抜きゲーみたいな島に派遣された対魔忍はどうすりゃいいですか? 作:不落八十八
週末を過ぎた事で労働者の嘆きの声が聞こえてきそうな月曜日。
最近煙草を吸う機会が減ったなと思いながらぼんやりとホームルームを待つ那須の姿が教室にあった。結局土曜日は泊まる事はせずに夕飯を共にしてから帰宅し、日曜日は再び瘴気の発生が無いかの警邏に費やしてから食料品の補充をして取り留めのない一日を終えたのだった。来客用の布団を文乃が使っているため、淳之介か麻沙音のベッドのどちらかに泊まる事が判明したが故の逃亡であった事は言うまでもないだろう。
少し早めに来てしまったが故にギリギリに来る麻沙音を待つ事となり、手持無沙汰の那須は頬杖を突いて窓際特有の日当たりの温かさにうとうとしていた。美少女の微睡みという絵画めいた尊い姿を見てありがたやとクラスメイトが眼福と拝む光景がそこにはあった。
『ひぃんっ、おほぉ、パァンッ、ポォォン♪ ぜ、全校集会を行ないますのでぇっ、パコニケーションをぉっ、行なっている性っ徒はぁっ、体イクゥッ館へぇっ、移動してくださぁいっ! あぁっ』
そんな汚い放送が流れた事で一瞬にしてしかめっ面を浮かべた那須の機嫌は急降下していた。天使が悪魔になったと拝んでいたクラスメイトたちはオーマイガッと頭を抱える羽目になった。
それは生理によって苛々し始めた女子に触らずべからずという暗黙の了解があるために、美少女然とした容姿の那須もまたアンタッチャブルの存在であると認知されているためだ。
前に煙草が切れて苛々している那須に対して声を掛けてしまい、そのクラスメイトが怖気が走る程の低い声で返答された事でギャップリアリティショックによりその場で失禁した一件があったのも理由の一つだろう。その場に居合わせた者たちは那須が男性なのだと再認識する事となったのである。
一つ溜息を吐いて体育館へと向かった那須は下駄箱に居た淳之介たちを見かけて幾らか機嫌を直した。勿論ながら麻沙音の顔を見た事が理由であり、最近煙草を吸わなくなったのも麻沙音セラピーに依るものだと脳内の専門家が語っている。体育館への通路が埋まり始めてしまったため合流は到着してからになりそうだなと那須は少し機嫌を損ねた。
声をしっかりと通すためか密閉された体育館はもわりとした熱気に包まれていた。彼方此方でドスケベセックスに励む性徒たちにより湿度と気温が上がっていたためだ。鼻に付く臭いに更に機嫌を損ねた那須の周り一メートルから性徒が消えた。
背筋にぞわりと走る怖気を感じ取ったためだ。性欲と言う本能に正直な者たちが多いために、野生の勘染みた感覚で那須の周りから離れたのだろう。流石にそんな那須に対して何かを言える者は居らず、SSに所属する者でさえその恐ろしさに股間が縮こまる思いであった。
「うぉっ、な、なんか怖気が……、って那須君?」
「あー……、那須さんこういうの苦手だから尚更になのかな。おはよう那須さん」
「む、むべ……、おはようございます……」
「おはよ。……さて、何も聞いてないんだけど何が始まるのやら……」
「あれ、桐香さんから来てないんですか?」
「うん。急遽決まったのか、それとも連絡を忘れたのか、……両方の合わせ技かもしれないな。桐香さんだし」
「桐香さんだしなぁ……」
「二人の中の生徒会長はそういうイメージなのか?」
「「とーかちゃん係を一日したからなぁ……」」
「お、おぅ……」
二人揃って疲れた表情を浮かべた事でよっぽどだったのだと淳之介も理解を得た。それにしては報告の時に嬉しそうに話していたような、と先日の麻沙音の様子を思い出すも、それとこれは別なのだと何となく察した。
言うなれば手の掛かる年下のメスガキに振り回されるお兄さんの心境と言うべきか、好ましいが毎度となると疲れてくるという現象なのだろう。やれやれ、仕方が無いな、と。それでも結局仕方が無いなと笑みを浮かべられるのだから、そこから浮かび上がる桐香という少女の印象が好ましくなるのも当然だった。
まるで真夏のビーチの騒がしさめいた体育館が、檀上に昇った一人の少女から発せられるカリスマの圧によって静まっていく。その何処か超然とした振舞いは一挙手一投足すらも見逃してはならないと感じさせ、不敵に浮かんだ口元の三日月は蠱惑な印象を与える。桐香様だ、と誰かが呟き、弾けていく泡のように口々に性徒たちから漏れていく崇拝の声がしんと静まった体育館に小さく残響していく。
もっとも、先日の痴態を知っている麻沙音と那須は非常に複雑そうな表情を浮かべているが。何せ、桐香の服装はSS隊員用のブラトップにストールと言う衣服の着用に失敗した時の恰好であるからだ。ああ、起きれなくて、起こされて、間に合わなかったんだろうなぁという今朝の状況が脳裏に浮かぶようであった。
『おはようございます。まるで小鳥の囀りのように美しい嬌声を朝から聞けて非常に嬉しく思います。みなさん、先日の学年毎のイベントはお楽しみ頂けたでしょうか。より一層仲を深める良い機会になったとの声を頂いており、企画した教師の方々へ百八の感謝の言葉を代表として贈らせて頂きます』
世間話のように朗々と抑揚はあるのに感情が籠っていない美声が体育館に響き渡る。あれ程までに台パンがお好きなチンパンのように騒いでいた性徒たちはその声を聞き逃すまいとセックスの腰を止めて聞く事に集中していた。
『この度、我らが青藍島の指導者、仁浦県知事の来訪及び視察が決まりました。これに伴い、水乃月学園では歓待のため、急遽スケジュールを速めたイベントの開催を決定致しました』
この言葉にNLNSの面々に衝撃が走った。特に、昨年も在籍している者たちはまさかと言う顔を浮かべていた。嫌な予感がし始めた淳之介たちに、桐香は一瞬瞑目してから言葉を続けた。
『今週末、無様な負け犬はだぁれ♥体イク祭を開催致します』
メスガキ風に装飾された題名に淳之介たちは度肝を抜かれ、暫く唖然としたが碌なイベントじゃないなとNLNSメンバーの心が一つになった瞬間であった。そして、呆れとその他諸々を胸中に抱える事になった那須は清涼剤を求めてふらりと麻沙音の後ろへと立つと、小さな子供が大きな熊のぬいぐるみを抱くような姿勢で抱え込んだ。
突然の奇行に麻沙音が一瞬驚くものの、先日温泉宿で嗅ぐに嗅いだ那須の匂いを感じ取って逆に安心していた。そんな那須を見て淳之介が限界に達したのだと心中を察して、おいたわしや那須君と同情した。
「……で、メスガキ運動会の詳細を知っている者は?」
所変わって放課後の秘密基地。NLNSのメンバーが勢揃いしていた。
「違いますよ淳之介くん。無様な負け犬はだぁれ♥体イク祭、ですよ」
「因みに去年はヌキ撃ち☆どぴゅどぴゅ体イク祭よ。……ほんとひっどいネーミングセンスなのだわ」
「んーとね、運動会はみんなでかけっこしたり、玉入れしたり……」
「意外と普通だな……?」
「女の子が男の子のおちんちんをしごいて飛ばした精子の距離を測ったり、男の子を竿を棒に見立てて棒倒ししたりしたかな!」
「普通って何だっけ……?」
「詰まるところエロ体育祭って感じね。一応、普通の競技も混じってて、普通とドスケベの境界線を観覧してる人たちに楽しんで貰う、そんな意味合いも含んでるわ。仁浦氏が来島するって言うし、多分歓待を兼ねてるのね」
「つまり、普通の競技に参加し続ければ公開処刑は無いって事だな」
「それが兄……、過去の体育祭のログを見てもランダムっぽいんだ。百メートル走もエロと非エロの二種類あるみたいで、当日に何に参加するかを登録するみたいなんだ」
「一見普通そうでもパネマジがあるってことだな」
「最悪な事にチェンジは効かないそうですよ」
「ん? 淳之介くんたちは何を話してるの? パネェマジ? なんかすごそうだな」
「純粋無垢に育ったわたちゃん可愛いのだわ……」
「逆によくここまでこの島でノータッチで生きてこれましたね……」
「えへへ……、礼ちゃんが頑張ってくれたからかな。……あと、この発育ふりょーな見た目のせいかな。……参加者だって言ったのに……信じて貰えなくて……毎年観覧席の方に連れてかれるんだ……うぅ……ロリじゃないのにぃ……」
「悲しい地雷が掘り起こされてしまった。けど、これならわたちゃん先輩は大丈夫そうだな。皆は?」
項垂れるヒナミの頭に複数の励ましの撫でる手が伸び、嬉しいけど複雑ぅとされるがままになっていた。その筆頭の淳之介が確認のために他の面々を見やると苦笑混じりの表情が返ってきた。
「私は……、奈々瀬には叶わないって早々に棄権されて判定勝ちが多くて切り抜けられたわ」
「あぁ、実際はそうじゃないのに尾ひれどころか足まで生えてそうな噂されてるもんな奈々瀬ェ」
「……美少女フィギュアがお尻に刺さって抜けなくなって病院に居ました」
「美岬らしいが……流石に尖りのあるモノは止めとけよ、人工肛門は辛いぞ?」
「うぅ……正論が痛いです」
「その日は開会式前に熱中症で倒れて保健室に運ばれておりました……」
「地味に貧弱だもんな葉琴……。最初の頃、会話で息切れしてるくらいだったし」
「流暢にお話ができているのも淳之介様のおかげです」
面々の成果を聞き出したのは良いものの、ろくな対策手段が無くて淳之介は若干呆れていた。あまりにも運の要素が強過ぎるな、と。ある意味悪運が強いと言うべきか、喜んで良いのか少し分からなくなった。
「と、言う事で桐香さんから当日のスケジュールを貰ってきました。当日に変更が無い限りはこのまま行なうとの事です」
「流石那須君だ。頼りになる」
「この手に限るな!」
「この手しか知らないですけどね。最悪、ボクが当身して保健室送りにする方法もありますので」
「それは最終手段にしたいな……。無いとは思うが保健室に忍び込む奴が出ても可笑しくないからなこの学園の生徒なら」
「そうですね……。そう言えば、一つ耳に挟んだ情報がありまして」
「うん? 何だ?」
「……その、この体育祭、水着で行なうって本当ですか……?」
あっ、と毎年参加していた面々からの視線が那須に向かう。水着という格好はほぼ下着姿と言っても過言ではない露出が強いられる。そして、それは隠す事のできない体のラインや凹凸までをも露わにさせる恰好である。故に、男性と辛うじて認識されている那須は身体を隠す工夫をせねばならない事が決定したのである。因みに、紫外線対策として羽織る事は許可されていると葉琴からの助言があった事で安堵の息が漏れた。
そんな中、唯一那須の身体を見ている麻沙音が想像してしまって赤面していた。流石に無いとは思うがあの棍棒を持つ那須がトランクスタイプ以外の水着を着た場合、股間の怪物具合が露呈するに間違いなかった。加えてさらしで隠している胸元もまた美少女然としてえっちなのである。
男水着チャレンジという単語が脳裏に走った麻沙音は静かに発情し始めた。そんな具合であると情報を魔族因子が拾ってしまった那須は静かに顔を赤らめた。何せ、処女非処女どころか発情具合まで感じ取れる鼻を持っているのだ。同部屋かつ隣である少女から発する匂いに鋭敏に反応してしまった那須は小さく溜息を付いた。
先日の一件のせいで大分麻沙音への好感度が上がっている事で色々と悶々とし始めているのであった。それこそ、対魔忍の肩書きを捨てて抜け忍になろうかなとうっすらと思っている程に。あんまりにも今の立ち位置が心地良いが故に、心情が揺れ動いているのであった。彼もまた思春期の少年の一人である。無理も無かった。
「……そう、でした。水着、着替えて……、いやぁあああああ!! お腹、おなかみちゃらめぇえええええ」
そう言ってお腹を抱えて蹲った美岬を見て、そう言えばそういう理由でドスケベセックスを拒んでいたんだったな、という視線が集まった。普段の青藍島女子っぷりがアレ過ぎて忘れてしまっていたのであった。那須の極秘リストのおかげで乗り越えられそうだと思っていた面々に新しい課題が生じた瞬間だった。
此処だけの話、ドスケベ戦役とは違ったオリジナルのエンディングを考えているのですが始め時に迷いますね……。体イク祭編を終えたら、にしようかなぁと思ってます。