ガバる奴(ヤツ)は‥‥“不運”(ハードラック)と“踊”(ダンス)っちまったんだよRTA、はぁじまぁるよー。
コンクールメンバーに選ばれる為練習につぐ練習を重ねてきたホモちゃん!
奇跡はガバと努力の先にあるので(ほんとぉ?)選ばれるのは確実と見ていいですね。なので今回は布石を打ち込みましょう。
府大会、関西大会、全国大会。
今RTAでは大きく三つのコンクールがありますが、その全てにレベル数値が設定されています。戦闘力か何か?
北宇治高校吹部メンバーの演奏レベル合計がその数値より高ければクリア。低ければ終わりです。つまり吹部の演奏力-大会のレベル=結果という訳ですね。所謂アルテリオス計算式。古風ですね。
でも知っての通りホモちゃんはおろか全てのキャラクターにもコンディションだとか精神状態だとかノリだとかがあるので、本番当日になってもこんなの誤差だよ誤差!!の領域にまで押し上げなくてはなりません。ランダムイベやら定期イベやらクソイベやらを突破してえ!(狂ぅ^~)
なので今日は居残り練習をせず駅前の和菓子屋さんに直行します。まま、そう焦んないで。この日この時間こ↑こ↓の場所へ行くと~?
「ええ~! もう売り切れですかあ!?」
「ごめんね~今さっきに」
「しょぼーん」
わざとらしいリアクションどうもホモちゃん。
さてここはスキップできません。スキップするとイベ自体がカットされる危険性があります。これは・・・RTAじゃな?(疑問)
「……。よかったらどうぞ」
「あ、いえいえ!そんなお構いなく!また次に買いに来ますので!」
「そうですか」
しゃあ!来た。あとはどうだっていいので終わり!閉廷!以上スキップ!ホモちゃん君もう帰って飯食って寝ていいよ。
さて、翌日。
朝は(練習しないという選択肢が)ないです。いざ学び舎。音楽室の施錠は?
『おはようございます。鎧塚先輩』
お、開いてんじゃーん!
この人はみじょれ、じゃなかった吹部の孤高の奏者・鎧塚みぞれ先輩です。オーボエ吹いたら右に出るものは全国でもそうはいません。いわば彼女は北宇治高校吹奏楽部の力の象徴。左右両翼の右です(九垓天秤)
彼女は必ず朝一で楽器の練習してるので、ホモちゃんも一緒に練習して信頼値を上げておきます。早起きは三文の徳!
でもこの子に必ず会えるんならタダでも喜んで早起きする、早起きしない?しかもみぞれちゃんと一緒に練習すると何故かホモちゃんの演奏レベルの上昇が著しいのです。α波でも出してんの?
さてそんなこんなでオーディションも無事終わって、ホモちゃんがクラリネットパートの大会メンバーに選ばれたところで今回はここまで。ご視聴ありがとうございました!
◆
「……。よかったらどうぞ」
「あ、いえいえ!そんなお構いなく!また次に買いに来ますので!」
「そうですか」
その日。
好きな和菓子を買ってこれからの練習のモチベーションを上げようと思ったら、タッチの差でラストワンが売り切れ手遅れ。私の運のない事はこの上なく、何もかもおしまいだあ。なのでしょぼーんと声が出てしまうのも仕方の無いことだった。
そしてそんな時、ジッと見詰める視線に私は気が付いた。
「好きなんですか、栗饅頭。…若いのに渋いこと」
「ここの栗饅頭は別格です~!!家にストックがないと安心できないくらいで!」
「……成る程。そういうあなたは、北宇治の子ですか」
「はい!」
バリバリのキャリアウーマン然とした人だった。
私が買いたかった栗饅頭の袋を手に提げ、話しかけてきたその人は、でも弱肉強食がこの世の常でしょう?と瞳に色を映している。
なんか怖そうな人かも。
「吹奏楽部かしら?」
「その通りです。よくご存知で!」
「その肺活量と息の吐き方。しゃべる時の、無意識な唇と喉のクセ。たぶん口内炎があるかしら? クラリネットでしょう、楽器」
「!? ご慧眼…っ」
訂正、凄い人だった。
しかも誰にも言ってない筈の長引いてる口内炎の事まで。……経験者?
「同じ和菓子好きとしての忠告です。忙しくても、今ケアを怠っては駄目よ。特にあなたのような初心者は」
「あ、ありがとうございます!!」
「では」
スーツ姿が決まってるその女性は、素早く夜闇の中に消えていった。…また会えるかもしれない。私はひしひしと、そんな予感を感じていた。
◇
ネットで調べた方法をやってみたら、痛みはだいぶ治まった。
内容は生理食塩水でうがいをするというものだったけど、寝る前にうがいをして朝起きてまたうがいをしたら非常に効いた。う~ん、何事も試してみるものだなあ。あとはミントティーを飲むのが良いらしく、今度はそっちを試してみようかな。
「おはようございます。鎧塚先輩」
「…おはよう」
さて、吹奏楽部員の朝は早い。
いつもの日課をこなして音楽室に来ると、2年の鎧塚先輩が既に楽器の音出しをしていた。
自分のクラリネットの用意をしながら、その姿を盗み見る。
肺と腹部の上下、呼吸のタイミング、運指、音色、足のスタンス、醸し出ている雰囲気。その全てが私にとっては新鮮で勉強になっていた。
「……帆高さんは、」
「え?は、はい」
「コンクールメンバーに、選ばれたいの?」
「はい。勿論です」
「追いつく為?」
「はい」
「………そう」
「あの、先輩は、」
「…?」
「先輩はメンバーに。選ばれたくないんですか?」
「分からない」
「オーボエ、いつもすごいですね。好きなんですか?」
「それも。分からない」
「そうですか」
「……そう」
他人に語って聞かせるような物ではないのだろう。全ては自分の内側に。その証拠に先輩の出す音は、いつも黒い色を纏っていた。
「格好いいですね、鎧塚先輩」
「……。?そう…」
全身で音楽を表現してるその姿勢。ヒロネ先輩や田中先輩とはまた違った独特の空気。でも奏でるロングトーンは、音色は皆一意専心。それこそが共通項。
…私は今日のオーディションで今までの全てを込める決心をした。
◇
「失礼しますッ!」
そして来たるべき放課後。ドアを開け閉め。
声を出すと、室内には顧問と副顧問の先生方が勢揃いしていた。…一礼して、顔を上げる。すると滝先生に椅子を促された。
「どうぞかけて下さい」
「はい!」
「学年と名前と担当の楽器を」
「1年・帆高桃。クラリネット担当です!」
「帆高さんは高校からクラリネットを始めたんでしたね?」
「はい!」
「他の楽器を吹きたいとは思わなかったのですか?」
「ありません。クラの音が好きなので」
「成る程、分かりました。では課題曲の頭から吹いてみてください。とりあえずは私が止めるまで。 メトロノームを鳴らしますので、好きなタイミングで始めていいですよ」
「はい!!」
何回も練習した。練習を見てくれた。先輩も同輩も。
聴いてくれた。こんな素人が出す音を。
負けるわけにはいかない。
「―――っ!!!」
ヒロネ先輩も。葵さんも久美子も誰もかも。この場に来ればやらなくちゃいけないって気持ちになる。
じゃなきゃ嘘だ。せり上がってくる胃の奥も、縮こまってくるこの肺も。
お願い言う事を聞いて。邪魔はしないから。全力以上を出させてほしい今ここで。…私は最後まで続けたいの。続けるの。
「はい、そこまで。では次は自由曲の―――」
もう負けるわけにはいかないの。
「はいッ!」
あの頃、小学校も中学も。熱中できる物なんて何もなかった。
幼馴染は毎日頑張ってて、私はその子の話を聞いて自分も頑張ってる気になってただけの日々だった。
…生きるって事はそういう事なんだって悟ったりもした。
だって誰かの頑張りを見聞きしてれば、自分も熱くなれる。私は生きてるんだって実感できる。
十代で!中学生で私は!この世の真実ってやつを知れた!!その辺の人達とは違う!!!
そう思うと心は楽になった。だって目の前には壁も道もない。未来が広がってる。恐いものも無い。私は生きている。
――でもある日、幼馴染は壁にぶつかった。
いつものように吹奏楽の話を聞こうとしてあの子に会うと、暗くて冷たい断崖の底みたいな眼を久美子はしていた。
『どしたの? 久美子』
『あ~……えっとね。1年でコンクールメンバーに選ばれました』
笑顔で、無邪気で、私はいつも通りです。
そう汲み取ってと書いてある顔。何も無かったよと、強張っている瞳と空気。
―――おい誰だ。
『いや~…、何事も、続けてみるもんだねえ』
―――誰だ。
『あはは~。一生懸命、やった甲斐、があったよ~』
―――こんな愛想笑いの外面を頑張ってるこの子に教えてくれやがった奴は、どこのどいつだ。
私はまるで自分の事のように義憤にかられた。
◇
『この前たまたま通りかかって聞いたんだけど。黄前、3年のユーフォニアムの先輩と何か揉めたらしい』
『ありがと芹菜。お礼に月と貴女に花束を、今度貸すよ』
『それもう読んだ』
◇
『すいません。吹奏楽部の方ですか?』
『? そうだけど』
『ユーフォの3年の先輩。何組か分かります?』
『………』
『あ、わたし帆高っていいます。ちょっと相談したい事があって』
『…私は高坂。たしかこの上の2組の筈だけど』
『ありがとうございます。高坂さん』
◇
―――見つけた。
『先輩。少々お話が』
『何何?1年の君が何の用事?おっかない顔してるけど??』
―――お前か。
『すいません、お忙しいところ。先輩は確か吹奏楽部の3年生ですよね?』
『うんそうだよ?』
『私は今は帰宅部ですが、2年生になったらどこかに入ろうと思ってるんです。アドバイスを頂けないでしょうか』
『初対面の私に?』
『はい。他でもない吹奏楽部3年の、先輩に』
『う~ん。そこまで言われちゃねえ…。あ、じゃあ一つアドバイス!』
『はい』
『―――吹部だけはつまんないから止めときな。あそこ、頑張っても報われないから』
頑張ってもないくせに報われる事ってあるんですか? 私はそう言ってひっ叩かれた。
一歩も動けなかった私は、何で頬を叩かれたのかよりも、何故こんな発言が出たのかが不思議でしょうがなかった。
だってどの口が言うのか。
頑張っていたならこんな過程にはならなかった。すぐさま傷ついたあの子を抱きしめる事だって出来たし、すぐさまこのゴミクズを殴り返して幼馴染に手を出した落とし前をつけさせる事だって出来た。
あんなこと、こんなこと。なのに何故そんな事が出来なかったか?口だけだったのか?
―――全部余所の出来事だからだ。
自分の事のように?義憤? 嘘ばっかり。
心の底では所詮自分じゃないんだからと高をくくって分かりやすい悪に飛びついて、いざ自分が害されたら石ころみたいに黙って何もしない。今みたいに。
でもお得意でしょう?悟るのは。生きるってのはそういう事なんだよ。
お前はずっとその辺の石ころのような存在で、毎日頑張ってる幼馴染のあの子とは違うまま。
絶対。一生。生涯。変わらない。
…それでいいの?
頬はもう痛くない。でも心だけは三年間痛いまま。それは今までも、これからも続いてく。
…それで。いいの?
「―――はい、そこまで」
「……っ、はあ……」
「お疲れ様でした。もう結構ですよ。次はフルートの人達を呼んできて下さい」
「…はいっ」
なんとも恥ずかしい思い出を力に変えた私の演奏は、滞りなく上手くいった、と思う。少なくともミスはなかった筈。全部を出し切った感覚は、止まらない汗がその証拠。
高まる心臓と肺を手で押さえ、不安を呼ぶ脳みそに何度も何度も元気と酸素を送る。そしてフルートの人たちを呼ぶ廊下の途中で、私は久美子に会った。
「………」
「………」
あの頃とは違う背丈と歩幅。纏ってる緊張の色。
大丈夫?と小さくチョキをつくる右手が視界に入り、私はグーを右手でつくる。
―――悔いはないよ。
目は合わなかったけれど、それがなんだか嬉しかった。