抜きゲーみたいな島に派遣された対魔忍はどうすりゃいいですか?   作:不落八十八

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対魔忍脱膣作戦。

 面倒な事になったな、と那須は本島並みに進んでいるらしい授業を受けながら内心独り言ちる。幸い授業の方は余裕でこなせる。五車学園の積み込み教育は伊達ではない。対魔忍は身体が資本であるため、それを養うための訓練授業もカリキュラムに含まれている。そのため、減った授業の分圧縮されているのだ。

 

 繁華街の裏側に位置する場所に住居を構えたのは生活の利便の面では良いが、それ以外の面では最悪の立地であった。荷解きをしている間、喧しい嬌声とちんちん亭語録とも称されるらしい青藍島言語が飛び交っていたのもあってストレスがマッハな状態であったのだ。そして、それは転校初日の今日も含まれており、喧しい雑音で溜まったストレスを解消するために煙草を吸ったのが裏目に出たようだった。

 

 うへぇと頭をぴよぴよ回しながら授業を受けている目の前の少女を見やる。

 バニラの匂いが特徴的なものを選んだのは純粋に好みであり、五車学園に居た頃も菓子を食べていたと誤魔化していた。クラスメイトで煙草の銘柄を知っている者が居るとは考えた事もなかったのであった。スキットルを模してカモフラージュ加工した煙草入れに入れているため、お洒落な水筒であると誤魔化して没収される事はなかったがこんなオチがつくとは思ってもみなかった。

 

 釘を刺しておくべきだろう。そう思ったものの授業の中休みは転校生特有の質問責めをされてしまい声をかける暇もなかった。怒涛の勢いで来るものだから段々とストレスが溜まっていたりするので、先に何処かで煙草を吸いたい気分になっているのも要因だろうか。

 

 だからと言って、比較的真面目に授業を受けているらしい少女に対して、授業中に声を掛けるのも忍びない。煙草を吸うという不良行為をしているものの概ね学生としては優等生の分類に入っているため、世間一般に称される不良行為をしようとは思っていない。どうしたものか、と悩みつつ板書をして、時折ぶっこまれるドスケベ式噛み砕き説明に辟易しながら授業を受ける。

 そして、結局結論纏まる事も無く終了のチャイムが鳴った。

 

「では、今日は此処まで」

「きりーつ、れーいぷ、ちゃくせーい」

 

 何か間違っていたような気もしたが誰も突っ込まないため、それに倣って那須もスルーした。そして、今回も集まってくるだろうと思っていたクラスメイトたちだが――。

 

「ァンッ!」

「良い音色だ、そうだと思わないか」

「ァンッ!」

「これは良いイチモツだ、必ず子宮にお届けしてやるからな孕めオラッ!!!」

 

 でこの広い男子が女子のクリを弾いたかと思えば直ぐ様挿入して腰を振り始めていた。そのとんでもないプレイを機に段々と教室や廊下が喧しくなり始めた。そう、授業は真面目に受けるのがこの学園のモットーであるが、逆説的に授業から解放されれば問題無いのである。その様変わりを初めて目にした事で口元を引き攣らせる。分かってはいたがやべー学園であるとドン引きしていた。そして、その表情をしていたのは目の前の席に座っている少女も同じで、お互いに自然に目を交わして頷いた。

 

「さて、購買にでも行こうかな。良かったらどうかな、えーと」

「た、たたたたた、橘麻沙音、です。ええと、えっと、購買は一階のエレベーター横にありますんで、それにしても良い声とお顔をしていますねうへへへ」

「ありがとう、橘さん。一階のエレベーターか、そういやあったね」

 

 立ち上がる那須に続くように立ち上がり、どもりながらもげへげへすると言う器用な事をする麻沙音を連れて極めて自然に教室を脱する。その様子を見て羨ましそうに残っていた女子たちは見送る。しかし、その双眸は肉食動物のそれであり、おこぼれを狙うハイエナのようでもあった。背筋に走る怖気を感じつつも速やかに扉を閉じて視線を遮る。

 

 教室がアレなら廊下もアレであった。廊下は窓が解放されていないため既に彼方此方から臭ってくる体臭や体液の臭いが充満し始めていた。茹るような室温だとドスケベセックスをし辛いと言う理由で水乃月学園ではエアコンが導入されている。導入されている筈なのだが、誰もがこうして熱を吐き出すような行為をしていればむわっとした臭いと熱気が溜まるのも当然の事だった。

 

「……まるで動物園だな」

 

 そう思わず呟いてしまう那須の横顔を麻沙音はやや驚いた様子で見ていた。視線に気づいていたものの発言の重さをまだ理解していない那須は、そのまま仏頂面で廊下を歩き始めていた。それに慌ててついていく麻沙音はやっべどうしようと自身の軽はずみな行動に若干後悔してもいた。

 

 その場のノリで結託して教室を脱出したのは良いが、よくよく考えてみれば美少女染みた風貌をしているものの性別は自身が忌避する男性である。普段ならそそくさと体調不良を理由に誘いを撥ね退けて購買に寄ってから地下へ逃げるのが常だ。なのに、何故このまま友人を連れて購買に向かうような雰囲気になっているのだろうか。

 

「お、おおおお大久さん?」

「ん、ごめん橘さん。あんまり苗字で呼ばないでくれると嬉しい。特に苗字を伸ばして呼ばないで欲しい」

「んぇっ、あ、そそそ、それじゃあ、な、那須、しゃん、さん」

「くくっ、何?」

「な、那須さんはその、え、えっちな事ってどう、思ってますか……?」

 

 盛った獣のような交尾をする生徒たちを一瞥しながら淡々と歩いていく。時折向けられる肉欲めいた視線も無視して歩み続けるその姿は堂々としたものだった。まるで、この程度であれば見慣れたものだと言わんばかりに。だからこそ、違和感を感じたのだ。目の前のそれを汚い物を見るようなその厳しい双眸に。まるで、それはドスケベ条例に対して不満を持っているかのような感じがしたからだ。本島から来た者でこの島における考えは二種類だろう。ドスケベセックスを良しとするかしないかである。ましてや思春期真っ盛りなお年頃の男子である、そういった事に色を向けるのも可笑しい事ではない。だが、目の前の男子は前者では無いような気がしていたのだった。

 

「あんまり好きじゃないね。この光景を見るって事は失敗した時だし……」

「し、失敗?」

「ん、あー、えーっとぉ……」

 

 つい失言したと言わんばかりで困り顔を浮かべた。何かしら思うところがあるらしい。ふと麻沙音は前に話題に上がった事を思い出した。今のメンバーが揃う前、人数不足を補うために同士を集めるため、どうすれば良いかという雑談に上がったものの一つだ。本島から転校したての者であれば、この島にドスケベナイズされる前に仲間として迎える事ができるのでは、という本島から転校してきたからこそ出た発言だった。しかしながらハイリスクハイリターンであるから現実的ではないという結論が付いた。

 

 何故なら秘密組織に属する者たちには色々な背景がある。故に、初めは内容に共感してくれるかもしれないが、骨子となる理由が無ければふとした時に裏切者になる可能性を孕んでいると指摘があったのだ。つまり、仲間に加えるとしても忌避する理由を持つ者に限るのだ。目の前の美少女めいた少年がそれに適するかどうか、それを知らねばどうしようも無い。

 

「お、そっちの子空いてんじゃーん。マンコしないならその子俺にくれねぇ?」

「ひっ」

 

 それは階段の踊り場で段差を使って立ちバックしている集団の一人からの声だった。見やれば膣中出しをされてイったのか崩れ落ちている半裸の女子の姿があり、ヤり潰したのを理由に新たな女子が来るのを待ち構えていたらしかった。そのギラついた視線に怖気づいた麻沙音は咄嗟ながら那須の後ろへ隠れてしまった。極度の人見知り故に恐れる筈の男性に、それも兄ではない異性の背に隠れている事実に自分でも驚いていた。頼った背から香ったのは懐かしいバニラの匂いであった。

 

「悪いね、先約があるんだ。他の子にしてくれるかな」

「あぁん? はっ、俺さぁ餓えちゃって困ってるんだわ。だーかーらぁ、寄越せよ、な?」

「な、那須さん……」

 

 恐怖で身を縮こませて涙混じりの声が出る。兄や頼れる仲間は此処には居ない。このままではドスケベ条例違反としてSSに通報されるか、線の細い那須を押しのけて無理矢理にでも襲われるに違いなかった。どうすれば良い、どうしたら、とポケットのタブレットに手を伸ばす事すら恐怖に陥った頭では考えられなかった。スカートのポケットへ向けるべき両手は縋るように那須の制服を掴んでいた。

 

「……一般人にあんまり使いたくないんだけどなぁ」

「はぁ? 何を言って――はぁううぅぅううん!? な、何だこれぇ、あっ、ああっ、熱いっ、あっつうぅうぁっ、ぁああッ、イクッ! イグゥッ! イックゥゥゥゥゥッ!?」

「んんぁっ!?」

 

 那須の右手が掌底の形を作ったと同時に、男子生徒の開かれた制服の合間を縫うように腹部に触れた瞬間に男子は悶え始めた。そして腹部を抑えながら悶え苦しむようにして倒れながら絶頂し、床に倒れていた女子の上へ被さった。勢いはなかったので怪我をする事はなかったようだが、悶え狂うように絶頂し続けていた。動き回る事で下に潰された女子が条件反射のように動くため、絶えず絶頂し続けているようだった。その異常な様子を見ていたのは那須と麻沙音だけで、立ちバックに夢中な他の男子は床でドスケベし始めたのだろうと気にする事もしなかった。

 

「えっ、な、何が……?」

「それじゃ、行こうか橘さん。大丈夫、何とかするから」

「あ、はい……」

 

 その有無を言わせない言葉の強さに、その背中の大きさと相まって何処か安堵感を覚えていた。懐かしい匂いに包まれて、思い出すのは父におんぶされた時の事だった。歩き疲れたとぶぅたれる麻沙音を仕方が無いなと背負ってくれた時の思い出が浮かび上がった。お父さん、と小さな声にならない呟きが漏れる。そして歩みだす背中に追従するように麻沙音も続いた。

 階段でドスケベっていたのは彼らだけだったようで一階までは難無く来る事ができた。普段であれば誘われる事もあるが、麻沙音を守るように前に歩いていた那須が先約があると追い払っていたのもあってスムーズなものだった。逃げ隠れる事を主にしているからこそ、何処か新鮮な感じがして麻沙音は少しだけ笑みを浮かべていた。

 

「さて、と。うわぁ、何か凄いわちゃわちゃしてるけど、あそこが購買で良いんだよね……」

「は、はい、あそこが購買部、です。ええと、買う物の名前と、こ、個数を奥に居るおばちゃんに、つ、伝えないと駄目、です、はい」

「へぇ……、おすすめとかあったりする?」

「えっとその……ち、チーズパンとか?」

「そっか、ならそれにしようか」

 

 そう言って那須はひしめき合っている戦争の場へと歩み始めた。そして、するりするりと空いた隙間の一瞬を縫うように身を滑り込ませ、即座にかつ堅実に前へと進んで行った。前に兄があっさりと打倒され醜態を晒したのを見ていた事もあり、その忍者めいた身のこなしに感嘆の声が漏れた。

 

「残ってる全種類のパンを一個ずつ!!」

 

 そんな声が聞こえたかと思えば、ビニール袋を抱えた那須が数分後に這い出てきた。買う物は買えたがそれにより荷物が増えて、行きの様な身軽さを発揮できなかったようだった。そうして麻沙音と合流した那須はビニールの中身を物色し始めて、商品名を漸く見て絶句していた。

 

「射精管理サキュバスが仕上げた先っぽが溢れちゃってるチーズパン……?」

「あっ、ですよねー……」

 

 この島のノリに若干慣れ始めていた麻沙音とは違い、本島から来た転校初日である那須である。そのとんでもない商品名に対してドン引きするのも仕方が無かった。残り具合から全種類を買うローラー作戦を行なったために、一つ一つ商品名を口にする事が無かったからこその衝撃である。

 

「もしかしてこんなに購買部が溢れ返ってるのって、こういう長過ぎる商品名を律儀に口にしようとしているのが多いからって理由だったりするんじゃ……?」

「そ、そうかもしれませんね……」

「今後はお弁当にしようかな……、流石にこれを口に出すのは憚れる……」

 

 実はその商品名の滑稽さと美味しさからよく買いに来ている麻沙音は苦笑いを浮かべて視線を逸らした。それからパイズリコッペパンやあぁんパンなど、普通の名称にしとけよと言わんばかりのラインナップに口元を引き攣らせながら商品を確認し、麻沙音の望むパンを小銭と交換し終えた那須は肩を竦めつつ苦笑いで口を開いた。

 

「さてと、教室に戻るのはそこのエレベーター使おうか。何でか皆使わないみたいだし」

「そうですね……。一応漏電とか怖いから性産的行為は禁止されてるみたいで、エレベータープレイにしか使わないらしいです」

「……つくづくどうかしてるなこの学園。いや、この島か……」

 

 エレベーターの方へ行ったのは那須たちだけであったので、その言葉を咎めるものは居なかった。二人揃ってやってきたエレベーターへ乗り込むと、一年生の教室のある四階へのボタンを押すと静かに閉じられた。密閉されているからか、奥に居る麻沙音は緊張のせいで、落ち着けステイステイと過呼吸気味に呼吸をしていた。そうして再び懐かしいバニラの匂いを嗅ぎ取って疑問を口にしていた。

 

「あ、あの、那須さんってその、吸ってる、んですか?」

「実はお菓子を食べてたんだー、なんて通じないか。うん、ストレスからちょっとね。朝から晩まで喘ぎ声やらで五月蠅くてさ。繁華街の近くに利便性で選んだんだけどほんっと失敗したなって……。帰りに防音素材でなんとかできないか試してみるつもりではあるんだけど……売ってるかなぁ」

「えっと、最近デパートが出来たらしいですからそこなら売ってるかも、知れないです」

「そっか、そしたら帰りに寄ってみようかな。情報ありがとね、橘さん」

「あっ、えへへ、お、お役に立てたなら幸いです、はい……」

 

 これなら釘を刺さなくても良さそうだなと那須が思っていると一歩だけ近寄る気配を感じた。振り返ればその顔を見られるが、どうも男性慣れをしていない様に見える事からそれをするのは憚れた。こうして購買部に一緒に行ってくれた麻沙音にそんな不義理をするべきではないなと思っていたからだ。

 

 対して、麻沙音は続く言葉を口にするか悩み込んでいた。教室や先程の物言いから、ドスケベセックス並びに性行為に対する忌避的な意見を持っているように感じられたからだ。そして、意を決して口にしようとした矢先の事だった。電子音が鳴り、扉が開く。悩みに悩んだ結果、口にする事無く四階に到着してしまったのだった。一階から四階程度であれば一分も無い、途中で止まる事も無かったために最短で着いてしまった。

 先に出た那須は後ろに振り返りながら、誰もが見惚れるような笑顔で言った。

 

「さっきのは他言無用で頼むよ、じゃないとストレスで胃に穴が開きそうだからさ」

 

 その言葉に頷く事しか麻沙音はできなかった。




ぬきたしにドスケベナイズされてしまったから、R18の境界線が分からなくなったハメね……。上から怒られたらR18板送りになるかもしれないハメ。


此処だけの話、オリ主の名前は「おおく なす」と読むらしいですよ?

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