抜きゲーみたいな島に派遣された対魔忍はどうすりゃいいですか?   作:不落八十八

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注「那須の対魔忍過去話なので、ぬきたし感ZEROです。ぬきたし勢への補足ですが、達郎は対魔忍ユキカゼの主人公こと寝取られ対魔忍こと秋山達郎。ゆきかぜの元彼扱いされる彼ですが、ユキカゼ1の序盤で告白して恋人に……なってたわ(ここの注釈のためにやり直して見落としを発見した奴)。ま、まぁお互いに好きだよって言い合っただけだからこの世界線では恋人になっていなかった、という事で。潜入の直近だったので那須んぽにゴリゴリされて頭から削り落ちたという事で一つ(何卒)」


恐怖! 始動オーク=ナス。

 ――アイツと出会った日の事を今でも覚えている。

 三年前、それは夕暮れを越えて夜の帳が落ち始めた頃だった。生きる伝説たる井河校長のちょっとしたお願い、それが少女とその幼馴染の少年を五車学園の裏門の前に立たせた理由だった。修練に打ち込むために狭い室内から外へ飛び出し、こんがりと健康的に日焼けする程に努力を重ねた小さな身体を持つ少女の名は水城ゆきかぜと言った。その幼馴染にして抜け切らない関係にやきもきしている秋山達郎はゆきかぜの付き添いとして同行していた。

 

「それにしても……気にかけて欲しいだなんて、不思議なお願いもあったもんだね」

「そうね。噂だけは聞いてるわ。篝火の対魔忍って呼ばれてるらしいわよ」

「へぇ、初耳だ」

「はぁ……、情報収集は基本よ? 変なの掴まされた日には面倒な事になるのがオチなんだから」

「そりゃそうだ」

 

 軽い返事に肩を竦めたゆきかぜを見て達郎は苦笑した。雷撃の対魔忍として実力を付け始めている幼馴染と違って、平凡な成績な達郎は人並みな向上心はあっても何処か諦めていた。隣に居る幼馴染の凄さを知っているが故に、弱々しい風遁しか使えない自身を無意識に卑下してしまっていた。

 ゆきかぜの口から篝火の対魔忍の事が語られていく。曰く、その由来は暗がりから現れた時に灰色の髪に新鮮な返り血を浴びたままだった事から、暗闇を照らすための篝火に例えたのだと言う。他の話は与太話が多く、それらを吟味して選び取った内容を纏めれば、依頼完了率百パーセント、捕虜の奪還任務と破壊工作と殲滅戦を得意とする暗殺型の対魔忍という今時の主流から外れた人物であるらしかった。まるで伝説の再来だと達郎は思って、それを口にした。ぽかんとした後にゆきかぜは何処か納得したように小さく溜息を吐いた。

 

「成程ね、もしかしたらそいつはアサギ校長の関係者なのかもしれないわね」

「へ?」

「だーかーら、同年代な私に声を掛けた理由よ。同学年で新進気鋭なのは私くらいだもの。同じくして才能あふれる人材として顔合わせさせようとしているのよ。今後、部隊や任務で組むかもしれない相手としてね」

 

 その時達郎は背筋が凍る思いだった。表情や行動には出していないが、内心では冷や汗を流して動揺していた。何せ、幼馴染だから隣に入れているゆきかぜと離れるかもしれない、そう思えてしまったからだ。優秀な対魔忍同士が結婚する例は多い。それどころか親や一族の長から推し進められる例も少なくないと聞く。対魔忍の自由恋愛は非常に難しい。今やごった煮となった五車と言う場であっても、水面下では古臭い掟や血族などのいざこざや禍根による冷遇などを垣間見る機会は多い。そして、対魔忍という肩書を持つ彼らの社会は実力主義社会と化しているのが現状だ。古き長老を切り、新しい長となった井河アサギが良い例だろう。

 そんな達郎の内心を見抜くようにゆきかぜは静かに笑みを作る。恋人になれていない現状にやきもきしているのは何も達郎だけではない、長年隣に居たゆきかぜもまたそうだった。なので、こうして危機感を持ってくれた事に少なからず嬉しさを覚えていた。

 

「――来たわね」

「えっ?」

 

 そして、そんな和やかな雰囲気を打ち払うように、微弱な電磁波によるサーチをかけていたゆきかぜが裏門の先、五車町に面する裏山へと視線を向けた。首を傾げて困惑を口にした達郎だったが、術にもならない風遁ではあるが微かに血の臭いを捉える事に成功した。

 ぼんやりと裏山へと続く獣道めいた踏みしめられただけの土道の先に人影が現れた。それは日が落ちた事で視認する事が難しいものだったが、段々と近付いて来る血の臭いによってそれを認識できるようになっていた。裏門に設置された明かりに照らされる程に近づいたそれを、ホラー演出を見ているかのような心地になった二人は見つめていた。

 現れたのは、幽鬼のような瞳をした三白眼が特徴的な線の細い少年だった。灰色の髪が赤黒くなる程に返り血を浴び、全体的に暗闇に溶け込むための黒に染められた対魔忍スーツは蝙蝠を彷彿させた。血の臭いを発していたのは彼が持つ布袋だった。スイカ程の丸い何かを入れているらしいそれを見てゆきかぜは理解が及んで口元を引き攣らせた。

 

「……退け」

 

 中性的な透き通るような声は裏門を塞いでいた二人に放たれたものだった。まるで機械のように感情の色の籠っていない声色。唖然と立ち尽くすだけの二人の様子に双眸を尖らせた少年は静寂に響くような舌打ちをした。それを聞いて反骨心が湧いたゆきかぜが動き出す。

 

「お生憎様、私たちはアンタに用があるのよ」

「……オレには無ぇよ」

「ええと、アサギ校長から君に会うように言われたんだけど……聞いてない?」

 

 喧嘩早いゆきかぜの性格を考えてか、それとも男の矜持か達郎が一歩前に出て穏便な口調で声を掛けた。その男らしい素振りにゆきかぜは少しにんまりと嬉しそうに笑みを作ったが、だんまりな少年から発せられた不機嫌の圧により、その笑みは直ぐに失せた。

 

「知るか、どうだって良い。あの人が何を言ったか知らないが関わる気は無ぇ」

「えーと、と、取り合えず自己紹介、しようか。俺は秋山達郎。……紹介するよ、こっちが俺の幼馴染のゆきかぜ」

「……水城ゆきかぜよ。アンタは?」

 

 むすっとだんまりだったゆきかぜの様子に肩を竦めた達郎が付け足すように紹介する。だが、フルネームじゃなかったためにゆきかぜが改めて名前を名乗った。それを聞いた少年は双眸の鋭さを少し緩め、何かを考えるように沈黙した。

 

「……名前は無い」

「は?」

「正確には、人らしい名前を付けられた覚えが無ぇ。実験体肆号だか、プロトB-4だとか、記号しか知らない。こっちではオークナスだなんて皮肉な呼ばれ方しかされてねぇよ」

「おおく、なす? それが名前じゃないのか?」

「はんっ、勉強不足だな。魔族と遣り合うならちったぁ勉強しとけ」

「はぁ、オークナスはベーオウルフ叙事詩に出てくるグレンデルの別称よ。ゲームとかでベーオウルフとか聞いた事あるでしょ、履修しときなさい」

「……はいはい、勉強不足でごめんなさいでしたー」

「で、何の用も無いならさっさと其処を退け」

「あ、うん……。にしても返り血凄いけど、どんな任務だったんだ?」

 

 どんな神経してるんだこいつ、と二人の視線が達郎に突き刺さる。基本的に任務内容を吹聴する事は良しとされていない。部隊内で身内染みた関係ならいざ知らず、同年代というだけで接点のせの字も無い間柄で聞くようなものではない。底の抜けた鍋を手にしてしまったかのような徒労感に襲われた少年は任務帰りの疲れも相まって面倒になってきたようで表情にもそれが表れていた。

 

「……はぁ。ノマドの子会社に潜入して、捕まった間抜けを拾いながら皆殺しにしてきただけだ」

「へぇ、すっげぇじゃん。流石篝火の対魔忍って訳か」

「達郎、あんたねぇ……。なんというか、ごめんね?」

「皆まで言うな……、余計に疲れてくる」

 

 そうして少年が歩み始め、それを遮らないようにと自然と二人は裏門への道を開けた。何処かくたびれた様子になった少年の後ろ姿を見送った二人は息を吐いた。そして、平然としていたのが嘘のようにだらだらと汗を流し始めてその場に崩れ落ちた。二人とも気丈に振舞っていたが、少年から発せられていた殺気めいた圧に潰され続けていた。少年が去った事で無様を晒す姿は年相応のそれだった。無理も無い、何せ大人の対魔忍でさえ片膝を着きかねない圧を放たれていたのだから。

 

「はぁー……生きた心地がするわ。まるで上級魔族に睨まれたみたいだったわね……」

「そうなのか……。ゆきかぜが居るって一心で耐えてたけど、やばいな、あれ」

「ふーん? まぁ、いいけど。あんな成りしてたらそりゃアサギ校長からよろしく頼まれる訳よ。それも真っ黒な経歴持ちの訳あり。……根は優しいみたいだけどね」

「だな。やろうとすれば俺らを突き飛ばして行けたのに会話してくれたもんな。……にしても、記号でしか呼ばれた事が無いっていうのは随分とヘヴィだな」

「そうね、今日日ゲームか漫画でしか見た事無いわよそんなの。……はぁ、取り合えず顔合わせは終わったし、帰りましょ」

「そうだな。……さっさと風呂に入りたい気分だ」

「同感」

 

 ――懐かしいアイツとの出会いの夢を見た。

 

「昔のアイツが今のアイツを見たら困惑するに違いないでしょうね」

 

 五車学園の教室の一角で、先日の任務疲れから転寝していたゆきかぜは微かに揺れる胸を張るように腕を突っ張って身体を伸ばした。邂逅したその日から裏門での一方的な待ち合わせは続いた。思えば日課になっていたと苦笑する。どうも嫌いになれないと達郎が率先して会話をしていたのをゆきかぜは覚えている。裏門を塞ぐ二人を見て呆れた顔をしていたが二度、三度、と続いていくうちに、小さな挨拶を先にしてくれるようになり、五車学園の地下に極秘裏に存在する桐生ラボの一室で寝泊まりしている事を教えてくれるようになり、段々と仲を深めていった。どうすれば強くなれるのか、という男の子らしい話題で達郎を鍛えてくれるようになった頃から、ゆきかぜが彼を見る目を変え始めていた。頼りになる訳ありの男友達、それが大久那須と上から名付けられた少年の印象だった。

 達郎に誘われてゆきかぜの豪邸な家にお呼ばれした時の困惑していた可愛らしい姿は今も忘れない。そして、自室にて興味を抱いたらしいゲームや漫画を貸すようになり、二人の勧めから狂犬めいた言葉遣いを矯正するためにアニメを、それも深夜アニメを一緒に見るような仲になっていた。私物らしい物を持たない那須にとって、漫画やアニメを豊富に持つゆきかぜとの交流は正しく雷撃による突然変異をもたらしていた。

 それは、同室の桐生が目を見開いて驚愕するような珍事件であり、今の那須は一般常識を身に着ける紳士めいたそれである。獲物の血を滴らせる狂犬とは打って変わった姿に驚愕せざるを得なかっただろう。

 彼らにとって幸いだったのは、環境が環境で、実験動物扱いをされていた期間が長過ぎて那須が男女の仲と言うものを知らなかった事だろう。だからこそ、そんな関係は続けられたのだ。だが、それを先日の奴隷娼婦未遂事件によって覆してしまった。本能を押さえ付けていた理性が快楽によって陥落し、理性の鎖が取り払われ、極上な肢体と魅力を兼ね備えた二人を那須は性的に貪ってしまった。それ故に、女性として意識するという事を学んでしまったが故に、今までゲームや漫画などの創作物から得た知識であった色恋と言う感情を噛み砕いて呑み込めてしまえるようになった。それは第二次成長期を迎えた男女の性的観念の芽生えであり、那須が性に対して気恥ずかしさを覚えるきっかけにするには劇物過ぎた。

 

「さーてと、そろそろ準備しなきゃね。あの変な島に行かないといけないみたいだし♪」

 

 桐生から受け取った那須の装備一式を小さな胸に抱き込んだゆきかぜは隠せない笑みを浮かべていた。あの一件で変わったのは何も那須だけではない。男女の営みを経て、それも熱烈な営みを経た事でゆきかぜは知らなかった自分の一面を知る事ができた。そして、それを今まで惹かれていた達郎にできるかと言えば否である事は分かり切っていた。だから、仕方ないのだとコールタールめいた粘性を持つ感情を制御する事に諦めを見せていた。少しだけ下腹部が疼いたゆきかぜは妖艶に笑みを作ってそこをさすった。残念ながら先日に生理が来ていたため孕んでいなかったと知ったが、今もあの時の壮絶な営みを思い出して笑みを作る事が増えた。

 先日の一件、聖修学園への潜入任務で淫魔王の隣に立っていた実の母親の姿を思い出す。ああはならないと思っていたが、親子なのだ、似てしまう一面があるのも仕方が無いのだろう。そう、仕方が無いのだ。那須の持つ極悪な剛直によって心から屈服させられた挙句、そこから淫靡な谷底へ突き落すような甘い快楽に溺れさせられた経験が身体を疼かせるのは。理性の無い獣のように、そこらの魔族がするような女を使ったオナニーのようなそれであればこうはなっていなかっただろう。だが、女としての快楽を教え込まれるような調教めいた運びで、ゆきかぜの体調を気遣いながらの甘美な快楽は心を満たすものだった。ああ、この人の女になったのだ、と思ってしまうような心からの狂喜をゆきかぜは感じてしまっていた。

 

「ふふっ、早く会いたいな♥」

 

 恐らくながら、同じ場所に居た凛子も似たような事を考えていたに違いない。だが、体感的にではあるが行為に及んでいた時間の三分の二は自身であったとゆきかぜは感じていた。自分が、身体的に劣っている容姿だと思っている自分が、何処とは言わないがびにゅんぺたんすとんな容姿をしている自分を那須は選んでくれたのだと、麻薬めいた喜びによってゆきかぜの女の部分を多いに刺激していたのだ。何せ、那須側から濃厚な接吻を行なったのはゆきかぜだけだった。凛子との行為の時には接吻をするのはもっぱら凛子の方からで、那須はそれを受け止めていたに過ぎなかった。

 例え、肉体改造によって快楽を肯定する思考に陥っていたのだとしても、これまでの日々の答えを出すような心地だったのだ。頼りない幼馴染の男の子止まりの達郎よりも、頼り甲斐があって逞しくて趣味を共有できるような関係を築いた那須の方が好ましい。それを、先日の一件で体と心で理解したゆきかぜの気持ちは、桐生の魔科医治療によって元の身体に戻ってもなお変わらないものだった。

 深夜アニメを見るのはリアルタイムが至高、だなんて言い訳を作って那須が気に入ったアニメを自室で一緒に見て寝泊まりさせていたのはその表れだったのだろう、と今のゆきかぜは我ながら甘酸っぱい事をしていたなと苦笑するくらいに成長していた。故に、そんなゆきかぜをアサギは見込んで応援として送り出す事にしたのだった。

 彼女に命じられた使命は、先行した対魔忍の任務随行及び補給物資の受け渡し、だった。島へ向かう日が近付くにつれてユキカゼの機嫌は良くなる一方である。そんな彼女が一般人の少女に首ったけな那須と出会えばどうなるか、それも豊満な身体を持つ少女と知ればどうなってしまうのだろうか。同時刻、秘密基地で項垂れていた那須の背筋に寒気が走ったのは言を俟たない。




此処だけの話、ぬきたし2ファンミお疲れ様でした!
最高でしたね! 特に、そらまめ。さんの「好きっ!」で割と本当に尊死しました。
SS席には落ちましたが、先行組だったからか通路挟んだ後ろの最前列に着けたので気持ち良く見る事ができました。
通販でドラマCD等も買ったし、キャンパスアートもついつい買っちゃいました。あの日の集合写真とか、もう、ね(尊死)
ぶっちゃけ、ぬきたしに異物ぶち込んだの若干後悔し始めたゾ。
取り合えず、完結までは頑張ろうと思いますので……。
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