アイディアがなくて書けない時と、筆が遅くて書けない時がある気がします。バランスよくして。
まだ朝日が眠ったままのころ、参謀は目を覚ました。
見慣れた飾り気のない部屋に、仕事用の机。
その上は昨晩やっつけたばかりの書類でいっぱいだ。
昨晩の会議の後も、私自身は忙殺されていた。
一晩眠ったというのに頭がガンガンする。
(・・・いけないな。私がこんなものでは間違いなく戦争に負ける。)
参謀は寝間着姿のままベットからおり、鏡の前でにやにやと笑ってみせた。
鏡には、小さいころから不気味だといわれてきた笑顔があるだけだ。
彼女は肩を落とし、息を吐く。そこにはいつもの余裕は見られない。
(ああ、リリィ。・・・いや女王陛下。私はいつも通り笑えているでしょうか?)
笑顔とは、かくも脆いものなのか。私は今まで気づきもしなかった。
着替えが終わった参謀は、眠気覚ましに城内の散歩を始めた。
頭を働かせ続けるのは、人間には無理な話だ。少々のクールダウンは必須だろう。
日が昇りだした美しい湖を眺めながら、彼女は静かな城をめぐってみる。
しかし、彼女の頭の中は様々な考えがぐるぐる巡る。
銃の生産、重騎兵への対処、騎士団はどんなに反発するか、考え出せばきりがない。
(・・・全軍で突撃されればそもそも対処しようがないのではないか?)
そんな考えまで浮かんできてしまった。
しかし、私は頭を振ってそれを否定する。
奴ら、侵略者達は領土を拡張しすぎた。それは単純な国力の増加だけでなく、
守るべきポイントも増えたということでもある。
防衛用の戦力は必須なのだ。あんな蛮族共が、侵略されることを良しとするはずがない。
・・・しかし、不安の種は尽きない。
私の考えは、よもや希望的観測なのではないかと。論理的に思えるが全く違った馬鹿らしいものなのではないかと思えてならない。
しょせん私も、知識でしか戦争を知らぬものなのだ。
恐らく私の身に、この国の存亡がかかっている。
自ら選んだ道とはいえ、一人の小娘には重すぎる責任であった。
守りたいと思えば思うほど、民衆の首が野原にさらされている情景が目に浮かぶ。
・・・もちろん責任に押しつぶされている場合ではないが。
やるやらぬしかないならば、私は間違いなくやる。
やったけどできなかったなどと言い訳もしない。必ず守り切って見せる。
そう考えだすと、いつもの笑顔が少しだけ戻って来てくれる。
(・・・さて、お仕事の時間かね?)
参謀は修練場に足を向けた。
修練場には一人の男がいた。鎧に身を包んだ男、騎士団長である。
いつもは腰に携えている剣が今日は見当たらない。
その理由は、彼の手を見れば明白だろう。
彼は真新しい弓用の的に向けて銃を構えていた。
「・・・ふー、『サイレンス』」
彼は朝早いからだろうか、消音の魔法をかけてから引き金を引いた。
火のついた縄が落ち込み、それは大きく火を噴いた。
見た目の派手さとは裏腹に、彼の優れたフィジカルは反動をまるで感じさせなかった。
銃口から放たれた弾丸は真っ直ぐと的に・・・は向かわなかった。
弾丸は大きく右下に逸れてカーブし、地面にめり込んだ。
団長は、兜を外し、はあと息をつく。
てんで駄目だ。試してみたが、当たりはしない。
本当に一か月足らずで部下たちも習得できるのだろうか・・・?
彼が一抹の不安を抱いていると、背後からサクサクと土を踏みしめる足音が聞こえた。
「やあ、騎士団長殿。訓練に精が出ているようで。」
声を聴いただけで思い浮かぶにやけ面。振り返ると小柄な女が立っていた。勿論、参謀だ。
騎士団長は、実のところこの女が苦手であった。
同士として信用はしているが、実直な彼にとって権謀術数の体現者のようにしか映らないのであった。
「・・・どうも参謀殿。そんなものではありませんよ。騎士達に銃を持たせる手前、私ができなければ話になりませんからね。」
「おや?もう既に騎士達に伝達したのですか?」
そう言いながら参謀は下から兜をのぞき込む。
団長は、自分よりも小さい女の視線から逃れるようにさりげなく視線を逸らす。
その見透かすような視線と見つめ合うのは、嫌だったのだ。
「ええ、訓練にしても、反発を考えても、早いに越したことはありませんからね。」
「ほう、それには同意です。」
団長は、火薬と弾丸を取り出し、銃口から詰め始める。
やはり慣れない動作なのか、どこかその動きはぎこちない。
参謀はそれをいつもの調子でにやにやと眺めていた。
「騎士達はどうですか?銃を持っていただけそうですかね?」
それを聞いた団長の動きがぴたりと止まる。
そして、少し肩を落としてからしゃべり始めた。
「私も懸命に説明しました。・・・納得してくれたかどうかは結局わかりません。」
「ふふふ、それは確かに。他人の心など、賢者でもなければ見透かせるわけもない。」
わかったような言葉に、団長は救われるような、やりきれなさが増したような思いを感じていた。
見透かしたような物言いに、自分が賢者だとでも言うつもりか?という邪推まで出てきた。
しかし、彼はすぐにその考えを否定した。
(・・・そんなわけないだろう。お前は今揺れているのだ。それはきっと命取りになる。国にとってもだ。)
彼は考えを振り払うように口を開く。
「・・・副官に探りを入れさせましたが、昨晩の時点では目立った動きはないようです。朝になれば、失望して逃げ出したものもいるかもしれませんがね。」
「ふむ、まあそうですか。・・・実のところ意外ですね。もっと反発があると思っていましたよ。
貴官はなかなか人望があるようで。」
その言葉に団長は苦笑する。
彼女の言葉が真実なのか、嘘なのかは、学のない私にはわからないがお世辞であろう。
私にもっと力があれば、単純な強さではなく、女王のような意志の強さがあれば、
騎士達にもよく伝わったことだろう。
昨晩、剣を捨てるといった時の皆の顔が目に浮かぶ。
絶望するような、失望するような。
騎士達を責める気はない。それはしょうがないことではあった。
皆、剣を志してこの道に進んできたのだ。
・・・それは、もちろん私もそうだ。
この女は、その部分を本当にわかっているのだろうか?
参謀の方をチラと覗く。
しかし、手を顎に当てて考えに耽る彼女の顔からは何も読み取れやしなかった。
団長は一つため息をしてから、銃の装填を完了する。
(しかし、飲み込まなくては。)
騎士の長が戦わずして、勝てる戦もなし。
女王陛下から賜ったあのお言葉を決して嘘になどはしない。
・・・ならば。
団長はチラリと参謀を眺めた。
苦手な奴を克服するのも悪くはないかも・・・?
「参謀殿、昨日の射撃お見事でした。良ければ私にもご指導いただけないだろうか?」
参謀は、その申し出が少し意外だったようで目を瞬かせた。
しかし、すぐにいつもの笑みに戻ると懐から短銃を取り出した。
「・・・ええ、ええ。勿論ですとも。仕事の話でもしながらお教えしましょう。」
騎士団長も、その一瞬の態度が意外だったのか、少し顔をほころばせた。
それに参謀は気づいていたのだろうか?
「ありがとうございます。・・・ところでその短筒は?」
「ああ、こいつはですねー。銃身をーーーーーーーー」
いつの間にか朝日は昇っていた。
城も、街も動き始めていた。
町はずれの倉庫。そこでは、早朝にもかかわらずある集団が集まっていた。
「クソ!!!!どういうことだよ!!!」
吐き捨てるような言葉と共に、机をたたいたのは若い短髪の屈強な男だ。
その机の周りには、同じような姿をした若者たちが十数人。彼らが思い思いに座っている。
彼らの共通点はあまりないが、全員腰に
この国では、剣は栄光の象徴である。
これを持てる者は王国直属の騎士団だけだった。
「まあ、怒るのも分かるけどね~。」
そう返したのは赤髪の男。細身ではあるが、よく鍛えられた体をしている。
目を怪しく光らせながら、彼は言葉を続ける。
「重要なのは、なぜか?ではなく、、、、、これからどうするか?・・・・だろ?」
彼の言葉に周りの若者たちは「「そうだそうだ!!」」と声を上げる。
その倉庫はある種の新興宗教のようであった。
周りの者たちは、短髪の男が手を上に挙げると声をぴたりと止める。
「いんやぁ、その通り。やはりお前は頼りになる。・・・なぜ団長が剣を捨てる等と戯言を抜かしたかはどうでもいい。ならば我々はどうするべきか!!」
若者は立ち、声を上げる。
「剣は我々の人生、いや我々そのものだ!!離れることなどできようものか!!」
若者たちは熱気に酔ったように歓声を上げる。
その中で、ただ一人赤髪の男だけはにやりと笑っていた。
タイミングを見計らったように、彼はが右こぶしを天につきあげる。
「団長をそそのかしたのは誰だ!?」
若者たちは一瞬口を紡いだ。しかし、誰かが「・・・女王だ。」とぽつりと漏らした。
そこから氾濫するように言葉はあふれかえる。
「そうだ!!女王だ!!」「この国の盟主ともあろうものが!!」「女に騎士の誇りなどわからない!!」
倉庫は人知れずヒートアップする。
「「女王だ!!女王だ!!女王だ!!」」
赤髪はその情熱を煽るように言葉を続ける。
「ならばその女王をどうするべきか!?そんな売国奴がこの国を治めていていいのか!?」
「「殺せ!!殺せ!!殺せ!!殺せ!!殺せ!!」」
狂気はすでに坂道を転がり始めていた。
短髪の男が再び手を上げると、興奮はそのままに声だけがやむ。
「・・・皆の心はわかった。ならば私は、諸君の、いや国民のため!!女王を穿つ
なろうではないか!!!」
男たちはその言葉に手を叩いて喜んだ。
「ついていくぜー!!!」「生きるも死ぬも一緒だ!!」
やんややんやと将来の夢を語るように殺人の計画を練っていく。
古倉庫から聞こえる歓声に、街の者たちは疑問に思うものもいたがそれまでであった。
その声はもしかしたら城まで届いたのかもしれないが、なんと不運なことか。
起きていた参謀も騎士団長も消音魔法の内側にいてしまった。
その異常性に気づけるものは誰も・・・いや、一人いた。
赤髪の男は、相変わらずにやにやと笑っていた。
(・・・狂化の呪い。初めて見たが、なかなか使えるじゃないか。)
彼のつぶやき声に呼応するように、彼のポケットが膨れ上がり一人の妖精が出てくる。
(えへへ、褒めてくださる?ドゥーチェ!)
妖精はじゃれつくように彼の指に顔をこすりつける。
(勿論さ。)
ドゥーチェと呼ばれた男は、指で撫で返してやる。
一体だれが気付けたというのだろうか。
若者たちを見つめるその顔こそが、狂気に包まれていることを。
書きたかった話が終わりませんでした。自分の筆の遅さに震える。
寒いだけか。