『ウマ娘』の良い所は、全く違う世代の馬達が同じ時間軸で競い合える事にあると思います(その割にこのシリーズでは現実の時間軸準拠でやってますが)。マルゼンスキーとゴールドシップが同じ舞台に立てる、というのは凄い事だと思います。
そこで、今回は「既にウマ娘になっている子」と「まだなっていない子で、なって欲しいなと思っている子」の組み合わせを五組、『夢のVS』としてプロレスの煽りVの感覚で作ってみました。アニメ二期の天皇賞春の「TM対決!」の盛り上がり方を見て、こういうのもあるんじゃなかろうかと。
勿論なって欲しい、というのは山ほどいる訳ですが、今回は既存のウマ娘と夢の対決をして欲しい、という面子を選ばせて頂きました。
これまでの作品とは全くのパラレルになります。本来なら新たに枠を作って投稿すべきかもしれませんが、このシリーズを続けるかは更に不透明なのでこの様な形をとりました。今後は「時系列無視の小ネタ作品」的なものは「掌編」としてあげる事があるかもしれません。
時を超え、世代を超えて。あり得ない筈の、戦いが起こる。
「私は、世界もこの手にしてみせました。相手が誰であれ、勝ちますよ」
青と白の勝負服に身を包んだ少女が、笑って言う。
「香港スプリント。今まで、多くの日本ウマ娘達が挑んで、挑んで、そして跳ね返されてきた。そんなレースを、勝ったんですよ。それも、二度続けてね」
その顔には、自信がみなぎる。一度たりとも、彼女は三着より下に落ちた事はない。それ故か。
「勿論、あの人の事は、知っていますし。尊敬もしていますけれど。でも、超えていかなければ、どんどん滅びの道を行くだけです」
そう言って、彼女は不敵に笑って見せた。
「へぇ……言いますね」
彼女はそう言って、にこりと笑う。
「良いですよ。生意気な後輩を指導するのも、学級委員長の仕事ですから」
桃色と白色の勝負服が、すらりとした少女の肢体を包んでいる。張り詰め、一切無駄のない美しいボディライン。
「私は……勝つだけ勝って、勝つべき戦いが残っていませんでした。でも、彼女なら、最速を競い合える。そう思います」
桜色に輝く瞳は、ただただ己の行く先だけを見つめている。己の道を定めて以来、彼女の強さは揺るがない。
「海外に行きたいとは、あまり思いませんでしたね。国内の、私を応援してくれる人達の為に走りたかったので。それに、海外に出ていった、結果を出しただけで偉いって訳でもないでしょう。大事なのは、どれだけファンの方達の、心に残るか、じゃないですか。それが、私達の戦いです」
――二人の、王が。その魂をぶつけ合う。
「私が負けてしまったら、それは退化という事ですから。常に進化を続けていかないと」
「私は、いつも通りです。ファンの方達に喜んでもらう。驚いてもらう。その為に、驀進するだけですから」
――いざ。芝1200m、電撃の短距離戦。
「勝ちますよ。龍王の名に懸けて」
「負けません。桜の誇りに懸けて」
メインレース。芝1200m、スプリント戦。
“龍王”ロードカナロアVS“驀進王”サクラバクシンオー。
「あの娘には、感謝してるんだよ」
「皇帝」は、ポツリとそう言った。
「私の頃には、到底考えられなかった年度代表ウマ娘に選ばれた。短距離路線だけを突き進んだ、あの娘がね」
年度代表ウマ娘。毎年、たった一頭だけが選ばれる、栄誉。
「私はどれだけ頑張った所で、絶対に手が届く訳が無かった。私は、所詮落伍者だったからね」
それでも、彼女の強さを疑う者はいない。黒髪を靡かせたその姿が、それまでの常識を打ち壊した。
「だから、あの娘は本当に凄いと思う。偉いと思う。……でもね」
「日本で、マイル戦の評価が低かった事は、知ってマース。でも、ワタシにはあんまり関係ナッシング! 元々、『そちら』には、行けませんでしたシ」
美しい金髪を持つ、尾花栗毛のウマ娘は明るくそう言った。そこに、無念の色は無い。
「トレーナーさんにハ、10ハロンなら行ける、と言って貰いまシタ! でも、やっぱりワタシのベストは8ハロンデース」
そして、彼女はこう言ってのけた。
「だからこそ、ワタシは日本でナンバーワンの短距離ウマ娘になれまシタ!」
「あの子は、本当に強い相手を知っているのかな。どうにもならない、と思わせてくれるような、相手を」
彼女は、静かにそう言う。しかし、その言葉には重みがある。
「結局、勝ちってそんなに自分を成長させちゃくれないんだよ。負けて、負けて、絶望を乗り越えて。だから、私は強くなった。私の周りにはいたからね、化け物が」
「デモ、皆が言うんですよネ……確かに、タイキシャトルはストロング! ベリーファースト! でも……一人、あの人には、っテ」
彼女は、そう言って一度目を閉じる。そして、その眼が再度見開かれた時。そこに、青い炎が宿る。
「それは……悔しいデース」
「だから、一度教えてあげたくてさ」
「だから、証明したいデス」
――「王道」から落伍し、抗った者と。
「本当の強さ、ってやつを」
――「王道」を戦えず、乗り越えた者。
「ワタシが、ストロンゲストだと」
日本を冠する名を持つ、革命家か。アメリカ生まれ日本発の、世界王者か。
メインレース。芝1600m、マイル戦。
“世界を制したマイル王”タイキシャトルVS“マイルの皇帝”ニホンピロウイナー。
彼女は、何故地方で戦うのか。そう問われ、彼女は笑顔で応える。
「だって、私はトップウマドル目指してますから」
だから、仕事に手は抜かない。レースも、ライブも、何処であろうと。
「ガード下の路上ライブから始まって、色々なところでやってきました。今は本当に楽しいです。やってきて、良かったなぁって思いますから」
中央シリーズと、地方シリーズ。そこには、埋めがたい差が存在する。
「まあ、設備も違うし、向こうで結果を残せなかった子が『都落ち』してくる事も多いしね。そこは、もう認めるしかないですよ」
彼女は寂し気に、そう言う。しかし、だからこそ燃え上がる思いがある。
「でも、なんて事は無いって思いもありますよ。同じウマ娘ですから。というより、本音を言えばね。私のいないところで、よくやってくれたなと」
そう言って、彼女はニヤリと笑う。“魔王”たる迫力を滲ませて。
「楽しみです。どんなレースでも、どんな仕事でも、楽しむ事にしていますから」
対戦相手の名前を見ても、彼女はそう言ってのける。
「私が苦しい顔をしていたら、ファンの皆も苦しくなっちゃいます。だから」
いつでも、笑顔で。結果が出なくても、誰より必死に、誰より目立つ。そうして積み上げてきたものがある。
「楽しむ余裕、なんてありませんでしたね。いつ爆発するか分からない爆弾を抱えて、何とかやってきたってのが実情ですから」
デビュー直後、大怪我を負った。一年半の休養を挟み、復帰後も常に不安を抱えながら戦い続けた。
「だから、私も決して強いところでやり続けた訳でも無いので。重賞初挑戦も大分遅かったし。その意味では、あの子と似ているかも」
――中央の、意地と。
「私は、誰よりも輝く、トップウマドル目指してますから。勝って、センターでしっかり私の事を見て貰いたいです」
――地方の、誇りと。
「私に期待してくれる、人達がいるので。私一人のメンツじゃありませんから。何としても、勝ちますよ」
いざ。砂塵舞うダート、2000m。
“砂塵の逃亡者”スマートファルコンVS“岩手の魔王”トウケイニセイ
「やっと、戦えるなって。俺からすれば、逃げられた、って感じだからね」
短髪の彼女は、そう言って不敵に笑む。
「はっきりさせてやろうってさ。俺は、俺なら、証明してやれる。短距離路線ウマ娘の、強さを」
水色に赤いラインの勝負服。張り詰めた肉体。一切無駄のない、洗練された意匠と身体。
「それに、仇討ち、って面もあるからな。今度は逃げるんじゃねえぞ、テイオー」
「ボクは逃げたって訳じゃないんだけどなぁ……」
そう言って、少女は口を尖らせる。一見すれば、無邪気そうな少女にしか見えない。しかし、その体には確かに、一流の者が持つ迫力が満ちている。
「ボクだって出たかったんだよ。秋の天皇賞で復帰して、って思ってたんだけどねー」
しかし、その復帰は遅れた。結果的に、両者の対決は流れた。
「でも、ボクからすれば、別に彼女はそこまで特別な相手、でもないし」
「そうだろうよ。アイツからすれば、俺は雑魚も良い処だろうからな。相手にもしてねぇだろ、俺みたいな短距離ウマ娘」
自嘲気味に彼女はそう言う。その姿が、彼女の「恩師」にダブる。
「でもな。はっきり言うぜ。それが、アイツの命とりよ。アイツは注目度の低い相手を軽く見過ぎる悪癖があるんでな」
「そういう訳じゃないんだけど……うーん……」
そう言って、彼女は苦笑する。
「まあでも、確かにボクは、思わぬ相手に足元をすくわれる事は多かったな」
それは、油断と言う訳では無い。ただ、彼女は常に頂点を見てきた。上を見過ぎて、下が疎かになっていた。
「その辺りが、ボクの弱さだったと思う。カイチョーは、四着以下になった事は無いから」
「おう、その会長さんを、追い詰めた人を知ってるか」
その声色に、自信を漲らせて彼女は言う。
「あの人はな、皐月じゃブービーだった。でもな、日陰だった短距離路線で戦い続けて、俺達の道を拓いてくれた。そして、2000メートル、アイツらの土俵で、迫ってみせたんだ。俺達は、あの人になりたくて、あの人に憧れて、走り続けたんだ」
だから、と彼女は続ける。
「あの人の仇を、取りたいんだ。あの人の無念を、晴らしたいんだ。俺は」
「2000mは、ボク達の場所だから。負けられないよね」
――“帝王”が、迎え撃つ。
「2000mだろうが、俺はもつ。見せてやる、俺達の迅さをな」
――風が、全てを吹き飛ばす。
「必ず」
「勝つ」
――そよ風、と呼ぶには強烈過ぎた。
――天才はいる、悔しいが。
芝2000m。王道路線、最短距離。
ヤマニンゼファーVSトウカイテイオー
日本ウマ娘達の、夢を背負った少女がいる。
「アタシなら、勝てると思ってまシタ。勿論、相手も強いけど」
アメリカから、日本にやってきた。それでも、彼女は日本の夢を背負って戦った。
「あと一歩で、手が届いたのに……そこは、残念デス。でも、アタシのレースを見て、盛り上がってくれたファンの人達がいるなら、満足デス。どうしたら皆が盛り上がってくれるか、が大事ですから」
「盛り上がってくれるかが大事、ね。まぁ、そこは賛成かな」
黒髪を掻きあげながら、彼女は言う。
「ただ、あの子は何時もメインイベンターでしょ。私は、ずーっとジョバー(やられ役)だから」
同期に、スーパースター。一つ下に、絶対王者。その中にあって、彼女は決して目立つ存在ではなかったかもしれない。
「でもね、知ってる? ジョバーって、実は実力者なんだよ。力がないと、ジョバーはやれない」
彼女自身、G1を制している。そして、日本ウマ娘に初めての栄光を齎したウマ娘でもある。
「あの会長を、抑え込んだんですよネ。三冠ウマ娘を、二人も。世界の強豪達も。それは、凄いと思います」
まだ、日本と世界に大きな壁があった時代。日本ウマ娘が惨敗を続けた、ジャパンカップ。それを、日本ウマ娘として最初に制した“エース”。
「それから、どんどんレベルアップして。アタシの時には、アタシとスぺちゃんとエアグルーヴ先輩で、上位独占できるまでに」
そう言って、彼女は自信ありげに笑う。
「でも、一番はアタシデース!」
「凄いよね、あの子。国内じゃまぁ圧倒的な成績なんでしょ? 単純な実力なら、私より全然上だと思うよ」
でもね、と彼女は自信あり気に言う。
「あの子が国内で唯一負けた一戦。あれ、負けた相手は……逃げる子でしょ? 逃げってね、魅力的よ? レース展開を上手く動かしてやれば、下剋上も結構できる。私はずっと好位からの差しだったけど、逃げでやっとG1であの子に勝てたし。それまで無敗だった、あの後輩にも土をつけたしね」
――世界に羽ばたいた者と。
「好位に着けて、差します。お客さんも盛り上がると思いマース!」
――日本の誇りを示した者。
「もう一度、見せたいなって。スターも、皇帝も、世界も置き去りにした“エース”の走りをね」
舞台は芝、2400m。王道路線、最高潮。
“ターフに舞う怪鳥”エルコンドルパサーVS“日本のエース”カツラギエース