抜きゲーみたいな島に派遣された対魔忍はどうすりゃいいですか?   作:不落八十八

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セーラ服出勤。

 特段何も無かった日曜日の翌日。週明けの登校日に辟易どころかセク逝きする生徒ばかりの通学路を目の据わった那須は歩いていた。その中性的な容姿からは考えられないような双眸の物々しさに気軽に話しかけられる者は居らず、視界に入れた瞬間に怖気る子犬のような声を漏らして道を譲る光景が見られていた。

 

 彼がこんな風になっているのは、昨晩桐香から送られてきた一通のメッセージのせいであった。

 

 ――そう言えば、今年は校外実習があるみたいですよ。

 

 水乃月学園は島に建てられた唯一の学校施設であり、教育と言う分野においては真面目な一面を持っている。もっとも、内容としては知育もとい痴育教育のそれであり、ドスケベナイズされた文法や例文が飛び交い、精子と愛液が交わる場所でもある。そんな学園の校外実習がまともである筈が無い、そう決め付けてしまうのも無理は無いのだろう。お役目を終えたプニキの如く目頭を指で摘まんで目の錯覚を疑ってから、もう一度その一文を見て那須が絶句したのは言うまでもない。

 

「……冗談じゃねぇぞ……」

 

 それから死んだ目で情報収集の時間を過ごし、今年は、と言う単語から今頃の淫スタの過去ログを数年分読み込んだ結果、それはもうとんでもない爆弾が埋まっていたのである。

 

 その名も、林間学校――ではなく、輪姦学校。サブタイトルは、囲んでハメて燃エロ性春、という明らかにやべー奴が考えた内容のそれであった。

 

「えー、それでは、皆さんしおりは回りましたでしょうか。では、えー、説明に入ります」

 

 詳細は朝のホームルームに老子担任により渡された、薄い本よりも遥かに薄い輪姦学校のしおりにしっかりと書かれていた。一泊二日の校外実習であり、ハイキングコースの頂上にあるログハウス群を貸し切りにしてただひたすらにまぐわうという名前のまんまのそれ。

 

 一年生の恒例行事として体育祭の前に開催されていたが、ログハウスの老朽化から建て直しが必要になったため昨年は中止になっていたようだった。B等部から新しい校舎に移り、心身の性長を再認識してもらう事のほかに、転校生や転入生、違うクラスメイトとハメて仲良くするという目的があるらしい。

 

 もっとも、ドスケベ条例の発足初期に考えられたものであるため、皆で裸になれば怖くない、という同調圧力による洗脳教育の名残であるらしい。当時は先生やSHOの指導のもと、レクリエーション形式で輪になって30分毎に女子生徒が隣に移る形でスワッピングし続けるというものもあったらしいが、今では条例は肯定されるものとなっているので形骸化しているらしい。ログハウスや集会場でセックスし続けるものになっているようだった。

 

 この島の住人はセックスをする事に忌避感を持たない。それは既にコミュニケーションの一環として認知されているためであり、しない者は異端であると島を牛耳るSHOによって痴育教育を施されているからだ。故に、表紙、日時、に次ぐしおりの3ページ目に書かれたスケジュールには非常にシンプルな単語が書かれていた。

 

 ――乱交。

 

 唖然とするかも知れないがマジである。一度見て、二度見て、もっかい見てもその事実は変わらないものであった。普通であればタイムスケジュールが掛かれている筈のそこにあるにはその二文字だけ。まさかの暴挙に前の席の麻沙音が宇宙猫めいた放心をしている程だ。ちなみに那須もまた、どうして、とヘルメットを被った猫が受話器を持っているかのような放心をしていた。

 やがて、宇宙猫がどうして、と混ざって絶望の表情を浮かべていた。

 

「……その悪夢めいた行事が木曜日にある、と」

 

 放心している間に時間は無情にも進んで行き、時計の針は既に放課後へと突入していた。秘密基地にて死んだ目をした二人に驚愕した淳之介たちが問い質した結果の一言目がそれである。無言で頷いた二人は片やすっぽりとダンボールへと埋まり、片や換気扇の下で通算10本目の煙草に手を出していた。その哀れな様子に淳之介たちは同情せざるを得なかった。普段は苦手とする那須に対してビクつく文乃ですら程良い温かさのお茶をそっと出す歩み寄りをする程であった。

 

 NLNSの活動としてこういったイベントに対して対策を練り、集団的な協力によって突破するのが常である。である、のだが。悲しい事ながらこれに対して対策を練るのは無理であるという結論が見えていた。

 

 何せ、このイベントに参加したのがヒナミのみであるからだ。そのヒナミでさえ礼による徹底的なガードにより、ただの林間学校のイベントに成り下がっている。昨年の対象者である筈の奈々瀬と美岬は、建て直しによるイベント中止によって参加しておらず、淳之介は言わずもがなである。過去の情報を拾い集めても、すっげー乱交だった、という頭青藍島めいた内容しか残っていないため、お手上げ状態であった。

 かつてないピンチに一年生組のテンションが死んでいるのも無理も無いだろう。

 

「……どうするのよ、淳」

「どうするって言ってもな……」

「アドバイスをしようにも私たちの時は中止でしたし……」

「唯一の参加者の私も、参加してたって言う感じじゃないしなぁ……。ごめんね、役に立てない先輩で……」

「ヒナミ様、どうか気を落とさずに……。そんな破廉恥な宴に毒されなくて良かったのだと、そう思うべきでしょう」

「そうだな、葉琴の言う通りだ。こんなやべーイベントで無傷だった事を喜ぶべきですよ」

「狭い上に、教師の監視もあって、内容が内容なこれを被害無しで越えたってのは本当に凄い事だと思いますよ。……まぁ、実際に開催されても私は影が薄すぎて誘われる事無く終わるんでしょうけどね……」

「今回ばかりは良い事じゃないかしら? その、流石にこのイベントで、は、初めてを失うってのはどうかと思うし……」

「……そう言えば、此処に居る人たち全員処女ですもんね。よくもまぁこの島で守り通せてますよね」

 

 そう感慨深げに煙草を灰皿に潰しながら呟いた那須の言葉に全員が視線を集める。彼女らの表情が同意による頷きから、この場で言った意味を理解して顔を赤らめるのに五秒も要らなかった。淳之介の居ない場であれば割と下ネタ混じりの会話をする彼女たちであっても、男性の居る場でそれをする事は無い。だが、那須という少年は少女でもあり、こういった話題をしれっと言える側の人間である。故に、男性である淳之介が居るのに関わらず口走ったのだった。

 

 これに対し、一番の反応を見せたのは意外にも淳之介だった。在り得ないものを見た、と言った様子で隣の奈々瀬を見やったのである。何せこの精神童貞は今の今までギャルビッチであると決めつけていた当初よりかはそう思っていないものの、無意識的に奈々瀬は処女では無いだろうと思っていたのである。

 

 驚愕の表情を浮かべた視線を受けた奈々瀬と言うと、暴露された羞恥とまだお前勘違いしてたのかと言う怒りによって感情が入り混じった表情を浮かべていた。瞳をぐるぐると回転させるのを幻視する程にテンパっていた。

 

 そう、このなんちゃってギャルビッチ奈々瀬は予想外に弱い一面を持っており、テンパったテンションでなんとかしてやらぁという間違った方向に走る可愛い女の子なのである。かつて誤魔化すためにゲーセンでチ〇コの達人をプレイするような愚行をするような奈々瀬だ。尚、実はその時、金欠の淳之介がジョイスティンポのバイトをしていたため、奈々瀬の初握りを経験していたりするのは余談である。

 

「おいこら淳!?」

「す、すまん! 未だに疑ってたのは事実だが、だって、なぁ?」

「なぁ、じゃないんだが?」

「待て奈々瀬! 仕方が無いだろ! その、奈々瀬なら一人や二人くらい手玉に取ってそうだなって」

「こんなにキレーな人が処女な訳が無い、って事ですよ奈々瀬しゃん。だから兄はさっさと奈々瀬さんと物理的に繋がるべきそうすべき」

「――――ッ!?」

 

 林檎のように顔を真っ赤にした奈々瀬を直視してしまった淳之介もまた頬を染めてしまった。限界ぎりぎりでぷるぷると羞恥に悶える様子が不覚にも可愛いと思ってしまったのだ。それに同意するように確かに、と他の女性陣も頷く程に今の奈々瀬は普段の余裕ある様子を崩していて可愛らしいものだった。

 

「そ、それにしても、二日後なのよね。対策を考えるべきなのだわそうなのだわ」

「語尾がバグってるぞ奈々瀬。アサちゃんの方はその、月のモノで回避できたりするんじゃないか?」

「……無理だよ。だって先週に生理で休みますって言っちゃったし」

「あっ、そうだったな……」

「へへっ、年貢の納め時って奴なのかな……」

「麻沙音ちゃん……、そんなの、駄目だよ。やっぱり、初めてのトキは好きな人としたいもんね……。どうにかできないかな」

「開催場所はハイキングコースのあるあの山の頂上の広場、ですよね。近くに潜伏できる場所を設営して時折戻って点呼とかをやり過ごす、とかでしょうか」

「あの辺りは隠れる場所は多いですが、ログハウスから距離がある上に柵を越えないといけません。柵の下は崖となっておりますので、難しいかと」

「……こうなったら最終手段としてお尻に美少女フィギュアを」

「それするくらいなら舌噛み切った方がマシだから」

「うぅ……、ガチガチなトーンで言われてしまいましたぁ……」

 

 項垂れる美岬に対して凍てつく波動が出そうな程に冷たい表情で麻沙音が吐き捨てた。そのガチな返答に苦笑していた那須であるが、段々と乾いた笑みになっていた。他人事であればもう少し笑えていただろうが、まさかの当事者のため全く笑えなかった。いっその事、自身の媚毒の術を散布して熱狂させる事で逃げ出してやろうかなと思う程に追い詰められている。

 

 通算十三本目の煙草を咥えて火を付けた。もはや打つ手無し、迅速且つ柔軟に臨機応変するしか無いのだろうか。そんな雰囲気が秘密基地に漂い始め、激流に身を任せてどうかするしか無いのかと紫煙が換気扇へと流れて行く。かつてない絶望感に襲われていた。

 

 この案件をどうにかせねば、と那須は麻沙音を見やる。そして、同じ心地だったのか麻沙音もまた那須を見ていた。何か手を打たなければ目の前の貞操が危ないのだと、否が応でも理解せざるを得ないのである。

 

((他の誰かに奪われるくらいなら――))

 

 そう、思ってしまうのも無理も無い事だろう。だが、そこにはまだ愛は無いのだ。それではNLNSの指標に背く事になってしまう。NoLove.NoSexの略称こそ、この秘密組織の在り方だ。それを破ってしまえば二人は異端の仲間入りだ。悲痛に見つめ合う二人を見て、誰もが顔を顰めた。二人が何をしたんだ、と叫びたいくらいの怒りが込み上がる。そんな感情の発露を察した文乃はそっと目を伏せた。この光景こそ自身の罪だと胸を痛めてしまう、そんな心優しき少女だ。

 

 そんな雰囲気を破るようにガタガタと唸る音が聞こえた。それは灰皿に隣接した那須のタブレットのバイブレーションだった。麻沙音から視線を外し、液晶に映った着信の相手は――。




此処だけの話、ハーメルンの広告にまんが王国が載ったトキに、何とも言えないときめきを感じたよね。

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