ロドスの錬金術師   作:アンダマン

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筆が乗っているうちに書き上げて龍門篇を始めたいので初投稿です。




移動都市の外での生活が苦しすぎる

a.m. 05:11 天気/霧雨

カジミエーシュ・ウルサス国境 丘陵地帯

 

夜が明ける。

 

荒野の日の出は実に美しい。地平線の向こうから昇る太陽は、顔を見せるずっと前から朝靄の奥でその予兆を輝かせている。獣たちが最初にそれに気づき、あるものは巣穴に潜り、あるものは餌を求めて飛び立つ。次いで植物が顔をもたげる。最後に人間が、空が白み始めたことでやっと、新しい一日が始まったことに気づく。

 

かつてのリンゴネスの最高学府で教育を受けた詩人なら、あらん限りの正統ガリア語の語彙でもって、この神秘的現象を賛美するだろう。あるいはクルビアの大学教授は、光に依らずして時を知る獣たちの力を解き明かそうとして、教え子たちとともに荒野に身を投げたかもしれない。リターニアの高塔術師なら……確か巫王時代、太陽の輝きをアーツで再現しようとしてた連中がいたっけ。実験に失敗して塔ごと吹き飛んだが。源石触媒をいい値で買ってくれてたから残念だ。

 

そしてそのような高尚な教養を持たぬナマケモノ(ピロサ)の商人はといえば、伸し掛かる雨雲の向こうでじわじわと広がっていく曙光をぼんやりと眺めつつ、硬い防水布に全身包まって震えながら呟いたのだった。

 

「──寒い。寒すぎる。熱いお茶をくれ。さもなきゃここで凍死する」

「私の記憶が確かならば、アルケミスト、10分前にも同じことを言っていたはずですが」

 

うるさいなシャレム。ピロサは寒さに弱い種族だって何度言わせるつもりなんだ。

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

p.m. 21:19 天気/小雨

カジミエーシュ・ウルサス国境 丘陵地帯 居住地

 

アーミヤと俺がお茶に招かれたことから始まった会談は実に2時間に及んだ。居住地の現状について、村長のコントルタは率直に情報を共有してくれた。おそらく虚偽の情報はないと思っていいだろう──Outcastを同席させたのは、護衛というよりはその部分の確認だ。彼女の目と耳はこの大地に渦巻く欺瞞を余す所なく炙り出す。エリートオペレーターの面目躍如である。

 

そして実に面倒なことに、嘘がないからこそ困ることもあるわけで。

 

「アーミヤは眠ったか?」

「はい、ぐっすりと。やっぱり疲れが溜まっていたみたいですね」

 

物資集積地点から少し高台に上がった場所に設営された天幕の中、数人のオペレーターが集まっている。つい先程までアーミヤを寝かしつけていたフォリニックが心配そうに頷いた。そりゃあアーミヤは12歳の少女で、しかも病人だからな。本人が望んだこととはいえ、本当は企業の社長なんてやってる場合じゃない境遇なのだ。

 

 

『君たちを──ロドスを見込んで頼みがある。どうかこの集落を救ってくれないか』

 

 

ザラックの老人の懇願は実に上手い一手だった──皮肉じゃないぞ。アーミヤはまだ魔王の力をほとんど使えないが、それでも持ち前の聡明さと共感力で人の気持ちを敏感に察することができる。本心を隠さず打ち明け、正面から打算なくお願いするのがアーミヤには一番効くんだ。真面目な良い子だからな。

 

正直俺は気が気じゃなかった。居住地にはかなりの数の人間がいて、しかも相当数が感染者か、診断がつかないにしても高リスク状態にあると思われる。ロドスの理念からすれば可能な限りの医療支援を提供したいところだが、何事にも限度はあるし、本艦のキャパシティを考えると治療を受けさせられる人数はそう多くない。

何より治療費の問題がある。ロドスの長期入院プランは競合他社のそれと比べるとかなり安価だが、それはケルシーの有する最先端の(というか反則気味の)源石への知識により、最初から根治を放棄して対症療法に振り切った治療ができるからだ。それでも一般人が支払うには重い負担で、貴族や実業家でもなければ持続性に欠ける。それゆえに入院患者も増えないので、拮抗薬の量産効果も上がらず、薬が高価なので治療費が高い……とループする。経営部が現在進行系で頭を悩ませている問題だ。

 

要するに難民キャンプの住人には金が払えない。重病の住民をロドスに収容してくれとか言われても、経営上断らざるを得ない。だがアーミヤ、感染者の未来を真摯に憂う12歳の少女の前で、老いた感染者の懇願を頭ごなしに断れるか? 仮に断ったとして、今後アーミヤやフォリニックから、俺と経営部は信用を得られるだろうか?

端的に言えば踏み絵だ。踏まなきゃ経営部の人間として失格、踏んだらロドスの人間として失格。相当上手くやらないと逃げられない。いきなり正念場で、俺は飲んだばかりの松葉茶を戻しそうになっていた。

 

ところが話は予想外の方向に進んでいったのである。

 

 

「集落を狙っている謎の勢力がいる、ねえ……」

「わざわざ暗号化した通信を送っていた理由がこれさ。国境に近づいてからこっち、ずっと後をつけられていてね」

 

 

Outcastが首を振る。頭上の蛍光灯が夜は目立ちすぎるということで、彼女は天幕の警護担当になっていた。代わりにAce率いる部隊が周辺の地図を貰って巡回に出ている。

 

「研修を終わらせてオグニスコを出発したところまでは良かったんだが、ウルサス方面がきな臭くなった途端、このあたりの都市間連絡便は軒並み止まってしまってね。コーディネーターも消えてしまったから巡航バスを乗り継いで戻ってきたんだが、いざ合流地点に着いてみたら行き先の移動都市はどこにもいない、バスは動かなくなる、野盗は出る」

「そりゃバスと野盗がグルなんだろ。それか運転手は何も知らなくて、元締め同士がニギってる」

「あのときはOutcastさんが大活躍だったんです! 運転手を締め上げたと思ったらすぐに見逃して、銃を一発も撃たずに盗賊を片付けちゃって」

「はははは、昔取った杵柄ってやつさ」

 

アーミヤ隊の前衛オペレーターが腕を振り回して興奮気味に話すのをOutcastが軽くいなす。どうも真剣味が足りないが、実際ピンチではあったんだろうな。ツアーのコーディネートはカジミエーシュでそこそこ名の知れた企業に依頼してあったのでOutcast率いる護衛陣も安心していたのだが、彼らは国境紛争の噂を耳にした途端、戦争勃発時の責任回避規定を盾にしてカヴァレリエルキに逃げ帰ってしまったという。どうせこちらがすぐ潰れるベンチャー企業だと思って足元を見たんだろうが、本当に碌でもない連中だ。

 

「そんなわけで辺境で立ち往生さ。近くの集落も感染者の集団を招いてくれるような状態じゃなくてね、ほとほと困っていたんだが、そこで難民の集団に出会った」

「ここに流れてきた連中と相乗りってわけか」

「自然の流れだよ──彼らと合流して護衛する代わりに雨風を凌げる場所を教えてもらうことにしてね。結局ここに辿り着いたんだが、道中で監視されてることに気付いた。野盗が戻ってきたのかと思ったが、どうにも統率の取れ方が違う」

 

曰く、付かず離れずの位置から難民たちを監視するだけで、襲ってくることも交渉してくることもなかったという。道に迷ったように見せかけて接近すると即座に離脱し、引き返すとまだ戻ってくる。しかも明らかに武装している。国境紛争が起きている地域で、移動手段を失っていて、目的不明の武装集団に後を付けられるというのはあまり考えたくない状況だ。

Outcastとしては最悪の場合を考えなくてはならない。つまり、テレシスがアーミヤへの王冠の移譲に感づき、カジミエーシュ内の勢力を抱き込んで暗殺にかかった可能性だ。ロドス本艦と連絡を取りたいが、一方で救援を求めたことを気付かれれば、即座の襲撃を誘発しかねない。

結局、暗号通信で本艦に位置を知らせるだけに落ち着いた。カジミエーシュ監査会にも救援要請を試みたが、当然のごとく無視されたらしい。まあ当然だよな、第九師兵団が東部国境に進出してきて一触即発という状況で、移動都市も登録された集落もない辺境に構っている暇はない。

 

「ただ、話の流れから察するに、彼らはロドスを狙って来たというわけではなさそうだ。これは良いことだと言ってもよさそうだね」

 

バベルの事情を知らないフォリニックたちの手前、微妙にぼかした言い方でOutcastが呟く。実際、今の状態で手練れのサルカズ傭兵や王庭のアホ共に襲撃をかけられたら勝ち目はないから、俺としてもその点は安心した。

しかしそうなると別の疑問が出てくる。

 

「カジミエーシュ国内で追いやられた感染者が、国境で築いた難民キャンプ。コントルタの話じゃここに流れ着いて半年以上になるそうだが、監査会も国民議会も無視を決め込んでいるらしい。こんな場所、わざわざ襲う価値があるか?」

「足元に源石鉱脈でも埋まっていれば話は別だがね。しかしそれなら、この地の欲に目が眩んだ商人たちが喜び勇んで出てくるはずだろう」

 

仮に商業連合会が黒幕ならば、謎の武装集団に遠巻きに包囲させるなんて真似をする必要はない。正規の傭兵会社を雇って地上げすればいいだけの話である。難民はここを不法占拠してるんだからな。しかし現実には、武装集団は何をするでもなく、集落の周囲に不定期に出没しては住民を脅しているのだという。

 

「家に押しかけて身ぐるみ剥がすでも誘拐して労働力にするでもなく、ただ適当に暴力を振るって脅すだけ。それも殴る蹴る程度だと? 確かに妙な話に思えるな」

「腕を落とす、足の腱を切る、目を潰す。恐怖の与え方というのはある程度定式化されるものだからね。そのどれも実行しないということは、却って作為が見えているな」

「あ、あの、お二人共随分物騒なことを仰るんですね……」

 

ドン引きしている医療スタッフ諸君には申し訳ないと思う──しかし実際のところ紛争地帯での医療行為って本当にこのレベルの治安との戦いだから。ロドス本艦はめちゃくちゃ安全で恵まれた良い場所なんだよ。欠点は雰囲気が暗いことだけ。陰鬱なところですね~、修道院のような明るさがまるでありません! クソ、俺も温かいバタービールが飲みたいぜ。

 

ただまあ、ここで部外者がうんうん唸っていても、結論が出るような話ではない。

 

「とにかく、俺たちは合流できたんだ。武装した2個小隊と医療チーム、エンジニアチーム、それに飛行装置がある。やろうと思えば物資のコンテナを捨ててロドスに逃げ帰ることだって可能だ」

「あくまでも最悪の場合、であることを忘れないでくださいね。アーミヤはこの集落にできる限りの支援をするつもりなんですから」

 

金色の瞳がこちらに釘を差してくる。分かってますよ、俺だって別にここの連中を助けたくないわけじゃないんだ。儲かりそうにないし面倒事は嫌だなと考えてるだけ。でもある意味今更ではあるんだよな。だってロドスって存在してるだけで面倒事の塊みたいな組織だから。

 

「Ace小隊が情報を持ち帰ってくれることに賭けよう。医療チームは明日からの巡回診療に備えて十分に睡眠を取ってほしい。エンジニアチームは通信アンテナ設営の準備を」

「私は小隊の編成を組み直す。医療スタッフ全員に護衛を付ける必要があるからね」

「フォリニック、今夜はアーミヤの隣についていてくれないか。隣に人がいるだけでも、安心して眠れるものだから」

「──ええ、そうですね。分かっています」

 

深く頷いて、フォリニックが小走りに去っていく。母親を失った経緯からして、アーミヤの境遇にも思うところはあるんだろう。

ここ数日ばかり、彼女と俺は感染者のオペレーター登用を巡って随分とバチバチやったものだが、あの飛行装置墜落からこっち、心做しか俺への態度が穏やかになっている感じがする。これは順調に懐柔できているということでいいんだろうか? 何か罪悪感があるんだが、アンタの弟子への応対は本当にこれでいいのかケルシー?

 

 

「──純粋な若者を唆すというのは実に快い悪徳だ。そう思わないか」

「仲間を見るような目をするんじゃねえっ」

 

 

憤慨した俺は手元の部隊編成表を投げつけたが、Outcastは片手で軽快にキャッチして、口笛を吹きながら去っていった。アンタと一緒にするなよホラ吹き婆さん。その様になってるカッコいいウィンクはどうやったって俺には真似できないんだから。

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

a.m. 05:16 天気/霧雨

カジミエーシュ・ウルサス国境 丘陵地帯

 

で、冒頭に戻る。

 

同僚とのウィットに富んだ会話の後、雑務を終えて仮設ベッドに潜り込んだ俺は夜明け前に叩き起こされた。元気いっぱいのフェリーンのエンジニア、ブリッシュシルバーは朝の挨拶もそこそこに携帯無線機を俺に押し付けて走り去り、低血圧のピロサは眠い目を擦ってAceからの通信を受け取った。

 

 

『手がかりを見つけたかもしれない。集落の西側だ、今から来れるか』

 

 

正直断りたくて仕方なかったが、ここには賭けトランプで面倒事を押し付けられるMechanistやMiseryはいない。俺は朝食代わりの乾パンを口に放り込み、靴下を二重に履いて、防水布を頭から被り雨の中に飛び出した。夜明け前の暗闇の中、足元はぬかるんでいるし空気は湿って重く、夏とはとても思えない寒さだ。鉱石病患者にやらせる仕事じゃないと思う……って、これ俺が口にしたらぶん殴られるな。やっぱ無しで。

 

合流地点ではシャレムが待っていた。冷血動物のヘビがモデル(?)の彼だが、俺よりよほど寒さに耐性があるようで、霧雨の中を地面に伏して暗い荒野の監視を続けている。待つこと数十分、空が明るくなっても気温は上がらず、あまりの寒さに俺の文句のレパートリーは尽きかけ、律儀にツッコミを入れてくれるシャレムも口数が少なくなってきた頃だった。

 

「出てきました。西の斜面です」

「おーおー、雁首揃えちゃってまあ」

 

集落からは死角になって見えない岩陰からぞろぞろと出てくる人影。向こう側で野営していたのか、あるいはトレーラーでも隠しているのか? 見たところ装備も練度も悪くない。こりゃ本格的に怪しいな。

武装集団は風化して崩れかけている岩場を降り、開けた場所に展開している。ここからでは何をしているか分からない。彼らが見ているのはカジミエーシュ中央平原の方角だ。といっても近隣の移動都市は軒並み国境の奥に退避しているし、移動できない小規模集落はウルサス人や感染者難民を恐れて閉じこもっているので、百キロは移動しないとまともな街はないのだが。

 

──んん?

 

そこまで考えたところで気づく──何かが変だ。

この辺りには地図に載るような街がない。移動都市も退避した。周辺の集落が感染者に門を開けないことはOutcastの話で分かっている。監査会も国民議会もウルサス人の侵入を防ぐことにしか興味がない。だから感染者難民は半年以上も放置されている──逆に言えばこの地に集落を築いて半年も経つのに追い出されずに済んでいる。

そこだ。問題はそこなんだ。

 

この難民キャンプは自立した集落として機能している。動ける者は畑を耕し、捕まえてきた野生の羽獣や瘤獣を飼育している。だがとても自給自足できるほどの生産量には達していない。村長のコントルタの話では、ほとんどの難民は逃げ出す際に貴重品を換金して身に付けており、それらを行商人に渡して不足している食糧や燃料と交換しているという。今のところレートは良心的で、住民たちは常に飢えているものの餓死者はそれほど多くなく、冬を越すために穴を掘って穀物を溜めたりバラックを増築しているらしい。

 

昨夜、会合の席でその話を聞いた時、俺は「まだこの大地にも志のある商人が残っているんだな」なんて感動したものだった。実際、いるところにはいるものだ。危険を冒して感染者をわざわざ雇ったり、匿ったり、食糧を与えたりする人間が。その後すぐに武装集団への対策の話に移ったので、そちらに意識を持っていかれていた。

最初に気付くべきだったのだ。良心ある人間というのは確かに存在し、一見して無意味に見える思いやりが救いをもたらすことはある。だが、()()()()()()()()()()というのは、得てしてその裏に悪意が潜んでいる。

 

「いくら感染者への思いやりに溢れる商人でも、利益が見込めない取引のために百キロ以上を移動して紛争地帯に来るのはおかしい。迂闊だった……」

「アルケミスト、あれを見てください。車列が来ます」

 

シャレムの呼びかけで、俺は現実に引き戻される。いつの間にか雨は止んでいた。地平線の向こうから車列が現れ、一直線に突き進んでくる。長距離を移動するトレーラーだ。移動都市のやって来ない辺境を定期移動し、集落に物資を届ける行商人の車列。

大地にあまねく文明を行き渡らせるその道行きを、かつてクルビア大統領マーク・マックスは「最も高貴なる巡礼」と呼んだ。かつてはその一員だった俺としても、彼らが尊い存在であることに異論はない。

ただし、いま目の前にいる連中は、おそらく卑怯な陰謀家に過ぎないわけだが。

 

「いかがしましょう。武装集団が車列を襲撃する可能性もあります。キャンプに連絡し、支援を要請したほうが──」

「必要ない。ここで見てろ」

「しかし」

「コードネームを賭けてもいいが、商人どもに危険はないぜ。あいつら、むしろ抱き合って握手するんじゃないか」

「…………?」

 

困惑しながらも一応は俺の言葉を信じることにしたのか、シャレムは頷いて監視に戻る。俺はもう全てが面倒になってきていたが、ここには茶を沸かせる薬缶も寝転がれるハンモックもないので、懐からメモ帳を取り出して今後の経営計画について考えることにした。

これ、面倒事を全部片付けたとして、ロドスに帰ってケルシーに報告する時間なさそうだよな。龍門で商談の予定がいくつかあるし、それとは別にあのペンギン野郎を今度こそ捕まえなきゃならん。Accountantは銀行から追加融資を取り付けられただろうか? 俺としてはここ数年ずっと()()に辿り着ければもう何でもいいかくらいの気持ちなんだけど、なんでこんな面倒なサブストーリーが生えてきてるんだろう。クロージャが突然勤労意欲に目覚めて仕事を全部やってくれないかなあ。無理だろうなあ。大君が医者になるくらい無理。

 

 

「──で、これはどういう状況なんだ」

「まさか、本当に……」

 

 

数十分が経過し、車列はようやく岩場のふもとに辿り着いた。巡回から戻ってきたAceは呆れ顔で、シャレムはひたすら戸惑っている。なにせ俺の言った通りになったのだから。商人たちはトレーラーを停め、武装集団の連中と肩を組んだり抱き合ったりしている。ビール……いやあれは塩サイダーかな。瓶首を豪快に叩き割って一緒に飲んでいる。楽しそうでいいねえ。

 

「まあ、見ての通りだよ。連中はグルなのさ」

「それは分かる。分からんのは目的だ」

「想像はできるけどね」

 

一方では集落を包囲して威圧し、一方では行商人として支える。完全に矛盾しているように見えるが、目的を仮定すれば筋が通る。ここは国境の紛争地帯だからね。何でもありのパラダイスだ。

 

「感染者難民を引き込んで逃げられないようにして、潰れない程度に集落を()()()。ちょうど今は夏だし、正面にいるのはウルサスの第九師兵団だ。収穫期はすぐにやってくる。この絵図面を引いた奴は賢いが、倫理観をどっかに置き忘れてる」

「それは──なるほどな。はあ、似たようなことはサルゴンでもあったんだが。もっと早く気付くべきだった」

「Outcastに聞かれたら爆笑されるぜ、全く」

 

眼下に早朝の宴会を眺めながら、男二人して苦笑いする。蚊帳の外に置かれて困惑するばかりのシャレムにはちょっと可哀想なことをしているが、種明かしはもう少し後だな。流石にこの碌でもない陰謀について何度も説明するのは堪えるし、何より俺は腹が減った。さっきからベーコンを焼いた油の匂いが漂ってくるんだ。クソ、連中いい肉食ってやがる。

 

「戻って飯にしよう。ついでにこれからの対策を練る」

「といってもどうするんだ。こっちには2個小隊しかないぞ」

「できることをやれるところまで、だろ。それにだ、アーミヤに一から説明したとして、今更ここの人たちを見捨てられると思うか? 何を以て汝の不義理に報いようか、なんて言われるぜ」

「何だそりゃ。まあでも、実際その通りだな」

「あの、私にも説明をいただきたいのですが……」

 

下らない会話を続けながら、盾兵二人と商人は坂を降りていく。ぬかるんだ土が次第に乾き、足元が硬くなっていく。その感触と前方に見える煮炊きの白い煙だけが、今の俺たちの希望だった。

 

 






カリスカはフレイムテイルとアッシュロックの故郷。特に話の本筋とは関係ない要素なのでこの後は出てこないと思います。

Outcastの口調がよくわからないので確認のために9章を読み返していましたが、あまりに陰鬱で今見てもちょっとしんどかったです。ヴィクトリア篇の一発目がこれってひどすぎるでしょ。この後もずっとひどいのでバランスは取れてますけど。取れてるかな?


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