抜きゲーみたいな島に派遣された対魔忍はどうすりゃいいですか?   作:不落八十八

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敵の子宮口を叩け。

「無事に撃墜王イベントが終わって、NLNSの結束力も一層強くなったと思う。だが、反省点も多く――」

「淳」

「……なんだ奈々瀬」

「いや、えっと……。アサちゃんの様子が、その……」

「……言うな」

「えっ、でもやっぱり……」

「流石にアレを放っておくってのはどうかと思いますよ橘さん」

「畔もか……」

「うん、私もそう思うな」

「……わたちゃん先輩まで。……触れなきゃ駄目か、やっぱり……」

 

 それは撃墜王イベントが終わった翌週の月曜日の放課後の事だった。

 本来であれば昼休みにこの学園の地下に作られた秘密基地に来るのが定番の麻沙音が来ず、兄である淳之介の裸インに問題無いという簡素な返事のみが返ってきた事からその異変は始まった。撃墜王イベントの覇者になってしまっていたなんちゃってギャルビッチな奈々瀬を真っ先に褒め称えるであろう麻沙音が、定位置であるお気に入りのダンボールに入ったかと思えばタブレットを抱き締めて溶けていたのである。

 

 あの麻沙音が、である。片思いをする奈々瀬が来れば率先してげへげへと出迎えるあの麻沙音が、だ。そして、実は一番乗りしていた影の薄い美岬が、二番目に来た麻沙音がダンボールに溶けてから奈々瀬や合法ロリ娘なヒナミが来たのにぼんやりし続けている一部始終を見ていた事もあって、その異変は隠しきれないものになっていた。

 

「でへへぇ……」

「今まで一度も見た事の無い一面を見せる妹が居る……」

「橘くんでも見た事が無い状態なの?」

「ええ、ゆりかごからベッドまでアサちゃんを見守り続けた俺でさえ、こんな風に限界オタクの末路めいた姿を見た事は無い……。いったい何があったんだ……」

 

 抱き締めたタブレットの画面を時折見ては、感極まったと言わんばかりに笑みを浮かべて溶ける麻沙音を全員が見やる。その視線に気づく事なく再び溶けている妹に淳之介は困惑を浮かべていた。そう、推しのキャラが居るエロゲーを極めた時でさえこんな表情を浮かべた事は無かった。幸せそうに溶け切った表情は、何処となく奈々瀬に抱き締められて鼻血案件になったそれに類似しているようにも思えたが、首を傾げる奈々瀬の様子からそうなる要因があったようには思えなかった。

 

「あっ」

「美岬ちゃん、何か心当たりがあったりするのかな?」

「もしかしたら、なのですが……。一年生に転校生が来た、っていう噂を聞きました」

「転校生?」

「それ、アタシも聞いたわ。何でも美少女にしか見えない男の子が来たって、年下好きのクラスメイトが舌舐め擦りしてたわね」

「A等部の一年に転校生……、もしかしなくても一組なんじゃないか、それ」

「この様子だとそうなんじゃないかしら。でも、アサちゃんって女の子が好き、なのよね?」

 

 在り得ない話では無い、と誰よりも麻沙音を知る淳之介は思った。

 橘麻沙音という少女は同性が好きと言うセクシャリティを持っているものの、兄も好きであると限定的ながら異性に対する好意も持ち合わせている。つまりはレズビアン寄りのバイセクシャルと考える事も可能なのだった。生粋のレズビアンであるならば3Pの対象に兄という異性を含む事はそう無い筈だ。また、兄に対して女装が似合うと宣うあたり、男でありながら女の恰好をしている事に対しての嫌悪感は無いように思える。男の娘がカテゴリ的に有り寄りなのは言うまでもない。

 

 もっとも、それは淳之介から見た麻沙音のセクシャリティを分析したものに過ぎず、自分以外の異性に対して欲情できるかどうかまでは知る由は無かった。だが、目の前のそれを見ている限り、もしかしたら、と思うところがあったのである。

 

「えーっと、淫スタでもその転校生について色々と話題が上がってるみたいですね、ほら」

 

 そうタブレットをすいすいと操作した美岬は、検索機能を使って情報をある程度纏めた状態にして机の上に置いた。その内容を見ようと三人は身を乗り出してタブレットを囲むように集まった。Inkeisasuttagram、略して淫スタと呼ばれるそれはSHOの公式アプリであり、その実態は本島の有名所のアプリをドスケベナイズして組み込んだような集合体である。その一部にして青藍島用SNSとして認知されているそれを手慣れた様子でスクロールしていき、一部抜粋するように美岬がイクねを押し始めた。

 

『外見が完璧に美少女なのに指定制服を見て男と知って絶望した』

『男なのに勃起してる自分が居る。性癖壊れちゃーう』

『ボーイッシュなボーイ……有りねっ!』

『アナル弱そうな子ですねぐへへ』

『こんな可愛い子におちんちんついてる訳がないだろ!』

『ついてるんだよなぁ(男子制服を見つつ)』

『年下美少年キタコレッ、お姉さんのほかほかおまんこでいちゃらぶしよ?』

『ショタオネ分からせックスしてくれたりしない? しよ? しろ!』

 

 途中、美岬が凄まじい速度で投稿したような気もしたが、転校生の情報は散見できた。つまり噂は本当であり、A等部一年一組に転校生として美少女めいた男子が転校している事実が浮かび上がった。その転校生がこのような麻沙音にした原因であると紐づけるのは容易な事であった。

 

「本当に女の子みたいに綺麗な子なんだねぇ」

「これ明らかに盗撮じゃないの……。でも確かに女の子にしか見えないわね」

「中性的な顔付きで何処となく凛々しさもある……、所謂ヅカって感じですかね?」

「こんな可愛い子が女の子の筈が無いってか。うーむ、もしかしたらもしかするかもしれないな……アサちゃんだし」

 

 そう思い思いに感想を口にしてから未だにダンボールで溶けている麻沙音を見やる。でへへと頬を緩ませながらタブレットをフリック操作しているようで、誰かへの裸インの返事をしているようだった。そろりそろりと淳之介がダンボールへ近付き、影を作らないようにタブレットを覗き込む。那須さんと名前付けされたアドレスに対して「お役に立てて良かったです。困った事があれば何でも聞いてください。力になります」と打ち込んでいて、随分と会話が弾んでいるようだった。

 

 それを見て淳之介は凄まじく複雑な思いを抱いた。蝶よ花よと見守り続けた大切な妹が見知らぬ男の子と仲睦まじくしているという不安感と、あんなに極度な人見知りであったのにクラスメイトと交友を深めるくらいに立派になったという安堵感の鬩ぎ合いであった。大事な妹に見知らぬ虫が付き始めた、と危機感を覚え始めたあたりで、裸インの遣り取りを見られた事に気づいたらしい麻沙音がタブレットを抱き込んで隠した。

 

「何妹の裸インを盗み見してるんだデリカシーねぇのかよお前だからモテないんだぞ少しは那須さんの紳士力を見習え分かってるのか万年発情童貞野郎」

「誰が万年発情童貞野郎だこの万年引き籠り処女馬鹿娘。……その、那須ってのは誰なんだ?」

「あぁん? 愛する兄と言えども那須さんを呼び捨てにするとか万死に値するんだが? ふぅ、……那須さんは今日私のクラスに転校してきた人だよ。その、初めてできた同学年の友達と連絡先を交換したから舞い上がってたんだ……。ごめん兄」

「いや、良いんだ。俺もアサちゃんにお友達が、それも異性のお友達ができたって知って色々と思う所があったんだ」

「これまでずっと後ろに引っ付く妹を見守り続けて来てくれたもんね、兄、好き!」

「俺もだぞ!」

 

 高低差という障害で不格好な抱擁を交わして仲直りする仲睦まじい兄妹の姿があった。それを見て仲が良いなぁと他の三人がほっこりと笑みを浮かべて二人へ近付いた。普段であれば椅子に座る淳之介を中心に集まるのだが、今日に限ってはダンボールに入ったままの麻沙音が中心になったようだった。そうして漸く停滞していた時間が動き出すように、麻沙音は身体の位置を戻して普段通りの体勢へ戻す。自分が話を止めてしまっていたのを察してしゅんと肩を竦めてから淳之介へと居直った。

 

「兄、提案があるんだ」

「よし、分かった」

「えっ、いや、話聞いてからの方が……」

「ふっ、アサちゃんがそこまで打ち解けた相手なんだ。アサちゃんが信じる那須君を信じてみようと思うのは当然だろう」

「あ、あにぃ……」

「おいこら淳。勝手に話を進めてるんじゃないわよ。ねぇ、アサちゃん。その那須って男の子はどんな子なのかしら?」

「これから仲間になるかもしれない男の子だもんね! 私も聞きたいな!」

「え、えっと……、その、な、那須さんは昼休みに私を購買部に誘ってくれて、その途中で襲われかけたのを助けてくれて、えと、えっと」

 

 しかし、口にすべきはそれらではなく、秘密にした煙草の事でもなく、本題と言うべき重要な事柄だ。つい嬉しかった事を先に口に出してしまったが、今度こそはと麻沙音は意を決して口にする。

 

「那須さん、性的な事に対して忌避的だったんだ。好きじゃないって。それに、この島の在り方にも可笑しいって呟いてた。廊下でドスケベしてる人たちを、まるで動物園みたいだって形容してたんだ。だから、仲間になってくれる可能性は高いと思う」

「ど、動物園……、なら肥えて脂の乗った私は豚ですね、プギィッ」

「畔さんは逃げ出した豚だった可能性が……?」

「す、凄いクオリティだったなぁ。礼ちゃんの物真似も上手いけど、美岬ちゃんのは凄い上手って感じだなぁ。練習したんだねぇ。凄く頑張ったんだねぇ、えらいえらい」

「えへへ、ありがとうございます。こうして笑いを取るために練習したのは良いけどその機会に恵まれなくて今まで死蔵してたんですよね……」

「しれっと悲しい努力を暴露するなよ……。ほら、俺たちならいつでも聞いてやるからな……」

「あぁ、態々パイプ椅子の上に立ってなでなでするわたちゃん可愛いのだわぁ……。背伸びしてるみたいですっごく可愛いわ……んふふっ……」

 

 一瞬で話が曲がり切れずに横転した貨物列車の如く脱線してしまっていた。子供好きなギャルお母さんと化した奈々瀬は口元を抑えて尊さを噛み締めているし、ヒナミのバブみに当てられた美岬は項垂れつつもふひひっと笑みを浮かべていたりと状況はカオスと化した。それがNLNSという秘密組織の日常と言える光景だった。

 

「よしっ、そしたら新たなメンバー候補の勧誘に行くか」

「アタシや淳たちもそうだけど、本島からの転校生なら青藍島に馴染むまで時間が掛かる筈よね。性的な事に何かしらの忌避的な考えを持っているなら尚更に」

「イッてるうちに叩けって奴ですね!」

「そんな訛りがあってたまるか。早いに越した事は無い。ともかくアサちゃん、その那須君に連絡は付くか?」

「うん、教室で別れる時に連絡先を交換したから。帰りに買い物に行くって言ってたけど、さっき買う物を買えたってお礼が来てたから大丈夫、かな。……これ私が連絡する流れなのか、うわぁうわぁどうしよう兄」

「……頑張れ」

「あっ、察し。そうだった兄は友達いないから誘い方知らないもんね。という事で奈々瀬しゃん、ご助言の程お願いします!」

「えっ、えっと……、そ、そうね。先ずは此処に呼ぶのか、それとも別の場所にするのか、それを決めましょうか。わたちゃんの時みたいなのはやっぱり駄目よ淳」

「あっ、そういえばそうだったね。確かによくよく考えれば私のトキ、大分成り行き任せな感じあったからな。今思えばちょっと強引気味だったな?」

「それだけこの基地の重要性が高いって事ですよ。そうだな、それを考えると裏門あたりがベストか。今の時間帯ならイベント後特有の燃え尽き症候群で性触者たちも少ないだろう」

 

 視線を麻沙音にやれば、既にタブレットでスーパーサーチをかけて裏門辺りを調査していた所だった。淳之介の視線に頷きで返した事で待ち合わせする場所は決まった。問題は唯一連絡先を持つ麻沙音が那須を誘えるか、という点に収束した。話が纏まってしまったがためにその事に気づいた麻沙音が慌てふためき始める。

 

 無理も無い。幼少期の虐めや人見知りによって友達付き合いというものをした事の無い引き籠り気味の少女である。似たような境遇である淳之介もまた友達らしい誘い方を知らないが故に助言もできない。そんな場で名乗りを上げたのは小さき先輩ヒナミだった。

 

「ふふん、こういうトキは先輩にお任せだよっ! お友達を誘うトキはね、裸インでも良いけどやっぱりお電話するのが一番なんだ。既読に気付いて貰えなかったらお互いに寂しいからね」

「おぉぉ……、わたちゃんが頼れるお姉さんみたいだ」

「NLNSのねんちょーさんだからね、私、おねーさんだもん! それでね、今時間大丈夫って聞いてから本題を言うの。このトキは……、会いたいから裏門で会えるかな、とかかな?」

「それって……」

「放課後デートのお誘いみたいですねぇ……」

「で、でででででーとぉ!? あ、いやデートじゃないや。ううん、もう少し、もうちょっとだけどうにかなりませんかね……」

「そしたら部活動の説明ってのはどうかな? NLNSって凄い帰宅部みたいなものだし、説明もすんなりいくんじゃないかな」

「あんまり間違ってないのが正直辛い……。取り合えず、もしもし、今電話大丈夫? 私の入ってる部活動について説明したいから裏門まで来れる? って具合に電話すれば良いぞアサちゃん」

「お、おぅ、が、頑張ってみるよ兄。……でも私、友達に電話するのって実はこれ初めてだったりしてすんごい緊張するよ兄、大丈夫かな、こんな時間に電話かけてくるんじゃねぇようぜぇとか思われたりしないかな」

「お前の信じる那須君を信じるんだ」

「ぶん投げたのだわ……」

 

 連絡先を交換してくれるくらいには好感度がある、そう思えば良いと背を押されておっかなびっくりと言う様子でぎこちない操作でタブレットを使い始めた。初めての電話に緊張する妹のそれが移ったのか淳之介もまた手に汗を握り始めていた。

 

 三分程かけて連絡先を開いた麻沙音は那須さんと名前付けられたプロフィールを開く。一覧に乗る通話ボタンを押せば電話が繋がるところまで漸く辿り着いた。緊張で荒い呼吸をしつつ火照った顔の汗を拭う。いつしか淳之介だけだった緊張は他の面々にも広まり、NLNSの秘密基地は緊張に包まれていた。

 

「……その、那須さんの声を耳元で聞いたらそのまま茹だる可能性があるからスピーカーモードで電話するね。……ふぅぅぅぅぅ、麻沙音、行きまーす!」

「頑張れアサちゃん!」

 

 意を決して通話ボタンを押した麻沙音に声援を送る淳之介。次第に熱が入り始めたNLNSメンバーが固唾を飲んで、軽快な呼び出しの音を鳴らすタブレットを見つめた。一回、二回、三回、やや長めの合間を置いてから、呼び出し音が消えた。

 

『もしもし、橘さん?』

 

 その声は電子機越しであっても分かる柔らかさと凛々しさがあった。この声でバイノーラル音声を作ったら爆売れするだろうと性POPに通じた淳之介でさえ頷く美声だった。確かに耳元で聞いたら耐性の無さそうな麻沙音だったら茹だりそうな声である、と太鼓判を押した。

 

 そして、麻沙音以外の四人の意見が一致する。本当に男の声なのか、と視線が交差し、首を傾げる。しかし、性別に準じた制服を着る事を義務化されている水乃月学園に在籍する以上、性別を偽る事はできやしない。淫スタに男子制服姿の写真もあった事から性別に間違いは無いだろう。

 

「ひゃい、た、橘です。その、今お時間大丈夫ですか?」

『ああ、大丈夫だよ。防音シートをこれでもかと貼り終えたところだから』

「な、なら良かったです」

『にしても、デパートはデパートでも性のデパートだとは思ってなかったよ。日常品に混ざるようにアレな品があったからほんと驚いた。橘さんが行く時は気を付けてね。所々に試供スペースがあってお客さん同士で盛る場面があったから』

「そうだったんですか、困っちゃいますね。ご心配ありがとうごじゃいます、へへへ」

 

 その遣り取りに唖然としていたのは誰だったろうか。麻沙音の性格を慮ったその言葉に秘められた常識的な内容と、紳士的な思いやりの言葉をこの青藍島で聞く事ができるとは思っていなかった。青藍島に毒され始めてるなと思いつつも、随分とよくできた友達を作ったものだと淳之介は目尻に涙が浮かぶ思いであった。

 

 金属の蓋が開いた音がしてガスに点火する独特な音が続き、美味そうに息を吐く声が聞こえたのは直後の事だった。スピーカーモードであるためにその一連の動作の音はNLNSの秘密基地に静かに響いた。誰もが無言になり、聞き間違いであって欲しいとお互いを見やるが頭を振った事で聞き間違いではない事を再確認できてしまった。麻沙音は知っている側であるため特段反応を見せなかったが、先ほどまでの清廉な印象が一瞬でヤニ臭くなってしまった事に気付いていなかった。

 

『ふぅー……、それで要件は何かな? 暇してるからお喋りするのなら付き合うよ』

「えっとですね、私とある部活動に所属してましてですね、良かったら見学しに来ませんか?」

『……この時間帯に部活動? 随分と面白そうな活動みたいだね。天文部とかかな。良いよ、橘さんがサプライズしてくれるみたいだし喜んでお誘いを受けるよ。部活動って事は学園かな?』

「は、はぃ、その、裏門にこれから来ていただく事はできますでしょうか……?」

『うん、大丈夫だよ。二十分くらい掛かるけど大丈夫?』

「も、勿論大丈夫です。裏門でお待ちしておりますのでゆっくりで大丈夫ですはい」

『あはは、了解』

 

 通話の切れたタブレットへ息を吐いて緊張を解いた麻沙音が顔を上げると、絶妙な困り顔をした面々が頭を抱えるようにしていた。一癖二癖ある者しか集まらないのかこの組織は、と自分の事を棚に上げて誰もが思った瞬間であった。




此処だけの話、サブタイトルは適当なので本文と全く噛み合ってないんだなこれが。

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