続くかは分からん。
「俺は時折、杏寿郎を羨ましいと思うよ」
「む!? なにがだ!?」
煉獄亭にて杏寿郎との稽古の休憩中。俺がふと呟いた言葉に、隣に座る杏寿郎はそう問いかける。相変わらず元気の良い奴だ。
煉獄杏寿郎。鬼殺隊隊士。階級は甲。
炎柱である槇寿郎さんの息子で、俺と同期の良き友。
鬼狩りとしての実力は本物で、良くも悪くも表裏のない真っ直ぐな性格のこの男の事を、俺は偶に羨ましく思う時がある。
「杏寿郎には帰る家があって、お前を迎えてくれる家族がいるだろ? ここ最近、俺はそれが何よりも羨ましい」
俺の両親は既に他界していて兄弟もいない。杏寿郎も少し前に母である瑠火さんを亡くして辛い時期だろうが、まだ槇寿郎さんと弟の千寿郎がいる。まぁ、槇寿郎さんは少し荒れているらしいが……
母は俺が物心ついてすぐの頃に病で亡くなった。そこから男手ひとつで俺を育ててくれ、鬼殺隊の隊士であった父は上弦の鬼との戦闘の後、鬼の首と引き換えに戦死した。
別に悲しくはなかった。母の事は当時まだ幼かった俺にはよく分からなかったし、父は雨柱としての役割を立派に果たして散ったと聞いた。
ただ最近、どうにも人の温もりと言うか愛情みたいなものがかけている。
勿論、御館様や同じ柱、今も隣で俺の話を聞いてくれている杏寿郎。他にも色々な人と上手くやれているのは分かる。
だが任務後、我が家に帰った時にふと感じる。父の後を継いだ巨大な屋敷に自分1人。どうにも寂しさが生まれてしまうのだ。
「うむ! つまり
「……杏寿郎。お前はもう少し言い回しを覚えた方がいい」
「なんだ! 違うのか!」
「いや、当たってるけども!」
そうさ。ここまでなんだかシリアスな雰囲気な事を話して来たが、実際の所は杏寿郎が言う通り、嫁さんが欲しいのだ!
いや、嫁とまではいかなくてもいい。恋仲。そう、せめて俺を癒してくれる意中の相手が欲しいのだ!
なのに! なのにだ! 俺には今までそう言った経験や女性といい雰囲気になった事など1度もない。
「俺はそんなに駄目だろうか」
「自信を持て! 緑雨はかっこいいぞ!」
杏寿郎はこう言ってくれてはいるが、では何が駄目なのだろうか……
「俺は恋路について詳しくないが、柱ともなれば引く手あまたなのではないのか?」
おい、やめろ杏寿郎。そういう疑いの無い眼差しで此方を見るな。心が痛い。
そして、悪気が無いあたり、余計にタチが悪い。怒るに怒れないだろうが。
「そんな事は全くない。良く考えてみろ。柱が下の者に色目かけるなんて示しがつかないだろ」
「それもそうだな!」
とは言ったものの、こんなものは建前でしかない。俺と同時に柱になった宇髄は3人も嫁がいるのだ。くそう。
そもそも、鬼殺隊に入ってからというもの、俺が出会うのは鬼ばかり。ここ数年で俺が経験しているのは、愛し合いでは無く殺し合い。
鬼と隊士以外との出会いなどない。
「ならば同じ柱はどうだろうか!」
「同じ柱ァ?」
現柱の女性と言うと、しのぶしかいないが……
「いや、ないな。それはない」
見た目は誰が見ようと異論なしの美人だが、アイツは性格に難ありだ。
その姉であるカナエさんは、見た目も中身も完璧だが、どうにもカナエさんからは男と見られていない節がある。なんというか、弟みたいな。そんな感じだ。
それにカナエさんに手なんか出してみろ。いつしのぶに刺されるか分かったもんじゃない。
「忙しい日々に癒しが欲しくて出会いを求めているのに、忙しくて出会いがないって……
いっその事柱なんて辞めてしまおうか」
「それは駄目だ!」
「冗談だよ」
「うむ! では、見合いをするのはどうだろうか!」
見合い。見合いか……
隊士ではない女性と出会う事が出来る場。目的が向こうも同じならば、出会いを探し無駄に時間を浪費する事も無い。これは忙しい俺にうってつけかもしれない!
「杏寿郎! やはりお前は天才だ! ありがとう!」
「うむ! なんだかよく分からないが、それは良かった!」
雨柱。
産まれてこの方18年。はじめてのお見合いを実施したいと思います!