恋柱の継子、人の恋路に世話を焼く   作:大同爽

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恋8 恋柱の継子とお礼

「どうも。お加減いかがですか、カナエさん」

 

「あら、楓子ちゃん、いらっしゃい」

 

 蝶屋敷を訪ねた私はカナエさんに歓迎される。カナエさんは寝間着のままベッドに腰掛けていた。

 

「お身体の調子はどうですか?」

 

「うん、もうかなり良くなってるわ。日常生活送る分にはもう全然平気よ」

 

 私の問いにカナエさんは笑顔で応え

 

「でも、肺はかなりやられてて、正直もう全集中の呼吸は使えないみたい」

 

「それじゃあ……」

 

「柱は引退。一応鬼殺隊に籍は置くけど今後はここでの医療業務専任になるわね」

 

「……すみません」

 

「どうして謝るの?」

 

 頭を下げる私にカナエさんが訊く。

 

「だって…私がもっと早くに気付いて動けていたら、カナエさんは今も――」

 

「こ~らッ」

 

 申し訳なく思いながら頭を下げていた私の額を指で突いてカナエさんが困ったように微笑む。

 

「そもそも楓子ちゃんがいなければ私は今こうして生きて無いわ。あの上弦の弐だって倒せなかったでしょうし」

 

「それは……」

 

「聞いたわよ?階級が上がったんだって?しかも新設された部署に配置されたんでしょ?」

 

「あぁ…『情報戦略部』のことですか……」

 

 カナエさんの言葉に私はため息をつく。

 

「なんか配置されて拝命はしましたけど、なんか実質私が責任者みたいなものなんですよねぇ……周り私より年上ばっかりなのに」

 

「それだけ評価されて期待されてるってことじゃないかしら?あの上弦の弐を倒したのも、頸を落としたのは義勇君だけど、その策を立てたのはあなただもの」

 

「だからってまだ12の私にそれをさせますか?」

 

 カナエさんの言葉に私はため息をつく。

 

「姉さん、薬の時間――って楓子、いらっしゃい」

 

と、そこでしのぶさんがやって来る。

 

「どうも、お邪魔してます」

 

「改めて、姉を助けてくれて本当にありがとう!」

 

 手を振る私にしのぶさんが微笑みながら言う。

 

「また改めてお礼はさせてもらうわね!」

 

「そんな気にしなくてもいいですよ。私の策はあのクズ野郎には効かなかったので」

 

「でも、有効に効果あったって聞いてるけど?」

 

「それはあのゴミ野郎が手を抜いてこっちを舐めてたからですよ、腹立たしいことに。もしあいつが初手からこっちのことを全力で潰す気だったら私の策ともいえない奇策なんて意味をなさなかったでしょうから。そう言う意味ではあのゲロ以下の反吐の出そうなあの野郎の性格のお陰ってわけですね……チッ!言ってて腹立ってきました」

 

「どれだけ嫌いなのよ、その鬼の事……」

 

 答えた私の言葉にしのぶさんは苦笑いを浮かべる。

 

「結局私は遭遇せずだったんだけど、どんな鬼だったの?」

 

「「…………」」

 

「姉さんも楓子もすごい顔してるわね……」

 

「この顔で察してほしいわね」

 

「正直あの野郎のこと考えると眉間に寄った皺が戻らなくなるんですよ」

 

「な、なるほど……」

 

「たぶんアレはしのぶも嫌いなタイプよね」

 

「アレの事好きになれるやつっているんですかね?」

 

「いないわね」

 

「しのぶさんなら笑顔のままで『地獄に落ちろクソ野郎』って罵倒しそうなくらい嫌いそうですね」

 

「いや、私も流石にそんな罵倒しないと思うけど……?」

 

「いや、きっとするわね。アレはそう言うタイプの鬼よ」

 

「姉さんまで!?」

 

 頷くカナエさんにしのぶさんが心外そうに言う。

 

「まあそう言うことなんで、お礼は蜜璃さんと冨岡様の方にお願いします」

 

「一応蜜璃さんには楓子共々に何か甘味をご馳走しようと思ってるんだけど」

 

「それはいいですね、蜜璃さん喜びます」

 

「う、うん。そ、それでね……?」

 

 と、そこでしのぶさんが少し頬を紅く染めて両手の指を口の前でごにょごにょと動かし

 

「その…冨岡さんには何を上げたら喜ぶかなぁって思って、少し意見を貰えないかしら?」

 

「「…………」」

 

「な、何よ?」

 

「「…………」」

 

「な、何よ?なんで二人ともそんな生暖かい笑顔浮かべてるのよ?」

 

「お父さん、お母さん、天国で見てるかしら?しのぶにもとうとう春が来たわよ」

 

「ね、姉さん!?違うから!私はただ姉さんを助けてもらったお礼をしたいだけなの!!でも男の人は何を喜ぶのかわからなくて!!」

 

「なるほど、カナエさんの窮地を救って怨敵である鬼の頸を落としてくれたことで本格的に心臓(ハート)を射貫かれてしまったわけですか」

 

「は、はぁ!?そ、そんなわけないじゃない!違うから!冨岡さんの事なんて何とも思ってないから!ただのお礼だから!」

 

「あらそうなの?じゃあ私が狙っちゃおうかしら?正直私もあの瞬間鬼の頸を切った義勇君の姿にはちょっとドキドキしちゃったし」

 

「え……?」

 

 否定するしのぶさんにカナエさんが言うと、しのぶさんは一瞬ものすごく悲しそうな顔をして

 

「ウッソ~♪」

 

「姉さん!!!」

 

 が、満面の笑みで言うカナエさんにしのぶさんはその顔を怒りと羞恥で真っ赤に染める。

 

「もう、怒らないの。私、しのぶの笑った顔が好きだなぁ~」

 

「そ、そんなこと言われたって――!」

 

「ていうかさっきの反応でハッキリしたじゃないですか」

 

「ッ!」

 

 怒るしのぶさんに私が指摘するとしのぶさんは息を飲む。

 

「知ってます?冨岡様って意外と女性隊士からの人気高いんですよ?」

 

「ッ!?」

 

「あら、そうなの?」

 

 私の言葉に驚くしのぶさんと興味深そうなカナエさん。

 

「ええ。ほら、あの人顔整ってるじゃないですか、しかも十までの型の水の呼吸に新たに十一個目の独自の型を生み出す才能と能力、あまり多くを語らない寡黙なところも人気だそうですよ」

 

「なるほどねぇ~」

 

「まあ冨岡様のあれは寡黙って言うより単なる口下手と言うかコミュ障だと思いますけどね」

 

「こみゅしょうって?」

 

「コミュニケーション障害。コミュニケーションって言うのは要は他の人との意思の疎通の事なので、それが苦手な人のことを言います。冨岡様は頭でいろいろ考えてるけど言葉選び下手なせいで誤解されてるんだと思うんですよね」

 

「それは確かに私も前々から思ってたわねぇ~」

 

 私の言葉にカナエさんが頷く。

 

「まあそんな訳なので、うかうかしてると鳶がピュッと横から掻っ攫って行きますよ。まあしのぶさんがいいならいいですけど」

 

「それは……」

 

「まあ今すぐに心を決めなくてもいいですよ。ただ、頭の片隅に置いておいた方がいいですよ」

 

「…………」

 

 私の言葉にしのぶさんは押し黙る。

 

「で、冨岡様へのお礼ですよね?いい案がありますよ」

 

「えッ!?」

 

 私の言葉にしのぶさんが顔を綻ばせる。

 

「お、教えて!何がいいかな!?」

 

「男性が喜ぶ贈り物なんて簡単ですよ」

 

 しのぶさんの問いに笑顔で頷き

 

「裸になって体にリボン巻いて『プレゼントはわ・た・し♡』って言えば――アベシッ!?」

 

「そ・ん・な・こ・と!出来るわけないでしょ!!?」

 

 私の言葉の途中で脳天に拳が落ちてくる。

 

「それやれば一発で冨岡様との仲を進められる可能性ありますよ、まあ同じだけの可能性でドン引きされるでしょうけど」

 

「それじゃあダメでしょ!!と言うかさっきあなた、今すぐに心を決めなくてもいいって言ったじゃない!?」

 

「しのぶさんは心決めるのは今すぐじゃなくてもいいですよ、私たちの方で外堀埋めていくんで」

 

「私たち?」

 

「「私たち」」

 

「姉さんもそっち側!?」

 

 ガシッと肩を組む私とカナエさんにしのぶさんは叫ぶ。

 

「姉としては妹の幸せは急務なのよ」

 

「姉さん人のこと世話焼いてないで自分の幸せ探しなさいよ!」

 

「私は柱引退するし任務に出ることもなくなるからこれからいくらでもご縁を探すわよ。でもしのぶちゃんは今度柱になるし、そうなると出会いとかなくなるわよ?」

 

「え、しのぶさん柱になるの!?」

 

「私の後任でね。正式な襲名はまだだけどね」

 

 思わぬ言葉に私が驚くとカナエさんが微笑みながら頷く。

 そうか、原作でも似たような流れだしそうなるのか!

 

「まあ確かに柱相手に恋愛とか難しそうですね。下の人間からしたら高嶺の花でしょうし」

 

「で、でも鬼と戦う鬼殺隊で恋愛なんて」

 

「蜜璃さんの入隊目的は自分の恋愛ですけど?」

 

「…………」

 

 私の指摘にしのぶさんが押し黙る。

 

「あ、ちなみに前にお館様に聞きました。隊士同士の恋愛は問題ないらしいですよ」

 

「「へぇ~……」」

 

「まあなので恋愛は全く問題ないわけですよ」

 

 言いながらしのぶさんに視線を向け

 

「女の幸せは結婚だなんていうつもりはありませんし、この組織の理念考えたら恋愛をするのは気が引けるかもしれません。でも、気になる方がいるなら躊躇わない方がいいですよ。あまり尻込みしてると、ね?」

 

「ッ!」

 

「そっか…楓子ちゃんは……」

 

 しのぶさんは息を飲み、カナエさんは何か呟いているが小さくて聞こえなかった。

 

「まあなので、早めに自分の心と向き合った方がいいですよ?――って、年下の小娘が知ったような口きいてすみません」

 

「いや、それはいいわよ。気にしてないから」

 

 私が言うとしのぶさんは首を振る。

 

「いまの指摘は心に留めておくわ」

 

「ありがとうございます」

 

 しのぶさんの答えに私は頷いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、議論の末冨岡様へのお礼はしのぶさんが作った鮭大根をご馳走する、と言うことで決まった。

 聞いた話では特に言葉は無かったものの常時無表情の顔を若干綻ばせて喜んで食べていたそうだ。あの能面のような顔が喜んでいるとわかる程度には綻ばせたということは、かなり喜んでいたのだろう。

 




おまけの明治コソコソ話
前回のお話で童磨に対して楓子ちゃんは当初「秋物純子」と名乗っていましたが、あれは

「秋物純子」→「あきぶつじゅんこ」→「あ〝きぶつじ〟ゅんこ」

で、名前を呼ばせることで無残が配下の鬼に仕掛けている呪いの発動を期待しての事でしたが、童磨には見抜かれていました。
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