抜きゲーみたいな島に派遣された対魔忍はどうすりゃいいですか?   作:不落八十八

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再会、魔羅よ……。

 生牡蠣、あさりの味噌汁、鰻のひつまぶし、マグロとアボガドのサラダ、強精もつ鍋、混浴温泉卵、すっぽんゼリー、と言うあからさまな夕飯に少々げんなりする那須と麻沙音だったが、楽しそうにお喋りしながらぽろぽろと口元から食材を落とす桐香の世話をしながらの食事だったため気分は薄れたようだった。まるで大きな五歳児な桐香の世話を焼く二人は新婚夫婦のようであり、お互いにそれっぽいなと思った時に限って目が合ってしまった事もあって気恥ずかしい一面もあった。

 そんな二人の様子にきゃっきゃと喜ぶとーかちゃんであった。

 

「……で、なにこれ」

「何ってお布団ですよ? 那須さんはベッド派でしたか?」

「いや、冷泉院さん、那須さんはそう言う事を言いたいんじゃないと思うんだけど……」

「「何で敷布団なのにキングサイズ……?」」

「それは、うふふ、決まってるじゃありませんか」

「予備の布団は……無い。完全に故意じゃんかこれ」

「座布団も回収されてるとか用意周到に程があるな……」

「あら、知らなかったんですか? 混浴温泉お約束の3P布団。男女で一部屋取ると必ずこれになるのですが……」

「「初耳なんですけど!?」」

「あらあら、今日の夜は少し肌寒いですし、丁度良いではありませんか」

 

 夕飯を終えて今度は二人が入った後に那須が一人で入る形で一風呂浴びた三人が戻ってきたら、既に大きなテーブルを退かして布団が用意されていたのである。それも、特注仕様のキングサイズ敷布団、通称3P布団という青藍島では普通に売られているらしい布団が敷かれていた。押し入れ等を探しても敵前逃亡は許さないと言わんばかりに座布団などが回収されている事もあってしっかりとドスケベプリズンされているようであった。

 

 目頭を押さえた那須は目を瞑り、数秒後に開いて、目の前の現実を直視してしまって深い溜息を吐いた。隣から恐る恐る那須を見やる麻沙音であったが、どうも様子が違って見えた。温泉での一件の前ならば問答無用で窓際の椅子に逃げていたであろう那須が、まぁこれぐらいなら、と妥協の姿勢を見せているのである。これはまさか――と桐香を見やれば、神妙な顔で頷きを返された。

 

 幾多のエロゲーを熟してきた麻沙音はその症状を幾度も見た事があった。それは女主人公がメインの同人凌辱ゲーにありがちなシステム、淫乱度による段階別の認識改変である、と。最初は普通であった主人公がえっちな目に遭うにつれて慣れていき、えっちな事に傾倒していく快楽堕ちはもはや鉄板にして王道な展開である。

 

 そう、既に裸で密着して性器を握られた挙句こすられた経験が、気になる女の子との添い寝というシチュエーションのハードルを下げたのである。というよりも、温泉の一件のせいで麻沙音からの好意を感じ取ってしまっているが故に、正直満更でもないというのが理由なのだった。

 

 対魔忍であるものの彼とて年相応の思春期美少女少年である。こういう平和なシチュエーションであればむしろ歓迎したいのが少年心である。そして、添い寝くらいであればヨミハラ時代にクラクルに幾度もしていたため、他の行動よりも耐久性を持っているという事が重なった結果であった。

 

「……一応聞くけど」

「問題ありませんね」

「だ、大丈夫です……」

 

 即答の桐香に続くように麻沙音も頷いた。那須は反対意見が出なかった事に嘆息し、二人を見やればもう寝る準備はできているようだった。きゃっきゃっと那須と麻沙音の手を取った桐香が布団へと倒れ込む、が、強靭な体幹を持つ那須が倒れる訳が無く、宙をぷらぷらと浮かぶのであった。

 

「ああもう、そのまま倒れたら掛け布団被れないでしょうが。はぁー、まったくもう、はい、大丈夫ですよ那須さん」

「あぁ、うん、ありがとう。何というか桐香さんの世話が手慣れてきたね麻沙音さん」

「そりゃ、日頃兄に似たような介護されている私ですしおすし。それに、ここまで気を抜いた姿を見てたら気を張る必要もないし……。何というか、とーかちゃん係、的な……?」

「ふふっ、お二人にお世話されて凄く楽しい一日でした。才能あると思いますよ」

「なにその嬉しくない才能……」

「だって、今日一度も吐いてませんもの、私」

「「判定基準そこなの……?」」

 

 やれやれ仕方が無いなぁと掛け布団を端へめくった麻沙音の横へ転がった桐香が満面の笑みを浮かべた。昔から人の目を気にして生きてきた麻沙音の観察眼はしっかりしたものであり、何かしらの予兆があればその場に居れば那須がストップをかける。そんな一連の動作を阿吽の呼吸で行なうため二人の動きは段々と近いものとなり、今では若干つーかーな仲となりつつあった。

 

 麻沙音の隣へ行こうとした那須をそっと桐香がずれて、二人の間に空間ができてしまった。見やればその間をぽんぽんと叩く桐香の姿があり、麻沙音を見やれば苦笑を返して頷いた。二人の許可が取れてしまった那須は苦笑を返して、渋々と二人の間へと足を下ろして座り込んだ。両肩に触れるような距離であるため、触れた箇所から温かさと柔らかい感覚が返ってきてしまい照れてしまった。そんな那須を見て二人が微笑ましい表情で笑みを浮かべた。

 

「うふふ、今日は少し肌寒いからこうしましょう」

「はぁ、甘えんぼでちゅねーとーかちゃんはー」

「ばぶばぶー♪」

「そ、それじゃあ、わ、私も……えい」

「麻沙音さんまで……」

 

 両方の腕を抱き締められた那須は双丘の感触に顔を赤らめるものの、温泉の時とは違って直ではないため持ちこたえる事ができた。あの時は平常心を保てなかったが、何の影響を受けていない状態であれば冷静で居られる。その事に少し安堵しつつ、ハリのある弾力の桐香のそれとマシュマロのような柔らかさの麻沙音のそれを吟味できる程に余裕を保てていた。もっとも、その顔はほんのりと赤く染まっており、気恥ずかしさからは逃げれなかったようだった。

 

 そして、段々と両方から伝わる人肌の温かさに心地良さを覚え始めていた。誰かが傍に居る心地良さに惹かれているようだった。力が抜けて微睡み始め、ふと気づけば穏やかな寝息を立てていた那須に二人は少し驚く。一番緊張していたであろう人物が一番先に寝入るとは思っていなかったのだ。

 

「……可愛い寝顔だなぁ」

「……そうですね、とても穏やかな顔をしていますね」

「温泉で吐露してくれたのも信頼してくれているんだなって思えて……嬉しいな」

「でもまぁ、反交尾勢力に属しているのに手淫をしようとされていましたけどね」

「あんたの指示だったでしょうが……!?」

「うふふ、こう見えて生徒会長ですから。学園の風紀を守るのは当然の事ですよ」

「うちの学校の風紀は他の所とは正反対だけどね……。冷泉院さんはさ」

「桐香、で良いですよ麻沙音さん」

「……桐香さんは何でSSになったの?」

「それは……、成り行き、でしょうか。私は不出来な娘でしたので、数ある取柄を見出されてこの島へと奉公に出ているようなものですから。後悔はしていませんよ、この島は、私にとってとても住みやすいですから。お稽古の不出来を叱咤され、影で悪態を吐かれて、見下されていたあの頃よりもとっても。SSというかけがえのない家族もできましたから」

「ふーん……、好きな人に自分の初めてを、とかは思わなかったの?」

「……どうでしょうね。あの頃の私は少しだけ自暴自棄でしたから。この島に染まるまでは、姉の居ない生活に慣れるために、誰かの人肌を求めていたのかも知れません。……先輩に恋をしてからは、少しだけ、早まったかなと思いましたが、もう失ってしまいましたからね」

「うちの兄は生粋の処女厨だから、非処女の桐香さんが好かれるのは難しいかも知れないよ」

「うふふ、それはそれで良いのかも知れません」

「……はい?」

「私、寝取られフェチなんです。なので、先輩が誰かといちゃこらしているのを見て悔し逝きするのも良いかもしれないと思っている自分が居るんです」

「随分と難儀な性癖に目覚めちゃったんだね……」

「……そうですね、因みに麻沙音さんの性癖は?」

「かわいそうなのじゃないと抜けない」

「それはレイプ願望がある、という事でしょうか?」

「いやいやいや、それは無理。年上のビッチなお姉さんに優しくリードされながらぐっちゃぐちゃにされたいし、男性はちょっと……無理かな」

「……もしや、麻沙音さんはレズビアンなのですか?」

「そう、だと思ってたんだけどね……」

 

 苦笑を浮かべながら那須を見やる麻沙音を見て、桐香は察する事ができた。同時に、女性でもある那須を愛するのであればある意味レズビアンのままなのではとも思ったが、この前那須に忠告されたように煽りになりかねないと口を閉じて胸にしまった。

 

「この島は性に寛容な場所ですが、そういった事情を抱える方々への止まり木にはなれていません。どうにかしてそれを直そうとは思っているのですが……」

 

 そう此処には居ない誰かを思って宙を見やった桐香の言葉に麻沙音は驚愕を覚えていた。だが、NLNSを見逃している事を思い出して納得できていた。今日一日付き合ったが桐香は裏表の無い、それどころか子供のように純粋な心を持っている少女だと知る事ができた。所々こいつ人の心が無いのかと突っ込みを入れる場面もあったものの、那須からサヴァン症候群のそれだとひっそりと教えてもらっていたので踏みにじる真似はしなかった。

 

 結局、何も言う事はできなくて、それも桐香も察した事で二人は無言で目を瞑った。聞こえてくる穏やかな寝息を誘い水に意識が落ちていく。我が家ではない場所で眠ったせいか何処か心寂しくて、つい近くにある温かさに縋りついてしまう。抱き込んでいた那須の両腕に二人は安堵を覚えながら深い眠りに落ちていく。そして、同時に両腕を圧迫された那須は、両腕を切り落とされる夢を見る羽目になり悪夢に呻く事となった。

 

 

 

●●●●●

 

 

 

「――って感じだったよ」

 

 そう家に帰った麻沙音は語りを終えた。SSの訓練に慣れて来て筋肉痛に苦しむ淳之介と日々の家事に慣れて来てすっかり家政婦然とした文乃はそろって何とも言えない表情を浮かべていた。何せ、上機嫌で帰ってきた麻沙音の口から同級生を桐香と共謀して弄んできたという報告が成されたのだから当然の事である。

 

「……アサちゃん、うちの組織がどういう略称か覚えているか」

「うん? えぇと、Nice.Lape,Nice.Slaveの略だよね、覚えてる覚えてる」

「同人ゲーのスラムじゃないんだぞ」

「分かってるよ、No.Love,No.Sex、愛の無いセックスはしない、でしょ」

「うむ、何が言いたいか分かるな?」

「えっちなことは控えなさい」

「その通り」

「むべ……、あの方とは言えども不憫でなりませぬ……」

「それにだアサちゃん。多分、アサちゃんから告白しないと那須君は頷かないからな」

「はぁ!? 私から? 無理無理かたつむり観光客だって! そんな度胸無いよ兄。どれくらい無いかっていうと兄の凌辱ゲーを試しにやってみた時のしこりゲージくらい無いよ」

「皆無どころかマイナスじゃねーか。だがなぁ、考えて見ろ。機密情報を抱えて、敵対する組織もある現代忍者が一般の家の女の子に告白してくれると思うか? 例えエロゲーでもヒロインが押さなきゃ、フラグすら立たないだろ。那須君の性格的に、危ない目に遭って欲しくないって想ってひっそりと消えるタイプだぞ多分」

「そりゃそうだけどさぁ! 隠してた自身の出生を語ってくれるくらいルートが進んでるんだからもう一押しだと思うじゃんか! 私の取柄なんて可愛い事と男の子好みのむっちりボディと程良く育ったおっぱいくらいだよ!?」

「確かに同級生に居たらズリネタにされそうな感じに程良く地味かつ色気があってえっちな事にも精通してる上に理解力のあるアサちゃんだが、相手が那須君だからな。この島の調査が終わる前に庇護対象として関係が進まなくてお友達エンドになる可能性だってあるんだ。そこまで好感度を稼げてるって自分でも思ってるなら具体的に踏み込まないと厳しいだろ」

「……うん」

「諦めたくないだろ?」

「うん……」

「なら、初めの一歩だアサちゃん」

 

 頼り甲斐のある恰好良い顔で淳之介は決め顔で言った。デートに誘ってきなさい、と。

 

「……いや、兄。この島普通なデートができる観光スポット皆無だよ」

「……あっ」

 

 何とも締まらないオチを付けて我ながらとんでもない島に来たもんだと再認識する淳之介たちであった。それを静観していた文乃はやや前傾姿勢であり、何とも申し訳無さそうな表情を浮かべていた。うちの愚父が申し訳ありません、と声にならずに口の中で溶けた言葉は聞こえなかった。




此処だけの話、デート回を書こうとお疲れ様本で青藍島の地理を見たけど碌なスポットが無くて困った作者が居るそうですよ。
ぬきたしの小説需要があるのに供給少なくない?少ないよね?と思って書き始めた小説なので、評価を貰えてほんと嬉しいです。書いた意味があったんだな、と評価を見る度に思えます。
気軽に感想も送ってくれると嬉しいです。(テンションが上がるので次回の更新が早まります。

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