「ふう…思ったより時間がかかっちゃったなぁ……」
言いながら私は日輪刀を鞘に納める。
鬼討伐の為に今回の標的である鬼の根城の山に単独で入った私は難なく鬼を討伐に成功した。
時刻は深夜、俗に丑三つ時と言われる時間、ホッと一息をつき持っていた竹の水筒をあおりのどを潤し戦闘後の緊張を解く。
鬼を追ううちに山道を外れて森の中に入ったせいで辺りは生い茂る木々の葉によって月明かりも射さず薄暗い。
「とりあえず、下山するかねぇ~」
言いながら木の根や岩などでごつごつとした道とも言えない森の中を危なげなく進む。
鬼と戦う上で必須ともいえる夜目のお陰で足元のおぼつかない森の中も何のその。これまでに鍛えた身体能力で問題なく進んだ私は物の数分で通常の山道に出る。
「ほッ……さて、とりあえず麓の街に向かおうかな。急いで行っても夜中だから宿もないだろうしゆっくり進むとしようかな……」
言いながらふと空を見上げる。空には大きな満月が浮かぶ。数秒眺めた私は
「……お腹空いたな」
ボソリと呟く。
「何かあの月、スフレパンケーキみたいで美味しそう……屋敷に帰ったら作ろうかな!ふわトロの美味しいの!そうだ!輝利哉くん達にも今度作ってあげよう!喜ぶかなぁ~?」
と、喜んでいる輝利哉くん達の顔を想像して、鼻歌交じりに歩き始める。と、その直後――
――ザリッ
「ッ!?」
自分のものではない地面を踏みしめる足音が耳が捕らえた瞬間、私は背筋に走った言いようのない悪寒と共に飛び退いて腰の日輪刀に手を掛ける。
旅人など一般人である可能性などはなから頭になかった。
丑三つ時だからとかそう言うことではない、ほんの少しの足音だけで感じた圧倒的存在感と圧迫感が背後にいる存在の異様さを物語っていた。
臨戦態勢のまま振り返った私はその足音の正体を視界にとらえ
「なッ!?」
その存在に唖然とした。
そこに月明かりに照らし出されて立っていたのは『人の形をした恐怖』だった。
「…………」
無言のまま立つそれは紫の着物に黒い袴、長い髪を後ろでまとめ、腰には一振りの歪な刀らしきものを携えた『侍』と言った風貌。
しかし、人の形をしていながらその顔には六つの瞳がこちらを見ていた。
――上弦の壱・黒死牟
鬼舞辻無惨を除きすべての鬼の中でも最強、『鬼滅の刃』登場キャラの中で単独での戦闘力が最強であろう継国縁壱の兄にして鬼殺隊の裏切者。
圧倒的な強さで柱三人と鬼の力で強化した玄弥くんの四人がかりでニ人の犠牲と引き換えに討伐した上に、死の間際に頸の弱点を克服しかけた本物の化物。
そんな最悪の存在が目の前に立っていた。
「ふむ…いい構えだ」
私の動揺を知ってか知らずか、黒死牟は呟くように口を開く。
「隙のない構え、よく修練を積んでいるようだな」
値踏みをするように私を見た黒死牟は、しかし――
「が、やはり解せない。確かに技量はなかなかのものだが、あの方が最大限の警戒をし、私に直接首を持ち帰るように言われるほどの相手とは到底思えん。お前の何がそこまであの御方の脅威となったのか……」
本当に心底わからないという様子で言う黒死牟。
「……まあいい」
少し思案した後、黒死牟はフッと息を吐き
「私はただあの御方の命を全うするのみ……」
言いながら黒死牟の放つ存在感が増幅する。
その瞬間身体が震え始める。
日輪刀を握った手が抜くことを拒否している。
まるで私の意志に反して本能が戦うという選択を拒んでいるようだ。
私の恐怖心をよそに黒死牟は私へ向けて一歩踏み出し、刀に手を掛ける。
「見せてもらうぞ、あの御方が警戒するその技量を」
「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」
私は身の丈ほどもある岩に背中を預け、荒い呼吸を繰り返す。
黒死牟と遭遇していったいどれほど経っただろうか。木々の間から見える空の月の位置的に精々一時間ってところだろうか。
倒すことなんて一切考えず、ただ生き残るために全力を注いだ。
お陰であちこち斬り傷だらけで満身創痍だが五体満足。しかし、少し血を流しすぎた。
貧血でぼんやりする思考に鞭打ってやっとのことで書き上げた黒死牟の情報と、前もって用意していた私の知りうる限りの情報を書き出した手紙を封筒に入れ、傍らに私を心配そうに見上げる鎹鴉――
「いい、
「ア~!フウコ!フウコ!」
「大丈夫…私、ここで死ぬ気はないから……絶対生きて帰るから……だって、まだ蜜璃さんの白無垢見てないから…蜜璃さんの赤ちゃん抱っこするまで、私死ぬつもりないから……だから、行きなさい」
「………ア~!!」
私の言葉に大きく頷いた
「はぁ…はぁ…はぁ……さて、そろそろ移動しないと――ッ!?」
重い体に鞭を打って立ち上がった私は、感じた殺気に視線を向けようとして、直後ガクリと両膝から力が抜ける。
「くッ!?」
ヤバい!と思った直後先程まで私の首があった位置で横の大岩が真っ二つになる。
「ふむ…その満身創痍で避けるとは、なかなかやるな」
聞こえた声に慌てて視線を向ければ少し感心した様子で黒死牟が立っていた。
感心してるところ悪いけど、今のは完全に偶然なんだけどなぁ……と内心で苦笑いしつつ、私は両腿を拳で叩いて気合を入れ直す。
「まだまだこれくらい、なんてことないから!人間舐めないで!」
叫びながら背中のカバンから取り出した球体に素早く火を点け投げつける。
「ッ!」
黒死牟が切り落とそうと刀に手をかけ、刀身すら見せずに素早く飛来する球体を真っ二つに切り落とす。
が、直後に中から広がった紫色の粉末が黒死牟を包む。
「くッ、これは…毒か!?」
鬼とはいえ呼吸の剣士、刀を振るった直後で深く呼吸をしたので広がった紫の粉末を吸い込んだようで顔を歪めて胸を押さえる。
「どうせ大した足止めにはならないだろうけど、一瞬止められれば十分!」
そんな黒死牟に背を向け私は一目散に駆け出す。
まだだ、私はまだ行ける。絶対に生き残る!
○
「そうか……楓子は上弦の壱と遭遇したのか……そして、死に物狂いで最期にこれを私達に託して……」
傍らで涙を流す楓子の鎹鴉――
「ち、父上!嘘ですよね!?楓子さんは無事なんですよね!?」
そんな耀哉に対面に座り、黒の届けた手紙を読み上げた輝利哉が叫ぶ。
「輝利哉、私も信じたくはない…だが、上弦の壱が相手では安易に楽観視もできない……」
「そんな……」
耀哉の言葉に輝利哉は今にも泣きそうな顔で顔を歪める。
「輝利哉、すぐに全柱に通達。すぐに動ける者に楓子捜索に向かう様に指示を出すんだ」
「は、はい!」
耀哉の指示に滲んだ涙を拭って慌てて立ち上がった輝利哉は部屋を後にした。
「そんな…ふーちゃんが……ッ!?」
自身の鎹鴉の伝えた伝令に甘露寺蜜璃は顔を真っ青にして崩れ落ちる。
「甘露寺ッ!」
そんな蜜璃を慌てて駆け寄り抱き留める伊黒小芭内。
「伊黒さん!ふーちゃんが!ふーちゃんが!」
「落ち着け甘露寺!まだアイツが死んだとは――」
「でも、上弦の壱に単独で遭遇したって!」
「まだ…まだアイツの死亡は確認されていない!信じるんだ!」
「ッ!い、伊黒さん……」
小芭内の言葉に蜜璃はボロボロと涙を流しながら縋り付く。
そんな蜜璃を優しく抱きしめ小芭内は優しく言う。
「大丈夫だ。上弦の鬼を二体も倒した実績のあるアイツがそう簡単にくたばるはずがない。俺達はただ信じるんだ」
「うぅ…伊黒さん…伊黒さぁん…!!」
小芭内に縋りついて泣き叫ぶ蜜璃を優しく抱きしめながら小芭内は蜜璃に見えない位置で険しい顔をする。
(あの馬鹿が…俺にさんざん甘露寺を泣かすなと言ったくせにお前が泣かせてどうする!これで死んでいたら、俺は絶対にお前を許さんからな!)
胸中で叫びながら小芭内は蜜璃を抱きしめ寄り添い続けた。
「冨岡さん!しのぶさん!真菰さん!」
「…………」
「炭治郎、それに伊之助君と善逸君まで……」
「どうしてここに?」
水柱邸の玄関で今まさに屋敷を出ようとしていた冨岡義勇・胡蝶しのぶ・鱗滝真菰を屋敷の前に並んで立つ竈門炭治郎・嘴平伊之助・我妻善逸の三人が呼び止める。
「今から楓子さんの捜索に行くんですよね?」
「それに、俺達も同行させろ!」
「お、お願いします!」
「三人とも……」
揃って頭を下げる三人にしのぶは息を飲む。
「わかってる?楓子が相手にしていたのは上弦の壱、鬼舞辻無惨を除いて最強の鬼よ。楓子を探しに行くということは最悪その鬼と戦闘になる可能性があるのよ?今までで一番危険な相手よ?」
「だったらなんだ!?」
しのぶの言葉に伊之助が叫ぶ。
「強ぇ奴がいようが関係ねぇ!あいつにはいくつも借りを作ったまんまなんだよ!その借りを返す前に死なれちゃ困るんだよ!」
「足手まといにはなりません!それにそれほど強い相手なら人手は多い方がいいと思うんです!」
「お、俺達がどれだけ助けになれるかわかりませんけど、ただ待ってるだけなんてできません!」
「みんな……」
三人の言葉に真菰が涙ぐみ。
そんな中ずっと黙って聞いていた義勇は何も言わず三人に背中を向ける。
「義勇さん……」
「半々羽織!」
「うぅッ!」
そんな義勇に三人は再び頼みこもうと口を開きかけ
「……時間がない。遅れたらそのまま置いて行く」
「「「え……?」」」
「行くぞ」
そのまま困惑する三人に応えず義勇は駆けだす。
「ついて来いってことだと思うよ」
「全く…相変わらず言葉が足りないんだから!」
ニッコリ微笑みながら真菰が言いしのぶもため息混じりに言い
「ほら、置いてかれる前に行くわよ!」
「「は、はい!!」」
「おうよ!!」
五人は義勇を追って駆けだした。
「アオイ!そっちの軟膏と包帯もありったけ物置から持って来て!」
「は、はい!」
「カナヲはベッドの用意!」
「ッ!」
カナエの言葉に頷いた二人はそれぞれ駆け出す。
「楓子ちゃんは必ず生きている…生きていてもきっと怪我してるはずだから絶対に助ける!」
「ええ、その通りです」
カナエの言葉に隣にいた珠世が頷く。
「今が昼間でなければ私や愈史郎も向かうのですが…鬼の身体が今ほど恨めしいことはありません……」
「珠世様……」
悲し気に顔を伏せる珠世に愈史郎は唇を噛み
「信じましょう」
愈史郎が口を開く。
「あいつはいろいろどうかと思うところはありますが、ただで死ぬような奴じゃありません。信じて待ちましょう」
「愈史郎……」
「……そうですね」
愈史郎の言葉に二人は頷いたのだった。
「――あれ?」
フラフラと歩いていた私はふと我に返る。
「ここ……どこ?」
私は確か黒死牟と遭遇して、それから延々と山の中を鬼ごっこし続けていて……それから――
「何がどうなったらこんな場所に……?」
言いながら私は周りを見渡す。
そこは異様な場所だった。
天井も床も真っ白で左右両側の壁には洋風和風様々な扉が並んでいて、そんな長い廊下のようなものが延々と先が見えないほどに伸びており、そんな中で5mほど先の目の前、ど真ん中に事務机が一つ鎮座していた。机の上には乱雑に本や書類が並べられ、机の右の隅には役所などにある順番待ち用の番号の印字される機械が置かれ、左側にはポットと灰皿と湯気の立つマグカップが置かれている。
そして、そんな事務机に向かって新聞を広げていた人物が新聞を降ろす。
その人物は白金色の髪を七三分けにし四角いメガネをかけた男性。
「次……」
その男性は私の顔をジッと見つめ、取り出した万年筆を机の上の書類に何かを書き込む。
「あなた……それにここ…なんか見覚えがあるような……?」
困惑する私は直後右側から吸い寄せられるような感覚を味わう。
見ればそこにはまるで石を組んで作ったような扉の枠がぽっかりと開いており、今まさに私はその穴に向かって吸い寄せられているらしい。
「がッ!?なん…!?」
抗おうとするものの、抵抗空しく疲労と負傷でフラフラの身では――否、全快の状態でも抗えたかどうか怪しいが、私はそのままぽっかり開いたその穴へと吸い寄せられていった。
「――はッ!?」
ハッと意識が覚醒した感覚と共に私は跳び起きた。
「何ここ……?」
周りを見渡せば石を組んで作ったらしい石壁の一室に布団らしきものに寝かされていたらしい。
壁のつくりは洋風に見えるが、どこかボロボロで廃墟のような様子だ。
茫然としながら状況が飲み込めずポカーンとしていると
「ッ!?×××××ッ!」
辛うじて扉らしいところからひょっこりと顔を出した金髪にとんがり耳の少年がわけのわからない言葉を叫ぶ。
と言うか――
「え、エルフ耳ッ!?」
その様相に唖然とする。
と、エルフの少年の叫びにやって来たらしい別のエルフ少年が現れる。
「×××××!」
「××××××××!××××××!」
エルフ少年二人が何事か話しているのを見ながら私は自分の身体を確認する。
どうやら誰か、状況的にこの少年達か他の誰かが治療を施してくれたらしく体には包帯が巻かれておりYシャツとスカートは羽織っており、枕元には私の隊服と羽織が丁寧に畳まれていた。
確認した限りでは身体も問題なく動きそうだ。
とりあえず話をしようと立ち上がれば
「×××××!」
エルフ少年が驚いた様子で何かを言うが残念ながら言葉はわからない。
首を傾げていると、少年達は身振り手振りに切り替えて何かを伝えようとしてくる。
それをなんとか読み解けば、どうやら「着いてこい」と言うことらしい。
私は隊服の上着と羽織を着て少年の案内に着いて行く。
「…………」
「…………」
少年二人は先導しながらチラチラと私の様子を窺っているようだ。
「ん?」
「「ッ!?」」
ニッコリと微笑むと少年二人は慌てて顔を背ける。
随分警戒されているようだ。
状況はよくわからないが部屋を出て歩く廊下は部屋と同じく石壁でだいぶ古くボロボロの廃墟のようだ。
よく覚えていないが黒死牟から逃げていて、死んでしまった上に『鬼滅の刃』の世界に転生した次はファンタジー世界に来たのだろうか?
状況がよくわからないので、とりあえずまずは情報収集だ。
このエルフ少年達がどこに連れて行こうとしているのかわからないが様子から察するに私が目を覚ましたら連れて来いと誰かに言われていたらしい。
それが誰でどういう相手かはわからないがとにかく今は大人しく状況を見定めなくては……
なんて思っていると
「×××××!」
どうやら目的の所に着いたのだろう。
エルフ少年達が私の顔を警戒した様子で見ながら前方を指さしている。
そこには三人の人物がいた。三人とも着物を着ており顔の様子から日本人らしい。
一人は眼帯をつけたおじさん。一人は青い着物に長い髪を後ろでまとめた私と年の変わらない青年。もう一人は赤い服にところどころに甲冑のような鎧をつけた男。
その三人は初対面ではあったが、私はその三人を知っていた。
その三人の正体に気付いた瞬間私は自分がどういう状況でどこにいるのかを理解した。理解してしまった。
その結果私は
「イィヤァァァァァァァッ!!!!よりにもよってここかよぉぉぉぉぉッ!!!!」
いろいろキャパオーバーを起こして泣き叫んだのだった。
~つ・づ・け~
どうもお久しぶりです!
仕事とかあれこれで立て込んでいたせいで更新が遅れました!
最新話いかがだったでしょうか!?
次回からは新シリーズ「漂流物編」突入です!
新たな戦場での楓子ちゃんの運命やいかに!?
楓子「いや始まんねーよ。嫌だからね、私あんな世界じゃ一瞬で死ぬ自身しかないからね?」
おいおい乗れよ!
せっかくのエイプリルフールネタなのに!
楓子「エイプリルフールって……もう10日も前じゃん。4月1日にやらないとエイプリルフールとは言えんでしょ」
それは……いろいろとやむにやまれぬ事情があったのよ。
楓子「事情?」
ぶっちゃけるとエイプリルフールの4月1日はコロナかかって体調絶不調真っただ中だった。
体調戻っても家で在宅仕事したりで新年度のあれこれやってたら今日まで執筆も投稿もできなかった。
楓子「思ったよりガチの事情じゃん。体調大丈夫なの?」
大丈夫大丈夫!
完全復活して仕事にも復帰してるし!
ただまあちょうど前年度の仕事まとめと新年度の仕事始めの時期に休んでたから仕事が溜まりまくっててコロナ明けは別の意味で死にそうだったけどね!
まあそんなわけで更新が遅れたこと、大遅刻のエイプリルフールネタは多めに見ていただけると幸いです!
後ついでに投稿前に確認したらお気に入り件数が3400件になっていたのでそのお祝いも兼ねているということでここはひとつ!
ちなみにエイプリルフールネタだからタイトルの「変56」はミスじゃないです。
仕様です。
そんなわけで次回からは本編ちゃんとやるのでよろしくお願いします!
ただ、他に更新している小説がだいぶ更新できていないのでそろそろそっちも復活させるので更新頻度は落ちるかと思いますがご了承ください!
そんなわけで今回はこの辺で!
次回もお楽しみに!
楓子「ちゃおちゃお~」