楓子「始まる前に一個聞いていい?」
なんだい?
楓子「なんで蜜璃さんじゃなくしのぶさん主軸で魔法少女モノ?たぶん読者の皆さんも気になってる人いると思うけど?」
あぁ、それはこのお話を思いついたのが少し前に某家電量販店に言った時に見た幼女が原因でね。
その子、たぶん父親から誕生日プレゼントか何か買ってもらえるってことで選んでたみたいなんだけど、その子が選んだのが今のプリキュアの変身アイテムとDX日輪刀の胡蝶しのぶVer.でね。でもどっちかしか駄目って言われてて、私も一部始終全部見てたわけじゃないけど、少し後に自分の買い物の為に私がレジに並んだ時にその後ろにその幼女と父親が並んでね。その子が持ってたのがDX日輪刀だったの。
それを見て「あぁ、この子にとってプリキュアよりしのぶさんの方がいいんだ!鬼滅って内容的にこんなちっちゃい子にわかるの?」って思った時に「じゃあもっとプリキュア風に女児にも楽しめる魔法少女モノだったらそれはそれで人気でるんじゃね?」って思ったところで思いついたわけですな。
楓子「なるほどね。」
そんな裏話もありつつ番外編です!
どうぞ!
「はぁぁぁぁぁッ!!!」
私は掛け声とともに手に握った矢印を半分にしたような不思議な形をした刀のようなステッキを振るう。
ステッキは闇夜の中を輝く蝶のような光を無数に放ちながら目の前の異形の敵――鬼を包む。
「しのぶ!鬼が弱ったプルッ!浄化のチャンスプルッ!」
「わかったわ、メイプル!」
後方で木の陰に隠れながら叫ぶ長い耳の白いぬいぐるみのような小動物――妖精のメイプルの声に頷きながらステッキを目の前の鬼に向ける。
「ラブキュア!!バグズマジック!!」
私が呪文を唱えるとそれに呼応するようにステッキが菫色の光を放ち輝き始める。
「バタフライ・ダンス・プレイ!!」
叫びながらステッキを振るう。その瞬間私の身体を菫色の光が包み込み光の蝶となって目の前の鬼へと羽ばたき触れたその瞬間に鬼の身体をステッキで無数に突く。
「グギャァァァァァァァ!!!」
ステッキに突かれた鬼は苦悶の雄叫びを上げ、ボロボロと炭になって消えていく。
そんな鬼を尻目に私はピッとステッキを振って払い、クルクルとバトンの様に回して構え
「憐れな鬼に、魂の救済を」
鬼が炭となりその一片まで夜空に消えていくのを見届けた私はホッと息をつく。
「しのぶ!やったプルッ!」
と、先程のぬいぐるみ――妖精のメイプルが駆け寄ってくる。
「ええ、メイプルもサポートありがとう」
「私は何もしてないプル!鬼を浄化したのはしのぶの力プル!」
私の言葉にメイプルがニコニコと言う。
「今ので鬼の気配は最後プル!」
「そう、よかったわ。これ以上は明日に差し支えるわ…フワ~ッ」
と、メイプルの言葉に私はホッと息をつくと同時に疲労からくるアクビが口から洩れる。
「ごめんなさい、つい」
「しょうがないプル。もう日付跨いじゃってるプル。早く帰って休むプル」
「ええ」
メイプルの言葉に頷いた私はフッと意識を込める。
と、花を思わせるフリフリのドレスとその上に羽織の様に纏っていた蝶の羽を思わせる模様の羽織がパッと光を放ちながら消え失せ、私服姿に戻る。
「さ、帰るプル。今日もお疲れ様プル」
「ええ、メイプルもね」
言いながら私達は帰路に就く。
私がどうしてこうして深夜に不思議なステッキを振るって異形の鬼と戦うことになったのか、それはひと月前まで遡る。
私の名前は胡蝶しのぶ。キメツ学園の高等部に通う高校三年生である。
現在は姉のカナエと訳あってうちで妹同然に暮らす栗花落カナヲとの三人で暮らしている。姉は私の通うキメツ学園の生物の教師、カナヲは二年生である。
両親は仕事で海外に出張中で年に2、3回しか帰ってこないが私達の為に働いているので仕方がない。
姉さんもカナヲもいるので寂しくはない。
そんな私達は日々家事を分担しながら生活しているのだが……
「あらやだ、いっけなぁい!」
「ん?どうしたの姉さん?」
キッチンから聞こえた姉の声に私はキッチンを覗く。
そこでは姉が困ったように眉を顰めて頬に手を当てていた。
「うん、明日の朝ごはんにフレンチトースト作ろうと思って下拵えしようと思ったんだけど、牛乳が足りなかったの」
言いながら困ったように微笑む姉は目の前の軽量カップの上で牛乳パックを逆さにする。牛乳パックからは数滴牛乳が垂れただけでそれ以上は出てこない。
「多少分量が変わっても作れると思うけど、ちゃんと美味しいものが食べたいわよね……」
「コンビニで買ってこようか?」
「でも、態々行ってもらうのも悪いわ」
「いいわよ。姉さん仕事で疲れてるでしょ?それに私もちょうど欲しいものあったし」
「……そう?お願いしてもいいかしら?」
「ええ、任せて」
姉の視線に頷き、私は財布を片手に玄関に向かう。
「??? しのぶ姉さん、出掛けるの?」
「ああ、カナヲ」
玄関に向かう廊下の途中、洗面所のドアが開きパジャマ姿のカナヲが現れる。
「ちょっとコンビニにね。明日の朝食で使う牛乳が足りないらしくてね」
「もう8時だけど、大丈夫?私も行く?」
「いいわよ。カナヲは今お風呂から上がったところでしょ?湯冷めしちゃうわ」
カナヲの申し出に首を振りながら応じた私はそのまま玄関で靴を履いて家を出る。
空を見上げれば真っ黒な中に大きな満月が浮かんでいる。
「さあ、牛乳買って早く帰りましょう」
私はそんな月の夜空を眺めて微笑みながらコンビニに向けて歩き出した。
○
目当ての牛乳と欲しかった雑誌の入ったレジ袋を片手に私はコンビニを後にする。
それ以外に買う物もなかったのでものの数分で終わった買い物の帰路、私はコンビニから家への道のちょうど中間くらいにある公園を通りかかる。
4月の上旬頃であれば桜の咲き誇る桜並木だが、五月に入った今ではもうピンクの花は一つも見えず青々とした若葉が生い茂っている。
そんな公園の脇を通った私は
「たす…て……」
「え?」
何か小さな声を聞いた気がした。
よく聞こうと耳を澄ませてみると
「助けてプル……」
先程よりもはっきりと聞こえた声とともに
ドゴンッ!バキッ!
「ッ!?」
何かを破壊するような音が聞こえ息を飲む。
嫌な予感を覚え私は慌てて声の聞こえた公園の中に飛び込む。と、そこでは――
「な、何…あの化物……?」
そこには見上げるほどの、三メートルはあろうかと言う巨体の体中に無数の手を巻き付けたような異形の化物がいた。
「ヒッ!?」
私はとっさにその異形の化物に見つからない様に側の木に隠れる。
木の陰に隠れながら様子を窺えば、異形の化物が右腕を振るったところだった。
異形の化物が振るった右腕が地面を抉り、そこにいた小さなぬいぐるみのような見たこともない小動物を吹き飛ばす。
「プルゥゥゥッ!!」
吹き飛ばされたぬいぐるみが叫びながら地面を転がる。
「キヒッキヒヒヒヒッ!もう逃げられねぇぞ、妖精ェェェッ!」
そんな小動物に下卑た笑みで笑いながら異形の化物は一歩一歩と近づいて行く。
対する小動物は怯えた表情を浮かべながらもがくように逃げるが、先程攻撃を受けて負傷したらしくうまく逃げられない。
「さぁぁぁ…潰れちまえぇぇぇぇぇッ!!!」
「っ!?」
その異形の腕に自信の身体から複数の腕を出して纏わせて一本の大きな腕とした化物はその大木のような腕を振り被る。標的の小動物は頭を庇う様に腕を上げ、しかし、その程度でその化け物の攻撃を防ぐことはできないのは明白で――
「くッ!」
気付けば私は駆け出し、その異形の腕が押し潰す寸前だった小動物をかっさらっていた。
「わッ!?」
「プルッ!?」
しかし、かなりギリギリで、私の背後ギリギリのところを異形の腕が叩きつけられその衝撃に吹き飛ばされた。小動物を胸に抱いたままゴロゴロと地面を転がり側の木にぶつかって止まった私は
「なんだ、お前はぁぁぁ?」
「ヒッ!?」
ギョロリとした瞳が私を捉えたのを感じた瞬間、ぶつかって痛みを発する背中を気にする余裕もなく駆け出した。
「何ッ!?何なのアレッ!?」
小動物を抱えたまま走る私は背後に視線を向ければ
「まぁてぇぇぇぇぇ!!そいつを寄越せぇぇぇぇぇ!!」
「追って来てるぅぅぅぅぅッ!?」
ズシンズシンと音を立てて巨体が追ってくる光景に私は悲鳴を上げてさらに走る足に力を込める。
「もう何なのッ!?何アレッ!?あんな化物に追われてる謎の生物助けるとか私のバカッ!!」
叫びながら私はわけもわからず叫び――
「あ、あなた誰プルッ!?」
「喋ったぁぁぁぁぁッ!!?」
私の腕の中で抱えられていた小動物が流ちょうに喋ったことに先程までの恐怖とは別に驚愕の叫びをあげる。
「って言うか訊きたいのはこっちなんだけどッ!?」
腕の中の小動物に向かって私は訊き返す。
「あなた何なの!?なんであんな化物に追われてるの!?ていうかそもそもあの化物何なの!?」
「そんな矢継ぎ早に訊かないでほしいプル!!」
小動物は私の問いに叫び
「私は妖精のメイプルだプルッ!!あの化物は人を襲って食べる『鬼』プル!!私達妖精は鬼を浄化するために人間と契約するプル!!あの鬼は私に人間と契約させないために私を殺そうとしているんだプルッ!!」
「そんな……」
妖精――メイプルの言葉に私は息を飲む。
「でも、これはチャンスだプルッ!!」
困惑する私の腕の中で目を輝かせたメイプルは私の顔に真剣な瞳で見つめ
「お姉さん、名前は!?」
「え…?胡蝶しのぶだけど……?」
「しのぶ!」
と、私が答えるとメイプルは目を輝かせ
「私と契約して魔法少女になってプル!」
「ま、魔法少女!?」
その突然の勧誘に私は困惑する。
「……なんでしょう?あなたのそのビジュアルでその台詞言われるとものすごく怪しいんだけど?」
「どこぞの聞こえのいいうたい文句でリスク説明せずに魔法少女に勧誘する悪徳勧誘と一緒にしないでほしいプルッ!!」
私の呟きにメイプルは心外そうに叫ぶ。
「とにかく私と契約して魔法少女になってほしいプルッ!魔法少女になってあの鬼を浄化してほしいプルッ!!」
「で、でも……」
メイプルの言葉に私は思案し
「ッ! 危ないプルッ!!」
「ッ!?」
メイプルの言葉に私はとっさに飛びのく。と、私の一瞬前にいた地面に先程の鬼の腕が叩きつけられる。
「キャッ!?」
その衝撃に再び吹き飛ばされながら私は地面を転がる。
「しのぶッ!しっかりするプルッ!!」
「つぅ……」
痛みに顔を顰めながら顔を上げると
「クヒヒヒヒ……誰か知らねぇがちょうどいい。その妖精をぶっ殺したら…次はお前を喰ってやる!」
「ヒッ!?」
ニヤニヤとおぞましい笑みを浮かべる鬼に私は息を飲み
「……め、メイプル!」
「プルッ!?」
私は覚悟を決めて腕の中の妖精に呼びかける。
「魔法少女になったら何かリスクとかあるの?」
「強いて言えば契約の条件として鬼の浄化に協力してもらわなきゃいけないプルッ!」
「…………」
メイプルの言葉に私は考え
「わかった、契約するわ」
私は頷きながら立ち上がる。
「こんな化物が野放しになっているなら、いつか私の大事な家族を襲うかもしれない。そんなこと許せない!」
私は叫びながらメイプルを見る。
「メイプル!私、あなたと契約するわ!だから私に鬼と戦う力をちょうだい!」
「わかったプルッ!ならこれを使うプルッ!」
私の言葉に大きく頷いたメイプルはどこからか私の手のひら大の大きさの不思議な四枚花弁の花を象った平たいブローチのようなものを取り出す。
「これを掲げて『ラブキュア・メタモルフォーゼ』って叫ぶプルッ!そしたら契約は成立!しのぶは魔法少女ラブキュアに変身できるプルッ!」
「わかっ――」
「させるかぁぁぁッ!!」
頷きそれを受取ろうと手を伸ばした私だったが、それを黙って見逃すはずもなく異形の鬼は私達に向けて大木のような腕を振るう。
「しのぶッ!!」
「ッ!!」
その腕が目前に迫る中、メイプルの差し出すそれを受け取った私は
「ラブキュア・メタモルフォーゼ!!」
叫んだ瞬間、そのブローチのようなものが光り輝き、その光が私の身体を包む。
※読者の皆さんの頭の中で各々の変身バンクをイメージしてください。
その光が晴れた時、私の身体は可愛らしい花を象ったドレスのような服にその上から蝶の羽の模様のような柄の羽織を羽織っていた。そして、何より変身する前に右手に握っていたブローチはその中心からブローチを鍔にして矢印を半分にしたような不思議な形のまるで刀のようなものに変化していた。
私が変身した瞬間に放たれた光は鬼の攻撃を弾いたようで鬼はたたらを踏んで数歩後退りして驚愕の表情を浮かべる。
「バカな…!鬼狩りッ!」
驚きながらも再び私達へ腕を振るう。
「ッ!?」
私はとっさにその攻撃を飛びのいて避ける。と――
「なッ!?」
ほんの少し跳んだつもりだったのに、私の身体はふわりと軽々と鬼の頭上を越えてその後ろに降り立った。
「何これ…?」
「これが魔法少女ラブキュアの力プル!」
驚く私に私の肩に掴まっているメイプルが言う。
「すごい……けど、あの一つ訊いてもいい?」
「何プル?」
「その『ラブキュア』って名前は確定なの?高校三年生にもなって『ラブキュア』って名乗るのはかなり恥ずかしいんだけど……」
「確定プル!」
「えぇ~……」
と、私達が話していると
「無視するんじゃねぇぇぇぇぇッ!!」
鬼が振り返りながら腕を振るう。
今度は避け切れず掠めてしまう。
「キャッ!?……って、思ったより痛くない?」
「その服の力プル!」
驚いている私にメイプルが言い
「さあそのステッキを使って鬼を浄化するプル!!」
「ステッキってこれ?」
「それプル!」
私は右手のそれを見せるとメイプルが頷く。
「……これ、ステッキって言うより刀に見えるんだけど?」
「魔法のステッキプル!」
「さっき変身するときに渡されたアレ、ブローチかと思ってたのに鍔みたいになってるんだけど?」
「気のせいプル!それよりも早くその『ニチリン・ブレード・ステッキ』を使って鬼を浄化するプル!」
「え?今『ブレード』って言った?言ったよね?」
「細かいことは気にしちゃ駄目プル!」
「いや、細かくは無いと思うんだけど――」
と、話していた私達は
「死ねぇぇぇぇぇッ!!」
再び振るわれた鬼の腕に吹き飛ばされた。
「キャッ!?」
「プルッ!?」
吹き飛ばされた私はとっさに地面にぶつかる衝撃に備えて体を丸めて頭を守るように腕で覆い
「……え?」
しかし、予想外に私の身を包んだのはふわりとした感触。
恐る恐る目を開けると、そこには私の身体を優しく抱きとめる人物の姿が映る。
その人物は黒い軍服のような服に赤と黄色や緑の複雑ながら柄の半分で違う羽織を着た人物。黒い長い髪を後ろでまとめた恐らく男性。恐らくと言うのはその人物は顔に波紋の模様の描かれた白い狐面を着けているので顔は窺えない。
「俺が来るまでよく持ちこたえた」
言いながらその男性はお面で表情はうかがい知れないもののその面の向こうから私を見つめる気配とともに優しい声音で言う。
その声と私を気遣って優しく抱きとめる腕の心強さに
「ッ!」
私の心臓が痛いほど脈打ち――
「ッ!?メイプル!?」
そこで先程まで私の肩にいたメイプルがいないことに気付く。
「大丈夫だ」
と、心配して周囲を見渡す私に私を抱き留める男性はそっとそばを指さす。
つられてその方向に視線を向けると
「危ないところだったビット。契約したての新人にはあの鬼は荷が重いビット」
「…………」
そこには猫のような宍色の毛色の妖精に抱き留められたメイプルがいた。
「サビット、この子とその妖精を頼む」
「任せるビット」
言いながら私をそっと優しく降ろした男性はその宍色の妖精に言いながら私達を庇う様に前に立つ。
「キヒヒヒッ!助っ人が来たところで何も関係ねぇ!お前らを喰って妖精二匹もぶっ殺してあのお方に――」
鬼は言いながら雄叫びを上げ
「ッ!」
そんな鬼へ狐面の男性は一息に駆け
「ウォーターズマジック、ウォーター・サーフェス・スラッシュ」
その腰から抜いた刀を振るう。その軌跡はまるで流れる水の様に煌めきながら鬼の頸をなぞり
「ギャァァァァァァッ!!?」
鬼はその動きに反応できなかったようで、苦悶の雄叫びを上げながら鬼は灰となって消えていく。
「なッ!?」
そのあまりに一瞬の出来事に私は思わず息を飲む。
「す、すごいプル!」
私の隣でメイプルも驚きに唖然としている。
「…………」
炭となっていく鬼を一瞥した狐面の男性はゆっくりと刀を腰に戻しながら男性はゆっくりと私の前に戻ってきて
「…………」
「え……?」
そっと私に向けて手を伸ばす。その手の意味に一瞬呆けたものの、それが座り込む私を立たせるためのものだと気付いた私は恐る恐るその手を取る。男性は力強く私を引っ張り上げる。
「あ、あの…ありがとうございました!」
「…………」
手を握ったままお礼を言う私にお面で表情が見えないまま私の顔をジッと見つめる男性はそっと手を離し
「サビット、行くぞ」
「ビット!」
サビットと呼ぶ妖精に呼びかけた男性はスッと踵を返す。妖精もそれに応じて後を追う。
「ま、待ってください!」
そんな一人と一匹に私は慌てて呼びかける。
「あ、あのお名前を教えてください!」
「…………」
私の問いに一瞬視線を向け
「ッ!」
何も答えず揃って跳び去って行った。
「…………」
私はその背中を茫然と見送り
「ッ!そうだ、メイプル大丈夫!?」
慌てて先程から一言も発しない妖精に駆け寄る。
「…………」
メイプルはポーッとどこか熱っぽい瞳で狐面の男性と宍色の妖精の跳び去った方向を見つめたままでいる。
「メイプル?どうしたの?どこか怪我したの?」
「……いい」
「へ?」
「サビット様、素敵…カッコいいプル……」
その熱っぽい視線のままホウゥとため息をつくメイプル。
目の前で興奮した様子で熱っぽい視線の妖精に私は唖然とする
「しのぶ、私恋しちゃったみたいプル……」
「えぇ……」
メイプルの言葉に私はため息をつく。
いつもと変わらないはずの今日、現実じゃ在り得ないような化物に遭遇し、妖精と言う摩訶不思議な存在と出会い、そんな妖精と契約した私はその日初めて会った妖精が恋に落ちる瞬間を見せられた。
――こうして、私は魔法少女になった。そして、一か月が経ち私は何度もメイプルに協力し鬼を浄化したのだった。そして……
「しのぶ!起きるプル!!」
「――へ?」
と、耳元で聞こえた声に私は深い微睡みの中から浮上する。
重たい瞼を上げればそこには
「はやく!早く起きるプル!!起きて時計を見るプル!!」
「時計ぃ……?」
興奮した様子のメイプルの言葉に私は瞼を擦りながら大きく伸びをし、枕元の目覚まし時計に視線を向け
「………へ?」
そこに表示される時刻に唖然とする。
現在、時計の示す時刻は8:00。
「寝過ごしたぁぁぁぁッ!!!」
私は跳び起き慌ててパジャマを脱ぎ捨て制服に着替えていく。
「ちょっとメイプル!どうしてもっと早く起こしてくれなかったの!?」
「なんども起こしたプル!!それでもしのぶが全然起きなかったプル!!」
「そんなッ!?姉さんやカナヲは!?」
「二人はもうとっくに出たプル!!二人共部活の朝練とか友達との約束があるって言ってたプル!!二人も何度も声かけてたけどしのぶが『あと五分だけぇ~』って定番のアレ言って、二人も仕方なくそれを信じて先に出ちゃったプル!!」
「そんなぁぁぁッ!!」
メイプルの言葉に私は涙目になりながらこれまでで最速で着替え、身支度を整える。
リビングに行くと朝食の目玉焼きとサラダにラップがかけてあるが食べている暇はない。
私は冷蔵庫から取り出した牛乳をコップに注ぎ、それを一息に飲み干し、焼いていないそのまま食パンを一枚手に取って家を出る。
「いってきます!」
私が最後で誰もいない家に習慣となっていて思わず声を上げながらガチャガチャと焦って少しもたついたもののカギをかけて駆けだす。
魔法少女になったおかげで基礎体力も上がっているらしく陸上競技なら世界記録も夢じゃない速度で駆ける私。
「食パンを食べながら遅刻寸前で走るなんてマンガみたいな光景プルね」
「言ってる場合!?」
メイプルの呑気な言葉に私はツッコみながら齧った食パンを飲み込む。
突っ込みながらも足を止めている間は無い。基礎体力が上がった私の足でも学校までにつくのは8:30の予鈴ギリギリだろう。
「はやく!!」
信号に掴まりイライラしながらその場で足踏みし今か今かと赤い信号を睨み
「ッ!」
青に変わった瞬間再び駆け出す。
早く、早く!
急く気持ちに呼応し私は四肢に力を込めて学校に向かって走り――
「胡蝶しのぶ、一分遅刻」
しかし、無情にも校門に立つ水色のジャージの体育教師――冨岡義勇先生は無表情のまま手に持つボードに挟んだ用紙に私の名前を書き込む。
「と、冨岡先生!そこをなんとか!一分くらい大目に見てくれてもいいじゃないですか!」
「ダメだ。一分でも遅刻は遅刻だ」
「そんなぁ……」
私はそんな冨岡先生の無情な言葉にがっくりと項垂れる。
「いいじゃないか、一分くらい大目に見てやれよ」
と、そんな私達にもう一人の体育教師、鱗滝錆兎先生が苦笑いを浮かべながら言う。
「胡蝶は優等生だ。遅刻だって入学から今日までで初めてのことだろう?大目に見てやれよ」
「鱗滝先生……!」
その優しい一言に私は感動に打ち震えるが
「ダメだ。規則は規則だ。例外は無い」
そんな鱗滝先生の援護射撃も空しく冨岡先生は意思を変えないようだ。
「もう!冨岡先生頭硬いですよ!」
そんな冨岡先生の言葉に私は思わず声を上げる。
「規則規則規則って!この朴念仁!そんなんだから生徒どころか同僚からも嫌われるんですよ!」
「…………」
そんな私の言葉に感情の見えない表情のまま私に視線を向けた冨岡先生は
「俺は嫌われてない」
平坦な声で答える。
そんな冨岡先生に私はさらに言葉をぶつけようと口を開こうとし――
「さぁ~びとセンセ~!!!」
響き渡った大声とともに昇降口の方から土煙を立てて黒髪三つ編みの人物がかけてくる。
「グッドモォォォニィング錆兎先生!!さあ、今すぐにハグハグしましょう!!そして愛を確かめ――ぶへっ」
とびかかってきたその人物――大好楓子の顔面を片手で掴んで受け止める鱗滝先生。しかもその指は顔に思いっきり食い込んでいた。あの様子ではまったく手加減なんてしていない。
「うるさいぞ大好」
「ぐぬぬぬ……相変わらず容赦ないアイアンクローですねッ!しかしこの痛みすら私には心地いい!!」
「変態は消えろ」
「辛辣!!でも嫌いじゃないわ!!」
叫びながら身を捻って鱗滝先生のアイアンクローから脱出する楓子。
「というか大好。お前何しに来た?もう予鈴は鳴っているぞ」
「しのぶ先輩に用があったんで下駄箱で待ってたんです!そしたら校門で先生達と話してるのが見えたので私も来たんですよ!」
「ならなんで俺に飛びかかってきた?」
「愛です!!」
「何故そこで愛ッ!?」
楓子の言葉に苦虫を噛み潰したような顔で鱗滝先生はため息をつき
「もういい、とりあえずお前ははやく教室へ行け」
言いながら楓子をまるで虫を払う様に手を振って追い払うように言う鱗滝先生。
「あん♡そんな連れないこと言わずに!もっと愛を語らいましょう!」
そんな鱗滝先生の言葉にも屈せず楓子は鱗滝先生の腕に自身の腕を絡める
「胡蝶、こいつをさっさと連れて行ってくれ。鬱陶しい」
「はい」
言われた私は鱗滝先生の腕に絡みつく楓子を引き剥がし引き摺って行く。
「錆兎先生~!!また放課後、体育倉庫で保健の個人授業を実技でしてくださいね~!!」
「『また』とか言うな。一度もしたことは無い」
私に引き摺られながらチュパチュパと両手で投げキッスを飛ばす楓子に鱗滝先生は頭が痛そうに額に手を当てながらシッシッと手を振る。
そんな鱗滝先生と無表情のまま黙って見送る冨岡先生に会釈した私はさっさと楓子を下駄箱まで引き摺って行き、そのまま靴を上靴に履き替える。
「……裏切者。自分だけ遅刻を免れて」
「しょうがないじゃない?遅刻するような子、錆兎先生に嫌われちゃうかもだし」
「あなたへの鱗滝先生の好感度はもはやマイナスの域でその程度はもう些細なことじゃないかしら?」
そう言って二年生の下駄箱から同じく靴をはき替えてやって来た
私が魔法少女になった一週間後、メイプルは変身魔法で人間の姿に擬態し、どういうコネを使ったのか私の通うキメツ学園の二年生に転校してきた。しかもクラスはカナヲと同じだ。
今日も途中まで一緒にいたはずなのに気付けば姿を消し、ちゃっかり遅刻を回避して登校していた。恐らく変身魔法同様の妖精の魔法でどうにかしたのだろう。
「と言うか、あなたが好きなのはサビットでしょ?それなのに鱗滝先生にも熱烈にアプローチして……ちょっと気が多いんじゃない?」
「しょうがないの!恋はいつでもハリケーンだから!!」
「あっそぉ……まあなんでもいいけど、サビットも鱗滝先生にもあなたの想いは届きそうにないけどね」
力強く言う楓子の言葉に私はため息をつく。しかし、そんな私の言葉に楓子は不敵に微笑む。
「ふっふっふ~、そう思うでしょ?しかぁし!!ここのところサビット様には会えてないからその分の行き場のない愛を錆兎先生への愛へ上乗せし100万ラブパワー+100万ラブパワー!!さらにいつもの倍のアプローチをかけて200万×2の400万ラブパワー!!そしてアイアンクローを受けたことでいつもの三倍の興奮を加えれば400万×3の1200万ラブパワーです!!このラブパワーを持ってすればきっといつも素っ気ない錆兎先生もきっと私の魅力にメロメロになるはず!!」
「何その謎理論?というかラブパワーって何よ?」
言いながらため息をつく。
「だいたいあなたは鱗滝先生に構ってもらえるからいいじゃない。私なんてあの狐面の方にずっと会えていないんだから……」
「まあまあいつかひょっこり会えるって。同じく鬼を浄化してるんだから」
そう言って私の肩にポンと手を置く楓子。
「……というか私があの方に会えてないのってあなたのせいなんじゃないの?」
「へ?」
私の言葉に楓子がきょとんと首を傾げる。
「忘れたとは言わせないわよ?私達が魔法少女として活動して数日経った頃、再び狐面のあの方とサビットに会えた時、あなたサビットを押し倒して熱烈に思いの丈ぶちまけてそのままキスしようとしたわよね?」
「思わず熱いパトスが迸って……テヘッ!」
「テヘッじゃないわよ!あの方達とはあれ以来会えてないのよ!明らかに私達のこと避けてるじゃない!!」
「そんなこと――あれ?あるかも……!」
私の言葉に楓子は笑い飛ばそうとしてハッと眼を見開く。
「そんな…私のアプローチでサビット様に避けられているなんて……」
驚愕の表情を浮かべる楓子に、流石に事実でも言わない方がよかったかも、と後悔しかけて
「そうか、サビット様照れてるんですね!いやん可愛い!そう言うところもらいしゅき!!」
「私の罪悪感を返して」
興奮した様子で頬を抑えて身体をくねらせる楓子に私はため息をつくのだった。
「ッ!?」
「??? どうした錆兎?」
「い、いや、なんでもない。何か悪寒が走ったんだが、たぶん気のせいだ」
ゾワッと背筋を走った悪寒に身震いした錆兎に義勇が訊くが錆兎は首を振って答える。
「そうか。気を付けろ。最近鬼狩りで夜も遅くなっている。体調を崩さないようにな」
「ああ。と言うかそれはお前の方だろう?俺はサポートばかりで実際に鬼を相手にしてるのはお前なんだから」
言いながら自身を気遣う相棒へ錆兎は微笑む。
「というか、胡蝶の遅刻も大目に見てやればいいだろう?彼女の今日の遅刻だって、恐らく鬼狩りで夜更かしが続いた弊害だろうし」
「……規則は規則だ」
「ふぅ…真面目だな」
義勇の言葉に錆兎は呆れながらも微笑む。
「それに、彼女のことを思うなら、彼女と共闘した方がいいと思うんだが?その方が胡蝶の妹も負担が減る――」
「それは絶対に駄目だ!!」
義勇の言葉を遮って錆兎が顔を顰めて言う。
「あの子と共闘するということはあの変態妖精と関わることも増えるということだ。ただでさえ何故か人間状態でも付け狙われてるのに妖精状態でも付き纏われたら厄介だ!」
「そうか……」
疲れた顔で言う錆兎に義勇はなんと言っていいかわからず頷くしかできなかった。
「というかあの妖精何なんだ?出会って二回目で押し倒してくるわキスを迫って来るわ。しかも正体を知らないくせに〝錆兎〟状態でも別人として迫って来るし」
「愛ってやつなんじゃないか?」
「愛怖いな!!」
義勇の返答に錆兎は頭を抱えてため息をつく。
「とりあえず当面は今のまま彼女の負担が減るように彼女の手が回らなそうなところで鬼を浄化しよう」
「わかった」
錆兎の疲れた顔のまま言う言葉に義勇は頷く。
「さ、とりあえず今は教師の時間だ。お互い頑張ろう」
「ああ」
頷き合った二人は鬼狩りから一教師へと思考を切り替えるのだった。
つ・づ――かない
と言うわけで記念の番外編でした!
お陰様でお気に入り件数3000件!これも読んでくださっている皆様のお陰です!
これからも「恋柱の継子、人の恋路に世話を焼く」をよろしくお願いします!
前回アンケートを取りました番外編の内容ですが二位になっていた「キメツ学園の続編」は本編話数50話記念の時にでも書きます。残りの二本もそのうちやるかも……。
ちなみにこの番外編は続きません。一発ネタです。続きは期待しないでください。
そんなわけで今回の質問コーナーです!
今回はクロンSEEDさんからいただきました!
――もし錆兎が生きていたらどうやって落とすつもりですか?3パターン位で教えて下さい
楓子「そうですね。とりあえず正攻法でまずは胃袋を攻めるね。手料理を振舞って錆兎さんの好みを把握し私の料理じゃないと満足できない身体にします。あとは錆兎さんの実力なら柱かそれに連なるレベルの実力者になるの予想できるんで情報戦略部の権力で一緒に任務に就けるように操作し、有能な相棒になり、公私ともにできる女であることをアピールします。この2パターンで落とせなかったら最後の手段です。薬盛って性欲が抑えられなくなった錆兎さんと既成事実を作って無理矢理責任を取らせます。この3パターンですね」
だ、そうです!
そんなわけで今回はこの辺で!
次回からはまた本編に戻ります!
お楽しみに!
~大正コソコソ噂話~
今回の番外編の設定いろいろ
〇基本設定はキメツ学園時空と同じで、そこに魔法少女や鬼、妖精と言った日曜朝のプリキュア的設定が盛り込まれている。
〇妖精:人間と契約して鬼を浄化する魔法の力を与える。
〇ニチリン・ブレード・ステッキ:妖精と契約した人間が鬼と戦うための魔法を行使するための武器。ステッキとは言うが見た目は完全に日本刀。魔法の力を纏った刀身で鬼の頸を斬ると浄化できる。吸って期ごとに使える魔法が違い。しのぶのステッキは特殊なためしのぶは首を斬らなくてもその魔法の性質で鬼を浄化可能。
〇鬼:人の邪な欲望・悪意から生まれる存在。大昔、邪悪な魔法使い鬼舞辻無惨によって生み出された。鬼舞辻無惨は現在も健在で鬼を増やしている。
〇胡蝶しのぶ:妖精のメイプルと契約して魔法少女になった。高校三年生。なりたての頃は経験不足のため鬼を多く倒すのは難しかったが、一か月の間に戦い方をマスターし一晩で多くの鬼を浄化できるまでに成長した。初めて変身した夜に自身を救ってくれた狐面の男に絶賛片思い中、しかし、その正体は知らない。
〇メイプル(=大好楓子):白色の体毛と長い耳が特徴の、しのぶと契約した妖精。。初対面でしのぶにキュウベェと同列に扱われたのがいまだに少しショック。自分の容姿についてはテリアモン寄りだと思ってる。人間に擬態する変身魔法で人間の姿になってキメツ学園の二年生として通っている。サビットと鱗滝錆兎に好意を寄せており、見かければ周りに構わず熱烈なアプローチをしかける。サビットと狐面の男の正体はしのぶ同様知らない。
〇狐面の男:黒い軍服の上に赤と毘沙門亀甲柄の半々の羽織を着た人物。その顔を狐面で隠しているので正体は不明。しのぶの窮地を二度救っている。いったい何岡義勇なんだ?
〇サビット:狐面の男と契約している宍色の毛色の妖精。二度目に会った時にメイプルに押し倒されキスを迫られて以来彼女を苦手としている。いったい何兎なんだ?
〇魔法少女ラブキュア:しのぶがニチリン・ブレード・ステッキを使って変身した姿。ちなみにこの名称の名付け親はメイプルであり全ての妖精と契約した人間がそう呼ばれるわけではない。しのぶ限定である。が、しのぶはそのことを知らないので妖精と契約した人間は全員そう言う呼び名になると思っている。彼女がその真実を知った時ひと波乱起こるがそれはまた別の話。