甘露寺さんの婚約者は雨柱   作:宮川アスカ

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第5話 涙の理由と笑顔の理由

「……甘露寺?」

 

 気のせいだろうか? このだだっ広い煉獄亭に、甘露寺と言う杏寿郎の声が聞こえた気がする。遂に幻聴まで聞こえ始めるとは……

 末期かもしれない。

 

 そんな馬鹿な事を考えながら、お茶とお菓子を持った千寿郎について行く。

 いつも杏寿郎が稽古をしている庭園に着くと、そこには杏寿郎と1人の少女の姿があった。

 

 彼女が杏寿郎がとったと言う継子だろうか? 

 

 毛先にかけて桜色から黄緑色へと変わるグラデーションの髪は、三つ編みに結われている。顔は俯いていて分からないが、不思議と彼女の事を知っている様な気がした。

 

 

 いや、嘘だ。そんなはずが無い。彼女がここに居るはずは……

 

 

 ない。と言う言葉が出てこない。いや、正確には出す事を己が拒んでいると言うべきか。

 先程聞こえた杏寿郎の、甘露寺と言う言葉がどうも脳裏に引っかかる。

 

 

 そんな馬鹿な理想を抱くのは辞めろ。幻聴に決まってるだろ。

 

 

 そうだ。普通に考えたら幻聴だ。だがその幻聴に、俺は必死にすがっているのだ。

 

 そんな時だ。

 

「兄上、蜜璃さん。お疲れ様です。お菓子を作って参ったのですが……」

 

 隣で困惑した様子の千寿郎の言葉が耳に入る。

 そりゃそうだ。恐らく泣いているであろう少女と、それに駆け寄る自分の兄。いきなりこんな訳の分からん状況に対面したら誰だってそうなる。

 

 って、いや。今はそこじゃない。

 

 千寿郎は今なんて言った……? 

 

 蜜璃さん。その言葉にすがる思いで彼女の方を見ると、彼女と目があった。

 

「「え?」」

 

 その瞬間、つい声が漏れてしまう。

 

 髪は以前とは違う派手な桜色の髪。だけど間違えるはずがない。

 

 そこには甘露寺さんの姿があった。

 

 

「む! 緑雨ではないか! 久しぶりだな!」

 

「え? あっ、ああ。久しぶり杏寿郎」

 

 杏寿郎の言葉で俺の脳内は現実へと引き戻される。

 

「兄上。この状況は?」

 

「うむ! どういう事か、甘露寺がいきなり泣き出してしまってな」

 

 頭の上にはてなマークが飛び交っている千寿郎の言葉に、杏寿郎もはてなマークを飛ばしている。

 

 

 

「そうだ! 甘露寺は緑雨に会いたがっていたようだぞ! なんでも緑雨の事が好きだそうだ!」

 

 

 

「「「!?!?!?」」」

 

 

 

 いきなり投下された爆弾発言に、俺を含めた杏寿郎以外の3人の動きが止まる。

 

(兄上。それは言っていい事なのでしょうか……?)

 

(れ、煉獄さん!? なんで言っちゃうんですか!? え? えっ? 青梅さんがすぐそこに居るのに!)

 

(………………甘露寺さんが俺の事を好き?)

 

 

 好き? 好きっていうとあれか? LIKEの事か? それもともLOVE? 

 てか甘露寺さんが俺に会いたがってたって? そもそもなんで甘露寺さんは泣いてたんだ? 

 わけがわからない。情報過多で頭がショートしそうだ。

 

 そんな時だ。涙が目に溜まった甘露寺さんの顔が目に映った。

 それを見た瞬間、俺は頭の中の考え全てをほっぽり出して、甘露寺さんの事を抱き寄せていた。

 

 頭は混乱してるし、甘露寺さんがなんで泣いてるかも分からない。けど、きっと今を逃したら一生後悔すると思う。

 

 

「甘露寺さん。俺と結婚してください」

 

 

 ……あぁ、言ってしまった。言ってしまった! 

 

 だけど君に涙は似合わない。

 

 と、思っていた矢先、甘露寺さんは再びポロポロと泣き始めてしまった。

 え? そんなに俺と結婚するのが嫌だった!? 

 

「いや、その。結婚と言うか、結婚を前提としたお付き合いと言うか……」

 

 恐らく今の俺は非常に慌てているだろう。情けない。

 まさか女性の涙1つでこうなるとは。でもしょうがないじゃないか。告白なんて生まれて初めてしたし、返事が返って来ないどころか、泣かせてしまったなんてどう対処すれば良いんだ。

 くそ。宇髄にちゃんと聞いとくべきだった。

 

「なんで? 青梅さんは気になってる方がいるんじゃないんですか?」

 

「え? いや、そうだけど。なんでそれを?」

 

「煉獄さんが……」

 

 甘露寺さんはそう言うと、杏寿郎の方を見る。

 杏寿郎〜! お前かぁあ! 

 まぁ、今は良い。その事については、後できちんと話し合おうな杏寿郎。

 それよりも、なんとなく話の繋がりが分かり始めてきた。

 

「つまり、俺に好きな人が居ると聞いて、俺の事を好き? な甘露寺さんは泣いてしまったと」

 

「ッー〜! ……そう、です」

 

 よっぽど恥ずかしかったのか、甘露寺さんは真っ赤になって、プルプル震えている。

 

「あ〜。その、さ。何と言うか…… 俺の気になってる人って、甘露寺さんなんだよね」

 

 改めて口にすると恥ずかしい。つい、頬をポリポリとかいてしまう。

 

「嫌、だったかな?」

 

 すると、今まで俺の胸に顔を埋めていた甘露寺さんが顔を上げる。

 

「嫌じゃない。嫌じゃないです。私も、その、青梅さんの事が好きだから」

 

 え? なにこれ? ヤバい。めっちゃ心臓ドキドキする。甘露寺さん、口元に手を当てて、その恥じらいのある上目遣いは反則ではないでしょうか? 

 

 でもそっかぁ。お見合い途中でほっぽり出して、絶対嫌われたと思ってた。

 けど、甘露寺さんもずっと好きで居てくれたのか……

 

 なら、今ここで決めるしか無いだろう! ここで言わなきゃ男がすたる! 

 

 

「甘露寺さん。いや、蜜璃さん」

 

 

 あの時言えなかった言葉を今度こそ。

 

 

「俺と結婚を前提にお付き合いしてください」

 

 

「はい。喜んで」

 

 

 そう言った彼女は、今まで俺が見てきたどんなものよりも美しかった。

 俺はこの笑顔を、一生忘れる事は無いだろう。

 




ふぅ。無事お付き合いする事になりました。
タイトル回収も終わり、ここから先のストーリー思うようにイチャつける。やったね!
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