恋柱の継子、人の恋路に世話を焼く   作:大同爽

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皆様大変お待たせしてしまってすみません。
仕事が立て込み、そのストレスのせいか思う様に書けずスランプでしたが、最近仕事も落ち着きやっと腰を据えて小説を組時間が取れるようになりました。
そんなわけで久しぶりの更新です。
今回は贈れたお詫びに番外編です。
本編を待っていた方すみません!
スランプ脱出の為に少し遊び心で書いてみました。
次回はちゃんと本編に戻りますのでご容赦ください!
そんなわけでお詫びの番外編です!





お詫びの番外編②「恋の話をするとしよう」

~シンデレラ~

 

 

 

 むかしむかし、ある所にシンデレラという少女がいました。

 早くに母親を亡くした彼女でしたが、ある時彼女の父親は再婚しました。しかし、そのあとすぐに彼女の父親が事故で他界。シンデレラは血の繋がらない継母と暮らすことになりました。すると継母はすぐに本性を現し始めました。

 

「シンデレラ!掃除しておきなさいと言ったでしょう!」

 

「シンデレラ!買い物に行ってきなさい!」

 

「ちょっと、何サボってるの!」

 

 彼女のことをまるで奴隷の様に扱い、彼女の本当の両親の残した遺産で毎日の様に豪遊。そのくせ彼女にはボロの服を与え、満足な食事もお風呂も与えない。少しでも彼女が自分の思い通りにならなければ暴力を振るうのでした。

 母を亡くした悲しみ、継母からの虐待に心をすり減らした彼女はいつしか笑うことを忘れ、感情の一切を見せなくなってしまいました。

 そして、そんな生活が続いたある日のこと、とうとう彼女の両親の遺産もわずかとなり、継母はシンデレラを奴隷として売ってしまいました。

 奴隷商の男に連れられて行く彼女は長年の虐待でもはや悲しいとも嫌だとも抵抗することは無く、ただ連れるままに歩いていました。と――

 

「あの、ちょっとよろしいですか?」

 

「あぁ?」

 

 呼び止める声に男が振り返ると、そこには美しい二人の女性が立っていました。

 二人の女性のうち、髪の長い優しそうな女性が訊きました。

 

「その子はどうして縛られているのでしょうか?罪人か何かなのですか?」

 

「見てわかるだろ。蚤だらけで汚ぇからだよ。それに逃げるかも知れねぇからな」

 

 男の言葉を聞きながらその女性はシンデレラに視線を合わせて微笑みました。

 

「こんにちは、初めまして。あなたのお名前は?」

 

「勝手なことしてんじゃねぇよ。離れろよ」

 

 男は優しそうな女性を引き離そうと手を伸ばしますが

 

 バシィッ!

 

「姉さんに触らないでください」

 

 もう一人の勝気そうな女性がその手を払いのけました。

 

「…何なんだてめぇらは、このガキとお喋りしたきゃ金を払いな」

 

「………」

 

 払いのけられた手を擦りながら男は不機嫌そうに言いました。

 そんな男の言葉に優しそうな女性は悲しそうに顔を顰める。そんな彼女を見て勝気な女性は

 

「じゃあ買いますよ、この子を」

 

 言いながら懐に手を入れた彼女は

 

「これで足りますか?」

 

 そう言って彼女は懐から取り出したお金を辺り一面にぶちまけました。

 その額は正確にはわからないが、一目でかなりの高額だとわかります。

 その行動に男が虚を突かれた瞬間、彼女は男が持っていたシンデレラを縛る縄を引っ手繰り走り出しました。

 

「あっ待ちやがれ!!!」

 

 慌てて男が追いかけようとしますが

 

「早く拾った方がいいですよ!人も多いし風も強いので!」

 

 彼女の言葉に男は慌ててお金を拾い始めます。

 そんな男の姿を見ながら優しそうな女性は

 

「あぁ~、いいのかしら?ごめんなさいね~」

 

「いいの!」

 

 どこか申し訳なさそうに、しかし、反面シンデレラの手をしっかりと握って走ります。

 そして、勝気な女性もしてやったりという笑みを浮かべながらシンデレラの反対の手を握っていました。

 

 

 

 こうして、シンデレラは病院を営む姉妹に妹として引き取られました。が――

 

「姉さん、この子全然だめだわ。言われないと何もできないの」

 

 勝気な女性、下のお姉さんが頭を抱えて言いました。

 

「食事もそうよ。食べなさいって言わなきゃずっと食べない。ずっとお腹鳴らして」

 

「まあまあそんなこと言わずに。姉さんはあなたの笑った顔が好きだなぁ」

 

「だって!自分の頭で考えないで行動できない子はダメよ危ない。一人じゃできないのよ」

 

「じゃあ一人の時はこの銅貨を投げて決めたらいいわよ」

 

「姉さん!」

 

 そう言って上のお姉さんはシンデレラに銅貨を一枚くれました。

 

「そんなに重く考えなくてもいいじゃない。シンデレラは可愛いもの!」

 

「理屈になってない!!」

 

 のんびりという上のお姉さんに下のお姉さんは怒るが上のお姉さんは微笑んで言いました。

 

「きっかけさえあれば人の心は花開くから大丈夫。いつか好きな男の子でもできたらシンデレラだって変わるわよ」

 

 上のお姉さんの言葉に下のお姉さんはため息をつきながらこれ以上言っても無駄だと諦めてしまいました。

 そんなこんなで彼女たち三人は仲良く暮らしました。

 そして、そんな生活が続いて少し経ったある日のこと――

 

「今度お城で舞踏会があるみたいね。街の住人なら誰でも参加できるみたい」

 

 下のお姉さんが待ちで配っていたチラシを片手に言いました。

 

「あら、いいわね。じゃあ三人で行きましょ!お城に行くんだからしっかり着飾らないとね!」

 

「シンデレラはドレスを持ってないわね。私達の昔使ってたものでいいのが――」

 

「ダメよ。せっかくだから新品を用意しましょ」

 

 そんなこんなで姉妹はシンデレラの為に街の腕のいい美人の仕立て屋に頼みました。そして、素敵なドレスと靴ができました。

 

「いやぁ我ながらいい出来です!これならきっと王子もメロメロ!玉の輿間違いなしですよ!」

 

「玉の輿?」

 

 美人で腕のいい仕立て屋の女性の言葉に上のお姉さんが首を傾げました。

 

「あれ、知りません?今回の舞踏会は王子の15歳の成人を祝う舞踏会ですよ。成人したなら今度は結婚を考えないとですからね。この舞踏会はお祝いもですが結婚相手を探すことも目的なんですよ」

 

「へぇ~そうなのね!」

 

「ちなみに隣国の王子も来ますし、その王子も独身ですからそっちにもチャンスがありますね」

 

「隣国の王子って言ったら無口で不愛想って有名じゃない。そんな相手に嫁いだら苦労するのが目に見えてるわ」

 

 三つ編みの似合う美人の仕立て屋の言葉に下のお姉さんはため息をつきました。

 

「でも、シンデレラのこの可愛さなら確かに王子様に気に入られるかもね!舞踏会が待ち遠しいわ!」

 

 上のお姉さんは上機嫌です。

 そんなこんなで準備万端で迎えた舞踏会の日――

 

「いいですか姉さん、シンデレラ。いくらお城の舞踏会とはいえ女性が夜遅くまで出歩くのはダメ。門限を決めましょう。0時の鐘が鳴り終わるまでにお城を出て家に帰りましょう」

 

「そうね、そうしましょうか。シンデレラも覚えておいてね」

 

「(コクリ)」

 

 お姉さんたちの言葉にシンデレラは頷きました。

 お城に入った三人はその豪華絢爛な舞踏会会場に足を踏み入れました。

 そこには着飾った人々が集まり、楽団の生演奏に合わせて踊ったり、豪華なご馳走を楽しんでいました。

 

「さ、ここからは自由行動にしましょう。シンデレラも楽しんでね。ここにあるものは好きに食べていいそうだからあなたも好きなものを食べなさい」

 

「(コクリ)」

 

 上のお姉さんの言葉にシンデレラは頷きました。

 そうして三人は別れ別行動をすることにしました。

 しかし、お姉さんたちと別れたシンデレラは特にどうしたらいいのかわからず会場の隅の椅子に座ってぼんやりと舞踏会の光景を眺めていました。

 どれくらいそうしていたことでしょう。そんな彼女に一人の青年が近づきました。

 

「こんばんは。おひとりですか?」

 

 それはこの城に住む王子でした。

 

「…………」

 

 王子の言葉にしかし、シンデレラが答えずニコニコと微笑むばかりです。

 

「舞踏会楽しんでいますか?俺の成人を祝う舞踏会をこんなに豪華にしてもらって申し訳なくて。責めて来ていただいた人達が楽しんでもらえてるか心配で……」

 

「…………」

 

「料理はどうですか?うちの料理人たちが腕を振るってくれたのでお口にあえばいいですが……」

 

「…………」

 

「えっと……その……」

 

 何も言わずただニコニコと座ったまま自分を見上げるシンデレラに王子は困惑しながらも笑顔を浮かべて見つめます。

 そんな彼にシンデレラは少し考え、銅貨を取り出し指で弾きました。

 クルクルと真上へあがった銅貨を手にしたシンデレラが見ると、銅貨は『裏』を示していました。

 

「……お料理とっても美味しかったです。お料理を作った方にもそうお伝えください」

 

 シンデレラは王子に向き直るとそう答えました。

 そんなシンデレラに王子は「喋ってくれた!」と満面の笑みを浮かべました。そして

 

「今投げたのは何?」

 

「…………」

 

「お金?」

 

「…………」

 

「表と裏って書いてあったね」

 

「…………」

 

「なんで投げたの?」

 

「…………」

 

「あんなに回るんだね」

 

「…………」

 

 シンデレラが答えなくても矢継ぎ早に質問しました。そんな王子の勢いに黙っていても諦めてくれないと悟ったシンデレラは答えます。

 

「指示されてないことはこれを投げて決めるの。今あなたと話すか話さないか決めたの。『話さない』が表、『話す』が裏だった。裏が出たから答えた」

 

「…………」

 

 シンデレラの返答に少し考えた王子は

 

「なんで自分で決めないの?」

 

「…………」

 

「君はどうしたかった?」

 

 王子の問いにシンデレラはニコニコとした笑みのまま

 

「どうでもいいの。全部どうでもいいから自分で決められないの」

 

 そう答えました。

 シンデレラの返答に王子はキョトンとした顔で

 

「この世にどうでもいいことなんて無いと思うよ」

 

 そう言いました。

 

「きっと君は心の声が小さいんだろうな。う~ん……指示に従うことも大切なことだけど……」

 

 と、王子は腕を組んで考えこみ

 

「あ、そうだ!」

 

 何かを思いついた様子でポンと手を打ち

 

「それ、貸してくれる?」

 

 シンデレラが手に持つ硬貨を指さして言いました。

 突然のことに虚を突かれたシンデレラは

 

「えっ?あ、うん……あッ」

 

 思わず頷いてから驚き声を漏らしました。しかし、そんなシンデレラの困惑に気付かないまま王子は

 

「ありがとう!」

 

 ニッコリと微笑んでシンデレラから硬貨を受け取り立ち上がります。

 そのまま少し歩を進めた王子はシンデレラに向き直り

 

「よし!投げて決めよう!」

 

「何を?」

 

 意気揚々という王子の言葉にシンデレラが訊きました。シンデレラの問いに王子は

 

「君がこれから、自分の心の声をよく聞くこと!」

 

 朗らかに微笑んで答えながらキンッと硬貨を親指で弾きました。

 慣れない王子の弾いた硬貨は高々と舞い上がります。

 

「うわッ!?高く飛ばしすぎた!!」

 

 その高さに慌てた王子は声を上げ

 

「表!表にしよう!表が出たら君は心のままに生きる!」

 

 そう声高に宣言します。

 シンデレラも茫然と舞い上がった硬貨の行方を目で追い

 

「わッ!?あれッ!?どこ行った!?」

 

 真直ぐに降りてくるはずの硬貨を豪華な照明の灯りで見失った王子はワタワタと慌てて見上げ

 

「おっとっと……」

 

 硬貨を見つけ、その落下地点に上を見上げながらよろよろと移動した王子はパシッと正確に硬貨を受け止めました。

 

「やった、取れた!取れたよ!」

 

「…………」

 

 興奮した様子で左手の甲に硬貨を乗せ、その上から右手で押さえた王子が嬉しそうに笑ってシンデレラに駆け寄ります。

 それを見ながらシンデレラは頬に汗を滲ませます。

 

(どっちだろう……?落ちた瞬間が背中で見えなかった……)

 

 困惑する彼女の目の前で王子はゆっくりと手を外しました。そこには『表』を示す硬貨がありました。

 

「表だぁぁぁぁぁッ!!」

 

 その瞬間王子は大きく跳び上がりました。

 

「はい!」

 

「ッ!」

 

 そのままスッと右手を差し出した王子に驚きながら、硬貨を返そうとしていると理解したシンデレラは恐る恐る右手を差し出し、瞬間その右手を王子がグッと両手で引き寄せ顔をシンデレラに寄せました。

 

「頑張れ!!人は心が原動力だから!!心はどこまでも強くなれる!!」

 

「…………」

 

 自身の手を握る王子に口を開いたまま唖然とするシンデレラ。そんな彼女に微笑みながら王子は

 

「手始めに、心に素直になる練習だ!」

 

「練習……?」

 

 困惑するシンデレラの手を離し王子はそっと膝をつき右手を差し出しました。

 

「良ければ、俺と踊ってくれませんか?」

 

「ッ!?」

 

 その突然の申し出にシンデレラは困惑で息を飲みました。

 

「君はどうしたい?嫌ならもちろん断ってくれてもいいから」

 

「………」

 

 王子の言葉に迷ったシンデレラは

 

「決める前に、一つ訊いてもいい?」

 

 意を決して問いかけます。

 

「……なんで…なんで『表』を出せたの?」

 

「…………」

 

 シンデレラの問いに王子は彼女を見つめます。彼女の問いに王子は

 

「偶然だよ。それに、裏が出ても表が出るまで何度でも投げ続けようと思ってたから」

 

 そう言って何でもないことのように微笑みました。

 その王子の笑顔に、シンデレラの心臓が大きく脈打ちました。

 そして、気付けば彼女は、王子の手を取っていました。

 

 

 

 豪華絢爛な舞踏会会場に優しくゆったりとした音楽が響きます。

 そして、そんな音楽に合わせて人々が躍るその中心にはひときわ注目を集める一組の男女がいました。

 片方はこの舞踏会の主役ともいえる王子。そして、その相手は美しいドレスで着飾った美しい少女――シンデレラでした。

 初めてのダンスだったが王子が優しくエスコートしてくれるお陰でシンデレラは転ぶことなくダンスを楽しむことが出来ました。

 まじかに見える王子の優し笑みにシンデレラは自身の鼓動が早くなるのを感じます。

 舞踏会に集った人達の視線を受けていても彼女には気になりません。彼女の中には今は音楽と、ともに踊る目の前の青年の姿だけ。

 シンデレラは王子とのダンスに夢中。まさに夢の中にいるようだった。

 しかし、楽しい時間は永遠には続かない。

 

 ゴーン!ゴーン!

 

「ッ!?」

 

 響き渡る鐘の音にシンデレラはハッとする。

 時計を見れば針は0時を示していました。

 

「も、もう行かないと……」

 

「え?そんな…もう少しだけダメかな?」

 

 シンデレラが名残惜しそうに離れようとするが王子も別れを惜しみシンデレラの手を掴もうと手を伸ばします。そんな王子の手を取ってしまいそうになるシンデレラでしたが、二人の姉達との約束を破るわけにもいきません。

 

「…ごめんなさい」

 

 後ろ髪を引かれながらもシンデレラはドレスの裾を持って駆け出しました。

 

「あッ!待って!」

 

 そんなシンデレラを王子は追いかけます。

 王子が追いかけてくることに気付いていてもシンデレラは足を止められない。待っている姉達の元へ駆けます。

 お城を出て階段を駆け下りるシンデレラでしたが、普段は気慣れていない靴では階段をうまく走ることが出来ず

 

「あッ!」

 

 靴が片方脱げてしまいました。

 しかし、それに構っている暇はありません。シンデレラは靴を片方落としたまま走ります。

 気付けばいつの間に王子は追って来ておらず、待ち合わせの城の前についていました。

 

「遅かったわね、シンデレラ…って、あなた靴どうしたの!?」

 

「あ……その、急いでて途中で脱げてしまって……」

 

「もう!確かに0時に集合とは言ったけど靴落っことして来るほど慌てなくても大丈夫よ!」

 

 シンデレラの言葉に下のお姉さんは呆れた様子で言います。

 

「まあまあ。どこで落としたかはわかる?」

 

「……わからない、です」

 

「……そう」

 

 上のお姉さんの問いにシンデレラが答えると、その様子で何かを感じたのか上のお姉さんはそれ以上は訊きませんでした。代わりに優しく微笑み

 

「じゃ、早く帰って足を洗わないとね」

 

 そう言ってシンデレラの手を優しくとりました。シンデレラはそれについて行き、三人は帰路についたのでした。

 

 

 

そして、数日後――

 

「…………」

 

 シンデレラはぼんやりと上の空で窓の外を眺めています。

 そんな彼女をお姉さん達が心配そうに見守ります。

 

「姉さんどう思う?シンデレラ、この間からなんだか様子が変よ」

 

「そうね……そう言えば先日の舞踏会でシンデレラ、王子様と踊っていたけど、もしかして…?」

 

「ッ!?ま、まさかシンデレラが!?何かの見間違いじゃないのッ!?」

 

「ううん。この目で見てたし、かなり話題になってたわよ。『王子様と踊ってるあの美人は誰だッ!?』って」

 

 驚く下のお姉さんに上のお姉さんは答え

 

「と言うかあんなに注目されてて知らないのね。……そう言えばあなたも隣国の王子様と踊っているのを見たような………あぁ~」

 

 下のお姉さんを見つめニヤニヤと微笑みました。

 

「なッ!?違ッ!アレはそう言うんじゃないから!」

 

 そんな姉の微笑みに下のお姉さんは慌てて

 

「そ、そう言う姉さんだってうちに治療に来るちょっと顔の怖い近衛兵さんと仲良さそうにしてるの見かけたけど!?」

 

「あぁ~……まあそれは置いておいて」

 

「あ、ズルい!自分が不利になると話逸らして!」

 

 と、二人のお姉さんがワイワイ言い合っていると

 

「――って、ちょっと待って。なんだか外が騒がしくない?」

 

「そう言えばそうね……何かあったのかしら?見に行ってみましょう」

 

 二人は家の外に出てみました。するとそこには人だかりができていました。

 その中には二人のよく知る三つ編みの似合う優秀な仕立て屋がいました。

 

「いったい何の騒ぎなの?」

 

「あぁ、王子様が来てるんですよ……地べた這いずって」

 

「「……はい?」」

 

 仕立て屋の言葉に二人は思わず呆けてしまいました。

 論より証拠と仕立て屋は指さしました。仕立て屋の示す方を見るとそこには確かに王子の姿がありました、仕立て屋の言う通り地面に這いつくばって。

 

「ほ、ホントだ……」

 

「いったい王子様がこんなところでどうして……?」

 

 二人や他の街の人間が見ている前で王子はブツブツと呟いています。

 

「このあたりのはずなんだけどなぁ……この辺りは臭いがあちこち残っててわかりづらいなぁ……」

 

 言いながら王子は女性ものの靴を取り出しました。

 

「あれって……」

 

「確か……」

 

「あ、その靴私が用意したやつ!」

 

 その靴に見覚えのあった姉妹は声を漏らし、その隣で仕立て屋が声を上げました。

 

「ッ!この靴のこと知ってるんですか?」

 

 王子はそんな仕立て屋の言葉が聞こえたようで駆け寄ってきました。

 

「知ってるも何もそれ用意したの私ですし。先日納品しました」

 

「いったい誰に?」

 

「ここんちの妹さん」

 

「「え……?」」

 

 仕立て屋は言いながら隣にいた姉妹を指さしました。

 

「急にお邪魔してすみません!少しいいですか!?」

 

 と、王子は二人に詰め寄りました。

 

「えぇっと…どういったご用件で?」

 

「はい!先日の舞踏会で妹さんとダンスを踊ったのですが、お帰りの際に靴を片方落として行かれたので直接お返しに来ました!」

 

「あぁ、なるほど。そう言うことですか」

 

「と言うかよくここまで来られましたね」

 

「臭いを辿ってきました!俺、鼻がいいんで!」

 

「臭いって……」

 

「はい!この靴に残っていた臭いをもとにして!」

 

「「「…………」」」

 

 満面の笑みで言う王子に三人は何とも言えない表情を浮かべましたが、多くは言いませんでした。

 

「と、とりあえず上がってください。妹はうちにいますので」

 

「はい!お邪魔します!」

 

 上のお姉さんに招かれ王子は笑顔で着いて行きました。

 

 

 

「…………」

 

 所変わってシンデレラは先日の舞踏会以来からずっとぼんやりしたままです。

 舞踏会で王子と踊って以来今まで感じたことのなかった感情を覚え、いまだその気持ちが燻っています。

 

「……はぁ……」

 

 本日何度目かわからないため息をついたシンデレラ。と――

 

――コンコン

 

 彼女の部屋の扉を誰かがノックしました。

 

「……どうぞ」

 

 返事をしながらドアの方に視線を向けると、ゆっくりとドアが開き

 

「……こんにちは」

 

「ッ!?お、王子様……?」

 

 思わぬ人物の登場にシンデレラは唖然と呟きました。

 

「ど、どうしてここに……?」

 

「あなたのお忘れ物を届けに来ました」

 

 言いながら王子はそっと片方の靴を差し出しました。

 

「そのためにあなたがわざわざ……?」

 

「はい。あなたに、もう一度会いたかったから」

 

「ッ!?」

 

 王子の言葉にシンデレラは驚き息を飲みました。

 

「俺はあの日、あなたとダンスをしてからあなたのことが忘れられないんだ。多分、あなたに惹かれている」

 

「ッ!」

 

「もしよければ、またこうして会いに来てもいいですか?」

 

「…………」

 

 王子の言葉に眼を見開いたシンデレラは

 

「……(コクリ)」

 

 ゆっくりと、しかし、確かに頷いたのでした。

 

 

 

 それから数度の逢瀬を重ねたシンデレラと王子は愛を深め、ついには結婚へと至りました。

 そして、二人のお姉さんたちはというと、下のお姉さんは無口で不愛想な隣国の王子と、上のお姉さんは強面の近衛兵とそれぞれ結婚。

 三人の姉妹はそれぞれ素敵な結婚生活を送り末永く仲の良い姉妹だったそうです。

 

 

 

~めでたしめでたし~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――で?これはいったい何なの?」

 

 読み終えた原稿の束を机に置いたしのぶさんはジトッとした目で私を見る。

 

「何って……教材?」

 

「なんで疑問形なのよ!?なんの教材よ!?」

 

 私の答えにしのぶさんが叫ぶ。

 

「自分の恋心を自覚していないカナヲちゃんに『恋心』とは何ぞやと学んでもらうには物語で読んで学ぶのも一つの手かと」

 

「確かにそれは理解できるわ。でもそれなら何なのよこの内容は!?」

 

「何か問題でも?」

 

「大アリよ!この登場人物明らかに――」

 

「やれやれ、しのぶさん。あなた最後まで読みました?」

 

 言いながら私はしのぶさんが机に置いた原稿の最後の一枚を見せる。そこには前世で何度も目にした一文が添えてある。

 

「『この物語は架空であり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません』…ね?」

 

「ね?じゃないわよ!」

 

 私の言葉にしのぶさんは叫ぶ。

 

「ちょっと姉さん!姉さんからも何か言ってやってよ!」

 

 と、叫びながらしのぶさんは傍らのカナエさんに視線を向け

 

「あ、しのぶそっち読み終わった?じゃあ次私読むわね。ハイ交換♪」

 

 カナエさんは満面の笑みでつい今まで読んでいた原稿――『白雪姫』をしのぶさんに渡して今までしのぶさんが読んでいた『シンデレラ』を受け取る。

 

「ちょっと姉さん!?何楽しんでるの!?」

 

「え?だって物語として面白いしいいんじゃないかしら?」

 

「よくないわよ!」

 

 首を傾げるカナエさんにしのぶさんが言う。

 

「確かに物語で『恋心』を知るって言うのはいいかも知れないけど、それなら登場人物を寄せる必要はないじゃない!本物の物語を読ませればそれでいいじゃない!」

 

「どうせ読むなら想像しやすいよう自己投影できるように少し手を加えたんですよ。あとあくまでも似てるだけで架空なのであしからず」

 

「だからってこれは……アオイ、あなたからも何か言ってやってよ!」

 

 言いながらしのぶさんはため息混じりにアオイに視線を向ける。

 言われたアオイちゃんは

 

「……えっと…」

 

 言い淀んだアオイちゃんは

 

「私もざっとここにあるものは読みましたけど、とりあえず一番気になることを訊きますが」

 

 言いながら一つの原稿の束を指す。そこには『美女と野獣』と書かれている。

 

「……これだけ他と違うというか、これだけ他の話と違ってカナヲがもとになってないですよね?」

 

 言いながらアオイちゃんはジト目で私を見つめ

 

「端的に言って、コレ私ですよね?」

 

「………ん?」

 

「とぼけないでください!」

 

「アハハ、ごめんごめん!だって、炭治郎君って『野獣』って雰囲気じゃないからさぁ~。じゃあ『野獣』って言ったら誰かなぁって思ったら〝彼〟しか思い浮かばなくて」

 

「だからってなんでその相手が私なんですか!?」

 

「え~?わかってるくせに~」

 

「~~~ッ!!」

 

 私がニヤニヤ笑いながら言うとアオイちゃんはこれ以上ツッコむと藪蛇だと悟ったのか顔を顰める。

 

「というか今の言い様だと明らかに実在の人物もとにして関係ありまくりじゃないの!」

 

「………誘導尋問ですか!?」

 

「違うわよ、ただのあなたの失敗よ!」

 

 しのぶさんの指摘に私は叫ぶ。

 そんな私にしのぶさんはため息をつく。

 

「で、結局この物語たちはどうしたものかしらね?」

 

「どうって、カナヲに見せればいいんじゃないかしら?」

 

「姉さん本気…?」

 

 ため息をつく自分の問いに答えたカナエさんにしのぶさんは怪訝そうに訊く。

 

「お話自体は面白いし、悪影響がありそうな内容でもないからいいと思うけど?」

 

「でも、コレかなり劇薬だと思いますけど」

 

「大丈夫大丈夫、たぶん」

 

 アオイの言葉にもカナエはニコニコ微笑みながら言う。

 

「………はぁ、わかった」

 

 しのぶさんはそんなカナエさんの言葉に大きくため息をつき観念したように言う。

 

「せっかく楓子がカナヲの為にって用意したんだし、姉さんの言う通り多少アレでも内容に不適切な部分はなさそうだったから今回はいいにするわ」

 

「ありがとう、しのぶ」

 

 しのぶさんの言葉にカナエさんは微笑み

 

「アオイもいいかしら?」

 

「……まあお二人がいいのであれば私は特に異論は無いです」

 

「うん、ありがとう」

 

 アオイちゃんの言葉にもカナエさんは微笑む。

 

「いやぁ、せっかく書いた原稿が没にならなくてよかった」

 

 そんな三人のやり取りに私はホッと息をつき

 

「あ、ちなみにもう少し大人な恋愛用も用意してますけどこれも機会があれば見せてもいいですかね?」

 

 と、グリム童話初版遵守版を見せたのだが、残念ながらそっちは認可してもらえませんでしたとさ。

 

 

 

 

 

 ちなみに私の用意した教材は

 

【挿絵表示】

 

 

 カナヲちゃんに好評頂けたようだった。

 

 




というわけで改めまして投稿が遅くなってしまい申し訳ありません!
前書きでも言った通り仕事が立て込みそのストレスのせいかスランプ気味で思う様に書けず、書く時間もあまりとれなかったので、気付けば三月も終わろうかという頃まで更新できませんでした。
お待たせしてしまって本当に申し訳ありません!
本編を待っていた方も今回は番外編ですみません!
次回からはちゃんと本編に戻りますのでご容赦ください!



そんなこんなで今回の質問のコーナーです!
今回はゲーム大好きあっきーさんからいただきました!

――楓子さんはHELLSINGは知っていますか?そして今の時点でアーカードと鉢合わせしたらどう対処しますか?無惨用兵器として交渉しますか?それとも最凶神父みたいにその場で戦いますか?

楓子「知ってるしアニメも漫画も見たよ~。で、現状もしアーカードと鉢合わせた場合だけど、まず戦うという選択肢はない。無理。死ぬ。私個人の主観としてあれと敵対して勝てる見込みが少しも見えない。なのでもし遭遇した場合全力で命乞いして無惨を倒すための戦力として交渉しますね。応じてもらえるだけの報酬が思い浮かび場ないので恐らく断られるでしょうけどね」

だそうです!
そんなわけで今回はこの辺で!
また次回をお楽しみに!


~大正コソコソ噂話~
今回楓子が用意したのは『シンデレラ』『白雪姫』『アラジン』『美女と野獣』の四作でしたが他にも構想を練っているストーリーはあるんのでいつか追加の物語をカナヲに読ませる日が来るかもしれませんね。


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