以前質問でいただきましたキメツ学園での楓子ちゃんのお話です。
先にご注意を。
この小説内には現実の学校運営においてそれどうなのって設定がありますが、そこはそれ、美術教師が教室を爆破するようなギャグ時空が舞台なので、そのあたりは目を瞑っていただければと思います。
よろしくお願いします!!
そんなわけでトータル話数50話記念の番外編!
お楽しみください!!
「うぅ……炭治郎ぉ~……すまねぇなぁ~」
「何言ってんだ善逸、友達なんだから当然だろ?」
俺が肩を貸して廊下を歩く善逸は涙の浮かぶ顔で俺に言うので、俺は微笑み返しながら言う。
「でも…お前今日予定あったんだろ?」
「大丈夫だよ、相手には遅れるって連絡してあるし、あんまり遅くなるようなら先に食べててもらうよ」
「うぅ~…ホントにすまねぇなぁ~……」
再び涙ながらに謝る善逸に俺は首を振る。
こうなったのは遡ること数分前四時限目の授業が終わった直後、席を立ち食堂に向かおうと教室の扉に向かった善逸が後ろから突っ走ってきた伊之助に弾き飛ばされ教室の中をキリモミ飛行して教卓に激突したのだ。
頭からぶつかったことで額にコブを作りワンワン泣く善逸を見ながら急いで廊下を見れば当の元凶たる伊之助は不死川先生に追いかけられながら高笑いをする後姿が角を曲がって見えなくなるのが辛うじて見えただけだった。
その後意識ははっきりしているものの頭をぶつけているのもあって心配になった俺は善逸に肩を貸して保健室に向かっていたのだ。
「あ、ほら善逸!もうすぐ保健室だぞ!」
と、数メートル先に保健室の文字の書かれたプレートを掲げる扉が見え、俺はそれを指差す。
「ほらもうちょっとだぞ!頑張れ!」
「ああ…ありがとぉぉ……」
善逸がか細く言うのを頷きながら俺は善逸を引き摺って保健室の前まで歩き扉に手をかける。
「すみません!珠世先生!急患です!」
ガラッと扉を開けて声をかけた俺の目に飛び込んできたのは
「んにぃ?」
本来なら保健医である珠世先生が座る椅子に座りサンドウィッチを咥えたままニッパー片手にプラモデルに興じる黒髪三つ編みの白衣の女性がこちらに視線を向けている姿だった。
「あ、あのぉ~……」
俺はそんな見慣れない女性に声を掛けようとして
「お、大好先輩ぃぃぃぃぃッ!!?」
すぐ隣で上がった絶叫に耳がキーンとなる。
隣の友人の絶叫に顔を顰めている俺の前でその女性は落ち着いた様子でモグモグと咥えていたサンドウィッチを頬張り飲み下してにっこりと微笑む。
「あぁ、ごめんね。今日は珠世先生は出張に出ててね。私が代役で留守番してるんだ。大丈夫、簡単な診察と応急処置なら出来るから」
「あ、そうですか!よかった!じゃあすぐに――」
と、女性の言葉に頷き善逸を託そうとした――のだが
「いえ!大丈夫です!ピンピンしてますから!」
と、さっきまで痛い痛いとグズッていた善逸がシャキンと背筋を伸ばして敬礼して言う。
「い、いやいやいや!何言ってんだ善逸!?お前さっきまで――」
「さぁ帰ろう炭治郎!早く食堂に行かないと食べるものが無くなっちまうぞ!」
そう言って俺の言葉を遮ってクルリと回れ右する善逸。が――
「ヘイ、ちょい待ち」
善逸が一歩踏み出すよりも先にいつの間にか側まで歩み寄っていた白衣の女性がガシッと善逸の肩を掴む。
「おいおい、善逸くんや。怪我をしてるじゃないか。しかも頭だ。ちゃんと診断しないと頭のケガは馬鹿にならんよ」
「い、いや!ホントに大丈夫ですから!この通りピンピンして――」
「竈門君、足持ってくれる?私腕持つから」
「え!?あ、はい!」
「いやぁぁぁぁぁ!!」
女性の言葉に思わず頷き言われた通り善逸の足を抱えると女性は善逸の両脇に背中から腕を通して抱え上げる。
そのまま女性の案内のまますべて空いているうちの一つのベッドに善逸を座らせる。
そのまま座った善逸の前に屈みこんで
「ハイ、ちょいとごめんよぉ~」
「んぎッ?」
善逸の頭を両側から手で掴み親指で両目の下瞼を無理矢理こじ開けた女性はジロジロと善逸の瞳を覗き込み
「ふんふん……ちょいと眩しいよ」
「うッ……」
言いながら右手を離した女性は白衣のポケットからペンライトを取り出して善逸の左目、そして、右目を左手で瞼をこじ開けてそれぞれの瞳の前でペンライトを振って見せる。
「光に対する過敏性はナシ……」
言いながら手を離し
「これちょっと目で追ってくれる?」
と、明かりを消したペンライトを右手で立てて持って善逸の顔の前で動かす。
善逸は言われた通りペンライトの動きを目で追う。数秒それを続けた女性はぴたりと手を止め
「これ何本?」
今度は左手を突き出して見せる。
「えっと、三本です」
「複視もナシ」
頷きながらペンライトをポケットに仕舞う。
「ちょいとその場に立ってみて」
「はい」
「右足あげて」
「は、はい」
善逸は言われるがままに立ち上がって片足立ちをする。
「ふむ、平衡感覚の障害ナシ」
頷きながら座るように手で示した女性は
「吐き気とかある?」
「な、無いです」
「めまいや頭痛、耳鳴りとかは?」
「ど、どれもないですけど、強いて言うならコブになってる額が痛いです」
「どうして怪我した?」
「教室から出ようとして扉の前に立ったら後ろから来た別の奴にぶつかられて吹き飛ばされて教卓にぶつかりました」
「ふむふむ、記憶障害もナシ……」
善逸の言葉に女性は少し考え
「ん、脳震盪を起こしてる可能性は低いかな。とりあえずコブ冷やして……ほかに痛いところとか違和感あるとこない?」
「え、えっと…ぶつかられた左腕が……」
「正常に動いてるみたいだし折れてはないかな。軽い打ち身かな?オケオケ、ちょいと待ってねぇ~」
言いながら女性は薬の並ぶ棚とその隣の冷蔵庫の方に向かう。
そのテキパキとした手際の良さに感心していた俺は
「おい……おい、炭治郎」
「ん?どうした、善逸?」
「シッ!声がデカい!」
コソコソと話しかけてきた善逸に首を傾げて応じれば慌てた様子で言う。
「大好先輩が後ろ向いてる今がチャンスだ!今すぐ逃げよう!」
「……何言ってるんだお前?あの人はちゃんと善逸のこと看てくれて……って先輩?」
「そうだよ!大好楓子先輩!知ってるだろ!?」
「あの人学生なのか!?にしては手際が本職の人みたいにテキパキしてたけど……」
善逸の言葉に改めて女性を見れば、女性の白衣の下に見える服装は確かにこのキメツ学園高等部の制服だった。
「……お、お前まさか、大好楓子先輩のこと知らないのか!?」
「有名な人なのか?」
「超有名人だよ!いろんな意味で!」
首を傾げる俺に善逸はため息をつきながら言う。
「大好楓子先輩!高等部二年菫組、同年代の入試首席で学園始まって以来の才女。これまでの定期試験では常に学年トップ。運動神経もよくて文武両道を地でいく人。両親が医者なせいか医学知識が豊富で二年生でありながら保健委員長を務めあげ、教師からの評価も高い」
「へぇ~凄い人なんだな」
「でもその溢れんばかりの才能とあの整った容姿で本来なら学園三大美女に数えられてもいいところをそれを打ち消して余りある奇人変人っぷりの数々の逸話と噂のせいで一部生徒からは畏れられている存在」
「奇人変人っぷりの逸話?噂?」
「曰く、究極の恋愛脳で彼女の関わったカップル成立の割合は10割。ホントかウソか、あの女性アレルギーの伊黒先生に彼女ができた裏にもあの人が暗躍してたとか。
曰く、強大な情報網を持っていてその情報網で集めたネタの精度と量は多く、一部の教師陣ですら彼女に弱みを握られていて頭が上がらない。
曰く、その情報網はあのしのぶ先輩すらも屈服させ、しのぶ先輩が部長を務める薬研部にも所属しているが実質的な実権は大好先輩が握っている。
曰く、学園長から気に入られていて直接ヤバい仕事を受けていて、実は学園の様子を学園長に教えていていざというときに学園長の命令で動く私兵。
曰く、警察すら証拠を上げられず野放しになっていた詐欺師を罠に嵌めて豚箱送りにした謎のJK探偵こそ大好楓子先輩その人である。
曰く、薬研部で開発してるオリジナルの薬を時々珠世先生のいない保健室にやって来た生徒で人体実験してる。
曰く、陰で闇取引されている生徒教師限らずすべての生写真を撮影販売している元締めは大好先輩である。
――挙げだしたらキリがないほど数々の噂が飛び交う人で、ついた渾名が『キメツ学園の
「そんな人には見えないけどな……優しそうないい人じゃないか。そんな先生達を脅せるような情報網だって――」
「甘い!」
俺が呆れて苦笑いを浮かべると善逸は真剣な表情で首を振る。
「少なくとも俺もその噂は眉唾だと思ってたけど、今日お前が大好先輩と初対面だって聞いて考えを改めた!」
「ん~?どういうことだ?」
震える善逸の言葉に俺は首を傾げる。
「だって、お前大好先輩と初対面だろ?だったらなんで、大好先輩はお前の名前知ってたんだよ?」
「え?……あ、そう言えば!」
善逸の指摘に考え込んだ俺は、先程保健室の前で善逸を運ぶ時のやり取りを思い出してその言葉の意味を思い出す。
あの先輩――大好先輩は確かにあの時俺のことを『竈門くん』と呼んでいた。俺は彼女のことを知らないのにも関わらず、だ。
その事実に俺は背筋に悪寒が走る。
「と、とにかくあの人にこのまま治療を受けたら俺どうなるか――」
「失敬な。真面目に医学会に貢献するうちの両親の顔に泥を塗る様な粗末な治療をするわけないだろう?」
「「ッ!!?」」
ガタガタと震えながら言う善逸の言葉を遮って聞こえた声に俺と善逸は揃ってビクリと体を震わせた。
慌てて顔を上げればそこには氷嚢とシップ片手に苦笑いを浮かべる大好先輩が立っていた。
「ほい、これコブのところに当てて。痛いのは左腕だったね。ちょいと見せてね~」
言いながら大好先輩は善逸の額に氷嚢を乗せて善逸に押さえさせ、彼の左腕を持って制服の袖をまくる。
「あぁ~、赤くなってるねぇ~。こりゃこの後青くなっていくわ。これ貼って安静にしてればすぐ治ると思うから」
言いながら善逸の腕の赤くなっているところにペタペタとシップを貼る。
「ほい。あとは一応今のとこは脳震盪の症状はないけど万が一があるから五限目は休んでこのままベッドで経過看ようか。頭痛とか吐き気とか何かおかしいところがあったらすぐに言う様に」
「ええッ!?そんなに大げさにしなくても大丈夫ですから!!授業もちゃんと受け――」
「あぁん?」
「――ようと思いましたけどやっぱりちゃんとここであんせいにしますすみませんでしたぁぁぁぁぁッ!!!」
ギロッと大好先輩に睨まれた善逸は飛び込む様に布団に入って頭まで掛け布団を被ってガタガタと震える。
「よしよい。医者の言うことを聞かない愚患者にはこっちも実力行使も辞さないらね。覚えておきたまえ」
「ッ!ッ!ッ!」
大好先輩が言う言葉に布団を被っていてもわかるほど大きな動きで首を振る。
「素直な患者には私も真摯な気持ちで向き合おうじゃないか。――それと竈門くん」
「は、はい!」
大きく頷いた大好先輩がさて、と俺の方に視線を向け呼びかけられた俺は思わずビクッと身体を震わせて背筋を正す。
「そうかしこまらないで。私についていろいろ噂が飛び交ってるけどそのほとんどはいろいろ尾ひれがついたか眉唾だから。だいたいゴッドファーザーってなんだよ!?そこはせめてゴッドマザーだろ!!」
「で、でも……」
そう言って苦笑いを浮かべる大好先輩に、しかし、俺は先程の初対面のはずなのに俺の名前を知っていたことが尾を引いていてその言葉に頷くことができない。
「あぁ、君の名前を知ってた件ならちゃんと理由があるんだよ」
「理由?」
大好先輩の言葉に首を傾げると、彼女は微笑んで先程座っていた向かっていた机、その上に置かれたランチボックスを手に戻ってくる。
「このサンドウィッチ、食べてみ」
「え?」
「いいから」
「は、はい……」
大好先輩に促され俺は並ぶサンドウィッチの中から卵サンドを手に取り一口齧る。
「あ、美味しい」
「おや、ありがとう。その卵サンドは自信作でね~――って、それもだけど他に何か気付かないかい?」
「他……?」
大好先輩の言葉に首を傾げながらもう一度そのサンドウィッチを齧り、さっきよりもより味わい――
「あれ?このパンの味……もしかして、うちの?」
「ピンポンピンポ~ン♪正解!」
俺の言葉に大好先輩はニッコリ微笑んで言う。
「私実は君んちのパン屋の常連なんだよ。これまでタイミングが悪くて君と話したことは無かったけど君のお母さんや妹の禰豆子ちゃんとは顔見知りだし、君が仕込みをしてる様子とか見たことあるよ。何なら今日帰ったら聞いてごらん」
「そ、そうだったんですか……」
これで俺の名前を知っていた理由は納得がいった。
「他にも例えば、確かに学園長からは目を掛けられてるけど、それはうちの両親が学園長の主治医で家族ぐるみで付き合いがあるから。学園長からの仕事って言うのも学園長やその奥さんが留守の時なんかにお子さんの遊び相手とか簡単な家庭教師を頼まれることがあるってだけ」
「そ、それはそれですごいですね」
「他にも、そう言う理由もあって学園長のことを尊敬してる先生の中には私への対応にちょっと及び腰な人がいて、それを事情を知らない人から見たら私に頭が上がらない、みたいにとられちゃってるんだ。私はそうならない様に他の生徒と同じように扱ってくれって言ってるんだけどねぇ~」
やれやれ、とため息交じりで肩を竦める大好先輩。
「他にも、確かに私は恋バナ好きで他人の恋愛事情に首突っ込むこともしばしばあったし、伊黒先生の件も、実は私が実の姉みたいに慕ってる近所のお姉さんが伊黒先生の片恋相手で二人のデートを何度かセッティングしたってのが真実なんだ。
警察が手を焼いていた詐欺師を捕まえたって言うのもたまたま知り合いが被害に遭いそうになっててそれを警察にタレコんで捜査協力でいろいろ証言しただけだったり。
薬研部で作ったオリジナルの薬を人体実験で処方したことなんかなくて、単に遊びで作ったラムネ菓子を保健室に来た人にあげたらそれを見た人に勘違いされちゃっただけ。
生写真の販売だって、私が趣味で撮ってる写真を友達が欲しいって言うから焼き増ししたら、タダで貰うんじゃ申し訳ないからって言うその友達から焼き増しするのにかかった費用を受け取っただけ。それもほぼタダ同然でせいぜい缶コーヒー一本買えるかな、くらいだったし。
――と、まあ正体見たり枯れ尾花。噂なんて元をただせばそう言う何でもないことにあれこれ尾ひれがついた結果なんだよね」
「そ、そうだったんですね……」
大好先輩の説明を聞けばどれも確かにこう言ってはアレだが、しょうもない話だった。
「まあ学年首席の実力もあって一度や二度授業受けてなくてもお前なら平気だろって先生たちのテキトーな認識のせいでこうして今日みたいに学期の中で二、三度どうしても珠世先生の出張とかで予定つかなくて一日保健室任せられることがあるんだよね。まあ一生徒にそんなこと任せんなよって気はするけど、本当に簡単に応急処置しかしないし、緊急性のある病気やケガの時はうちの両親の勤める病院が近くだから学校側からそっちに回してもらうし、こうして保健室に入った分はボランティアってことで内申点つけてくれるし、先生たちも多少無茶任せてる自覚はあるせいか、今日みたいに朝から終業まで保健室にこもりっぱなしで生徒が来てない間私が保健室で何してても基本お咎め無しだから私ものんびりさせてもらってるよ」
そう言ってケラケラ笑う大好先輩の言葉に改めて大好先輩の向かっていた机をよくよく見れば確かに作りかけのプラモデルの他に食べかけのポテチの袋や飲みかけのコーラのペットボトルが並んでいた。
「ま、そんなわけだから、私噂ほど怖い先輩じゃないし、仲良くしてくれると嬉しいな。個人的には君の作るパンのファンでもあるし」
「も、もちろんです!こっちことそよく知りもしないで勝手にうがった見方しちゃってすみません!これからもうちのパンをご贔屓に!」
「うん、ありがとう」
頭を下げる俺に嬉しそうに微笑んだ大好先輩は「ところで」とパンと手を叩きながら言ってチラリと時計を見る。
「時間、大丈夫かい?食堂でカナヲちゃんが待ってると思うけど」
「え?あッ!ホントだ!」
言われて時計を見ればもうすでに昼休みも残り20分ほど急がなければ慌ただしい昼食になるし、何より待ち合わせているカナヲ先輩を待ちぼうけさせてしまっている。
「ほら、善逸くんのことは任せて早く行くといいよ。彼のお昼ご飯は私が私的に持ち込んでる菓子パンとかあげとくから心配しなくていい」
「わ、わかりました!すみません、よろしくお願いします!」
言いながら俺はお辞儀し笑顔で手を振る大好先輩に見送られて保健室を後にした。
カナヲ先輩と待ち合わせしている食堂に向かいながら俺はふと違和感を覚える。
――俺、カナヲ先輩と待ち合わせてるって言ったっけ?
さっきの善逸の話では大好先輩はカナヲ先輩と同じ菫組だ。クラスメイトだし面識があり、その話をカナヲ先輩の方から聞いていたのかもしれない。
でも、俺が今日のお昼をカナヲ先輩に誘われたのは今朝、それも俺が遅刻ギリギリだったせいで始業前ギリギリだった。今日一日教室に行かずに保健室にこもっていた大好先輩は何故そのことを知っていたのだろう?
そう疑問に思いつつも、俺はカナヲ先輩をこれ以上待たせるわけにはいかないと、浮かんだ疑問を頭の片隅追いやって食堂目指して急ぐのだった。
「様子見てたけど特に大丈夫そうだし六限目は受けても大丈夫。でも無理はしないこと。どこかおかしかったらすぐに先生に言って保健室戻ってきたらいいからね」
「は、はい。ありがとうございました」
「ん。それじゃ、お大事に」
お辞儀をする善逸に手を振って見送った楓子は保健室に戻り席に座り直す。
そして、朝から時間をかけて取り組みもう完成目前のプラモデルに再び向き直る。
「さぁて、あとはこの右足を組み立てればぁ~」
言いながら楓子は説明書のページを捲り
ガララッ
その時、自身の背後から扉の開く音が聞こえた。
視線を向けるとそこには
「はぁ……お前またそんなもの作って……」
「あぁ、伊黒先生。お疲れ様です。どうしました?あ、コーヒー飲みます?ちょうどそろそろ淹れようかと思ってたんですよ」
呆れ顔で扉の前に立つマスクを着けた白衣の黒髪の男性教諭、伊黒小芭内の姿に楓子はにこやかに言いながら席を立つ。
備え付けのミニキッチンの下の収納スペースを開けドリッパーとコーヒー豆を取り出し、備え付けのティ○ァールに水を入れスイッチを入れる。
「そのコーヒー豆やドリッパーもお前の私物か?」
「いえいえ、これは珠世先生のですよ。まあ豆は私の好みで買っていいってことなんで私が選んでますけど」
「ならほぼお前のじゃないか」
「お金出してるのは珠世先生ですから珠世先生のです」
楓子の言葉に小芭内はやれやれとため息をつく。
「保健室で模型作りに興じ、お菓子とジュースを持ち込み、好きな時に好きにコーヒーを淹れるとは……少し勝手がすぎないか?」
「学園に飼ってる蛇を四六時中首に巻いて連れて来る伊黒先生にだけは言われたくないですね」
小芭内のネチッこい言葉にも楓子はどこ吹く風で鼻で笑う。
「だいたい、一生徒に保健室を一日中任せる、なんて無茶なことさせてる自覚があるからこそ伊黒先生含めて他の先生も本気で注意しないでしょ?あの冨岡先生ですら何も言ってきませんよ?」
「それは……まあな」
楓子のニヤニヤとした顔に小芭内は上手い返しが見つからずため息混じりに頷く。
「だが、お前もお前だ。注意されないからってちょっとずつ持ち込んでる私物増えてるだろ?褒められたことじゃないって自覚があるならもう少し自重してだな――」
「オット手ガ滑ッタ~」
ネチネチと小言を言う小芭内に楓子は棒読みで言いながら白衣のポケットから一枚の紙を落とす。
「ん?これは……ッ!!?」
その紙――写真を拾い上げた小芭内はその内容に目を剥く。
そこには微笑む桃色の髪の女性、小芭内の恋人である甘露寺蜜璃――を電柱の陰から見守る小芭内の姿が写っていた。
「失礼。拾っていただきありがとうございます」
「あッ!?」
と、小芭内が唖然としている中で素早くその手から写真を抜き取り大事に白衣のポケットに仕舞う楓子。
「き、貴様!その写真は!それは誰にも見せないと約束したはず!!」
「ええ、ですので普段はもっとちゃんと管理してるんですが……如何せん伊黒先生のお小言を聞きながらだとついうっかりそっちに集中しすぎて手が滑ってしまいました~」
興奮した様子で体を震わせる小芭内に白々しく言いながら楓子はニッコリ微笑む。
「大丈夫です!ちゃんと気を付けます!これが人目につかない様にこれからもしっかり管理しますから!でも――」
言いながら楓子はその笑みのまま
「もしかしたら…今後も伊黒先生がお小言を言ったらそれに集中するあまり、ついうっかり手が滑って落としちゃうかもしれませんねぇ~……蜜璃さんの前とかで」
「き、貴様~……!!」
「さあさあ、先程のお話の続き、どうぞ?」
「~~~~~ッ!!」
楓子のニヤケ顔に小芭内は憎々し気に睨み
「こ、これからはこれ以上私物を増やさないようにな!」
「は~い、気を付けま~す♪」
「チィ!」
楓子の笑顔で敬礼する様子に小芭内は舌打ちするのだった。
つ・づ・く
と言うわけで『キメツ学園のナイチンゲール』改め『キメツ学園の
今回は炭治郎と善逸、小芭内との絡みしかありませんでしたが、今後も折を見て他のキャラクターとの絡みも描く予定ですのでお楽しみに!
そんなわけで今回の質問コーナーです!
今回の質問はエーロンさんから頂きました!
――もし討鬼伝の鬼とモノノフが戦ってる所見たらどうします?逃げますか?それとも遠くから様子見ますか?
楓子「アレらとガチでやり合えるほど私人間やめてないんで逃げます。そりゃもう逃げます。脱兎の如く逃げます」
だそうです!
そんなわけで今回はこの辺で!
また次回もお楽しみに!
~大正コソコソ噂話~
楓子が保健室にいるときはちょくちょく響凱先生が仕事の愚痴などや共通の趣味の創作や音楽の話をしに訪れます。楓子もそんな響凱先生を励ましながら持ち込んでいるお菓子やジュースを振舞い駄弁ります。その様子は生徒と教師と言うよりは心を通わせた友人同士に見えるそうです。