「……甘露寺?」
気のせいだろうか? このだだっ広い煉獄亭に、甘露寺と言う杏寿郎の声が聞こえた気がする。遂に幻聴まで聞こえ始めるとは……
末期かもしれない。
そんな馬鹿な事を考えながら、お茶とお菓子を持った千寿郎について行く。
いつも杏寿郎が稽古をしている庭園に着くと、そこには杏寿郎と1人の少女の姿があった。
彼女が杏寿郎がとったと言う継子だろうか?
毛先にかけて桜色から黄緑色へと変わるグラデーションの髪は、三つ編みに結われている。顔は俯いていて分からないが、不思議と彼女の事を知っている様な気がした。
いや、嘘だ。そんなはずが無い。彼女がここに居るはずは……
ない。と言う言葉が出てこない。いや、正確には出す事を己が拒んでいると言うべきか。
先程聞こえた杏寿郎の、甘露寺と言う言葉がどうも脳裏に引っかかる。
そんな馬鹿な理想を抱くのは辞めろ。幻聴に決まってるだろ。
そうだ。普通に考えたら幻聴だ。だがその幻聴に、俺は必死にすがっているのだ。
そんな時だ。
「兄上、蜜璃さん。お疲れ様です。お菓子を作って参ったのですが……」
隣で困惑した様子の千寿郎の言葉が耳に入る。
そりゃそうだ。恐らく泣いているであろう少女と、それに駆け寄る自分の兄。いきなりこんな訳の分からん状況に対面したら誰だってそうなる。
って、いや。今はそこじゃない。
千寿郎は今なんて言った……?
蜜璃さん。その言葉にすがる思いで彼女の方を見ると、彼女と目があった。
「「え?」」
その瞬間、つい声が漏れてしまう。
髪は以前とは違う派手な桜色の髪。だけど間違えるはずがない。
そこには甘露寺さんの姿があった。
「む! 緑雨ではないか! 久しぶりだな!」
「え? あっ、ああ。久しぶり杏寿郎」
杏寿郎の言葉で俺の脳内は現実へと引き戻される。
「兄上。この状況は?」
「うむ! どういう事か、甘露寺がいきなり泣き出してしまってな」
頭の上にはてなマークが飛び交っている千寿郎の言葉に、杏寿郎もはてなマークを飛ばしている。
「そうだ! 甘露寺は緑雨に会いたがっていたようだぞ! なんでも緑雨の事が好きだそうだ!」
「「「!?!?!?」」」
いきなり投下された爆弾発言に、俺を含めた杏寿郎以外の3人の動きが止まる。
(兄上。それは言っていい事なのでしょうか……?)
(れ、煉獄さん!? なんで言っちゃうんですか!? え? えっ? 青梅さんがすぐそこに居るのに!)
(………………甘露寺さんが俺の事を好き?)
好き? 好きっていうとあれか? LIKEの事か? それもともLOVE?
てか甘露寺さんが俺に会いたがってたって? そもそもなんで甘露寺さんは泣いてたんだ?
わけがわからない。情報過多で頭がショートしそうだ。
そんな時だ。涙が目に溜まった甘露寺さんの顔が目に映った。
それを見た瞬間、俺は頭の中の考え全てをほっぽり出して、甘露寺さんの事を抱き寄せていた。
頭は混乱してるし、甘露寺さんがなんで泣いてるかも分からない。けど、きっと今を逃したら一生後悔すると思う。
「甘露寺さん。俺と結婚してください」
……あぁ、言ってしまった。言ってしまった!
だけど君に涙は似合わない。
と、思っていた矢先、甘露寺さんは再びポロポロと泣き始めてしまった。
え? そんなに俺と結婚するのが嫌だった!?
「いや、その。結婚と言うか、結婚を前提としたお付き合いと言うか……」
恐らく今の俺は非常に慌てているだろう。情けない。
まさか女性の涙1つでこうなるとは。でもしょうがないじゃないか。告白なんて生まれて初めてしたし、返事が返って来ないどころか、泣かせてしまったなんてどう対処すれば良いんだ。
くそ。宇髄にちゃんと聞いとくべきだった。
「なんで? 青梅さんは気になってる方がいるんじゃないんですか?」
「え? いや、そうだけど。なんでそれを?」
「煉獄さんが……」
甘露寺さんはそう言うと、杏寿郎の方を見る。
杏寿郎〜! お前かぁあ!
まぁ、今は良い。その事については、後できちんと話し合おうな杏寿郎。
それよりも、なんとなく話の繋がりが分かり始めてきた。
「つまり、俺に好きな人が居ると聞いて、俺の事を好き? な甘露寺さんは泣いてしまったと」
「ッー〜! ……そう、です」
よっぽど恥ずかしかったのか、甘露寺さんは真っ赤になって、プルプル震えている。
「あ〜。その、さ。何と言うか…… 俺の気になってる人って、甘露寺さんなんだよね」
改めて口にすると恥ずかしい。つい、頬をポリポリとかいてしまう。
「嫌、だったかな?」
すると、今まで俺の胸に顔を埋めていた甘露寺さんが顔を上げる。
「嫌じゃない。嫌じゃないです。私も、その、青梅さんの事が好きだから」
え? なにこれ? ヤバい。めっちゃ心臓ドキドキする。甘露寺さん、口元に手を当てて、その恥じらいのある上目遣いは反則ではないでしょうか?
でもそっかぁ。お見合い途中でほっぽり出して、絶対嫌われたと思ってた。
けど、甘露寺さんもずっと好きで居てくれたのか……
なら、今ここで決めるしか無いだろう! ここで言わなきゃ男がすたる!
「甘露寺さん。いや、蜜璃さん」
あの時言えなかった言葉を今度こそ。
「俺と結婚を前提にお付き合いしてください」
「はい。喜んで」
そう言った彼女は、今まで俺が見てきたどんなものよりも美しかった。
俺はこの笑顔を、一生忘れる事は無いだろう。
ふぅ。無事お付き合いする事になりました。
タイトル回収も終わり、ここから先のストーリー思うようにイチャつける。やったね!