後期の期末課題も一通り終わり、やっと一息と言った感じです。
蜜璃や一般隊員達の活躍により、爆弾処理の方はあらかた片付いた。
あとは、杏寿郎が鬼を倒すだけだが……
「……煉獄さん!」
隣を走る蜜璃の声と共に、彼女の視線の先に目を向けると、そこにはボロボロになった杏寿郎と鬼の姿があった。
……あれが下弦ノ弐か。あの狼共はアイツの影から出ている様だが、十中八九あの鬼の血鬼術だろう……
「!」
【炎の呼吸 肆ノ型 盛炎のうねり】
あの狼、体内に銃を仕組んでいるのか。口から覗かせる銃口から発砲された銃弾を、杏寿郎は空中で回避すると共に盛炎のうねりで影狼達を斬りつける。
爆弾が処理された事により形勢不利を察したのか、下弦ノ弐は早くケリをつけようとしている様に見える。
これだけ聞けば杏寿郎が優勢に聞こえるかもしれないが、相手は傷を再生出来る鬼だ。一方、杏寿郎は血だらけで今にも倒れてしまいそうな状況だ。
「今助けに……!」
「駄目だ」
杏寿郎のもとへ向かおうとする蜜璃の腕を咄嗟に掴む。
「緑雨さん! でも!」
「駄目だ。これはただの任務じゃない。杏寿郎が柱になる資格があるかの確認も込められた任務だ」
杏寿郎が愼寿郎さんの後を継いで炎柱になる程の実力があると言うのであれば、あの鬼を1人で倒さなくてはならない。
勿論、本当にヤバいと判断したら助けに行く。けど、まだその時じゃないはずだ。
そうだろ? 杏寿郎。お前は多分、俺との約束を忘れていないから。
「杏寿郎! いつまでそんな鬼に手こずってんだ! 下弦ノ弐だかなんだか知らないが、柱になるってんなら、とっとと下弦の鬼ぐらい単独撃破しやがれ!」
──────────────────────────────
なんなんだコイツは!
これだけ銃弾を浴びせ、爆弾に巻き込んだ! なぜ倒れない!
向こうは刀でこちらは銃だぞ! なのに何故勝てない! なぜ人の身で立ち上がる!
カチリ
引き金を引くが、銃弾の発砲音は聞こえない。
「チッ! 弾切れか」
これが最後の一丁だったはず……
こいつ1人に俺の火器全てを使わされたというのか。
! 今、煉獄の刀をかわした瞬間に感じた違和感。
こいつ、目をつぶっている。いや、意識を失っている。
意識を失って、尚、刀を振るっているというのか!
「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!」
奴を見ていると、昔の自分を見ているようでイライラする。
そんな時だ、俺の足元に落ちていた誰のものかも分からない日輪刀が目に入った。
──惨めだなぁ。武士道だの何時までも時代遅れな。
──では、その武士道とやらで弾を打ち落としてみろ。
──ハハハハ
無数の銃弾に撃ち抜かれた感覚が蘇る。最悪な気分だ。煉獄。貴様のせいで
──大丈夫。俺達の剣は銃なんかに負けやしませんよ。
最悪な気分だよ。貴様のせいで、俺の中で封印されていた、俺の武士としての誇りを取り戻してしまった。
あぁ。本当に最悪で、最高な気分だ。
「銃に頼るのはもう辞めだ。煉獄! この刀で貴様の命を貰い受ける!」
──────────────────────────────
意識が遠のいて行くのが分かる。
甘露寺の声が聞こえる。ここに居るはずのない緑雨の声が聞こえた。そんな気がする。
幻聴や走馬灯。そんなものが頭を過ぎっている。そんな中で何故かは分からないが、ふと、昔の事を思い出した。
──杏寿郎。これから俺達は友でありライバルだ。いつか共に柱になって多くの人を守ろう。約束だ!
忘れもしない。この言葉を聞いたのは最終選別を生き残った時の事だ。
最終選別。7日間も鬼と対峙していた筈なのに、自身の血どころか返り血1つ浴びてない姿で、ニカッと笑いながらそう言った緑雨の事を今でもおぼえている。
これが、俺と緑雨との最初の出会い。
己の剣術に自信はあったが、あの時見た緑雨の実力は、俺を遥かに凌駕していた。
その後、父上に聞いた話しだが、雨の呼吸の使い手は天才なのだと言う。
今思えば、型の伝授を1度しか行わない呼吸。相当な才がなければ雨の呼吸の後継者にはなれないのだろう。
実際、最終選別から数ヶ月で、父上の言っていた言葉をその身でヒシヒシと感じた。
緑雨は同期の中でも、いや、歴代の隊員の中でも、ズバ抜けた速さで階級を重ねていき、気がついた頃には、既に雨柱として、鬼殺隊最強の証である柱の地位へと上り詰めていた。
己と緑雨との間に生まれた差に劣等感を抱かなかったと言えば嘘になる。
緑雨の才能に嫉妬しなかったと言えば嘘になる。
ただそれ以上に、緑雨にライバルと言われた事が誇らしかった。
緑雨が柱に就任する少し前、緑雨の父が戦死したと聞いた。
緑雨は泣いてもいないし、悲しくもないと言っていた。自身の責務を全うした父を誇らしいと言っていた。これで俺も柱だな、と笑いながら言っていた。
ただ、その内は何一つ笑ってなどいなかった。
緑雨は強い人間だ。その実力もさることながら、心も強い人間だ。
ただ、それと同時に心が脆い人間なんだと俺は思う。
いつだって笑顔で、内に秘めた、辛い事や悲しい事を決して表に出そうとしない。
緑雨の心は氷細工だ。とても綺麗で美しくて、けれど触れれば崩れてしまいそうな、そんな繊細さ。
だからなんだろう。緑雨は父を無くしてからと言うもの、時折、心にポッカリと穴が空いたような儚さがあった。
そんな緑雨だが、最近はその心の穴を一切感じさせない。
きっと、いや、間違いなく甘露寺の影響だろう。
甘露寺と出会ってからの緑雨は毎日幸せそうだ。
緑雨や千寿郎にはデリカシーがないと注意されたが、俺にはまだ難しい。
甘露寺は自分に自信を持てていないのだろう。
俺は彼女の育てとして、緑雨の友として、彼女にはもっと胸を張って生きて欲しい。自分らしくあって欲しい。
そして……
俺には出来なかった、緑雨の寂しさを埋めてあげて欲しい。
あぁ、そうか。ここで俺が死ねば、甘露寺や他の者達を守れないのか。
……それは駄目だろう!
目を覚ませ! 甘露寺の事を守ると緑雨に誓っただろ! 弱き者を助けると母上と約束しただろう!
そんな時だ……
──杏寿郎! いつまでそんな鬼に手こずってんだ! 下弦ノ弐だかなんだか知らないが、柱になるってんなら、とっとと下弦の鬼ぐらい単独撃破しやがれ!
その声が聞こえた時、俺の意識は覚醒する。
「確か、煉獄杏寿郎……だったな」
影を自身の身に纏った下弦ノ弐がそう問いてくる。
「俺は佩狼。煉獄杏寿郎。ここからは1人の武士として貴様を殺そう!」
恐らくこれが奴の、佩狼の本気。
「ああ! 望むところだ!」
そうだ。俺は煉獄杏寿郎だ。父上の後を継ぎ柱になる男だ。今! ここで! 緑雨との約束を果たしてみせろ!
覚悟を決めろ! 魂に炎を灯せ!
心を 燃やせ!!
【炎の呼吸 奥義 玖ノ型 煉獄】
お互いの全力を一撃に込めた、正真正銘の一発勝負。
「この煉獄の炎は、絶対に消えない! 全てを燃やし尽くす炎だ!」
燃やせ。全てを燃やせ。奴の鎧を、奴の影を焼き払え!
赤き炎が佩狼を包み込む。
佩狼の首が斬れるのを後目に、塵になっていく姿が映る。
あぁ、見ているか緑雨。見ていますか母上。杏寿郎は約束を果たしました。
「煉獄さん! やった! 十二鬼月を倒した! これで煉獄さんも柱に……!」
「おい、どけってお前! 早く治療しないと死ぬぞ!」
「駄目だ! 全然離れねぇ! 何だこの力!?」
倒れた俺のもとに、ボロボロと泣き崩れた甘露寺と、他の隊員達が駆け寄ってくる。
……甘露寺は少し変わっただろうか? けど泣き虫な所は変わらないな……
「はいはい。蜜璃、少し離れような」
視界が血で塞がれていてよく見えないが、この声は間違いなく緑雨の声だ。何故緑雨がここに?
いや、今はそんな事どうでも良い。
「……緑雨。やっと、追いついた……約束。果たしたぞ……」
今度は、俺から手を伸ばそう。
「ったく。無茶しやがって。ほんっと、凄い男だよ。杏寿郎」
あの時と同じく緑雨と拳を合わせた後、俺は何とか保っていた意識を手放した。
煉獄杏寿郎【炎柱】──就任──
杏「緑雨が血を流すなんて余程強敵な相手だったのだな!」
緑(?あぁ、鼻血の事か……)
「あぁ。とても凶暴で、暴力的な破壊力だったよ」