抜きゲーみたいな島に派遣された対魔忍はどうすりゃいいですか? 作:不落八十八
トレーニング日和の三日目、体イク祭まで残り二日となった木曜日の放課後。秘密基地に集まっていた面々は何時にも増して不機嫌そうな那須以外は水着に着替えてリラックスルームでプランクに挑戦していた。手元のタブレットをイラつくように叩く姿は激務に見舞われた社会人のような姿であり、彼方此方へと指を動かしている様子は鬼気迫るものだった。
「……その、那須君? 何があったんだ?」
そんな那須に声を掛けたのは、一同の視線によって背を押された哀れな生贄もとい淳之介だった。呼ばれた那須は鋭く吊り上がった三白眼の双眸をそちらへ向けて、視界に入った麻沙音の心配そうな表情によって怒りが幾らか鎮火された事で漸く冷静に戻る事ができた。
「情報漏洩などであんまり言いたくないんですが……、まぁ、無関係じゃないので、広めない事を条件にお話ししますね。本島に居る情報部から幾つか届きまして、どうも青藍島に寄生してるヤクザにノマドが関連しているようでして……。あぁ、ノマドっていうのは表向きは企業ですが、実態は魔族勢力の侵略部隊みたいなもので、幅を広げようとこの島を本格的に狙いに来てるみたいです。昨日、大分ぶち殺したので数は減りましたが魔族の侵入を確認しました。そのため、SHOがヤクザたちの根絶を目的とした戦力戦を仕掛けるらしくて、本島に居る部隊を回収するために体イク祭を企画したみたいです。水乃月学園のイベントに乗じる事で増員の理由を自然にさせ、電撃戦でヤクザたちを狩るとの事でした」
「あー……、昨日礼先輩からあれを渡されたのはそのためだったのか……」
「裏風俗に関するレポートだよね、って事はもう兄はSSから抜けたの?」
「あぁ、それもある。仮の隊員だったしな、除隊も省略で昨日やったんだ。ドンパチは何時なんだ?」
「日曜日だそうです。夕方に子供が誘拐される案件がありまして、子供は救い出したのですがヤクザ側が奪ったタブレットの処理を怠ったみたいで隠れていた本部の位置が分かったみたいです。……まぁ左腕を置き忘れて行くぐらいでしたし必死だったんでしょうね、ドジなヤクザも居るもんですねぇ」
「がっつり関与してるじゃん那須君。それも実行犯」
「やだなー、淳之介先輩。子供を俵抱きしてるのが悪いんですよ。とまぁ、それは置いといて。何でも仮初の被膜とかいう良く分からない店を拠点にしているみたいで、地上二階、地下一階の建物みたいですね。裏風俗の現場にお誂え向きな立地で、誘拐のしやすい集落地に近く、かつ山の中にあるため逃げ切りも安易だったのでしょうね」
「……今、なんて?」
「仮初の被膜っていうアダルトグッズ店ですね。売り物は……って、まさか淳之介先輩……」
その店は青藍島の風紀をよく知る者たちからすれば需要を感じない品揃えであり、イチモツを露出すれば勝手に埋まるような島でオナホールと言う自慰用のグッズは意味は知っているけれども使う事の無いと言うマイナーグッズに落ち込んでいる。対するディルドの方はプレイの幅が広がるため性撫百貨店でも扱っている程であるが、オナホールの取り扱いは本島からの輸入に頼るのが常である。そのため、入手に困っていた淳之介はその店に入り浸るどころかヘヴィユーザーであった。自分の性事情のお供の購入金が裏風俗ヤクザの資金源に加わっていた事実に淳之介は酷く狼狽し、無念を体現するように項垂れた。
話の内容から購入していた物を察した本島の経験のある奈々瀬と実妹たる麻沙音からのジト目が痛く刺さる。ぐぅの音も言えぬ戦犯具合に二人の肩が呆れたように降りる。
「それと集落地辺りの情報を集めた時に興味深い目撃情報を得てしまいまして……。その、お偉いさんっぽい人が乗った黒車の目撃情報とそのお店に続く森の付近で乗り降りしていた事が分かってしまいまして……」
「それがどうかしたんですか?」
「……ボクの任務内容、汚職議員ご用達の島の捜査なんですよね。なので、この情報を伝えると間違いなく任務終了か、殲滅工作に続くかのどっちかになると思うんですよ。そして、SSの動向も相まって此処で報告を怠ると確実に上から雷が落ちるんですよね……」
「えっ、それじゃ、那須さん本島に帰っちゃうんですか……?」
「元々そう長く続く任務の内容じゃなかったし、可能性があるってだけだよ。ただ、始末した魔族の量からして任務継続が妥当かなぁと。……けど老害共が何を言い出すか分からないんだよなぁ。井河校長なら……」
そう色々と検討し始めた那須の表情が引きつった。上司たる生きる伝説である井河アサギであるが脳筋対魔忍の筆頭でもある。魔族に対して恨み辛みを抱えている事もあり、殲滅思考に陥る事も少なくない。そのため、現状維持として那須をこのまま置き、討伐部隊かそのための増員を送るのではと考えてしまったのだ。その場合、情に弱いアサギだ。確実に那須と連携が取れると言う情報だけで知り合いを送ってくる可能性が高かった。下級魔族しか見つかってない事もあり、確実に五車学園の生徒が送られてくるに違いない。そうなると那須という人物の実情を知る者たちに絞られる訳で。
「……来るだろうなぁ」
誰とは言わなかった。外で元気に走り回る事が多いからか褐色気味に日焼けした全身スレンダーな少女のシルエットが脳裏に浮かぶ。次点で浮かぶのは持て余した弟愛を淫欲にぶっこんだホルスタインボディな少女のシルエットであった。どちらが来ても面倒な事になる未来が見えて那須が若干ナーバスになる。あの一件を未だに吹っ切れていない事もあり、何処か罪悪感めいた感情を抱くのもそれだけあの頃の生活が楽しかった証拠でもある。
そんな様子の那須を見て野生の勘染みた直感が麻沙音の脳裏に走る。エロゲー脳が弾き出した計算によって最終章に近い前イベントの予兆がする、と。数多くのエロゲーをこなしてきた麻沙音だからこそ、佳境に入ると不安な雰囲気を醸し出しがちな展開を感じ取っていた。加えて、伏線だけ序盤に放り投げられていたようなキャラが我が物顔で出てくるのが常であるとお約束を理解しているからこそだった。
来るなよ、来るんじゃないぞ、と言った前振りめいたフラグが立ったのを何となくNLNSメンバーは察した。同時に、那須との別れの日が近付いている事に気付いてしまった。何処となく空気が落ち込んだ雰囲気に那須が随分と深い溜息を吐いて追い打ちをかけた。
「その、なんだ。来るであろう人と折り合いが悪いのか?」
「ええと、ですね。うーん、どう説明したものか……。昔語りをするようなキャラでもないので、簡潔に言いますと、恐らく増員に来るのは友人の恋人か友人の姉で、何とも言えない事情のせいで三夜を共にしてしまったケジメ案件が先月にありまして……、その案件のせいで溝を作ってた事もあって会うのがめっちゃくちゃ気まずいんですよね。ある意味寝取り案件と言うか何というか……、此方にその意図が無かったのも含めて、対魔忍案件と言うか……」
「それはまた……何とも業が深そうな内容なのだわ」
「って、あれ、それじゃ那須くんどーてーさんじゃないんだ?」
「それとも、ぶふっ、ほ、誇り高き童貞理論でセーフだったりするんですかね? ふふっ」
「……むべ、……一夜ではなく、三夜?」
「あ、それ知ってる! 絶倫って言うんだよね。クラスの子が自慢してたよ! 一晩中してたーって! ……って、あれ、三夜? 三夜って、三回夜になったって事だから……、えっ、三日もしてた、って事だよね……? わ、わぁ……」
嘘偽りなく言ってしまった故の悲劇であった。意味を悟った面々がベッドヤクザどころかベッド怪獣王な那須の性事情を察してしまい、女性陣は一瞬にして湯沸かし器のように赤面してしまった。それに直面するであろう麻沙音は怯えるどころか奮い立つ様子であり、むしろばっちこいと鼻息を荒くする始末。随分と業の深い妹を持ってしまったと淳之介はその原因たる自分を棚に上げて肩を竦めた。
濁した筈なのに特大の墓穴を掘っていた那須は静かに撃沈した。こういう事をオープンにする性格ではないことも相まって返ってきたダメージが許容量を超えたらしい。増してや気になっている少女にそれを知られる事で死体蹴りが入っている。人によっては羨ましい案件なのだが、那須にその気が無かった事と魔族因子の活性に理性が負けた事実も相まって負い目と感じているので当人からすれば黒歴史と同等のそれであったのが要因に違いなかった。
実のところ、淳之介の理論を借りれば那須も童貞のままなのだろうが、それをすると二人の処女を奪ってしまった事実が負い目になり、それを否定する事に繋がってしまう。二人は処女喪失を満更でもないどころかあっさりと乗り越えた挙句、ユキカゼに至っては実際に腰の上に乗り上がった事もある程に受け入れられてしまっている。理性を飛ばしても根の優しさが行為に出ていたのだろう。魔族らしい壊すような暴力的なそれではなく快楽の沼に沈めるような調教的なそれであり、身体の限界を感じさせないような夢心地な感覚に溺れていた事が要因である事は間違いなかった。
那須が感じているそれはお酒を飲み過ぎてハメを外してやらかした挙句、そのことをしっかりと記憶に残ってしまっているために恥ずかしさを抱いている事に似ている。
「……ボクとしては色々と腑に落ちてないんですけどね。罠に陥った二人が違法肉体改造を施されて快楽狂いになってたのに、それに耐えられるだろうと信頼した結果がアレですから。ボクも途中から理性を失ってたのもあって後悔と罪悪感しかなくて……。なのにあっちは満更でもない様子でより一層姦しく接してくるし……、おかしいですよね、達郎が恋人だって言って紹介して……、…………………してたっけ?」
ふと、首を傾げた那須の語りが止まる。そして、汗顔となり目を泳がせ始めた。とんでもない勘違いをしていたかもしれない、と。よくよく思い出せば、あの頃は魔族絶対殺すマンになっていた事もあってちょっかいをかけてくる達郎たちを疎ましく思っていた。そのため、ろくに彼らの言った言葉を気にしていなかった事を思い出してしまった。そして、それを思い返す機会がなかったこともあり、今の彼らとの関係というフィルターで当時の言葉を覚えていた節がある。
――紹介するよ、こっちが俺の“幼馴染”のゆきかぜ。
血生臭さを隠さない任務帰りの恰好で、やや引き攣った顔でアサギの紹介だと言う二人と対面していた時の光景が動画を見るように思い出せてしまう。そう、達郎はその時に恋人ではなく、幼馴染と紹介していた。そして、友人になるにつれて男友達として吐露したのだろう。ゆきかぜとの関係を進めたいんだという相談は、幼馴染という関係から恋人になりたいという意味であり、手を繋ぐ関係なのでキスをしてみたいという意味合いではない。
と、色々と一般人らしい常識を得た事で成長した那須は自身の致命的な勘違いを理解できてしまった。簡単な事だった。そもそも友人以上恋人未満の二人だったのだ。幼馴染よりも好ましい相手として那須に男を見出してしまったというだけだった。達郎とゆきかぜは恋人関係じゃないので寝取り寝取られの関係ですらなかった。そのため、気に病んでいた那須のそれは全くの見当違いという事になる。
「やっべ、やらかした……」
そう消え行く小さな声を漏らした那須は両手で顔を覆って項垂れた。完全に自分の勘違いであり、彼らからすれば勝手に疎遠になった薄情者に見えた事だろう。この島に来ても彼らから連絡が来ていないのも見限られたからだと思ってしまうのも無理もなかった。
もっとも、彼らもまた那須と似たような任務を受けていてそれどころじゃなかったというのがオチなのだが、それを知る由もない那須からすれば友人を失ったように感じられた。がっくりと頭を落として重い空気を醸し始めた那須に一同は困惑するしかなった。
先程の話が那須にとって悩みの種なのだと一応の納得をし、今後の行動を練り始めた一同は項垂れた彼をそっとしておくことにした。
此処だけの話、ミートボールになったの達郎じゃねぇや浩介じゃん、といううろ覚えやらかしをしてしまって対魔忍シリーズをやりなおして書き直してました。
一応、対魔忍側はアサギ1&2&3の後でRPGが現状という時系列にしています。対魔忍ユキカゼ1&2をトゥルーしつつ、三夜案件があったため達郎は今も尚DTな上に、ユキカゼからは男友達な幼馴染止まり、凛子からは愛しい弟ではなく可愛い弟に格下げされており、ある意味寝取られ対魔忍らしい生活をしています。
二度目のアンケートへのご協力ありがとうございました!
Y猫ちゃんが応援に来るフラグが立ちました。
喘げば尊し、SS席取れませんでしたが、先行一般席は取れたので楽しみですね。
NLNS帽にSSマスクで行こうと思います。