短めです。毎回書きたい部分はあるのですが、実際書いてみるとその半分くらいの内容になっちまいます。
「待て待て~~~。ナターシャ~~~~。」
一人は、ニヤニヤとした笑みが特徴の女の子。
もう一人は、どこか高貴さをたたえた少し背の高い女の子。
背の高い方が追いつこうとした瞬間、逃げていた方が指を弾くと、追いかけていた方は何かに足を取られて転んでしまった。
彼女は頬をぷっくりと膨らませると、腕を振り上げて怒り出す。
「もう!!魔法はズルいわよ!!」
逃げていた方は、いつの間にか木の上に登っていた。
彼女はポーズを決めて、挑発する。
「いいえ!!貴方のほうが背が大きいのだから、このくらいのハンデはあってしかるべきです!!」
彼女たちは笑いあいながら、ワイワイと言い合う。
それは近いはずなのに、どこか遠い日常。
今にも消えそうな幸せのただなか。
背の高い彼女はなぜかそんな気がしていた。
笑っていると、ザッザと背後から誰かが近づいてくる足音が聞こえた。
振り返ると、どこか固い顔の男の子がたっていた。
彼は怒りに染まった顔で震えている。
私は今まで彼の笑った顔しか見たことがなかったのにだ。
「なぜ・・・?なぜです姉上!!貴方は、どうして!!憎いとは思わないのですか!!!」
彼は木の上の姉に向けて指をさして言う。
姉と呼ばれた女の子も、スッとさっきまでの笑顔が消える。
「・・・地下室に入ったな、ドゥーチェ。」
「・・・えぇ!!そうです!!あなたが知らないはずがない!!父も母も!!死んだいったのは全て!!!」
ナターシャは、木の上から飛び降りた。
彼女は涙を流している弟を撫でてやった。
「・・・お前にもいずれわかるときがくる。憎しむことではなく、許すことの大切さがな。」
私はその時幼すぎて、彼らが何を言っているのか全く分からなかった。
そしてきっと彼女も幼すぎたのだ。
弟の目に赦しなんてないことに気づかなかった。
彼はそれから、いつだって姉のようにニヤニヤ笑うようになった。
城の地下に設けられた石造りの一室では、参謀が紙とペンが置かれたテーブルの席に座っていた。
その傍らには妖精長の姿も見える。
壁にはメラメラと松明が燃えて、薄暗いその部屋を照らしていた。
「・・・こ、ここから出してください!」
そう叫ぶのは、騎士団長に連れられて来た、鋼鉄の鳥かごに入れられた妖精だ。
彼女は先日、女王暗殺未遂のメンバーの一人である。
魔法力に優れた妖精族と言えど、腕力では到底その檻から抜けることはできない。
騎士団長は、鳥かごをテーブルに置くと壁に腕を組んでもたれかかった。
「駄目だ。」
参謀は冷淡に返す。
ここは急遽城に設けられた尋問室である。
一時的に罪人を入れておく牢ぐらいはいくつかあったが、城外に収容するようになってからは長らく使われていなかった。
メンバーの中でも正気を保っていた・・・術にかかっていなかったという意味ではあるが、彼女とドゥーチェは一時的に城の中に収容されている。
下手に城外で収監させて、逃げ出させようものなら一大事である。
危険ではあるが、城で監視することになった。
・・・そして、今は尋問中ということだ。
参謀はペンを持ち、真顔で妖精に詰め寄る。
「それでは尋問を始める。」
「わ、私は何もしゃべりません!!ドゥーチェ様のご迷惑になりはしません!!」
ふーん、と参謀は息を漏らす。
その真顔からは、いつもの不気味さとはまた違うものが感じ取れた。
傍らに控えた妖精長はいつものようにビシッと指をさしてから話し始める。
「あんたねえ!!自分が何やったかわかってんの!?女王を殺そうとするなんて!!妖精族の!!
ひいては私の名誉がダダ下がりよ!!」
「あ、あなたや同族の名誉なんて知りません!!私にとって大切なのはドゥーチェ様だけです!!!」
「んなにお~~~~~!!!?」
そんな風に二人の妖精はキーキー喚いている。
参謀は手でそれを制すると、口を開いてしゃべり始めた。
「・・・女王を殺そうとした目的はなんだ?」
「・・・・・」
鳥かごの中の妖精はプイっと向こうを向いたまま、喋ろうとしない。
参謀はそんな様子に思わずため息をついた。
その辺の妖精ならさっさと吐いて解放されようとするはずだがな。
参謀は上を向きながら、ポロっと言葉をこぼすように言ってみた。
「・・・なぜそんなにドゥーチェに執着する?」
「・・・彼が大事な!!大切な人だからです!!愛しているからです!!!」
彼女はその悲鳴のような言葉を終えるとポロポロと突然涙を流し始めた。
その姿を見て、参謀も騎士団長も面食らう。
妖精長に至っては、若干引いた顔を見せている。
「うう、もう、辛いですぅ。もうドゥーチェ様に合わせて欲しいですぅ。」
彼女は目をこすりながら泣いている。
参謀は少し手を口元に当てて思考を纏めると、その口を開いた。
「・・・ドゥーチェに合わせてやろうか?」
「あ、合わせてください!!」
妖精はそう言うと柵に縋りつく。
参謀はこれ幸いと、ならば・・・と質問しようとするが、しかし妖精にさえぎられてしまった。
「・・・あ、でも!私は何もしゃべりません!!我がままでドゥーチェ様のご迷惑にはなりません!!」
(・・・ふむ。駄目か、ならば。)
参謀はそれを聞いても、あまり焦ってはいなかった。
策は二重三重に張っておくものだからだ。
参謀は、手を前に組みまるで恋する乙女のような(と、参謀が思う)ニヤニヤ笑顔になって話し始める。
「・・・そんなこと聞きはしないさ。君とドゥーチェの関係を知りたくてね。」
「・・・聞きたいのですか?」
「私はドゥーチェの姉だ。」
「・・・ほうほうほう。」
妖精は、少し考えるように指を弄ぶ。
しかし、その答えは決まっているようなものであった。
「勿論です!お姉さま!私、ドゥーチェ様と愛し合っているのであります。」
それを聞いた妖精長は、首をかしげる。
赤毛の男が寂しがっている様子は、今まで見たことがなかったからだ。
「・・・今は主従の関係ですが、ドゥーチェ様が王になった暁には私たちは結ばれ、この身に
次代を創る大切な王子を宿すのです!!!」
「え?妖精と人の間に子供なんフグッ!!」
余計なことを言いかけてしまった妖精長の口は、空気を読んだ団長の手で抑えられた。
フガフガと空気の漏れる音を気にも留めず、女は続ける。
「・・・その子供は決してあなたのように家族を傷つけるものにはしません!!お姉さま!いえ、ナターシャ!!」
参謀はそのセリフに若干の呆れをにじませた。
「・・・ドゥーチェも私を殺そうとしていたがね?」
先の戦闘での弟の殺意は記憶に新しい。
身内での殺し合いなどしたくてしたわけではないのだ。
しかし、妖精はキーキー言いながらそれに怒る。
「ドゥーチェ様は家族を殺そうとなどしません!!なぜなら彼は貴方に向かって直接に魔法を使わせませんでした!!」
「・・・・・・なんだと?」
参謀は怪訝そうに顔を歪める。
「貴方を殺そうとするならば、もっと殺意のある魔法を使わせるのは当たり前です!!彼の狙いは
始めから一つだったのですから!!」
「・・・・・・・・。」
一理ある。
そんな風に参謀は思ってしまった。
「・・・彼の計画は貴方が来た時点で破綻していました。目を覚まさなければならないのは、貴方なのですよ・・・。どうして貴方は、この国に、女王に忠誠を誓えるのですか・・・?」
妖精長も、団長も何を話しているのかわからなかった。
説明を求めるように参謀を見ると、彼女は憮然とした顔でこう言った。
「・・・・くだらん。」
彼女の顔は決してくだらない話をするような顔ではなかった。
コツーン。コツーン。
石の階段を踏み鳴らす音が聞こえる。
地下室に向かう階段を、ガウンを羽織った女王が降りて行っていた。
寒くすらある地下室を、額に小粒の汗をかきながら進んでいく。
とても正気ではない。私がこれからしようとしていることは。
しかし、そうせずにはいられない。
なぜなら思い出してしまった。
女王として、いや一人の人間として知っておかねばならない気がした。
私はガラガラの地下牢を進んでいく。
この国屈指の実力者たちが今尋問のため、地下室に集まっている。
参謀が機密保持のためなのか、人を払ったこともあり、私は難なくそこにたどり着けた。
つまり見張りは今、いない。
格好のチャンスであるというわけだ。
私は唯一、厳重な施錠が施された牢の前に立つ。
私が口を開こうとすると、その前に目隠しされているはずの男がしゃべり始めた。
「どうしました?女王陛下。私も殺しに来たのですか?」
私は正直、その声を聴いたとき背筋が凍るようだった。
取り繕うように言葉をつなげる。
「・・・ネズミらしく鼻が利くようだな?」
「当然です。ずっと殺したいと願っていた人間の匂いくらい覚えている。・・・匂いだけじゃない、足音、気配、それら全てが私の神経を逆なでするのだ!!」
それだけ言うと、その男は言葉とは裏腹に心底愉快そうに笑った。
私の精一杯の虚勢はその声だけで委縮しそうになっていた。
「・・・とは言えこんな状況では、まな板の上の鯉、魔法の使えない妖精もいいところ。・・・そんなに震えてどうしました?まさしく檻の中の獣を恐れるなどと。」
私は腕の震えを握りしめて無理矢理抑える。
落ち着け。落ち着け。
こいつはきっと何もできない。
たっぷり一呼吸おいてから、私は何とか言葉を紡ぎだした。
「・・・思い出したのだ。」
「・・・ほう?」
ドゥーチェは遅すぎる、と続けた。
ガシャンガシャンと彼の鼓動のように、檻が騒ぎ始める。
「ならばせいぜい噛みしめるがいい!!!その血にまみれた玉座をな!!!」
彼の高笑いは地下室に響き続ける。話はそれまでだというように、彼の声はいつまでも続く。
女王は悔しそうに唇を噛みしめて歩き始めた。
そうでなければいいと思っていた。
しかし、ならばなぜあの男の笑いは止まらない。
あの男の笑いは、憎悪の笑いだ。残酷な真実に気付いた私を嘲っているのだ。
私の震えは、いまや死への恐怖などではなくなっていた。
いまやこの体に流れる血が恐ろしい。
手で抑えても、この震えは止まってくれなかった。
今回のタイトルは地と血のダブルミーニングだったりします。
まあだからどうだっていうわけではありませんが。