前回オフサイドトラップを主役にしたので、今回はなるべく明るい終わり方を出来る馬を取り上げたいなと。というよりも、「死」を封印して話を作る、というのが今回のテーマでした。そこで思いついたのがフラワーパークでした。
ウマ娘において、父と子というのはシンパシーを感じる、という様な設定があります。今回はちょっとそれを発展させ、トレセン学園入学以前に何か教えているかも、という想像を働かせる事にしました。ウマ娘に引退はあるのか、あるとして引退後どうするのか、その辺を埋めようとした結果です。
今回は過去一番取っ散らかってしまいました。読み辛いでしょうが、よろしければ読んでいって下さい。
盛り上がるレース、と言えば何だろう。かつては八大競争という言い方があった。世界と戦う、という名のもと作られたジャパンカップは、日本対世界の図式で大いに盛り上がっている。他にも春のグランプリである宝塚記念、牝馬三冠最終戦のエリザベス女王杯も、大いにファンが沸くレースだと言える。
そう、ファンが集うのは、中距離以上のレース。格の面でも、人気の面でも、中長距離の芝レースこそが、日本のレースにおける花形。それを端的に表す言葉がある。「王道路線」。その道を行けない者たちは、日陰者。少なくとも、彼女はそう感じていた。自分達は、王道から外れた者達だと。正道についていけなかった、落伍者だと。そう言われている様な気がしていた。彼女の競争生活は、それを覆す為にあったと言っても良い。彼女は走った。やがて、人々は彼女の走りに熱狂する様になった。
それまで長距離に重きを置いていたトゥインクルシリーズは、この頃に距離体系の整備やグレード制の導入を開始、安田記念のG1格付けやマイルチャンピオンシップの創設が行われる。彼女は、その流れのど真ん中にいた。後に「マイルの皇帝」と呼ばれるに至る、その革命者の名前は、ニホンピロウイナー。
彼女が引退して、約十年。今や、短距離路線は立派な選択肢として存在していた。最初から短距離路線を志向するウマ娘も増えた。多くのスプリンターが生まれ、その激しいレースに多くのファンが熱狂する。そんな時代の礎をを築き上げたのは、紛れもなく彼女だった。そんな彼女を慕う者達が、その教えを乞う。何人ものウマ娘が、彼女の元で強くなった。その中でも、特に優れた者が二人。一人は既に引退しているが、安田記念連覇を成し遂げているヤマニンゼファー。そして、もう一人が今後の活躍に高い期待がかけられている快速のウマ娘、フラワーパークだった。
その日、フラワーパークは珍しく緊張していた。デビュー戦こそ一〇着と惨敗したが、その後三連勝。その次のレースは三着で連勝記録こそ止まったが、その後もう一度勝利、二着、そして初めて挑んだ重賞レースで勝利。調子は最高だった。このまま、短距離界の頂点を目指す。彼女がデビューする前年に、短距離で絶対王者であったサクラバクシンオーが引退していた。彼女の後継者となり、スプリントの王者となる。それが、今の彼女の夢だった。そのチャンスが、やってきた。
「次走だが、予定通りでいいか?」
そうトレーナーに聞かれ、彼女は迷う事無く言う。
「もちろんです!」
「よし。高松宮杯、エントリーしておくぞ。これを勝てば、お前は春の短距離女王って事になる。頑張ろうぜ」
「はい!」
この年、彼女達にとって非常に大きなニュースがあった。それまで芝二〇〇〇メートルのG2戦であった高松宮杯が、芝一二〇〇メートルのG1レースへと変更されたのだ。それまでの高松宮杯は、かつてハイセイコーやトウショウボーイ、オグリキャップといったスーパースター達が出走する事もある人気中距離レースだった。それが、芝一二〇〇メートルのG1へ、時期も五月へと変更になり大きく様相を変える事となった。開催場所自体は中京レース場のままであった為、同レース場で行われる唯一のG1レースという事になる(後にチャンピオンズカップが加わる)。一二〇〇メートルの距離は秋のスプリンターズステークスと並んでG1としては日本最短であり、フラワーパークの様な短距離路線のウマ娘にとっては新たに生まれた夢舞台であった。
トレーナーとの打ち合わせを済ませた後、彼女は一人の女性に電話を掛ける。誰よりも尊敬する人に、報告をする為だ。
「もしもし、フラワーです! 私の次走、決まりました!」
《お、そうか。まぁ、聞かなくても分かるけどね。シルクロード勝ったんなら、もう決まりだろ》
「はい。高松宮杯、絶対勝ちますから!」
《そう入れ込むなよ。今からそんなに肩に力入れてたら持たないぞ》
そう言って、彼女は笑った。
《ま、頑張りなよ。私、見に行くからね》
「本当ですか!? ありがとうございます!」
《そりゃ、流石にあんたの初G1挑戦だ。見に行かなかったら悪いだろ。楽しみにしてるからね、まずは、ケガなんかしないようにね》
「はい、失礼します、ウイナーさん!」
そう言って、フラワーパークは電話を切った。ウマ娘の進路は幾つがあるが、最も花形と言われるのが中央の『トレセン学園』に入り、そこで行われる『トゥインクルシリーズ』で結果を出す事である。そうなればスーパースターの仲間入りとなり、一躍有名人にもなれる。そしてトレセン学園入学を目指す少女達は、幼年期からその時に備えた基礎練習を予め積んでおくことが多い。その際に世話になるのが「ジュニアトレーナー」と言われる者達で、かつてトゥインクルシリーズで活躍したウマ娘達がその任についていた。レース引退後のウマ娘達への就職先の一つとして用意されたもので、フラワーパークもまた一人のジュニアトレーナーの元で基礎を積み、トレセン学園への入学を果たしたのだ。彼女にとっては、親の様なものだった。その彼女が、北海道からわざわざ愛知県で行われるレースを見に来てくれるという。それは、何より嬉しかった。
数日後、彼女はオフであった為に自室でのんびりと過ごしていた。同室の娘は出かけている。友人と遊びに行く約束があると言っていた。昼食後、初夏の日差しの温もりもあってうとうととしている彼女の耳に、不意にノック音が飛び込んできた。
「ふぇ? はーい、どちら様で……」
そう言いながら、部屋のドアを開ける。すると、そこに立っていたのは二人のウマ娘だった。フラワーパークの顔色が変わった。
「は、はぇ……?」
「おはよ。向こうでやる事がなくってね、だいぶ早いけど来ちゃったよ」
そう言ったのは、黒髪のサバサバした雰囲気の女性。フラワーパークが、最も憧れる女性。
「ウイナーさん!?」
「おい、俺は無視かよ」
横からそう言ったのは、濃い茶色の髪をした女性である。
「ぜ、ゼファーさん」
「ん? 今お前一人?」
「え、ええ。同室のファイトガリバーちゃん、遊びに行っていて」
「ちょっと、食堂おいでよ。話聞きたいからさ。流石に勝手に入っちゃマズいだろうしね、その同室の子がいないんじゃ」
そういうと、二ホンピロウイナーはさっさと歩き出す。フラワーパークは慌ててその後に続いた。
「びっくりしました、いきなりお二人が」
「まぁ、びっくりさせようとしたからね。発案はゼファー」
「緊張してる後輩ちゃんを、リラックスさせようって事じゃないすか、姐さん」
そんな事を言い合いながら、三人は食堂に入る。食事時以外の食堂は、いうなれば談話室の代わりになっている。今は数人が、思い思いの雑談に花を咲かせていた。三人も適当な机を見つけ、椅子に腰かける。
「じゃ、まずは前走の事から聞こうかな。どうだった?」
「は、はい。緊張はしました、けど。勝てて良かったです……」
「一番人気のヒシアケボノ……だっけ? なんつうか大きい娘だね……」
ニホンピロウイナーが驚いたように言う。彼女は確かに大きい。昨年のスプリンターズステークスを制した時には、「史上最重量G1ウマ娘」として話題になったほどだ。
「まあでも、ジュニアクラスでシニア混合レース勝ったんだから、大したもんだね。ビコーペガサスとかを抑えたんだろ?」
「はい。同級生ですけど、尊敬します……」
「でも、お前勝ったんだろ、この前はさ。自信持てって」
ゼファーはそう言って、コーラをグイっと飲んだ。
「お前もケガが無けりゃなあ。そしたら、案外取れてたかもしれんぜ、スプリンターズステークス」
「それは、仕方ないです……私が、焦っちゃって」
フラワーパークは、デビューが遅かった。本来デビューする予定だった日の直前に、足を骨折してしまい大幅に出遅れる事になってしまったのだ。
「でも、そこからは大したものよね。デビューこそ負けたけど、とんとん拍子じゃない」
「い、いえ、そんな」
「俺だって、重賞は四回目の挑戦でやっと取れたってのに。お前一発目でいきなりだろ? 大したもんだよ」
ゼファーはそう言って笑う。最も、その彼女が四回目の挑戦にして遂に掴んだ悲願の重賞はG1、安田記念なのだ。ダイタクヘリオス、ダイイチルビーをはじめ多くの有力者が揃ったレースで、十一番人気に過ぎなかった彼女は最後の直線で一気に突き抜けて勝利。一躍マイル路線の有力者となった。
「今度の高松宮杯、ヒシアケボノも出るんだろ? 一度勝ってるんだし、これは自信もっていけるじゃない」
「そうですね、また勝てるように、頑張ります」
「後怖いのは……ビコーペガサスか。惜しいレースは続いてるし、侮れないってところか。この二人が、特に要注意って感じだね」
ウイナーがそう言った時だった。バタバタと、廊下を誰かが走ってくる音がした。
「ん?」
ウイナーが音の方を見る。一人の男が、食堂に駆け込んできた。
「あ、トレーナーさん……?」
フラワーパークが呟く。彼はフラワーパークの姿を認めると、大急ぎで近づいてきた。
「おい、大変だぞ。さっき、えらい事を聞かされた……って、ウイナーにゼファー!? 何で君らがここに」
「可愛い後輩の激励ですよ。……ところで、どうしたんです」
ウイナーが訊き返す。彼は椅子に座ると、ふうと息を吐いて言った。
「さっき、出走面子に追加があって、な。大体は予想通りか、まぁ理解できるって面子なんだが。一人、とんでもねえのが」
「とんでもない……?」
フラワーパークが不思議そうな顔で訊く。これ程にトレーナーが言うという事は、余程の大物だ。しかしサクラバクシンオーが引退して以来、ヒシアケボノやビコーペガサス達以外でそれ程の大物というのはあまり思い浮かばない。
「誰です? そんなとんでもない、なんて」
「……ナリタブライアンだ」
そう言われて、三人の口が一斉に開いた。
「は?」
「おい、何だって?」
「う、嘘でしょ、トレーナーさん」
「俺も、最初はそう思った。でも事実だ。ナリタブライアンが、出走してくる。高松宮杯に」
全員が、茫然としていた。確かに「とんでもねえ」ではある。しかし、それは凄いとか、強豪とかとは少し、ニュアンスが異なってくる。
「だ、だって、ナリタブライアンさんって、三冠ウマ娘で、王道路線の選手でしょ!?」
フラワーパークはそう言いながら、思わず立ち上がっていた。ウイナーも、ゼファーも信じられないという表情を変えない。
「な、なんで高松宮、一二〇〇に」
「俺も分からん……分からん、が。そのうちに、多分本人の口から理由は出てくると思う。とにかく、彼女が出てくるならこのレース、俄然注目度が違ってくるぞ。今までだって低いとは言わないが、『シャドーロールの怪物』が出てくるとなりゃ」
「ま、待てよ。アイツ、確か前走は天皇賞だったよな」
ゼファーが呟く。トレーナーはこくり、と頷いた。
「そうだ。前走は天皇賞、三二〇〇メートル……」
「なんだよ、そりゃ……」
ゼファーは茫然とした顔で、そう零した。ナリタブライアン。二年前にシンボリルドルフ以来の三冠を達成、その暴力的ともいえる強さから『シャドーロールの怪物』と恐れられた。ここ最近はケガの影響もあり低迷しているが、それでもなおその人気や名声は揺るがない。
「まあ、何にせよ俺達のやる事は変わらないさ、フラワー。初めてのG1、しっかり……」
「……おい、フラワー」
不意に、ウイナーが口を開いた。三人が、彼女の方を見る。彼女の声色は、先程までとはまるで違うものだった。低く、重く、威圧感のある声。
「あんた……負けるんじゃないよ」
「え……?」
「……私の、私怨だけどね。あんたに、負わせる事になるのは申し訳ないけどさ。……頼む。負けるんじゃないよ」
そう言って、彼女は拳を握った。フラワーパークには、その言葉の重みは今一つ分からなかった。しかし、ゼファーとトレーナーの二人は、よく分かっていた様だった。
もう、十年以上前の事になる。彼女はあらゆるものと戦っていた。それまで、トゥインクルシリーズにおいて特に重視されていたレースはクラシックの五レース(秋華賞はまだない)、それに春、秋の天皇賞と有馬記念だった。平たく言えば、中距離以上のレースだった。長く走れるウマ娘こそ、最強のウマ娘。それが、当時の認識だった。その中にあって、彼女は落ちこぼれだった。皐月賞で、二〇着惨敗。競争を中止したウマ娘一人を除けば、最低の着順。遥か先頭を行く少女の後ろで、彼女のゴールの瞬間はカメラに映る事さえなかった。
《真ん中ミスターシービー抜けてきた、外の方からメジロモンスニー、メジロモンスニーかミスターシービーか、ミスターシービー出た、ミスターシービーが出た、ミスターシービー優勝!》
そうアナウンサーが叫んだ頃、彼女はまだゴールの遥か手前を走っていた。余りにも、絶望的な差だった。
その後、彼女は日本ダービーへの出走を諦めた。距離がさらに伸びる日本ダービーで、結果が出せるとは思えなかった。それから、彼女はずっと「裏街道」をひた走った。王道路線を落伍した者と言われようと、彼女は走った。それしか、彼女には無かったのだ。
《ハッピープログレス先頭、内からニホンピロウイナーが伸びてくる! 内からニホンピロウイナーが伸びてくる、シャダイソフィア現在二番手、内からニホンピロ、内からニホンピロウイナー来たハッピー先頭かハッピーか、ハッピーかニホンピロウイナーか、外ハッピープログレス内からニホンピロウイナー伸びた、変わるのか! 変わるのか、変わった、ニホンピロウイナー躱した! ハッピープログレス懸命に二番手を粘る、ダイゼンシルバーが三番手に上がった、ニホンピロウイナー一着! ニホンピロウイナー一着!》
《ニホンピロウイナー先頭か、その外側からマルタカストーム、そしてジムベルグ、更に、更にダスゲニー突っ込んでくる、ニホンピロウイナー先頭か、リキサンパワー頑張った、更にギャロップダイナも出てくる、さあ先頭は、先頭は、先頭はしかしニホンピロウイナーだ、ニホンピロウイナー抜けた! ニホンピロウイナー抜けた、そして、内の方から突っ込んできたのはスズマッハ、スズマッハ一気に突っ込んできたが、やっぱり勝ったのはニホンピロウイナー!》
彼女は、マイル以下の距離を勝ち続けた。時にはそれ以上の距離のレースに出る事もあったが、主戦場はあくまでマイル以下。それまでであれば、決して一流とは呼ばれなかっただろう。事実、彼女のマイルチャンピオンシップでの勝利は決して大きなニュースとなった訳では無かった。翌週に行われるジャパンカップ、ミスターシービーとシンボリルドルフが、これまで歯が立たなかった外国のウマ娘に念願の日本ウマ娘初勝利を齎せるか。多くの者が、そちらに意識を集中させていた。それが、彼女には悔しかった。しかし彼女にできるのは、ただ走る事だけ。故に彼女は走った。二〇〇〇メートルの大阪杯では敗れたが、京王杯と安田記念を連勝。その頃になると、彼女はこう言われるようになった。『良バ場のマイル以下なら、シンボリルドルフにも負けない』。風は、変わりつつあった。彼女は二〇〇〇メートル、秋の天皇賞に出走する。そこには、シンボリルドルフの姿もあった。そのレースで、彼女は猛烈な走りを見せるも三着に敗れる。そして次走のマイルチャンピオンシップを勝ち切ると、それを最後に引退した。
彼女は間違いなく革命者だった。彼女の活躍は、大袈裟に言えばトゥインクルシリーズの様相そのものを変えた。その根底にあったのは、強烈な負けん気だった。どれだけ努力しようと、どれだけ結果を出そうと、彼女は決して一番にはなれなかった。彼女は所詮「短距離路線の王者」だった。スターウマ娘と聞いて誰もが思い浮かべる存在には、決してなれない立場だった。同い年に一人。一つ後輩に一人。『三冠』の重さは、どうにもならなかった。
それでも、彼女には一つの希望があった。目を掛けた後輩のヤマニンゼファーが鮮烈な活躍を残し、その名を轟かせてくれた。直接の関わりは無いが、ニッポーテイオーやダイイチルビー、ダイタクヘリオス、ニシノフラワーやサクラバクシンオー、トロットサンダーら多くの有望なマイラー、スプリンターが現れた。確実に、「非王道路線」の価値は上がっている。もう、私が味わった思いはさせたくない。彼女の想いはそれだけだった。そう、思っていた。
「ウイナーさん……」
フラワーパークの声が、ウイナーの意識を引き戻してくれた。
「あ、すまないね……ちょっと、昔の事をね」
そう言うと、彼女は立ち上がる。
「今日は、帰るね。それじゃ……」
「帰る、って、どこか宿でも取ってるのか?」
「適当なビジネスホテルでも見つけます。ゼファーは確か、仲のいい先輩の家に泊めて貰うって……」
「あ……えっと……」
ゼファーが口ごもる。フラワーパークは不思議そうに彼女を見つめた。普段はとにかく歯切れのいい先輩なのだ。この様なもごもごとした言い方は、聞いた事が無かった。
「なんつうか、まあ、そうだけど」
「だから、私一人で……そういえば、その先輩って誰なの?」
「え、えーっと……」
「んー!? あれ、何でピロちゃんがここにいるの!?」
不意に、大声が響いた。四人が振り返る。フラワーパークだけが、良く知らない声だった。他の三人はその声の主をよく知っている。トレーナーにとっては、かつて誰よりも喝采を浴びたスーパースターとして。ゼファーにとっては、友人の恩師として。そして、ウイナーにとっては。誰よりも複雑な気持ちを抱く相手として。
「ミスター……シービー……」
ウイナーが呟いた。黒髪の女性は、にこやかな笑顔を浮かべて四人のそばに近づいてきた。
「あんた、確か北海道でジュニアトレーナーやってるんじゃなかったっけ?」
「そういう、お前もだろ。もうトレセン学園の人間じゃないはずだ」
「ん、まぁね。久しぶりにルナちゃんの顔が見たくなってさ。そろそろ、私ジュニアトレーナークビになりそうだしねぇ……」
そう言った彼女は、ふとゼファーの姿を見止める。お、と言って彼女はずいと身を乗り出した。
「ゼファーちゃんも来てんだ! というか、あーそうかぁ、そういう事かぁ」
「どういう事?」
「いやね、グローバルが家に友達が来るんですよー、って言っててさ。そうかゼファーちゃんの事だったかぁ」
「友達ってのは、ヤマニングローバルの事かい」
「え、まあ、そうっす……まさか、その」
まだごにょごにょとした口調のゼファーを見て、ウイナーは溜息を吐く。ヤマニングローバル、かつてゼファーが世話になった先輩の一人だ。そして、ミスターシービーが育てたウマ娘でもある。普段なら気にもしなかったろう。ゼファーにもグローバルにも、関係のない事だ。しかし、間が悪かった。今は、少しでも「三冠」に関わる様な単語を聞きたくない気分だった。ナリタブライアンの名前で、完全に傷口が開いてしまった気分だった。
「で、なんで二人はここに? こっちの先生に転職?」
「違う。フラワーの応援だよ。今度の高松宮に出るから」
「あ、成程ねぇ。じゃあ、私も応援しよう! 今度の高松宮の面子、私の知り合いいないしねぇ……まだ確定してないけど」
そう言って、彼女は朗らかに笑う。ミスターシービー。ニホンピロウイナーにとって、ライバルであり、目標であった。彼女の存在が、ウイナーを奮い立たせた面は、確実にあった。
その頃。ナリタブライアンは、シンボリルドルフ達の質問を受けていた。
「どういうつもりだ? どう考えても、アンタの走るべきレースじゃないだろ!」
そう言ったのはヒシアマゾンだった。彼女の言は、間違いなく正論ではある。彼女自身が高松宮杯というレースを下に見ている訳では無い。しかし、向き不向きというものがある。三〇〇〇メートルを走る能力と、一二〇〇メートルを走る能力は全く別物なのだ。ナリタブライアンは、二〇〇〇メートルを超える距離のレースにおいては当代随一と言えた。しかし、それ以下のレースにおいてもそうだとは言えない。むしろ、三〇〇〇メートルも一二〇〇メートルも関係なく一流の成績を残すようなウマ娘など、そうそういるものではない。
「あのレースに出たい。そう思う理由があるのだろう。それを聞かせて欲しい」
ルドルフにそう問われ、ブライアンは口を開く。
「私は。シンボリルドルフ、貴方に追いつき、そして超えたかった。その為に、私はあのレースを勝たなくてはならない」
「……どういう、事だ?」
ルドルフの問いに、しかしブライアンは答えなかった。彼女が出たいと言った以上、それを止める権限は他の誰にもない。彼女の実績を上回るものなど、現役選手の中には一人もいない。ナリタブライアンの名が、高松宮杯の出走枠、その一つを埋めた。当然、多くの反響が上がった。ファンも関係者も、一様に困惑し、中には堂々と反対するものもいた。彼女のトレーナーも、最初は間違えているのかと思った、と述べた。距離が変わった事を知らないんじゃないか、と。しかし、そうではなかった。ナリタブライアンは確かに、己の意志で出走を決めたのだ。その彼女を、レースの前日に訪ねてきた者がいた。会いたいという人がいる、と連絡を受けて食堂に降りてきた彼女の前に立ったのは、ミスターシービーだった。
「やっ! ご無沙汰だね、三冠決めた時に挨拶して以来かな?」
「シービー……明日のレースについて、か」
「ん、まあね」
そう言って、シービーは席を勧める。二人は向かい合って座った。
「ま、散々色んな人に聞かれたろうし……今更『どうして出るの?』とは訊かないよ。それだと、多分答えてくれないだろうしね」
「……では、何を?」
「訊き方を変えるって言うのかな。……ねえ、貴方、もう駄目なんじゃないの? 体」
ズバリ、と彼女は言った。ブライアンの顔が、強張った。
「何、を。自分で言うのもなんだが、状態は上がっている」
「そうね、着順だけならね。……でも、貴方にはもうかつての力はない。まぁ、元々が強過ぎたから、それでも第一線で戦えるのだけど」
「……まあ、百歩譲って、私の限界が来ているとして。何を言いたい?」
そうブライアンに問われ、シービーは寂しげに笑って返した。
「貴方は間違いなく、力で人々を魅了できる超一流。誰もが貴方に期待したわ、『皇帝』越えを。そして貴方にとっても、シンボリルドルフを超える事は悲願だった筈」
「……」
「三冠を取った時。貴方の思う、皆が思う『皇帝越え』は、G1八勝だった。そうじゃない?」
「……」
「でも、それはもうできない。貴方はそう気が付いた。もう自分の体は、それをやれるだけの力を残していないと。だから、別の方法でシンボリルドルフを超えようとしている。違うかしら?」
「ッ……!」
ブライアンの顔色が、変わった。
「後全力を出せるレースは、一つか、二つか。最後の力で、その全力であなたの夢を叶えるには、これしかない。ルナちゃんはマイル以下の大レースを勝ってはいないからね。貴方は三二〇〇の春天こそ取ってないけど、三〇〇〇の菊は取っている。その貴方がスプリント、一二〇〇を取れば、ある意味で彼女を超えられる。一二〇〇でも、三〇〇〇でもG1を勝てる。レース体系が整えられた今、そんな事をやろうとするウマ娘なんて一人もいない。私の知る限り、そんな真似をして実現できそうな人は……大昔に一人だけ、ね」
ナリタブライアンは、『シャドーロールの怪物』と呼ばれている。その彼女の遥か前に、ただ『怪物』と呼ばれたウマ娘がいた。八大競争の勝ち星は一つだけ。皐月賞や日本ダービーは、二着に敗れている。だがそれでも、多くの人々が彼女を怪物と呼び、畏怖した。彼女の成績は、あまりにも異様だったのだ。唯一の八大競争勝ち星は芝三二〇〇メートルの天皇賞。レコードを叩き出す事五回、そのレースは「ダート一七〇〇」が二度、そして「ダート二一〇〇」「芝一六〇〇」「芝一二〇〇」。重いハンデを課せられた事もある。ドロドロの重バ場を走った事もある。それでも、どんな条件でも、彼女は走り、そして勝った。
「貴方は『シャドーロールの怪物』として、彼女の様な記録を作るつもりでしょう。そうする事で、貴方はルドルフとは決定的に違う実績を持つ事になる」
「……確かに、私の中にある『本当に強いウマ娘』の理想は……あの人だ」
そう、ブライアンは言った。その眼には、強い光があった。
「本当に強いウマ娘とは、距離など関係なく他を圧倒できる。展開も、レース場のコンディションも、何も問題にせず勝てる。そういう者の事を言う」
G1の勝ち数では、今やルドルフを超える事は叶わないだろう。ならば、自分の万能性を示し、それを以てルドルフ越えを果たす。それが、今の彼女に残された夢だった。
「そう。それは、貴方の自由だと思うわよ。私が確認したいのは、後一つだけ」
「何を……?」
「……貴方、今度の高松宮杯、勝てると思ってる?」
そう問われ、ブライアンは少し押し黙った。やがて、重々しい口調で口を開く。
「簡単ではない、だろう。私は、走った事もない距離で、普段から短距離を走っている者達といきなり当たる。だが……負けるつもりで、走りもしない」
「うん、よろしい」
そう言って、シービーは立ち上がった。話は終わった、とでも言うように。
「楽しみに見させて貰うわよ、ブライアンちゃん」
「……ええ」
そう言い合って、二人は別れた。シービーには、もう一人話すべき相手がいた。
レース当日。フラワーパークは、中京レース場にいた。高松宮杯は、午後三時四十分発走予定である。それまで、彼女達は控室で静かにその時を待つのだ。
そして、同時刻。ニホンピロウイナーは、一人のウマ娘と会っていた。
「私にとって、あんたに勝てなかった事。それが、一番悔しいんだよ」
そう、ウイナーが吐き出す。言っている相手は、ミスターシービー。
「ルナちゃんにギリギリで負けた事じゃないんだ」
「分かって言ってんでしょ、あんた。あれはむしろ、私にとっては誇りだよ。あのシンボリルドルフが、この私に追い詰められた。二〇〇〇メートルっていうアイツの庭で、私は皇帝を追い詰めた」
「確かに。マイルならルドルフにも勝てる、って言われてたけど、実際そうだったって思ってるよ、私はね」
でも、と言ってシービーは笑う。
「私だったら、マイルでも勝てたかもね、貴方に。私、実はマイル距離得意なのよねぇ、何なら一番得意だったかも」
「言ってろ。確かに、あんたには一度も勝てなかったが」
「……でも、それは所詮つまらないたらればね。私には、そんな度胸なかった。私は周りの期待に応えたくて、王道路線を突き進む事を選んだ。体がボロボロになっていくのを承知でね」
「あんたは、こっちに来るべきじゃなかったよ。あんたはスターになれる素材で、実際にスターになった。私みたいに、走れなかった奴とは違う」
そう言って、ウイナーは自嘲する様な笑みを浮かべる。
「しかし、私の前には、いつも立ち塞がってくるね。三冠ってやつがさ」
「同期に私、一個下にルナちゃん。そして、貴方があの時一番期待していたゼファーちゃんの同級生に、トウカイテイオーちゃんがいた」
トウカイテイオー。シンボリルドルフに憧れ、彼女と同じく無敗で二冠を達成、無敗三冠も十分あり得ただろう傑物。残念ながらケガもあり無敗三冠は夢と消えたが、その後復活を繰り返してファンから愛され続けたスーパースター。
「あの秋天、貴方盛り上がってたものねえ。ゼファーとテイオーが当たる、私の仇をあの子なら討ってくれる、って」
「私怨だよ。逆恨み、って言っても良いかもね。私は一度、シンボリルドルフと戦い、そして敗れた……それを、あの娘は知ってくれていた。だから、言ってくれたのよ、きっと仇を取るって。それが、嬉しかった。結局、テイオーの復帰が遅れて、対決は無かったけどね」
ウイナーはそう言い、ふうと息を吐いた。
「悔しかったのは、その後よ。あの娘はG1を二つとっていた。年度代表をとれるかも、って言われていたし、私もそう思っていた。そうなりゃ、快挙でしょう? でも、ダメだった。G1一勝のビワハヤヒデに、持っていかれた。あの時は、本当に悔しかった。結局、私達はまだ落伍者のままなのか、って」
ビワハヤヒデ。その年の菊花賞を制し、その後春の天皇賞や宝塚記念を制した優秀なウマ娘だ。そして、ナリタブライアンの姉でもある。
「本音を言えば、貴方が出たいんじゃないの? レースに。自分の庭で、三冠ウマ娘と戦えるなんてそうそう無いわよ」
シービーが、悪戯っぽく言う。ウイナーは、絞り出すように応えた。
「ああ、そうね。でも、私はもう現役じゃない」
「貴方は、ルナちゃんに負けた。私にも勝てなかった。色んな意味で、ね」
「……ええ」
「……貴方、あの子……フラワーパークちゃん、だっけ。あの子に、そういう話はしたの?」
「いいや。あの子は、あまりその辺の事を知らなかったから。ゼファーは知ってくれていたから、思いの丈を話はした」
「うん、よろしい」
そう言って、シービーはふふ、と笑った。
「あんまり、背負わせるもんじゃないわよ。のびのびとやらせてやる事。……って、私が言っても駄目かぁ、トレーナーとしては、ピロちゃんの方が上だしねぇ」
「まあ、背負わせる気はないよ。私の私怨だからね、所詮。外道者の逆恨みさ」
そうウイナーが言った時、レース場の方で歓声が上がった。前走が、終わった様だ。
「さて、いよいよね」
「……ああ」
「私としては、どっちを応援すべきかなぁ。三冠の後輩のブライアンちゃんか、同期の教え子のフラワーちゃんか……」
「好きにしろ」
そう言い合う二人の前を、大勢の人間が通り過ぎていく。いよいよメインレース。G1、高松宮杯。そのレースを争う面々が、一人ずつパドックに現れ、ファンにその姿を披露する。特に今日はG1レース、勝負服での登場である。華やかな衣装に身を包んだ彼女達が一人ずつ現れる度、大きな歓声が沸いた。ウイナーとシービーがパドックの見えるところについたころ、一際大きな歓声が沸いた。
《さあ、そして続きまして登場するのは、四枠五番、ナリタブライアン!!》
「流石に、風格があるわね」
シービーが呟く。白と桃色の勝負服が、鮮やかに映えていた。単純な人気で言えば、彼女の人気は他を圧するだろう。しかし、彼女のファン投票結果は、現在二番人気にとどまっている。
「一番人気ヒシアケボノ、二番人気にブライアンちゃん、か」
「短距離G1制覇が評価されてだろうな。ブライアンは、中距離の実績と単純な人気だろうね」
ヒシアケボノらが現れ、そして七枠十番の番となる。
《七枠十番、フラワーパーク! 現在三番人気です》
「中々人気者じゃん」
「ここ最近トントン拍子だからね。勢いそのまま、勝って欲しい所だけど」
そう言うウイナーの姿を、フラワーパークは見つけた様だった。笑顔を浮かべ、そちらに手を振る。それを見て、シービーが呟いた。
「あ、ヤバ」
その場にいる誰もが、その時はフラワーパークを見ていた。そのフラワーパークが、不意に手を振ったのだ。手を振る先を見るのは自然な事だった。そして、この場にいる者で、二人の顔を知らない者は極々少数だと言っていい。
「お、おい、あれ!」
「うおっ、シービーとウイナー!?」
「……どうしよ?」
「どうするも何も、どうにもならんでしょ」
たちまち、二人の周りに人が集まってきた。ウイナーはファンの相手をしつつ、ちらりとパドックの方を見る。フラワーパークが、申し訳なさそうな顔をしていた。その顔が、なんだかおかしく思えた。にっこりと笑って、胸の中で「頑張って」と言った。
ついに、その時が来た。ゲートの中で、フラワーパークは静かに目を閉じる。深呼吸を一つして、落ち着いた。初めてのG1レース。ウイナーさんが見に来てくれている。ゼファーさんが応援してくれる。それだけで、勇気が沸いてくる気がした。
ちらり、と横を見る。ナリタブライアンは、堂々としているように見えた。流石に幾度も修羅場を戦ってきた、古強者だと思う。それでも、この距離の大レースは初めての筈だ。ならば、負けない。負ける訳にはいかない。ファンファーレが鳴り、そして、ゲートが開く。
《さあゲートが開いたァ!》
実況アナウンサーの声は、今のフラワーパークの耳には入らない。好スタートを切れた。その勢いのまま、一気に先頭に立つ。するりと外側を通ったスリーコースに抜かれるが、問題はない。短距離の強豪、ビコーペガサスとヒシアケボノはすぐ後ろにいるだろう。ナリタブライアンは、何処にいるのかすぐには分からない。
「ブライアンちゃん、後方ね」
双眼鏡で見ながら、シービーが言う。その横にいる茶髪のウマ娘が、ビジョンを見ながら呟いた。
「ブライアン以外の人気どころは、皆前の方ね」
「スプリントレースは、一つのミスが命取り。今の所大きなミスはない、と思うが」
ゼファーがそう言うと、その茶髪の少女がうんうん、と頷く。
「私も一応、短距離勝ってるからね、分かる分かる」
「ジュニアのG2っすよね」
「良いじゃんかー、勝ちは勝ちだよ、ゼファーちゃん」
そんな事を言っている間に、既にレースは半分を過ぎた。一二〇〇メートルは余りにも短い。一分少々で決着はつく。
「どう、専門家?」
シービーがそう問う。ウイナーは目を細めて、そして呟いた。
「行けるよ。フラワー」
その時、先頭が最後の直線に突っ込んできた。先頭はフラワーパークに変わっている。二番手にヒシアケボノ、スリーコース、さらにビコーペガサスらが続く。ナリタブライアンは、まだ後方だ。
「先頭で、逃げ切れるかな」
「逃げ切れるさ。あの子はね、中々根性あるんだよ」
フラワーパークは先頭を逃げる。ヒシアケボノとビコーペガサスがフラワーパークを捕まえようと追い込んできた。あと少し、あと少しで、勝てる。
「くっ……! 負けるかーッ!!」
あと少しで、初代女王の座が手に入る。ウイナーさんに、恩返しができる。自分の時代を、引き寄せられる。
その後ろで、ナリタブライアンはもがいていた。周りが早過ぎる。信じられない速度だと思った。彼女の体には、長距離の走りが染みついていた。頭では分かっていても、体が勝手に必要以上に体力をセーブしようとしてしまっていた。
「ぐ……早い……!」
それでも、本気の全力疾走の速さ自体では、負けていなかった。残り二百メートルをきろうとする頃、四番手にまで上がってくる。この時の速度だけなら、ヒシアケボノやビコーペガサスにも負けない速度は出ているだろう、と思った。現に何人ものウマ娘を追い抜き、ここまでは上がって来れたのだ。しかし、それでは駄目だ。それでは、捉えられない。舐めていた訳では無かった。しかし、思い知らされた。自分は、ここでは怪物足りえない。完敗だと思った。
《ビコーペガサス突っ込んだ、先頭はフラワーパーク、フラワーパーク! やっと来たナリタブライアン、今四番手に上がって直線差してくるがダメ! フラワーパーク、フラワーパーク!》
「よっしゃぁっ!!」
ゼファーが、叫んだ。ヤマニングローバルが、手を叩いた。シービーが、口笛を吹いた。そして、ウイナーは静かに、手をグッと握りしめた。二着にビコーペガサス、三着にヒシアケボノ、四着ナリタブライアン。結果的に、三冠ウマ娘ナリタブライアンはスプリントの精鋭達に屈する形となった。
「……見事、だった。フラワーパーク」
ナリタブライアンにそう話しかけられて、フラワーパークは思わず飛び上がった。勝ったとはいえ、相手は自分より遥かに実績を積んだウマ娘だ。
「あ、ああ、ありがとうございます!」
「完敗だ。舐めていた訳では無いが……凄いな、お前達は」
「……私達の、庭、ですから」
フラワーパークはそう言って、にこりと笑う。
「私が、三〇〇〇メートルで戦えば、多分相手にもなりません。そこは、貴方の庭ですから。でも、ここは私達の場所なんです。だから、貴方にだって、負けないつもりで走りましたから」
「……そうだな。ありがとう、素晴らしいレースだった」
そう言って、ナリタブライアンはレース場から出ていく。四着の彼女は、ウイニングライブにも参加する事なく去っていく。そして、これが彼女の最後のレースになってしまった。だがそれは、この時点では誰も予想だにしない事だった。
フラワーパークは、これが初のG1制覇となる。レースを終え、報道陣に囲まれる彼女は満面の笑みを浮かべていた。
「フラワーパークさん、今、誰に感謝を伝えたいですか」
そう問われ、彼女はすぐに応える。
「両親と、ケガをした私を支えてくれたトレーナーさん達と。そして私に戦い方を教えてくれた、ニホンピロウイナーさんや、ヤマニンゼファーさんに」
96年の高松宮杯、やはり一番の注目はナリタブライアンの出走だったと思います。ケガ以降G1を勝てていない三冠馬が、何故か全く畑違いの短距離G1に出走というのは、注目されて当然だったでしょう。そしてそのレースを勝ったのは、ミスターシービーと同じ年に生まれ、ルドルフに食い下がり、そしてマイル以下のレースの価値を大いに高める事に貢献したニホンピロウイナーの娘、というのは実にロマンを感じます。
最初はフラワーパークと二ホンピロウイナーだけのつもりだったのですが、テイオーと同い年でビワハヤヒデに年度代表馬争いで敗れたヤマニンゼファーがいたなと思い、さらに「ヤマニン」と言えばシービーの息子であり、三冠馬になっていたかもしれないと言われるヤマニングローバルがいたな……と後から後から出したい馬達、もといウマ娘達が増えてしまいました。
次やるとしたらどうでしょうね。個人的にはメイセイオペラなどドラマチックだと思いますが、ただ彼(もとい彼女)だとプロジェクトXの影響を受けてしまいそうですし。ダイタクヤマトも面白いと思うのですが、出さなきゃならないヘリオスの性格がまだ掴み切れないですしね。