恋柱の継子、人の恋路に世話を焼く   作:大同爽

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今回のお話に登場する血鬼術はだいぶご都合能力かも知れませんが、このお話は根本ギャグなのでお許しください。
今後もこう言ったご都合血鬼術は登場するのでそう言うのが好きな方はお楽しみに!

今回のお話は書いてるうちに楽しくなって伸びに伸びてしまいました。
長いですがお楽しみください!





恋54 恋柱の継子と育児

「はぁぁぁぁぁッ!!!」

 

「このやろぉッ!!ちょこまか逃げんじゃねよッ!!」

 

 叫びながら斬りかかる炭治郎と伊之助。しかし、対する鬼はひょいひょいと飛び退く。

 

「ヒヒヒ、この程度じゃいくら束になっても――」

 

「シッ!!」

 

「うおっとッ!?」

 

 余裕綽々と下卑た笑みを浮かべる鬼だったが、横合いから斬りかかってきた楓子の斬撃に慌ててよける。

 

「チィ…そこのガキどもだけならまだしも、テメェとさっきの狐面のアマは厄介だなぁ……」

 

 体勢を立て直した鬼は舌打ちし

 

「あの狐面のアマが戻ってくる前に、ここにいるやつらだけでも俺の血鬼術で……ヒヒッ!」

 

 獰猛な笑みを浮かべた鬼へ楓子は警戒を強める。

 

「炭治郎君、伊之助君。気を付けて!奴は何かしかけてくるつもりだよ!」

 

「はい!」

 

「へッ!何が来ようと俺には効かねぇッ!!猪突猛進猪突猛進!!」

 

「あ、コラ伊之助君!勝手に前に出ちゃダメ!!」

 

 楓子の言葉に炭治郎は力強く頷くが、伊之助は我先にと鬼に向かって行く。そんな伊之助をフォローしようと慌てて楓子と炭治郎が追いかけ

 

「ヒヒッ……血鬼術――」

 

 そんな三人に獰猛な笑みを向けながら構える。と、街頭の光に照らされ浮かび上がる鬼の影が膨れ上がり三人に向かって高速で伸びてくる。

 

「退行影!!」

 

「「「ッ!?」」」

 

 自分たちに向かって地面を張って高速で伸びてくる鬼の影に三人は咄嗟に飛び退く。

 

「炭治郎君!伊之助君!二人とも無事ッ!?」

 

「は、はい!」

 

「ピンピンしてるぜッ!!」

 

 楓子の言葉に二人は返事する。

 対してそんな三人を見ながら鬼は

 

「ヒヒヒッ……触れたぜぇ!」

 

 獰猛な笑みを深めた鬼は

 

「後は……フッ!」

 

「「「え……逃げたぁッ!?」」」

 

 突如身を翻して脱兎の如く駆けて行く鬼の背中に一瞬呆けた三人は揃って叫ぶ。

 と、そこに

 

「お待たせしました!」

 

「さっき鬼に襲われてた人は安全なところに避難させたよ!――って、あれ?鬼は?」

 

 善逸と真菰が駆けつける。

 

「そ、それが……」

 

「逃げやがった!!待ちやがれこの野郎ッ!!」

 

 炭治郎が言いかけた言葉を伊之助が遮って怒りながら駆けて行く。

 

「っと!私達も呆けてる場合じゃない!行くよみんな!」

 

「はい!」

 

「は、はい!」

 

「うん!」

 

 先に飛び出した伊之助に続いて楓子と炭治郎が駆け出し、それに続いて善逸と真菰も駆けだす。

 

「待ちやがれこの野郎!!逃げんじゃねぇ!!」

 

「待て伊之助!一人で突っ走ったら危ない!!」

 

「くぅッ!あの鬼もあの鬼で足速いなぁ!!」

 

 三人は路地を曲がった鬼を追って路地を曲がる。

 少し遅れて善逸と真菰も路地を曲がり――

 

「なッ!?」

 

「嘘……ッ!?」

 

 そこで驚きの光景を目の当たりにした。

 

 

 〇

 

 

 

「ふう、これで今日の分の洗濯はおしまいね。あとはこれが乾いたら取り込むだけ……カナヲも手伝ってくれてありがとう」

 

「…………」

 

 風にはためく洗濯物を見上げながら満足げに頷いたアオイは隣に立つカナヲに言う。

 カナヲもそんなアオイにニッコリと微笑みながら頷く。

 

「さ、部屋に戻って楓子さんにお借りした医学書でも――」

 

 言いながらアオイは回れ右して目の前の屋敷――萌柱邸に足を向け

 

「誰かぁ!!誰かいませんかッ!?」

 

 玄関の方から聞こえた声に首を傾げる。

 

「今のは…善逸さん?もう任務が終わって戻って来たのかしら?」

 

 言いながらも急ぎ屋敷に入って玄関へ向かうアオイとそれに着いて行くカナヲ。

 

「お帰りなさい、善逸さん。任務は無事に終わった――」

 

「アオイちゃ~ん!!よかった!助けて!!」

 

「はい?いったい何が……」

 

 アオイの言葉を遮って善逸が半ば泣きながら叫ぶ。その叫びに怪訝そうに眉を引締めたアオイは

 

「……は?」

 

 善逸が玄関の扉の影から連れ出して見せた人物に唖然と呆ける。

 心なしか隣のカナヲも少し困惑しているように見える。

 二人の視線の先では

 

「んだよ?なにみてんだごらァ!!」

 

「ッ!?」

 

 頭にブカブカの猪の被り物を被った目つきの悪い少年と、二人の視線にビクリと体を震わせ善逸の足にしがみつく少年がいた。

 ブカブカの鬼殺隊の隊服を袖や裾を何重にも折り曲げベルトで無理矢理に止めたその二人の少年は初対面のはずなのに、アオイもカナヲもその二人には言いようもない見覚えがある気がして……

 

「う、ウソみたいな話なんだけど!この二人、伊之助と炭治郎なんだよッ!!」

 

「……は?」

 

「……???」

 

 善逸の言葉に、しかし、二人は理解が追い付かず呆けた顔をする。

 

「だ、だから!この二人と、それに楓子さんが任務で遭遇した鬼と戦ってたら子どもになっちゃったんだよ!!」

 

「……はいぃぃぃぃッ!!?」

 

「ッ!?」

 

 善逸の説明にやっと意味が分かったアオイとカナヲが驚きにあんぐりと口を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………なるほど」

 

 目の前の幼くなった伊之助と炭治郎に聴診器を当てて様子を見た珠世は重く頷く。

 

「どうですか?何かわかりますか?」

 

 そんな珠世にカナエが訊く。

 その隣で善逸、アオイ、カナヲ、しのぶが心配そうに見つめる。

 珠世の前には子どもの姿になった炭治郎と伊之助が椅子に座っている。二人の格好は先程までのブカブカの隊服ではなく近所の家から今は使っていない子ども用の服を着ていた。

 

「そうですね……見たところ炭治郎さんにも伊之助さんにも微かに鬼の残り香のようなものを感じます。原理はわかりませんが鬼の血鬼術が原因なのは間違いないでしょう」

 

「やっぱりッ!?どうにかできないんですかッ!?この二人大丈夫なんですかッ!?元に戻るんですかッ!?まさかほっとくともっと小さくなるとか――」

 

「珠世様の話を遮るな馬鹿者がッ!!あと近いぞッ!!」

 

「痛ぇぇぇッ!?」

 

 珠世の言葉に善逸が詰め寄るがそんな善逸を愈史郎が体重の乗った力強い右ストレートで殴り飛ばす。

 

「いけません愈史郎!」

 

「ですが珠世様!」

 

「愈史郎?」

 

「ッ!? す、すみません……」

 

 珠世ににらまれ愈史郎がしょんぼりと肩を落とす。

 

「愈史郎、謝る相手が違いますよ?」

 

「うッ……その、悪かったよ」

 

「い、いや…俺もちょっと興奮してしまって…すみません……」

 

「いえ、気にしないでください」

 

 渋々と言った様子で謝る愈史郎に恐る恐る頷きながら善逸も珠世に向けて謝る。そんな善逸に珠世が優しく微笑みながら頷く。

 

「それで珠世さん、彼らの状態は?」

 

 様子を見ながらカナエが問う。

 

「正直のところ、まったくわかりません。恐らくこの術を掛けた鬼を倒せば術は解けるとは思いますが、それでも元の肉体に戻るのかはわかりません。もしかしたらこのままということも……」

 

「そう…ですか……」

 

「すみません、力及ばず……」

 

「いえ、珠世さんが気にするようなことありませんよ!」

 

「そうですよ!」

 

「しのぶさん…アオイさん……ありがとうございます」

 

 申し訳なさそうに言う珠世にしのぶとアオイが励ますと珠世は優しく微笑む。

 

「それで、善逸さんの話では二人と同じように楓子さんも同じように子どもになっているとのことですが……」

 

「楓子ちゃんは今はどこに?」

 

「はい、真菰さんが連れてお館様に報告に行っています。言葉で言うよりも実際に見せた方がいいだろうと言うことで……」

 

「そうですか……」

 

「楓子さんの方も二人と同じで……」

 

 言いながら善逸は椅子に座る二人に視線を合わせるようにしゃがみ

 

「ええっと、何回も聞いて悪いんだけど…君達の名前は?」

 

「かまどたんじろう、です!」

 

「はしびらいのすけだ!なんかいもきいてんじゃねぇぞ!かみむしりとんぞボケがッ!」

 

「いたたたたたたぁぁぁッ!!もう毟ってんじゃねぇか馬鹿猪ッ!!」

 

 大きな頃のように礼儀正しく言う炭治郎の反面、伊之助はいつも以上に粗暴な様子で善逸の髪を引っ張る。

 

「ふ、二人共ここにいる人のことは誰か覚えのある人はいる?」

 

「だれもしらねぇわッ!!」

 

 カナエの問いに伊之助が叫び

 

「炭治郎君はどうかな?」

 

「ッ!?」

 

 カナエに聞かれて炭治郎はビクリと体を震わせ

 

「ご、ごめんなさい……」

 

「い、いや!こっちこそごめんね!知らない人に囲まれたら怖いよね!怒ってないからね!」

 

「ッ!?」

 

 カナエが優しく微笑むが、炭治郎はビクリと体を震わせて善逸の影に隠れる。

 

「二人共思考が見た目通りの五、六歳くらいでしかも記憶もないみたいで、楓子さんも同じような状態みたいで……」

 

 炭治郎に張り付かれ善逸に引っ張られながら善逸は

 

「それにしても、ここに来てから炭治郎君なんだか怖がっている様子だけど、どうしたのかしら?」

 

「そりゃ訳も分からないまま周りに知らない人しかいないところに放り込まれたらこのくらいの年の子ならこうなるんじゃない?」

 

 カナエの疑問にしのぶが言う。

 

「とりあえず元凶の鬼を何とかしましょう。これ以上被害を出すわけにもいきませんし炭治郎君達の身体も心配です」

 

「そうね」

 

 カナエの言葉にしのぶが頷く。

 

「鬼の対処には私が行くわ。義勇さんも今日は開いていたはずだから善逸君と一緒に義勇さんと真菰と合流して対処にあたるわ。お館様にはさっきその旨を鎹烏を出してある」

 

「お願いね。私は珠世さんともう少しこっちでもできることが無いか調べてみるわ」

 

 しのぶの言葉にカナエは頷き

 

「というわけで、その間の二人の面倒はアオイとカナヲに任せるわね」

 

「ええッ!?わ、私達ですか!?」

 

 カナエの言葉にアオイは驚きの声を上げる。

 

「仕方ないでしょう?他に人手もないし。まだ昼間だから珠世さん達もこの日の射さない地下から身動き取れないし」

 

 お願いね、と微笑むカナエの顔に、しかし、アオイは言いようもない不安を抱いた。

 そして、その予感は――

 

「ぎゃははははッ!!」

 

「こ、こらァ!!伊之助さん!!」

 

 廊下を雄叫びを上げながら走り回る伊之助を追いかけながら的中したことを噛みしめていた。

 普段から活発だった伊之助は幼児化したことでその元気さが輪をかけて活発になっていた。

 先程の診察から一時間ほどでもうすでにアオイは伊之助に振り回されっぱなしだった。

 来ていた服は嫌がって半裸になり、調理場においてあったお菓子は盗み食いし、それを咎めればすぐに鬼ごっこが始まる。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…や、やっと捕まえた……」

 

「はなせ!!」

 

 暴れる伊之助を抱えながらアオイは大きくため息をつく。

 襖を開けて居間に入るとそこでは机に着いてカナヲに絵本を読み聞かせしてもらっている炭治郎の姿があった。

 

「お、お疲れ様……」

 

「うん、ホント疲れたわよ……」

 

 カナヲの言葉にアオイはため息をつきながら座る。

 

「このおれさまをつかまえるとは、おまえなかなかやるな!!もういっかいきょうそうしようぜ!!」

 

「もう無理!一回休ませて!」

 

「ケッ!だらしねぇな!」

 

「なんとでも言ってください」

 

 伊之助の言葉に、しかし、疲れているアオイはおざなりに返事をし

 

「伊之助さんはまったく……それに引き換え炭治郎さんは大人しくて偉いですね」

 

 言いながらカナヲの隣にちょこんと座って絵本を眺める炭治郎に微笑む。

 

「/////」

 

 褒められたのがうれしいのか炭治郎は照れた様子で俯く。

 

「………ケッ」

 

 その様子を伊之助がつまらなそうに見ながら舌打ちをする。

 

「あ、もういい時間ですね。おやつにしましょうか」

 

 そんな伊之助の様子に気付かずにアオイが言いながら立ち上がる。

 そのまま調理場まで行ったアオイは

 

「はい、今日のおやつはクッキーです。楓子さんに作り方を教えてもらったので午前中に作ったやつですよ」

 

「ッ!」

 

 お皿にクッキーを並べて戻ってきた。

 アオイの言葉にカナヲが少し反応する。

 

「さ、どうぞ。これは炭治郎さんの分です」

 

「あ、ありがとう!」

 

「いえいえ。で、こっちが伊之助さんの分で、これがカナヲのです」

 

 言いながらアオイは残りも配り

 

「ちょっとまてぇッ!!おれのこいつよりすくねぇぞ!!」

 

 そこで伊之助が叫ぶ。

 伊之助が指差す先には炭治郎の皿があり、確かに伊之助のクッキーは四枚で炭治郎のは八枚。伊之助の倍の枚数を炭治郎は貰っていた。

 

「当り前です!伊之助さんはさっきつまみ食いしたじゃないですか!」

 

 そんな伊之助にアオイはにべもなく言う。

 しかし納得できない様子でアオイを睨む伊之助に

 

「文句があるなら食べなくていいです」

 

 フン、と鼻を鳴らしてアオイは言い

 

「さ、気にせず食べてください」

 

 炭治郎にニッコリ微笑んで言う。

 炭治郎は伊之助の様子をチラチラと見ながらもアオイに促されてクッキーを食べる。

 

「お、美味しいです!」

 

「それはよかった」

 

 炭治郎が目を輝かせたのを見てアオイは嬉しそうに頷く。

 

「ほら、カナヲも食べて。楓子さん程じゃないけど、今回のはいい出来なの」

 

 アオイに言われカナヲは頷き、自分の分を手に取り口に入れる

 

「…………」

 

 そんなカナヲの様子を炭治郎がまじまじと眺める。

 

「……?」

 

 そんな炭治郎の視線に気付いたカナヲが首を傾げる。

 

「あ、ごめんなさい……」

 

 ぶしつけに見つめていたことを咎められたと思った炭治郎は思わず謝り

 

「カナヲさん、このおかしがすきなんだね」

 

「え……?」

 

 炭治郎の言葉にカナヲが呆ける。

 

「なんで……?」

 

「だって、カナヲさんはじめてわらったから!」

 

「ッ!?」

 

 ニコニコと笑って言う炭治郎の言葉に息を飲む。

 

「カナヲさん、ずっとニコニコしてたけどわらってるにおいがしなくて、きれいだけどおにんぎょうみたいだったけど――」

 

 言いながら炭治郎は微笑み

 

「カナヲさんは、わらってるほうがいいとおもうよ!そっちのほうがずっとかわいい!」

 

「ッ!/////」

 

 子どもゆえの無邪気な炭治郎の言葉にカナヲは頬が高揚するのを感じる。

 

「どうしたの?」

 

「ッ!う、ううん、なんでもない…よ?」

 

 首を傾げる炭治郎にカナヲは首を振ってごまかすようにクッキーを食べる。

 そんなカナヲに炭治郎はさらに首を傾げ、そんな二人の様子にアオイは少し驚きながら見つめる。

 これまで何かを決める時にはコインを投げていたカナヲがコインを使わなくなったことに気付いた時にも驚いたが、今の驚きはそれ以上だった。これまでのカナヲを知っているアオイにとって、いつもの仮面のような笑みを崩して感情を発露させた様子はあまりにも衝撃的だった。

 あまりの衝撃に、アオイはそれを見逃していた。

 

「……あれ?」

 

 最初に気付いたのは炭治郎だった。

 カナヲの様子に首を傾げながらも、自分もクッキーを食べようと自分の皿に目を向け、そこに一枚もクッキーが残っていないことに気付く。

 

「あれ?炭治郎さんのクッキーが無い!?」

 

 炭治郎の呟いた言葉にアオイも皿を見れば、皿が空になっていることに気付き、慌てて周囲を見渡せば

 

「バリバリボリバリボリボリバリ」

 

「「「…………」」」

 

 三人は同時にその人物に視線が行きつく。

 

「……伊之助さん」

 

はんはひょ(なんだよ)?」

 

「そのパンパンの口の中、何が入ってるんですか?」

 

「……おはひ(おかし)

 

「炭治郎さんの分がどこ行ったか知りませんか?」

 

「………ひはへぇ(しらねぇ)

 

「………はぁ」

 

 そっぽを向く伊之助にアオイはため息をつき

 

「い~の~す~け~さんッ!!」

 

「ッ!?」

 

 ギロリと睨みつける。その剣幕に伊之助がビクリと体を震わせる。

 

「炭治郎さんのクッキー勝手に食べちゃ駄目じゃないの!」

 

「ムグッ…モグモグモグモグ…ゴクリ――しるか!ぼんやりしてるほうがわりぃんだよ!やまじゃけいかいしてないとよこからえものかっさらわれんだよ!」

 

「何馬鹿なこと言ってるの!ここは山じゃないわよ!」

 

 伊之助の言葉にアオイは叫ぶ。ここまで敬語だった語調もいつの間にかタメ口になっていた。

 

「ほら!炭治郎さんに謝って!」

 

「いやだ!」

 

「もう!」

 

 伊之助がフンッと顔を背けるのをアオイは頭を掻き毟り

 

「ごめんなさい、炭治郎さん。私がいたのに……」

 

「お、おれはだいじょうぶ、だから……」

 

 怒っているアオイの剣幕に炭治郎が若干気圧されながらも頷く。

 

「本当にごめんなさい。全く、伊之助さんも炭治郎さんくらい物分かりが良くなってくれれば……」

 

「ムッ……」

 

 アオイの呟きにイラついた様子で伊之助が目を細める。

 

「ほら伊之助さん!!」

 

「こいつがだいじょうぶだっていってんだからいいじゃねぇかよ!」

 

「そういう問題じゃないでしょ!悪いことをしたら謝るのは当然なの!」

 

 伊之助とアオイが言い合うのを炭治郎はオロオロと見ながら

 

「あ、アオイさん!お、おれはきにしてないよ!」

 

「ほれみろ!」

 

「もう…そういう問題じゃ……はぁ」

 

 炭治郎の言葉にドヤ顔で言う伊之助、そんな二人にアオイはため息をつく。

 

「まったく…伊之助さんはちゃんと炭治郎さんにお礼を言って!」

 

「なんでおれがれいをいわなきゃいけないんだよ!」

 

「あ、あの…アオイさん、おれはほんとうにきにしてないから……」

 

 言い合う二人を止めながら炭治郎は伊之助にニッコリ微笑み

 

「このおかしおいしいもんね。いのすけくんももっとたべたかったんだよね。おれはきにしてないからあやまるのもおれいもいいからね」

 

「………チッ」

 

 炭治郎の言葉に伊之助が舌打ちし

 

「いいこちゃんぶんじゃねぇよ!ば~か!!」

 

「あ、こらァ!!」

 

 叫んだ伊之助はそのまま走り去る。そんな伊之助をアオイは慌てて追いかける。

 

「…………」

 

「…………」

 

 残された炭治郎とカナヲは茫然とそれを見送り

 

「あ、あはは……いっちゃったね」

 

「…………」

 

 苦笑いを浮かべる炭治郎にカナヲは小さく頷き

 

「炭治郎…これ」

 

「え?」

 

 自身のお皿に残っていたクッキー三枚を炭治郎のお皿に移すカナヲ。

 

「……もらっていいの?カナヲさん、このおかしすきなんじゃ?」

 

「いいの」

 

 炭治郎の問いにカナヲは首を振り

 

「炭治郎と、一緒に食べる方が楽しいから」

 

「……そっか」

 

 ニッコリ微笑んで言ったカナヲの言葉に炭治郎は頷き

 

「じゃあいっしょにたべよ!」

 

「うん!」

 

 炭治郎の言葉にカナヲは頷き二人は一緒に、楽し気にクッキーを食べ始めた。

 

 

 〇

 

 

 

「はぁ…はぁ…はぁ…もう!どこ行ったのよ!」

 

 屋敷の中を走り回ったアオイは伊之助を見つけられないまま息をつく。

 

「もう…どうして伊之助さんはああなんでしょうか……」

 

 再び大きくため息をつきながら改めて探そうと踏み出そうとして

 

「フフ、大きなため息ね。幸せが逃げちゃうよ」

 

「あ、カナエさん……」

 

 通路の角からひょっこりと顔を出したカナエにアオイは顔を上げる。

 

「伊之助君がどうかしたの?」

 

「……実は――」

 

 カナエの問いに一瞬逡巡するも事の顛末を語る。

 

「――と、言うわけなんです」

 

「なるほどね~……」

 

 アオイの話を聞いたカナエは

 

「フフフ、伊之助君も結構可愛いところがあるのね」

 

「えぇ……どこがですか?」

 

 カナエの言葉にアオイは怪訝そうに眉を顰める。

 そんなアオイにカナエは優しく微笑みながら言う。

 

「だって、伊之助君の行動はきっとアオイが炭治郎君ばっかり褒めるから面白くなかったんだと思うわよ」

 

「え?」

 

 カナエの言葉にアオイは呆ける。

 

「い、いやいや、なんで私が炭治郎さんを褒めたら面白くないんですか?伊之助さんは記憶が無いんですから私のことだって初対面みたいなものだし……」

 

「でも、おやつ食べる前はずっとアオイが相手をしてて、鬼ごっことかしてたんでしょ?」

 

「したくてしたわけじゃないです。あの人と言うかあの子というか、が悪さして逃げるから仕方なく追いかけただけで……」

 

「でも結果的には鬼ごっこになってたし、最後には『俺を捕まえるなんてすげぇな!』って感心してた上に『もっと競争しよう』って誘ってきたんでしょ?」

 

「そ、それは、まあ…はい……」

 

「それって、アオイのことを遊び相手として認めたってことじゃない?伊之助君の性格を考えたら認めてない相手に感心したりもっと競争しようなんて言わないんじゃないかしら?」

 

「…………」

 

 アオイはカナエの言葉に驚く。確かにそう考えてみれば辻褄が合う。

 

「でも、自分の遊び相手をしてくれたアオイは何故か炭治郎君の方ばかり贔屓する」

 

「なッ!?私贔屓なんて!」

 

「アオイはそう思ってなくても子どもになっている伊之助君にはそう思えたんじゃない?」

 

 慌てて言うアオイに、しかし、カナエは苦笑いで続ける。

 

「おやつのクッキーは炭治郎君の方が多いし、何かと炭治郎君を褒める、でも自分には怒ってばかり……って、伊之助君は思ったんじゃないかしら?」

 

「そ、それは……」

 

 カナエの言葉にアオイは反論できなかった。

 

「だから、アオイに自分のことを見て欲しくて炭治郎君にちょっかいかけたんじゃないかしら?もしかしたらそのちょっかいで炭治郎君が怒って喧嘩にでもなれば、自分が打ち負かして自分の方が優れてるって見せたかったって言うのもあるのかしらね?」

 

「…………」

 

「でも、炭治郎君は乗ってこない上に、自分に気付かう素振りまで見せた。自分と同じくらいの子に大人な対応されてそれもムカついて、アオイにも余計に怒られて、訳が分からなくなって飛び出して行っちゃった……ってところかしらね?」

 

 カナエの言葉にアオイは押し黙る。

 カナエの話は筋が通っている。伊之助の行動が今の話で全て腑に落ちた。

 

「フフ、そんな顔しないの」

 

「ムギュッ!?」

 

 伊之助の癇癪の責任の一端が自分にあると沈むアオイの顔、その頬をカナエが両側から押さえてムニムニと揉む。

 

「心配しなくても、伊之助君はちゃんと戻ってくるわ」

 

「で、でも……」

 

「何か心配?」

 

「私、たぶんまた伊之助さんを怒ってしまうと思います……そうしたらきっとまた同じようなことになるんじゃないかと思って……」

 

「ん~……」

 

 アオイの頬を解放して少し考えたカナエは

 

「別に怒ってもいいんじゃないかしら?」

 

「え……?」

 

 カナエの言葉にアオイは呆けた顔をする。

 

「別に怒ることは悪いことじゃないと思うわ。ダメなことはダメってちゃんと言ってあげないと、伊之助君の為にもならないしね」

 

「でも……」

 

「だから、怒った分別のことでたくさん褒めてあげればいいんじゃないかしら?」

 

「え……?」

 

「怒られるばかりじゃ嫌になるでしょ?でもちゃんと褒めてあげれば自分のこともちゃんと見てもらえてるって思えるんじゃないかしら。そうやって調節してあげればいいと思うわ」

 

「怒った分褒めてあげる……」

 

 カナエの言葉を反復したアオイは

 

「わかりました。やってみます」

 

「うん、頑張ってね、お母さん」

 

「お母さんじゃないです!」

 

「でも、今のアオイの悩みはやんちゃな子への育児に疲れたお母さんの悩みだったわよ?」

 

「うぐッ……」

 

 カナエの指摘にアオイは口籠る。

 

「まあ冗談はさておき」

 

「もう!カナエさん!」

 

 アオイが叫ぶとカナエは楽し気に微笑み

 

「応援してるのは本当だから、頑張ってね」

 

「カナエさん……」

 

「それじゃ、私もそろそろ珠世さんの手伝いに戻るわね」

 

 そう言ってカナエは踵を返し

 

「それじゃあね、育児頑張ってね♪」

 

「カナエさん!!」

 

 去り際の言葉にアオイは怒鳴るが当のカナエは楽しげに笑いながら去って行った。

 

「もう……」

 

 カナエの背中が廊下の角に消えるのを見届け、アオイはため息をつき

 

「怒った分だけたくさん褒める…かぁ……」

 

 先程のカナエの言葉を反復し

 

「よし!」

 

 気を引き締めるように頷き、伊之助捜索を再開したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―― 一方その頃の産屋敷のお屋敷では……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほらほら、こっちだよ~!」

 

「こっちこっち~!」

 

 お屋敷の庭で耀哉の子ども達五人と――

 

「アハハハッ!まって~きりやおにぃちゃ~ん!おねぇちゃんたち~!」

 

 その五人を追いかける一人の少女、幼児化した楓子がいた。

 楓子の見た目は八歳になる輝利哉達よりも一回りほど小さい、推定五歳時くらいの見た目で、服装は輝利哉達と似た模様の着物――兄妹達が来ていた物のお古を着ている。

 似た着物に身を包み遊ぶその様はまるで仲の良い六人兄妹のようだった。

 そんな六人を二人の人物が見つめる。

 一人は微笑まし気に、もう一人は恐縮した様子で見ている。

 

「フフ、一時はどうなるかと思ったが、上手く馴染んでいるようだね」

 

 微笑まし気な人物――産屋敷耀哉は楽し気に言い

 

「お館様のご子息方に遊んでいただけるのは嬉しいですが、何か粗相があるのではと思うと気が気ではございません」

 

 恐縮した人物――伊黒小芭内は胃痛を堪えるように顔を顰めている。

 幼児化した楓子が真菰によってここに連れてこられ、蜜璃と小芭内には鎹鴉によって伝令が飛ばされ、知らせを受けた二人はすぐさまお屋敷にやって来たのだ。

 現在蜜璃はあまねと一緒に席を外し耀哉と小芭内は一緒に庭で遊ぶ楓子と輝利哉達を見守っていた。

 

「それほど心配する必要はないと思うよ。楓子にはうちの子ども達も懐いているし、もう光を写さない私には見ることは叶わないが、聞こえてくる声だけで十分に楽しんでいるように思うけど、違うのかな?」

 

「いえ…とても楽しそうに遊んでいらっしゃいます……」

 

 耀哉の言葉に小芭内は答える。

 

「フフ、楓子の身内としては心配するのは仕方ないかも知れないが、例え記憶が無くても心根は変わらないよ。何も心配いらない」

 

「むしろだからこそ心配なのですが……」

 

「ん?」

 

「あ、いえ…何でもないです……」

 

 ボソリと呟いた小芭内に問い直した耀哉だったが、小芭内は首を振ってごまかす。

 

「まあ心配しなくても真菰としのぶ、義勇の三人が件の鬼への対応に動いている。すぐに事態を収拾してくれるよ」

 

「だといいのですが……もし、鬼を倒しても元に戻らなければ……」

 

「そうだね、その心配もあるね……」

 

 小芭内の言葉に耀哉は頷き

 

「まあ、その時は我が家で引き取ってもいいよ。子ども達も歓迎するだろう」

 

「そんな!お館様のお手を煩わせるわけには!」

 

「そうかい?では君と蜜璃のところで養子にするかい?」

 

「なッ!?」

 

 耀哉の思わぬ返しに小芭内はいろんな意味で虚を突かれ口をパクパクさせる。

 

「お、お館様!そ、それはその……ッ!」

 

「ハハハ、まあその話は楓子が元に戻らなかった時に考えることにしようか」

 

 慌てる小芭内をよそに耀哉は楽しげに笑う。と――

 

「そろそろいい時間ですからお茶にしましょうか」

 

「ふーちゃ~ん!みなさ~ん!おやつですよ~!」

 

『は~い!』

 

 あまねと蜜璃がお盆にお茶の用意とお茶菓子のお饅頭を持って現れる。蜜璃の呼びかけに六人は部屋に戻ってくる。

 机に着き揃ってお茶を飲み、子ども達はお饅頭を食べる。

 

「楓子、どうかな?輝利哉達とは仲良くしてるかい?」

 

「うん!おにいちゃんもおねえちゃんもとってもやさしいよ!」

 

 ニコニコとお饅頭を食べる楓子に耀哉が訊くと楓子は元気に返事をする。

 敬語を使わない楓子の言葉に小芭内が慌てて窘めようとするが耀哉がニコニコと微笑みながら手で制す。

 

「フフ、ふーちゃん、すっかりお館様のお子さんたちと仲良しね!」

 

「うん!」

 

 蜜璃の言葉に元気に頷き楓子は輝利哉達を見てニッコリ笑う。

 笑いかけられた輝利哉達五人も揃って笑顔で頷く。

 

「フフ、もうすっかり馴染んでますね」

 

「楓子が良ければ好きなだけうちにいるといいよ」

 

「いいの!?」

 

 あまねがほっこりと笑い耀哉も優しく言うと、楓子は目を輝かせて

 

「じゃあねぇ!じゃあねぇ!」

 

 と目を輝かせたまま隣に座っていた輝利哉の腕に抱き着き

 

「わたし!おおきくなったらきりやおにいちゃんとけっこんする!けっこんしてずっとずっといっしょにあそぶ!」

 

 面々の笑みで爆弾を投下した。その言葉に

 

「へ?」

 

 当の本人の輝利哉は突然のことに呆け

 

「ほう?」

 

「まあ…」

 

 耀哉とあまねは目を見張り

 

「「「「あらら」」」」

 

 ひなき達四姉妹は同じ動きで口を手で覆いながら微笑み

 

「えぇッ!?」

 

 蜜璃は眼を見開いて微笑まし気に顔を綻ばせ

 

「…………」

 

 小芭内は絶句していた。

 楓子の突然の爆弾発言にそれぞれがそれぞれに反応する中

 

「ふむふむ、そうか……」

 

 いち早く耀哉が口を開き

 

「うん、楓子みたいにいい子なら、私も大歓迎だよ」

 

「じゃあ!」

 

「楓子と輝利哉が結婚できる年になったら輝利哉のお嫁さんになってあげてくれるかい?」

 

「ちょッ!?お父様ッ!?」

 

「うん!なるぅ!」

 

「ふ、楓子さ――楓子ちゃんッ!?」

 

「婚約おめでとうございますお兄様!」

 

「「「おめでとうございます」」」

 

「ひなきッ!?三人もッ!?」

 

「楓子さんなら家事のことも心配ないしいい奥さんになるでしょうね」

 

「お、お母様までッ!?」

 

 一気に賛同しお祝いムードになる産屋敷一同に一人取り残される長男。そして、そんな輝利哉に嬉しそうに抱き着く楓子。

 そんな光景を微笑ましそうに見つめながら

 

「フフ、今の大人な楓子ちゃんも小さいころにはこんなに可愛らしいところがあったのね!ねッ伊黒さん!」

 

 と、隣に座る小芭内に微笑みかける蜜璃。対して小芭内は

 

「……甘露寺、行こう。俺達も例の鬼を討ちに行く!」

 

 鋭い視線でその光景を見ながら切羽詰まった様子で言う。

 

「え?どうして?しのぶちゃんも冨岡さんも真菰ちゃんも行ってるのよ?何も心配いらないんじゃ――」

 

「鬼討伐の知らせを受けるまで待つなんて俺には無理だ!耐えられん!食事ものどを通らん!俺の手で仕留めないと気が気ではない!」

 

「伊黒さん!そんなに楓子ちゃんのことをそんなに心配してるなんて……!わかったわ!私も行く!」

 

「ああ!」

 

 お分かりと思うが、今の発言が楓子のことを心配してのものかと言われれば、もちろんNOである。

 小芭内の真の思惑としては、尊敬するお館様のご子息の結婚相手に楓子が収まるということは、楓子が将来的に自分の所属する組織の最高権力者の妻になるということ。これまで楓子にいろんな意味で苦しめられてきた小芭内にとってそんな未来は何としても避けたい未来である。

 

「行くぞ、甘露寺!絶対に鬼を討つ!」

 

「ええ!」

 

 二人は同じ目的に全く違った思惑で挑む。

 

「と言うわけでお館様、すみませんが我々も……!」

 

「ああ。義勇達もいるし心配ないかと思うが、楓子を心配する親心だね。いいよ、行っておいで」

 

「「はいッ!」」

 

 こうして元凶の鬼討伐に小芭内と蜜璃も参戦することになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――ところ戻って萌柱邸

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――いない……ホントどこに行ったのかしら?」

 

 あれからずっと探し続けて一時間以上。

 屋敷のどこを探しても伊之助を見つけることが出来なかった。

 

「まさか外に出たんじゃ……」

 

 と心配しながら縁側まで来たアオイは

 

「あぁッ!いたッ!」

 

「ッ!」

 

 今まさに壁を乗り越えて戻って来たらしい泥だらけの伊之助の姿を見つける。

 慌てて縁側に揃えておかれていた草履に履き替えアオイは伊之助の元に駆けるが

 

「ッ!」

 

「あ、ちょっとッ!?」

 

 そんなアオイを避けて伊之助は一目散に屋敷に入って行く。

 

「あぁもう!」

 

 そんな伊之助を追ってアオイも屋敷に入る。

 泥だらけのせいで廊下に点々と伊之助の足跡があるのでどこに向かったのかはすぐにわかる。大急ぎでそれを追いかけるとすぐに伊之助の背中が見えてくる。

 

「ちょっと伊之助さん!せめて足だけでも拭いて――!」

 

 言いながら追いかけたアオイだったが、伊之助は急に立ち止まる。

 そのまま目の前の襖を開ける。そこには――

 

「ッ!?」

 

「???」

 

「ムーッ!?」

 

 突然の伊之助の登場に部屋にいた炭治郎は驚き、カナヲはきょとんと視線を向け、奥まった部屋という立地と日が暮れてきたこともあって箱から出て来れた禰豆子が炭治郎同様に小さくなっている伊之助の姿に眼を見開いていた。

 遅れて部屋の前に来たアオイが見ると伊之助はそのまま炭治郎の前に行き、今まさに右手を突き出そうとしていて

 

「あッ!?」

 

 慌てて止めに入ろうとするアオイだったが、彼女の危惧するところとは裏腹に右手を突き出した伊之助の手は炭治郎の目の前で止まる。

 

「え……?」

 

 炭治郎も殴られるのかと身構えていたので眼をパチパチとしばたかせ拳と伊之助を交互に見る。

 困惑する炭治郎の目の前で伊之助は突き出した右手を開く。そこには――

 

「ん!」

 

「え?あ…これ、どんぐり……?」

 

 突き出す掌の中には艶々と光るどんぐりが三つ。

 

「ん!」

 

「……くれるの?」

 

「……おう」

 

 炭治郎の問いに伊之助が小さく頷く。

 伊之助の差し出すどんぐりを恐る恐る炭治郎が受け取ると

 

「その……おかしとってわるかった……」

 

「え……?」

 

 そっぽを向いて行った伊之助の言葉に炭治郎は一瞬呆けるが

 

「うん、いいよ!」

 

「ん……」

 

 ニッコリ微笑んで頷いた炭治郎を見て満足そうに頷き

 

「ッ!?」

 

 そこで驚いて廊下に茫然と立つアオイと目が合う。

 

「な、なんだよ……?」

 

 アオイの視線に伊之助がたじろぎながら言う。

 

「…………」

 

「ッ!?」

 

 アオイは伊之助の方に歩み寄る。近づいてくるアオイに伊之助は身構える。が――

 

「あぁ?」

 

 伊之助の予想とは裏腹にアオイは恐る恐ると言った様子で伊之助の頭に手を置きそっと撫でる。

 

「ちゃんと謝れて偉いですね」

 

 そう言ってアオイは優しく微笑む。

 そのアオイの微笑みに一瞬呆けた伊之助は

 

「へへッ……」

 

 少し照れたようにはにかみ

 

「へんッ!おれさまにかかりゃぁこれくらいどうってことねぇよ!」

 

「そうですね。そうかもしれませんが、頑張ったと思いますよ」

 

 胸を張って言う伊之助に頷きながらアオイは言う。

 

「さ、泥だらけですしお風呂の用意してきますね。お風呂に入る前に手拭いでできるだけ泥を落としてきてください。もちろん外でですよ」

 

「おう!わかった!」

 

 アオイの言葉に大きく頷いた伊之助は部屋から飛び出して駆けて行く。

 

「まったく……」

 

 伊之助の背中を見送ったアオイはホッと息をつく。

 そして、風呂を沸かしに行こうと思い部屋を出ようとしたところで

 

「…………」

 

「あら?何かありましたか?あ、手拭い渡してなかったわね」

 

 ひょっこり顔を出した伊之助にアオイはポンと手を打つが

 

「それもだけどよぉ……」

 

 伊之助はモジモジとしながらアオイの方にやって来て

 

「……ん」

 

「え?」

 

 先程炭治郎にしたように今度は左手を差し出す。

 困惑するアオイに向けてゆっくりと手を開くと、そこには同じようにどんぐりが三つあり

 

「その…お前にもやる」

 

「え……私に?」

 

「ん」

 

 顔を指さして訊くアオイに伊之助は頷く。

 

「じゃ、じゃあ……ありがとう」

 

「ん」

 

 どんぐりを受け取ったアオイに満足げに頷いた伊之助は今度こそ泥を落としに玄関の方に向かおうとし

 

「あ、ほら手拭い!」

 

「おう!」

 

 アオイは慌てて懐に入れていた手拭いを渡す。

 それを受け取った伊之助は今度こそ泥を落としに外に向かって行く。

 

「ちゃんと足も綺麗に拭くんですよぉ!」

 

「おう!」

 

 アオイの言葉を背に受けて去って行く伊之助。

 伊之助の背中を見送ったアオイは

 

「……フフッ」

 

 伊之助から貰ったどんぐりを眺め嬉しそうに微笑んだ。

 

「さ、お風呂を沸かしに……そう言えばこの二人どうやってお風呂に入れさせましょう?流石に私やカナヲが入れるのはいろいろ問題があるような……」

 

 ふと、一つに問題に行き着く。

 

「う~ん……」

 

 考えながらアオイはチラリとカナヲの様子を見る。

 カナヲはそんな問題など一切頭にない様子で気にせず炭治郎と禰豆子と遊んでいる。

 そんな様子を見たアオイは数秒考え

 

「よし、愈史郎さんにお願いしましょう!」

 

 一番この場で最適解だと思われる人物を見出したアオイは晴れ晴れとお風呂の用意に向かった。

 ――その後

 

「こら猪小僧!風呂場でちょこまか動き回るな!」

 

「そのせっけんとかいうのすべってきもちわりぃんだよ!」

 

「そう言うものなんだからしょうがないだろうが!」

 

 愈史郎が苦労するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――その後、しのぶ・義勇・小芭内・蜜璃・真菰・善逸の健闘……特に小芭内と彼から事情を聴いたしのぶが鬼気迫る様子で全力で追い詰めた結果、難なく元凶の鬼を倒すことに成功し、当初の懸念が現実になることは無く、無事三人は元の肉体に戻ったのだった。

 

 

 

――そして、その後の伊之助と炭治郎は、幼児化していた間の記憶が無かったようだったが、深層心理には何か残っているのか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「炭治郎…一緒におやつ……」

 

「カナヲ!うん、いいよ!一緒に食べよう!」

 

「あ、ありがとう……」

 

「いいんだよ!俺もカナヲとおやつ食べるの楽しいから!」

 

 カナヲは以前よりも炭治郎をおやつに誘う頻度が増え、炭治郎もそれを嬉しそうに応じ

 

 

 

 

 

「おい!洗濯物取り込んでやったぜ!」

 

「ああ、ありがとうございます。では次は廊下の掃除を……」

 

「おい、なんで俺にばっかり雑用手伝わせんだこらァ!!」

 

「あなたが一番頼りになるからですよ」

 

「ほう?なんだよ、なかなか見る目あるじゃねぇか!しょうがねぇな!そういうことなら手伝ってやるか!」

 

「ええ、ええ。ありがとうございます(ナデナデ)」

 

「(ほわ……)ハッ!お、俺を撫でんな!!ほわほわするだろうが!!」

 

 伊之助は以前よりもアオイと仲良くなったような気がする――というかアオイが伊之助の扱い方を覚えたようにも見えるが……

 

 

 

 

 

――そして、一番の難題だったであろう楓子はと言えば

 

 

 

 

 

「この度はお館様や産屋敷の皆さんにご迷惑をおかけしてしまったようで申し訳ございませんでした」

 

「いいんだよ。元の楓子に戻ってよかった。これからも柱の一員として、そして、『梁』の責任者としてその知識と技術をいかんなく発揮してほしい」

 

「はい!お任せください!」

 

「………ところで、楓子は幼児化していた間のことはどの程度覚えているのかな?」

 

「いえ、それが朧気に輝利哉君達に遊んでいただいていたような気はするのですがはっきりとは……もしかして私幼児化してる間に何か粗相をッ!?」

 

「いいや、大丈夫だよ。君は子どもになっても利発ないい子だったよ」

 

「そうですか……何分子どもになっていたのでおかしな言動をしていたのでは、と危惧していたのですが、何もなかったのであれば一安心です」

 

「ああ、大丈夫だよ。………本当に何も覚えてないのかい」

 

「はい、まったく、少しも覚えてないですね」

 

「そうか……」

 

 楓子の言葉に少し残念そうに耀哉は呟く。

 そして、楓子が帰った後、耀哉とあまねは

 

「まあ本人が覚えていない上に、鬼の術によるものであればあの時の発言は一旦忘れてあげた方がいいかもしれないね」

 

「そうですね」

 

「残念だけど、いつかちゃんと今の楓子が輝利哉の相手になるような方法を考えようか」

 

 耀哉とあまねが残念そうに、しかし、決意を新たにした。

 所変わって萌柱の自室に戻った楓子は

 

「…………」

 

 自室の襖を閉めた瞬間、その場に崩れ落ち

 

「何が『おおきくなったらきりやおにいちゃんとけっこんする』だよ!!馬鹿じゃねぇの!!恥ずかしぃぃぃぃぃ!!やめてぇぇぇぇぇ!!恥ずか死する!!!死んでしまう!!!なんで私だけガッツリ覚えてんだよ!!!炭治郎君や伊之助君みたいに忘れてろよ!!!あんなの私じゃないぃぃぃぃいッ!!!!」

 

 何故か一人だけ記憶を保持していた楓子は羞恥心に悶え死んでいたのだった。

 

 




と言うわけでご都合血鬼術によって幼児化した楓子たちでした。
ちなみに幼児化の設定をおさらいしますが以下のようになっています。

①推定年齢5歳児程度の肉体になる。
②精神も肉体レベルになる。
③記憶も肉体レベルの頃に戻るため五歳以降の記憶は喪失する。
④③に加え、楓子は自分が転生者だという記憶も失っていた。
⑤血鬼術が解けた時、幼児化していた間の記憶は寝て起きた時に見ていた時の夢程度にしか覚えていない。その為個人差があり覚えている人はガッツリ覚えている。

です。
多少無理があるところあるかと思いますが目を瞑っていただければ……(;^ω^)
ちなみに今回登場したオリジナル鬼にも一応名前を用意しています。登場する機会がありませんでしたが……。
今回のオリジナル鬼の名前は「唖烈氏」と言う名前でした。
能力のレベルは下弦の鬼レベルに強かった、という設定です。
大人を幼児化し、いたぶって食べるのが好きでした。
口癖は「エライね~」です。



おまけ、と言うかどうしようか迷って結局没にした話です。
もしも、幼児化した楓子が記憶を失くしていなかったら……

【挿絵表示】




と言うわけで今回の質問コーナーです!
今回は大筒木朱菜さんからいただきました!

――楓子さんは前世でギャルゲー(というか、エロゲー?)の知識があるみたいですが、百合ゲーや乙女ゲーの知識もあるんでしょうか?

楓子「ギャルゲーとか乙女ゲーは広く浅くやってました。私より親友のどかちゃんがそっち方面好きだったんで有名どころとかどかちゃんがおすすめしてくれたものを遣るって感じですね。その中で好きだったのは、CLANNADやリトルバスターズ、あとはハピメア、グリザイアシリーズなんかが好きですね。あとはYUZUソフトの作品は好みなの多かったです」

――もし楓子さんの転生世界である恋継世界が薄桜鬼とリンクする世界だとして、生れ落ちる時代を選択できるなら、薄桜鬼勢が活躍する幕末期と鬼滅勢が活躍する明治後期~大正初期のどちらを選びますか?

楓子「『薄桜鬼』もどかちゃんに勧められてやりましたよ。もしこの世界とリンクしててどちらか生まれる時代を選べるなら……悩みますがやっぱり今の明治後期~大正初期ですかね。だってこっちには蜜璃さんいますしね」

とのことでした!
と言うわけで今回はこの辺で!
次回もお楽しみに!



~大正コソコソ噂話~
後日改めて産屋敷にお礼に訪れた際、輝利哉のことを誤って「きりやおにいちゃん」と呼んでしまいひと騒動起こりますが…それはまた別のお話。


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