もしも彼の使うマイフェイバリットカードがE・HEROフレイム・ウィングマン以外のカードだったら。
これはそんなIFのデュエル。
ここは童実野町。デュエリストならば知らない者はいないデュエルキング武藤遊戯出生の地であり、デュエル産業において世界的に有名な海馬コーポレーションのお膝元といえる
そこの代表的な建物海馬ドームでは現在、未来のデュエル界を担うと言っても過言ではないエリート
そして現在試験を受けるのは最後の一人。と言っても電車の事故によって遅刻、受付時間ギリギリとはいえ試験自体には間に合った事や、遅刻も電車の事故という不可抗力ということで特例によって試験を受けることが出来るようになった者なのだが。
「俺のターン!」
受験生ゆえに先攻を貰った少年──十代が勢いよくカードをドロー。ドローカードを見てよしと頷いた。
「俺は[弾圧される民]を守備表示で召喚! さらに場に一枚伏せてターンエンドだ!」
弾圧される民 守備力:2000
十代の場に姿を現したのはその名の通り、暴君による苦しい日々に耐える民。しかしその弾圧される姿に似合わない高い守備力を備えており、観客席の水色髪に眼鏡の少年が「あの守備力ならそうそう突破はされないっす!」と歓声を上げた。
「私のターンでぇす」
十代のターンエンド宣言を聞き、今回の試験官を務める事になった教師にしてデュエルアカデミア実技最高責任者──クロノスがデュエルコートに接続されたデュエルディスクからカードをドロー。ドローカードを手札に入れる。
(壁モンスターね……あんな息巻いておいて随分と消極的ナノーネ……)
たしかに序盤は守りを固めて相手の出方を伺うというのはデュエルの基本にして王道。
だが自分にはそんな消極的な手は通用しないというようにクロノスはニヤリと微笑んだ。
「世界の広さを私が教えてあげルーノデス! 私は場にカードを二枚伏せるーニョ」
クロノスは手札を二枚取って魔法・罠ゾーンにセット、さらに手札を一枚取る。
「さらに
場に竜巻が巻き起こり、クロノスの場のセットカード二枚が破壊され、同時に十代の場の伏せカード──ダメージ・コンデンサーが破壊される。
「へへ。だけど先生、俺の場の伏せカードは一枚。一枚余計に自分のカードが巻き込まれてるぞ!」
十代が得意気にクロノスのプレイングの粗を指摘。たしかに嵐の効果の関係上伏せるカードは一枚でいい。だがクロノスの笑みは消えていなかった。
「それが井戸の中の
不敵な笑みを浮かべるクロノスの場に瘴気が立ち込め、十代が「なんだ?」と声を漏らす。
「特殊召喚! 邪神トークン!!」
邪神トークン ×2 守備力:1000
そしてクロノスが宣言すると同時、彼の場に金色に輝く身体を持った邪神像が二体姿を現した。
「何がどうなってるのか、さっぱり……」
「黄金の邪神像は破壊されるとトークンを生み出す特殊なトラップだ」
観客の一人が困惑するともう一人が説明。つまりクロノスが二枚の伏せカードを伏せたのはミスではなく、この邪神トークンを特殊召喚する効果を持つ特殊なトラップカード[黄金の邪神像]を二枚[嵐]で破壊するための意図的なもの。
しかも邪神トークンを展開するだけではなく相手の罠による反撃も防ぐ攻防一体のコンボに観客はざわめきを見せていた。
「まだ私のターンは続クーノデス」
「へへ、面白いなぁ。今度は何を見せてくれるんだ、先生!?」
「……さらに邪神トークン二体を生贄にシテー」
攻防一体のコンボによってモンスターを並べられても、そのステータスでは自分の壁モンスターを越えられないからと安心しているのか、むしろワクワクした様子を見せている十代にクロノスは顔をしかめながらそう宣言。同時に邪神トークン二体が炎に包まれる。
「
邪神トークン二体を呑み込んだ炎の中から立ち上がるのは、クロノスの本気デッキ──暗黒の中世デッキの切り札。古代の機械巨人、その存在を知る生徒が「これが伝説のレアカード!」と声を漏らし、知らない受験生が「いきなり八つ星モンスターなんて!」と悲鳴を上げていた。
「クロノス・デ・メディチが、このカードを召喚して未だ負けた事はない。あの受験生に先生を本気にさせる力があるとは思えないが……」
「クロノス教諭は気まぐれだから……気の毒に。アカデミアの鉄の扉が閉じる音が、私には聞こえたわ」
見学している生徒の二人がそう呟き、静かにデュエル場を見下ろした。
「オーッホッホッホッホ! いクーのですよ! アルティメット・パウンド!!」
主からの攻撃指示を受けた古代の機械巨人の歯車が回転、その巨体が動き出して拳を振りかぶり、勢いよく弾圧される民目掛けて叩き付ける。
[うわあああぁぁぁぁっ!]
「古代の機械巨人の攻撃力3000、弾圧される民の守備力2000……敵いっこないよ……」
「それだけでは済まないさ。このモンスターの効果は守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が上回っていればその差だけ相手にダメージを与えるんだ」
「そ、そんな……掟破りモンスターじゃないか!」
弾圧される民たちが革命を起こす日を迎える事が出来ずに悲鳴を上げて粉砕され、観客席の受験生が呟くとその近くにいた別の受験生が説明。最初に呟いた受験生もそんな絶望の声を上げていた。
「う、ぐ……」LP4000→3000
その言葉通り、十代は勢いが僅かに衰えたとはいえその拳を身に受けてダメージを受け、クロノスに隠すように顔を伏せる。
「私はこれでターンエンドデース……オッホホホホホ。早クーモ、戦意喪失デスーノ?」
その姿を見たクロノスが笑いながら問いかける。元々ワンターン目から出てくるだろう四つ星モンスターではそうそう越えられない守備力のモンスターを出していただけではなく、仮にダメージを受けたとしてもそのダメージを参照して後続を繰り出せるカード──ダメージ・コンデンサーを伏せていた十代にとっては予想だにしないだろうダメージと戦線崩壊。戦意喪失も無理はないだろう。
「ふ、へへへへ……」
しかし十代は笑いながら伏せていた顔を上げる。その顔には絶望は映っていなかった。
「感動してるぜ。最高責任者の先生が本気でデュエルしてくれて!」
「なにぃ!?…(…どこまで勘違いしてルーノデス! お前のようなドロップアウトボーイなど、ハナから栄誉あるデュエルアカデミアの門を潜らせるつもりなんてありマセーン!)」
(ここから俺の本当の力が試される時だ!)
十代の言葉に対し心の中で憤るクロノス。しかしその憤りなどもちろん知らず、十代は場が焼け野原になっていてさらに相手の場には切り札がワンターン目から呼び出されている。この絶望的な状況だからこそ燃えてデッキに指をかけた。
[クリクリクリー]
(え? 誰だ、俺を呼ぶのは……)
その時デッキから己を呼ぶ声が聞こえ、十代はなんの気負いも力む事もなく自然にカードをドロー。そのカードを目に映す。
(あ、お前さっきの──)
思い出すのは電車の遅延事故によって遅刻しそうになり、大慌てで走っていた時、うっかりぶつかってしまった人から託されたカード。
ラッキーカード、とその時に言われた言葉を思い出し、十代はふっと微笑んだ。手札は合計四枚、しかしまだ逆転のカードは揃っていない。ここは守りを固めるしかない。
「(よし、お前を信じるぜ…)…手札より、[ハネクリボー]を攻撃表示で召喚! さらにカードを二枚伏せて、ターンエンドだ!」
[クリー!]
ハネクリボー 攻撃力:300
十代の場に姿を現す、茶色い毛で全身を覆った丸い体に純白の羽を生やすモンスタ──―ハネクリボー。さらにその背後に二枚のカードを伏せ、十代はターンエンドを宣言した。
「ブラブラブラブラブラ! 羽の生えたクリボー、珍しいカードを持っているデスネ! しかし所詮は低級モンスターデショウ? 雑魚には雑魚モンスターがお似合いデスーネ!」
クロノスは笑いながら十代と彼の場のハネクリボーを雑魚と罵り、自分のターンを宣言してカードをドローする。
「私は[
古代の機械兵士 攻撃力:1300
クロノスの場に現れるのは機械巨人と同じ材料で出来ていると推察される機械兵士。そして彼はニヤリと笑みを向けた。
「フフン、所詮はドロップアウトボーイの浅知恵。その雑魚を攻撃表示にして攻撃を誘い、トラップに嵌めようとでもしているんでショウ。しかし残念でしたノーネ、古代の機械巨人には攻撃時、ダメージステップ終了時まで相手の魔法・罠の発動を封じる効果がありマース! そんな罠通用しないノーネ!」
クロノスはハネクリボーの後ろに伏せられた二枚のカードを迎撃用のトラップカードと読み、しかしそれは通じないと宣告。古代の機械巨人に合図するように右手を振り上げた。
「このターンで終わりにしてあげマース! 古代の機械巨人! ハネクリボーにアルティメット・パウンド!!」
[クリー!]
「ぐううぅぅぅっ!!!」LP3000→300
その命令で再び動き出す古代の機械巨人、その巨大な拳によるパンチにハネクリボーはなすすべなく粉砕され、一気に十代のライフも削られる。
そして壁となるモンスターが消えた十代に機械兵士が右腕に装備しているマシンガンの銃口を向けた。
「これで終わりデース! 古代の機械兵士でダイレクトアタック! プレシャス・ブリット!!」
トドメの命令を受け、マシンガンが十代目掛けて乱射される。それによって土煙が彼の場に舞い、観客席の生徒と受験生は一様に静まり返る。特に生徒達からは「クロノスに本気出されちゃなあ……」という十代への憐みや「所詮ドロップアウトボーイ。ま、イイ思い出にはなっただろうさ」という嘲笑が漏れていた。
そして徐々に土煙が晴れていく。その中からはライフが尽き、敗北の絶望に打ちひしがれている十代の姿が現れる……
「助かったぜ、ハネクリボー」LP300
……はずだった。
「ん、んん? 何故ライフが減らないのデス?」
「ハネクリボーが破壊されたターン、俺が受けるダメージは0になる」
「なぁ!?」
困惑するクロノスに十代が説明、驚愕するクロノスの姿を見て生徒達もざわめいていた。
「フフ、その雑魚モンスターの特殊能力でしたか」
「命を賭けて俺を守ってくれた友達を雑魚呼ばわりは許さないぜ!」
「小賢しい! その場しのぎのモンスターを雑魚と言って悪いデスカー!? 私はこれでターンエンド、ですが次のターン今度こそ終わりデース!」
「いや、ハネクリボーが稼いでくれた時間。俺は絶対に無駄にはしない!! 俺のターン、ドロー!!!」
クロノスのターンエンド宣言を聞き、十代は勢いよくカードをドロー。ドローカードを見てよしと頷いた。
「魔法カード[強欲な壺]発動! デッキからカードを二枚ドロー!」
「ほほう、ですがたった二枚で何が──」
「さらにリバースカードオープントラップカード[無謀な欲張り]! これから二ターンのドローフェイズをスキップする代わりにデッキからさらに二枚ドロー!!」
「──なんデスート!?」
強欲な壺と無謀な欲張り、合計四枚のドローにより手札は五枚。だがこの次から二ターンのドロースキップという隙をクロノスが見逃すはずがない。
背水の陣、このターンで決めなければ負け。十代はその死地へと自らを追い込んでいた。
(来てくれたか、皆!)
だが十代はその背水の陣から希望を掴み取り、第一歩を彼は示す。
「魔法カード[アンティ勝負]! それぞれ手札からカードを一枚選択し、お互いにレベルを確認。レベルの高いモンスターを選択したプレイヤーのカードは手札に戻り、レベルの低いモンスターを選択したプレイヤーは1000ポイントダメージを受け、そのカードを墓地へ送る。ただし、モンスター以外のカードを選択した場合はレベル0とする。そして同レベルの場合はお互いにカードを手札に戻す」
「雑魚モンスター使いが私相手にレベル勝負ですか。乗ってあげまショウ」
十代の発動したカードは最初から背水の陣。なにせ十代のライフは残り300、このアンティ勝負に敗北すれば自らそのカードの効果で敗北するのだから。クロノスは厭らしく笑いながら手札を一枚取り、ノヒョヒョヒョヒョと笑い声を上げた。
「ここまで消費すれば手札に碌なモンスターがいないとでも思っているのデショウ? ならば先に見せてあげましょう──」
そう言い、クロノスは己の選んだカードを十代に突きつけるように提示した。
「──私が選択したのは[古代の機械巨人]! レベルは8!」
「二枚目の古代の機械巨人を手札に握っていたというの!?」
「流石はクロノス教諭……だがこれで受験生はレベルが8以上のモンスターが手札になければ負け……」
伝説のレアカード、その二枚目を手札に握っていた。その事実に女生徒がざわめき、その隣に立つ男子生徒が険しい目で十代を見た。
「さあ、雑魚にお似合いの雑魚レベルを見せるがいいノーネ! そして自分のカードで自爆というお似合いの最期を──」
「残念だったな、先生……俺が見せるカードはコイツだ!」
得意気に笑うクロノスに、さらに得意気に笑って十代は選択したカードを突きつける。
それは紙飛行機の上で青色の身体をしたのっぺらぼうとでもいうようなモンスターがおちゃらけているイラストが描かれているモンスターカード。とても強そうには見えないカードだが、そのレベルは──
「レ……レベル10デスート!?」
──古代の機械巨人を上回っていた。
クロノスが目を見開いて驚愕の声を上げ、十代がぐっと拳を握りしめてガッツポーズを取る。
「アンティ勝負は俺の勝ちだ! 先生には選択したカードを墓地に送り、さらに1000ポイントのダメージを受けてもらうぜ!」
「ぐ、ぐぬぬぬぬ……ですが、所詮悪あがき! レベル10のモンスターなんて今のあなたに召喚出来るはずありマセーンノ!」LP4000→3000
「それはどうかな?」
アンティ勝負の結果により、クロノスは自分の自慢のカードを自ら墓地に送りながらダメージまで受けるという屈辱を味わう。だが所詮は悪あがきだと舌戦を見せる彼に十代はニヤリと笑みを見せた。
「魔法カード[古のルール]、そして速攻魔法[光神化]を手札から発動!」
「古のルールはレベル5以上の通常モンスターを、光神化は攻撃力の半減とこのターンのエンドフェイズに自壊する事を条件に天使族モンスターを手札から特殊召喚するカード……これで強力なモンスターを呼び出せば、たしかにまだ勝ち目はある……」
「レベル5以上の通常モンスターと天使族、そしてさっきアンティ勝負で見せたカード……フッ、なるほどな」
十代の発動したカードを見た女生徒が呟くと、隣の男子生徒は十代の狙いを看破したのか微笑した。
「来い、マイフェイバリットカード! [アイツ]! [コイツ]!」
アイツ 攻撃力:100
コイツ 攻撃力:200→100
十代の場に現れるのは先ほどのアンティ勝負で提示した、紙飛行機に乗った青色ののっぺらぼうのようなモンスターと同じ姿をしているが身体の色だけが違う赤色のモンスター。
その姿に場が静まり返るが、やがて観客席のどこかから「ぷっ」と誰かが吹き出すような音が聞こえた。
『あっはははははははは!!!』
そしてその直後、会場が爆笑の渦に包まれる。
十代と相対するクロノスも「ウッヒョヒョヒョヒョヒョ!」と腹を抱えて笑っている。デュエル中でもなければ笑い転げていそうな勢いだった。
「レ、レベル5以上だというのこ、攻撃力100!? しかもさっきアンティ勝負で見せたレベル10モンスターも攻撃力200、しかも光神化の効果で半減して100! そんな雑魚モンスターどもに何が出来マースカ!?」
「たしかに、あんなカードじゃ古代の機械巨人に敵うわけないよ……」
「いや。アイツとコイツ、あれはたしかに単体では弱小カード……だが、あの二体が揃った時、とんでもない力を発揮するんだ」
「え?」
爆笑に包まれる観客席の中、数少ない笑っていない眼鏡の受験生もあんなカードじゃ勝てないと笑えもしない程ネガティブな思いになって諦めるが、その近くのこちらも笑わずに、むしろ十代の狙いに気づいている様子の受験生が静かに呟いた。
「特別講義してあげマース、いいデスカー? デュエルにくだらない御託はいらナーイ! 覚えておきなサーイ」
「じゃあ先生に教えてやるぜ! 一人じゃ決して越えられない高い壁でも、皆で力を合わせれば必ず乗り越えられるってことを! コイツの効果発動! このカードをアイツにユニオンする!」
「なにぃ!?」
[[ハァッ!!!]]
クロノスの特別講義に十代は切り返して宣言。クロノスの驚愕の声を聞きながらアイツとコイツが飛び上がって赤色と青色の粒子となり、混ざり合う。そして先程より一回り程大きな、身体の左半分が赤、右半分が青に染められたアイツが出現した。
「ユ、ユニオンモンスター!?」
「そう。これがアイツの真の姿! コイツをユニオンした時、アイツは攻撃力が3000ポイントアップする!」
アイツ 攻撃力:100→3100
さっきまでアイツとコイツが乗っていた紙飛行機二台も重なり合って巨大化、その上に乗って腕組みをしているアイツの爆発的なオーラの増強に先ほどまで爆笑していた観客席の受験生や生徒も驚愕に静まり返っていた。
「バトルだ! アイツで古代の機械巨人に攻撃!!」
攻撃宣言を聞き、アイツの乗っている紙飛行機が急降下。まるで瞬間移動のような速さで左右に移動しながら古代の機械巨人を翻弄し、古代の機械巨人の懐に入った瞬間、アイツが紙飛行機を乗り捨てて大ジャンプした。
(で、デスーガ、ダメージはたった100……その程度痛くも痒くも──)
「この瞬間、トラップ発動[アヌビスの呪い]! フィールド上に表側表示で存在する効果モンスターは全て守備表示になる。さらに発動ターン、それらの効果モンスターの元々の守備力は0になり、表示形式の変更ができない!」
「なっ!?」
古代の機械巨人 攻撃力:3000→守備力:3000→0
古代の機械兵士 攻撃力:1300→守備力:1300→0
そこに十代の伏せていたトラップカードが発動、それによってクロノスの場の古代の機械達が次々と十代の場に出現したアヌビスに跪くように守備表示に変わっていき、さらにその守備力も呪いによって失われていく。
「で、でも、これじゃアイツも……」
「いや、アイツ自身はあくまでもコイツをユニオンした通常モンスター。アヌビスの呪いの効果は受け付けない」
「だけど守備表示じゃダメージが与えられない……」
「いや、アイツがコイツをユニオンした時に解放される潜在能力は攻撃力だけではない」
アイツとコイツを馬鹿にして爆笑していた後に静まり返った観客席の中、十代の狙いを理解していた二人だけは横にいる友人の疑問の言葉に答えつつ不敵な笑みを見せていた。
「アイツはコイツをユニオンした時、貫通効果を得る!」
「オー、ディーオ!?」
十代の宣言にクロノスが声を上げる。アヌビスの呪いに蝕まれた古代の機械巨人の守備力は0、それを貫通効果持ちに攻撃されればもはやダイレクトアタックと同じ。
だがしかしクロノスの場に相手の攻撃を迎撃するための伏せカードはなく、彼は「オーウ……」と声を漏らしながら慌てた様子で両手で髪をかき、大きく飛びあがって大の字のように足を広げてこっちに向けているアイツの姿を見るしか出来なかった。
[ハァー!!!]
そしてアイツの身体が正中から左右の赤色と青色の身体に分けるように分離、半身による連続飛び蹴りが古代の機械巨人を粉砕した。
「マンマミーア! 我が古代の機械巨人ガー!?」
「アイツがユニオンしているコイツの効果により、攻撃力が守備力を上回っている分のダメージを受けてもらうぜ、先生」
「あぁっ!?」
降り注ぐ古代の機械巨人の部品を見てクロノスは悲鳴を上げるも、十代が人差し指と中指を立てた右手をこっちに向ける独特のガッツポーズを向けると言葉を失って上を向く。そこには部品が飛び散った事でバランスが取れなくなった古代の機械巨人がこちら目掛けて崩れ落ちてくる光景があった。
それに巻き込まれた形でクロノスは倒れ込み、そのライフは0を示す。即ちクロノスの敗北だった。
「ガッチャ! 楽しいデュエルだったぜ、先生!」
「ぐぬぬ……何故ナーノ? 何故私があんなドロップアウトボーイに~……」
楽しそうに決めポーズと決め台詞を決める
観客席の特に生徒はその構図が信じられないのかそのほとんどが驚愕に目を見開いたり言葉を失ったりと様々な反応を見せる。唯一の例外は十代の狙いを看破していたのだろう男子生徒くらいだ。
「いいぞー110
(よきライバルになれるかもしれないな……1番君)
対して受験生の眼鏡の少年は歓声を送り、その横の受験生も静かに十代の実力を認め、二人は「いえーい! 勝っちゃった俺ー!」と小躍りしながら喜ぶ十代を見下ろしていた。
初めましての方は初めまして、こんにちはの方はこんにちは。カイナと申します。
今回はタイトルの通り、もしも十代のマイフェイバリットカードがあのレベル5、攻撃力・守備力100の通常モンスター[アイツ]だったら、というテーマで書いてみました。
ちなみにこれを思いついたきっかけは一言でいえば「俺が[コイツ]のユニオン効果を覚え間違っていたから」です。
本当に何故か分からないんですがなんとなく[アイツ]と[コイツ]のことを思い出して、アイツのステータスとコイツのユニオン効果に「[アイツ]に装備した時に[アイツ]の攻撃力を3000ポイントアップする」があったのは覚えてたんですよ。で、正しくは貫通効果が追加される部分を俺は「装備モンスターが戦闘によって相手モンスターを破壊した時、その攻撃力分のダメージを相手に与える」っていう要するにフレイム・ウィングマンの効果と同じだと覚え間違っていたんです。そこで
・コイツを装備したアイツの攻撃力は合計3100
・フレイム・ウィングマンと同じ効果を持ってる(←持ってません)
……そうだ。第一話の入学試験デュエルを、十代が[アイツ]をマイフェイバリットカードにしているという設定で書いてみよう。って思いついて、念のため[コイツ]の効果を調べてみたら覚え間違いに気づいて、でもせっかくだしと思って貫通効果に合わせてデュエル内容を調整、執筆させていただきました。
今回の十代のデッキは言うまでもなくアイツとコイツがメインカード。作中では登場しなかったり破壊されたりですが、ダメージ・コンデンサーやリクルーターでアイツとコイツ、そしてもちろんいるソイツとドイツを並べて対応するモンスターにユニオン。超強化して一気に攻め込むイメージです。
ちなみにダメージ・コンデンサーやリクルーターに対応するステータスの低いローレベル通常モンスターも組み込んでいて、それらを下剋上の首飾りで強化、強制転移などでアイツやコイツを相手の場に渡し、アイツとコイツのレベルの高さとステータスの低さ、そして下剋上の首飾りを利用して大ダメージを狙うという変則的な手も使用するイメージがあります。
言うまでもありませんが短編です。こんな一発ネタで続きを書く気はありませんというか絶対無理です。(汗)
では今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。