このお話は完全にフィクションと言うか作者の悪ふざけなので何でも許せる人向けです。
いろいろおかしいところあると思いますがギャグ回なので深く考えずお読みください。
「――ん」
その日もいつもと同じ朝だった。
障子の向こうはまだ早い時間なので薄暗いが夜目の効く私には十分すぎるほどに明るい。
冬の朝の澄んだともすれば刺すような冷たさを感じる空気。
大きく吸い込めば肺を満たす空気の冷たさで微睡んだ頭がゆっくりと覚醒していく。
壁に掛けたカレンダーを見れば今日は2月3日だ。
「ん~……」
布団の中で伸びをしてゴロリと寝返りを打つ。
そう、いつも通りの冬の朝だ。
たった一つ――
「やぁ、おはよう。可愛い寝顔だったよ」
寝返りを打った先に下水を三日間煮込んだようなどす黒い双眸の爽やかスマイルのイケメンがいたことを覗いて。
〇
「お~い、ふうこちゃ~ん!ふ~こちゃ~ん!」
「…………」
耳障りな猫撫で声を出しながらウロチョロする男――童磨を私は朝ごはんの支度をしながら無視する。
「ん~……やっぱり見えてないのかな~……?」
そう言いながら童磨は頭を掻く。
まあ実際はガッツリ見えてるが反応すると面倒臭いことになるのは目に見えているので死んでも無視し続けてやる。
先程から話しかけて来るばかりで特に何もしてこないのもあってちょっと騒がしい雑音程度のものだ。
鍋に味噌を溶きながら私はチラリと隣の童磨を観察する。
童磨は台所の中をキョロキョロと興味深そうに見て回っている。
その服装は幽霊としてイメージするオーソドックスな真っ白な左前の着物に頭にも三角のアレ――天冠を被っている。
四年前に最後に対峙した時と違うのは服装だけではない。
まずあの特徴的な血を被ったような髪は普通の髪になっている。双眸も下水煮詰めたような瞳の色はそのままに、しかし、その眼には「上弦」「弐」の文字は無い。
一度死んでリセットされたのだろう、人間として、人間の幽霊としてここにやって来たのか。
霊体だからか先程からあれこれ見ているが一度も手に取ってたりはしていない。私にもしゃべりかけてくるばかりで指一本触れてこない。きっと霊体で実体がないから触れられないのろう。
しかし、問題は何故今日突然現れたのか、そして、いつまで居座るのか……今日だけで消えてくれるのならいいが、下手をすれば一生このまま……うわッ絶対嫌だ。
「はぁ~……」
「あれ?ため息ついてるね?ダメだよ~幸せが逃げちゃう」
誰のせいでため息ついてると思ってんだ!と叫びたいのをグッと飲み込んで私は朝ごはんに調理を続ける。と――
「あら、楓子ちゃん早いわね。昨日は同じように夜更かしして同じ頃に布団に入ったはずなのにね」
「あ、カナエさん……」
背後から聞こえた声に振り返るとカナエさんがニコニコと立っていた。
「手伝うわね」
「ありがとうございます。味噌汁はもうできるので、魚を焼いてもらっていいですか?」
「うん、任せて」
私の言葉にカナエさんは頷き調理器具を手に取る。
私はそれを尻目に副菜のホウレン草のおひたしでも作ろうかと鍋を火にかけ――
「ん~……?」
ようとしたところで、首を捻りながらカナエさんをマジマジと眺める童磨の姿があった。
「あれ~?この子どっかで……ん~?」
眉をしかめて頭を掻いた童磨は
「あ!思い出した!あの時食べ損ねちゃった子だ!君と出会った時の!ね?」
言いながら私の方に満面の笑みで顔を向ける。いやこっち見んなや。
「へ~、そっかそっか~!すごいなぁ!ふうこちゃんに会いに来たのにまさかあの時食べそこなっちゃった子にも会えるなんてなぁ~!すっごい偶然!……あれ?でもなんでふうこちゃんの家にこの子がいるんだ?ねえねえどうして?」
顔近づけんな鬱陶しい。
「あ、そうだ、聞こえてないんだったね……う~ん、不便だなぁ~。せっかく会いに来た甲斐がない」
知らんがな。
「う~ん…どうしようかな~……」
どうするも何も帰れよ。とっとと地獄に堕ちろ。成仏してクレメンス。
顎に手を当てて考え込む童磨を無視して私は朝食の用意に戻る。
「あ、楓子ちゃん。焼けたお魚はこっちのお皿に盛りつけたらいいかしら?」
「ああ、はい…そこのお皿に――ブッ!?」
カナエさんの言葉に振り返った私は思わずその様子の衝撃に声を漏らした。
振り返ったそこにはカナエさんが作業の途中でこちらを見ているのだが、顔だけが童磨になっていた。
恐らく霊体なのを活かして作業するカナエさんの肉体にうまく自分の身体を重ね、顔だけを少しずらして前面に出しているのだろう。コラ画像のように体はカナエさんで顔だけが童磨という悪夢のような光景が出来上がっていた。
「ん?どうしたの?」
私の反応にカナエさんが言うが、顔だけは童磨なのでどんな顔をしているのか伺い知れない。
ではそんな童磨の様子はと言えば
「~~~ッ!」
満面の笑みだった。
反応したのは一瞬だったがどうやら気付かれたらしい。最悪だ、あんなもん反応するなと言う方が無茶だ。
「い、いえ…何でもないです……」
「そう?」
私の返事にカナエさんは首を傾げながらも作業に戻る。
作業に戻ったカナエさんを尻目に私も朝食の用意に戻る。
そんな私の周りをあの男がウロチョロする。しかし、さっきと違い今は――
「ふふふッ」
気色悪いくらいに満面の笑みで、まるでクリスマスの朝に枕元に置かれたプレゼントを目の前にして今か今かと開けるのを楽しみにしている子どものようなともすれば無邪気な、しかし、何処か寒気の走る様な笑みを浮かべてただ黙って私の様子を観察していた。
〇
朝食が済んだ私は片付けをカナエさんに任せてそそくさと自室に引っ込んだ。
障子をピシャリと閉じた私は大きくため息をつき――
「も~、またため息ついて~!幸せが逃げちゃうよ~!」
そんな私に童磨が気色悪いほどの笑みを向けていた。
「…………」
私はそれを引き続き無視して机に向かい書類仕事の為にペンを手に取――ると見せかけて!
「鬼は外じゃい!!」
羽織に忍ばせていた特別製の豆を投げる。が――
「ん?」
私の投げた豆は童磨の身体を通過し背後の壁にパラパラと音を立てて当たる。
「チッ!やっぱダメか」
私は舌打ちをして机に法杖をついて童磨を睨む。
そんな私に童磨は嬉しそうに微笑む。
「やっぱり見えてたんだね~!でもなんで急に無視するのやめたの?」
「私があんたのことを見えていることにあんたが気付いたみたいだったから」
「なるほどね~」
「まったく、あんなことされたら嫌でも反応するわ」
「ハハッ、上手くいったね。まああれは最終確認みたいなものだったけどね」
「最終確認?」
「うん、最初はホントに俺のこと見えてないのかと思ったけど、よくよく観察してたら君は俺の動きを目で追っていたし、俺が他に意識を向けたらこっそり様子窺ってたでしょ?」
「………気付いてたの?」
「まぁ~ね~」
顔を顰める私に童磨は楽しそうに笑う。
「で?なんでここにいるの?まさか四年前のあの時からずっと浮遊霊してたの?」
「ううん。一回ちゃんと地獄に堕ちたよ?」
「………じゃあなんでいるの?今節分でお盆じゃないよ?」
「君に会いたい一心さ!」
私の問いに童磨は目を輝かせて言う。
「あぁ~……何故?」
童磨の言葉の意味が分からず私は眉を顰める。
「覚えているかい?あの夜のことを……」
「どの夜?」
「君の策略で俺の頸を切り落としたあの夜さ」
「あぁ~……それが?」
「あの夜から俺は君に夢中なのさ!」
「……なんで?あんたの頸斬ったのは義勇さんで私じゃないの」
「でもそうなるように誘導したのは君じゃないか!」
私の言葉に興奮した様子で童磨は言う。
「あの夜俺は君たちのことを軽視していた。君はそれも利用していともたやすく俺のことを手玉に取った!あの男に頸を切り落とされた瞬間、そう仕組んだ君のことを思って長らく止まっていた俺の心臓が高鳴ったのを感じたんだ!!」
「なるほど、切り離されて繋がりの断たれた心臓の鼓動を感じた、と。ファントム・バイブレーション・シンドロームの一種かな?」
「ふぁんと…なんて?」
「ファントム・バイブレーション・シンドローム。携帯…って言ってもわからないか。持ち物が震えてないのに震えたように感じる現象のことだよ。ようは気のせい」
「気のせいじゃないさ!」
私の説明に童磨が声を上げる。
「確かに感じたのさ!この胸の高鳴りを!この気持ちはきっと恋!!」
「えぇ~……」
まるで詩を朗読するように、まるで劇俳優のように、歌う様に言う童磨に私は顔を顰める。
なるほど、原作ならしのぶさんがそうなっていた位置に私がすげ変わってしまったのか。正直嫌すぎる。と言うか自分を殺した女に惚れるとかドMすぎやしないか?嗜好が高度すぎて私にゃ理解できんわ。
「まあ100歩譲って私のところに来た理由はわかった。でもどうしてもわからないことが一つ」
「うん?何々?何でも聞いて!」
私が眉間を揉みながら言う言葉に童磨が嬉しそうに言う。
「あんたさっき地獄に堕ちたっていったよね?じゃあなんで戻って来れてるの?」
「頑張ったからさ!君の為に!!」
「そう言うのいいから」
熱烈に言ってくる童磨をスルーして私は促す。
「さっき君は今日は節分だって言ってたけど、まさしくそれを利用したのさ!」
「……どういうこと?」
童磨の言葉の意味が分からず首を傾げる。
「まず俺は地獄に堕とされてからも積極的に他の亡者に話しかけて仲良くなって協力してもらえる人手を増やしたのさ!」
「お前のそう言う人の心を悪い意味で掴む手腕は凄いと思うわ」
「わあ!それって褒めてくれてる!?」
「いえ全く」
顔の前で手を振って否定し、話の続きを促す。
「それで俺は今日までに十分な人手を用意すると、それを使って他の亡者たちに大豆を配って回った、来たる日に極卒の鬼達に投げつけようって。鬼は豆が苦手だから上手くいけば現世に戻れるぞってね」
「地獄の鬼に豆が効くの?」
「ハハハ!そんなわけないじゃないか!」
「だよね。で?それがどうやって現世まで出て来れたの?」
「あっちこっちで極卒たちは豆を投げつけられる。それを止めるためにも後始末のためにも人手がいる。結果警備に穴ができる。そこをついてこうして現世にやって来ることが出来たってわけさ!」
「なるほど、なんとはた迷惑な……」
私はコイツの自慢気な顔を見ながら実在するかどうかわからない某閻魔大王の第一補佐官殿に向けて心中で合掌した。
「で?いつまでいるつもり?」
「一生そばで君のことを見守ってあげるよ!」
「そうかい、そいつはいいね。お礼にぶぶ漬けでもご馳走しよう」
「わあ!おもてなし嬉しいけど俺今霊体だから食べられないや!」
私の皮肉もどこ吹く風で何なら本気で嬉しそうに見える顔で笑う。
「知ってて言ってんだよ。あんたがこっちに干渉して来れないのはさっき豆がぶつからなかったことで検証済み」
「そう言えばそうだったね!ところで君はなんだって豆を持ってたの?」
「節分だから」
「なんかやけに紫色だけど何豆?」
「大豆だよ。ちょっと藤の花で作った毒に数日漬けてから煎ったらさつま芋みたいな色になったけど」
「それもしかして鬼用に作った武器?凄いね!こうやっていろんなもの作ってるんだね!俺を倒した時のやつみたいに!」
私は先程自分でばら撒いてしまった豆を箒で集めながら頷く。
「すごいなぁ!君って頭がいいんだね!こんなにいろいろな手を考え付くなんて!しかも家事もできるし何より料理もすっごく上手!俺も食べたかったなぁ~!」
「霊体だから食べられないんでしょ?」
「それはそうなんだけどね。そう言えばさっき一緒に朝ごはん食べてた男の子たちって誰?君とは男女の仲なのかな?」
「仮にそうだとしてあんたに関係ある?」
「う~ん、ちょっと妬けちゃうかなぁ~!でもまあ俺は君に触れられないから君の性欲の捌け口にはなれないからそこはしょうがないと甘んじて受け入れよう。しかし、君って意外と旺盛なんだね。三人も相手にするなんて」
「人を勝手にドエロな4P変態女前提で話進めんな!あの三人は私が鍛えてる後輩だよ!」
「なんだそうなんだ~!ちょっと安心!」
私の返答に童磨は嬉しそうに微笑む。
「ただ気になるのがあの三人の中の一人、ほらあの猪の被り物持ってた彼」
「伊之助君がどうしたの?」
「う~ん、なんかどっかで見たことある気がするんだよなぁ~。どこだったかなぁ~」
「……私が知ってると思う?」
「そうだよねー」
私の返答に童磨も答えを期待していなかった様子で頷く。
その様子を見ながら私は咳払いし
「……あのさ、どうやらそれとなくじゃなくちゃんと言わないとわからないみたいだから言わせてもらうけど」
「うんうん?」
「地獄に帰れ。そして二度と戻ってくんな」
「ハハハッ、嫌だよ」
私の言葉に、しかし、童磨は心底楽しそうに自分の膝に頬杖をついて顔を傾ける。
「帰れ。私はお前が嫌いだ」
「嫌い嫌いも好きの――」
「違う。まじで。本気で。心の底からあんたが嫌いだ。だから地獄にさっさと帰れ。そしてお前が極卒鬼さん達の代わりに地獄の豆を掃除してまわれ」
「え~、やだよ。ここまで来るの大変だったし。もう君の守護霊として取り憑くことに決めたんだよ。大丈夫!俺が君の事守ってあげるから!」
「いらん。帰れ」
言いながら私は無視を払う様にシッシッと手を振るうが私の振るった手は童磨の身体をすり抜ける。
「ほら、無理無理。見えても触れないから君には俺をどうすることもできないの。諦めて俺を受け入れてよ」
「死んでもイヤだつってんだろ!しつこいなぁ、帰れよ!!」
「や~だよ~♪」
叫ぶ私にどこ吹く風でとうとう床に寝ころんでくつろぎ始めた童磨。
その姿に私は頭痛がする頭を押さえて、どうにか霊験あらたかなお坊さんとかにお祓いしてもらうことを考え始めたところで――
「楓子ちゃ~ん!お客さんよ~!」
カナエさんの呼ぶ声に私は顔を上げる。
襖を開けて廊下に顔を出したところでちょうどカナエさんが角を曲がってきた。
「客?どなたですか?」
「さぁ?私も初めて見る方よ。尼さん…なのかな?そうだと思うんだけど、何か違うというか……」
「尼さん?何か違うってどういうことですか?」
「なんて言うか……仏門の人っぽい格好なんだけど、それにしてはなんか色っぽすぎるというか……」
「色っぽい尼さん……ますますそんな知り合いに覚えがないですがわかりました。すぐ行きます」
カナエさんの言葉に頷いて私は玄関に向かって廊下を進む。そして、その後ろからさも当然と言う顔で童磨が着いてくる。
「…………」
「フフフッ」
来るな、と言っても無駄なのは目に見えているので私は黙って廊下を歩く。童磨もその辺はわかっているのだろう。ニヤニヤと笑って後ろから歩いてくる。
そして、私はそのまま玄関に着き
「すみません、お待たせしました」
玄関に立つその人物を見れば……なるほど、先程のカナエさんの言葉の意味が分かった。
そこにいたのは確かに服装は尼さんというか仏門っぽい。女の私でも目を見張るほどの美しい顔立ちの、何よりも佇まいから全体の雰囲気まで何とも言えない色気を感じる。上手く表現できないが、それでもあえて例えるなら『誰でも一回は妄想するイカン女教師』と言ったところだろうか。
「……あなた、大好楓子さんね?」
「そうですけど……えっと……」
「あぁ、ごめんなさい。初対面よ」
「あ、ですよね?」
その尼さんの言葉に私はホッと息をつく。こんなエロいお姉さん一回でも会ってたら忘れないだろう。だが、同時に私はこの女性にどこか見覚えがあるような、謎の既視感を感じていた。
「それで…今日はどういったご用向きでしょうか?」
「あぁ、こうしていきなり訪ねて来てこういうのはあれなんだけどね、実は今日来た目的は厳密にはあなたにじゃないのよ」
「はい?」
「私が用があるのは――」
首を傾げる私に、尼さんは頷きながら
「そこの、悪霊もどきの回収に来たのよ」
そう言って私の背後で素知らぬ顔して私の背中に隠れている童磨を指さした。
「え……はい!?」
童磨のことが見えている?とか、迎えに来たってどういうこと?と言う疑問が頭をめぐると同時に、私は既視感の正体に気付いた。
そうか、見覚えがあると思ったらこの人――
「あぁ、やっぱり雰囲気が普通じゃないと思ったけど、やっぱり地獄の関係者だったんだ」
私の思考を遮って童磨が私の背中から出てくる。
「俺を回収しに来たって言うけどだったらもっとやり方があるんじゃない?こんな堂々と来て俺に逃げられると思わなかったのかい?」
「まあ他にもやり方があったかもしれないけど…それをすると彼女に失礼だし、やっぱりお邪魔する前にちゃんと一言挨拶するのは当たり前のことじゃない」
「ハハハ、礼を重視して俺に逃げられちゃ意味ないじゃん」
「あの、私としては黙って家に入られても文句は言いませんからコイツに逃げられる方が嫌なんですが。逃げたらまた来るじゃないですか」
「あぁ、それに関しては大丈夫」
言いながら尼さんは首を傾け
「あなた、もう逃げられないから」
「「へ?」」
尼さんの言葉に揃って首を傾げた私と童磨は
ズバンッ!
「カペッ!」
耳元に風切り音が聞こえると同時に横から短い悲鳴が聞こえた。
ゆっくりとそちらに視線を向けるとそこには
「ガフッ!?」
顔面を潰されて床に倒れ伏した童磨を踏みつけてチベットスナギツネかハシビロコウのような鋭い吊り目で冷たく見下ろす黒色の着流し姿の男性がいた。
何より目を引くのはその男性が右手で持って左手にペシペシと叩きながら持つ漆黒の金棒と、額の真ん中に生える角だった。
「まったく、ずいぶんと手間取らせてくれましたね」
と、バリトンボイスで言いながら手際よく童磨を縛り上げたその男性は私に視線を向け
「お騒がせしてすみませんね。我々の不手際のせいでご迷惑をおかけしました」
「あ、いえ……お構いなく」
その異様な雰囲気の男性の言葉に私は曖昧に頷く。
玄関に立つ美女と言い、隣の目つきの悪い鬼?と言い、ものすごく見覚えがある気がする。
「荼吉尼さんもお手伝いいただいてすみませんでした」
「いいわよ別に。鬼灯様も大変ね」
あ、今めっちゃ知ってる名前が出た気がする。
「あの……今、荼吉尼っておっしゃいました?稲荷大明神の主神の?」
「あら、知ってるの?若いのに物知りね」
私の問いに尼さん――荼吉尼さんが感心した様子で口元に笑みを浮かべる。
「この方はいろんな意味で少々特殊な経歴の持ち主ですからね。私達のことを知っていてもなんら不思議はないですよ」
「え?私の存在ってそちらに認知されてるんですか?」
突如明かされた衝撃の事実に私は唖然とする。
「まあ現世のことには我々は基本干渉しませんから彼女のことも基本我々は放置です」
「へぇ、なんだかよくわからないけど、面倒な存在なのねぇ」
言いながら荼吉尼さんは私をジロジロと見る。
「な、なんですか……?」
「ふぅん、私はよくわからないけど、声はなんだか知り合いと言うか別側面の子に声が似てる気がするから他人の気がしないわね」
「そう言えば私も同僚の兎に声が似てて他人の気がしないんですよね」
「え?あ…はぁ…そうですか……」
何かよくわからない親近感を抱かれた。
「まあとにかくあまり長居するのもアレですから我々はそろそろお暇しましょうか」
「そうね」
言いながら鬼――鬼灯さんの言葉に荼吉尼が頷く。
「では、お邪魔しました」
言いながら鬼灯さんは縛り付けて顔面を潰されて気を失っている童磨を俵でも担ぐように背負って玄関に歩いて行く。それを――
「あ、すみません、ちょっと待ってください!」
「はい?」
私は呼び止めた。
鬼灯さんはゆっくりと振り返る。
「何か?あ、今回の謝罪については追ってご連絡いたします。と言っても我々は先ほども言ったように基本不干渉なので大したお返しはできませんが……」
「あ、いえ、謝罪とかは本当にいいので、それよりもお伺いしたいんですが……」
「はぁ?なんでしょう?お応えできる範囲であれば」
頷いた鬼灯さんに私は
「あの…その男はこの後どういう罰をうけるのでしょうか?」
「と、言いますと?」
「いや…なんて言うかその男、私に会うためにわざわざ地獄から脱走してきたわけですし……なんていうか……」
「……あぁ」
私の言葉に荼吉尼さんがポンと手を打ち
「自分に合うためにわざわざ脱走してきたから、情が湧いたとか?」
と、訊かれた。が――
「いえ、全くそう言うんじゃないです。むしろ逆です」
私は顔の前で手を振って
「二度と脱走できないように警備を強化すると同時に、今回の脱走の罪も加味してできうる限り限界ギリギリまで攻めた罰を課してください。もっと言えば肉体面じゃなくて精神面への罰でお願いします」
「あら」
「なるほど」
私はニッコリ微笑んで言うと荼吉尼さんと鬼灯さんが納得したように頷き
「大丈夫ですよ。我々としてもこの男には相当迷惑かけられたのでとことん責め苦を与える準備をしてますので」
「それを聞けて安心しました」
「私としては今のあなたのいい笑顔で精神面への責め苦をオーダーしてくるあなたの精神性はとてもいいと思います。是非死後にはうちに就職をご検討いただきたいですね」
「え?あ、はい……考えておきます。まだ当分先かもしれませんけど」
「是非お願いします」
私の返答に頷いた鬼灯さんは踵を返し
「では、失礼いたしますね」
「また死んだら迎えに来るわね」
そう言って二人(?)は帰っていった。
~おまけ~
――節分から数日後……
「楓子ちゃん、何かあなた宛ての荷物が届いたわよ」
「荷物?なんでしょう?ありがとうございます」
カナエさんに言われ玄関を見れば、そこには一抱えはありそうな木箱が鎮座していた。
「何が届いたの?」
「さて…なんでしょうね?と言うかそもそも誰からでしょう?」
言いながら私は木箱の蓋を開ける。そこには――
「これ…何かの苗?」
「ですね。なんでしょう?見たことない葉っぱの形ですけど……とりあえず庭に植えてみましょうか」
――それから数か月後庭の隅に謎の雄叫びを上げる金魚みたいな植物が群生するようになるのだが、それはまた別の話。
というわけで節分の番外編でした。
今回は番外編だったので作者の悪ふざけで特別ゲストが出ちゃいました。
今回の話は完全にパラレル設定なので本編とは別物とお考え下さい。
と言うわけで今回の質問コーナーです。
今回の質問はただの歩兵さんからいただきました!
――主人公は、前世で鬼滅の刃と若干時代が近い感動の超大作?であるゴールデンカムイとか読んでたりするんでしょうか?煌めくとか親分と姫や熊と人の融合とか主人公が大好きそうなストーリーがいっぱいですから。
楓子「履修済みですぜ。結末が読めなかったのは心残りですけどね。私は人間の皮で家具作ったり服作ったりって言うのがどうしようもなく変態的で業が深いなって思いましたね。あとは姉畑は頭おかしいと思う。ちなみにこっちでラッコの肉が手に入ったら誰にとは言わないけど試してみたい」
――あと、主人公は日輪刀以外の武装とか装備しているんでしょうか?例えば、モーゼル拳銃とか・・太股にホルスター装備したり
楓子「拳銃かぁ…実は検討したんだけど流石に私も年代物の銃の整備方法とかあれこれ知らないし、刀の方がしょうに合ってるのよね~。でも銃は浪漫がある。ちなみに日輪刀以外ではないですが特殊な日輪刀の製造を刀鍛冶の里の長と相談してるんだけど…それはまた本編で出るのをお楽しみに!」
と言うことでした。
と言うわけで今回はこの辺で!
それとお知らせです。
新しい表情差分をあらすじに追加しています。
こちらにも一応掲載しておきます。
【挿絵表示】
~大正コソコソ噂話~
地獄ではその後極卒たちが亡者の前で煎り豆を食べて同じことが起きないように予防するようになりました。