安心してください。その話もちゃんと炭治郎くん達の話の後にしますから」
「まあ…そう言うことなら……」
楓子の言葉に渋々頷いた錆兎に楓子も頷き
「それでは話を戻します」
「ああ」
「そんなこんなで炭治郎くん達を探し回っていた私達のもとにお館様による伝令がやってきました。内容は『炭治郎とその妹の鬼の禰豆子を拘束し本部に連れ帰ること』でした――」
~さらに20分経過~
「――と、まあそんなわけで、禰豆子ちゃんの存在は鬼殺隊の中で認められる運びとなったのです」
「……なるほど」
話し終えた楓子に錆兎は神妙に頷き
「話は分かった。いくつか訊きたいことがあるがまず一つ」
「はい、何でしょうか?」
「……最初の合流してからのくだりとか藤の花の家紋の家での話、必要だったか?」
「…………」
錆兎の言葉に少し黙った楓子は
「モ、モチロンデスヨ」
「声上ずってるぞ?あと目を見て言え」
目を泳がせる楓子に錆兎が詰め寄って睨む。
「あ、そんな……こんなに近くでそんなに情熱的に見つめられたら、アタシ余計に目を合わせらんない!♡」
「うるさい。いいからこっちを見ろ」
「やだ、強引!♡ 嫌いじゃないわぁッ!!♡」
「ふざけてごまかすな」
顔を両側から手で押さえられて無理矢理視線を合わされた楓子は頬を赤く染めて叫ぶが、錆兎は冷静に言い
「というか全体的に話が長い。あんなに長々と話さなくてももっと端的に結論だけ言えたんじゃないか?」
「端的に結論だけ、ですか?」
「ああ、試しにやってみろ。30字以内くらいにまとめて」
「30字…えぇ~っと……」
錆兎の言葉に少し考えた楓子は
「鬼の禰豆子を連れているのが案の定問題視されたけど協議の末認可されました」
「できるんじゃないか!!」
楓子が言った瞬間ギロリと睨みながら叫ぶ。
「お前ふざけるなよ!?五秒で済む話を長々と一時間近く喋りやがって!!」
「だ、だってぇ~…話してる間錆兎さんが真剣な顔で私のこと見つめてくれるから~私も錆兎さんのこと見つめてても錆兎さんからも何も言われないし~…少しでも長く見つめ合ってたかったんだもん!」
「確信犯じゃないか!!」
錆兎の言葉に楓子が唇を尖らせて言い、そんな楓子に錆兎がさらに睨みつけて押さえていた楓子の頭を半ば放り捨てる様に開放する。
「あうッ」
ポイッと放り捨てられた楓子はビターンと地面に倒れる。
「酷い!女の子をこんな乱暴に扱うなんて!でもそこが好き!!」
「つくづくお前は気持ち悪いな」
「おぉッ!!♡ そんな汚物を見るような目でッ!!♡ 癖になりそうッ!!♡」
「うわぁ……」
頬を赤く染めて悶絶する楓子にドン引きした視線で錆兎が見る。
「あ、待って!冗談!冗談だから!!」
「嘘つけ。今本気で喜んでただろ」
「そんなこと!……まあちょっとありますけど」
「ほら見ろ!!」
「愛しの錆兎さんから与えられるものは痛みすら快楽に変えてみせると言う私の〝愛〟が故です!!」
「そんな歪んだ〝愛〟は捨ててしまえ」
楓子の言葉に錆兎は大きくため息をつき
「とりあえず、炭治郎達の件が解決したのは分かった……で?」
「で、とは?」
話を促す錆兎の視線に楓子は首を傾げる。
「しらばっくれるな!さっきの義勇の件だ!」
「あぁ~……」
楓子は納得した様子で頷き
「冨岡様がしのぶさんを押し倒した件は、実は――」
「待て」
話し始めた楓子に錆兎が待ったをかける。
「結論を簡潔に言え。簡潔に、だ。さっきみたいな余計な部分は端折れ。いいな?」
「わかりました」
錆兎がジト目で睨んで言った言葉に頷いた楓子は
「そうですね、結論を言うと」
「ああ」
「冨岡様はしのぶさんと結婚することになりました」
「………なんでだッ!?」
楓子の言葉の意味を一瞬理解しようと黙った錆兎だったが理解しきれず思わず叫ぶ。
「何がどうなってそうなった!?話が全く見えん!」
「なんですかもう、錆兎さんがそうしろって言ったのに……」
「いや、確かに結論を簡潔に言えとは言ったが、簡潔すぎてまったくわからん!もう少し詳しく!!義勇のとそのしのぶ女史の関係性とか詳しく聞かせろ!」
「冨岡様としのぶさんの関係ですか……そうですねぇ~」
錆兎の言葉に少し考えこんだ楓子は
「それを語るためには、まずは冨岡様が十二鬼月・上弦の弐の頸を落とした時のことから語らないといけませんね。あれはそう、今からだいたい四年前の――」
「待て待て待て!」
語り始めたが、またもや錆兎が止める。
「今度は何ですか?」
「確かに詳しく話せとは言った!だが、またさっきみたいに一から百まで話す気じゃないだろうな!?しかも四年前だろ!?一時間じゃすまないだろ!!」
「もぉ~…結論を簡潔に言えって言ったり詳しく話せって言ったり…なんですか?亭主関白ですか!?」
「これは俺が悪いのか!?」
「まったく、旦那様の亭主関白と我が儘を聞くのもいい奥さんの条件ですからね。できるだけ詳しく、それでいて簡潔に冨岡様達の関係をまとめましょう」
「誰が旦那で誰が奥さんだッ!?……まあこれ以上は絶対に面倒臭くなるのは目に見えてるからその件はいい。今は義勇達の話だ」
大きくため息をついた錆兎は話を促す。
「そうですねぇ……まずそもそものことの始まりはさっき言いかけた四年前の事件、冨岡様が上弦の弐に襲われた同僚の花柱・胡蝶カナエさん――しのぶさんのお姉さんを救ったことでしのぶさんが冨岡様に惚れてしまったことか始まりました」
~10分後~
「――と、まあそんなわけで冨岡様はしのぶさんと婚約し、もうすぐ祝言を上げることになった、と言うわけです」
「なるほどな……」
楓子の説明に錆兎は納得した様子で頷く。
「……とりあえず、あいつは相変わらず言葉の足りない人付き合い下手な俺の知る冨岡義勇だったわけだな」
「そうですね……そのせいで私が何度やきもきさせられたか……」
「お前、お節介って言われるだろ?」
「わお!錆兎さん私のことなんでもお見通しなんですね!やっぱ私のこと大す――」
「まあともかく、義勇が幸せに生きてるって聞けて良かったよ」
楓子が頬を赤く染めながら体をくねらせて言おうとした言葉を遮って錆兎が言う。
「あいつは思い詰める節があるからな。俺が死んだことで余計な重荷を背負ってたんじゃないかと思っていたが……」
「その予想はあながち間違ってないですね。実際冨岡様は何かにつけて『俺は柱じゃない』って言ってますし」
「お前義勇の声真似上手いな……!」
楓子の言葉に錆兎が驚きに目を見張る。
「冨岡様って言葉が足りないんでほとんどの人はその言葉の意味は分かりかねると思いますけど、錆兎さんの存在と冨岡様の人となりを多少理解できればその言葉の意図も何となく予想はできるでしょうね」
「それは?」
錆兎は続きを促す。
「冨岡様、きっと生き残るべきは錆兎さんで、本当は錆兎さんの方が柱になるべきだったって思ってるんじゃないですかね?錆兎さんって最終選別で藤襲山の鬼をほとんど倒したんですよね?そして、冨岡様はその最終選別の中で最初に襲ってきた鬼の攻撃で負った怪我が原因で戦線離脱してたんですよね?そのこともきっと引っかかってるんでしょう」
「……なるほどな」
楓子の言葉に錆兎は少し悲し気に微笑み
「あいつには一度、自分が死ねばよかったなんて二度と言うなって頬を張り飛ばしたことがあったんだがなぁ……」
「冨岡様、不器用な方ですからね。錆兎さんが亡くなった悲しみにフタをするためにそう言う大事な記憶まで頭のすみっこに追いやってしまってたんでしょうね」
「在り得るな、あいつなら。あれで人一倍繊細な奴だからな……」
そう言って、しかし、今度は嬉しそうに微笑む。
「だから、そんなあいつを伴侶として寄り添い支えてくれるやつが現れたことが、俺はたまらなく嬉しい」
「…………」
「話を聞いている限りだと、とても気が強く、あいつの口下手なところにイライラしてる様子だが、それでもあいつのことを好いてくれている。あいつの不器用なところも、ダメなところも理解したうえで共に歩んでくれると決意してくれた人がいるなら、きっとあいつは大丈夫だ」
「……そうですね」
「欲を言えば、あの唐変木に惚れるような物好き人は一目見てみたい気もするがな」
「見ます?写真ありますよ」
言いながら楓子は背負っていたリュックを降ろし中から一冊の本――アルバムを取り出し渡す。
「どうぞ」
「…………」
楓子から受け取ったそれを開くと、そこにはいくつもの写真が並んでいた。
「私が趣味で撮ってる写真の中から冨岡様が写ってるものを選りすぐってきました」
「……そうか」
楓子の言葉に頷きながら錆兎はページをめくる。
「……フフ、なんだ…義勇の奴、昔以上に表情が読めないな。これじゃあ人間関係で苦労するだろうに」
「ええ、まさに。特にこの方、不死川実弥様はいつも会う度に冨岡様の言動にイラついてるそうですよ」
「みたいだな」
楓子が錆兎の見るアルバムを横から覗き込みながら指さして言う。そこには実弥が鬼の形相で義勇を睨みつけている様が写っていた。
「あ、これが例の胡蝶しのぶさんです」
「この人が……」
そんな中で錆兎が開いたとあるページで楓子が一枚の写真を指さす。
そこには義勇としのぶが並んで立っていた。義勇の方は感情の薄い、しかし、彼のことをよく知り人物が見れば心なしか微笑んでいるのが分かる表情で、しのぶの方は少し照れがあるような、しかし、確かに微笑んでいる。
「なるほど、確かに気の強そうな人だな……しかし随分と小柄だな。これで鬼と戦えるのか?」
「ええ。錆兎さんのご心配の通りしのぶさんは小柄な故に鬼の頸を斬り落とすだけの腕力は持ち合わせていません。ですがその代わりに鬼を殺せる毒を生み出した方なんです」
「なるほど、聡明な人なんだな」
頷いて答えた楓子の言葉に納得したように頷く錆兎。
「…………」
そのまま錆兎はゆっくりと時間をかけて一枚一枚に目を通し
「……ありがとう」
ゆっくりとアルバムを閉じると楓子に返す。
「もういいんですか?」
「ああ、もう十分だ」
「……そうですか」
そう言って微笑んだ錆兎の笑みに楓子は頷きアルバムをしまう。
「では、そろそろここらで私はお暇しますね!」
そうして楓子は顔を上げるのニッコリと微笑む。
「実は今日こうして狭霧山に来たのは錆兎さんに炭治郎達や冨岡様の近況を報告するのもなんですが、主な目的は鱗滝さんを迎えに来ることだったんです」
「鱗滝さんを?」
「はい」
首を傾げる錆兎に楓子は頷く。
「数日後に冨岡様としのぶさんの祝言を上げるのですが、式自体はお館様のお屋敷で行って、その後に蝶屋敷で他の柱の方や炭治郎くんやまこちゃん、しのぶさんのお姉さんのカナエさん他蝶屋敷の人達で盛大にお祝いの、まあ披露宴のようなものを行うんです。鱗滝さんには祝言の立会人をお館様とカナエさんと一緒にしてもらい、その後の披露宴にも参加してもらおうと思いまして。ちなみに私が来たのは、私が来たいって立候補したのもありますけど、まこちゃんが冨岡様達についてるので手が離せないってのもあったんですよ」
「なるほど、そう言うわけか」
楓子の言葉に納得した様子で頷く錆兎。
「では、そんなわけで失礼します」
そう言ってお辞儀をした楓子は
「あ、そうだ」
踵を返そうとしたところでふと思い出したように足を止め錆兎に向き直る。
「冨岡様に何か伝えてほしいこととかありますか?」
「え?」
「何でもいいですよ?」
「だが、死んだ俺からの言葉なんて……」
「普通は信じてくれないかもしれませんね。でも、あの冨岡様ならあるいは…って、そう思いませんか?」
「………フフ、確かにな」
楓子の悪戯っぽい笑みに錆兎もつられて笑う。
「それじゃあ伝えてくれるか?」
「はい、なんと?」
「結婚おめでとう、お前は生き残ったことに罪悪感なんか持たずに胸を張って生き続けてくれ。もしまた自分が死ねばよかった、なんて言ったらまたその頬を張り飛ばしに行ってやる…って」
「……わかりました。必ず伝えます」
「ああ、頼んだ」
その言葉に頷いた楓子は
「では、今度こそ失礼します」
そう言って頭を下げ、踵を返し歩き出す。が――
「なぁおい!」
「はい?」
錆兎に呼び止められ足を止めて振り返る。
「あぁ…その、なんだ……」
そんな楓子に錆兎は頬を掻いて言い淀むが、すぐに楓子に視線を向け口を開く。
「お前は、また義勇の祝言やその祝いの席の写真は撮るのか?」
「ええ、そのつもりですが」
「そうか……」
楓子の返事に少し考える素振りを見せた錆兎は
「その、なんだ……良かったら、また時間を見つけてその写真を見せに来てくれないか?」
「え?」
「無理にとは言わない。お前の都合のいい時で構わないから」
「それって…私また錆兎さんに会いに来ていいってことですか?」
「あくまでも写真を見せに、だからな?」
「…………」
言いながらそっぽを向く錆兎に楓子は一瞬呆け、しかし、すぐに嬉しそうに笑うと
「ハイ!喜んで!!」
そう言って大きく頷いた。
「そうか。じゃあ頼んだ」
楓子が頷いたことに錆兎も少し微笑んで言うと
「それだけだ。呼び止めて悪かった」
「いえいえ」
クルリと踵を返し後ろ手に手を振ると最初の時のように大岩にピョンと飛び乗った。
そんな錆兎を見ながら
「では、また来ます」
そう言って楓子も再び歩き出した。
「まったく、嵐のようなやつだったな……」
岩の上に座り込んだ錆兎が大きくため息をつく。
「でもまあ、変な奴ではあるが悪い奴ではないんだろうな……」
言いながら錆兎は微笑み
「顔も悪くないし乳もデカい。そのうえ座りのいい安産型の尻だ。おまけに料理も上手いし細かい気配りもできるときている。俺のような幽霊を好いてくれるもの好きでもあるし、こんな優良物件そうそう巡り合えるものじゃない。これは次に来た時は処女を貰ってやって伴侶に迎えてやるのがいいかも知れん。そうだな、それがいい。そうしよう!」
「おい勝手にさも俺が言ったように勝手に人の気持ちを捏造するな」
嘆息しながら呆れた様子で振り返る。
そこには去ったはずの楓子が岩の陰からコソコソと喋っていた。
「お前な、ちょっと見直したところなのに今ので全部台無しだぞ!」
「えぇ~?とか何とか言ってちょっとは今みたいなこと思ったり――」
「してない。少しも考えていない」
「とかなんとか言いつも実際は――」
「ない。本当にない」
「しかし、その実心の中で――」
「まったく思ってない。もういいから早く行け。ぐずぐずダラダラ居座るなら俺も心変わりしてお前がまた来る件、無かったことにするぞ!」
「わぁ!それは勘弁してください!」
「だったらさっさと鱗滝さんを迎えに行け。ほら!シッシッ」
「そんな犬猫追い払うみたいにしなくても……」
楓子に向けて手を払うように振る錆兎の様子にぶつくさ文句を言いながら楓子は今度こそ、本当に去って行ったのだった。
「まったく……」
そんな楓子の背中を見送った錆兎は
「本当に、変な奴だな……」
そう言って小さく微笑むのだった。
と言うわけで楓子ちゃん、錆兎に再開でした!
やったねふうちゃん!
また来ていいってさ!
そして、そろそろ義勇さん達の祝言も本格的に行われます。
さてさて、その様子はいったいどうなるのやら?
お楽しみに!
そして、今回の質問コーナーです!
今回は漣十七夜さんから頂きました!少し長めの質問でしたので要約します!
――「推しとその他登場人物たちを幸せにするために。」とあらすじに書かれていますが、その対象はどこまでですか?玉壺や半天狗に襲われた鍛冶師たちや、最終決戦で死んでいった鬼殺隊の剣士たちは対象なのでしょうか?行冥は痣が発現すると翌日には死亡しますがその対策は?
楓子「以前の私なら恐らく犠牲やむ無しって割り切るかもしれませんが、とりあえずできる限りはあがきます。一人でも多く、それこそ刀鍛冶の里の人達も一般の隊士も、私の手が届く範囲で掴める手は全力で手を伸ばすし、私だけで手が届かないなら仲間の力を借ります。悲鳴嶼様については……いや、マジでどうしよ?悲鳴嶼様だけじゃなくて今後痣が出た人……まったく今のところノープランなんですけど……とりあえず痣が出なくても済む様にできるだけ危機的状況を作らない様にしたり戦力を整えておく、とか……?」
とのことでした!
ちなみにこの回答は今の本編中の楓子ちゃんの回答です。
痣への対策などについては今後作中で出していく予定ですが今の楓子ちゃんはまだそこに至っていないのでまだ試行錯誤の途中です。
そんなわけで今回はこの辺で!
また次回もお楽しみに!
~大正コソコソ噂話~
あらかじめ楓子が迎えに来ることを鎹鴉を使った連絡で知っていた鱗滝さんは楓子が錆兎と話しているよりも前、前日からずっとソワソワしっぱなしでした。