抜きゲーみたいな島に派遣された対魔忍はどうすりゃいいですか?   作:不落八十八

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対魔忍・アサ特効!

 リビングのソファで無意識にイチャつき始めた二人からそっと離れた一同は、二階に上がる廊下に集まり笑みを零した。淳之介に至っては二人のてぇてぇに心を打たれたのか目尻から涙が零れる程に感動していた。文乃は手拭いを着物の懐から出してその涙を拭いてやり、奈々瀬は同じく感極まるように貰い泣きをし、ヒナミは健気にお背中とんとーんと労い、美岬は肩に手を置いて静かに頷いていた。

 

「まさか、あのアサちゃんがあそこまで意識する異性ができるなんて……」

「立派に育ってくれたのだわ……」

「少々破廉恥ですが、乙女心を分かっていらっしゃいますね……」

「何で皆さん親目線なんですか……?」

「うんうん、分かるな。嬉しいな。私も時々礼ちゃんの世話をするトキあるからその気持ちは良く分かるな。今日もちゃんと成長してくれてるってなぁって思うもん」

「いやあの、礼ちゃんってまさか糺川先輩の事じゃ……怖いので口閉じておきますね」

「那須君も大分アサちゃんを意識してるみたいだし、このままくっついてくれると良いんだが……」

「意地悪なお方ですが、確かに性根は悪い方ではありませんからね……」

「そういえば噂になってたわね。一年に紳士的な優良物件な子が居るーって。多分那須君の事よね」

「美少女な姿をした紳士って言われてるそうですね。何でも、誘いに行った女子が軒並み口説き文句で赤面してお流れになっちゃうって話ですよ?」

「それはまた……、所謂ヅカ属性って奴か?」

「かも知れないわね。ああ言う所を見ると女たらしな一面もあるみたいだしね」

「でも、麻沙音ちゃん凄く嬉しそうで良かったね。重くて大変だーって聞いてたけど、すっかり元気になっちゃったみたいだし」

「そうだなぁ……」

 

 頷いた淳之介の視線に続くように一同の視線がリビングへと向けられる。そこには終始顔を真っ赤にして大人しくなった麻沙音を甘やかす那須の姿があった。弱っている姿が可愛くて仕方が無いと言った様子で髪を優しく梳いているようで、嬉しさと羞恥心と鼓動の高鳴りで限界極まっている麻沙音はされるがままだった。実際の所、その梳き方は手慣れたものであり、気持ちの良いところを刺激してくれるため心地が良いのだった。

 

「うなぁぁぁ……ごろにゃぁあん……」

「よーしよし……」

 

 女性を甘やかすのに手慣れているというよりは、愛玩動物を愛でるのに慣れているという様子であった。その様子に段々と違和感を感じ始めた一同は目をぱちくりとした後に、振り返ってお互いを見て同時に小首を傾げた。

 

「なんか違くない……?」

「カップルのそれっていうよりも、飼い主とペット的な感じがするのだわ」

「もしかして、あっちで那須くん猫さん飼ってたのかな」

「むべ……、随分と手慣れているように見えますね」

「段々と麻沙音ちゃんが首輪を付けた家猫みたいな感じに見えてきますね……」

 

 飼い主に甘える家猫、そんなフレーズが似合う光景に一同が困惑し始めた。心なしか麻沙音の頭に垂れた猫耳と首輪が見え始め、ゆらりゆらりと尻尾が揺れているように見え始めた。まぁアサちゃんが幸せそうだしいいか、と淳之介が気の抜けた声と苦笑を零したのきっかけに解散する事になった。

 

 と、言っても今度こそは、と気を遣ったメニューを作ろうと一念発起した奈々瀬はキッチンに赴き、お手伝いするねーとそれにヒナミが続き、ご助力致しますと文乃が参戦する。残された美岬は唸りつつ、このまま帰るのもなぁとキッチンの方へ向かって配膳当たりの手伝いをしようとして、狭いからと追い出されてリビングの端っこで麻沙音たちを眺める作業に戻った。

 

 随分と賑やかになったな、と淳之介は無自覚ハーレム主人公めいた事を思いながら、幸せそうな麻沙音を一瞥して笑みを作ってから二階の自室へと登って行った。

 

「……さて、俺もできる事をしなくちゃな」

 

 自室へと戻った淳之介は先日の事を思い出しながらパソコンの電源を入れて椅子に座った。先日の事、それは文乃もとい葉琴を救い出した時の事だ。麻沙音が用いる探知の根源は淫スタが持つGPS機能を横取りするものであり、ヤクザや一部のお忍び観光客はこの淫スタを一度は入れてから消しているか、または入っていない端末を常備している。そのため、先日の遭遇戦ではハメ撮りカメラもといスパイカムの無い森林という事もあって検知できない敵と戦う事になった。

 

 NLNSの基本方針は逃走&奇襲による電撃戦である。そのため、T-A-EはEGG型多種類ガジェットを初めとして非戦闘アイテムになっているのが現状だ。今後はSSの訓練もあって開発をするならば今がベスト、そう考えたからこその一念発起だった。

 

「と、言ってもだな。格好良い武器を作るってなると確実に持ち物検査に引っかかる。……だから、うん、仕方が無い、仕方が無いんだ……」

 

 凄い複雑そうな顔でデスク下の引き出しから取り出したのはピンク色のバイブ。ノートパソコンが持ち物検査で摘発され、アダルトグッズは素通りされる異常な光景を見てしまったが故にこの形しかなかったのだった。参考のためにと買ったのは良いが、那須の参戦と文乃の加入により後回しにされていたのだ。

 

 バイブを観察し終えた淳之介は非常に複雑そうな顔で、素材を変えることぐらいしかできない、とつまらなそうに呟いた。バイブに使われている素材は、デリケートな部分へ挿入することを想定しているため柔らかな素材を使っている。その部分を硬質化させれば警棒のような使い方ができるというのが見立てだった。

 

 そして、それに使うべき素材は秘密基地にて回収した衝撃によって硬質化する液体を用いる事で、持ち物検査の時に万が一触れられても素材の柔らかさを残し、実戦時には衝撃を与えて警棒と化すマルチウェポンとなる予定だった。参考にしたバイブ型のT-A-Eを作るのは確定として、問題は他のメンバーの戦力強化アイテムだった。

 

「那須君を除いて女の子ばかりだしな。……軽く、そして携帯の利便のあるもの。もしもの強行突破を考えれば防御系のT-A-Eだな。……一応、拳銃の弾丸を受け止められる事は流れ弾が当たった壁尻オブジェで確認済みだ。となると、人体の急所を守って隠し通せるアイテムとなると……鎖帷子か? いや、網タイツ構造を起用してd10oを素材にすれば……」

 

 アイデアをパソコンのメモに書き起こしていく。実銃の恐ろしさに加えて味方の容赦無さを思い返し、防御に極振りしたT-A-Eを作りたいと考えているようだった。秘密基地に残されていた不思議な液体d10oは衝撃によって硬質化する液体素材であり、チューブに通すだけでも優秀な防護服になるポテンシャルがある。黙々と机に齧り付き、既に試案ができていたためかスムーズに完成にまで漕ぎ着けた。

 

 バイブ型の穿き丸。

 そして、新T-A-E――防護ネット型の鋼の乙女が完成して机に並んだ。

 

 伸縮自由の素材を用いる事で網目細かい構造でありながら、さながら腹巻のようにいざと言う時に臓器を守る鉄壁となる新T-A-Eには、淳之介が思う安全の精神が込められている一品であった。SサイズからXLまで一応試作し、後程個々に合わせて調整する形にするか、と一応の完成に強張った肩を伸ばすため手を組んで伸びをする。長時間熱中していたからか凄い音が鳴ったが、その分爽快さも持ち合わせていた。

 

「ふふふっ、自分の才能が怖いぜ……」

 

 二時間程熱中して作っていたようで窓を見やれば既に日暮れに近い時間だった。額に浮かんだ汗を拭う、窓から聞こえてくる嬌声が耳に入らない程に集中していたようだ。凝り性であると自覚しているが、久しぶりにここまでアイデアを上手く落とし込めたのは一重にメンバーへの友情が成せるものだろう。そう淳之介は満足そうに頷いて乾いた喉を潤すために一階へと降りた。

 

「ふぅ、随分と熱中しちまったぜ……」

「あら淳、夕飯はもう少しかかるからもう少し待ってて」

「今、美味しいお夕飯をご用意しておりますので、どうぞごゆるりと」

「あっ、橘くん! 今日は私もご相伴に預かってもいいかな? 不束者ですが何卒よろしくお願いします」

「あっ、はい。……ありがとうな、皆。アサちゃんのために心配して残ってくれて」

「良いのよ。大切な仲間なんだから、これぐらいはしてあげるわよ」

「そうだよ。大変なトキだからこそ一致団結だよ!」

「むべ、良き御友人に恵まれましたね……」

「そうだな、皆自慢の仲間だ。……そういや、畔はどうした?」

「美岬ちゃんならあそこでずーっと三角座りしてるよ。なんでも、目の前のおかずを前に耐える訓練をするんです、だって。橘くんの羞恥心教育の賜物かな。暇潰しにオナニーするのを我慢する事で人前でやらない事を条件づけるとかなんとか?」

「あはは……、随分と徹底してるみたいね。……まぁ、この前の撃墜王の打ち上げの時に、私たちの前でこっそりオナニーしてたって話だし、真人間になるには苦行も辞さないっていうスタンスで行くみたいよ」

「……なんだと?」

 

 家主の前でオナニーしてたのあいつ、と淳之介は若干SAN値を削られたが、畔だしな、と嫌な納得をして溜息を吐いた。まあ、これからドスケベ抜きをするならまぁいいかと。渋抜きをする柿みたいな扱いを無自覚にしつつ場を流す事にした。この事を追求するとお互いにダメージが入るので止め止め案件だったからだ。

 

 美岬を一瞥した淳之介はリビングの真ん中に陣取るソファへと視線が向いた。そこには穏やかな笑みを浮かべて眠る麻沙音と、膝枕をしたまま寝落ちしたらしい那須の微笑ましい光景があった。

 

 優しい笑みを浮かべた淳之介は姦しいキッチン、美味しそうな夕飯を見て涎を拭く美岬、仲良し主従なソファ。この微笑ましくも充実とした空間を見て、ずっとこのままだったら良いなと幸せを噛み締めた。噛めば噛むほど良い味が出る、そんな素晴らしい仲間を、家族を持てて俺は幸せだな、と守りたいものを改めて自覚した。

 

 この時間を続けるためにも、裏風俗を、そして、忌まわしきドスケベ条例を絶対に潰して見せる、そう新たに設定した目的に邁進しようと淳之介は決意した。

 明日から始まる、那須曰く汚いハートウーマン教官による地獄のSS訓練に挑む淳之介は強くならねばと普段の筋トレメニューを少し強化するかなと考えた。もっとも、那須と桐香の手が入り、ナイトメアと化した訓練メニューが待ち受けている事は知る由も無く、今日の夕飯は何かなと気持ちを入れ替えた。

 

「はい、淳。特性の筋トレドリンクよ」

「おう、ありがと奈々瀬……。おい、奈々瀬? ……奈々瀬さん?」

「困惑するのは分かるわ淳。けどね、見てみたいなって思っちゃったのよ」

「……マジか。いやまぁ、確かに有名だけどさ……」

 

 淳之介が手渡されたそれは、五つの生卵と飲みやすいようにか少量の牛乳の入った生卵ジョッキだった。作中ではコップに入れられたそれだが、こうしてジョッキで入っていると何処か力強さを感じる飲み物になっていた。何を隠そう隠れ筋肉フェチな奈々瀬は彼の有名な作品を視聴した事があり、キッチンでの話題で映画の話が上がった事で思い出したため、場のノリで作った代物を用意してみたのだった。

 

 大切な仲間のお茶目な悪戯に淳之介は度肝を抜かれたものの、確かにやった事がないなと興味心が湧いてきていた。ジョッキを受け取り、男らしく豪快に一気飲みした。意外とスムーズに飲み干せるそれに少し感心したが、目の前の女性陣はそれどころじゃなかった。何せ、部屋着では薄いシャツを好む淳之介だ。今もマンボウの絵がぽつんと描かれたダサシャツを着ているものの、引き締まった筋肉は服の上からでも分かるくらいにうっすらと線を作っている。

 

 そのため、飲み干す時に動く喉の動き、薄っすらと浮かび上がる鎖骨、そして、重いジョッキを口元へ持ち上げた事でナイスバルク化した二の腕の逞しさが顕著になっていた。

 

「あぁ~~~っ、淳の躍動する筋肉、素晴らしいのだわぁ……」

「むべ……、男性の逞しさを、感じますね……」

「わぁ……格好良いなぁ橘くん」

「私の太い二の腕よりも太くて逞しい腕……ごくり……」

 

 熱視線を受けている事に気付かないまま、一気飲みを終えた淳之介は勢いよく息を吸い、ジョッキを下ろした。そして、女性陣の妙に熱い視線に首を傾げながら、何故か限界化してる奈々瀬へと手渡す。淳之介は再び今日の夕飯は何かな、と無邪気な子供めいた事を考えていた。




此処だけの話、Elonaにドはまりしてた作者が居るらしいっスよ。

明日のぬきラジ2楽しみですね! お便り読まれたらいいなぁ。

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