超見切り発車です。某ゲームに影響されて、戦争物書いてみたいと思って始めました。
湖の畔にそびえたつ大きく美しい城。
そこは歴史の深い街、騎士と妖精の国。
この国の名は「ルルイド」。
その足元では市民たちが身を寄せ合い、ヒソヒソと不安げな表情をしている。
普段は活気のある市場も、今は閑古鳥がなく始末だ。
一週間前、すぐ西の国が侵略戦争に負けたばかりである。
この国もまた、戦渦に巻き込まれようとしていた。
玉座の間・・・と言っても、ただ一人女王がいるだけだが。
彼女はその美しい顔を歪ませ、うんうん唸っていた。
西の国が降伏してから一週間。恐らくこの国が狙われるのも時間の問題であろう。
しかし、この国は深い歴史と輸送に便利な湖こそあるが、人口も少ない小国で戦力が足りない。
・・・というよりも、だから狙われやすいというか。
昔は強力な騎士団と妖精の存在もあり、一目置かれる存在であった。
・・・だが、今はどうなのだろう?
伝統に凝り固まった頭でっかちの騎士団と、自由奔放な妖精たち。
決して弱くはない西の国を打ち破った侵略者に、敵うのかどうか。
「・・・戦争などしたことのない私に、そんなものわかるはずがないでしょうが。」
女王は大きく息を吐いて、壁の肖像を見上げる。
(ああ、愛しきおじい様。あなたならこんな状況、笑って乗り越えたのでしょう?)
当たり前ではあるが、肖像はにこやかに笑いかけるだけだ。
二度目のため息を吐こうとしたとき、コンコンと扉の音が鳴った。
女王が返事をしようとすると、その前に扉が開いた。
「失礼します。」
ニコニコした、胡散臭いコートを羽織った女が立っていた。
女王の側近の参謀である。
「ああ、どうした?もう奴らは集まったのか?」
「いえ、それもありますが・・・、ああいやその前に。」
参謀はコートをゴソゴソと探ると、一枚の羊皮紙を引っ張り出した。
それには、綺麗な文字で冷酷な文章が刻んであった。
「ま、大方の予想通りではありますが、先方に送った和平の申し出は断られました。
近々、本格的に戦争が始まるでしょう。」
「・・・そうか。」
女王はそれ以上何も言えなかった。平静を保つ余裕はなかった。
心のどこかで戦争なんて起きないのではないかと思っていた。
しかし、さすがは一国の主。動揺を見せたのは一瞬のことであった。
「それはひとまず心得た。で、貴様先ほど何かを言いかけていたな。申してみよ。」
既に威厳たっぷりである。
そんな畏れ多い方を前にしても、参謀はニコニコ笑顔を崩さない。
「・・・ええ、ここからが重要な話でございます。女王様には、少々嫌な役回りをおってほしくてですね。」
「・・・。」
その笑顔は、二人が幼少のころからずっと同じ不気味な笑いなのだ。
会議室では、ガチャガチャとやかましい音が響いていた。
室内にもかかわらず、鎧を付けたままの男がいるせいである。
彼はこの国の騎士団長である。
頑固そうな仏頂面・・・かどうかは兜のせいでわからないが、トントントンと机を指で叩いている様子は機嫌がよさそうには見えない。
その対面に座っているのは、この国に古くから住む妖精である。
椅子が大きすぎるのか、机にそのまま座っていて威厳は感じられない。
彼女は鬱陶しそうに騎士団長を見ていた。
並の妖精なら、うるさいと突っかかっていったのかもしれないが彼女は一応妖精の代表である。
ただ目で訴えかけるのだった。
そして明らかに目に入っているにもかかわらず、騎士団長はスルーを貫いた。
二人は何も言わずに数分間にらみあい続けた。
にらみ合いにも少々疲れたころ、突然扉があいた。
するりと姿を現したのは猫のような糸目をした女、参謀だ。
「二人とも、姿勢を正しなさい。女王陛下がおいでだ。」
途端、騎士団長は直立し、妖精の長は羽をはばたかせ音もなく空中に静止した。
扉から女王が入ってくると、一気にその場は張り詰めた空気になった。
「ご苦労、諸君。先だっての和平の申し出は断られた。ルルイドにかかる火の粉を
払う必要が出てきたわけだ。」
女王が座り、続けて騎士団長と妖精長も席に着いた。
参謀は女王の横で立ったままである。
見ると、その手には大きな紙が握られていた。会議に使うのだろうか?
「そうであるならば、覚悟はできております。われら騎士団は、民衆と陛下の盾となり、矛となりましょう。」
そう答えたのは、腕組みをした騎士団長である。その言葉には一切の迷いがなかった。
「いや、実際守り切れんの?向こうは騎士団の何倍もいるって話よ?」
そう返したのは妖精長だ。ビシッと指を鉄兜に向けながらそう言い放った。
「それを考えるのが、この場だろう。」
「いやそうだけどさあ~。」
妖精長はろくろを回しながらも、言葉が出てこないようで、チラリと女王を見る。
女王の代わりに口を開いたのは参謀であった。
「いやいや、二人とも臆することがないようで大変結構。しかし、私の意見を述べさせてもらうならば、今の騎士団ではこの国を守り切ることは不可能「そうよ!!」だ・・と・・・。」
妖精長は参謀の意見に嬉しそうに割り込んだ。
「毎回毎回、訓練でもあんたらがいると魔法撃ちづらくてしょうがないのよね~。やっぱり、この国を守れるのはアタシ達妖精ってことね!」
妖精長は、テーブルの上ではねて喜んでいる。
騎士団長は、一つ唸ってから返した。
「我らが邪魔になるのはしょうがないだろう。敵を抑える役がいなければ、貴様らは簡単に
切り裂かれて終わりだ。」
「ぐぬぬ・・・。」
二人が睨み合っていると、トントンと机が叩かれた。
参謀はいつの間にか机の上に何かが書かれた大紙を広げていた。
「二人とも、話がずれていますよ。まあこれを見てください。」
紙には何か細かく文字と数字が並んでいた。
「・・・敵の戦力図ですか。どこからこれを?」
唸りながら答えたのは、騎士団長だ。
「西の国から逃げてきた兵士から情報を集めてね。」
参謀はニヤニヤと笑いながら答えた。
「敵の主戦力は重騎兵です。その数は、我らが騎士団の約二倍。勿論、そのほかに歩兵もいます。
確認はとれていませんが、射かけた矢が弾かれたらしく恐らく魔法使いもいるでしょう。
これから予測できる戦力は、我々の約5倍です。」
「・・・しかもあれでしょう?西の国は産業が進んだ国だったから・・・その職人たちの技術力
も手に入れられたってことで・・・。」
「そうなりますね。」
怯えた顔の妖精長に、参謀はにべもなく答えた。
「敵は油断できない敵どころではないということだ。」
女王は、重々しく言い放った。
シーンとした静寂にその場は包まれた。
それを打ち破ったのは騎士団長だった。
「・・・戦争経験者の意見を聞きたいですな。」
「ふぇ?あたし?」
この場で唯一の戦争経験者は、長命な妖精だけである。
「い、いや、意見も何も!アタシは参加してはいたけど作戦なんか考えたことないし!」
彼女は焦って顔の前で手をぶんぶん振る。
「あ、そうだ。参謀あんたどーせなんか作戦考えてるんでしょ?言いなさいよ!」
その言葉を待っていたかのように参謀の口は邪悪にほほ笑んだ。
参謀ことナターシャは幼いころからこの国で育ち、また愛してきた。
ただの女王の付き人であった彼女が、いまや参謀になっているのはコネではなく、その愛国心からなのである。彼女がいつも胡散臭く笑っているのは、まぎれもない本心からなのだ。
会議室でも、彼女は笑みを絶やしていなかった。
「数で劣る我々の勝機は、質で勝ることです。これを見ていただきたい。」
コートの中から、長細い物が出てくる。
彼女はその筒のようなものをごとりと机の上に置いた。
「・・・銃ですね。これは西の国が作っていた鉄の球が飛び出る筒だ。」
「うんまあ、そうですが少し違います。しかし、順番に話しましょう」
参謀は、羽ペンですらすらと紙に書き加えていく。
「侵略者達は、西の国からこの技術を手に入れました。余っていた実物は職人が工房ごと爆破したようですが、彼ら自身は捕らえられました。少し時間がかかるでしょうが、これを戦線に投入してくるでしょう。」
他の者は何も言わずにごくりとつばを飲み込んだ。
参謀は、ひとつ息を吸い込んでから口を開いた。
「我々もこれを使います。奴らに先んじてです。」
またその場では少々沈黙が流れた。
皆、考えを巡らせているようだ。
「しかし、それをどう生産するのです?西の国から保護した者もおりますが、この国には設備がない。・・・いや、それよりもその銃を使っても西の国は負けたのですよ?」
騎士団長は言いづらそうに声を上げた。しかし、それは必要な疑問であった。
参謀もいつものにやにや笑いを解き、真面目モード(いつでも真面目だが)で答える。
「うん。その点は説明が必要ですね。これは西の国のものではありません。湖の反対側の国、東にあるサムライの国から輸送してもらったものです。」
女王以外の一同は、ほおと感嘆の声を上げる。
「西の国は職人こそ多かったですが、武器はあまり興味を持たれる部分ではありませんでした。しかし、サムライ達は根っからの武闘派。西の国から伝わったこの武器を改良していたのです。」
参謀はコートの中から、小さな弾丸を取り出した。
それは鉛玉しか見たことのない一同には、みたことのないような円錐型の奇妙な形の弾丸だった。
「鎧を着た重騎兵に、西の国の銃は有効ではありましたが、如何せん精度が不十分でした。兵力の少ない彼らは、突撃してくる重騎兵に致命傷を与えられず、そのため蹂躙されてしまったのです。」
歩きながら彼女は演説を続ける。
「これは有効射程が100メートルはあります。腕のいいものが使えばそれ以上はあるでしょう。それに威力も申し分ない。球形の鉛玉ではなく、円錐状のものを使っていて貫通力もあります。」
彼女はテクテクとしゃべりながら歩き、騎士団長の兜の留め具を外して、それを机の反対側に置いた。騎士団長は、首をひねりながらも予備の兜を頭に着けなおした。
「妖精長。消音をお願いします。」
「え?うん。『サイレンス』。」
妖精長は反射的に消音の魔法を使ってしまう。
全員のの顔色が変わったのは、参謀がいつの間にか銃を構えているのに気づいてからだった。
ドスン・・・という重い銃弾は聞こえなかった。
しかし、消音を解除してしまったため兜が床に転がる金属音は聞こえた。
「ちょっと!!撃つなら事前に言いなさいよ!!」
妖精長は腕を振り上げて抗議する。
それとは対照的に騎士団長は兜に触れて具合を確かめながら、恐れおののいていた。
「いやー、すいません。いったら止められると思いましてね。」
参謀はいつものごとくにやにや笑っている。
「しかし、どうです?騎士団長?」
「・・・弾丸が貫通している。反対側の鉄板もだ。」
騎士団長の声は若干の震えを含んでいた。
兜には無残な二つの穴が開いていた。
弾丸は完全にひしゃげているが、その威力に今までの戦闘とは明らかに違う物を感じた。
それを聞いて満足したのか、参謀は語り始めた。
「ま、実戦は
であることはわかっていただけたでしょうか?」
参謀は未だ煙を吹いている銃を机に置き、机に手をついて語り始めた。
「これを三千丁用意しました。」
これには皆の目の色が変わった。
「三、三千丁だと!?貴様その対価はどこから支払った!?」
女王も聞いていなかったらしく、慌てて参謀を問いただす。
「いやー、輸送費は私のポケットマネーから、ね?」
「・・・ならばいいが。」
女王は納得したように席に戻る。
しかし、この中で一応平民出身の騎士団長だけは気づいていた。
そんな数の武器の対価が、一貴族の自由にできる金だけで賄えるものではないことを。
(・・・こいつ。絶対なんか他にやったな。)
しかし、彼はそれを口に出さなかった。
知らぬが仏というが、それだけが理由ではなかった。
「して、参謀殿。あのー、もしやとはお思うがこれを使うのは?」
「勿論、騎士団です。」
恐る恐る言った騎士団長を、参謀はばっさり切り捨てた。
騎士団長は、苦々しく口を開く。
「・・・騎士団はそのような武器は使えません。剣には誇りがあります。」
「なーにが誇りよ。馬鹿らしい!」
妖精長はけたけたと笑った。
騎士団長はそれに怒りもせずにやるせなそうに口を開いた。
「・・・騎士団で大事なのは誇りなのだ。それがなければもはや騎士に非ず。
・・・私は常々そのように生きてきたのだ。誇りのない生き方などできるわけがない。
・・・どうかその発言を取り消していただきたい。」
「団長。あなたが戦わねば国は滅びます。」
騎士団長は、参謀の言葉を聞いても何も言わなかった。
彼は席を立ち、扉に向かって出ていこうとする。
それをみて参謀もまた、何も言わなかった。
「・・・貴様が逃げればどうなる。」
彼の足を止めたのは、女王の言葉であった。
「民草は死に絶え、先祖からの土地は侵略者に土足で踏み荒らされる。これが貴様らの誇りか?」
「・・・女王陛下。」
騎士団長の拳は震えていた。
「・・・わかっております。わかっておるのです!!しかし、できないのです!私にはどうしても騎士たちに誇りを捨てろなどど言えませぬ!!誇りとて、先祖から受け継いだ大切なものなのです!!」
女王は落ち着き払って答えた。
「ならば、これからは私でもなく、銃でも剣でもなく、民に誇りを持てばいい。彼らを守り抜くことは、先祖も誇りに思うであろう。」
「・・・部下たちを御しきれるとは思いません。私は、剣がなければただの男です。」
女王は立ち上がりまっすぐと団長の目を見た。
「いいや、団長。お前にしかできない。お前がやるのだ。」
団長の兜からは、一筋の涙が零れ落ちた。
しかし、次の瞬間には覚悟が決まったようであった。
「仰せのままに!!」
団長は跪き、失礼を詫びた。
妖精長はそれをみて、ニヤニヤと笑みを浮かべていた。
「あ、妖精達もこれからは騎士団のサポートに回ってもらいます。」
妖精長の笑みは凍り付いた。抗議の声を上げようとしたが、跪いたままの騎士団長を見て止めた。
「さて、では今回の会議はこれで終了ですかね。具体的な作戦は二日後に決めましょう。」
参謀は荷物をまとめ始めた。
「ちょっと、そんなにのんびりしてて大丈夫なの?」
妖精長は参謀の周りを飛びながら質問した。
「ええ、大丈夫ではありませんが、今は騎士団の訓練をさせるほうが先ですからね。それに奴らの侵攻は恐らく一か月後くらいです。西の国を荒らす時間と、こっちとの戦争準備が必要ですからね。」
「と、なるとそれしか訓練期間はないわけですか・・・。」
復活した騎士団長は参謀の横で立っていた。彼は悩まし気に兜をかく。
「ええ、まあそうですが。あの武器は使い方さえわかれば後は簡単です。間に合いますよ。」
「わかりました。全軍取り急いでで訓練を行います。参謀殿も、騎士団から猛反発を喰らうと思うので覚悟をしてくださいね。」
「にゃっはっは、わかりました。ああ、あと全軍じゃなく、半分だけ訓練してください。
もう半分は私が借りたい。」
騎士団長は首を傾げた。
「・・・ええ、まああなたのことは信用します。しかし、何に使うのですか?」
「うふふ、いざって時の防衛とそれから・・・・。」
そこまで言いかけてから、参謀は会話に置いてけぼりの二人に気づいた。
「おっと、それでは会議はここまでにしましょうか。団長は残ってください。訓練についてお話があります。妖精長も、妖精たちに戦争が起きるって伝えておいてください。」
あーい、という気の抜けた返事の中、女王が立ち上がる。
途端に三人は直立し、女王を見送った。
コツコツと、女王は廊下を歩いていた。
戦争、民、誇り、様々なことが頭の中でぐるぐる巡っていた。
参謀は嫌な役回りだといったが、本来あれは私が覚悟しておかねばならなかった部分である。
ああ、しかし、彼女が事前に言ってくれなければ、私はあんなセリフを言えただろうか?
「・・・ああ、ナターシャ。」
我々がまだ女王でも参謀でもなかった頃に戻れないものか。
戦争など起こらない様にできないものか。
勿論、そんな願いはかなうはずもないのであるが。
始めは男キャラだった参謀がいつの間にか女の子になっていました。ビックリしました。