守りたいものができるのはいいことだ。
守り続けた自分は、それを失ってしまった。
また、守りたいものができた。
今度こそ、ずっと守っていよう、そう思った。
また失ってしまった。
目の前で、守るべきものの命が消えていった。
どうしてだろう、残ったもの達の視線が痛い。
次々に消えていくもの達。
私はとうとう、涙さえも出てこなくなった。
住む場所も、世界も、ゆっくりと変化していく。
なのに、私はいつになっても変わらない。
お腹も減らない、喉も乾かない。
涙もでなければ、血も出ない。
私は非道い人間になってしまったものだ。
人の死を目の当たりにして泣けず、人と笑い会えず、触れ合えず。
いつからだろう、これほどまで脆いと思ったのは。
いつからでしょう、あなたがそう思い始めたのは。
いつから、「人」はこんなにも弱く、強く、真っ直ぐで、折れ曲がったのだろう。
どうして、自分を人と認識しなくなったんだろう。
考えるのをやめた、あの日は、もう何年前だろうか。
あの時、「自分」を捨てて、世界を彷徨い始めたのはいつだろう。
世界はもう一度戦争を迎え、絶滅の危機を乗り越え、また新たな平和へ進んでいた。
目の前には、音を立てずに燃え盛る炎と、荒れ果てた土地。
これも、平和への道しるべなんだろうか。
何人ものヒトが、倒れている。
血も涙もない私にはどうすることもできない。
痛みに顔をしかめながら、だれかの名前を呼ぶ者。
言葉すら発せられず、命儚き者。
恐怖に飲まれ、引き金を引く者。
とめられない。
そんな荒野を彷徨う私には、生きる意味はあるんだろうか。
守りたいものも、壊したいものも、すべて無くなって。
命の息吹すら感じられない大地にたって、私は何がしたかったんだろう。
家へ、帰ろう。
きっと、迎えてくれるはずだ。
私の…何かが。
家は何事も変わりなく、いつものように人がいた。
けれど、私の居場所がない。
ここじゃないんだ、私の家は。
磁力に引き寄せられる砂鉄のように、私の居場所を追い続ける。
石造りの何かがずらりと立ち並ぶ、重い空気の世界に出た。
見渡す限りの石と、それに刻まれている名前。
墓地だ。
ここは落ち着く。 私の気が狂ったわけではない。
ここが家なんだ。
そこらに座り、眠ろうと思えば、誰かの声がする。
「あんた、いつまで外で遊んでたんだ?」
「遊んでたわけじゃないさ。」
「じゃあ何しに?」
「特別することはないさ。」
「なんで帰ってこなかったんだ?」
「守りたいものがあったからさ。」
「守りに行ったんじゃないのかい?」
「守る力も、知恵も、なにもなかったのさ。」
「それは、いつわかったんだい?」
「昨日のことさ。 それより今眠たいんだ。」
「あんたに客が来てるんだ。 さっさと帰らせてくれ」
「僕にかい?」
「やあ、こんにちわ」
「こんにちわ、君は誰?」
「名乗る程でもないさ。 強いて言うなら、門番さんかな」
「じゃあ門番さん。 なんで僕を待っていたんだい?」
「君は長居をしすぎたのさ」
「長居もなにも、私は だ。 この世界のどこに居ても一緒だろう?」
「人間は、君みたいに長生きはしないよ」
「やめろよ、まるで僕が じゃないみたいじゃないか」
「気付かなかったのかい? 君はもう じゃないんだよ」
「え? もう一回言ってよ、聞き取れなかった」
「…もう一度いうね。 君はもう、人間じゃないんだよ」
「冗談よしてくれ。 僕にはちゃんと身体が…」
「ないだろう?」
「……やめてくれ」
「やめないさ。 君のおかげで何千年も待たされたんだ」
「やめてくれ…」
「さあ、もう帰ろう。 君の居場所はこの世界じゃない」
「やめろよ」
「頑固な だ。何を守りたかったのか、聞いてもいいかい?」
「…五月蝿い。 何を守ったっていいじゃないか」
「…本当に頑固だね。 君はもう」
「わかってるよ」
「わかってるなら、どうして帰らないんだい?」
「帰りたくなかったんだ」
「嘘つき。 帰りたいけど、帰れなかったんだろう」
「なんでわかったんだ」
「さぁ? なんとなく」
「…帰ってもいいのかな」
「みんなが、首を長くして待ってるよ」
「…うん」
客が動いた。 よりかかっていた石には、自分の名前があった。
「……」