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「すいませんでしたぁぁぁぁ!!!」
「急にどうした?」
突如頭を下げた楓子に小芭内は困惑した表情で訊く。
「その…先日のお弁当……」
「ああ、あの俺と甘露寺を模した弁当な。なかなか美味かったぞ」
「本当にすみませんでしたぁぁぁぁぁ!!!」
「だからどうしたというのだ?」
再び謝る楓子に小芭内は怪訝そうな顔で訊く。
「その…蜜璃さんから伊黒様があまり食べていなかったと聞いて……その、もしかして伊黒様ってその口の傷のせいで固形物が食べづらかったんじゃないかと思いまして……」
「あぁ……」
小芭内は楓子の答えに合点がいったというふうに頷き
「まあ、お前の想像通り、俺はこの傷のせいで固形物は食べづらいと言うのはあるな」
小芭内は頷きながら口元を覆う包帯の上から傷のあたりを撫でる。
「だが、苦手ではあるが別に食えんわけではない。お前の弁当もちゃんと美味しく――」
「それじゃあ私の気が済まないんです!」
小芭内の言葉を遮って楓子が言う。
「私の用意したお弁当で少しでも不自由や不快な気持ちを感じたとあっては、これは私のみならず我が師たる恋柱・甘露寺蜜璃の名に泥を塗るようなものです!」
「お前、そんな気遣いができる人間だったのか?」
「酷い!私のことを何だと思ってるんですかッ!?」
「知りたいか?」
「………遠慮しときます」
小芭内の言葉に楓子はため息をつく。
「とにかく!このままでは私の気がすみません!私に名誉挽回の機会をください!」
「名誉挽回の機会?何をする気だ?」
「フッ!食事での失敗は食事で挽回します!」
小芭内の問いに不敵に楓子は微笑み
「伊黒様、一週間後もしよろしければ我が師である蜜璃さんの屋敷に来ていただけないでしょうか?よければ、お食事会でもいたしませんか?」
「何?」
「無論、蜜璃さんの許可はとっていますし、なんならその食事会には蜜璃さんも出席します」
「ほう……?」
楓子の言葉に小芭内は目を細める。
「伊黒様、まだ蜜璃さんのお屋敷に来たことないでしょう?いかがです?今度は伊黒様でも食べやすい料理を中心にするつもりですが」
「ふむ、なるほど……」
楓子の言葉に少し考える素振を見せた小芭内は
「なかなかいい気遣いだ。今回はお前のその気遣いに免じて招待にのろう」
「ありがとうございます!」
小芭内の返答に楓子は笑顔で頷き
「まあだからと言ってこの後の稽古で手を抜くつもりはないがな」
「えぇ~……」
しかし、小芭内の言葉に不満げに口を尖らせるのだった。
○
「~~♪~~~♪」
楓子の誘いから一週間後、食事会当日の夜、小芭内は蜜璃の屋敷への道を歩きながら鼻歌まじりに歩いていた。その手には手土産として花束が握られている。
屋敷の前に来た小芭内は大きく深呼吸をし
「よ、よし……!」
気合を入れて門をくぐり扉に手をかける。
「御免、邪魔をするぞ」
玄関から屋敷の中に呼びかける。と――
「伊黒さん!いらっしゃいませ!」
奥から笑顔の蜜璃がやって来る。
「すまないな、少し遅れた。これは土産だ」
「まぁ!ありがとう!とっても綺麗ね!」
小芭内の差し出した花束を嬉しそうに受け取った蜜璃。
「今日は招待してくれてありがとう、ご相伴に預かった」
「いいのよ!今日のはふーちゃん発案だから、お礼は彼女に言ってあげて!」
「ああ」
「あ、ごめんなさい玄関先で立ち話なんて。どうぞ上がって!」
「ああ、邪魔するぞ」
蜜璃に促され小芭内は上がる。
「ふーちゃんは今料理を仕上げてるからもう少し待ってね!」
「ああ」
「もうみんな揃ってるから、ゆっくりお茶でも飲んでたらできると思うわ!」
「ああ……ん?みんな?」
話しながら蜜璃に案内されていた小芭内はその言葉に首を傾げる。
そこで蜜璃が立ち止り襖を開ける。と、そこには――
「おお!来たか、伊黒!」
「遅いですよ、もうみんな揃ってるんですからね」
「こんばんは、蛇柱様」
「…………」
机を囲んで座る煉獄杏寿郎、胡蝶カナエ、しのぶ、カナヲ、冨岡義勇の姿があった。
「すべて~は~愛のタ~メルィック♪はらは~らハラペェ~ニョ~♪」
私は歌いながら鍋をお玉でかき混ぜる。
「泣かれ~ちゃ~やだもんシナモ~ン カルダモン♪無理か♪パプリカ♪こりごりコリアンダ~♪」
歌いながら鍋に調味料を加え
「さくら~んしてサフラン♪ちょこっとチョコr――」
「おい、これはどういうことだ大好楓子!!?」
「わひゃぁっ!!?」
突如飛び込んできた伊黒様の声に私は思わず素っ頓狂な声を上げる。
「な、なんですかもうびっくりさせないでくださいよ!」
ため息をつきながら見ると伊黒様はジト目で私を睨んでいた。
「お前、これはどういうことだ?」
「どうって……今のはなんか思わず口を突いて出てしまった歌で――」
「歌の事なんて訊いていない!!というかどうでもいい!!」
私の言葉を遮って伊黒様が言う。
「何故今日の食事会にあの五人がいる!?」
「あぁ、そのことですか」
伊黒様の言葉に私は納得して頷き
「私、食事会に招待しましたけど、それが三人だけでの食事会だなんて言ってませんよ?」
「何だとッ!?」
私の返答に驚く伊黒様。
「もしかして三人だけで食事すると思ってたんですか?」
「あの言い方だとそう思うだろう普通!」
「いやいやいや、いきなり三人でしかもこのお屋敷でなんて無理ですって」
伊黒様の言葉に私は答える。
「いいですか?今回のこのお食事会は私のリベンジ兼伊黒様がこのお屋敷に呼ぶ蜜璃さんの精神的障害を取り除くことも目的なんですよ」
「どう言う意味だ?」
「普通女二人しか住んでいない屋敷に異性をそう簡単に呼べると思いますか?」
「それは……」
私の言葉に伊黒様が言い淀む。
「だからまずは複数人での食事会を開いて蜜璃さんに伊黒様を家に呼ぶことへの抵抗を減らしてもらうんですよ」
「なるほど……」
「あと単純にいきなり三人だけだと伊黒様絶対喋れなくなると思うんで」
「待て!なぜそうなる!?普段の食事なんかでもちゃんと――」
「でもここ蜜璃さんの家っすよ?出来るんですか、緊張せずに会話?無理でしょ?」
「…………」
私の問いに伊黒様は押し黙る。
「普通の心境で過ごせます?無理でしょ?ここあなたの大好きな蜜璃さんが毎日寝起きしてる家ですよ?冷静に過ごせます?絶対無理でしょ?だから今日のこれは伊黒様の心構えを作るって言うのも目的なんですよ。ご理解いただけました?」
「…………」
私の言葉に伊黒様は何も言えず黙ったままだ。
「さっ!理解したら運ぶの手伝ってください!」
そんな伊黒様に私は重ねた皿を強引に押し付けた。
○
「うまい!」
スプーンを口に運んで第一声、杏寿郎さんは大声で叫んだ。
「うまい!うまい!うまい!!」
そのまま二口目、三口目と立て続けに運びながら叫ぶ杏寿郎。
「ハハハッ、杏寿郎さんはそうやってちゃんと言葉にしてくれるから作り甲斐がありますね」
「でも、これは美味しいわね。私も思わずうまいうまい言いながら食べちゃいそう。不思議な味ですね、『りぞっと』って言うんでしたっけ、コレ?」
「ええ。ヨーロッパのイタリアと言う国が発祥の料理です。まあおじやの親戚みたいなモノだと思ってもらえればいいと思いますよ」
カナエさんの問いに頷く。
「こっちの『ちんじゃおろーす』というのも美味しいわね。野菜の食感もシャキシャキしてて味も濃いから普通の白ご飯にも合いそう」
「そっちは清国の料理です。漢字で書くと『青椒肉絲』と書くんですが、『青椒』は品種改良して辛みを抜いた唐辛子、今回はピーマンですね。『絲』は細切りにした具を炒めた料理の事です。要は見た目通りピーマンと肉の細切り炒めって意味ですね」
しのぶの言葉に実際に漢字を書いて見せながら楓子は解説する。
「このカレーのようなスープもいいお味ね!身体がポカポカするわ!」
「それはそのまま『スープカレー』ですね。本来はご飯と一緒に食べるんですが、今回はご飯ものとして『リゾット』を用意したのであえて出しませんでしたが、蜜璃さんは食べますか?」
「うん!食べるわ!」
「わかりました!他の方も食べられるようだったらお声掛けください。普通の白飯もご用意していますので」
「うむ!いただこう!」
「了解です」
杏寿郎が応じたので楓子は蜜璃含め二人分の白米を用意する。ついでに白米をおひつに入れて運んでくる。
「うむ!ご飯と合わせても非常にうまいぞ!」
「ホントッ!いくらでも食べられちゃうわ!」
楓子から受け取ったご飯で早速食べていく元師弟の杏寿郎と蜜璃。そんな二人を見ながら楓子は小芭内に視線を向ける。
「どうでしょう、伊黒様?私は汚名返上できたでしょうか?」
「もともとそんな汚名は無かったが、まあ返上することは出来たのではないのか?」
「やったぁ!」
小芭内の言葉に楓子は嬉しそうに微笑んだ。
「冨岡様もどうです?前回のエビマヨとはまた一風変わった料理でしょう?」
「……そうだな」
「美味しいですか!?」
「……ああ」
「鮭大根とどっちが美味しいですか!?」
「……………」
「あ、はい、理解しました」
義勇の沈黙に楓子はそれ以上の追及を辞めた。
「すいませんねぇ、今回は鮭大根の用意が無くて。食べたかったらしのぶさんに作ってもらってください」
「な、何故私限定なの!?」
「だって前に食べた時気に入ってらっしゃったので、毎日食べたいって」
「それは私の限定ではなく鮭大根そのもののことでしょう!?」
「まあまあ、別に作ってあげればいいじゃない。冨岡君も実際気に入ってるみたいだったし」
「姉さんまで!?」
実の姉の思わぬ楓子への援護射撃にしのぶはしどろもどろになりながら
「ま、まあ気が向いたら作ってもいいですけど……」
「是非頼む」
「気が向いたらですからね!」
食い気味に言う義勇にしのぶは言いながら照れを隠すように箸を進める。
「楓子君!おかわりを貰えるか!?」
「わたしも~!」
「はいは~い」
と、皿を差し出す杏寿郎と蜜璃の二人に笑顔で応じて楓子はおかわりを盛る。
「いやぁ~、しかし実にうまい!相変わらず楓子君の料理は珍しい物ばかりだ!」
「そう言えばこやつに呼吸を教えたのはお前だったな」
「ああ!その時にもたびたびこうして料理を振舞ってもらっていた!」
小芭内の言葉に頷きながら杏寿郎は答える。
「母が死んでから男所帯でな。何かと家事の面倒も見てくれた!楓子君は将来いい妻になるだろうな!うちの弟の嫁に欲しいくらいだ!」
言いながら杏寿郎は楓子に視線を向け
「楓子君には思い人やいい相手はいるのか?」
「思い人ですか?いますよ」
杏寿郎の問いに楓子はこともなげにさらりと答える。
「なんと!?いるのか!?」
「そりゃぁ、私も年頃の乙女ですからねぇ」
「いったいどなたなんですか?」
突然の恋バナにカナエは興味津々で、しのぶも言葉にはしないものの興味深そうに見ている。
「えぇ~、恥ずかしいですよ~」
「いいじゃない。教えてよー」
照れたように頬に手を当てる楓子にカナエは楽し気に訊く。
「……実はー」
楓子はそんなカナエや他の面々の視線を受けながら照れたようにはにかみ――
「実はー…わたしー…蜜璃さんのことが大好きなんです!キャッ!言っちゃった!」
「「「…………」」」
楓子の答えにカナエとしのぶと小芭内は肩透かしを食らったようにずっこける。
そして、名を呼ばれた当の本人の蜜璃はと言えば
「ふーちゃん!私もふーちゃんのこと大好きよ!」
感激したように満面の笑みを浮かべていた。
「蜜璃さん!」
「ふーちゃん!」
「「ヒシッ!」」
「「「…………」」」
お互いに名前を呼び合いながら熱い抱擁を交わす恋柱師弟にカナエは苦笑いを浮かべ、しのぶと小芭内は一体何を見せられているんだ、と言う表情で眺め
「うむ!師弟で仲がいいのはいいことだな!」
微笑まし気に笑いながら頷く杏寿郎。
「「…………」」
カナヲと義勇は黙々と食事を続ける。
「私が聞きたかったのは異性の好きな人の事だったんだけどなぁ……これはまだ恋は先なのかしらねぇ~」
「恋愛的に好きな人もいますよ」
「「「「いるのッ!!?」」」」
カナエのつぶやきに再びさらりと答えた楓子にカナエ、しのぶ、小芭内に加え蜜璃が声を上げる。ただし、驚く三人とは違い、蜜璃は恋バナを楽しむようにニコニコと笑っている。
「え?誰々!?もう思いは伝えたの!?」
「いえ、伝えてません」
「そうなの?ってことはまだ恋の駆け引きの真っ最中かしら?」
「それも『いいえ』ですね」
蜜璃の問いに楓子は首を振る。
「あら、そうなの?」
「意外ね、楓子ちゃんなら好きな相手には胃袋から掴んでモノにする、くらいは考えてるかと思っていたのに」
「できるものならそうしたいですけど、私のその人への気持ちは伝えられないので」
意外そうに驚くカナエとしのぶの言葉に楓子は苦笑いを浮かべて答える。
「自分よりも位が高いとか、家柄の問題か?そう言うことなら、知り合いなら俺が取り持つぞ!」
「杏寿郎さんのお心遣いは嬉しいのですが、そう言うことではないんですよ」
「歯切れが悪いな。地位や家柄でないならお前が思いを伝えるのを躊躇う相手とはいったいどういう相手なんだ?はっきり言えばいいだろう」
「……伝えるのを躊躇っているんじゃなくて、言葉通り伝えられないんですよ」
小芭内の問いに答えた楓子の言葉の意味が分からず、みな首を傾げる。そんな面々に楓子は特に気にした様子もなく、いつもの軽い調子で応える。
「だってその方、もうすでに鬼籍に入ってますから」
『ッ!』
楓子の言葉にみな息を飲む。
「さすがにもう亡くなった方には伝えられないでしょう?」
楓子は気にした様子なくいつも通りの笑顔で言うが、他の面々は押し黙っている。
「すいません!空気悪くしましたね!食事続けてください!私は食後の甘味を用意してきます!」
その雰囲気に楓子は苦笑いを浮かべて立ち上がり、部屋を後にした。
残された面々は少し押し黙っていた。
少し後、食後のデザートを用意して戻った楓子は本当にいつも通りの様子で、他の面々もあえて先程の話を蒸し返すこともなくそのまま食事会は和気藹々と進むのだった。
今回はあまりギャグっぽくなかったですが、楓子ちゃんの想い人についてはこれから作中に触れていきますのでお楽しみに!