恋柱の継子、人の恋路に世話を焼く   作:大同爽

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無限列車編最後です。
楓子は猗窩座に打ち勝ち杏寿郎の死の運命を回避できるのか!?
そして、実弥と小芭内・かまぼこ隊の面々はリッカー(仮)を打ち倒せるのか!?
そんなわけで最新話です!





恋44 恋柱の継子と無限列車③

「はぁぁぁぁぁッ!!!」

 

「セイヤァァァァァッ!!!」

 

「うおぉぉぉぉぉッ!!!」

 

 刀と拳が交差し、三つの雄叫びが轟く。

 仮にここに彼ら以外に、戦闘のいろはを教わらない一般人がいたとすればまったく目で追えないであろう速度で繰り出される技の数々が飛び交う。

 一瞬の選択によって自身の肉体が物言わぬ肉塊になり果てるそのただ中で、しかし、楓子は一歩も引くことなく喰らいついて行く。

 

「フフフッ!フハハハハハハハハハッ!!いいぞ!!いいぞ杏寿郎!!そして楓子!!お前達のその剣技!!俺の攻撃に対応できるこの素晴らしい反応速度!!杏寿郎だけでなく楓子も一歩劣るまでも確実に食らいついてくる!!素晴らしい!!実に素晴らしいぞ!!」

 

 そんな二人に猗窩座は満面の笑みで叫ぶ。

 

「それだけにやはり惜しい!!この素晴らしい剣技も失われていくのだ!!悲しくはないのかッ!?」

 

「誰もがそうだ!!人間なら当然のことだ!!」

 

「いつか失われるからこそ、私はその一分一秒を大事にしたい!!」

 

 二人の返答にも猗窩座は大して落胆した様子はなく、むしろさらに楽し気に笑みを浮かべ

 

「ならばお前達のその短い命の輝き!!俺に見せてみろ!!」

 

 言いながら大きく飛びのいて構えた猗窩座の発する雰囲気が、その纏う殺気がさらに濃密になったのを感じ取った杏寿郎は

 

「ッ!!」

 

 瞬時に身構え

 

「炎の呼吸 伍ノ型・炎虎!!!」

 

「破壊殺・乱式!!!」

 

 杏寿郎の放った攻撃はほぼ同時に放たれた猗窩座の攻撃と激突する。

 杏寿郎の放った炎で巨体の虎を幻視させるその剣技と猗窩座の乱れ撃たれる拳が交差し打ち消し合う中――

 

「ッ!?」

 

 視界の端に翻る白いものに猗窩座が反応する。それは――

 

「炎の呼吸――」

 

 二人の動きに合わせて一瞬の判断で猗窩座の背後――死角に飛び込み日輪刀を構え接近する楓子は

 

「壱ノ型・不知火!!!」

 

「ッ!」

 

 楓子の当たれば確実にその頸を飛ばしていたであろうその剣筋を猗窩座は跳びのいて回避し――

 

「くッ!?」

 

 しかし、完全には回避することは叶わず、楓子の日輪刀によって猗窩座の右腕が飛ぶ。

 バックステップで楓子、そして、杏寿郎から距離を取った猗窩座は警戒を崩さないまま構えだけを解いて斬られた右腕を見る。

 綺麗にスッパリと斬られた切り口は肘から先が無くなっている。

 

「フ、フフフッ!!」

 

 その自身の腕を見つめて猗窩座は楽し気に笑みを浮かべる。

 

「フハハハッ!!楓子!!お前は本当に女にも人間にしておくのも勿体ない!!」

 

「…………」

 

 猗窩座の言葉に、楓子も杏寿郎も構えを解かず日輪刀を向けたままじっと見つめる。

 

「この技の精度!!一瞬で状況を判断して俺の死角に飛び込むその速度!!お前はもっともっと強くなるぞ!!」

 

 獰猛に、そして、どこか新しい玩具を見つけた無邪気な子どものように笑った猗窩座は右腕を降ろす。その腕は瞬きの後にはまるで初めから欠損などなかったかのように再生を終えていた。

 

「楓子、俺からの素晴らしい提案だ。お前も、鬼にならないか?」

 

「…………」

 

 猗窩座の問いに楓子は数秒考え

 

「確かに、人間である限り超えられない壁はあります。鬼と違って人間は老いも死も避けることはできないし、力にも限界はある。私も女ですから今の若さ溢れる肉体が捨てがたい気持ちも多少なりともあるかもしれない」

 

「ほう?」

 

「楓子君……!」

 

 楓子の言葉に猗窩座は微笑み、杏寿郎は息を飲む。

 

「その点で言えば鬼になれば老いることも死からも逃れることも、圧倒的な人智を超えた力を得て、今の若さのままでいることもできる。そう言う点では鬼になるということは確かに魅力ある提案かも知れない」

 

「そうだろう?ならば――」

 

 楓子の言葉に表情を喜色で染める猗窩座に――

 

「だが断る」

 

 楓子はその言葉を遮って言い放つ。

 

「ナニッ!!」

 

「この大好楓子の最も好きなことのひとつは、自分で強いと思っているやつに『NO』と断ってやることだ」

 

 驚く猗窩座へ楓子は不敵に笑う。

 

「楓子君!よく言った!」

 

 そんな楓子に杏寿郎は打って変わって朗らかに笑う。

 

「先程の物言いでは君も鬼になることに心惹かれたのかと思って焦ってしまったぞ!」

 

「フフ、すみません」

 

 杏寿郎に楓子は微笑みながら頷き

 

「でもね、私は鬼を打ち倒す鬼殺隊の一員として人間であることに誇りを持っています。鬼になるなんていう退化、間違っても選びませんよ」

 

「なんだと?」

 

 楓子の言葉に猗窩座がピクリと眉を顰める。

 

「今のは聞き捨てならないぞ。人間よりも上位の存在たる鬼に至ることが、何故退化だと言える?」

 

 猗窩座は不快さを隠すことなく楓子を睨みつける。

 

「確かに鬼は人間よりもあらゆる面で強靭です。老いることもなく悠久の時を生き続けることも可能でしょうし、鬼の使う血鬼術は人間と言う枠組みにいる限りは決して行使することのできない圧倒的な力でしょう」

 

 でもね、と楓子は猗窩座へ視線を向けたまま真剣な瞳で言葉を紡ぐ。

 

「人間は、その有限の寿命だからこそ、人間一人の力に限界があるからこそ、他者を労り思いやることができる。互いを思い合い、手を差し伸べることで困難も苦難も乗り越えられる。人の最大の力は他者との繋がり、『個の力』を束ねて紡ぐ『全の力』です」

 

「…………」

 

「対して、鬼は強力な『個の力』を得る代わりに他の鬼と協力することもない。無限の命によって一分一秒を惜しんでその命を燃やす心音もなく、鼓動を打つことのないその心臓を抱えたあなた達はもはやただの生きる屍以外の何物でもない。そんな存在になることを退化と言わずしてなんと言うんですか?」

 

 押し黙る猗窩座に楓子は鋭い視線を向けて言う。

 

「だから私は人間であることに誇りをもってあなた達に挑み続けます。いつの日か私達の刃が鬼舞辻無惨の頸を断つその日まで」

 

 言いながら楓子は日輪刀で猗窩座を指す。

 

「だから、私は鬼にならない。あなた達を追い続ける。まずは今日ここであなたの頸を貰う」

 

「……そうか」

 

 楓子の言葉に猗窩座は目を細め獰猛に微笑み

 

「残念だよ、楓子。二度とそんな大口が叩けない様に今ここで徹底的に潰してやろう」

 

 言いながらゆっくりと構える。

 

「やれるものならやってみろ」

 

 楓子は言いながら不敵に微笑む。

 

「でも、その頃にはあんたは八つ裂きになってるだろうけどね」

 

 

 

 ○

 

 

 

「獣の呼吸 特ノ牙・星光連流撃!!!」

 

「水の呼吸 漆ノ型・雫波紋突き!!」

 

「雷の呼吸 壱ノ型・霹靂一閃!!」

 

「風の呼吸 陸ノ型・黒風烟嵐!!」

 

「蛇の呼吸 肆ノ型・頸蛇双生!!」

 

 五人は目の前の異形の鬼に向かって連続で技を繰り出していく。

 が――

 

「グギャァァァァァァァ!!!」

 

 苦悶の雄叫びを上げるリッカー(仮)。

 その様はダメージは蓄積されているもののいまだ健在の様子だった。

 

「くそがァッ!こんだけ打ち込んでまだダメなのかよ!!」

 

「やっぱり本当の化物じゃねぇかぁぁぁぁぁッ!!」

 

悔し気に叫ぶ伊之助とその異様な様に涙混じりに叫ぶ善逸。

 

「落ち着いて状況を見ろ!少しではあるが確実に攻撃は効いている!」

 

 そんな二人に伊黒が叫ぶ。

 

「そうだァ!今はとにかく技を当て続けろォ!あの化物に再生の間を与えるんじゃねェ!!」

 

 小芭内の叫びを引き継ぐように大きく頷きながら実弥は日輪刀を構え――

 

「ッ!不死川さん避けてください!!」

 

「ッ!?」

 

 炭治郎の叫びに咄嗟に飛びのくと一瞬前に実弥のいた場所にリッカー(仮)の長い鞭のような舌が襲う。

 しかし、攻撃はそこで終わらず、追撃とばかりに瞬時に二本目の舌が実弥の足に巻き付き

 

「しまっ――!?」

 

 巻き付いた舌を斬ろうと日輪刀を振るおうとしたが、それよりも早くリッカー(仮)の舌が実弥を上空へと振り上げる。

 

「ガッ!?」

 

 その急激な遠心力と圧に実弥は抵抗空しくそのまま空中へと振り上げられる。

 

「不死川!!」

 

 実弥の救出を試みて駆ける小芭内だったが――

 

「ぐッ!?」

 

 横に大きく飛びのく。一瞬前まで小芭内のいた場所にリッカー(仮)が振り下ろした腕が叩きつけられる。

 それによって対応が一手遅れたことで上空に振り上げられた実弥が地面に向けて振り下ろされ――

 

「ッ!」

 

 咄嗟に頭を庇う様に腕で覆い隠し

 

『ッ!?』

 

 その瞬間、リッカー(仮)と実弥が燃え盛る紅蓮の炎に包まれる。突然の出来事に一瞬四人が息を飲み

 

「ッ! 不死川ッ!!」

 

「不死川さんッ!!」

 

 一瞬早く困惑から抜け出した小芭内と炭治郎が声を上げる。と――

 

「ふッ!」

 

 燃え盛る炎の中から実弥が飛び出し空中で体を捻って地面で受け身を取って着地する。

 

「不死川!無事かッ!?」

 

「あ、ああ…俺もよくわからねェが服も俺自身も少しも燃えてねェ」

 

「なッ!?あれだけの炎でかッ!?あの化物はあんなに苦しめられているのにッ!?」

 

 自身の身体を確認するように視線を巡らせる実弥の言葉に小芭内は困惑の声を上げる。

 小芭内の言葉の通り、五人の視線の先ではリッカー(仮)がその身を焼く業火の勢いに悶え苦しみのたうち回っていた。

 困惑する五人の前にその答えが駆けつける。

 

「ムーッ!!」

 

「禰豆子!!」

 

「禰豆子ちゃん!!回復したんだね!!」

 

 その人物――禰豆子の姿に炭治郎は炎の正体に合点がいき、善逸は顔をほころばせる。

 禰豆子は無限列車と一体化した下弦の壱が乗客を喰らわない様に食い止めるために奮闘したが、その際の負傷や消耗を回復するために列車が横転してからは回復に努めていた。

 そんな彼女がついに動けるまでに回復して参戦したのだ。

 

「伊黒さん!不死川さん!あの炎は禰豆子の血鬼術ですッ!あの炎は鬼だけを焼いて人には害はないんですッ!」

 

「何ッ!?」

 

「あの鬼のだとォ!?」

 

 炭治郎の言葉に二人が訝しげに眉を顰める。

 

「今あの化物の苦しみ方、それに一つも傷ついていない不死川さんが証拠です!」

 

「そ、それは確かに……」

 

 炭治郎の言葉に小芭内は納得したように頷く。

 

「今が好機です!あの化物は禰豆子の炎で回復が追い付いていません!俺達も攻撃をしかけましょう!」

 

「だ、だが――」

 

 炭治郎の言葉に、しかし、禰豆子の存在に懸念が残るらしい実弥が言い淀み――

 

「ッ!?」

 

 実弥の視界の端にリッカー(仮)が燃え盛る炎の中から悪あがきの如く自分たちに向けて舌を鞭のようにしならせる姿が見え

 

「ムーッ!!」

 

応戦すべく身構えようとした実弥の目の前に禰豆子が躍り出て、その鋭い爪を迫り来るリッカー(仮)の舌を斬り裂く。

 

「グギャァァァァァァァ!!!」

 

 舌を切り落とされたリッカー(仮)が苦悶の声を上げる中、実弥はその光景に息を飲んだ。

 

(鬼が…人を守るだァ!?そんなことがあるなら、なんでこのガキはできて俺のおふくろは……ッ!)

 

 いまだリッカー(仮)を警戒した様子で身構える禰豆子の背中に実弥はギリッと歯を噛みしめ

 

「不死川ッ!!」

 

「ッ!?」

 

 そんな実弥の思考を小芭内の声が遮る。

 

「どうやら本当にあの炎はこの鬼の能力らしい。そして、鬼のみを焼く、と言うのもどうやら信憑性が高い。こいつの言葉通り、畳みかけるなら今だ」

 

「…………」

 

 小芭内の言葉に実弥は少し考え、大きく頷く。

 

「よし、仕掛けるぞォ!いいかお前ら!今度こそあの化物が息の根を止めるまで技をぶつけ続けろォ!!」

 

「「はいッ!!」」

 

「おうよッ!!」

 

 実弥の言葉に炭治郎達三人は声を上げて頷き、五人は揃って燃え盛るリッカー(仮)へと再び斬りかかった。

 

 

 ○

 

 

 

「破壊殺・空式!!」

 

 空中に跳び上がった猗窩座が高速で拳をラッシュの様に打ち出すと、数メートル離れた場所にいる私と杏寿郎さんに猗窩座の拳によって圧縮された空気の弾丸が襲う。

 

「肆ノ型・盛炎のうねり!!」

 

 私が日輪刀を大きく振るい、迫り来る空気の弾丸を防ぐ。

 その間に地面に着地した猗窩座へ杏寿郎さんは一息に駆け

 

「ッ!?」

 

「はぁぁぁぁぁッ!!!」

 

 その速度に眼を見開く猗窩座へ杏寿郎さんは気合の声とともに日輪刀を振るう。

 高速で振るわれる杏寿郎さんの日輪刀へ猗窩座は拳を高速で打ち出し互いに打ち消し合う。そして――

 

「シッ!!」

 

 横合いから飛び込み頸へ振るった私の日輪刀を大きく後方に仰け反ることで避けた猗窩座はそのままバック転で飛びのき

 

「脚式・冠先割!!」

 

 私の身を空中に蹴り上げる。

 

「ぐッ!?」

 

 日輪刀でその蹴りを防ぎ、しかし、さらにその後に来るであろう追撃に対応すべく大きく息を吸い込み

 

「参ノ型・気炎万象!!」

 

「破壊殺・流閃群光!!」

 

 大きく振りかぶって振り下ろされた私の日輪刀を身体をずらすように避け、そのまま連続で蹴り上げる。

 

「はぁぁぁぁぁッ!!」

 

 私はその蹴りを致命傷になりそうなものを優先して最低限の動きで日輪刀を当てて逸らす。

 

「壱ノ型・不知火!!」

 

 私へ蹴りを放つ猗窩座へ杏寿郎さんが斬りかかる。

 

「ッ!」

 

 頸を狙った杏寿郎さんの日輪刀は、素早く避けた猗窩座の頸には届かず。しかし、その胸を真一文字に斬り裂く。

 そのまま猗窩座は後方へ飛びのいて距離を取る。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

「ふぅ……ふぅ……ふぅ……」

 

 猗窩座へ警戒を向けたまま私と杏寿郎さんは上がった息を整える為に大きく呼吸する。

 

「生身を削る思いで戦ったとしても全ては無駄なんだよ、杏寿郎、楓子」

 

 そんな私達にどこか寂しそうに目を細めて猗窩座は口を開く。

 

「お前達が俺に食らわせた素晴らしい斬撃もすでに――」

 

 言いながら猗窩座は先程杏寿郎さんの斬り付けた胸元に視線を向ける。

 真一文字に刻み込まれた痛々しいまでの傷も瞬きの間にまるで初めからそんな傷は無かったかのように再生した。

 

「すでに完治している。だが、お前達はどうだ?」

 

 言いながら猗窩座は私達に視線を戻す。

 

「傷も容易には回復しない。俺達鬼にとってはかすり傷にも満たない傷が、たった一発の攻撃が致命傷になり得る脆い体だ。どう足掻いても人間は鬼には敵わない」

 

 猗窩座の言葉に私達はその言葉を飲み込み

 

「だとしても!私達があなた達へ挑まない理由にはならない!!私達は私達の譲れない矜持と責務があるからこそあなた達に刃を向け続ける!!」

 

「俺達は俺達の責務を全うする!!」

 

 私と杏寿郎さんは揃って叫び視線を交わらせる。

 

「杏寿郎さん!!」

 

「ああッ!!一瞬で多くの面積を根こそぎえぐり斬るッ!!」

 

 杏寿郎さんの言葉に頷いた私。そのまま私達は並び立ったまま同じように猗窩座へ身体を向けたまま両脚を大きく広げて腰を落とし、日輪刀を右肩に背負う様に構え呼吸を練り上げる。

 

「素晴らしい闘気だ!!」

 

 そんな私達に今までで一番嬉しそうに満面の笑みを浮かべながら猗窩座は叫ぶ。

 

「やはりお前達は鬼になるべきだ!!」

 

 言いながら猗窩座は身構える。

 

「炎の呼吸 奥義!!」

 

「破壊殺・終式!!」

 

 私と杏寿郎さんは同じ言葉揃って、猗窩座も同じタイミングで叫び

 

「玖ノ型・煉獄!!」

 

「青銀乱残光!!」

 

 私達は同時に駆ける。

 私と杏寿郎さんは炎の闘気を纏い、それはまるで二対の龍の様に猗窩座へ襲い掛かる。

 対する猗窩座もその拳を高速でラッシュを放ちまるで流星群の様に応戦する。

 私がいる影響か猗窩座は原作とは違い滅式ではなく終式を放ってきた。正直これまでの技の数々もギリギリだったが、ここでまさかまさかの終式。普通に考えれば絶望的だ。それでも――

 

「はぁぁぁぁぁッ!!!」

 

 私はそんな後ろ向きな気持ちを吹き飛ばすために雄叫びを上げる。

 例え、どれほどに絶望的だろうと、私はここで引くことはできない。杏寿郎さんは蜜璃さんに並ぶ私の大事に尊敬する師匠だ。ここで亡くすわけにはいかない。彼が最終決戦まで生きていればきっともっと活躍した。彼がいればもっとたくさんの人が救われる。何より私自身が杏寿郎さんに死んでほしくない。だから私は足掻く。例え私の命を燃やし尽くしても、ここで杏寿郎さんを救い、猗窩座を倒す!

 

「うおぉぉぉぉぉッ!!!」

 

 先に猗窩座へ刃を突き立てたのは杏寿郎さんだった。

 猗窩座の振るう拳を掻い潜り、しかし、避け切れなかったその拳のいくつかを先行している分私よりも多くその身に受けながら猗窩座を左肩から袈裟斬りにお腹まで刃を走らせる。

 

「がぁぁぁッ!!」

 

 そこで猗窩座は苦悶の雄叫びを上げながら杏寿郎さんへ右腕の拳を振るい

 

「させるかぁぁぁぁぁッ!!!」

 

 私は自分の命を燃やし尽くすつもりで日輪刀を強く握りしめる。

 私の命の輝きの如く、私のマゼンタ色の刀身は燃え盛る炎の様に赤く、紅く、赫く、輝かしい軌跡を描いて猗窩座へ振り下ろす。

 

「ッ!」

 

 私の斬撃に猗窩座はその右腕の拳へ受ける。

 

「くッ!!」

 

 私の日輪刀は猗窩座の右腕を斬り飛ばし、猗窩座は苦悶の声を漏らす。

 

「この程度――ッ!?」

 

 猗窩座はすぐさま失った腕を振りかぶりその瞬間困惑の表情を浮かべる。

 理由はわからないが好機だ。すぐさま追撃を、と日輪刀を構え直した私を――

 

「かはッ!?」

 

 その瞬間クラリと一瞬貧血のような感覚が襲い膝を突きそうになる。

 

「ッ!」

 

 そんな隙を猗窩座が見逃してくれるはずもなく、猗窩座はいまだ健在な左腕の拳を振り被る。

 向かってくる拳の軌道は見える。しかし私は今だ貧血に近い眩暈で動けずにいる。

 

――せめて致命傷は避けないと!

 

 と、鈍重なその身に鞭打つ私の視界に、迫り来る猗窩座の拳を何かが遮る。

 

 バギンッ!ゴキベキッ!

 

 その瞬間甲高い、まるで硬質な金属がへし折れるような音と共に何かが砕ける音が私の鼓膜を打つ。

 

「杏寿郎さんッ!!」

 

「止まるなッ!!!」

 

 叫ぶ私を叱責するように鋭い杏寿郎さんの声が響く。

 

「俺よりも!目の前の鬼の頸を!!」

 

 その声に私は杏寿郎さんの負傷から猗窩座へ思考を戻す。

 ここで思考を止めている暇はない。今ここで奴を倒さなければ杏寿郎さんだけでなく私も共倒れだ。二人共の生存を望むならば今ここで猗窩座の頸を落とさなければ。

 しかし、今私と猗窩座の間には杏寿郎さんがいる。猗窩座にそのつもりは無くても盾にする形になっている。これでは直線的に斬り付けては杏寿郎さんの身を傷つけてしまう。ならば――

 

――炎の呼吸の直線的な攻撃では駄目だ!ここで最適なのは!!

 

「シィィィィィッ!!」

 

 私は一瞬の思考とともに呼吸を切り替える。

 貧血に似た鈍重な肉体を振るい立て、低い姿勢で日輪刀を構え

 

()()()() ()()()()()()()()!!!」

 

 私は蛇の呼吸(伊黒さんの剣技)を放つ。

 この技は低い位置から、まるで双頭の大蛇が絡みつくような変則的な攻撃、より正確な太刀筋を旨とする蛇の呼吸の中でもとりわけのその軌道の読みづらい剣技だ。これであれば杏寿郎さんの身を避けて猗窩座の頸を狙える。

 

「はぁぁぁぁぁッ!!!」

 

 私は気合の叫びとともに日輪刀を振るい

 

「ガッ!?」

 

 その刀身が猗窩座の頸へ叩き込まれる。

 

「セイハァァァァァッ!!!」

 

 そのまま気合の掛け声とともに再び持てる私の残りの力全てを振り絞るように日輪刀を握り締めながら振り抜く。

 

「ガァァァァァッ!!!」

 

 私の視界の隅で猗窩座の頸が飛ぶのが見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――あれは、俺の身体?

 

 グラグラと揺れる視界が捕らえたのは上下逆さまに映る見慣れた自分自身の身体。

 しかし、その身体にはあるべき頭部が無い。当然だ。その頭部は今まさにその頸のない体を見つめる彼自身なのだから。

 

――頸を落とされた?この俺が?女の手によって?

 

 地面を転がる衝撃に顔を顰めながら猗窩座は怒りで頭を満たす。

 

――まだだ!!まだ戦える!!俺はまだ強くなれる!!

 

 歯を食いしばりながら猗窩座は離れてしまった身体に執念で睨みつける。

 

――終われないこんなところで!!俺は強くなる!!もっと、もっともっと!!誰よりも強くならなければ!!強く!!

 

「――もういいでしょ」

 

 真っ赤に燃えるような思考の最中、すっと優しく澄んだどこか悲しげな声が猗窩座の耳を打つ。

 見れば悲しげな瞳で自身を見下ろす人影が視界に入る。

 その人物――つい今しがた猗窩座の頸を落とした張本人である楓子が地面を転がる彼の頸の目の前に膝を突いて手を伸ばす。

 

「もう…終わったんだよ」

 

――終わっただと!?ふざけるな!!俺はまだ終われない!!

 

 楓子の言葉に猗窩座は憎々し気に睨みつける。そんな猗窩座の頭にそっと楓子の伸ばした手が触れる。

 その手の温もりが猗窩座の中を満たし渦巻いていたどす黒い怨念の中に一滴落とされた波紋の様に広がっていく。

 

「もう、もう戦う必要なんてないんだ」

 

 猗窩座の頬に彼を見下ろす楓子からポタリと水滴が落ちる。

 

――なんだ?

 

 猗窩座の見つめるその先で、彼を見下ろす楓子は悲し気に眉を顰め、涙を浮かべていた。

 

――俺は……

 

 その顔が猗窩座の中で何かのイメージとダブる。

 

「もう、もう休んでいいんだよ」

 

 涙を浮かべる楓子の顔に別の誰かの顔がダブって見える。

 

――誰だ……?誰なんだ……?

 

 思い出せない、しかし、自分にとって確かに忘れられない、忘れちゃいけなかった誰かへの想いが溢れ出すのを感じて

 

「家族が待ってるよ、狛治さん」

 

――はく…じ……?

 

 楓子の呼ぶ名前に猗窩座は眼を見開き

 

――狛治さん!!

 

 その瞬間、猗窩座はその名を呼ぶ誰かの声を聞いた気がした。

 その声は確かに何度も聞き、そして、もう一度聞きたかった声で――

 

――恋…雪……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 目の前で灰となって消えていく猗窩座の頭部を見つめながら私は視線を上げる。

 私の視線の先、地平線の先ではゆっくりと明るくなってきている。

 

「……さようなら、狛治さん」

 

 私は消える一瞬、満足げに微笑んだ彼を思い出しながらそっと呟いた。

 私の視線の先ではゆっくりと朝日が昇り始めていた。

 

 




これにて無限列車編決着です。
詳しい決着の詳細は次回、無限列車編のエピローグ的な話で描きます。
はてさて、楓子の掴んだ原作とは違う無限列車の結末やいかに!?



そんなわけで今回の質問コーナーです!
今回は漣十七夜さんからいただきました!

――行冥と沙代の恋路の世話はしないのでしょうか?

楓子「この二人は難しいところですね。本人達にそう言う意識が芽生えるのであれば世話しますが、悲鳴嶼様はともかく沙代にとって悲鳴嶼様は恩を仇で返してしまった相手。お世話になった家族みたいな人、と思っていると解釈してるのでそこから恋愛に発展するのなら私としては全力で応援しますよ」

とのことでした!
そんなわけで今回はこの辺で!
また次回もお楽しみに!



~大正コソコソ噂話~
楓子にとって猗窩座は鬼に限定すれば鬼滅の登場人物で1・2を争うくらい好きなキャラクターでした。人間だった頃の記憶を失ったまま無意識に狛治だった頃の後悔と願いを抱えてただひたすらに強さを求める彼を、その過去を原作で読んでからは何となく純粋な『悪役』とは思えなくなりました。
だからこそ最期には狛治だったころのことを思い出し、恋雪との愛で鬼の呪縛から脱した様は彼女にとって鬼滅の中でも好きなワンシーンの一つとなりました。
彼女の中では鬼滅公式CPの中でも狛治と恋雪のカップリングは上位に来るくらいのお気に入りの二人でもあります。


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