恋柱の継子、人の恋路に世話を焼く   作:大同爽

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お気に入り件数3600&3700件記念番外編第三弾です!
※タイトルが長くなってしまったので表記を省略しています。

今回は楓子がとある図書館での事件に挑みます。
果たして楓子は図書館で起こる事件を無事解決することができるのか!?

この番外編を始める前に三点ほど注意事項があります。
一つ目は、このお話はとある演劇をもとにしています。その演劇を見たことある人は「あぁあれだな」となるかと思います。パクリではありません。影響を受けただけです。オマージュです。
二つ目に、今回とても長くなりましたので事件編と解決編に分かれています。解決編は必ず近いうちに投稿しますのでお待ちください。
三つ目に、この話、本当はもう少し先に書こうかなぁと思っていたお話なので若干本編より先の匂わせが含まれています。匂わせというか将来的にそうなるよね、という話なので別にネタバレとか衝撃の事実とかではないのでご了承ください。

以上のことに了承いただいたところで、どうぞお楽しみください!!





大好楓子の事件簿『図書館の幽霊と消えた本の謎』~事件編~

 

「ここが、例の図書館ですか?」

 

「そう。本郷帝都図書館だよ」

 

 目の前の建物を見上げながら言う炭治郎に同じく見上げながら楓子が応える。

 二人の目の前にはレンガ造りの八角形で二階建て、上には四面それぞれに時計のある時計台の乗った建物だ。

 

「ここに鬼が…?」

 

「ん~…どうなんだろ?実はねぇ、鬼がいるかどうかわからないんだよねぇ」

 

「え?」

 

「いやね、ここに幽霊騒ぎが起きたり本の謎の紛失が頻発してるんだけど、今のところ人的被害はないんだよ」

 

「じゃあ…どうして俺達はここに?」

 

「不可思議な事件だし、まだ起きてないってだけで鬼が関連してるのかもしれないからね。ただ鬼がかかわってる確証がないからまずは調査しようと『梁』の役割としてね」

 

「な、なるほど……」

 

 楓子の説明に炭治郎は頷く。

 

「とりあえず調査しようか。一応閉館時間過ぎてるけど職員の人とかいると思うからこっそりね」

 

「わかりました!」

 

 頷いた炭治郎と共に早速調査を開始した楓子――だったが

 

「貴様等何者だぁッ!?」

 

 数分後、二人はあっさり見つかっていた。

 現在二人は図書館の中、壁一面にずらりと本棚の並ぶ中で床の上に正座していた。

二人の目の前には三人の人物がいた。

 一人は眼鏡をかけた男性で、三十代後半ほどに見える人物。二人のすぐ目の前には白い警察官の制服のズボンに腰にはサーベルを下げており――よく見ればそばの衣文掛けに上着がかけられている――上は鍛え上げられた筋肉質な肉体にタンクトップ姿の恐らく本物の警官であろう男性。もう一人、黒の腹掛けに紺の法被、股引と言う装いの男性がいた。

 

「閉館時間はとっくに過ぎているというのに貴様らここで一体何をしていたぁッ!?」

 

「もしかして、テメェらが本を盗んだ犯人じゃあるめぃなぁッ!?」

 

 警官の男と法被の男が二人に怒声を上げる。

 

「いや、俺たちは…その……」

 

「古美術商の使いのものです。今日も近くで買い付けがあり珍しい日本刀を買い付けてきた帰りなんですよ」

 

 しどろもどろになる炭治郎の横で楓子は素知らぬ顔でにこやかに言う。

 

「その際にこの図書館の幽霊騒ぎの噂を聞きまして、興味本位で立ち寄った次第で」

 

「なるほど、お前らが持っているそれがその日本刀と言うわけか」

 

「ええ、まあ」

 

 楓子の言葉に警官の男は疑わし気にジロジロと二人を見る。と――

 

「どうした、騒がしいぞ」

 

 さらにもう一人現れる。

 男はこげ茶のスーツ姿で上着を脱いでカッターシャツにベストの状態のモダンな風体をした男だった。

 

「はいッ!実は怪しげな二人組がうろついていましたので事情聴取をしていたしだいでして!」

 

「怪しい二人組?――って、お前は!?」

 

 警官の言葉にスーツの男はいぶかしみながら二人を見て、すぐに驚きに目を見開く。対する二人も

 

「あれ、確か前に……」

 

「あぁ、誰かと思ったらいつかのお洒落ハイカラモダン刑事さん!」

 

「駒形だ、駒形蓮司。久しぶりだな、大好」

 

「ッ!?お知り合いなのですか!?」

 

「ああ、以前にちょっとな」

 

 楓子達と既知な様子に警官が驚いていると駒形と名乗った刑事は頷き

 

「大好楓子。以前にちょっとした縁で会ったんだが…何故お前がここにいる?」

 

「幽霊騒ぎの噂を聞きつけて興味本位でやって来た、と申しているのですが……」

 

「ふむ……」

 

「しかし、警部のお知り合いなら問題は――」

 

「こいつの犯行を否定できるほどの知り合いではない。容疑者には変わりないな」

 

「えぇッ!?ちょっと待ってくださいよ!そりゃないですよ、前に捜査協力したじゃないですか!」

 

 駒形の言葉に楓子が文句を言う。

 

「以前は確かにお前の助言もあって助かったことはあった。が、以前は以前、今回は今回だ。疑われるのが嫌ならお前達もここで大人しく目の届く範囲にいろ」

 

「えぇ~」

 

「ま、犯人は現場に戻るって言うしなッ!お前さんらの風体もなんとも怪しいしな」

 

「そういうあなたも警察官には視えませんが……」

 

 ブウ垂れる楓子に法被の男が言い、そんな男に炭治郎が訝しそうに聞く。

 

「ああ、おいらはたまたま縁あって居合わせた愛宕屋駿菊ってもんでぇ!」

 

「あぁ、落語家さんですか」

 

「落語家じゃねぇよ!おいらは、日本一早い人力車でい!!たまたまあの刑事さんをここに送り届けて、戻りも使うってんで事件解決を待ってんでい!」

 

「あぁ、なるほど……」

 

 納得した様子で頷く炭治郎と楓子を尻目に駒形は警官に目を向ける。

 

「春日巡査、事件の詳細を説明してくれ」

 

「えッ!?本庁でお聞きになっていたのではなかったのですか……?」

 

「いいから、できるだけ詳しく頼むぞ」

 

「あぁ、はい……」

 

 駒形に言われた警官――春日は頷きながらポケットから手帳を取り出す。

 

「大好」

 

 準備している春日から視線を外した駒形は呼びかけながら楓子にも聞けと促すように顎でしゃくる。楓子は首を傾げながらも春日の話に耳を傾ける。

 

「えぇ…現場はここ、『本郷帝都図書館』、レンガ造りで二階建て、上に乗っかっている時計台も合わせると高さはおよそ12m。創業は1900年、館長は創設者でもある室岡金蔵衆議院議員」

 

「室岡代議士ねぇ……」

 

「ご存じですか?」

 

「あまりいい噂は聞きませんがね……いや、失礼」

 

「いえ……」

 

 問いに答えた駒形はすぐ頭を下げる。問うたメガネの男も頷いて先を促す。

 

「開館時間は昼の12時から夕方5時。職員はこの犬飼梅衛門38歳一人」

 

「おひとりで管理してらっしゃるんですか!?」

 

「大変でしょう、この広さを一人では」

 

「まあ、開館時間が短いのでどうにか……」

 

 言われたメガネの男――犬飼梅衛門は楓子と炭治郎の言葉に頭を掻きながら頷く。

 

「えぇ、事件は大きく分けて二つあります。一つは本の窃盗、もう一つが幽霊騒ぎ」

 

「私達もそれ目当てですからねぇ~」

 

「とりあえず、窃盗事件の方から説明を頼む」

 

「えぇ~!!」

 

「幽霊の方先に訊きたいですよ~!」

 

「興味本位で聞かないでください!こっちは深刻なんですから!」

 

 不満を言う駿菊と楓子に犬飼が怒る。

 

「まずここの所蔵リストが盗まれました。第一発見者はこの梅衛門。その後窃盗はすぐに蔵書そのものにおよび、被害は日増しに拡大。たまりかねて通報した、と言うわけです。だな?」

 

「はい」

 

 春日に問われ犬飼は頷く。

 

「通報を受けたのは自分です。まあ最初は大掛かりな万引きかと思ったのですが、自分が張り込んだにも関わらずあれよあれよという間に東側の本棚の本がどんどんなくなってしまいまして、所轄の自分一人では手に負えず、先週、本庁捜査課知能犯係が乗り込んだというわけです」

 

 春日の説明を聞きながら楓子は示された本棚を見る。目立つ大人の男性の身長はあろうかと言う本棚二つが丸々空になっていた。よく見るとその本棚の両脇にはそれぞれ肖像画が飾られていた。

 

「犬飼さん、あの肖像画は?」

 

「あぁ、出資者と建築家のものです」

 

「そうですか……」

 

 犬飼の答えに頷きながら楓子は改めて肖像画と空っぽのふたつの本棚を見る。

 

「犯人が尻尾を出す可能性を考え、捜査期間中もあえて通常通り開館。捜査は三つの線で行われました。まずは、借り逃げの線。図書館で本が無くなれば借りっぱなしの多発が最も考えやすかったのですが――これをご覧ください」

 

 春日は言いながら一冊の帳簿を取り出す。駒形が開いたそれを楓子と炭治郎も横から覗き込む。

 

「これは、貸出記録ですか?」

 

「これに貸し出し返却の記録が残っているのですが、利用者はきっちり返しています。現在貸し出し中の本はすべて所在が確認できています」

 

「借り逃げの線は消えた、と」

 

 駒形は貸出記録を閉じて返す。

 

「次に自分も睨んだ利用者による万引きの線。しかし、これも利用者への職務質問、所持品検査とすべて空振り」

 

「この線も薄いか……」

 

「そしてもう一つ、第一発見者による犯行の線」

 

「それだ!!」

 

「勘弁して下さい!!」

 

 春日の言葉に駿菊が叫ぶが犬飼も慌てて首を振る。

 

「しかし、家宅捜査で蔵書は発見されず、まあ職員なら読みたい本はいつでも読めるということで動機もなく、外れました――残念ながら!

 

 春日は嫌味っぽく言いながら犬飼を見る。犬飼もホッと息をつく。そんな彼に駒形が訊く。

 

「勤務時間を教えてください」

 

「開館の30分前の11時半には出勤しています。天窓のカーテンを開けたり床の掃除もありますので」

 

「手伝いました!」

 

 犬飼の言葉を裏付けるように春日は言いながら受付カウンターの上の皿から何かを一つとる。

 

「閉館の五時以降は?」

 

「一時間ほど残っています。閲覧された本はその机に戻って来るのでそれを本棚に」

 

「手伝いました」

 

 再び春日が裏付けるように言い、皿から一つとる。

 

「おいおい、それさっきからなんだ?」

 

 そんな春日の行動に駿菊が訊く。

 

「あぁ、これか?これな、すごいんだぞ?一粒食べると300m走ることができるんだ!」

 

「何ぃッ!?そりゃ人力車業界に革命が起きるな!!」

 

 言いながら駿菊も興味津々で皿からそれ――キャラメルを手に取る。

 

「へぇ~!そんなものがあるんですね!」

 

「キャラメルか……そういえばこの年代から親しまれるようになったんだっけ?

 

 炭治郎も目を輝かせ、楓子人知れず呟きながら一粒取る。そんな面々をよそに駒形は質問を続ける。

 

「勤務中に外出は?」

 

「一切していません。一人しかいませんから。……あのぉ、僕はまだ疑われてるんでしょうか?」

 

「いやいや、何がヒントになるかわかりませんから。春日巡査、説明の続きを」

 

「はい!――えぇ、知能犯係の捜査でとっかかりすら掴めなかったので、その後もしばらく自分が弁当持参でここに張り付くことになりました」

 

 言いながら春日は風呂敷包みに覆われた重箱のような弁当箱を見せる。

 

「ちなみに閉館日の日曜はこやつの家に張り付いておりました」

 

「張り付かれてました。とてもウザったかったです」

 

「なんだその言い草はぁ!?誰が電球変えてやったと思ってんだ!?」

 

「キャラメル欲しかっただけでしょ!!それに刑事さん、この人、人の嫁さんをものすごいいやらしい目で見るんですよ!」

 

「そ、捜査の一環だッ!!聞いてください、こいつの嫁さんものすっごい美人なんですッ!!」

 

「なんだとぉッ!?」

 

「貴方には関係ないでしょ!!」

 

 興味津々で立ち上がる駿菊に犬飼がツッコむ。

 

「うちのかみさんだってなぁ、もう豚みたいな別嬪なんだからなッ!!」

 

「駿菊さんご結婚されてるんですか?」

 

「おうよ!小股の切れ下がった姉さん女房でい!」

 

「……小股は切れ上がった方が誉め言葉じゃなかったっけ?」

 

 自信満々に胸を張る駿菊に楓子は首を傾げるが、関係ないのでおいておく。

 

「家族構成は?」

 

「……やっぱり僕疑われてますよね?」

 

 駒形の質問に犬飼が困ったように眉を寄せる。そんな犬飼を尻目に春日が応える。

 

「二人暮らしです。妻、犬飼和香子、18歳!!

 

「うわ、すっごい年の差じゃないですか!!」

 

 奥さんの年齢の衝撃に思わず楓子が叫ぶ。

 

「結婚三か月です。まあ、そのぉなんて言うんですか?幸せの坩堝?」

 

「「ぎぃぃぃぃッ!!」」

 

 満面の笑みで言う犬飼に春日と駿菊が憎々しげに声を漏らす。

 

「ちくしょうもやしっ子がいい気になりやがって!」

 

「俺なんてなぁ!剣道柔道併せて五段なんだからな!!」

 

「おいらなんてなぁ!日本一足が速いんだぞ!!」

 

「駿菊さん既婚者じゃないですか……」

 

 張り合う様に自慢する二人に呆れながら炭治郎が呟く。

 

「私達だってそれなりに腕には自信ありますよぉ!!」

 

「なんで楓子さんまで張り合ってるんですかッ?」

 

「いや、そういう流れかなって……駒形さんは?」

 

 楓子はついでと聞くと駒形はフッと笑みを浮かべ

 

「スコットランドヤードアーチェリー部」

 

「すっごい!!イギリス行ってたんですか!?」

 

「ああ、三年ほど留学していた」

 

 驚いている楓子に自慢するように駒形は頷く。と、そんな面々を見ながら犬飼も不敵に笑みを浮かべ

 

「四番ピッチャー犬飼!」

 

「もやしっ子じゃねぇのか!!」

 

 駿菊は驚いた様子で言い、犬飼も自信満々に頷く。

 

「話がそれた。春日巡査、話の続きを」

 

「は、はい!――えぇ、今報告しました通り三つの捜査線はすべて玉砕。その後も厳重な警備にも関わらず続行された犯行に、結局この通りあの本棚一角が完全に空っぽに相成ったという次第です」

 

「まったく何のためにいたんだよ!」

 

「だから悪かったって言ってんだろうが!!」

 

「悪かったで済んだら警察はいらないんですよ!!」

 

「「キッ!!」」

 

 犬飼と春日はにらみ合いながら同時にそっぽを向く。

 

「ここにはどんな本が入っていたんですか?」

 

「すいません、それがわからないんですよ」

 

「え?」

 

「本棚で分類してないんですか?科学系とか医学系とか」

 

 驚く駒形に楓子も追従するように訊く。

 

「ええ、収納がバラバラなんです」

 

「例えば、新刊本はどことか、まとまってはいないんですか?」

 

「はい。それに、新刊本はありません。ここ、創立以来ほとんど蔵書が増えていないんです」

 

「ええ、うっそぉ!?有名な本は?漱石先生とか!?」

 

「夏目漱石ですか……確か、どこかにあったはずですが……」

 

「あったはずって…職員がどこに何があるか把握できてないって問題ありすぎでしょ!」

 

 楓子はあきれた様子で言う。

 

「そもそも、職員一人ってのもおかしな話だし。絶対手が回らないでしょ!さっき座ったそこ椅子、綿が足りてないのか硬かったし、時計台の四面ある時計の一面遅れてましたよ!」

 

「文句があるなら今の館長に言ってください。僕には何とも……」

 

 犬飼も楓子の言葉に頭を掻きながらぼやくように言う。

 

「なんとなくでも覚えていませんか?」

 

「御覧の通りここは半分以上が洋書でして、どの本も似てる上に、恥ずかしながら僕は横文字がダメで……」

 

「所蔵リストもなくなっているからさっぱりか……これじゃあ動機も見えんな」

 

 犬飼の答えに駒形は悩まし気に眉を顰める。

 

「扉以外の通路は?」

 

「ありません」

 

「鍵の管理は?」

 

「僕しか持っていませんし、閉め忘れもなかったと思います」

 

「自分が毎日確認しておりました」

 

「あそこの天窓って開かないんですか?」

 

「あれは羽目殺しだ」

 

「下に通気窓のようなものがあるが?」

 

「はい、しかし、開いても指三本程度で…まあ本を通せないこともないでしょうが……」

 

「そうか、よく分かった――で?」

 

「え?」

 

「俺が何のために呼ばれたと思っている?」

 

 呆ける春日に駒形は肩を竦めて言う。

 

「もう一つの幽霊騒ぎの方の説明を頼む」

 

「お、来た来たッ!」

 

「駒形さんってそういう専門の人なんです?」

 

「おう、そうらしいぞ」

 

「へ~……」

 

 楓子は興味深そうに駒形の顔を見る。

 

「えぇ、これは本の窃盗が始まる前に起こったことなのですが、夜中に妙な金属音がしたらしいんです。『カーン…カーン…』と」

 

「それって時計台の鐘が鳴ったんじゃないんですか?」

 

「おぉ!そうでいそうでい!」

 

 炭治郎の問いに同調するように駿菊も頷く。が――

 

「それが、この時計塔には鐘なんてないんだ」

 

「「え!?」」

 

「無いはずの鐘の音が聞こえたわけか……」

 

 驚く二人の横で楓子も興味深そうに目を細める。

 

「それを聞いた近所の住人が時計台を見上げると、そこには……ひげを蓄えた真っ白い老人の姿が!!

 

「「なぁぁぁぁぁぁッ!!?」」

 

 大声で叫んだ春日の声に炭治郎と駿菊が悲鳴を上げる。

 

「ちなみにこの建物は構造上屋根に上ることは不可能です。時刻は深夜12時前後に集中しており、目撃情報は一か月間に十件を超えています。鐘の鳴る回数は次第に減っていき、幽霊も現れなくなりましたが、それ以来ここは『幽霊図書館』と呼ばれています」

 

「「「………」」」

 

 春日の話を聞き終え楓子達は黙っていた。そんな中同じく聞いていた駒形が口を開く。

 

「〝ラップ音〟だな」

 

「「「「らっぷおん?」」」」

 

 聞きなれない言葉に面々が首を傾げるが

 

「確か霊現象の一つですよね?実体のない幽霊は言葉が出せないから、代わりに音を出して自分の存在や何か伝えたいことを表しているっていう」

 

「ああ、それだ。よく知っているな」

 

 楓子の言葉に感心したように頷く駒形。

 

「でも、実体のない幽霊がどうやって音を出しているんですか?」

 

「あぁ、そりゃ確かにな。そこんとこどうなんでい?」

 

 炭治郎の疑問に同調し駿菊が訊く。春日や犬飼も気になる様子で駒形の顔を見る。

 

「確かにでたらめみたいな話だが、アメリカで一度に500人が聞いた事例がある」

 

「「「「ごッ!?」」」」

 

 あまりの数に炭治郎達が驚きの声を漏らす

 

「それって有名な『フォックス姉妹のハイズビル事件』じゃないですか?」

 

「ああ、それだ」

 

 楓子の問いに駒形は頷く。

 

「公開実験があったんだ。ことの次第はこうだ。――ニューヨーク州のハイズビルのある借家で問いかけに答えるラップ音が鳴った。『あなたは幽霊ですか?』」

 

 ――パチンッ

 

 駒形は自身の口にした問いに答えるように指を鳴らす。

 

「それって、家族の誰かが指鳴らしたんじゃないですか?」

 

「それは違う」

 

 炭治郎の問いに駒形は首を振り

 

「ラップ音の大きさで、家が揺れたんだ」

 

「「「「ッ!?」」」」

 

「1847年に公開実験は500人が集まる中行われた。方法はアルファベットをA・B・C…と順に読んでいき、必要なところで幽霊がラップ音を鳴らす。解読されたメッセージはこうだ――『寝室で首を斬られました。今、地下に埋まっています。墓に葬ってください』」

 

 その瞬間呼応するように雷が鳴る。

 

「地下室の床下からは頭蓋骨が見つかり、後に犯人も逮捕された。世界中で報道されたよ。興味があったら警視庁に保管してあるボストンジャーナルを見せてやる」

 

 駒形は言いながら椅子の一つに腰掛ける。

 

「こ、これでわかったろう!消えた本は幽霊が持ち去ったということだ!」

 

「はぁ~、不思議なことってのはあるもんだなぁ~」

 

 春日は震える声で言い、駿菊も怖さをごまかすように務めて明るく言う。

 

「ですが、ここで、新たに二人の容疑者が浮上しているわけでありますが」

 

「ちょっと待ってくださいよ!俺たちはやってませんよ!」

 

 春日の言葉に炭治郎が慌てて言い、楓子は考え混む様子で黙り込む。そんな楓子に向かって歩み寄りながら駒形が言う。

 

「自分たちの疑いを晴らすためにも、捜査に協力しみんか大好?」

 

「「「「ええッ!?」」」」

 

 炭治郎も含め面々が驚きの声を上げる。

 

「この事件を物理的な犯行として捜査してほしい」

 

「どういことでありますか!?」

 

「本物の怪奇現象かどうかを見極めるのも俺の仕事だ」

 

「この人、探偵か何かなんですか?」

 

「……いやまあ、探偵ではないですね」

 

 犬飼が駒形に訊くが楓子は肩を竦めながら答える。

 

「しかし、警部!容疑者を捜査に参加させていいのですか!?」

 

「容疑者には黙秘権もあれば発言権もある。どうする?」

 

「ちょっと待てこら!」

 

 駒形が楓子に再度訊くが、それを駿菊が叫んで遮る。

 

「時間かからねぇんじゃなかったのかよ?わざわざ話をややこしくすんじゃねぇよ!」

 

 駿菊は駒形に歩み寄りながら言い

 

「それとも何かい?おっさんには幽霊がいてもらっちゃ困る理由でもあるってのかい?」

 

「……ある」

 

「「「「えぇ?」」」」

 

 駿菊の問いに駒形は意を決した様子で頷き

 

「おっかないんだ」

 

『はぁッ!?』

 

 その思わぬ理由に全員が驚きの声を上げる。そんな面々に向けてすました顔ですかしたポーズをとりながら

 

「言っておくが、俺はものすごい怖がりだ」

 

「あの…カッコつけていっていますけど、これって致命的ですよね!?」

 

「「「うん」」」

 

 犬飼の言葉に楓子と炭治郎と駿菊が頷く。が、そんな面々に春日は

 

「ば、馬鹿もん!!そんなわけないだろう!!貴様らの目線に下げてくださっているのがわからんのか!?」

 

「そうかなぁ?」

 

「なぁ!」

 

 そんな春日の言葉に疑わし気に楓子と駿菊が視線を交わしながら言う。

 

「よぉし、公開実験だ!」

 

 そんな二人に春日は言いながら手帳を取り出し

 

「目撃者による幽霊の人相書きが手に入りましたので提出いたします!」

 

「うむ」

 

 頷いた駒形は春日に歩み寄り、しかし、春日が畳まれた紙を開いた瞬間にUターンし離れた柱の陰に隠れこっそりと覗き見るように確認する。

 

「おっさん向いてねぇよ」

 

「だって、おっかないものはおっかないんだもん」

 

 駿菊の呆れた物言いにも駒形は柱に隠れながら答える。

 そんな駒形に呆れながらも楓子も人相書きを確認する。そこには先程の証言の通り長い髭を生やした白い着物の老人が描かれていた。

 

「どうだ、大好?やってみんか?」

 

「………」

 

 駒形の問いに考えた楓子は

 

「作戦タイム!!」

 

「認める」

 

 挙手をしながら言い、駒形が頷く。

 楓子は炭治郎を連れて端に行き声を顰めて相談する。

 

「今のところ鬼の臭いは?」

 

「全然です。やっぱりこれは鬼による事件じゃないと思います」

 

「だよねぇ~。かといって本当に幽霊の仕業ともなぁ……」

 

 炭治郎の言葉に頷いた楓子は考え

 

「本当は鬼の仕業じゃないんなら私達の管轄外なんだけど、容疑者な以上は途中で帰ることもできないし……しょうがない、か」

 

 楓子は大きくため息をつき

 

「わかりました、協力させていただきます。ただ、言っておきますが私は素人ですからあんまり期待しないでくださいよ」

 

「ああ、助かる!」

 

 楓子の言葉に満足そうに頷いた駒形は

 

「早速だが大好、こうは考えられんか?犯人はこの図書館のどこかに本を隠した」

 

「あぁ~」

 

「いやぁ、それはありませんよ!!」

 

 頷く楓子だったが、春日がそれを否定する。

 

「正門、裏門、正面玄関、通路、物置、便所!もうこれでもかってほど探したんですから!!」

 

「この人、井戸の中にまで潜ってましたよ」

 

「溺れました!!」

 

 犬飼の言葉に春日は自信満々に応える。そんな春日に駒形が訊く。

 

「時計台の機関室は?あれだけ大きな時計が四つもあるんだ、どこかに機関室があってもおかしくない」

 

「えっと、どうだったかな……」

 

 駒形の問いに春日は手帳をめくる、が――

 

「多分ありませんよ、機関室」

 

 楓子がそれを否定する。

 

「なんでそんなことがわかるんだ!?」

 

 春日がギロリと睨むが楓子は自信満々に頷き

 

「機関室のある時計台なら一つの動力で全てを動かすはずです。でも、ここの時計は一面遅れているものがあります。これは動力がそれぞれについている証拠。ここの吹き抜けの高さ考えても時計台の中は空っぽですよ」

 

「へ~」

 

「すごい、楓子さん!」

 

「くぅッ!」

 

 楓子のすらすらと言われた言葉に納得した様子で駿菊は頷き、炭治郎は感嘆の声を漏らす。春日は悔しそうに舌打ちをする。

 

「御覧の通り、只者じゃないんですよ彼女は」

 

「やめてくださいよ」

 

 誇らしげにいう駒形に楓子も照れ臭そうに頷く。そんな中――

 

「あの~……」

 

 おずおずと挙手しながら犬飼が口を開く。

 

「大変申し上げにくいんですが、機関室、あるんです」

 

「「……あれぇ~?」」

 

 犬飼の言葉に駒形と楓子がそろってバツが悪そうに首を傾げる。

 

「地下です。あの動力は相当重たいはずですから安全のために上につけなかったんだと思います」

 

「あぁ~!あれ時計の機関室だったんだぁ~!!」

 

 犬飼の言葉に同調するように春日が楓子に向けて厭味ったらしく言う。

 そんな春日の言葉に楓子はがっくりと肩を落とし

 

「だから言ったじゃないですか、私素人なんですよ!」

 

 叫んだ。そんな楓子に呆れていた面々の中で

 

「よし、ここは状況の整理といこうや!」

 

 駿菊が意気揚々と前に出る。

 

「貴方こそ素人じゃないですか!」

 

「素人もへったくれもあるか!こっちははやくけぇりたいんでい!こいつらに任せてても埒が明かねぇ」

 

 犬飼の指摘にも駿菊は言い返し

 

「いいかい?本が無くなったことに関して分からねぇことは三つだ。一つ、なんでやったのか?二つ、どうやってやったのか?三つ、誰がやったのか?だよな?」

 

「その通りだな」

 

「なんでやったのか、さえ見えてくりゃ、おのずと誰がやったのかは絞られてくるってわけだ」

 

「確かに!」

 

「すごいですよ駿菊さん!」

 

「意外な奴が役に立ち始めたな」

 

 駿菊の意外な発想に全員が舌を巻く。

 

「目的なんざよ、考えられることは二つしかないだろ。一つは盗んだ本を売り捌いて現金を手に入れる。そして、もう一つは単純にその本が読みたかった」

 

「読みたかったとなると、犯人は横文字が分かる人間と言うことになるな」

 

 駒形の言葉に一瞬考えた面々はすぐに駒形をジッと見つめる。

 

「……おい、ちょっと待て」

 

「さっき、イギリスに三年ほど留年していたっておっしゃっていましたよね?」

 

「おうよ!犯人は現場に戻るって言うしな!」

 

「残念です警部殿!」

 

「そんな、駒形さんが犯人だったなんて……」

 

 犬飼、駿菊、春日、炭治郎が口々に言う。

 

「ちょっと待てって!英語がわかる奴はそこにもいるじゃないか!!」

 

 駒形は言いながら楓子を指さす。

 

「そいつ、さっき『作戦タイム』って言っていただろう!」

 

「まあうちの親医者でしたから、英語もなんならドイツ語もある程度はわかりますよ」

 

「お前マルチリンガルかッ!?すごいな!!――て、それは今はいい!横文字がわかる奴は利用者にもいるはずだ!」

 

「それは確かに……」

 

 駒形の言葉に炭治郎が頷く。

 

「と言うか、駒形さんは犯人じゃないですよ」

 

 と、今度は楓子が自信満々に言う。

 

「駒形さんが犯人なら幽霊の仕業にしておいた方が都合がいいじゃないですか。再捜査する理由がありませんよ」

 

「あ、確かに……」

 

「そりゃそうだなぁ」

 

 楓子の言葉に面々が納得して頷くのを見て駒形はホッと息をつく。

 

「動機は憶測でしか考えられませんから、他の所を、特にやはり『どうやって』の部分を推理するしかありませんね」

 

「そうだな、大量の本を誰の眼にも触れずに持ち出す、なんてことは不可能に思えるが、実際本は消えている。何か方法があるはずだ。何か思いつかんか?『手段』じゃなくても、『目的』や『犯人』でもいい」

 

「そう言われましてもねぇ……」

 

 駒形の言葉に楓子は考え混む。

 

「あれ?」

 

 と、犬飼がふと思いついたように声を漏らす。

 

「わかってないことがもう一つある気がするんですが?」

 

 言いながら犬飼は周りを見渡し

 

「素人考えなんで、違ったらすみません」

 

 と、断ってから空になった本棚を指さし

 

「何故あの本棚だけが狙われたのか?」

 

『……あッ!』

 

 犬飼の指摘に全員が声を漏らす。

 

「売り捌くなら高そうな本ばかり狙うはずですし、読みたかったなら種類に傾向が出ていないとおかしい。でも、ここの収納はバラバラでした。つまり、犯人がこの本棚を狙った理由は、何か他にあるんじゃないでしょうか」

 

「なるほど、確かにその通りですね」

 

「てぇしたもんだ」

 

 炭治郎と駿菊が言い、他の面々も頷く。

 そんな中楓子は何かを考え混むようにぶつぶつ呟く。

 

「あの本棚だけ……収納はバラバラだから、本以外が目的……?本以外であそこに……」

 

 考え込んだ楓子は

 

「すみません、ちょっと他の本棚見てもいいですか?」

 

「え、ええ、どうぞ」

 

 楓子の言葉に犬飼が頷く。

 楓子は礼を言いながら他の本棚を見ながら本棚の本を抜き出して中を見たり確認していく。

 

「なあなあ、おっさんよぉ……」

 

 と、そんな中で駿菊が駒形に話しかける。

 

「おいらもうけぇっちゃダメかい?女房とせがれが待ってんだよ」

 

「いいじゃないですか、ここまで来たら解決までいたら」

 

 楓子は本を開きながら言う。

 

「せっかくだから本でも読んでみたらどうです?なかなか珍しい本が多いですよ、ここ」

 

「いや、ダメだぁ…おいら字が読めねぇんだ」

 

「それは勿体ない」

 

 恥ずかしそうに言う駿菊に犬飼が言う。

 

「なら、これどうですか?」

 

 と、楓子と同じように本を見ていた炭治郎が一冊の本を持ってくる。

 

「外国人向けの日本語教則本ですよ。字が大きくてわかりやすいですよ」

 

「えぇ?」

 

「俺も最近まで読み書きは得意ではなかったですが楓子さんに教えてもらってからはいろいろ読めるようになって楽しいですよ」

 

「本は良いものです。人生を豊かにしてくれますからね」

 

 炭治郎の言葉に賛同するように犬飼が言う。

 

「駒形さんからも進めてくださいよ」

 

 指名された駒形は頷き

 

「どんな職業でも知識は邪魔にはならん。これからの時代、学問は絶対必要だぞ」

 

 駒形の言葉に教則本を見ながら頷いた駿菊は苦笑いを浮かべ

 

「あぁ、ダメだ!柄じゃねぇや!」

 

 照れ臭そうに言う。

 

「それにな、知識ならあるぞ!東京でおいらの知らねぇ道はねぇ!しかもこの間は想像だけで箱根まで走ったんだぜ!」

 

「素晴らしい!!」

 

 駿菊の言葉に春日が目を輝かせる。

 

「男ってのはよ、体一つで生き抜きゃいいのよ!まあ、偉そうなこと言うんならよ、立派に家族守ってからにしな!」

 

「……そう、ですね」

 

 駿菊の言葉に一瞬悲しそうな顔をした炭治郎はすぐに笑顔を浮かべ頷く。そんな炭治郎に楓子は言いかけ、言葉を飲み込む。

 

「感動しました!!」

 

 そんな様子に気付かないまま春日は目を輝かせて叫ぶ!

 

「おし、一人もん手ぇあげろ!」

 

「はいッ!!」

 

「は――ッ!」

 

 駿菊の言葉に春日が意気揚々と、駒形も上げかけてすぐに下げる。

 

「おう、なんでぇ。坊主いい相手がいんのか?」

 

「え、ええ、まあ……」

 

「かぁ~!隅に置けねぇなぁ!」

 

 照れて頷く炭治郎に駿菊が囃し立てるように言いながら笑い

 

「まあいいや、知ってて損はねぇ!お前さんも聞いときな!どうすりゃ嫁さんもらえるか教えてやるよ!」

 

「お願いします!」

 

 駿菊の言葉に春日が意気揚々と手帳を出しながら座り、炭治郎もおろおろとしながらも強引に促され隣に座る。

 

「おい、捜査中だぞ!」

 

 そんな面々に駒形が怒るが

 

「しかし警部!これは死活問題ですよ!もう母ちゃんも心配しております!」

 

「駒形さんもホントは気になってるんじゃないんですか?」

 

 と、シレッと話に混ざってる楓子が言う。

 

「お前は嫁にもらわれる側だろ!」

 

「自分が選んでもらう参考にするんですよ!あと、人に世話するときにも有用かもしれませんし!」

 

「下らん。余談にかまけるなら静かにやってくれ。犬飼さん、捜査を続けましょう」

 

「はい!」

 

 頷いた犬飼は駒形と共に空になっている本棚に歩いていく。

 そんな二人を尻目に駿菊が話始める。

 

「いいか?女ってのはよ、大事なのはここ、腰よ。腰のせめぇ女はだめだ」

 

「はい!」

 

「おう筋肉!」

 

「なんででありますか!?」

 

「狭いとよ、ガキが出てこれねぇだろ!」

 

「「納得!」」

 

「まあ安産型のすわりのいいお尻ってのは重要ですよね」

 

 春日は頷き手帳に書き込んでいく。炭治郎も興味深そうに頷く。楓子も自身のお尻や腰を撫でながら頷く。

 

「最近だとよ、足がなげぇだの、スラァッとしてるだの、ほそっこい女がもてはやされてるが、おいらにいわせりゃダメだね」

 

「はい!質問!」

 

「おう、嬢ちゃん」

 

「最近じゃワンピースとか体の輪郭が見えずらい洋服が流行ってますけど、あれじゃ身体の線が見えなくありませんか?」

 

「見えなくてもよ、服の上から裸が分かる方法があんのよ!」

 

「「「な、なんですって~!!」」」

 

 駿菊の言葉に三人が揃って叫ぶ。と――

 

 どんッ!

 

 背後で本棚に強く本を叩きつけるように置いた音に四人が慌てて口を押え背筋を伸ばす。

 そんな四人に駒形が目を細めながら白みつけるように振り返り

 

「……どうやるんだ?」

 

「駒形さんッ!?」

 

 寄っていく駒形に犬飼が避けぶ。が、駒形は手帳を出して興味津々で促す。

 

「いいかい?耳たぶだ。耳たぶの薄い女は腰がしっかりしてるんでい」

 

「「へ~」」

 

「医学的根拠なさそうですね」

 

「だが、確かに思い当たる節はある」

 

 感心した様子で頷く春日と炭治郎をよそに楓子は言うが、駒形は頷いている。

 

「駒形さん捜査を!!」

 

「それどころじゃないだろ!!」

 

「うぅぅぅッ!!」

 

 駒形の返事に犬飼が泣き崩れす。

 

「駒形さんって男女交際のご経験あるんですか?」

 

「バカにするな」

 

 楓子の問いに駒形は自信満々に頷き

 

「ロンドンで二年ほどな」

 

「「「えっ!?」」」

 

 駒形の言葉に炭治郎達三人の男たちが目を見開く。

 

「じゃ、じゃあ……」

 

「まさかッ!?」

 

「フッ!金髪ッ!」

 

「「「やらし~ッ!!」」」

 

「よいではないか」

 

 三人の驚きの声に駒形はニヒルに笑う。

 

「ようよう!金髪の女ってのはこんくらいあるってのは本当かいッ!?」

 

 と、駿菊が訊くと

 

「そんなわけないだろ!」

 

 春日がため息交じりに否定し

 

「その倍だよ!!」

 

「「えぇッ!?」」

 

 駿菊と炭治郎が驚きの声を上げるが

 

「そんなわけないだろ。その二分の一だ」

 

「……普通じゃねぇかよ」

 

 駒形の言葉に駿菊はがっかりした様子で言う、が、すぐにニヤリと笑い

 

「でもよぉ…あっちの方は、普通ってことはねぇだろ?」

 

「あっちってなんだ?」

 

「「いやいやいや~!」」

 

「ちょっと、健全な青少年もいるんですよ~!」

 

 楽しそうに笑う駿菊と春日に楓子は言いながらもしょうがないなぁと言わん苦笑いを浮かべている。

 そんな様子に駒形と炭治郎が首を傾げているが、そんな二人に駿菊たちがコソコソと教える。

 その内容に炭治郎はボッと顔を赤らめ駒形も納得した様子で頷き

 

「その…なんだ……すごいぞ」

 

「「うぇぇぇぇッ!!」」

 

 男二人の悪乗りに楓子はやれやれと肩を竦め炭治郎も苦笑いを浮かべている。

 

「興味があるなら日本に住んでいる友人を紹介しよう」

 

「「えぇッ!?」」

 

「頭数をそろえて茶でもしよう。語学の勉強にもなるしな」

 

「で、では時間と場所を設定しましょう!」

 

 駒形の言葉にノリノリで頷いた春日たちが集まってワイワイ話しているのを犬飼は興味はあるものの混ざれずに遠巻きで見ている。と――

 

「犬飼さんも一緒にどうですか?」

 

「ッ!――まったく、しょうがないなぁ君たちは!!」

 

 言葉のわりにその声色も表情も嬉しそうに犬飼も混ざりに来る。

 

「おいおい、てめぇは新婚だろうが!」

 

「あなただって既婚者でしょ!」

 

「「………」」

 

 お互いに言い合った駿菊と犬飼は無言で、まるで同盟でも組むように固い握手を交わし頷きあう。

 

「あの~…俺はそういうのは……」

 

「いいじゃないか。別にどうこうなろうっていうんじゃない。語学勉強として交流を深めればいい」

 

「でも……」

 

「まあ炭治郎君の場合は彼女本人より周りの方が怖いもんねぇ~……」

 

「まあ無理強いはしない。興味があれば参加すればいい」

 

 乗れずにいる炭治郎に駒形は微笑みながら言う。

 

「ところで、その金髪のお嬢さんは何者なんですか?」

 

 と、ふと思い出したように春日が訊く。

 

「あぁ、心配するな。普通の――霊媒師だ」

 

 答えた駒形の言葉に、その場の全員が凍り付く。合わせたように落雷の音が響く。

 

「人数分の幽霊をそろえてくれるよ」

 

 その瞬間再び落雷の音が、先ほどよりも近くに聞こえる。

 全員が凍り付き言い淀んでいる中ニヤリと笑った駒形は

 

「フッ!冗談だ!!はっはっはっはっ!!」

 

 一人狂ったように笑い転げる。

 そんな異様な光景に全員が何とも言えない表情で見ながら

 

「は、は、ははははは」

 

 誰からとも知れず乾いた笑いを漏らす。

 

「な、なんだよ冗談かよ、わかりづれぇよ!」

 

 全員で笑いあう中、再度これまでで一番大きな落雷の音とともにフッと明かりが消えあたりが闇に包まれる。同時にドスンと大きな音が聞こえる。

 

「な、なんだッ!?停電か!?」

 

「なにッ!?なにぃッ!?」

 

「て、てぇへんだ!停電だぁ!!」

 

「雷がこの建物に落ちたのかな?」

 

「み、皆さん大丈夫ですか!?」

 

 全員で口々に言いあう中、電気が復旧したのか明かりが戻る。と――

 

「「「「なぁぁぁぁぁぁッ!!?」」」」

 

 先ほどまではなかったはずの、本を読むための小さな机の一つを叩き潰し床に刺さった物体があり、思わず春日、駿菊、犬飼、炭治郎が驚きの声を上げる。

 

「上から落ちてきたのか……」

 

 楓子は冷静にそれを観察しながら物体の上、天井を見上げると、そこには穴が開き雨粒が落ちてきている。

 と、そんな中一人離れたところに逃げていた駒形が手を合わせ拝みながら何かをぶつぶつとつぶやいているのに春日が気付く。

 

「ど、どうしました警部殿!?」

 

「私に近づいても何もしてあげられません私に近づいても何もしてあげられません私に近づいても何もしてあげられません私に近づいても何もしてあげられません――」

 

「あぁ、ずるいですよ一人だけ!!」

 

 そのつぶやいている内容に気付いた犬飼も同じように手を合わせ

 

「私に近づいても何もしてあげられません私に近づいても何もしてあげられません――」

 

 同じように祈りはじめ、春日と駿菊も一息遅れて同じように祈り始める。

 

「ど、どうしたんですか皆さん急に!?」

 

「い、いいからてめぇらも祈れ!!」

 

「はいぃッ!?」

 

 駿菊の言葉に訳が分からず見渡すが炭治郎の疑問に誰も答えず他の三人とも同じように祈り続けている。

 

「ふ、楓子さん!これっていったい!?」

 

 炭治郎は楓子の方に視線を向けるが、楓子は祈り続ける四人には目もくれず床に突き刺さったその物体をしげしげと観察する。

 

「なるほど、時計台の針ですねこれ。落雷で落ちたんですね」

 

「あぁ待て触るな!!」

 

 言いながら楓子は駒形の静止も聞かずそれを床から引き抜く。

 

「「「「あぁッ!!?」」」」

 

 引っこ抜いた時計台の針を持って振り返る楓子に四人が悲鳴にも近い驚きの声を上げる。

 

「雨曝しですから、あちこち錆びてますし、見てくださいよ傷だらけでボコボコですよ」

 

「や、やめろぉ!!こっち持ってくんなぁ!!」

 

「はぁ?なんですかもう、大の男が揃いも揃って……」

 

 言いながら楓子は床に針の切っ先を床にして立てながらもう一度観察しようと眺め、

 

「あ……」

 

 そこで声を漏らし動きを止める。

 呆けた顔のまま固まる楓子に他の面々が訝し気な顔で眺めるが楓子は動かない。

 彼女の頭の中でこれまで点と点だったこの図書館での出来事、話、などが急速に繋がっていく。

 

「あぁ…そうか、そういうことだったんだ……」

 

 楓子は人知れず口元に笑みを浮かべながらそっと呟くが、その呟きは雷の音にかき消され炭治郎達五人には届かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――周囲の明かりが落ち、楓子にスポットライトが当たる。楓子はそのまま顔を上げ不敵に笑みを浮かべ口を開く。

 

「えぇ…今回の事件はやはり鬼とは無関係だったようですねぇ。しかしまあ、鬼が関係していないということは私たちにとっては一安心でもあります、はい。

今回の事件を解決するカギはやはり、『何故東側の本棚だけが狙われたのか』という部分でしょう。ヒントは、『本棚の両側に飾られた出資者と建築家の肖像画』、『短い開館時間と一人しかいない職員』、『バラバラに収納された本』、そして『一面遅れている時計台の時計』

――もうお分かりですね?解決編は次回。大好楓子でした」

 

 




というわけで大好楓子の事件簿、事件編でした。
解決編はまた近いうちに更新しますのでお楽しみに!
今回のお話は前書きでも書いた通りとある演劇をもとにしています。
そのタイトルは事件のネタバレになるので解決編のあとがきででも記載しますが、好きな人の多いシリーズだと思うので知る人ぞ知るかもしれませんね。
パクリではありません、影響を受けたんです!オマージュです!大事なことなので二度言いました。
また、少し先の話を想定していたので炭治郎君が誰かと交際していますが、そのお相手については……まああの人以外いませんがここでは名前を伏せさせていただきます。
いったいナニ落ダレヲさんなんでしょうね?

ちなみに今回のお話の中で登場した警部、駒形と楓子が既知でしたが、二人の出会いの話もそのうち本編で描きますのでそちらもお楽しみに。

というわけで今回はこの辺で!
台風の影響で慌ただしい休日となっていますので、少しでも皆様の暇つぶしの役に立っていれば幸いです。
次回の解決編をお楽しみに!


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