ギリギリセーフ。
「探せ! 煉獄さんが喰い止めてくれてる間に爆弾をさがすんだ!」
多くの隊員が爆弾を探す中、私も煉獄さんの指示に従い爆弾を探す為に街中を走り回る。
煉獄さんが言うには、帝都中にあの鬼が仕掛けた爆弾があるらしい。
鎹鴉の導きのもとに爆弾がある場所へ向かうと、ズズズズと無数の目の様なものがついた狼達が地面から現れる。
隊員達が話してた! これが影狼!?
なんなのこのワンちゃん! 全然可愛くないわ!
これもあの鬼の能力!?
急いで日輪刀を抜き、斬りつけるも感触はなく、まるで取り込んで来るかの様に日輪刀に巻き付いてくる。
駄目だ。斬れない。集中して呼吸を整えなきゃ。
しかしそんな余裕をくれるはずも無く、1匹の影狼が私の足に噛み付いてくる。
「ッ!」
弱い自分が嫌になる。
才能があるだ何だと言われても、結局実戦じゃ初任務の緊張で煉獄さんに教わった事が何も出来ない。
死と恐怖に支配されて動けない自分が本当に嫌になる。
諦めたい。逃げ出したい。助けて欲しい。そんな負の感情が渦巻く中、ふと目の前に逃げ遅れ、影狼達に襲われている親子の姿が映る。
間違いない。あの時私にぶつかった子とその母親だ。
それを見た瞬間、恐怖で立ち竦んでいたはずの足が動く。
ほぼ無意識。気づいた時には、親子に襲いかかる影狼の事を斬っていた。
……き、斬れた! 斬れたわ!
凄いわ! 考える前に身体が動いた! 何でかしら、どうやって斬ったの私!?
分からない。分からないけど……
「待っててね。あの悪いワンちゃん、お姉ちゃんが追い払うから」
覚悟は決まったわ。できるできないじゃない。今この場でこの2人を守れるのは私だけ! 私がやらなきゃ!
呼吸を安定させろ。酸素を回せ。切っ先まで神経を研ぎ澄ませ。刀を含めて己の身体だ。
煉獄さんの稽古はキツいし、すぐ弱音は吐いちゃうし。肝心な所で足が竦んでしまう私はきっと鬼殺隊に向いてないじゃないかって思ってた。
──君の努力や体の柔らかさもさることながら、奇抜な髪だって見方を変えれば、鬼の気を引き人を明るくする事ができる立派な才能だ!
それに何より、君には人を愛する心がある。君の育てになれて俺は幸せ者だ! 誇りに思う!
煉獄さんはこう言ってたけど、あの時はいまいちピンと来なかった。
だけど分かりました煉獄さん。私はきっと自分を誇れる場所が、自分らしくある場所が欲しかったんだと思います。
鬼殺隊に入って、緑雨さんと恋人関係になって、私は何処か満足していたのかもしれない。
けど違う! 私は胸をはって緑雨さんの隣にいる為に、そしていつかその隣で緑雨さんを守る為に戦う!
もっと柔らかく。もっとしなやかに。そう! もっと私らしく!
どうしよう煉獄さん。こんな状況なのに私! ドキドキが止まらない!
燃え上がる様な恋心を刀に!
【恋の呼吸 壱ノ型 初恋のわななき】
やっ、やった! 倒したわ!
やっと見つけた! これが私の呼吸……!
しかし安心してるのもつかの間、どうやら1匹取り逃してしまっていたらしい。影狼が親子に向かって飛び掛る。
「しまっ……!」
何とか親子と影狼の間に入れたけど刀を振るのが間に合わない!
私の体を犠牲にしてでもこの2人は守らなきゃ!
恐らく来るであろう痛みに備え、キュッと目を瞑った時──
「おいクソ狼、蜜璃から離れろ」
【雨の呼吸 攻式壱ノ型 車軸の雨】
私の予想とは裏腹に、痛みが来る事はなかった。その変わり、そこには私の愛する人の声が耳に響く。
「大丈夫か蜜璃」
ゆっくりと目を開けると、そこには日輪刀を両手で持ち、影狼を突き刺す緑雨さんの姿があった。
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「緑雨さぁあああん!!」
「ごフッ!」
何だかとてもキモイ狼を倒すと、蜜璃が泣きながら抱き着いてくる。
しかしその抱き着きは、彼女の常人じゃない程のパワーが込められている。
いや、嬉しいよ? 嬉しいけども! くっ、苦しいです蜜璃さん。しっ、死ぬ! 死ねぅぅぅぅ!
「あっ! ご、ごめんなさい」
「だ、大丈夫」
それにしても良かった。何とか間に合った。
「緑雨さん。私怖かった。怖かったよぉぉぉ!」
俺の胸に顔を埋めながらそう言う蜜璃。きっと張り詰めていた緊張が解けたんだろう。
けどそうだよな。蜜璃にとっては鬼殺隊になって、これが初めての任務。しかもその相手は十二鬼月。
剣士としての才能があっても彼女は半年前までは普通の女の子だったのだ。
「うん。良く頑張ったな。蜜璃」
優しく。そっと、蜜璃の頭を撫でてあげる。
蜜璃に怪我がないか、上から下へと見下ろして行くと、ある1点で目が止まった。
「ブフッ!」
「えっ? どっ、どうしたの緑雨さん!」
いきなり鼻血を出した俺に驚いたのだろう。
「い、いや。どうしたもなにも……その格好は?」
サイズがあっていないのか、隊服の胸元のボタンが全て開けられていて、とても露出が多い。
初めて蜜璃の隊服姿を見たが、なんだろう。何がとは言わんが、とてもあられもない事になっている。
「こっ、これは、隠の人がこれが公式だって…… これが普通じゃないの!?」
女性はその様な視線には敏感と言う。俺の視線に気づいたのか、蜜璃は顔を真っ赤にしながら蚊の鳴くような声でそう呟く。
「いっ、いやぁ。それが普通って言うか…… い、いや、隠が公式って言うならそうなんじゃない……かな?」
「だっ、だよね!」
いや。そんなわけが無い。これが普通なわけが無い。これがデフォなら今頃何処ぞの蟲柱様は引退待ったなしだろう。ただまぁ、誰が言ったかは分からないがとてもナイスだとは言っておこう。
「そう言えば、なんで緑雨さんがここに?」
「ん? 蜜璃の事が心配で宇隨に任務任せて来た」
「ええ!? それ大丈夫なの!?」
「まぁ、本当は大丈夫じゃないけど。宇隨が良いって言ってくれたし、向こうは何とかなるでしょ。
それで? 今の帝都の状況は?」
「下弦ノ弐の影響で、街中に爆弾が仕掛けらているの。私達は煉獄さんが下弦ノ弐を抑えている間に爆弾の処理をしてるんだけど……」
なるほどね。まぁ、あくまでこれは杏寿郎の任務。余程の事が無い限りは下手な横入れはしないが、杏寿郎が戦いやすいよう爆弾の散策ならば手伝おう。
「それじゃあ急ごう、蜜璃」
「うん! あっ、ちょっと待って!」
蜜璃はそう言うと俺のもとを離れ、先程まで蜜璃が守っていた親子のもとへ向かい、子供の前にしゃがみこむ。
「さっきは言いそびれちゃったけど、私桜餅が大好きでね。いっぱい食べ過ぎたらこんな髪になっちゃったの。ふふっ、へんてこだよね?
もう大丈夫。もう少ししたら隠って人達が助けに来てくれるから!
お姉ちゃんは、あのお兄さんと一緒にやらなきゃいけない事があるからもう行くね! お母さんの言う事ちゃんときくんだよ?」
蜜璃はそれだけ言うと、俺のもとへと戻ってくる。
「もういいのか?」
「うん。大丈夫!」
蜜璃と共にこの場を離れようとすると、後ろから親子の声が聞こえてくる。
「お姉ちゃんありがとう!」
「ありがとう!」
その言葉に蜜璃は振り返る事はない。ただその目から涙が零れていた。
「認められたな、蜜璃。1人で本当に良く頑張ったよ」
それは小さな進歩かもしれない。けど、君のその力は、人を守るだけのパワーを持ってるよ。蜜璃。
そう言えばお気に入りが丁度1000件行ってました!
ここから上下変動はあると思いますが、多くの人に読んでもらえて嬉しい限りです。
いやぁ、まさか自身の3つの作品の内、2つが1000行くなんて思ってもいませんでした!本当にありがとうございます!