抜きゲーみたいな島に派遣された対魔忍はどうすりゃいいですか?   作:不落八十八

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戦場は恥丘。

 週末を迎えた青藍島は少しだけ静かだった。各学年でイベントが行われたからかその疲れを取るために素直に休暇にしている者が多いらしく、メインストリートで盛っている者たちは外からやってきた観光客や学生以外の者たちが多く見受けられた。

 水乃月学園に所属する性徒たち特有の現象、燃え尽き賢者症候群という嘘みたいな名称の症状であり、イベントに積極的に性産的活動を行なうためその反動として翌日以降のドスケベが縮小するのが特徴である。今回の傾向は朝から翌日の昼まで輪姦学校にて乱交をしていた一年生が顕著であり、次点でドスケベ遊園地で奉仕活動をした二年生がこの症候群に陥っているようだった。

 そのため、性触者の年齢が著しく引きあがっており、大人の色気に生唾を呑んでイケない性癖に目覚める者も少なくないという状態であった。そんな中を平然と歩く那須の姿があった。整った容姿にボーイッシュでユニセックスな服装をしているため両性から注目を浴びており、獣欲めいた重々しい視線に見つめられていた。だが、そんな彼に近づく姿はいない。何せ、三白眼の双眸が吊り上がっており、傍目から見ても苛々している事が見て取れたからだ。

 

「……またか」

 

 嘆息して狭い路地裏へと足を向けて入って行き、通りからの視線が途切れた瞬間にポイントへと足早に駆け付けた。腐ったような臭いが漂う瘴気が蔓延したその場は酷く悍ましい異界と化していた。そして、そんな場所に待ち受けるは異形の犬。燃え盛る炎によって形成されたその姿は酷く痛ましく、魔界の瘴気に汚された動物霊であるが故に地に足を付けずに浮遊していた。その姿形は概ね動物の霊であり、有り触れた犬や猫の姿をしているのが鬼火と呼ばれるアンデッドだ。

 対魔忍としての鋭敏な感覚がメインストリートに面した裏路地の彼方此方で生じた瘴気の渦の気配を感知しており、目が覚めた瞬間から今まで警邏しながらこれらを潰し回っていたのである。発生のパターンは特に無く、魔界への門が開きやすい土地によくある現象に似ていた。正しく異界への門であるため、それを形成するためのエネルギーは凄まじい。そのため、固定化するまでに霧散するパターンも多く、その結果として残された瘴気が近場に居た動物を殺してそのままアンデッド化させているのだろう。

 

「供養はしてやる、安心して死に帰れ」

 

 ベルトから引き抜いた対魔粒子力ブレードの紅い軌跡が宙を奔ったかと思えば、壁を蹴って鬼火の首を刈り取った那須が反対側へと静かに降り立つ。三次元的な暗殺を主流とする那須の戦法は正しく古めかしい忍者らしいそれであり、昨今の真正面から馬鹿正直に立ち向かう若き頭対魔忍の者たちにも見習ってほしい姿である。

 鬼火というアンデッドは概ね動物的思考を持っており、狩りをして成長する機会に恵まれなければあっさりと倒せるのが常だ。だが、これが魔女などによって計画的に作られ、そして運用された場合は苦戦は必至である。もっとも、捨て駒として用いられた場合はその限りではない。

 那須が経験してきた中でもっとも最悪な鬼火はモルモットを用いられた人海戦術的な運用がされたパターンであった。違法科学研究所の地下で、用心棒として雇われた魔女が上階で殺しに殺されたモルモットの霊を素材に作った代物であり、下水道を埋め尽くす勢いで大量生産された事でこの研究所に忍び込む際に下水道を用いた対魔忍を圧殺。後詰めの那須に黒い波と化して襲い掛かってきた経緯があった。その物量に青褪めた那須は即座に退却し、後日面制圧ができる面子を伴って下水道の汚物共々焼却された。違法研究所の摘発が無ければ今も尚増えていたに違いないと最強の対魔忍であるアサギでさえ報告の場で頬を引き攣らせた案件であった。

 

「……にしても、こうも活発化していると不安になってくるな……」

 

 仮に魔界の門がこの島に開かれた場合、この島の風俗も相まって酷い事になるのは目に見えていた。何せ、カモがネギ背負って味噌を塗りたくって来た挙句目の前でM字開脚するようなものであり、尖兵のオークによって簡単にイチモツによる支配がされていたに違いない。もっとも、侵略に来たオークでさえもこの島の住人の頭青藍島具合に困惑することだろうが。

 自然発生した鬼火を狩る機会は意外と少ないものであり、体外野に放たれ第二の生を謳歌するか、こうして危機を感じ取った誰かに狩られたり操られたりするのが常である。生じた瘴気は鬼火を作った事で消費され時間経過で霧散するのが一般的だ。なので、こうも多くの瘴気溜まりができている事に那須は疑問を感じていた。

 尚、同時刻、青藍島の宣伝担当である仙波光姫と言う頭と尻も軽い女性が禍々しい形をした張り型を見つけて、好奇心のままに下に当てがって腰を上下していたのが原因である。性への欲望を増幅させ、自慰に用いる事で瘴気を生み出すその魔道具は正しく作動していた。しかし、光姫が何度か果てた後に自慰に飽きてしまい、洗浄され乾かすために日の光に当てられた事で浄化され人知れずに役目を終えたのであった。この魔道具を設置した者が居れば唖然としていた事だろう。本来であれば死ぬまで自慰し続ける筈の魔道具が形に飽きたという理由であっさりと引き抜かれた挙句に弱点である日の光に当てられる等と思わなかった筈だ。

 

「んー……、奇抜なデザインをしているのは高評価だけど木製だからちょっとねぇ。硬いのは良いけど曲がらないから良い所に当て辛いし……」

 

 というレビューをされているとは露程思わなかった事であろう。頭のゆるい行動を取る光姫によって地味に青藍島が救われた結果になった。計画が一瞬で破綻した設置主は頭を抱える事になり、恐るべし青藍島と言い残して逃げ帰ったのであった。島に敵対する組織の者が居ないと思っていたが故に、一般青藍島民によって計画が潰された事実に手に負えないと考えたのである。

 時間にして三時間程鬼火狩りをしていた那須だったが、途端に収まったのを感じて安堵の息を吐いていた。犠牲者が出る前に現場に駆けつけて処理をする、言葉にするのは簡単であるが非常に大変な所業である事は間違いない。鬼火による犠牲者も出ず、計画は完全に破綻したのであった。

 

「……活性の様子は無い、か? んー……、どうしようかな。一応見回っておこうかな……」

 

 ベルトへ対魔粒子力ブレードを仕舞い込み、メインストリートへと戻った那須は溜息交じりに独り言ちた。目に見えた問題が無くなったとはいえ、偶発的か人為的かまでは分からない那須からすれば警戒するのは当然の事だった。ローション噴水近くのベンチで今時珍しい奇妙な形をした木製の張り型を乾かしている桃紫髪の女性を一瞥し、辺りを警戒しながら歩いていく。

 性撫百貨店近くまで歩いていた那須の視界に見慣れた三人が入り込む。食料品の買い出しに来ていたらしい淳之介に麻沙音と文乃という橘ファミリーの面々であった。楽しそうに二人の後ろに上品に控える文乃を見て、淳之介に文乃の世話を投げといて正解だったなと那須は微笑む。辺りに居た人々がその笑みに見惚れてしまい、立ちバック走行していた二人と駅弁歩行していた二人が金玉突き事故を起こしてしまい悶絶する事件が起きていた。そんな騒動に目を向けた三人は原因になった那須の姿を見つけて笑顔で近寄ってきた。

 

「おっす。那須君もお出かけか?」

「こんにちは那須さん、奇遇ですね!」

「……むべ、罪な人ですね貴方も……。こんにちは」

「お三方こんにちは。少し目に余る出来事があったので警邏してたんですよ。今は問題無さそうなので安心してお買い物してください」

「えっ、何があったんだ……?」

「……此処だけの話ですが、低級の怪物が発生してたので始末してました」

「あっさりやばい事言うじゃん」

「そりゃそうだよ兄。那須さんがそこらの雑魚に負けるような人には見えないでしょ」

「……それもそうだな。弾丸も切り落とせるしな」

「基本スキルですからね、パッシブですよ」

「うちには過ぎる戦力だなぁ。ここ最近の帰宅も那須君のおかげでノーダウンノーアラートだしな」

「私たちが居なかった二日間が大変だったんだっけ。偵察とオペレーターが無いとやっぱり厳しいだろうし」

「そうだな。葉琴が居なければ無理だったろうな。スコープで遠距離偵察を思いついた時は天啓だと思ったよ」

「わたしも皆様のお役に立てるのだと証明できて良かったです、お背中はお任せください、ふんす」

「あはは……、随分と馴染んだね君も。淳之介先輩に君を託して正解だったよ」

「む、その点については色々とお話したい事がありますが、まぁ、良いでしょう。……こうして笑える日が来るだなんて、思ってもいませんでしたから」

「大丈夫だよ、落ちる火の粉はボクが始末する。君は皆の背中をしっかり守ってくれ」

「那須さんの格好良さがやばい……」

「そうだな、頼り甲斐がある仲間だ」

「……そうですか? 頼られるのは久しぶりですから、少し、嬉しいですね」

 

 はにかんだ那須の微笑みに見惚れてしまった三人はその言葉の裏に潜む仄暗さを無意識に感じ取っていた。頼りもせず、信頼を置かず、信用をしない。仲間を置かないという事はそういう事だ。そしてそれが常であったならばもはや言うまでもない。那須という少年がどのような立場に居たのかを何となく察せるだけの理解を彼らは有していた。何処か遠くに静かに行ってしまう雰囲気を醸す那須の左腕に麻沙音が動いて抱き着いた。驚く三人の視線を受けながら、頬を赤らめながら確かな言葉を紡ぐ。

 

「那須さん、今日は予定はあったりしますか?」

「い、いや、無いけど……」

「そしたら、うちに来ませんか? あ、遊びに来てくだひゃい!」

 

 久しぶりにテンパりから言葉を噛んだ麻沙音のお誘いに、那須は心臓を抑えるような素振りをみせて突然の胸のときめきに衝撃を受けていた。少しだけの身長差があるため必然的に上目遣いとなり、左腕全体から感じる心地良い温もりと柔らかさが脳を溶かし、赤面した可愛らしい顔に動悸が早まる。思春期の少年に抗える訳が無く、静かに頷いて肯定した。それを見た麻沙音がひまわりのような笑みを浮かべて喜んだ事で那須の脳裏にその光景が焼き付く事となる。立派な額縁に飾られたその笑顔は那須の心の奥底に大切に仕舞われたのだった。

 そして、そんな映画やアニメみたいなワンシーンを見る羽目になった二人は揃って甘ったるくなった口の中をどうにかしたかった。そして、自然と笑みを作っていた。そのあまりにも初々しくて微笑ましい光景にどうしようもない程の幸福を感じていたからだ。愛する妹の記念すべき第一歩に静かに涙を浮かべた淳之介、そっと文乃がハンカチを取り出してその涙を拭った。それはまるで愛しい娘の成長を見守る夫婦のそれであり、見た目も相まって非常に絵になっていた。

 

「すみません、大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫だぞ! 何なら泊っていくと良い。うちの妹をファックして良いぞ!」

「え、えぇと……、ま、まだ早いと思います……」

 

 そう、まだ、早いのだ。対魔忍である那須に課せられた仕事は機密情報も相まって重い枷となっており、恋仲になるためにそれらに清算を付けなければならない。此処に加わるのは那須の出生などの更なる障害であり、それらを何とかするためにも色々とすることが多い。そして、青藍島では恋愛を通り過ぎて性行為を行なっているが、普通の感性である那須たちは恋愛をしてから性行為をすべきという大切にすべき感情が残っている。そのため、まだ恋仲では無い二人に淳之介の後押しは過剰に過ぎたのである。因みに、その一言で那須のモノを思い出した麻沙音が先程以上に顔を真っ赤にさせたのは言を俟たない。




此処だけの話、放課後帰宅パートを書いてないなと思った今日この頃。全ては気配感知できる対魔忍のスペックの高さが悪いんだ……。

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