2022年最初の本編投稿です!
「ここ…か……」
萌柱邸の前で、その門扉を見上げて厳つい顔の少年――不死川玄弥は呟く。
この屋敷に用があって訪ねてきた玄弥だったが、門扉は開け放たれているのにそこをくぐる最後の一歩を踏み出す脚は重い。
それは『梁』の拠点となっていることもあって他の柱よりも大きな屋敷の萌柱邸に気圧されて――と言うわけではなく、彼の足取りを重くさせている主な要因は
(大好楓子…さん……あの人、初対面の時のアレのせいで苦手なんだよなぁ……)
単純に楓子への苦手意識のせいだった。しかし、実際の所は思春期に突入した玄弥にとって少女から妙齢の女性まで、〝女の人〟は全般苦手なのだが……。
それはともかく――では、何故そんな玄弥が萌柱邸にやって来たかと言うと
(なんでよりによって……カナエさんここにいるんだよ……)
玄弥は大きくため息をつく。
玄弥が今日こうして萌柱邸にやってきたのはカナエを訪ねてだった。
玄弥はその
本人は別の日でもいい、と再三申し出たのだが、カナエがどうしてもと言うのでこうしてやって来たのだ。
(カナエさん……あの人も苦手なんだよなぁ……なにかと距離が近いって言うか……『私のことはお姉ちゃんだと思って~』なんて言って……)
再び大きくため息をついた玄弥は、いつまでも門の前に突っ立っていても仕方がない、と重い脚を進め、門をくぐる。
そのまま進み玄関の前に立った玄弥は扉の前で大きく息を吐き、意を決して扉を開ける。
「ごめんください!」
扉の向こうに呼びかけて少し待つ。が――
「………あれ?」
待てども待てども返事は無い。
「なんだよ……ここに来いって言ったのはカナエさんなのに……」
眉をしかめて首を傾げる玄弥。と――
「――ん?」
どこからか騒ぐ声が聞こえた気がした玄弥は玄関から一旦出てよく耳を澄ませる。と、声の出どころはすぐそばからだと気付く。
玄弥はその声を追って庭の方に回っていく。と、そこでは――
「へい、ぴっちゃあビビってる!!」
「へいへいへい」
「おいこら炭治郎!!それにカナヲちゃんまで!!集中して投げらんないでしょうが!!」
口元に手を添えて叫ぶ炭治郎とほとんど声を張らずに平坦な声で合いの手を言うカナヲ、そんな二人に叫ぶ善逸。そんな善逸の対面では
「ヘイヘイヘ~イ!カモ~ン善逸君!狙い打ったら外さないよ~ん!」
「オラァ!さっさと投げろやぁ!!ビビってんじゃねぇぞ!!」
「このバカ猪がぁ!!味方に挑発してどうすんだ!!」
日輪刀ほどの長さの棒を左半身を善逸に向けるように構える楓子とその一歩後ろでしゃがみ込んで両手を構える伊之助、そんな伊之助の叫びに善逸が言い返し
「大丈夫だよ善逸君!打たれても私がちゃんと捕るから!安心して投げていいからね~!」
「真菰さん!はい!!」
自身の後方で言う真菰の言葉に勇気づけられた善逸は右手に握っていた布の球を大きく振りかぶって――
「やぁぁぁぁぁッ!!」
伊之助の構える手に向けて布の球を思い切り投げる。
対する楓子は棒を両手で握り左足を上げてフラミンゴのように右足一本で立ち
「野球の呼吸・壱の型!一本足打法!!」
叫びと同時に身体に捻りを加えながら上げていた左足を踏み込んで大きく振りかぶった棒を振るう。
パカ~ン!!
楓子の振った棒は善逸の投げた球を芯に捉え大きく上空へと飛んで行く。
「しゃぁッ!!」
「おお!!」
「ッ!」
「あぁ!」
「何やってんだよ!!」
ガッツポーズする楓子と歓声を上げる炭治郎、球の軌道を目で追うカナヲ、打たれてショックを受けた様子で唖然としながら球を見上げる善逸、そんな善逸に怒声をぶつける伊之助、そして――
「任せて!!」
飛んで行く球を見つめたまま追って駆ける真菰。その軌道の先には
「え?」
その光景を茫然と眺めていた玄弥がいた。
「「「「え?」」」」
その時初めて玄弥がいることに気付いた楓子達だったが、真菰は球を見上げたまま走っているので玄弥に気付かない。
ボールを追って跳んだ真菰は
「あ……ッ!?」
そこで初めて玄弥の存在に気付き慌てて身を捻る。
咄嗟のことに柱の継子である真菰でも身を捻るのが精いっぱいだった。
対する玄弥もほんの一歩身を引くだけで直撃は避けられただろう。実際一歩引こうと足を上げかけた。が――
(――いや、避けて…いいのか……?)
一瞬頭をよぎった思考に玄弥は咄嗟に、逆に一歩踏み出してしまっていた。
そのまま腰を落とし迫る真菰を受け止めようと身構え――
「………あれ?」
いつまでも来るはずの衝撃が無く、逆に優しく包み込むように受け止められたことに首を傾げた真菰は、ゆっくりと視線を自身の背後に向け
「あッ……えっと……」
自分でも咄嗟のことで少し困惑した様子で真菰の視線を受ける玄弥の姿に
「……フフ、受け止めてくれてありがとう」
「ッ!?」
ニッコリと微笑む。
真菰の笑みに玄弥は息を飲み
「……で…そのぉ~…助けてもらってこれを言うのは少し申し訳ないんだけど……」
その笑みが苦笑いに変わったのを見て困惑する。言い淀む真菰は苦笑いのまま視線を下――自身の身体にゆっくりと移す。
玄弥もその視線を追って真菰の身体、その胸元に向ける。そこには豊満な真菰の胸を受け止めた時にそのまま掴んでいる自身の手があり――
「手の位置…もう少しずらして貰ってもいい?」
「~~~ッ!?/////」
真菰の申し訳なさそうな苦笑いの言葉に玄弥の顔が一瞬にしてボッと音が聞こえそうな勢いで真っ赤に染めた。
〇
「――いやぁ~、ごめんごめん。カナエさんから玄弥君が今日来ることは聞いてたんだけど……」
萌柱邸内の診察室で待っていた玄弥は申し訳なさそうに微笑んで入ってきた楓子に視線を向ける。
「カナエさんは今ご近所さんのところに行ってるよ。今朝急に近所のおばさんが腰をぎっくりやっちゃったらしくてね。気のいい人で良くお世話になってる人だからお返しにって診に行っててね。もうすぐ戻ってくると思うから」
「……うっす」
自身の前に湯気の立つお茶の入った湯飲みを置き対面に座った楓子に玄弥は少し俯き加減で頷く。
そんな玄弥を数秒見つめながら自分の分のお茶をすすった楓子は
「………さっきのは気にしなくていいと思うよ?」
「え……?」
意味が分からず首を傾げた玄弥は
「まこちゃんの胸鷲掴みにして揉みしだいたこと」
「ッ!?/////」
続いたその言葉に再び顔を真っ赤に染める。
「故意だったなら私も鉄拳制裁も辞さないけど、まこちゃんを助けようと気遣ってのことだし。本人が気にしてないって言うんだから、ね?」
「本人?」
「揉まれた本人」
「…………」
楓子の言葉に玄弥は押し黙る。
「てなわけで、ここで私からの話はおしまい。どうしても君が気になるならあとは当人同士でお好きなだけどうぞ」
肩を竦めながら言った楓子はコホンと咳払いをし
「じゃ、いままではまこちゃんの親友の大好楓子としてのお話。ここからは『梁』の責任者としての大好楓子としてのお話」
にっこりと微笑んで言う。
「君の体質のことはカナエさん達から報告は受けてる」
「ッ!」
楓子の言葉に玄弥は目を見開く。
「経過をまとめた資料にも目を通してるから状態は把握してる。鬼を食べて身体能力を強化し、さらに再生能力の向上……医学に携わる者としてはかなり興味深い。そして同時に医学に携わる者としてその危険性をコンコンと説教してやりたい気分だよ、不死川玄弥君?」
「…………」
楓子の言葉に玄弥は俯く。
「……でも、説教はしない。君だってそのあたりのことは重々承知してるでしょうし、その辺のことはしのぶさんやカナエさんから言われてるだろうしね。何より多分君の立場なら私も藁にも縋る想いで同じ方法を取ったかもしれない。だから私は君にこれ以上とやかく言わない」
「………はい」
楓子の言葉に玄弥は重く頷く。
「ただ、一つだけ忠告しておくと……」
そんな玄弥に楓子は苦笑いを浮かべ
「絶対、何があっても、君がこれまでしてきたこと、お兄さんには言わない方がいい。いやホントこれかなり本気で、冗談抜きにバレたら君たぶん殺されるから」
「いや…流石に兄貴でも……」
殺したりはしないだろう――と言う言葉を、しかし、玄弥は言えなかった。
鬼殺隊に入ってすぐに会いに行った兄の言葉は、拒絶だった。
お前なんか知らない、俺に弟なんていない――鬼のような形相で睨まれたあの冷たい言葉を玄弥は今でも思い出す。
あの兄ならば、あながち楓子の言葉も冗談とも取れない。そう思った玄弥は言葉の途中で押し黙る。
そんな玄弥の様子に頷いた楓子は
「まあもしそんなことになったら、今度は不死川様が
「あの人?」
楓子の言葉に玄弥は首を傾げる。
「あの人はあの人だよ。君のお義姉さん」
「姉?俺に姉貴はいないっすよ?」
「ん?」
「え?」
玄弥の言葉に首を傾げる楓子。そんな楓子に玄弥も同じように首を傾げ
「……あぁ~」
その様子に楓子は全て察する。どうしたもんかと頭を掻く中――
「ごめんね!遅くなっちゃって!」
そんな困惑の静寂に一人の人物が割って入る。
二人が声の方に視線を向けると、そこには診察室の扉を開けて立つ笑顔の女性――胡蝶カナエの姿があった。
「……ん?どうかしたの?」
二人の間に妙な様子に首を傾げるカナエ。
「あぁ~……まあいろいろと世間話をしてただけですよ」
カナエの問いに何と答えたものかと考えた楓子はとりあえずごまかすことにする。
「フフ、一体どんな話してたの?」
「まあいろいろと。彼の体質のこととか?」
「あぁ……」
楓子の言葉に納得した様子でカナエは頷く。
「私としても、あんまり危険なことはしてほしくないんだけど……」
「…………」
カナエの言葉に玄弥は目線を逸らす。
「どう、調子は?けだるいとか、身体に違和感はない?」
「……いえ、大丈夫…です」
「……そう」
玄弥の返事にカナエは頷き
「じゃ、さっそくいつもの検査しちゃいましょうか」
にっこりと優しく微笑んだ。
〇
「――うん、問題なさそうね」
カナエは手元の書類に最後の数値を書き込む。現在診察室にはカナエと玄弥のみ。楓子はカナエと交代し退室していた。
「今日の検査はこれでおしまい。また次回、ね」
「……うっす」
カナエの言葉に玄弥は頷く。
「でも、また次の検査までに何か身体に違和感を覚えたり、少しでもおかしなことがあれば、いつでも私に相談してね」
「うっす……」
「身体のことじゃなくても、何か悩みがあったらいつでも相談してくれたらいいからね…その…お兄さんのこととか……」
「…………」
カナエの言葉に玄弥は押し黙る。
「なかなか他人に相談って難しいと思うから、さっき楓子ちゃんとしてたみたいに気軽に世間話とかからでもいいわ」
「…………」
「私のことはお姉ちゃんだと思って…ね?」
「……うっす」
「……ごめん、毎度毎度お節介だよね」
「……いえ」
「でも、あなたの力になりたいのは本当だから……頭の片隅にでも覚えておいて」
「…………」
「……じゃあ…また」
「……うっす」
頷いた玄弥は椅子から立ち上がり診察室を後にしようと扉に向かい
「――?」
ドアノブに手を掛けたところで違和感を覚える。
今のカナエとのやり取りに何か気になることがあった。
それが何なのか、わからない。玄弥は記憶を探り
「ん?どうかしたの?」
そんな玄弥にカナエが呼びかける。
玄弥はカナエの方に視線を向け
「――あ」
自分の覚えた違和感の正体に気付いた。
先程の楓子との会話の中で登場した、いないはずの『姉』のこと。そして、その『姉』に兄がぶち殺されるかもしれないという発言。そしてそして、自分のことを『お姉ちゃん』だと思ってほしいという目の前の女性。
「ん?」
その女性は首を傾げながら自分に優しく微笑みかけている。
「…………」
その笑顔に玄弥は逡巡し
「……あの、一つ訊いてもいいですか?」
「うん?なぁに?」
「…………」
カナエの笑顔に言い淀んだ玄弥は意を決して口を開く。
「その……兄貴――不死川実弥とどういう関係なんですか?」
「ッ!?」
玄弥の問いにカナエは眼を見開き
「……えぇっと…どう、と言われたら…難しいわね…困ったわ……/////」
わかりやすく動揺した様子で顔を真っ赤にするカナエの姿に玄弥は唖然とし
「え……えぇぇぇぇぇぇぇッ!?」
萌屋敷に叫び声が響き渡ったのだった。
と言うわけで最終選別以降登場していなかった玄弥君登場でした。
カナエさんと実弥さんの関係がバレましたし、今後はもう少し登場してくれるかな?
お楽しみに!
と言うわけで今回の質問コーナーです!
今回は厚揚げさんからいただきました!
――ゲスメガネ(前田)との仲はどうですか?
楓子「前田さん?仲いいですよ。あの人の技術は本物ですからね。ただまぁ、一つ言わせていただければ、個人的には私、ただ露出すればいいとは思わないんですよねぇ。そのあたりのことでよく論争してます」
――ゲスメガネ(前田)と一緒に改造隊服を作ったことはありますか?または作りたいと思ったことはありますか?
楓子「作ったことは無いですけど、できたら面白いかも知れませんね。作るのならもう完全にスーツな見た目の隊服とかどうでしょう?スーツに日本刀の組み合わせってカッコよくないですか?まあ前田さんの好みとは合わないかもしれないんでまた論争になりそうですけど」
――サイコロスケーキ先輩に対しては何もなかったのですか?
楓子「本当はねぇ…他の下弦の鬼の邪魔が無かったら助かるように頑張るつもりだったんですが、結局何も対策できず……ただね、あとから知ったんですけどね、サイコロステーキ先輩、生き残ってるんですよ。理屈はわかりませんけど私がこれまで介入して回ったことでまわりまわってバタフライエフェクト的な何かで生き残ったようなんですよ。ホント何がどう影響するかわからないモノですよね……」
と言うことでした!
と言うわけで今回はこの辺で!
また次回もお楽しみに!
~大正コソコソ噂話~
その後、診察室を出て帰ろうとした玄弥は偶然にもばったり真菰と遭遇。顔を見た途端無言で土下座して真菰を焦らせたそうですよ。