進学した人、社会人デビューし働き始めた人、進級や職場が変わらない人、様々だと思いますが何かしら新しい環境になるのではないでしょうか?
そんな今日、「恋柱の継子、人の恋路に世話を焼く」も新章突入です!
新たな戦いの序章をお楽しみください!
と言うわけで最新話です!
鬱蒼と茂る森の中を身軽に駆けまわる楓子の背後から大きく長い影が土を蹴散らし木々を薙ぎ倒して追いかけてくる。
「キヒヒッ!逃げるだけで精一杯かい鬼狩りィィィッ!!」
木々に影から飛び出し月の光に照らし出されたその姿は何とも悍ましい、長い黒髪を振り乱した女性の上半身に十数メートルはあろうかと言う百足の身体が繋がった姿の鬼だった。
百足の鬼はその顔を愉悦に染め、まるで小動物を追いかける肉食動物を気取って悠々と楓子を追い回す。
そんな鬼の姿を楓子はチラリと見て
「……あんな妖怪が犬夜叉にいたなぁ……」
と、ボソリと呟きながら進行方向を見定めるように視線を戻す。
「逃げるばかりじゃ面白くない!もっと頑張れよ鬼狩りィィィッ!!」
「頑張れ、ねぇ……」
楓子は鬼の言葉にフム…と考え
「例えばこう?」
「は?」
楓子がニッと不敵に笑みを浮かべる。その様子に鬼は一瞬呆気にとられ、その隙に――
「よっと!」
楓子は目の前の太い木の幹を駆け上がる。
背後に迫っていた鬼をそのまま飛び越え背後に回り
「シッ!」
鬼の首を飛ばした。
「へ……?」
鬼は呆けまま頸を飛ばされその巨体が倒れる。
――バキッ
「あ、しまった」
倒れた先に祠があり、それを鬼の巨体が圧し潰していた。
鬼の身体が灰となって消えていく中、古びた祠が――祠だった残骸が散らばる地面を眺め
「~~~~~ッ!……はぁ」
頭を抱えて熟考した後に大きくため息をつき
「とりあえずこの辺の地主さん探して相談するとして、このままってわけにもいかないか……」
楓子は壊れてしまった残骸かき集め
「ん?何これ?」
残骸の山の中に手のひらサイズの木箱を見つける。
「祠の中にあった御神体的な何かかな?」
呟きながら木箱を観察する。スライドするフタ部分には「催魔怨敵」と書かれているらしい。
「……なんだろう?すごく見覚えがある気がするけど…しかもすごくよくないものって気がする……」
楓子は少し考え、とりあえず中を確認しようとフタを開け――
「……これ、マジ?」
その中身に唖然とした。
〇
「じゃ、よろしくね、
森を抜けた山道で楓子は自身の鎹烏に手紙を預け飛び立つのを見送る。
「お館様にいい知人がいればいいけど……」
言いながら楓子は羽織の袖に入れた木箱をそっと撫で
「こんなの私じゃ手に余るって……」
大きくため息をつく。
「というか、ここ『鬼滅の刃』の世界じゃないの?なんでこんな代物があるのよ……」
言いながら楓子は考える。
「もしここが『鬼滅の刃』だけの世界じゃなかったとしたら…かなり面倒なことになるなぁ……この大正時代じゃ私の知識は通用しない…私の知識にある登場人物そもそも生まれてないだろうし…頼れるとしたら『御三家』くらい?お館様が繋がりがあればいいけど……でもなぁ~ッ…『御三家』かぁ~ッ……」
言いながら楓子は頭を抱える。
「よりにもよって『御三家』…厄ネタの宝庫みたいなのに頼るしかないって……控えめに言って最低……これ以上ないってくらい最低……」
言いながら楓子は再び大きくため息をつく。そんな楓子の耳に――
――ベベンッ
琵琶の音が響いた。
「前言撤回……」
楓子はげんなりと顔を顰めて立ち上がる。
楓子の視線の先で何もない山道に襖が現れていた。襖はゆっくりと開き、その向こうから四つの人影が現れる。
先頭に立つのは
「ヒョヒョッ!あれが例の邪魔な鬼狩りですか!あんな小娘を殺すだけで血を分けていただけるとは随分と容易い仕事ですなぁ!」
人影、と言うには些か首を傾げたくなる奇妙な見た目――ウネウネと蛇や軟体動物のようにうねる身体に短い腕が四本、顔も珍妙で両眼の位置に口があり額と口にそれぞれ『上弦』と『肆』と刻まれた瞳が覗く鬼、玉壺。
その右後ろには
「あ、侮るでない玉壺!奴は仮にも上弦の鬼を複数倒した総指揮をとった存在だ!下手に侮ると痛い目を見るぞ!」
歪な頭をした老人のような見た目に怯えるように顔を歪ませボロボロと涙まで流す、およそ恐ろしさを感じない弱々しい見た目の鬼、半天狗。
そのさらに後からは
「………」
無言で、しかし、一切の油断も慢心も見せない雰囲気のまま六つの瞳で楓子を見ながら侍のような出で立ちの鬼、黒死牟が現れる。
そして、最後に
「――随分とよく回る口だ。何か不満でもあるのか?」
「ッ!!」
「「ッ!?」」
ゾワリと背筋に悪寒が走る冷酷な声に楓子が息を飲む。
楓子だけでなく玉壺と半天狗が身を竦ませる。
「も、申し訳ありません!け、決してそのようなことは!!」
「ヒ、ヒィィィッ!!ふ、不満などあるわけがございません!!」
玉壺と半天狗は最後に現れた人物――白いスーツにペイズリー柄の上着、白い中折れ帽を被った姿、その姿は普通の人間のように見えるその人物に二体の鬼はぺこぺこと怯えた様子で声を震わせて言う。
そんな様を見ながら楓子は唖然と呟く
「鬼舞辻…無惨……ッ!?」
「ほう?私を知っているか……大方、あの耳飾りの小僧から私の特徴でも聞いていたか?」
楓子の呟きに少し目を細め興味深そうに帽子の男――鬼舞辻無惨は言う。
「まあまあいい線ですね」
楓子は無惨に向かって精一杯不敵に笑う。
「鬼の総大将が上弦の鬼を引き連れてやって来るとは、いったいどういう要件ですか?」
「貴様ッ!なんと不遜な口の利き方を!?」
「黙れ玉壺。誰が遮っていいと許可した?」
「ヒィィィィ、申し訳ありません!!」
叫んだ玉壺に無惨が冷たく睨みつけて言う。
「要件、だったな」
気を取り直した無惨は改めて楓子の問いに答える。
「ちょっとした掃除だ」
楓子の問いに無惨は同じく、こちらは実際に心底余裕な様子で頷く。
「これまで私は童磨を倒して見せたお前達、特にその指揮をとったお前を軽視していた。しかし、どうだ。そんな私の侮りに対しお前は下弦を二体倒し、猗窩座を倒して見せた。そして、堕姫や妓夫太郎まで……やつらの力不足もあるが、それでもことごとく私の邪魔をする貴様らがいい加減目障りだ」
言いながら一瞬その顔に怒りを見せ、しかし、すぐに落ち着いた様子で不敵に微笑み
「だから、私は反省したのだ」
「反省……?」
「ああ、そうだ」
怪訝そうに聞く楓子に無惨は頷き
「塵芥と侮り、掃除を怠ったせいで招いたことだ。ここらで本気でお前達目障りな鬼狩りどもを片付けてやろうと思ってな。手始めに今一番目障りなお前を殺しに来てやった。仮にも上弦の鬼を三人も殺して見せたお前には一切の油断なく圧倒的な力で屠ってやろう」
「ッ!?」
楓子は無惨の言葉に咄嗟に日輪刀に手をかける。
「ほう、流石だな」
そんな楓子を嘲笑う様に無惨は言う。
「この圧倒的戦力差で、戦う意思を見せる。鬼狩りどもは異常者の集まりだと常々思っていたが、お前はその筆頭のようだ」
「………」
無惨の嘲る言葉に楓子は歯を食いしばり
「私が異常者なら、あんたは一体何なんなの?」
「……何?」
楓子の言葉に無惨が笑みを消す。
「私、知ってますよ。あなた、病弱で弱い身体を治すために掛かった医者の治療が効かないからってその医者を殺して、治療の影響で鬼になったのに自分で医者を殺したせいで日の下を歩けなくない半端な存在のままなんでしょ?」
「ッ!!」
楓子の言葉に無惨の目が鋭く細められる。
「しかも、塵芥と侮る人間に千年以上潰すことができず、今日まで苦しめられてる。見下してる人間の組織一つ潰せてないくせに」
なおも楓子は言う。
「少し前から気になってたんだけど、最近下弦の鬼を見ないけど、どこ行ったんですか?もしかして、結果を出せてないって殺したんじゃないですか?医者を殺したことを反省してないの?残しておけば何かの役に立つかもしれないのに、自分の戦力減らして馬鹿じゃないんですか?」
「………」
「あ、あの……」
「(ギロリ)」
「ヒィィィィッ!!」
無惨に話しかけようとした半天狗だったが無惨の睨みに背筋を震わせ引き下がる。
「自分の短気で日の下歩けない不完全な存在になって、侮ってる鬼殺隊をつぶせないまま千年経って、自分の短気で自分の戦力削って……鬼舞辻無惨、あなた自分を特別な存在とでも思ってるですか?人間を超えた優れた存在だとでも?だとしたら、笑いすぎで腹筋われちゃいますよ」
楓子の言葉に怒りを募らせる無惨に向けて、楓子は飛び切りの笑みを浮かべ見下した様子でとどめの一言を言う。
「いい、鬼舞辻無惨?あなたみたいな人をね、世間一般には『道化』って言うんですよ」
「ッ!!」
無惨は目を見開き
「お前達――」
そばに控えている三体の鬼達を睨みつけ
「そこの目障りな女のよく回る舌を引き抜き、その頸を私に捧げよ」
「は、はいィ!!」
「お任せを!!」
「御意」
正しく鬼の形相と言える顔で言う無惨に三体の鬼達は返事し楓子に向かってくる。
対する楓子は
「……私だってそう簡単に死ぬつもりないから」
言いながら日輪刀を引き抜き構える。
「来い!」
「……かふッ」
地面に仰向けに倒れた楓子は血交じりの唾を吐き出す。
倒れる楓子の周りには刀を構える黒死牟と半天狗――憎珀天の姿になっている――と玉壺――脱皮した姿――の三体がいた。
「なかなか手古摺らせてくれたな」
「ヒョヒョッ!まさかこの真の姿を見せることになるとは思わなかったぞ!」
憎珀天と玉壺が楓子を見下ろしながら笑みを浮かべる。どちらももうすでに楓子に脅威を感じていない様子で脱力している。
倒れる楓子は、一応手足は繋がっているし致命傷になる怪我はないものの真っ白な羽織を赤黒く染めるほどの出血があり、放置すればすぐに出血多量で致命的になるだろう。
握る日輪刀も半ばほどで折れ、ところどころ刃こぼれしている。
「私達三人を相手に致命傷を避け続け、ここまで立ち回ったことには驚かされた」
しかし、と黒死牟は言いながら刀を向ける。
「それも、ここまでだ」
「………」
「どうした?意識はあるのだろう?」
刀身に目玉の並ぶ気味の悪い刀を向けられながら楓子はフッと息を吐き
「あぁ……やっぱり上弦の鬼三体を相手にするのは無理があったなぁ……一体くらいは道連れにしてやろうと思ったのになぁ……」
弱々しく笑みを浮かべる。
「一つだけ、いいかな?最後に一服させてほしいんだけど……」
「……いいだろう」
「ありがとう……」
刀を下げた黒死牟に礼を言いながら楓子はゆっくりと上体を起こし座り込む。日輪刀も傍らに置いて完全に戦意はないと示してから羽織の袖に手を入れる。
「……ついでだ、言い残したことがあれば聞いてやろう」
「大盤振る舞いだね……じゃあ一つだけ」
黒死牟の言葉に楓子は微笑みながら顔を上げ
「できればこれ以外の案を思いつきたかった」
「貴様、何を言って――」
楓子の言葉に怪訝そうに眉をひそめた黒死牟だったが、楓子はその問いに答えず羽織からゆっくりと何かを取り出し、両手で握り
「ッ!」
〝それ〟に巻き付けられた布を剥ぎ取る。細長い包帯のような、文字のようなものの描かれた布の下からミイラ化したような赤黒い〝指〟が現れる。
「「「ッ!?」」」
その指が現れたとたん、三体の鬼達が何かを感じ取った様子で一瞬にして臨戦態勢に移り、一番側にいた黒死牟が刀を振るう。が、楓子の方が一瞬速かった。
「あ…んッ(ゴクリ)」
楓子はその〝指〟を口に放り込み飲み下す。その直後――
「シッ!!」
黒死牟が振るった刀が楓子に振り下ろされた。確実に楓子の頸を刈り取る軌道で振り下ろされた神速の一撃は、しかし――
「なッ!?」
左手の親指と人差し指と中指の三指で摘まむように受け止められていた。そして――
バギンッ
摘まんでいたところから素早く捻られ鈍い音と共に黒死牟の刀がへし折られる。
それだけでは終わらず
「ッ!?」
気付けば黒死牟の眼前に手刀が迫っていた。
咄嗟に後ろに大きく飛び退く。
「黒死牟よ、無事か!?」
そんな黒死牟に玉壺は慌てて駆け寄る。
「この小娘、今何をした?」
憎珀天も警戒した様子で楓子を睨む。
三体の鬼の視線の先で手刀を放った姿勢からゆっくりと立ち上がる楓子。その姿を雲から顔を出した月の光が照らし出す。
左手に持ったままだった刀の切っ先を雑に放り投げながら目を開いた楓子、と、その両眼の下にもう一対の瞼が開き額や頬には黒い紋様が浮かんでいた。
「キヒッ……フハハハハハハハッ!!」
楓子はその顔に獰猛な笑みを浮かべながら高らかに嗤う。
「フハハハハハハハハハハハッ!!!――あぁ…やはり!!光は生で感じるに限るなぁ!!!」
「な、なんだ?」
「気でも触れたか?」
「しかし、気配が変わっている…どういうことだ……?」
目の前で嗤う楓子の異様な様子に鬼達は困惑の声を漏らす。
「フム……女の身体で受肉したか……まあ些細な問題だな。何の支障もない」
さて、と楓子は言いながら黒死牟達に視線を向ける。
「で?お前達はなんだ?呪霊とは違うようだが……いや、待て。その気配、覚えがあるぞ」
楓子は言いながら考え混みながら顎を撫で
「ん?もしやお前達、〝鬼〟か?」
ハッと思い出した様子で言う。
「なるほど、と言うことはあの鬼舞辻の奴はまだ生きていたか!なんとも、生き汚さだけは天下一だな!」
言いながら可笑しそうに笑う。
「貴様!!あの方を馬鹿にしているのか!?」
「一体何なんだお前は!?本当に大好楓子か!?」
「……誰が問いを許した?」
「「「ッ!?」」」
叫ぶ玉壺と憎珀天に笑みを消した楓子が目を細めて睨む。その視線を受けた瞬間、三体の鬼達は自身の主にも劣らない重圧を感じる。
「頭が高いな」
「「「ッ!?」」」
ボソリと呟くような楓子の言葉に咄嗟に三人は身を竦ませ――
ズバッ!!!
三体の鬼の胴が切り裂かれ鮮血が飛ぶ。上半身が地面に落ち、一拍遅れて下半身が倒れる。
「実るほどなんとやら、だ。よほど頭が軽いと見える」
言いながら踏み出した楓子はいまだ何が起こったかわからない様子で横たわる三体を見下ろす。
「だが、俺は今千年ぶりに復活し気分がいい。特別に無知蒙昧なお前達の問いに答えてやる」
楓子は再び邪悪な笑みを浮かべ
「俺の名は宿儺、両面宿儺だ」
「両面……!?」
「宿儺……!?」
「ば、馬鹿な!?そんなもの御伽噺――」
「馬鹿?」
「ヒッ!!」
玉壺の言葉に楓子――宿儺と名乗った人物はスッと目を細め睨む。その視線に玉壺は縮み上がる。
「……まあいい」
そんな玉壺に視線を向けながら、しかし、宿儺はフッと息をつき
「千年も経てば人間は忘れる。そんなものよな」
つまらなそうに呟いた宿儺は
「――だが、お前はそうではないだろう?」
目を細め玉壺の顔を覗き込む。
「わ、私は――」
「
焦って口を開いた玉壺の言葉を宿儺は遮る。
「鬼舞辻よ、貴様、
宿儺は玉壺の眼を見て、さらにその先を見透かすように言う。
「相変わらず小心者よの。負け犬根性極まれり、と言ったところか」
フッと邪悪に嗤いながら宿儺は言う。
「千年ぶりの復活で見知った奴に会えるとは思わなかったが、それがお前と言うのは、なんとも感慨も何もない……つまらんなぁ」
言いながら宿儺は覗き込むのをやめ
「さて、いい加減もういいだろう」
言いながらニヤリと嗤い
「俺が許す――死ね」
倒れる三体に手を振るう。
「「「ッ!!」」」
黒死牟達は飛び退く。と、三体が倒れていた地面に鋭利な刃物で切り裂いたように地面が抉れる。
ゆったりと宿儺が視線を向ければ、そこには先程斬られた身体がくっついた三体の姿があった。
「あぁ…そういえばお前たちはそうなのだったな。お前達は日の光に当てねば斬っても潰しても死なんのだったな」
言いながら宿儺は地面に落ちていた楓子の日輪刀を拾い上げる。
「しかし、今は面白いものがあるのだな。太陽の力を内包した刀か……」
繁々と興味深そうに日輪刀を眺める宿儺。
そんな宿儺の様子に黒死牟達は身構え
「ん?……あぁ、安心しろ。こんなもの使わん。使う必要もないしな」
そんな黒死牟達に宿儺は笑って日輪刀を放る。
「使う必要もない……?」
「どういう意味だ?」
宿儺の言葉に困惑した様子で訊く玉壺と憎珀天。黒死牟も意図が分からないという様子で眉を顰めている。
「なんだ?お前達知らなかったのか?」
そんな黒死牟達の様子に宿儺はキョトンと首を傾げる。
「お前達鬼は確かに斬って殺しても潰して殺しても死なん。だが――」
言いながら宿儺は嗤う。
「殺して死なんからと言って
「「「ッ!?」」」
宿儺の言葉に黒死牟達は息を飲む。
単純明快で分かりやすい答え。
しかし、それを三対一で、しかも鬼の中でも上位三体の自分たち相手にできるわけがない、事実上無理な方法だ。
と、黒死牟達は思うと同時に、目の前のこの両面宿儺と言う存在は、それをできてしまえるように感じさせた。
「……できるものならやってみろ」
「俺達を相手にできるものならな!」
「余裕を見せられるのも今のうちだ!」
不安感を吹き飛ばすように黒死牟達は叫ぶ。
そんな三体の様子に宿儺は目を見開き、すぐに楽しそうに嗤う。
「おお、いいぞ。素晴らしい、その意気だ!やるならば本気で来い!全盛期の二十分の一の今の俺ならば、少しは勝ち目もあるかもしれんぞ!さぁ、頑張れ頑張れ!」
宿儺は楽しそうに嗤いながら身構える。
そんな宿儺に黒死牟達は襲い掛かり――
「――いつまで寝ているつもりだ、たわけ。そろそろ起きろ」
「――ハッ!!!」
どれくらい寝ていたのだろうか。
楓子は誰かの呼びかけによって急激に意識が覚醒し飛び起きる。と――
「なんじゃここ!?」
見渡せば薄暗い空間に赤黒い血を思わせる水の上に横たわっていたらしい。今は上体を起こし座った状態だが、そのまま上を見れば何かの背骨とあばら骨を思わせる巨大な骨が天井のようにどこまでも奥まで並んでいる。
「ま、まさか…地獄ッ!?私やっぱり死んだんだ!!」
「そんなわけあるかたわけ」
一人混乱して叫んでいた楓子の背後から呆れた様な声が聞こえる。
振り返った楓子はそこに自分以外にもう一人いることに気付いた。
――いや、自分以外と言っていいのかわからない。
楓子の視線の先、少し離れた先に何かの動物の頭蓋骨など骨が積まれ山になった上に一人の少女が腰かけていた。
「フン、やっと起きたと思えばまだ寝ぼけているようだな。ここがどこだか、
そう言ってニヤリと傍らの骨に肘をついて頬杖を突きながら笑った顔は楓子そっくりだった。
「両面…宿儺……?」
「ああ、お察しの通りだ」
「じゃ、じゃあやっぱりあの〝指〟はそうだったんですね……」
楓子は頷きながら佇まいを直し正座する。
「えっと…その、何と言いますか……この度は私の都合で貴方様の力を利用してしまい――」
「よい」
楓子の言葉を遮って宿儺は言う。
「理由はどうあれ俺は千年ぶりに受肉し肉体を得ることができた。その前のお前の都合なんぞもはや些事だ。それに――」
言いながら宿儺は嗤う。
「お前…転生者らしいな?」
「ッ!!?」
宿儺の言葉に楓子はゾワリと身体を震わせる。
ダラダラと額に冷や汗を垂らす楓子を宿儺はニヤニヤと見下ろす。
「お前が寝ている間にお前の記憶はすべて共有させてもらった。――なるほど、お前が俺の〝指〟を一目でその正体を看破したのも、それを喰らえばどうなるかも、知っていたのは、それを前世で娯楽として見ていたからだったわけだ」
笑いながら言う宿儺の言葉に楓子はゴクリと唾を飲み込み
「そ、それで、どうするつもりですか……?」
「ん?」
「私の知識を何かに悪用するつもりなんですか?」
「フフ、愚門だな」
楓子の問いに宿儺は嗤い
「こんな有用なものいくらでも使いようはあるだろうな」
「ッ!!」
そんな宿儺の言葉に楓子は顔を顰め
「が、お前の出方次第では当分は大人しくしてやってもいい」
「………へ?」
続いた宿儺の言葉に楓子は呆ける。
「なんだその間抜け面は?そんなに意外か……いや、意外だろうな、お前の知識上の〝俺〟を知っているなら」
楓子の顔に怪訝そうな顔をした宿儺だったが、すぐに自分で考えを改める。
「わかりやすく順を追って説明してやろう」
「は、はい……」
宿儺の言葉に楓子は頷く。
「現状、俺とお前は同化している。そして、お前の才能で言えば〝指一本分〟の現状ではまだお前の方が主導権を握っている」
「え?そうなんですか?」
「ああ。だが、勘違いするな。主導権を握っているとは言ってもお前の記憶の中にある虎杖何某ほどではない。俺の〝指〟をあと数本取り込めば俺の方に主導権が傾くだろう」
「あ…そうですか……」
宿儺の言葉に楓子は少し残念そうに俯く。
「だが、それでもやはり現状はお前の方が主導権を握っている上に、お前の肉体には時間制限がある。お前が現状維持したまま制限時間を迎えてしまうと俺は完全復活をすることが叶わなくなる。それは俺としては不本意だ」
「……あぁ!」
宿儺の言葉に楓子は「その手があったか!」と言う顔でポンと手を打つ。そんな楓子の様子に宿儺はジトッと睨むように視線を送り、そんな視線に楓子は身を竦ませ慌てて先を促す。
楓子に先を促され宿儺はため息を一つ吐き
「だから、ここで俺とお前、取引をしようじゃないか」
「取引?」
気を取り直した様子で笑いかけながら言う。
「今の俺ではまだ無理だが、もう少し〝指〟を集めることができればお前の身体、何とかしてやれるかもしれんぞ」
「え……えぇ!?」
あまりの予想外の言葉に楓子は思わず叫ぶ。
「まあ、この痣も厄介なもののようだから〝指〟何本必要かは今のところ分からんが、それでも俺の反転術式であればなんとでもなるだろう」
「ま、まじっすか!?ち、ちなみにそれは私以外にも……?」
「……あぁ、お前が姉として慕うあの女の婚約者のことか。まあ、できるだろうな」
「な、なら!?」
「フム……まあそれも取引に含んでやってもいい」
「!!!」
宿儺の言葉に楓子は眼を見開き
「そ、その代わりに一体何を差し出せばいいんですか?」
「フフ、そう身構えるな。それほど難しいことではない」
不安げな楓子に宿儺は笑う。
「俺の〝指〟集めを積極的に行え。お前の上司の権力も使ってな」
「そ、それって……」
「これはお前にとっても悪いは取引じゃないだろう?お前だけでなくお前の大事な人間も救うことができる。あの蛇の男はお前よりも制限時間がないのだろう?」
「それは……」
「俺は早く完全に復活したい。お前は大事な人間を救いたい、ならばできるだけ早く集める必要がある。どちらも利害が一致した取引だと思うが?」
「…………」
宿儺の問いに楓子は悩み
「できるだけすぐにと言うのはできるかどうかわかりませんよ?鬼舞辻無惨がまだ生きている以上、私は鬼殺を優先する必要が――」
「それならば、素晴らしい提案をしてやろう」
楓子の言葉を遮って宿儺は嗤う。
「鬼舞辻無惨やその配下の鬼と戦う時には俺も手伝ってやる」
「………えぇ!!?」
宿儺の提案に楓子は本日何度目かもわからない驚愕の叫びをあげる。
「そう驚くな。正直なところ俺もあんな小物が幅を利かせている現状が気に食わんだけだ。どちらにしろ俺が完全に復活したら潰すことになるだろうし、先に潰そうが同じことだというだけだ」
「な、なるほど……」
宿儺の説明に納得し他様子で頷き
「あ、そう言えば今回現れた奴らは……?」
「あぁ、今回相手にした奴らのうち二体は屠ってやった」
「二体!?もう一体は!?」
「あの目が六つあるやつ…黒死牟とか言ったか?流石は無惨を除いて一番強いと順位付けられているだけあって、俺が残りの二体を相手している間に逃げおおせたようだ。まあ俺も流石に〝指一本分〟では力不足だったようだしな」
「な、なるほど……」
納得して頷いている楓子に宿儺は立ち上がり目の前に降り立つ。
「さぁ、どうする?悪い取引ではないだろう?」
「…………」
言いながら楓子に向かって手を伸ばす。楓子はそれを見ながら少し考え
「わかりました」
宿儺の手を取る。
「貴方の復活に協力します。だから――」
「お前や、お前の大事な人間達を救う手助けをしてやる。信用しろ」
「その点は信用してます。〝縛り〟があるんでしょう?」
「フッ、知っているんだったな」
固く握手しあいながら楓子は真剣な顔で、宿儺は不敵に嗤う。
「せいぜい自分や大事な人間のために、俺を早く復活できるよう働くことだな」
「ええ、そうさせていただきます」
「ところで、俺の〝指〟の味はどうだった?」
「吐瀉物を処理した雑巾を丸呑みしてるような味でした」
と言うわけで最新話でした!
ついに始まった呪霊編!!
楓子の身体に同居することになった最強最悪の存在「両面宿儺」!
鬼舞辻無惨討伐にも強力な助けになるかと思えるが、果たして彼は味方となるのか!?それとも……?
次回「恋柱の継子と改造人間」でお会いしましょう!
楓子「いや、はじまらねぇーよ?昨年同様のエイプリルフールの嘘話でしょうが!」
……はい、と言うわけでエイプリルフールの番外編でした!
今回の話はあくまで番外編ですので次回からはちゃんと本編に戻ります。
ちゃんとした続きを待っていた方、すみません!次回からはちゃんとします!
楓子「キリがいい所まではちゃんと本編書くって言ったのはどこのどなたでしたっけね?」
……はい、今回はこの辺で!!
また次回もお楽しみに~!!
~大正コソコソ噂話~
――妄想したけど絡ませられなかったネタ
「しのぶ、助けに来たぞ」
「義勇さ――ッ!あなた、誰ですか?」
「何を言ってる?俺は――」
「声も、気配も、あなたは冨岡義勇そのものです――でも、私の魂がそれを否定してるんですよ!!さっさと答えなさい!!お前は誰だ!!?」
「――キッショ、なんで分かるんだよ?」
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