響け!ユーフォニアム一年目でゴールド金賞RTA   作:ブロx

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色々(意味深)な事を教わりたかったので初投稿です。







第十五回 その2

 

 

 

 

「今日の放課後だな」

 

「…はい?」

 

 多分信じられないといった顔をしているだろう。私は美知恵先生の顔を凝視して言った。

 職員室内はコーヒーの匂いが漂っていて、そういえば最近コーヒー飲んでないなあなんて感慨にふけることはできなかったけど、大人が飲むコーヒーはきっと全部苦いのだろう。推測だけど、そんな匂いがした。

 

「ちょうど今日、全学年向けの補習講座がある。受験生から苦手を克服したい1年生まで、全てが対象だ。それに参加しろ」

 

「あの、先生?ちょっと仰ってる意味がよく分かりませんが」

 

「簡単に言うと、お前は今日の放課後部活に出ずに補習だ。帆高」

 

「それはクラリネットを。私から――――うばう。ってことですか?」

 

「不断の努力は買うが、今の帆高の学力では永久に奪われるかもしれんという事も視野に入れろ。以上だ。 鳥塚、小笠原にはそう伝えてくれ」

 

「ありがとうございます。失礼しました」

 

「…失礼、しました」

 

 フラフラとした足取りでヒロネ先輩の後をついていく。

なんてことだ。自分なりに勉強を含めた学校生活をエンジョイしてきた筈だったのに、気付いたら硫酸のたまった落とし穴に落ちちゃうぅみたいなもんだ。冗談じゃない。

 

「ヒロネ先輩、もしかして今の私メチャクチャやばい。ですか?」

 

「やばいね」

 

「やばたに…えん?」

 

「やばたにえん」

 

「おっ、来た来た。なに?やっぱり補習?」

 

「やっぱりは余計だよ、あすか」

 

「何故ですか。赤点は取っていませんのにっ!!」

 

田中先輩と晴香先輩が、おっと、と二の足を踏んだ。

 

「落ち着いて桃ちゃん。今まで全部赤点ギリギリってことは、もしもその日上手くいかなかったら全部赤点ってことだよ。勿論可能性の話だけど、危険性は充分すぎるほどある。分かるよね?」

 

「………本番は何が起こるか分からない。ですか」

 

「その通り。でもそれって吹奏楽だってそうじゃない?これからは取りたい点数の、10~20点は取れる勉強をしてかなきゃだね」

 

「今までは全部運が良かった。とは言わないけどさ、帆高ちゃ~ん? ちょ~っと危ない橋を渡りすぎちゃってるね?」

 

「………はい。お昼休みなのに、ありがとうございました」

 

「いいって事だよ。私も昔似たような事があったし」

 

「?」

 

ヒロネ先輩は苦笑いのような微笑みを浮かべながらそう言った。

 

「私が1年生の時だったかな。あの頃は勉強なんざ知るかあ!って感じで部活ばっかりでね。でも私の2個上の先輩が教えてくれたんだよ。何事も繋げて考えていこうって」

 

「繋げて、ですか」

 

「うん。楽器一つ一つに基礎練習があるように、勉強科目にだって似た物がある。どちらも出来た時、きっと勉強もクラリネットも好きになれるってね」

 

「クラリネットも……? ですか?」

 

 まるでどちらも好きじゃなかったと言っているようで。私は少し目を張った。クラリネットパートの3年生兼リーダーを見て。

 

「ああ、ごめん。今よりもっとって意味で。 …勿論簡単な事じゃないけど、桃ちゃんなら出来る。私はそう信じてるよ。どうかな?」

 

「はい。しかと受け止めました」

 

信頼してくれている。なら頑張ってみよう。

 

「いいかな?二人とも。今日の放課後またパーリー会議をひらくけど、これは帆高さんだけの問題じゃない。誰一人だって欠けずに、私達は全国で音を響かせるんだから」

 

「油断せずに行こお〜」

 

 田中先輩が茶化して言う。けれどその瞳は、ちっとも笑ってなどいなかった。やっぱりおっかない。しっかりとしなくては。勉強も音楽も。

 

「やってやりましょう!」

 

 

 

 

「――てなわけで、放課後部活に行けなくなりました」

 

「………桃。変わったね。昔はそんな頭(アホ)じゃなかったのに」

 

「直球すぎる感想どうもありがとう幼馴染(腐れ縁)。昔はやること無かったけど、目覚めたんだよクラリネットに。今は楽器っていう私の全てが有るのだ」

 

「ふ~~ん。どうだっていいけど今日出席する補習科目は?一番苦手ってことでしょ?」

 

「……数学」

 

「ヴぁ~~~」

 

「ヴぁ~~~」

 

 もうすぐ昼休みが終わるという頃に久美子の教室に行った私は、同士(笑)仲間を見つけたような声を二人して出していた。

 

「頑張って下さい桃ちゃん!勉強は学生の本分なのです!」

 

「私も出よっかな~今日の補習」

 

「私みたいにやばたにえんじゃなければ出なくていいんじゃない?」

 

「?そのやばたにえんって何ですか?」

 

「みどりちゃん知らないの?やばいの最上級形だよ」

 

「アイコピー!そんな言語があるんですね、初耳です!」

 

「え?そうなの?何か脱出ゲームっぽい響きで怖くない?」

 

「そこはお茶漬けっぽいって言おうよ葉月ちゃん」

 

「ともかくっ!私は今日の部活を生贄に捧げ放課後補習を召喚!満足できるまで学力向上に努めます!!まあ見てなって。びっくりするから」

 

「あ、今それリリースしてアドバンス召喚って言うらしいよー?」

 

「………ゑ?」

 

なにそれ…。

 

「サティスファクションって言わなきゃダメですよ?桃ちゃん?」

 

「ねえそれって何呪文?効果は何?回復系?弾ける系?」

 

芹にゃんもみどりちゃんも今日は呪文をよく唱えるなあ。流行ってるのかな?

 

「桃」

 

「あ、はい」

 

「今日の補習は英語も受けて」

 

有無を言わさない言葉の気勢に私はコクコク頷いた。

 

 

 

 

 

 

 放課後になると一直線に音楽室に向かっていた為、いつもとは違う道を私は少しオドオドしながら進んでいた。何より皆しっかりと勉強、つまりはそれなりに学生の義務を全うしていたという事実に私は閉口して。つまりは焦燥感に駆られていたのだ。

 

「失礼しまーす。補習を受けに来ましたー…」

 

「ああ、どうぞ。そこの紙に名前と学年を書いて下さいね。ちなみに1年生?」

 

「はい」

 

「良かった。ここは主に1年生向けの内容を行います。好きな席へどうぞ?」

 

「分かりました」

 

 既に座っている人。後から来る人。その皆が皆、黙って、少し笑って、真剣な表情で筆記用具を取り出している。何かを得てやろうとしている。何だか吹部みたいだなあと思って、私はへその下に力を込めた。

 

「では時間なので、始めます。皆さん放課後にようこそ集まりました。色々な考えを持ってこの補習を受けに来たのでしょうが、一つでも二つでもいくつでもね。自身の力に加えていってほしいです」

 

「はい」

 

「元気な返事ありがとう。では早速このプリントの問題1を―――」

 

なんと私だけが返事をしていた。おっと、って感じだ。

 

「――――さて。これが因数分解というヤツですが」

 

「………」

 

 色んな?が解答欄に書いてある私のプリント問題1。

因数分解ってなんだよ勝手に分解すんなよ自然のままにしておけよ。つっこみたい心を抑えて私は耳に神経を集中させた。

 

「基礎となる計算力の向上には、因数分解が最も重要だと先生は考えています。しかしながら皆さんの中には、こんなの大人になってから使う時なんてねえじゃんと思う人もいるでしょう」

 

「……」

 

うんうん。私は頷くのを三回目で止めた。

 

「はいそうです。使う時なんて来ません」

 

「………ぇえ?」

 

「我々教師が皆さんに教えているのは、基礎の中の基礎でありテストの点数の取り方です。この数式を因数分解しなさいなんていう簡単な問題は、社会に出てからは一切出てきません。テストの問題が毎回毎回違うように、とても難しく、変わって、大人になった皆さんの前に出題されます。

 計算力が皆さんに与えてくれる物の一つは、物事を逆算して考える力です」

 

「………」

 

ほむ?

 

「例えば、この前のテストで赤点を取った。学年順位が大きく下がった。これこれこういう失敗をした。何故?どうして?原因は?あれかな?これかな?それとも? なんて一つずつ悠長に考えてられるほど人間の人生は長くありませんし、皆さんの時間の無駄です。大体二つくらいの塊に分けて、それから取り組めば良いのです」

 

このプリントの(ⅹ+y)(ⅹ−y)のように。先生はそう続けた。

 

「最終的な解。数学でいう答え。それは物事の結果と同じ意味です。どの塊達が掛け算されていってそうなったのか?それらの展開式は? さあ次の問題、頑張って解いていきましょう」

 

―――やってやる。頭が痛くなる因数分解の数字を見て、私は奮起した。

 

 

 

 

 

 

「先生。ありがとうございました」

 

「はい、気を付けて帰ってくださいね」

 

 微笑む先生に皆が会釈して教室を後にする。

………難しかった。でも何とか納得は出来た。自力で解くことも。私は身支度を整え、次の英語科目の教室へと向かおうとして、ふと先生に声をかけた。

 

「先生」

 

「はい?」

 

・・・・・。

 

「基礎の内容をもし忘れてしまったら。私は終わりですか?」

 

「そうならない為に私達は点数法を採用し、教えています。話を忘れると損をすると」

 

「……。絶対に忘れないでいる方法はありますか?」

 

「人は自分の損得に関係のない話を憶えようとしません。残念ながら。 そして損得とは、生きている内に変わっていく人もいます。得だとあの日信じたものが、実は損だと。その逆もまた」

 

「………」

 

楽器もだろうか。私は二の腕を撫でた。

 

「大丈夫。そう言うのは単純に過ぎます。 なので帆高さんには、自分から疑問を持って日々頑張ってほしいと先生は言います。頭は私なんかよりも柔らかいんですから」

 

「…逆算していきながら。ですか?」

 

先生は笑みを深めながら、私の眼を見て一回頷いて言った。

 

「はは。まあでも、これ一回こっきりでもう教えなくていいのなら、教師も学校も必要ないですよ。たくさん積み重ねていきましょう」

 

「――はい」

 

 お辞儀をしてお腹に力を入れ、私は顔を上げる。返事をすると、先生は綺麗にお辞儀を返していた。

 

 

 

 

 

 

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