抜きゲーみたいな島に派遣された対魔忍はどうすりゃいいですか? 作:不落八十八
体イク祭が翌日に迫る金曜日。
今朝から神妙な様子の那須から送られた一通のメッセージ、中休みに秘密基地へ、と言う短い内容のそれに中二病心を若干擽られた淳之介はそわそわしていた。男の子であれば一度は憧れる秘密基地。それを保有しているからこそ、だらだらと長文で内容を説明されてから行くよりも、こうして短いメッセージを送られた方が格好良さがある。
「……やっぱり分かってるな那須君は」
「何がなの淳」
「ふっ、奈々瀬お前もメッセージを受け取ったろ? つまりはそう言う事だ」
「えぇと……、あぁ、そう言う事。ほんと、男の子って好きね、そういうの」
「むべ、淳之介様は博識でございますね……。時折、わたしの知らない事を知っていらっしゃるのでもっと勉強をしなくてはと思います」
「いや、葉琴ちゃん、淳之介君のそれは勉強しても学べませんよ。何せ、拗らせ童貞と同じで不治の病ですから」
「むべっ!? じゅ、淳之介様は御病気なのですか? い、今直ぐに病院へお連れせねば……!」
「そうだったの淳くん!? すすすすすぐに行かなきゃだよ!!」
「あー、待て待て葉琴。兄のそれは一時的な精神病のような何かだから、ほっとけばいつか治ってるから安心しな。むしろ、治すべきは前者の方だから、だから兄はさっさと奈々瀬さんを抱いて幸せにするんだよあくしろよ拗らせ童貞」
「自分を含まなくなったのは良い兆候だと喜べるんだが、まるで親戚に出会った時に彼女できたか聞かれるような心地でなんか辛い」
「言えたじゃねぇか兄」
「くっ、最近那須君との関係が良好だからってリア充全開で来やがって……っ!!」
「おうおう、羨ましいかー兄ぃ。悪いなぁ兄ぃ、この幸せは二人までしか味わえないんだ」
「ぐぬぬぬ、妹の癖に生意気だぞぉおお!」
「ぬぐぐぐ、兄とは違うのだよ兄とはぁああ!」
秘密基地へ向かうエレベーターの中で取っ組み合いを始めた橘兄妹に四人は苦笑していた。那須の加入から麻沙音との遣り取りが少し減っていた事もあって久々にするじゃれ合いであり、二人の様子が楽しそうな事から遊んでいるのだと理解できたからだ。
それにしても、と奈々瀬は地下へと降りていくに連れて減って行く数字を見ながら思う。NLNSも所帯が増えたなぁ、と。最初は淳之介と麻沙音と自分だけだったのに、と少し感慨深い事を思ってしまうのは、今の方が楽しいと感じている時間が長いからだろう。お調子者の美岬に、可愛らしいヒナミ、従者っぷりが板についてきた葉琴もとい文乃。そして、色々と謎の多い那須。体イク祭という頭青藍島めいたイベントに悩まされた去年の事を吹き飛ばすような心地に不思議と笑みが浮かんだ。
今もポカポカと麻沙音と楽しく喧嘩している淳之介を見やり一つ溜息を吐く。何時になったら気付いてくれるんだろうかこの朴念仁は、と口にはせずに心に留める。古い、懐かしい記憶。幼年期に外のファッション誌に憧れて今時風にお洒落を始めた頃に、とある少年と出会って、勢い余ってしまい勘違いさせて離れ離れになってしまった思い出がある。
「……ほんと、変わらないわね、淳は。ほんと……」
妹思いの良いお兄ちゃんなのだわ、と続く言葉を笑みの裏に隠した。そして、ちらりと辺りを見回して、そんな淳之介に熱い視線を向ける仲間を見やる。この場に居る女子全員からの熱い視線を受けている淳之介は気付いていないが、進展しない関係にやきもきしているのは何も奈々瀬だけではない。
自分の秘密を知っても受け入れてくれた事から段々と素を見せられるようになった美岬、ふとした瞬間に良い感じにアダルトな雰囲気になって胸がむずむずする気分になるヒナミ、訳ありの自分を追求する事なく家族の一員として受け入れてくれた事で寂しさと家族愛が満ちていく文乃。皆が皆、淳之介に惹かれているのだと互いに薄っすらながら察している。
加えて奈々瀬は知らないが、一目惚れからSSの訓練の隙間でちょっとした逢瀬を交わしている桐香、一生懸命に訓練に励んでいる淳之介の性根の良さに静かに惚れている礼、桐香に那須に対し色々とお話をされた事で傷心していた所を訓練の合間に気遣われてロックオンした郁子、と、実にエロゲー主人公らしい包囲網を敷かれているのであった。
七人の少女に熱の籠った視線で見られていると知らずに妹と戯れていた淳之介だったが、秘密基地にエレベーターが辿り着いた事で開いた扉の方を見やって――身震いした。それは淳之介だけではなく、他の五人も同じだった。空気が重たい、そう肌で感じたからだ。
「……ず、随分と本格的だな?」
「いや、確実に違うでしょ淳」
「むべむべ」
「ミサミサ」
「ひ、ヒナヒナ?」
「はいはい、アサアサ。……にしても、この雰囲気……兄」
「ああ、分かってる。流石にもう茶化さないさ。待ってるんだろ、那須君が」
エレベーターから秘密基地へと続く扉は二つ。その一つを開けると更にその見えない圧は強まった心地がしていたが、追い返されるのではなく誘い込まれるような、何かを試されている心地にさせるものだった事から意を決して二つ目の自動扉へと近付いた。
開かれた先に男子制服姿の那須がリラックスルーム前で壁に寄り掛かっていた。瞑目して腕を組んだその姿は普段通りであるが、身に纏う圧は見慣れたそれではない。対魔忍と言う肩書きを見ただけで感じられる姿であった。開かれた自動扉の先から歩み入って来た面々を迎えるようにその双眸を開いて向き合った。壁からそっと腕を解いてから離れて対峙するように歩み寄った那須の表情は普段の柔らかさは無い。孤高の狼のような鋭さを感じさせる雰囲気だった。
「お待ちしていました。来てくださりありがとうございます、皆さん」
「ああ、と言っても此処に来るのは日常だけどな」
「それもそうですね。では、手短に本題に入りましょう」
そう淳之介から視線を外してメンバーを見回す那須の様子に、段々と緊張感に冷や汗をかき始めた面々は生唾を飲んだ。その様子に怪訝な表情を一瞬浮かべた那須は合点がいったと圧を収める。それに合わせて部屋の雰囲気が良くなった事で一同の表情に険しさが消えた。
「本日の夕方に本任務に随行する対魔忍が来る手筈になっています。上から追加任務として、SHO及びSSと共同して青藍島に潜伏するヤクザ及び魔族の排除が決定されました。前に伝えたように行動はSHOの動きに合わせ、日曜に襲撃する事が確定しました」
「……良いのか?」
「ええ、これからが本題ですから。さて、淳之介先輩。何故この問答をしようと思ったかと言うとですね。このままだとNLNSは何もしないまま終わる、という事になるんですよ」
「どういうことだ?」
「いえ、そのままの意味ですよ。本作戦によって青藍島に跋扈するヤクザは排除されます。裏風俗に対して怒りを抱えている淳之介先輩ですが、介入するための理由、無いですよね? それとも、この青藍島に仇名す輩を直接葬りたいですか?」
「それは……」
「仮に、NLNSのメンバーが誘拐されていたり、目の前で犯行が行われていたら流れ的に向かうでしょうが、今回はそれが無い。……そうでしょう?」
確かに、と言う同意の言葉が淳之介の脳裏に過ぎった。そして、それをしてしまえば話が終わってしまう、そう感じてかその言葉を口にする事は無かったが悩む素振りを見せた。その様子を見て、那須は淳之介が何を悩んでいたのかを理解できた。
元々、NLNSの行動理念の裏にはドスケベ条例への恨み辛みと言った憎悪が見え隠れしていた。それはT-A-Eの製造が直接的な妨害及び奇襲に適したグッズである、という事から、自己防衛以上の危害性を孕んでいたのが透けて見えるのだ。
勿論ながら、淳之介に相手を害そうという気概は無い。だからこそ、淳之介は黙るしかなかった。那須の言いたい事が理解できたからだ。自分の因縁に皆を巻き込む覚悟はあるか、と言う問い掛けをされているのだと。
「まぁ、実を言うと理由を此方から作る事はできます。裏風俗で違法に働かせられている方々が居ます。それを救い出す、そのための保護要員として付いて来て頂く事は可能です。無論、その役目をNLNSが担う必要はありません。ですが、日時を知って、場所も知って、燻ぶる気概もある貴方が勝手に動き出す、そんな可能性がある、そう思ったんです」
「……俺は」
「ボクとしては鉄火場になると分かっている場所へ、一般人である貴方たちを連れて行きたくはありません。しかし、こうして釘を刺して、当日に知らずに来られるのも困ります」
「那須君……?」
「気持ちは分かるんですよ。非人道に手を染めて、無辜の人たちを貶めて、凌辱し、冒涜し、絶望させ、地獄へ落とす塵屑共を皆殺しにしてやりたいって言うのは。人を人として見ない、まるで物のように扱う奴らをこの手で始末してやりたい。分かります、分かりますよ淳之介先輩」
「那須君……!?」
「おっと、すみません、つい私情が……。とまぁ、脅す訳では無いのですが、手を貸す側としてはどちらを選ぶかを聞いておきたいんですよ。どちらにせよ、皆さんの安全を守らないといけませんから。それが近くになるのか、遠くなるのかの違いですからね」
「そ、そうか……。俺は……」
那須の闇を垣間見た淳之介は若干たじろいだが、自分の、NLNSの事を思っての言葉に踏ん張り直した。自分の我儘に皆を巻き込む、その選択肢を選ばせてくれているのだと実感して――肩に重さが加わった心地を淳之介は感じた。
仲間を傷付けるかもしれない、しかし、かつて自分を救ってくれた恩人を殺した裏風俗を潰したいという思いが天秤に乗る。天秤はどちらかに与する事をしないように、淳之介の心の様に揺れていた。どうすれば、どうしたいんだ、と言葉の先が続かない。
そんな淳之介の震える背中を見ていた少女たちは顔を見合わせて、肩を竦めて笑みを浮かべてから頷いた。ぐるぐると出て行かない言葉にやや顔を青褪めた淳之介の肩がずっしりと重くなった。同時に柔らかな感触と温かさ、振り返ってみれば五人の頷きと逞しい笑みが返ってくる。
「おいこら淳、なーに一人でやろうとしてるのよ」
「奈々瀬……」
「そうだよ淳くん。淳くんは頑張り屋さんだから一人で抱えちゃうけど、わたしたちが居るんだからね!」
「わたちゃん先輩……」
「そうですよ淳之介君、一人だけで気持ち良くなろうなんて駄目ですからね!」
「美岬……」
「ええ、不肖このふみ、……葉琴、淳之介様のお力に成りたく存じます」
「葉琴……」
「ま、そう言う事だよ兄。今更兄の我儘に付き合わない程、私たちの絆は弱くないって」
「アサちゃん……」
声を掛けられ、ふっと遠のいた掌が強く振り下ろされて、思いを込められた叱咤が背中を打った。結構勢いが強かった事で良い音がしていたが、その痛みも含めてチームを背負った実感を得た。力強い背を押す言葉と笑みに、格好良い笑みを返して淳之介は振り返って那須と再び対峙する。嬉しそうに笑みを浮かべる那須の様子を見て、淳之介は心からこのチームを組めた事に感謝した。
「やるぜ、那須君。俺たちの手で裏風俗をぶっ潰すんだ!」
「はんっ、良い顔するようになったじゃねぇか先輩! 良いぜ、それでこそだ。作戦目標である日曜日、その日を跨ぐように土曜にNLNSで夜襲を決行する。オレが道を開く、アンタらが続く。安全を確保したら、要救助者を保護して退却。SHOに出しゃ張られず、ヤクザ共に一泡吹かせ、オレらが居たと知らしめる。どうだ、そそるだろ?」
「あわわわ、な、那須さんがめっちゃワイルドになってるぅ、瞳もギンギラギンでめっちゃ格好良ぃ……あ゛ぁ゛ー、好きっ!」
「ああっ!! やったろうじゃないか! そのためNLNSだ! 愛無きセックスを許してたまるものか! 俺たちがこの島を救うんだ!」
中性的な紳士めいた外面を破り捨てて、淳之介の想いに応えた那須が素の顔で狂暴な笑みを浮かべる。その一瞬の変貌に度肝を抜かれたものの、そのギャップに心を撃ち抜かれた麻沙音の嬌声に冷静を取り戻した淳之介が続いた。まるで少年漫画の決戦前夜な熱い雰囲気に段々と一同のボルテージが上がる。ひっそりとテンションを戻した那須はその様子を見て微笑む。
「さて、良い感じに盛り上がった所で一つご相談なのですが」
「うわぁ! いきなり落ち着くな! ……で、なんだ?」
「それでですね、えーと……、放課後に顔合わせのために会って貰いたいのが居るんですが……。その……、此処に呼ぶか、それともボクの家の方に集まって頂くか、を決めて欲しいんですよね……」
「何でそんなにテンション落ちてるんだ……。流石にこの場所はまずいから、那須君の家で良いか?」
「分かりました、ではそのように……」
先程のボルテージの上がり具合が嘘のように消沈している那須を見て淳之介が首を傾げたが、ヒナミがぼそりと呟いた、もしかして三夜の、というフレーズで何となく察してしまった。本島から送られてくる増員が例の少女のどちらかなのだろう、と。
「……控え目に言ってこの島やばいですからね、どうやって説明しようかなと……」
「あ、そこなんだ……」
負い目からの後ろめたさではなく、この異常な島への説明をどうするかを悩んでいるようであった。それは本島から再度引っ越してきた時の淳之介も感じた常識の差異。それを説明する側になるとなれば、と自分に当てはめてみれば、嗚呼成程、と那須の気持ちが理解できてしまった。
此処だけの話、次回ゆきかぜ参戦。
(ドラマCDを聞いて尊死した奴)