恋柱の継子、人の恋路に世話を焼く   作:大同爽

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ついに始まりました無限列車編!
さあ原作最初の難所はどんな変化を起こしているのか!?
楓子ちゃんが用意した戦力とは!?

※ちなみに杏寿郎の話し方少し変更しています。前のままだと少しやりすぎかなって思えたので(;^ω^)





恋42 恋柱の継子と無限列車

「――それで、俺の父の呼吸の件なんですが……」

 

 無限列車に乗り込んだ炭治郎達は無事に先に乗っていた煉獄杏寿郎と無事合流を果たし、列車の窓から身を乗り出してはしゃぐ伊之助とそれを止める善逸の声をBGMに炭治郎は隣に座る杏寿郎に訊く。

 対する杏寿郎は

 

「うむ!楓子君から話は聞いているぞ!」

 

 炭治郎には顔を向けず正面を向いたまま声を上げる。

 

「なるほど!確かに楓子君からの話に加えて君からの話!それに君のその耳飾り!確かに俺が以前に読んだうちの昔の当主の手記に出ている『始まりの呼吸の剣士』に一致する部分は多い!恐らく君の父の使っていた呼吸は楓子君の予想通り『日の呼吸』で間違いないだろう!」

 

「そうですか!」

 

 杏寿郎の言葉に炭治郎は目を輝かせる。

 

「この任務が終わったらうちの生家に来るといい!詳しい話はそこでするとしよう!」

 

「で、でも……」

 

「現物を見ながらの方がいいだろう!何よりいつ鬼が出てくるかわからないこの状況ではあまり詳しい話をするのも難しいからな!」

 

 杏寿郎の提案に食い下がる炭治郎だったがそんな彼に杏寿郎は首を振って答える。

 

「え?」

 

 杏寿郎の言葉に一番に反応したのは善逸だった。

 

「嘘でしょ!?鬼出るんですかこの汽車!?」

 

「出る!」

 

「出んのかい!!嫌ァ――ッ!!鬼の所に移動してるんじゃなくここに出るの!?嫌ァ――ッ!!俺降りる!!!」

 

「楓子君から聞いてないのか?」

 

「聞いてませんよ!!」

 

 首を傾げる杏寿郎に善逸が叫ぶ。と――

 

「あ……」

 

「おい待て、なんだよその『あ…』って!」

 

「その…俺楓子さんから詳しく聞いてたんだけど……その、父さんの呼吸の秘密がわかるかもって思ったらそっちで頭がいっぱいになって……」

 

「おいぃぃぃぃぃッ!!そう言う大事なことは先に言っておけやぁぁぁぁぁッ!!」

 

 頭を抱えて叫んだ善逸は身体をのけ反らせる。

 

「降りるぅぅぅぅぅッ!!俺降りますからぁぁぁぁぁッ!!」

 

「こ、こら善逸!他のお客さんの迷惑になるから!」

 

「うるせぇぇぇぇ!!もとはと言えばお前のせいだろうがぁぁぁぁ!!」

 

「そ、それは悪かったけど!!」

 

 泣き叫ぶ善逸を宥めようとする炭治郎だったが逆に掴み掛ってくる。そんな二人の様子に

 

「はっはっは!!元気があっていいな!!面白い!!俺の継子になるといい!!まとめて面倒見てやろう!!」

 

「いや、あの、どこ見て言ってるんですか!?」

 

 朗らかに笑う杏寿郎の言葉に炭治郎がツッコむ。

 と、騒がしく話していると――

 

「切符…拝見…致します…」

 

 後方のドアが開いてのっそりと車掌が現れる。

 

「何ですか?」

 

「車掌さんが切符を確認して切り込みを入れてくれるんだ!」

 

 首を傾げる炭治郎に教えながら杏寿郎は切符を懐から取り出す。

 杏寿郎から切符を受け取った車掌はパチリと切り込みを入れる。

 それに倣って外を眺めたままの伊之助も、泣いている善逸も、そして炭治郎も車掌に切符を渡す。

 四人の切符をすべて切り終えた車掌は

 

「拝見しました……」

 

 ボソリと呟くように言った車掌。その直後――

 

「ッ!」

 

 何かを感じ取った様子の杏寿郎が立ち上がる。同時に炭治郎も

 

「ッ!? 鬼の臭いッ!?」

 

 その鋭敏な嗅覚が鬼の存在を感じ取る。

 ワタワタと隠していた日輪刀を取り出す炭治郎の横でスルリと腰に日輪刀を差しながら車掌を庇う様に立つ。

 

「車掌さん!危険だから下がってくれ!火急のこと故、帯刀は不問にしていただきたい!」

 

 言いながら杏寿郎の睨む先に瞬きした瞬間に見上げるほどの巨体の鬼が現れる。

 その突然の鬼の登場に乗客達にもざわめきが広がる。

 そんな鬼に向かって杏寿郎は日輪刀に手を掛けながら一歩踏み出す。

 

「その巨躯を隠していたのは血鬼術か!気配も探りずらかった!しかし!罪なき人に牙を剥こうものならば、この煉獄の赫き炎刀がお前を骨まで焼き尽くす!!」

 

 スラリと日輪刀を引き抜いた。

 

 

 ○

 

 

 所変わって線路沿いの道では――

 

「ヒャッハー!!最高だぜぇぇぇぇッ!!」

 

 楓子がハイテンションに叫びながらハンドルを切っていた。

 

「このハンドルを掴む手に響く振動!!腹の奥底に響くエンジン音!!硬い椅子の感触!!私の知ってるものとは天と地ほども差があるのにこの高揚感!!やっぱり〝車〟は最高だぜぇぇぇぇッ!!!」

 

 ハイテンションに叫ぶ楓子。そんな彼女に

 

「人の足では決して出すことのできないだろうこのスピード!!ぶ、文明の利器ってすげぇぇぇぇッ!!!」

 

「お、おい!!わけわからないこと叫んでる場合かァッ!?」

 

 同行者の一人――不死川実弥が必死に後部座席から前席の座席にしがみつきながら叫ぶ。

 

「お、おい!!こんなに揺れて大丈夫なのかァ!?」

 

「大丈夫!!整備されてない悪路だから揺れが酷いけどこの程度で人類の英知の結晶たる〝自動車〟には屁でもねぇぜぇぇぇぇッ!!」

 

「ホントに大丈夫なのかッ!?」

 

「大丈夫だつってんでしょ!!男がこの程度でガタガタ言ってんじゃねぇですよ!!ケツの穴の小さい人っすね!!」

 

「俺が大丈夫か訊いてるのはお前の方だァ、お前の!!」

 

 叫ぶ楓子に実弥がツッコむ。

 

「お前なんか性格変わってるだろォッ!?」

 

「久々にハンドル握れば誰だってこうなりますよ!!」

 

「久々って――と言うかお前なんで運転できてるんだッ!?」

 

「ハワイで親父に習ったんですよッ!!」

 

「『はわい』ってどこだッ!?」

 

「細けぇことはいいんだよッ!!」

 

「重要だろうがァッ!?」

 

 楓子の言葉に実弥がツッコみ

 

「おいお前からも何か言えや!!こいつの保護者みてぇなもんだろうがァ!!」

 

 隣に座るもう一人の同行者――伊黒小芭内に叫ぶ。が――

 

「…………」

 

「……おいなんだその悟りを開いたような顔はよォ?」

 

「お前はこれまで関わることが無かったから知らんだろうが、コイツはこういうやつだから慣れろ、としか言えん」

 

「…………」

 

 小芭内の疲れた笑みに実弥はいろいろ察した。

 

「ちょいとちょいと!そんな心配そうに黙らないでくださいよ!!」

 

 そんな二人の様子に進行方向を見たまま楓子が不敵に笑う。

 

「私の運転技術を信じて大船に乗ったつもりでいてください!」

 

「だからその運転技術の出自が曖昧で信用できねェんだよォ!」

 

「まあ乗ってるのは車ですけどね!!」

 

「喧しいィッ!!」

 

 バックミラー越しにドヤ顔をする楓子に実弥がツッコむ。

 

「なんですかもう?――あ、もしかして狭くてイライラしてます?」

 

「そう言うことじゃねぇが……まあ実際少し狭いのは確かだなァ。なんなんだこの足元の木箱はよォ?」

 

「すいません、必要な荷物なもので我慢してください」

 

「それはいいがよォ…危ねぇもんじゃねぇだろうなァ?」

 

「…………」

 

「おい待てなんで黙んだよふざけんな何入ってるか教えろやァ!!」

 

「……あ、小腹すきません?カナエさんと一緒に作ったおはぎありますよ?」

 

「テメェごまかしてんじゃねぇぞォ!!」

 

「あ、いりませんか?じゃあ私が……」

 

「食うわボケェ!!」

 

 大して残念そうな様子もなく差し出していたおはぎの詰まった箱をしまおうとするのを実弥は引っ手繰るように楓子の手から箱ごと取る。

 

「不死川様ってわかりやすいっすよね」

 

「あァ!?馬鹿にしてんのかァ!?」

 

「なんでわかったんですか?」

 

「ぶち殺すぞ!!」

 

「冗談っす」

 

「この女ァ……」

 

 サラッと答えた楓子の様子に実弥はイラついた様子で睨みながらおはぎを頬張る。と、その時――

 

ガタンッ!!

 

「あ、さーせん」

 

 舗装されていない悪路の為に大きな凹凸に乗り上げたのか車が大きく跳ね上がる。

 

「つゥ……お前もうちょっと速度緩められないのかァ?」

 

「無理っすね。ただでさえ誰かさんの任務が長引いて合流遅れたんでできる限り急がないと」

 

「だ、だがこう言うのは法定速度とかいうものがあるんじゃないのか?」

 

 バッサリと切って捨てた楓子の言葉に遅れた当人である小芭内が気まずそうにしながらも指摘する。

 

「緊急事態なんでその辺は気にしない方向で」

 

「いや気にしろやァ」

 

「いやいやそんなこと気にしだしたらそもそも私免許持ってませんし、私達三人とも廃刀令無視してるじゃないですか」

 

「「…………」」

 

 楓子の指摘に小芭内と実弥は押し黙る。

 

「……安全を害さない程度に急いでくれェ」

 

「……安全運転で頼むぞ」

 

「了解です♪」

 

 二人の言葉に頷きながら楓子はさらにアクセルを踏み込んだ。

 

 

 ○

 

 

 

「竈門少年!嘴平少年!」

 

「あ、煉獄さん!」

 

「おう!ギョロギョロ目ん玉!」

 

 横転した列車の脇で杏寿郎と炭治郎と伊之助が合流していた。

 

「うむ!二人共無事なようだな!何よりだ!」

 

 二人の様子に視線を巡らせ頷く。

 

「我妻少年も竈門少年の妹と健闘してくれた!今も乗客の救出を行ってくれている!」

 

 言いながら杏寿郎は炭治郎に視線を向ける。

 

「竈門少年、今回の件で俺は確信した!俺は君の妹を信じる!鬼殺隊の一員として認める!」

 

「え……?」

 

「汽車の中であの少女が血を流しながら人間を守るのを見た!命を懸けて鬼と戦い人を守る者は誰が何と言おうと鬼殺隊の一員だ!」

 

「煉獄さん……」

 

 杏寿郎の言葉に炭治郎は目に涙を浮かべる。

 

「君の妹も君と一緒に俺の継子になるといい!君たち三人とともにまとめて面倒見よう!」

 

「ええ!?いや…でも……」

 

 続いた杏寿郎の言葉に炭治郎はワタワタと慌てる。

 禰豆子のことを認めてもらえたことは嬉しいが呼吸を使う剣士ではない禰豆子は果たして継子として成立するのだろうか、という疑問の為に杏寿郎の言葉に素直に頷くことができないでした。

 その様子に杏寿郎は遠慮していると解釈したようで

 

「うむ!遠慮することは無い!君たちは楓子君に師事しているのならば彼女の師の一人である俺もまた君たちの師と言えるからな!」

 

「いや、遠慮とかそう言うことじゃ……」

 

「俺の生家に来る約束もある!詳しいことはその時に楓子君も交えて話そう!今はそれよりも我妻少年と合流して乗客の救助が先だな!」

 

 一人で結論を出してずんずん歩き出す杏寿郎。

 その様子に苦笑いをしながら炭治郎も後をついて行こうとし

 

「あ、そう言えば伊之助。さっきの車掌さんは?」

 

「あぁ、さっきお前のこと刺そうとした奴ならそこに転がってんぞ。こいつがぶっ倒れた時に放り出されたみてぇだな」

 

「ホントだ!」

 

 伊之助の指差す先に車掌が倒れているのを見つけて慌てて駆け寄る。

 放り出された際に足を折っている様子はあるがそれ以外に大きな怪我はない

 

「……よかった。生きてる」

 

「いや、コイツ死んでいいだろ?」

 

「よくないよ!」

 

 ホッと息をつく炭治郎に伊之助が言うが、炭治郎は慌てて否定する。

 

「お前の腹刺そうとした奴だぞ?自分のこと殺そうとした奴の心配するとか本当にお前お人好しだな」

 

「で、でも、それもきっとあの鬼のせいだからこの人のせいばっかりじゃないと思うだから……」

 

「あぁくそ!わかったよ!」

 

 炭治郎の言葉に伊之助はケッと鼻を鳴らし

 

「でもお前のこと刺そうとしたんだからお返しに髪の毛全部毟っといてやろうぜ!」

 

「そんなことしなくていいから!」

 

 倒れた車掌の方にズンズン向かって行くのを慌てて止めた炭治郎はなおも不満げな伊之助を引き摺って杏寿郎の後を追って――

 

ドオンッ!

 

 その時、轟音が響いた。

 

「「「ッ!?」」」

 

 その音の正体を確かめるべく三人は一斉に音のした方向、自身達の背後に視線を向ける。

 そこにはもうもうと立ち込める土煙の中、その中心に屈みこむようにしゃがむ人影が見えた。

 上半身は鍛え上げられた生身の肉体に袖のないベストのような赤い羽織。下半身は道着のような白いズボンを履き、両脚には赤い数珠のような飾りをつけるのみで裸足。髪は桃色に近い赤色で見える肌には顔を含め黒い線のような刺青がいくつも走る。

 何より目を引くのはその両眼。左右の瞳には『上弦』そして『弐』の文字が刻まれている。

 突如どこからともなく轟音と共に現れたそれは獰猛に笑みを浮かべ

 

「ッ!?」

 

 一番側にいた伊之助に向けて一息に目にも止まらぬ速度で接近し拳を突き出し

 

「伊之助ッ!!」

 

 一瞬見失いかけた炭治郎はその状況を理解すると同時に慌てて駆けだそうとし

 

「ッ!」

 

 そんな炭治郎の脇を一陣の風と共に杏寿郎が駆け抜け

 

「炎の呼吸・弐ノ型『昇り炎天』!」

 

 乱入者の突き出す拳を真っ二つに斬り裂く。

 杏寿郎の攻撃に乱入者はそれ以上追撃せずバックステップで数歩飛びのき、斬られて真っ二つになった自身の左手を見つめる。二股に分かれた左腕は瞬きの間にくっつき斬られた跡すら残さず再生する。

 

「「「ッ!」」」

 

 その光景に、その再生速度に三人が三様に驚く中、乱入者はニヤリと笑いながら見せつけるように左腕に残る自身の血をペロリと舐めとり

 

「いい刀だ」

 

 杏寿郎へ呼びかける。

 

「何故彼から狙った?」

 

「近くにいたからな。そいつの次はそっちの奴を殺るつもりだった」

 

「ッ!?」

 

 笑いながら言う乱入者の言葉に指された炭治郎の背中にゾクリと悪寒が走る。

 

「何故彼らから狙った?」

 

「弱いからな、話の邪魔になるかと思ったんだよ、俺とお前の」

 

「君と俺が何の話をする?初対面だが俺はすでに君のことが嫌いだ」

 

 乱入者の言葉に杏寿郎は警戒の視線を向けたまま言い放つ。しかし、杏寿郎の拒絶の言葉にも乱入者は動じた様子を見せずに笑う。

 

「そうか。俺も弱い人間が大嫌いだ。弱者を見ると虫唾が走る」

 

「俺と君では物事の価値基準が違うようだ」

 

「そうか、では素晴らしい提案をしよう」

 

 そう言って乱入者はそっと右手を前に出し

 

「お前も鬼にならないか?」

 

 誘う様に杏寿郎に向ける。その言葉に杏寿郎は

 

「ならない」

 

 一切思案する様子もなく首を振る。

 

「見れば解る、お前の強さ。柱だな?その闘気、練り上げられている。至高の領域に近い」

 

 拒否も意に介した様子もなく乱入者は杏寿郎を見つめる。

 

「俺は炎柱、煉獄杏寿郎だ」

 

 乱入者の視線を受けながら杏寿郎は答える。

 

「俺は猗窩座」

 

 杏寿郎の名乗りに気をよくした様子で乱入者――猗窩座は親しげに続ける。

 

「杏寿郎、何故お前が至高の領域に踏み入れないか教えてやろう」

 

 言いながら猗窩座は獰猛に微笑む。

 

「人間だからだ。老いるからだ。死ぬからだ」

 

 そう言って再び猗窩座は杏寿郎へ手を差し伸べる。

 

「鬼になろう杏寿郎。そうすれば、百年でも二百年でも鍛錬し続けられる。強くなれる」

 

「…………」

 

 猗窩座の言葉に杏寿郎は少し思案する様子を見せ

 

「老いることも死ぬことも、人間と言う儚い生き物の美しさだ。老いるからこそ、死ぬからこそ、堪らなく愛おしく尊いのだ。強さと言うものは肉体に対してのみ使う言葉ではない」

 

 杏寿郎は真剣な表情で猗窩座を見つめる。

 

「嘴平少年も、竈門少年も、二人共気高い精神を持った俺の仲間達だ。彼らは弱くない。侮辱するな」

 

 言いながら杏寿郎は日輪刀を握り直す。

 

「何度でも言おう。君と俺とでは価値基準が違う。俺は如何なる理由があろうとも、鬼にはならない」

 

「そうか」

 

 杏寿郎の返答に猗窩座は目を細め

 

「術式展開 破壊殺・羅針」

 

獰猛な笑みに殺気を上乗せして低く腰を落としながら右手を開いて伸ばし、左腕を腰に携えるように引き絞る。

と、猗窩座の足元に雪の結晶のような文様が浮かぶ。

 

「鬼にならないのなら殺す」

 

 そのまま杏寿郎へ向けて一歩踏み出そうとしたところで

 

「見つけたぁぁぁぁぁッ!!!!」

 

 エンジン音と共に叫び声が響く。

 

「なんだ?」

 

 飛びかかる一歩手前だった猗窩座は音の正体を探るべく杏寿郎達の背後に視線を向ける。そこには、一台の自動車がこちらに向けて爆走してきていた。

 

 

 ○

 

 

 

「見つけたぁぁぁぁぁッ!!!!」

 

 私は叫びながらさらにアクセルを踏み込む。

 

「何だこれはァ!?」

 

「列車が脱線しているのか!?」

 

 車の脇に横転している列車の姿に驚愕する不死川様と伊黒様へ私は正面を睨みながら叫ぶ。

 

「お二人共!今から私が合図をしたと同時に車から飛び降りてください!」

 

「はぁ?何を言って――」

 

「いいから!降りる準備しておいてください!ここから大きく揺れますよ!!」

 

 疑問の言葉を言いかけた伊黒様の声を遮って叫ぶ。

 同時に近くにあった手頃な列車の破片に向けてハンドルをきって乗り上げる。

 

「「ッ!?」」

 

 一瞬の浮遊感と共にあの独特の内臓が持ち上がる様な感覚を覚える。

 大きく跳躍した自動車は炭治郎くん達の頭上を飛び越え、その先にいる鬼――猗窩座へ向かって行く。

 

「今です!」

 

「「ッ!」」

 

 私の言葉に反応したお二人が扉を開けて車外に飛び出す。私も叫んだ直後に飛び出した。

 地面を転がって着地のダメージを相殺した私はすぐさま飛び出すときにひっつかんだ自身の愛用のカバンに手を突っ込み火薬玉とマッチの箱を掴みだす。

 火薬玉を右手で掴んで左手で箱から取り出したマッチを一本片手で指を弾くように擦って火を灯し、その火で火薬玉から伸びる導火線に火をつける。

 

「全員退避!!」

 

 火薬玉を大きく振りかぶりながら叫び、猗窩座へ向かって飛んでいく車の開けっ放しになった扉から車内に向けて火薬玉を投げ込むと同時に自分も杏寿郎さん達の方へ駆け出す。

 

「この程度の物量!!」

 

 猗窩座は獰猛に笑いながら飛来する車に向かって拳を突き出し、その拳が車に触れた刹那――

 

ズドオオオオオンッ!!!

 

『ッ!?』

 

 大爆発が起きた。

 巻き起こった爆風に吹き飛ばされながら数回地面を転がって何とか止まった私はゆっくりと顔を上げる。

 

「フッ…汚ねぇ花火だ」

 

「この大馬鹿が!!」

 

「痛ぁッ!?」

 

 直後叫び声と共に私の頭に拳が叩きこまれた。

 

「お前こういうことなら先に言っておけ!!」

 

 見れば仁王立ちして私を睨む伊黒様の姿があった。どうやら私を殴ったのも伊黒様のようだ。

 見れば伊黒様の後ろにはところどころ泥汚れの着いた不死川様や杏寿郎さん、そのさらに後ろには炭治郎くんと伊之助くんがひっくり返って倒れていた。

 

「と言うかお前、さてはさっき俺たちの足元にあった木箱の中身は……」

 

「お館様に頼んで用意してもらったダイナマイトと火薬の詰め合わせです!!」

 

「とんでもないものの上に座らせてんじゃねェぞ!!」

 

 私の答えに不死川様も顔に怒りの表情を浮かべて叫ぶ。

 

「私のお茶目な遊び心です。びっくりしました?」

 

「心臓止まるかと思ったわ!!」

 

「あ痛ぁッ!?」

 

 再び伊黒様のゲンコツが叩きこまれ私は苦悶の声を上げる。

 

「ちょっと!頭バカスカ殴らないでくださいよ!!馬鹿になったらどうするんですか!?」

 

「安心しろ、お前はもうすでにこれ以上ないほどの馬鹿だ」

 

「失敬な!」

 

 伊黒様の言葉に憤慨しながら立ち上がる。

 そんな私に杏寿郎さんは朗らかに笑う。

 

「ハハハッ!援軍を用意してるとは聞いていたが、まさかこんなド派手な登場をするとは思わなかったぞ!君には驚かされてばかりだな、楓子君!」

 

「ご無事みたいですね杏寿郎さん、それに伊之助くんも炭治郎くんも」

 

 三人の様子にホッと一安心した私は頷く。

 

「煉獄、お前が相対していたのはいったい?」

 

「ああ、鬼…しかも上弦の弐だ」

 

「「ッ!?」」

 

「上弦の…弐……」

 

 杏寿郎さんの返事に伊黒様達は息を飲み、私は思案する。

 先程ちらりと見た時原作通りあそこにいたのは猗窩座だった。原作では猗窩座の階級は上弦の参、しかし、私が四年前に本来の上弦の弐である童磨を討伐したことで位が繰り上がったのだろう。恐らく空席ができた上弦の参の席にも誰か他の鬼が納まっているだろう。私の予想では鳴女あたりか?

 

「だ、だが、いくら上弦でも先程の規模の爆発なら少しは……」

 

「と、そんなに簡単だったらよかったんですけどねぇ~……」

 

 伊黒様の言葉に私は言いながら先ほどの爆心地に視線を向ける。

 つられて他の面々もそちらに視線を向ける。

 私達の視線の先には大きく陥没した地面の中心に倒れ伏す猗窩座の姿があり

 

「……ねぇ、そろそろ起きたら?意識、あるんでしょ?」

 

 私は呼びかける。と――

 

『ッ!?』

 

 ムクリと猗窩座が体を起こす。その光景にみんな息を飲む。

 私達の視線の先では自身の体の状態を確認するようにしげしげと眺めている猗窩座。その身体は全身を焼き爛れた火傷で覆われている。

 

「ふむ、少し驚かされたが……」

 

 言った直後、猗窩座の焼け爛れた肌が泡立つように蠢き

 

「すぐに元通りだ」

 

 少しの痕も残さず完治した猗窩座が不敵に笑う。

 

「嘘だろッ……!?」

 

「なんだあの再生速度は?早すぎる……」

 

 驚愕する不死川様と伊黒様、そして、無言ではあるが顔を強張らせている杏寿郎さん、猪の被り物の上からでも分かる驚いた様子の伊之助くんと不安を顔に滲ませる炭治郎くん。

 そんな私達を順に視線を巡らせた猗窩座は

 

「女、何故俺が無事だとわかった?」

 

「前に相手したあんたの前の上弦の弐もさっきの規模より小さかったけど、それでもかなりの規模の爆発にさらされて生存してましたからね。まあここまでピンピンしてるとは思わなかったけど……」

 

「……なるほどな」

 

 私の言葉に何か合点がいったように顔を綻ばせ

 

「そうか…お前が大好楓子か?」

 

「そう言うあなたは四年前に倒した童磨の後釜かな?」

 

「猗窩座だ」

 

「そう。で?そんな上弦の弐の猗窩座はどうして私を知ってるの?」

 

 笑いながら私の問いに頷く猗窩座。

 

「前上弦の弐、童磨を屠って見せたその知略。二体の下弦の鬼を単騎で退ける技術。お前もまた至高の領域へと近づくものだ。女であることが惜しいくらいだ」

 

「……女であることに何か問題が?」

 

「ああ、女は弱い。至高の領域に至るのは難しいだろう」

 

「…………」

 

 猗窩座の返答に私は目を細める。

 

「だがまあ、それでもお前はよくやっている。俺個人としてはあの童磨を屠ってくれたことには礼を言いたい気持ちもある」

 

「礼だァ?」

 

「お前も四年前の上弦の弐も、鬼舞辻無惨に連なる鬼の仲間だったんじゃないのか?」

 

「同じあのお方に仕える身ではあっても個人的に好かない相手はいる。お前達だって仲間の全てが好ましい相手ばかりではないだろう?嫌いな相手の一人や二人いるはずだ」

 

 伊黒様の問いに答えた猗窩座の返答にみんな押し黙る。

 

「あの童磨と言う男はヘラヘラチャラチャラと馴れ馴れしくいちいち癇に触る奴だった。会う度に俺に『女は腹の中に赤ん坊を育てられるぐらい栄養分を持ってるから女をたくさん喰った方が早く強くなれる』だなんだと講釈を垂れるのも鬱陶しくて仕方なかったな」

 

「…………」

 

「いろいろと気に食わない相手ではあったが、それでも奴の実力は本物だった。それを倒したお前の実力もまた、本物だろう。見るにそこにいる二人も杏寿郎に匹敵するくらい至高の領域に近い存在、柱だな」

 

 言いながら猗窩座はニヤリと獰猛に笑う。

 

「ええ、いくら上弦の鬼でも、柱三人にその継子、さらに成長著しい隊士が二人の計六人を相手にするのは些か絶望的状況じゃない?」

 

 笑う猗窩座に私も不敵に笑って見せる。が――

 

「この無限列車に何らかの異変を察知し戦力を用意したようだが」

 

 猗窩座は変わらず余裕そうな笑みを浮かべ

 

「俺も武に生きる者、この逆境を退けた時、俺はまた一つ至高の領域へ近づく!」

 

 不敵に言い放った。

 

「そうか、引く気は無いわけだね?なら――」

 

 言いながら私は周囲の面々に視線を巡らせる。

 私のアイコンタクトを受けた面々は一斉に日輪刀を構える。

 

「なら、こっちも全力で行く!」

 

「来い!鬼狩りども!!」

 

 応じた猗窩座の言葉を合図に私達は踏み出そうとして――

 

――ベンッ

 

 琵琶の音が響いた。

 

『ッ!?』

 

 その音に私達だけでなく猗窩座も眼を見開く。

 

「そんな…俺だけでは無理だとおっしゃるのか!?」

 

 猗窩座は叫びながら振り返る。私達もつられてその視線を追う。

 と、彼の背後に大きな5m四方はありそうな襖が現れる。

 

「なん……!?」

 

 驚愕する私の目の前で襖が勢いよく開く。その先にいたのは

 

「グギャァァァァァァァッ!!!」

 

 大きな脳を剥き出しにし皮膚のない筋肉組織を曝け出した身の丈が軽く5mはあろうかと言う文字通り『怪物』がいた。と言うか――

 

「なんで鬼滅世界にバイオのリッカーがいんだよぉぉぉぉぉッ!!!!!」

 




無限列車内で起きたことは基本的に原作通りなのでキングクリムゾンです。
と言うわけで猗窩座との会敵!
万全の戦力で臨んだ楓子ちゃんでしたが、まさかまさかの思わぬ敵の登場です!
さあこの危機的状況に楓子ちゃんはどう切り抜けるのか!?



そんなわけで今回の質問コーナーです!
今回の質問はPYさんからいただきました!

――最初のコミケが75年12月の開催なので作中より60年後
割と近い未来ですが参加したいですか?
参加されるとしたら何を描きますか?

楓子「そうですね、正直現状は明日も知れぬ我が身ですが、参加できるならしたいですね。もし参加できるなら……そうですね『妖滅の刃』のセルフコミカライズでも出しますかね?」

とのことです!
そんなわけで今回はこの辺で!
次回もお楽しみに!



~大正コソコソ噂話~
基本的に原作通りに進んだ無限列車での出来事ですが炭治郎が車掌から刺されるのを回避したようにいくつか原作とは違うところがありました。
殆どは小さい変化でしたがその中でも特に大きな変化を上げると、伊之助の見ていた夢に髪を二つ括りにした蝶の髪飾りを着けたイノシシの女の子が登場した、と言うものがありました。


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