ISーそれでも僕は諦めないー IS×テラフォーマーズ 作:おひつじ
ある研究者の手記より
今朝、私のところに部下からの連絡が入った。穏やかな休日の朝をコーヒーとクラシックと共に過ごそうと考えていた私はその時をわきまえない連絡に少なからずの苛立ちを覚えた。しかし、そんなものはすぐにどうにでも良くなった。この間発見された免疫寛容臓を持つ子供、その両親が事故死したというのだ。それが本当にただの偶然なのか、はたまた仕組まれた出来事なのかは私にはわからないがそんなことはどうでもいい。あぁ、私はなんて幸運なのだろう。今なら存在を否定し続けてきた神にさえ感謝の言葉を述べてもいい。子供が発見された時に私は彼の身辺を事細に調べた。その時、彼には両親以外に親族がいないということがわかっている。唯一彼の叔母にあたる母親の妹だけはーーいや、そんなことは無い。とにかくこの瞬間、彼には繋がりのある人間がいなくなったということだ。これは私にとって人生最大のチャンスだろう。私の研究を進めるためには彼の
「全員揃ってますねー。それじゃあSHRをはじめますよー」
黒板の前でにっこりと微笑む副担任を務めることになる女教師で、名を
「それでは皆さん、一年間よろしくお願いしますね」
「……はい」
その挨拶に返事をしたのはこのクラス二人目の男子で、まわりからの視線をよりいっそう集めることになったのだが、本人は何処吹く風とばかりに真耶を見つめている。ただ、その瞳に宿っているものは決して情欲などではなくーーいや、むしろ何も宿っていないと言ったほうが良いのだろう。その視線の冷たさは思わず真耶も息を詰まらせるほどである。
第一話 「はじまり」
さて、なぜ今このほぼ女子校にて異質な男子生徒が存在するのかというと、当然ながら訳がある。『IS学園』、それが今彼らが在籍することになっている高校の名前だ。この学園は今世紀最大にして最狂の科学者、篠ノ之博士によって作られた世界最強の兵器(今はいろいろな事情で競技用として落ち着いている)で、なぜか「女性にしか運用できない」という一種のパワードスーツ、インフィニティストラトス通称ISの操縦を学ぶための唯一の学校だ。ではなぜ男である二人がそんなものを学ぶ学校にいるのか?答えは簡単で彼らそのISを動かせてしまったからである。
ことの発端は数ヶ月前に戻る。ちょうど日本では高校受験のシーズンのことだ。世界にあるニュースが駆け巡った。それは日本で世界初の男性IS適正者が見つかったというものだ。 彼の名を「織斑一夏」という。世界最強のIS操縦者である織斑千冬の弟である。 彼の発見により男性にはIS適正が存在しないという常識が打ち破られることになった。そして、世界中の男性に向けてIS適性検査が執り行わることになった矢先に日本政府が公表した二人目の男性IS適性者こそが今、椅子に正しく腰掛けただ真っ直ぐに前を見つめている少年「
そのニュースが世界に与えた衝撃は余りにも大きく、それからというもの彼らに関する重要な取り決めが幾つもなされたのだがそれはこの場では割愛しておいおい語っていくとしよう。読者もそれを望むであろう。ふと意識を教室に戻してみると、ちょうど一夏の挨拶の番のようだ。
「えー……えっと、織斑一夏です。よろしくお願いします」
それにしてもこの織斑一夏という男は俗に言うイケメンというものである。背は高校1年生としては十分に高く、体つきは……何かスポーツをしていたのだろう……細身でありながら随分とがっしりとしている。顔立ちは優しさと男らしさという言葉のちょうど中間を表しており女受けする顔である。ただ、だからと言って京介には男色の気などは無く、そのイケメンが周りの女子による「もっとなんか話せよ」という無言の圧力により困惑した表情を浮かべていようとも彼には特に思うことはない。あるとしたら同性としての同情だけである。
織斑は覚悟を決めたようで息をのんでーー
「……以上ですっ」
周りの京介以外の生徒がみなずっこけた。その様子は半世紀ほど前のギャグ漫画のようでさぞ滑稽なことであったろう。当の織斑は「えっ?……ダメでした?」などとあたふたとしながら周りを見渡している。いや、ダメだろう。まえを見れば真耶など半泣きになっている。ちょうどその時教室の扉がガラッとあいたと思うと長身でどこか冷たいような空気をまとった女性が現れ、その手に持った出席簿を織斑に向けて縦に振るった。 バァンッ!というシャレにならないような音が辺りに響く。 頭を押さえながらほぼ反射的に振り向いた織斑がその女性を見て一言。
「げぇっ、関羽⁉︎」
「誰が三国志の英雄か。馬鹿者」
バァンッ!とまた叩かれた。その余りにも大きな衝撃に一夏はその場にうずくまる。それに対して彼女はふんと鼻を鳴らし、真耶へと話しかけた。トーンの低めのその声はどこか鋭い雰囲気の女性には随分としっくりきた。
「あ、織斑先生。もう会議は終わられたのですか?」
「ああ、山田君。クラスへの挨拶を押し付けてすまなかったな」
「い、いえっ。副担任ですからこれくらいはしないと……」
真耶は今だ困惑している一夏を尻目にさっきの涙声はどこにいったことやら、若干熱っぽいぐらいの視線と声で担任の先生と話す。真耶が落ち着いたところで、彼女は生徒に向けて話を切り出す。
「諸君、私がこの1年1組の担任となる織斑千冬だ。君たち新人を1年で使い物になる操縦者として育てるのが仕事だ。私の言うことはよく聞き、よく理解しろ。出来ないものは出来るまで指導してやる。逆らってもいいが、私の言うことは聞け。Yesかハイで返事をしろ。いいな?」
女性ーー織斑千冬の発した高圧的な発言に対しての周囲の反応は困惑ではなく黄色い歓声であった。
「キャーーーーー!千冬様、本物の千冬様よ!」
「ずっとファンでした!」
「私、お姉様のためなら死ねます!」
「……毎年、よくもこれだけの馬鹿者が集まるものだ。感心させられる。それとも何か?私のクラスにだけ集中させているのか?」
キャイキャイと騒ぐ女生徒たちを見る目は様々で千冬は本当に鬱陶しそうに、一夏は困惑した表情で、そして京介は相変わらず何も見ていないかのように彼女らを見つめている。
「きゃああああああっ!お姉様!もっと叱って!罵って!」
「でも時には優しくして!」
「そしてつけあがらないように躾をして〜!」
なんとなく青少年には聞かせられないようなセリフを恍惚とした表情で叫ぶ彼女らはとうとう手遅れなのかもしれない。彼女達を黙らせることを諦めた千冬は話の矛先を一夏へと変える。
「で、満足に挨拶もできんのか、お前は」
「いや、千冬姉、俺はーー」
バァンッ!本日三度目にして先ほどよりも強烈な、一般人なら脳震盪を起こし得ない一撃を受けた一夏を見つめている京介にはなぜ彼が無事なのかが理解出来なかった。しかしそれにつっこむというのは野暮というものだろう。
「織斑先生と呼べ」
「……はい織斑先生」
千冬は一夏に一言くれた後、彼の返事を待ってから話を切り出す。
「さて、SHRもそろそろ終わりだ。本田、挨拶はお前で切り上げろ。他は各自で行え」
「……わかりました」
京介はただ平坦に返事をし、ゆっくりと立ち上がる。皆の視線が京介に集まったところで彼は一呼吸おいて話し始めた。
「……本田京介です。趣味は読書で好きな食べ物は米。男なのになぜかIS適性が存在するのでこの学校に入学することになりました。後、一応日本の代表候補生です。これから一年よろしくお願いします」
そんな京介の挨拶を聞いた周りの少女たちはまた期待の視線を向けようとするが、それは千冬の無言の圧力により断念される。そして問題ないと判断した千冬は京介を座らせ一限目の授業へと移るのであった。
ーー参った。マズイ。ダメだ。ギブだ。
織斑一夏はすっかり参っていた。一時間のIS基礎理論授業が終わり、千冬が教室から出て行くと同時に廊下に噂の男子生徒を目にしようと他学年のせいとまでが集まりその視線を一夏へと向けている。ついこの間までは普通の男子中学生だった一夏は当然多くの視線に晒された経験などなく、それは余りにも刺激が強すぎた。本当ならばもう一人の男子生徒にすぐにでも話しかけるつもりだった一夏だが、周りの無言の重圧により席を立つことすらままならなく、机に向かって突っ伏している。
ーー誰かこの状況を助けてくれ……
「なぁ、いいか?」
「え?」
そんな時ふと声をかけられた一夏が振り向くとそこには一夏を見つめている男子生徒がいた。このクラスにはいる男子生徒はというと自分ともう一人しかいない訳で……。そこまで考えると一夏は男子生徒の手を取り勢いよく立ち上がった。
「ああ!本田京介だよな⁉︎なんだ⁉︎なんかようか⁉︎」
「いや、ようっていうか……とりあえず落ち着いたらどうだ?」
思わぬところからの救援により冷静さを失っていた一夏は京介の言葉により正気をを取り戻し、周りから聞こえてくるキャーだの受けだの攻めだのと言った不穏な言葉からあわててつかんでいた手を離した。
「すまん、つい感極まっちまって……」
「いや、まぁ気持ちはわかるぞ。やっぱいろいろときついし参っちまうよな。え〜、あ〜織斑?」
「一夏でいいぞ。俺も京介って呼ぶから。同じ男どうし仲良くしようぜ」
「ん、そうだな。何せ二人しかいない男だこちらこそよろしく頼むよ」
「……ちょっといいか?」
二人が挨拶を終えたところで間合いを見て一人の女生徒が話しかけてきた。
「……箒?」
「ん?知り合いか?」
幼なじみなんだ、と一夏が答えると何か言いたげに見つめてきている女生徒から京介は状況を察した。
「あぁ〜、一夏。俺のことは気にすんな。この子のとこ行ってやれ」
「え?なんでだよ。箒も後ででいいだろ?」
「馬鹿野郎。女の子がわざわざ恥を忍んで話しかけてきたんだ。それに知り合いなんだろ?行ってやれよ」
わかったよ、と一夏は女生徒を連れて教室から出て行った。彼女は京介とすれ違う時にすまないと一言だけ呟き、それに対して京介はごゆっくりと返した。その時彼女の頬が微かに朱く染まったことからおそらくまぁ、そういうことなのだろう。あの態度からして一夏は彼女の好意に気づいてはいないのだろう。では二人の関係は恋人ではなく片思いか、などといった考えを教室に残された京介は考えていた。
「ちょっとよろしくって?」
京介が残りの10分足らずの休み時間をどう過ごそうかと席についたとき、隣から声をかけられた。ふと京介がそちらに目をやるとそこには、一人の女生徒が立っていた。
「訊いていますの?お返事は?」
「あ、あぁ。え〜っと君は……」
京介は女生徒のことをよく観察する。髪は金で顔つきは西洋人のそれだ。背は高く耳に蒼いイヤリングをつけている。京介には彼女の心当たりがあった。
「セシリアオルコットさん?イギリス代表候補生の」
「ふ〜ん。流石に私のことはご存知ですのね。まぁ普及点といったところでしょうか」
「……」
京介はセシリアに関する情報を思い出そうとする。京介は入学前に御手洗から学園の人間に関する情報をあらかじめもらっており、当然ながらセシリアに関することにも目を通していた。
ーーセシリアオルコット、確かイギリスの第三世代型ISのティアーズ型の搭乗者だったはずだ。IS適性はAで特にイギリスの第三世代兵装であるBTへの適性はイギリス一の数値を出したとか。
「それで貴方、日本の代表候補生なのですよね?」
「……そうだけど、それがどうかしたか?」
「いえ、ただこんな男を国家の代表候補にするなんてと日本のことが心配になっただけです。ええ、もともとISによって成り上がっただけの極東の島国ですし、ただ物珍しいだけの男を祭り上げるなんていう愚行を行ってもなんら可笑しくはないですものね?」
京介は今日一番頭が痛くなる思いがした。あからさまな挑発をしてくるこの女は自分の立場を本当に理解しているのだろうか?国家代表候補生というのは文字通り国の顔だ。そんな立場であるのに仮にも自分がISを学びに来ている国でその国の代表候補生を貶すなど喧嘩を売っているのにも等しい。それもその代表候補生が世界で唯二の男性IS適性者なのだ。これで日本とイギリスとの外交が悪くなったら彼女は一体どう責任をとるつもりなのだろうか。
そんなことを知ってか知らずか、セシリアは口を止めない。
「まぁ私は寛大な心を持っていますから、たとえそれが極東の猿であったとしてもーーどうそても、そうどうしてもと泣いて頼まれれば貴方のような人にも優しく接してあげますわよ?」
「……そりゃどうも」
京介は一瞬これがイギリスの戦略なのかとも考えたがそんな考えをしている自分が馬鹿らしくなりやめた。彼女は一体何と闘っているのだろう?京介は目の前で騒ぐ少女に対して苛立ちや怒りを通り越して哀れみさえ抱いた。
彼女がやっと喋り終えたところで休み時間終了のチャイムが鳴り、セシリアも自分の席に戻っていった。そして話を終えたであろう一夏達も教室に戻ってきたところで二限目担当の教師が入ってきた。
ずいぶんと長い15分間だったと京介は思う。このクラスは篠ノ之博士の妹に織斑一夏、そしてあのセシリアオルコットといい随分とまぁ個性派ぞろいのようだ。教師が挨拶を終え教科書のページを指定したところで京介は意識を教室へと戻しペンを取るのであった。
はやく人為変態を出したい……
感想お待ちしております。