マリンフォード頂上戦争の後にあったであろう合同葬儀の話。

※Twitterで掲載していたSS(現在は削除済み)を少しだけ改訂したものです。短め。

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戦士に贈る葬送歌

 マリンフォード頂上戦争から数日、戦後処理も幾分か落ち着いてきた頃。半壊した海軍本部から十数海里ほど離れたとある島では、頂上戦争で戦死した海兵たちの合同葬儀がしめやかに執り行われていた。遺族はもちろんのこと、入院中の患者と当直を除き、センゴク元帥をはじめとする本部勤務の海兵ほぼ全員が参列する大規模な葬儀である。その参列者の多さが、皮肉にも、海軍の受けた甚大な被害を冷酷に物語っていた。

 

 しかし、かつてないほどの人間でごった返しているにもかかわらず、島は重苦しいまでの沈黙に支配されていた。墓標をとまり木にするカモメも空気を読んだのか、今日は鳴き声ひとつ漏らさない。拡声電伝虫を通して聞こえる神父の祈りだけが、曇天の下にもの悲しくこだました。

 

 この島は、海軍の共同墓地を建設するために開拓された島だった。以前は大きな森林があるだけの無人島であったが、今やその面影は薄まり、冷たい墓標が陸地の半分以上を埋め尽くしている。今回の戦死者を祀る祈念碑と慰霊塔で、さらに緑地は削られたため、もはやこの地に森林があったなどとは誰も思わないだろう。ここはすでに、鎮魂の場へと姿を変えていた。あとは、船が停泊する小さな港と、大して高くもない簡素な防波堤があるだけだった。

 

 拡声電伝虫が、パタリと閉じられる聖書の音を拾う。葬儀はつつがなく終了した。張り詰めた厳かな雰囲気が霧散し、次に、人のすすり泣く声がポツリ、ポツリと現れ始めた。哀しみは波紋のように広がり、やがて皆が死者を思って俯き、肩を震わせた。空を覆う分厚い雲も、ついに堪えきれず涙の雨を降らせた。

 

 そうやって誰もが悲嘆に暮れる中、突如、どこからともなく、小さな、しかしよく通る歌声が潮風に乗って人々の耳に届いた。

 

『海は知っている──』

 

 歌われているのは、海導だった。鎮魂歌(レクイエム)として口伝で継がれる世界的に有名な民謡である。海導を聴かず、歌わずに一生を終える船乗りはひとりもいない。航海中に死者が出た船では、甲板作業中にこの唄を歌って故人への慰霊とするのが、海に生きる者の習わしだからだ。そうして死者を母なる海へ還すとも、生存者を底無しの海へ落とさないようにするとも謂われるが、真偽は定かではない。ただ、海導が歌われる場面には必ず死者がいるという事実が、虚しく横たわるだけである。

 

 そして今も、海導は弔いのために歌われていた。はじめは消え入りそうだったか細い音量が、ひとり、またひとりと歌う者が増えるにつれて大きくなっていく。涙を無理やり引っ込めた海兵たちは、礼装の上からでも分かるほど胸をふくらませ、音程など気にしない大声で、ありったけの心を込めて歌っていた。そんな男たちの野太い歌声は荒波のようにうねり、いつのまにか泣き声をかき消してしまった。もう誰が泣いて、誰が歌っているのか分からない。それでも、彼らのうちの誰ひとりとして、死者をあざ笑いなどしなかった。皆が思い思いの方法で、最大の敬意をもって、英霊の魂を見送っていた。

 

 勇敢なる海の戦士たちよ! 

 母の下へ還りし命たちよ! 

 海底のヴァルハラで、いつか必ず、また会おう! 

 

 止まない雨と歌声に乗り、魂たちは、母なる海へと導かれる。

 

 

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