杏寿郎の提案により見合いを決意したあの日から約数日。たまたま非番となった今日、俺は遂にお見合いデビューを果たす。
自分が出来る最大限の身支度はした。正直、あまり飾り過ぎるのも素の自分では無い為どうかと思ったのだが。
まぁ、最初だしやりすぎなければ気合いを入れるに越したことはないだろう。
どんな相手が来るのだろうか。こういう事は初めてな為、若干ソワソワしながら待っていると、目の前の障子戸が開かれ着物を着た黒髪の少女が入って来る。
あまりジロジロ見るのも失礼かと思い、スっと上から下まで見てみたが……
……なんだこの美女は! 三つ編みにされた黒髪に黄緑色のパッチリとした瞳。歳は俺と同じか少し下くらいだろうか?
そして何よりでかい。何がとは言わないがとにかくでかい。着物を越しからでも分かる。軽く見たつもりだったが、正直ここだけは一瞬目が止まった気がする。
こういうのを比べるのは良くない事だとは分かっているが、不覚にもしのぶと比べてしまったが、しのぶが気の毒になるレベルだ。
「はじめまして。甘露寺蜜璃です」
「あっ、はじめまして。青梅緑雨です。今日よろしくお願いします」
彼女の自己紹介に咄嗟に返す。
それにしても、声もとても可愛らしい声をしている。
なんだこれ? 見合いに来る女性と言うのはこんなにレベルが高い女性ばかりなのか? だとしたら、俺が鬼を狩りまくってる時にのうのうと見合いをしていた男達を呪いたいものだ。
自己紹介を済ませた後、着々と見合いは進んでいるのだが、初めてにしてはよく出来ている方だと思う。
まぁ、一緒に食事をしながら話をしているだけなので、そんな大した事はしていないのだが。
甘露寺さんと話してみて感じた印象としては、とてもお淑やかで落ち着いた女性というものだ。
彼女の話では、甘露寺さんはもう何度も見合いに失敗しているらしい。
何故だ!? 会ったばかりではあるが、こんな可愛くて良い子を放っておくなんて世の男共は馬鹿なのか!?
「それで、このお見合いで最後にしようと思って。もしこれが駄目だったら、鬼殺隊に入隊しようと思ってるんです」
「んん? なんで鬼殺隊に?」
「私、自分より強い人がタイプなんです。だから鬼殺隊に入って柱になればそう言う人に会えるかなって」
なんという理由だ。俺も長年鬼殺隊にいるが、こういう目的で鬼殺隊を、更に言うなら柱を目指す女性は初めて見たかもしれない。
まぁ、目的は人それぞれだし、他人がああだこうだ言うものでは無い。どんな目的であれ、強ければ、鬼を殺す事さえできれば目的なんて何ら問題ない。
てか、今君の目の前にいる俺も柱なんですけどね。あれ? 俺結構、甘露寺さんのタイプに当てはまってるのでは?
「まっ、俺が言うのもなんだけど、あんまりおすすめしないよ? 特に柱なんて忙しいだけで出会いなんて探してる暇ないし」
その証拠に俺がここにいるわけだしね。
というか、鬼殺隊に入らずとも甘露寺さんより強い男なんて沢山いるでしょうに。
え? そんな事ないですって?
まさか、鬼殺隊を目指そうとしてるだけあって本当に強いのだろうか?
そんな事を話している間に見合いも終わりの時間が近づいてきている。
ここまで黙って来たが、俺はどうしても彼女に対して疑問に思う事が1つある。
「ところで甘露寺さん。俺に何か隠してる事ない?」
「ッ! ……なんの事でしょうか?」
俺の言葉に甘露寺さんがビクリと反応する。図星だろうか?
誤魔化すと言う事は触れられたくない事なのかもしれない。しかし俺の口は止まる事を知らない。
「いやぁね。極微小な変化ではあるんだけどさ。なんか甘露寺さんが無理している様な気がして」
伊達に柱やってはいない。こういう少しの変化や違和感に気づくのは得意な方だ。どうにも、甘露寺さんはこの見合いを心から楽しんでいる様に見えないのだ。
「実は……」
甘露寺さんはそう言うと、ぽつりぽつりと本当の事を話し始めた。
ふむ。甘露寺さんの話を要約すると、どうやら彼女は特異体質で筋力が常人のた8倍あると言うのだ。
この細腕に、実は宇隨や杏寿郎なみの筋力があると言うのか。
確かにそれならば、彼女の求める自分より強い人が柱レベルになるのも頷ける。
ただそれだけならまだ良かったのだろう。しかし、普通に生活しているだけでも常人の8倍のエネルギーを使う彼女の体は、それを補うだけの食事が必要だったのだ。
どのくらいか聞くと、恥ずかしそうに力士3人分と答えていた。
そんな彼女の異常性に、今までの見合いは全て破談。
「この髪も、染め粉で黒くしてるだけで本当は桜色なんです」
「それも特異体質?」
「いえ。そう言うわけでは……
……桜餅食べすぎちゃって。気づいたら……」
恥ずかしそうにそう答える甘露寺さん。
……なんだその可愛らしい理由は!
まぁ、普通の人からしたら異常な事だ。恐らくは、その特殊な色をした髪が遺伝することを恐れたのだろう。
「だから、隠していたと」
「ごめんなさい。本当はいっぱい食べて、力も強くて、髪の毛も派手な色で。全然お淑やかな女の子じゃないんです。
せっかく、多忙な雨柱様の時間をもらってお見合いしてると言うのに……」
そう言った甘露寺さんは、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
何故だろうか? そんな彼女を見たら、いつの間にか甘露寺さんの頭を撫でていた。
「そんな顔しないで。せっかくの可愛い顔が台無しだ。
周りの目を伺って甘露寺さんが我慢する。そんなのおかしいだろう?
もしも君の事を好きな人が現れたとしても、それは偽りの君の事が好きなだけだ。それで良いのか? そんなの良いわけがない。
確かに黒髪で少食でお淑やかな甘露寺さんも素敵だった。
けど、桜色の髪も綺麗で良いじゃないか。俺の友人にだって派手な髪の奴はいる。それに、力が強いって事は、自分の大切なものを沢山守れるって事だ。
もっと自信を持っていい。甘露寺さんは充分素敵な女性だ」
俺は何を口走っているのだろうか。これが一目惚れと言うやつか? 勝手に1人で盛り上がって、恥ずかしくて火がでそうだ。
しかし、俺の気持ちとは裏腹に体は止まってはくれない。
そして遂に、ガっと甘露寺さんの手を自身の両手で包み込む様に掴み、机に乗り出すように、ずいっと彼女に近づく。
「甘露寺さん。いや、蜜璃さん! 俺と────」
結婚を前提にお付き合いしてください。そう言おうと思った時、何処かから聞き慣れた嗄れた声が聞こえてくる。
「カァー! 緊急! 緊急! 一般隊士ガ下弦ノ鬼ト戦闘中! 青梅緑雨、スグニ北東ノ町ヘ向カェェ!」
俺の鎹鴉が緊急の任務を伝えてくる。下弦の鬼と聞いた瞬間、俺は握っていた甘露寺さんの手を離し、傍にに置いてある日輪刀に手をかける。
柱である以上、非番であろうが、いつこの様に任務が訪れるか分からない。
隊士の階級は分からないが、相手が十二鬼月と言うならば危険な事に変わりない。
「すみません甘露寺さん。急な任務故、俺はここで!」
俺はそう言いながら立ち上がり、この場から立ち去ろうとしたその時「あっ、あの!」と言うか細い声が後ろから聞こえてくる。
「青梅さん。お気をつけて」
甘露寺さんの何処か寂しそうな表情に足が重くなる。
本当はもっと甘露寺さんと一緒にいたい。だが、俺は柱だ。柱は下の者を守る責務がある。
例えそれが、見合いの場で告白する直前であったとしても。
「……はい」
俺はそう言うと、鎹鴉の後を追う様に走り出す。
あぁ、くそ。見合いを途中で投げ出して、女性の事より任務を優先する男。
絶対嫌われたよなぁ……
普段鬼に対して特別憎しみの感情や私情は持ち込まないが、今日だけは別だ。
十二鬼月だかなんだか知らないが、わざわざ見合いの日に俺の管轄地域に現れやがって。
絶対にその頸断ち切ってやる。
俺はそう息巻いて、北東の町へと向かうのであった。
恐らく次回はみつりちゃん視点