図書館の幽霊騒ぎ&本の紛失事件の真相とは?
楓子はその真実を解き明かすことができるのか!?
というところで一つお詫びを。
前回の最後、楓子のセリフの中でこの事件を解くヒントを書きましたが、書き換えるはずのものをそのまま投稿してしまい、不十分なヒントとなっていました。
現在は修正していますが修正前に読んだ方にお詫びとともに改めてこちらに記載しておきます。
そんなわけで事件の解決編です!
「えぇ…今回の事件はやはり鬼とは無関係だったようですねぇ。しかしまあ、鬼が関係していないということは私たちにとっては一安心でもあります、はい。
今回の事件を解決するカギはやはり、『何故東側の本棚だけが狙われたのか』という部分でしょう。ヒントは、『本棚の両側に飾られた出資者と建築家の肖像画』、『短い開館時間と一人しかいない職員』、『バラバラに収納された本』、そして『一面遅れている時計台の時計』
――もうお分かりですね?解決編はこの後。大好楓子でした」
「ふ、楓子さん……?」
時計の針を床に立てた姿勢から動かなくなった楓子を不審に思った炭治郎が呼びかけながら肩に手を置く。と――
「アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ」
「ヒッ!?」
「憑かれた!?」
「「「なぁぁぁぁぁぁぁッ!?」」」
振り返った楓子は白目をむいたまま呻き声とも悲鳴とも何とも言えない低い声を出して振り返る。そんな楓子に炭治郎が目を剝き、駒形が唖然と言い、他の三人が悲鳴を上げる。
「おっさん何とかしてくれよ!!」
「俺は対処法は知っているが処理法は知らん!!」
「んな無責任な!!」
駿菊の言葉に叫ぶ駒形。ほかの面々もどうしていいかわからず呆然と見ている。
そんな面々の前で楓子はフラフラと、まるで糸で吊るされたマリオネットのような不気味な動きでユラユラと揺れながら口を開く。
「暗イ…暗クテ狭イ……早ク出シて……」
何とも不気味な声でいう楓子の言葉に面々は顔を見合わせ、代表して駒形が口を開く。
「あ、あなたは誰ですか?」
「ワタシハ創設者じャ……」
「創設者って……」
「室岡代議士?まだ存命のはずじゃ……?」
「違ウ…!ワたシは室岡デはナイ…本物ノ創設者ジゃ……!」
「えッ?」
楓子(?)の言葉に面々が疑問を漏らすがそれを楓子(?)がさらに否定する。その言葉にこの図書館の職員である犬飼がそっと隠れていた机から顔をのぞかせる。
「…東ノ本棚ヲ…ドカせ……」
「え?」
「東ノ本棚ヲドカスんジャァ!」
楓子(?)の言葉に慌てて問題の本棚を見た駒形は
「犬飼さん!あの本棚動かせますか!?」
「えッ!?やったことはありませんが…できなくはないと思います!」
「早クどカシなァ!わタシハそこニいルヨォ!」
「ッ!春日さん手伝ってください!」
「お、おう!!」
炭治郎が言いながら駆け出し呼ばれた春日もそれを追って東の本棚の前に立つ。
二つ並ぶ本棚のそれぞれに春日と炭治郎が立ち
「「せーのッ!!」」
掛け声とともにそれぞれ本棚を引っ張る。本棚がゆっくりと動き壁から外れる。と、その向こうには――
「なッ!?」
「もう一つの、肖像画!?」
驚く面々の前に姿を現したのは着物姿で杖を突いて座りこちらを見ている真っ白いひげを蓄えた老人の肖像画だった。
「こ、これって……」
「見ろ、目撃証言そっくりの老人だ!!」
「この人が…幽霊の正体……?」
みなが驚く中春日が肖像画の下に掲示されたプレートを読む。
「有賀重蔵…本郷帝都図書館、創設者…!?」
面々が驚く中
カラ~ンッ!
「「「「ッ!?」」」」
「ふ、楓子さんッ!?」
甲高い音が響き慌てて振り返ると楓子が床に倒れていた。甲高い音の正体は楓子の傍らに同じく倒れている時計台の針だと思われる。
「お、おい嬢ちゃん大丈夫かッ!?」
一番近くにいた駿菊が駆け寄る。
「お、おいッこれどこ運べばいい!?病院か!?」
「いや、もう大丈夫だ…恐らく幽霊の目的は果たされたんだ、彼女は心配ない」
「どういうこと、ですか?」
駒形の言葉に炭治郎が訊く。
「自分の存在を見つけてほしかったんだよ。本を減らすことで本棚を軽くしてな。しかし、なかなか見つけてもらえなかったから対処法を知らない彼女に取り憑いたんだ」
「な、なるほど……」
駒形の言葉に炭治郎だけでなく他の面々も納得したように頷く。が
「し、しかし、わかりません……」
春日は困惑した様子で口を開く。
「取り憑かれた大好の言う通り本物の創設者がいることはわかりました。――では…室岡代議士は……?」
「………」
春日の問いに頷きながら駒形は本物の創設者の肖像画を見ながら言う。
「経歴詐称、だよ」
「ど、どういうことですか…?」
犬飼が訊く。
「室岡代議士は自分が創設者と偽ることで文化に貢献している印象が欲しかったんだろう。ま、選挙の道具ってやつだ……」
「くそぅ…嘘つきやろうってわけか……」
駒形の語る言葉に駿菊が憎々しげに言い、他の面々も何とも言えない怒りを感じている様子だった。
「おかしいと思ったんだ、職員を一人しか置かないのは明らかに経費削減だし、新刊本を置かないのもこの図書館に興味がない証拠だ」
「……可哀そうに」
犬飼は本物の創設者の肖像画を見ながらつぶやくように言う。駿菊もそれに同意するように頷き肖像画へと手を合わせる。
「とりあえず、発表の仕方が決まったら連絡します」
駒形は犬飼へ歩み寄りながら言う。
「慎重にいかないと、幽霊騒ぎを掻き立てることにもなりかねませんので」
「はい……」
「まあ、仏さんの目的は達成されたんだ。これでもう、例の幽霊が現れることもなくなるでしょう」
「ありがとうございました。駒形さんのおかげで全部解決しました」
駒形の言葉に頷いた犬飼は晴れやかな顔でお礼を言った。そして――
「はい、そこまで」
ムクリと起き上がった楓子が平然と言う。
『ッ!?』
あまりに普通に起き上がったので周りの全員が驚き息をのむ。
「いま、やっと証拠がそろいました。私、犯人が分かりましたよ」
『……はぁッ!?』
楓子の言葉に全員が唖然とする。
「犯人も何も幽霊の正体はその本物の創設者の方だって今……」
「お前だって今その幽霊に取り憑かれてたじゃないか!」
「取り憑かれてませんよ。あれ、全部わタシノ演技ダッたンデスよ」
『ッ!?』
楓子が言葉の途中で先ほどの不気味なしゃべり方になったことで先ほどのものが演技だったことをみな否応なしに理解する。
「えーっと、先ほどのものが演技だったというのはわかった……では、お前の言う犯人とはいったい誰なんだ?」
「……フフ、この台詞一度行ってみたかったんですよね」
と、駒形の問いに楓子はニヤリと笑みを浮かべ
「皆さん、一連の幽霊騒ぎ、並びに本の消失の犯人は、この中にいます!」
『ッ!?』
楓子は驚く面々の顔を嬉しそうに見ながら
「犯人は――」
言いながら右手を上げ、自身を見つめる面々の中から一人の人物を指さす。
「――犬飼さん、あなただ」
「ッ!?」
「「「「えぇッ!?」」」」
楓子の言葉に犬飼は息をのみ他の四人は驚愕に声を上げる。
「ど、どういうことですか!?犬飼さんが犯人って……!?」
「順を追って説明するね」
炭治郎の問いに頷いた楓子は口を開く。
「まず、犬飼さん、今おかしなこと言ったの自覚していますか?」
「…?おかしなこと……?」
楓子の問いに犬飼が首をかしげる。
「今あなた、駒形さんにお礼を言ったでしょ『全部解決した』って」
「当たり前だろ。解決したんだから」
「いいえ」
楓子の言葉に春日が訝し気に言うが楓子は首を振り
「わかったのは幽霊の正体とどうして本を消したかの動機だけでした。図書館職員として一番気にするはずのことを犬飼さんは心配していないんです」
言いながら楓子は犬飼に視線を戻す。
「犬飼さん、どうしてあなた、消えた本の行方が分かっていないのに『すべて解決した』って言ったんですか?」
「ッ!!そ、それは……」
「幽霊の正体が分かったことであなたは油断してつい言ってしまったんです。本の行方をあなたは知っていたから」
楓子の言葉に反論できない様子で犬飼がうつむく。
「だ、だが、事件の間俺がずっとこいつにつきっきりだったぞ!?いったいいつ本を盗んでたっていうんだ!?」
と、春日が訊く。
「そもそも、大前提が違うんです。本は初めから盗まれても消えてもいなかったんです。ただ移動していただけなんです」
「ど、どういうことでいッ!?」
楓子の言葉に駿菊も疑問の声を上げる。
「この東の本棚にあった本は、方々の本棚に移動しただけなんです」
「はぁッ!?」
「だ、だが、本にはちゃんとラベルが張られている。別の棚を示すものが本棚にあれば気付くんじゃないのか?」
「ええ、ですからもちろんラベルは張り替えます。あとは返却棚に置いておけば期間中は春日さんが手伝っていましたから自分でやらなくても勝手に収めてくれます」
「だ、だけどよ、新品のものが張られていれば気付くだろう!」
「絵具かなんかで汚したとは言わせねぇぞ!ここにはそんなものないんだからな!」
「絵具なんか必要ありません」
駿菊と春日の言葉に楓子は言いながら職員の座るカウンターのわきに置かれたヤカンをとる。
「さっき本棚の本を見て回ってるときに見つけました。中には麦茶が入っています。犬飼さんしか職員はいませんからここで仕事しながら飲んでたんじゃないですか?」
「あ……そういや、俺も弁当持参して来ていた時、茶はこれをもらっていた……」
「これを新品のラベルの上に塗れば古いものに偽装することができます。最初に所蔵リストがなくなっているのも、あったら移動させたことがばれてしまいますから処分したんでしょう」
「な、なるほど……」
炭治郎も納得した様子で頷く。
「確かに、お前の言う通り本は移動したことで消えたように見える。本の消失についてはわかった。では、屋根の上の幽霊騒ぎはどうやったっていうんだ?ここは構造上屋根の上に上がれないはずだが?」
「それももうわかっています」
言いながら楓子は床に転がっている時計の針を指さす。
「時計台の針に井戸の縄を引っかけてよじ上ったんです」
「井戸だと?そんなもの……溺れたぁぁぁッ!?」
否定しようとした春日だったが自身が身をもってその存在を確認していたことに気付きあんぐりと口を開ける。
「だ、だがよぉ!どうやって引っかけたんでい?投げ縄にしても軽くて時計台までは届かねぇだろ、石やなんかを投げるのとはわけがちげぇんだからよぉ」
「石やなんかを先に結んで投げたんです」
「え?」
「で、でも石やなんかをつけて投げても体重を支えるほど丈夫に固定できるんですか?」
「それも方法はあるよ」
炭治郎の疑問に頷きながら楓子は春日に歩み寄り
「ちょっと手錠をお借りしても?それとサーベルを持って立ってもらえますか?」
「え?……おう、わかった」
一瞬ちらりと駒形を見て頷いたのを確認し腰のベルトにつけられたポーチから取り出し渡し、サーベルを引き抜く。
「例えば、11時45分の長針に縄を引っかけたとする」
言いながら楓子は春日を促し時計の長針のように伸ばしたサーベルを持った右手に手錠を引っかける。
「そのまま15分経てば――」
促され右手を真上に持っていきながら左手で短針を現して同じように真上に伸ばす。と、右手と左手で見立てた長針と短針で縄に見立てた手錠が固定される。
「こんな風に短針と挟まって固定されます」
「「あぁ~…!」」
「で、でもよ、11時45分に長針と短針の間を狙ってそんな見事に命中何てこと……」
「できますよ。だって――」
言いながら楓子は犬飼の方に振り返り
「四番ピッチャー犬飼、でしたよね?」
「「「あぁッ!!」」」
楓子の言葉に先ほどの運動神経自慢の時の話題を思い出しハッとする面々。
「でも、さすがに野球の球を投げるようにはいかなかったから何度もぶつけてしまったんでしょうね。でなきゃその時計の針、いくら雨曝しだからって傷だらけすぎますから」
「「「あぁッ!」」」
「それがラップ音の正体か」
「「「あぁッ!!」」」
「回数が次第に減っていったのも石を投げる感覚に慣れて投球が上手くなったんでしょう」
「「「あぁッ!!!」」」
次々と裏付けされていく様子に炭治郎と春日、駿菊の三人は揃って声を上げる。
「ちなみに降りるときはさっき言ったみたいに投げ縄の形にすればいいんです。時計の針が重なっているのはせいぜい2、3分でしょうからね。目撃証言は12時前後に固まってますからもう一度重なるのを屋根の上で待っていたとは考えずらいです」
言いながら楓子は春日のサーベルから手錠を取りサーベルに手錠の輪の部分を通す。
「こうして引っかけておけば2、30分経てば自然と――」
言いながら楓子は春日を促し長針に見立てた右腕を時計の針のように進ませる。と、サーベルに引っかかっていた手錠が滑り落ち床に落ちる。
「こんな風に抜け落ちるってわけです」
「な、なるほど……」
「こんな使い方をしていたから四面あるうちの一つだけ遅れていたんですよ」
「「あぁッ!!!」」
「あ、じゃあ幽霊の衣装は?確か春日さん犬飼さんの家を家宅捜索したって!」
「おう!そのときは何も怪しいものはなかったぞ!」
春日の言葉に楓子は頷き
「白い服は最近結婚式を挙げた人なら持ってても不思議じゃありません」
「「「あぁッ!」」」
「付け髭も、この図書館の椅子に使われている綿を使えば作れます。だからいくつか固い椅子があったんでしょうね」
「「「あぁッ!!」」」
三人が納得した様子で頷いているのを見ながら楓子は犬飼に再び視線を向け
「何か、反論はありますか?」
「………」
楓子の問いに犬飼はフッと息をつき
「ありません。すべてあなたの推理通りです」
憑き物が落ちたように晴れやかな表情で頷く。
「二つほど質問してもいいですか?」
「どうぞ」
犬飼の言葉に楓子は頷き言葉を促す。
「いつから僕を疑っていたんですか?」
「事件の概要を聞いている時です。覚えていますか?私がこの図書館の問題を言ったときあなた室岡代議士のことを『今の館長』って言ったんです。『文句は今の館長に言ってくれ』って。その時は変なこと言うなぁって思いましたが、そこからさっき駒形さんが言っていたような違和感の理由を考えた時わかりました。それってつまり、室岡代議士が誰かの後に館長になったってことを知っていたってことですよね?」
「ッ!確かに…しまったなぁ、間違えた」
楓子の指摘に犬飼は恥ずかしそうに頭を掻き
「もう一つ、何故あそこに肖像画があると分かったんですか?」
言いながら犬飼は創設者の肖像画を指さしながら聞く。
「あなたは幽霊に取り憑かれていたわけではないし、この図書館に来るのも初めてのはずです。なのに、どうして?」
犬飼の問いにフッと笑った楓子は
「最初に違和感があったのは両隣の肖像画です」
それぞれの肖像画を指さしながら楓子は言う。
「建築家と出資者の肖像画があるのに創設者の肖像画がないのはおかしいでしょう?」
「まあ……」
「確かに……」
「それに、あそこは西日がもろに当たります。図書館を作るほどの人ならあの東側に本棚を置くのも違和感がありました。なので、これらのことを合わせると、あの本棚の裏には何か秘密があって、本棚はそれを隠しているんじゃないかと思ったんです。一番ありえそうなのはあそこにもう一枚、肖像画でもあるんじゃないかと思ったわけです」
「なるほど……ありがとうございました」
楓子の説明に納得した様子で頷いた犬飼。
そのまま犬飼は床に置かれた時計塔の針と拾い上げる。
「まさか、酷使された時計の針が落雷で落ちてくるとは誤算でした」
拾った針を抱えたまま傍の椅子に座る。
そんな犬飼に駒形が歩み寄り
「動機は、復讐ですか?」
「え……?」
その問いに犬飼が呆ける。炭治郎達もきょとんと首をかしげる。楓子だけは合点がいった様子で見ている。
「本当の創設者とあなたの関係は想像がつきます――お孫さんですね?」
「「「え?」」」
言われて炭治郎達が肖像画と犬飼を交互に見る。
犬飼もわかりやすくするためか眼鏡をはずして三人の方を向く。
「あ……」
「確かに……」
「ほんとだ、似てる」
三人は感心した様子で目を見張る。
「あの絵が、我々警察の目の前で現れれば室岡の経歴詐称が公になる。本の窃盗で警察を呼び、消失トリックで幽霊の仕業に仕立て上げた……違いますか?」
「……少しだけ」
言いながら犬飼は真剣な表情で語り始める。
「有賀重蔵は確かに僕の祖父です。とても聡明な人物でした。本当によく勉強していて、何度も海外留学をしていたほどです。これはとても大変なことなんです。ご経験のある駒形さんならわかっていただけると思いますが……」
「そうなのか?」
頷いている駒形に駿菊が訊く。
「あの鴎外や漱石でさえ、そんなにはしていないよ」
「誰だそれ?」
「俳優だよ」
「違いますよ」
首をかしげる駿菊をバカにしたように春日が言うが、そんな知ったかぶりを楓子が冷静に否定する。
「ここは、そんな祖父の学問に捧げた人生の結晶なんです。それを純粋に知ってもらいたかっただけです。バラバラにされた事実をあるべき姿に並べなおしたかっただけです。室岡の経歴詐称の一部が発覚したところで彼の政治家生命はびくともしないことくらい僕にだってわかります」
言いながら犬飼は駒形を含めその場の全員の顔を見渡し
「ご迷惑をおかけしました」
深々と頭を下げた。そして、ゆっくりと頭を上げた犬飼は春日へと向き
「春日さん、僕はこの二週間あなたに嘘をついて利用してきた。本当に申し訳ありません」
「………」
言葉に詰まる春日に犬飼は無言で両手を突き出す。
春日は目を見張り判断を仰ぐように駒形を見るが、駒形も重々しく頷き春日を促す。
そんな二人のやり取りに駿菊は背を向け、楓子も何も言えずうつむき、炭治郎は止めようとするように手を伸ばすがおろしてしまう。
春日はゆっくりと犬飼に歩み寄り手錠を取り出し、その手にかけようとするが――
「すみません、できません警部殿」
すぐに体を翻し駒形に向き直る。
「「「「え?」」」」
そんな春日に楓子達四人は驚きの声を漏らす。
「こいつが何を盗んだ?どんな詐欺でいくら儲けた?何を凶器に誰をどうした?俺には、逮捕する理由がわかりません!」
「春日さん……」
春日の言葉に犬飼も驚きの声を漏らす。
「で、でもよぉ…人騒がせってのは罪になるんじゃねぇのか?」
駿菊が恐る恐る駒形に訊く。そんな駿菊に春日が睨むが、駿菊も申し訳なさそうに目をそらす。
「………」
駿菊の問いに一瞬考えた駒形は
「これが本物の幽霊騒ぎじゃなかった以上、この事件は私の管轄からは外れた」
言いながら駒形は肩を竦め
「私にはもう何の権限もないな」
そう言ってにやりと笑う。
「て、ことは……?」
「迷宮入り、かぁ~!残念ですね~!」
確認するように炭治郎が楓子の顔を見るとそれにこたえるように楓子はニヤニヤと笑いながら嬉しそうに言う。
「これにて一件落着!!
「駿菊さんとうとう中心に来ましたね」
「悪りぃ、つい……」
叫んだ駿菊は楓子の呆れ顔の突っ込みに照れ臭そうに言いながらそそくさと隅に避ける。
そんな中、春日は姿勢を正し駒形へ歩み寄り敬礼する。
「本郷駒込署所轄巡査、春日桜太。以上を持ちまして任務を終了させていただきます」
「お疲れ」
駒形もそれに応じ敬礼しながら言う。春日はもう一度お辞儀し
「あぁ~……梅衛門、じゃあまた明日、11時半な」
衣文かけにかけている自身の上着を羽織りながら言う。
「え……?」
その言葉の意味が分からず呆ける犬飼に春日は上着のボタンを留めながら取り外した元は東側につけられていた本棚を顎でしゃくって示す。
「その本棚、結構重かったぞ。貴様には運び出せねぇよ。もう爺さん隠したら可哀そうだろ」
春日の言葉に楓子と駿菊が囃し立てるようにニヤニヤと笑い炭治郎と駒形も優しく微笑む。
そんな面々の視線にいたたまれなくなったのか照れ隠しのように語調を強めながら春日が口を開く。
「あぁ…本棚一つ10キロだから…キャラメル二つで手伝ってやるよ!」
「……用意しとくよ」
「おう!しっかり用意しておけ!」
そんな春日の照れ隠しに犬飼も嬉しそうに微笑み頷く。
と、駒形は駿菊に視線を向け
「君も待たせて悪かったな。息子さんが待ってるだろうに」
「あぁ、いいのいいの!あいつはね、一人で勝手に家で寝てらぁ!」
駒形の言葉に笑い飛ばして駿菊が答える。
「今日はもういい。俺はもう少しここに残るから、引き留めて悪かったな」
「おう?そうかい?」
駒形の言葉に頷いた駿菊は帰り支度を始める。そんな駿菊に歩み寄りながら駒形はズボンのポケットから財布を取り出し
「これ、帰りの運賃だ」
「受け取れっかべれぼうめぃ!」
お金を出そうとした駒形の手を押えて言った駿菊はすぐにニヤリと笑い
「その代わり、次は指名してくんな。日本一早い人力車、愛宕屋駿菊だよ!」
「ああ」
駿菊の言葉に頷いた駒形に、ちょうど帰り支度を終えた春日が歩み寄り再び敬礼をする。駿菊もそれをまねし敬礼をし、駒形はそんな二人に敬礼を返す。
そのまま二人は図書館から出て――行くかと思いきや、駿菊だけ踵を返し犬飼のところに戻る。
「おい、その…なんだ……」
しかし、何か言いにくいことのようでもじもじと要領を得ないまま言い淀んでいる。
そんな様子に犬飼は何かを察したのか受付カウンターの方に行き
「これですか?」
「ちげぇよ」
キャラメルを持って戻るが駿菊は首を振り、意を決した様子で口を開く。
「本貸せ」
「はい?」
「ほ、本貸せっつってんだよ!」
『えぇッ!?』
そのあまりに予想外な言葉に全員が驚きの声を上げる。
「いや…ほら、これからの世の中は学問なんだろ?おいらはいいけど、倅がな?」
言い訳をするように言いながら先ほど炭治郎が出した日本語教則本を手に取る駿菊。そんな駿菊に犬飼は頷き
「一週間したら一度おこしください。延長もできますから」
「はい」
犬飼の言葉に駿菊は嬉しそうに笑う。
そして、改めて春日とともに今度こそ図書館を後にした。
二人を見送った犬飼は残っている楓子達に視線を向け
「大好さん、駒形さん、ありがとうございました。竈門君も巻き込んでしまって申し訳ない」
「そ、そんな!俺はたまたま居合わせただけですから……」
炭治郎は慌てて首を振る。そんな様子に微笑みながら駒形が頷き
「いえ、こちらこそ。……いやぁ結末がおっかなくない方向でよかった」
「駒形さんは本当にとことん向いてませんね」
そんな駒形の言葉に楓子は呆れ顔で言う。
そんな楓子の言葉に駒形も恥ずかしそうに頬を掻き、そこでふと思い出したように天井を見上げる。
「犬飼さん、板か何かありますか?あれ、あの穴」
「あぁ…ちょっと物置行ってきます」
「あ、俺も手伝います!それくらいはさせてください!」
出ていく犬飼を追って炭治郎も出ていく。
残された楓子と駒形は束の間沈黙が流れ
「……なあ、大好。二、三わからんことがあるんだが、訊いてもいいだろうか?」
「ん?なんですか?」
沈黙を破って問いかけてくる駒形に楓子は頷く。
駒形は胸元から手帳を取り出し
「例の幽霊目撃談なんだが、正体が犬飼さんだったってことはわかった。しかしな……」
言いながらページをめくり、とあるページを開く。
「これだ。『本郷帝都図書館、屋根の上、十二時五分、髭の老人を目撃』」
「他のと一緒ですよね?それも犬飼さんでしょ」
「……不可能なんだよ」
「どうして?昼間はここで働いて、夜中は幽霊ごっこってことでしょ?何がわからないんですか?」
楓子の言葉に駒形は首を振り
「これ、昼の十二時なんだ」
「……は?」
その予想外の言葉に楓子は思わず呆ける。
「……まあ、このために俺の部署はあるんだがな」
楓子でも説明できないと悟り、駒形は自嘲気味に笑いながら手帳をしまう。
「……世の中には不思議なことってのはありますからね」
楓子も頷く。そして――
「それで?」
「ん?」
「聞きたいことは一つじゃないんでしょう?」
「あぁ……」
楓子の言葉に頷いた駒形は真剣な表情を浮かべ
「大好楓子、お前はいったい何者なんだ?」
「何者って…ただの古美術商の使いで――」
「嘘だな」
楓子の言葉に駒形は即座に言う。
「お前が買い付けてきたというこの刀。確かに見た目は普通の刀だが――」
言いながら駒形は楓子が脇に置いていた日輪刀を取り、鞘から引き抜く。
「こんな色の刀は聞いたことがない。しかも、それほど年代も経過しているようには見えない。古美術品としての価値は低いんじゃないのか?本当にこれを買い付けてきたというのならどこで誰からいくらで買い付けてきた?」
「…………」
駒形の言葉に楓子は数秒考え、両手を上げる。
「降参です。言い訳のしようもないですね」
やれやれと肩をすくめながら楓子は言う。
「で?どうしますか?銃刀法違反でしょっ引きますか?」
「……いや、そんなことはしない。いや、やっても意味がないんだろう?」
「まさか、そんなわけないじゃないですか~」
「白々しい。それだけあっさり認めるということは捕まってもどうにでもできるという確信がお前にはあるんだろう?」
「……さてさて、どうですかね?」
駒形のジト目の問いに楓子は素知らぬ顔で首をかしげる。
「廃刀令が出て数十年たったご時世に風変わりな刀を持ち歩く黒装束の一団の噂は警察内部でも実しやかに囁かれている。お前もその一人なんじゃないのか?」
「…………」
「お前は、お前たちはいったい何者なんだ?」
駒形の問いに楓子はニヤリと笑い
「Need not to know.」
「何?」
楓子の言葉に駒形が眉を顰める。
「知らずに済むのであれば、それに越したことはないんですよ」
言いながら普子は少し考え
「それでもあえて言うのであれば、私たちは、この大正の世で戦う桃太郎の一団、でしょうかね?」
「桃太郎、だと!?」
楓子の言葉に駒形は眉を顰め怪訝そうに言う。
「まったく、本気で答える気はないのか?」
「本気は本気なんですが…まあ信じてもらえないのも仕方がありませんね」
呆れた様子で言う駒形に肩を竦めて楓子は言い
「でも、駒形さんが今後も今みたいな不可思議な事件専門の部署で働くのであれば、また私たちと出会うこともあるかもしれませんね」
「そうかい、じゃあ期待せずに待っているよ」
駒形は肩を竦めおざなりに応える。
「というか逆に今まで駒形さんの部署の内容で〝私たち〟と関わらずに済んでたのが驚きですよ」
「なんだそれは?」
「ある意味〝私たち〟はあなたの部署と近いところにあるってことですよ」
「まさか俺が金太郎か何かだといいたいのか?」
「金太郎なら春日さんの方が――」
怪訝そうに言う駒形の言葉に笑いながら首を振ったところで
「た、大変です!」
顔を真っ青にした炭治郎と犬飼が駆け込んでくる。
「どうしたんですか、幽霊でも見たみたいな顔して?」
楓子が冗談めかして言った言葉に息を切らせた犬飼はゆっくりと上――屋根を指さしたのだった。
事件の解決編楽しんでいただけたでしょうか。
事件は無事に解決です。
すべては人間によるもので鬼は一切関与していませんでいた。そう〝鬼は〟……
さてさて、この事件には本当に幽霊はかかわっていなかったのか?
皆さんはどう思われますか?
少なくとも、この後彼女たち四人は無事に家路につくことができたことでしょう。
さて、この一連のお話はKKPー小林健太郎プロデュースーというシリーズの一つ「LENS」という演劇作品をもとにしています。
元の演劇作品では楓子が担っている探偵役をそのお話の主人公が行っています。
文字にする影響で描かなかったシーンなどもあるので元の演劇作品の方が何倍も面白いと思います。
興味のある方はYouTubeなどで探してみると出てくるかもしれません。
機会があればぜひご覧になってみてください。
ちなみにこれは偶然ですが、先日の日曜日に始まった新作の「仮面ライダーガヴ」にて一話目の怪人役をしていた役者さん――片桐仁さんはこの「LENS」の主人公の探偵役にしてこの演劇の脚本家をされている小林賢太郎さんと「ラーメンズ」というコンビを組んでらっしゃる方でした。
なんだか一人で勝手に運命を感じていました。
そんなわけで余談はこの辺で!
最後に、前回の話を投稿してから気づきましたが、この「恋柱の継子、人の恋路に世話を焼く」が次回でめでたくトータル話数100話となります。
というわけで本来なら次回は番外編でキメツ学園を投稿予定でしたが、改めて以下のアンケートにご協力を!
その結果次第で次回のお話が変わります!
次回は
-
予定通りキメツ学園!
-
他の番外編がいい!
-
本編を進めて!