抜きゲーみたいな島に派遣された対魔忍はどうすりゃいいですか?   作:不落八十八

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ゆきかぜ参戦す。

 入島審査が行われる場所はゲートを兼ねたSHO本部のある港の一角にある。この場所は入島審査をクリアした者及び在住の島民に対して無料の健康診断を行う診療所を兼ねており、言わば第二入島審査場でもある。第一入島審査は身分証による年齢確認及び身体的外見を重視したものであり、血液検査などの詳細的な審査はこの診療所で行なわれている。

 

 と、言うのも入島審査をクリアする条件の一つとして、性病を持たない、事が義務付けられているからだ。仮に性病を持った者が入島審査を受けた場合はSHO付属の専用病院での入院を勧められる事になる。その理由は最新の青藍島での性に関する研究によって、島の温泉に含まれる成分が有効である事が証明されたため、此処で治療してから入島すると言うルートを取れるからだ。この事を知っている本島出身者の一部は性病治療のために青藍島へ来る者も居る程にその成果は著しい。

 

 妊娠対策として長期利用型のピルをSHO付属病院が研究及び管理している事もあり、人体に負担のかけない医療品のデータが地味に豊富なのであった。それ故に、避妊薬ができるならば妊娠薬もできる訳で不妊治療のために此処を訪れる者も少なくない。青藍島の温泉に含まれるアクメイキ酸の効能はまだまだ解明の余地があるとして、地味に医療学会で話題沸騰していたりするため観光利益よりも医療利益の方が伸び始めている始末。

 

「ごくり……、こ、此処が噂の青藍島ね……!」

 

 良くも悪くも注目される青藍島。そんな島へ夕日に溶け込むように訪れる小さな影があった。雷マークのシールやアニメ調のロゴを貼られたキャスターを引きながら、健康的な褐色の日焼け肌と腹部の白さのコントラストが映える美少女は膝まで伸びる栗毛の二房と下ろした髪をなびかせた。

 

 胸上で交差する紐が色気を醸すバンドウビキニ型の黒いトップスに裾の短い灰色のジャケットを合わせ、艶めかしい太ももを強調するような灰色のホットパンツという露出の高い恰好をしているものの、彼女の持つ活発が色気と相殺してスポーティな印象を作り出している。

 

 透き通るようなアメジスト色の瞳が彼方此方と泳いで彼女の待ち人を探すために忙しない。アイツなら、と自身の知っているその待ち人がしていそうな事を考えて探すも見つからない。段々と業を煮やして機嫌が悪くなり、その本性を垣間見せるように双眸の端が吊り上がる。睨むような視線に晒されたロビーに居た人々は、その美少女に声を掛けようとしていた者も含めてそそくさと離れ始める。その流れを切るようにして外から内へと向かってくる人影があった。

 

 この島では知る人の居ない水乃月学園の男子制服を身に着けた中性的な少年を視界に捉えた瞬間、少女の瞳が輝くように上機嫌を物語った。キャスターを置いて行くような速度で、歩み寄る少年――大久那須に対し、少女――水城ゆきかぜは近付いて声を掛けた。

 

「“アッシュ”!」

 

 灰色髪に篝火と言う単語から付けられたニックネームを呼んだゆきかぜの顔は満面の笑みであり、上気した頬が桜に染まる程に再会の喜びを露わにしていた。そして、キャスターを放り出して自分よりも少し高い程度の那須へ抱き着くように飛び出した。

 

 帰って来た飼い主に甘える猫のような俊敏さで飛んできた事にやや驚きながらも、本質的な所は変わっていない姿に苦笑しつつ、それを優しく受け止めた。勢いを殺すためにゆるりと一回転し、地面に足を下ろさせた那須は眼前のゆきかぜに笑みを浮かべた。

 

「久しぶり、ゆきかぜ。元気してたみたいだね」

「当り前よ、私がそこらの有象無象に負ける訳ないじゃないの」

「それもそうか。にしても……、二週間も見ない間に雰囲気が変わったね。何かあった?」

「んーと、ママに会ったわね」

「めっちゃ進展してんじゃん。それで?」

「淫魔王に誑かされてるみたいで敵側に居たわ。自分の意思なのか、洗脳されてるのか分からないけど、ぴっちりラバースーツにボールギャグに目隠しは遣り過ぎだと思うのよね」

「それはまた……、随分と凄い事になってるね。えっ、その姿で戦ってたの、不知火さん」

「そうよ。行方不明になってから何をやってたんだか全く分からないけど、ナニしてたんだなーってのは伝わったわ」

「ご愁傷様」

「うん、だから、慰めて……」

 

 そう那須の胸に縋りつくように頬を擦り寄らせるゆきかぜ。那須はその小さな頭を優しく撫でた。そんな外見的にこましムーブをしている那須であったが、内心では大混乱していた。那須の記憶に居るゆきかぜと言う少女は、貧乳なのを気にするツンデレ活発少女であるからして、目の前の愛嬌を振り撒く甘えた猫のような在り様は初めて見たからだ。

 

 否、実際には人目のあるところで、と言うのが正しいのだが、那須にとっての黒歴史の一つであるため思い出さないようにしているだけだった。一か月前のベッドの上で今の姿はこれでもかと見ているのである。

 

 仄かに感じる那須の小振りな胸と二週間振りの匂いを堪能し終えたゆきかぜが離れ、倒れていたキャスターを立て直してから向き合った。その様子は先程までの甘えた猫のそれではなく、対魔忍ゆきかぜとしての凛とした姿であった。

 

「……一先ず、応援に来てくれてありがとうゆきかぜ」

「ふふんっ、私が来たからには一切合切ぶっ潰すわよアッシュ」

「ああ、頼りにしてるよ。それじゃ、前線基地、もといボクの家に行こうか」

「あら、連れ込まれちゃうのね私」

「……ところでさ、一つ聞きたいんだけど」

「本当に一つだけで良いのかしら?」

「……はぁ、二つだよ。一つ、今って達郎とはどうなの?」

「達郎? 特に何も無いわよ。別に付き合ってる訳じゃないし、あぁでも、あんたがこっちに行ってからは寂しそうにしてたわよ。聖州学院に潜入する時にアッシュも居て欲しかったって愚痴ってたし」

「そっかぁ……」

 

 そんな冷めた返答が返って来て那須は心が冷える思いであった。何せ、今の今まで恋人関係にあると思っていた達郎とゆきかぜの関係が未だに幼馴染のままであったのだから。

 

 そして、二人の交差する意識の矢印を曲げさせてしまったのは確実に一か月前の自分であると、罪を確りと認識してしまったが故の罪悪感に苛まれた。今現在、那須の左腕に抱き着くようにして腕を組んでいるゆきかぜの熱の矛先は確実に自分に向かっているのだと、麻沙音への恋心を意識した結果培った恋愛感情への理解によって気付いてしまったのだから。

 

 哀れ達郎、そしてすまん達郎。幼馴染の恋心を下半身で奪ってしまった事実に那須は内心で達郎へ懺悔した。再会した時が怖いな、と人間関係の難しさに少しだけ辟易していた。

 

「もう一つは?」

「ええと、…………こんなに積極的だったっけ?」

「ふふっ、自分の事ながら気付くのが遅かったのよね。多分、あんたと一緒に寝泊まりしている頃から惹かれてた。潜入任務でママに出会って気付いたのよ。アッシュに慰めて欲しいって。寂しかったんだからね?」

「……ゆきかぜ、ボクは……」

「あ、そうそう、別に私二番でも良いから」

「……はい?」

「むしろ、アンタを一人で抱えるなんて無理よ。大方こっちで好きな娘できたんでしょ? その娘と共同戦線を張るわ。というかね、私と凛子先輩を抱き潰せるあんたを一人で相手してたら身が持たないわよ」

 

 予想通りに困惑した様子の那須にゆきかぜは蠱惑な笑みを浮かべた。そう、淫魔王に侍るようにして堕ちた実の母の姿を見たゆきかぜはシンパシーを感じていたのだ。快楽に溺れたい、願うならば自分より強くて逞しくて――ずっと愛してくれるような人と。ゆきかぜは自身に潜む母の血を、堕落願望の一端を理解してしまっていた。故に、恋愛的な事もしたいが、それよりも欲求を満たシたいという欲求が天秤の均衡を壊してしまっていたのである。

 

 順序が逆であれば、先に母に出会ってから那須と性を貪ったのであれば、那須を自分だけのモノにしたいと切望していた事だろう。だが、順序はそうでなかった。性を貪り合った事で生じた欲求の答えを、母の姿を見て解ってしまったが故に、那須の隣に居れればそれで良いやと結論付けてしまっていた。

 

 そんな事を思っていると露知らずの那須は多いに困惑していた。何せ、麻沙音の性癖的にゆきかぜが間に入って来ても問題無さそうと言う事もあり、むしろ嬉々として共同戦線を張って色々とやらかしそうだと思えてしまえたからだ。そして、何よりも――そんな日々を過ごすかもしれない未来に嫌悪感が無い事だろう。

 

 大久那須、否、名前を付けられなかった名無しの少年は、その人生の殆どを薄暗い裏社会で過ごしてきた経緯がある。生暖かい液体に身を浸けられたカプセルの中で造られ、対魔忍としての性能だけを求められ戦闘訓練漬けにされ、その類稀な身体的資質から人体実験や薬物実験の素材及び被検体として幼少期を過ごした。

 

 そして、気紛れなのか今も真意を知らない創造主たる桐生美琴に引き取られたかと思えばヨミハラのラボで住まう事になり、桐生佐馬斗へと押し付けられてからは学生の真似をしながら対魔忍として血生臭い世界へと戻る羽目になり、ゆきかぜと達郎との交流を経て人の営みを学んで――青藍島で麻沙音に出会った。

 

 殺し合う敵では無く、共に戦う仲間でも無く、守らねばならない庇護者との交流は那須の心を良い方向へと成長させた。あれ程までに血生臭かった手から、落ちない返り血を擦り続けた手だったのに、今ではそんな臭いを感じさせない程に綺麗な手になった。それは精神的な症状だったのだろうと指摘できる者は居ないが、那須自身が変われたのだと思うのには十分な理由だった。

 

「アッシュ?」

 

 握られた掌から感じる小さな掌の温かさを那須は振り払えなかった。彼らから学んだ倫理観が一夫多妻は日本の法律では不可能だと指摘しているが、それを頷くにはこの手を払う必要があるのだと欲望が囁く。そして、何よりも麻沙音との関係が未だに宙ぶらりんであるのが相まって那須の心を搔き乱す。

 

 この汚い掌を握って、受け止めてくれると言ってくれた麻沙音の顔が浮かぶ。

 紛いモノの身体に寄り添って、一緒に居てあげるわよと言ってくれたゆきかぜの顔が浮かぶ。

 

 全く持って贅沢な悩みだな、と那須は自嘲した。魔族殺戮機械めいた生き方をしていた自分がまさか色に困る日が来るとは思っていなかったと内心で自分の無様さを嘲笑った。この思いに決着を付けるのは今は無理だろう――そう、那須は幼過ぎる自身の人としての心を顧みて目を逸らした。愛したいのは麻沙音で、隣に居て欲しいのはゆきかぜで、両腕に収めて置きたいのが二人なのだから。嗚呼、実に傲慢で、強欲的な色欲に塗れた怠惰な答えだった。

 

 化け物であった名無しの少年が答えを出すには人生経験と人としての心の豊かさが足りなかった。人らしさを形成し始めたばっかりの化け物に、愛を語らせる事は難儀であった。だから、那須は一つ息を吐いて、答えを先延ばしにした。こればっかりは自分だけで出せる答えではないと、一先ずは目の前の依頼を片付ける事を優先しようと、自分の心から視線を逸らした。

 

「いや、何でもない。この島に来てから随分と多感になったな、って改めて思っただけだよ」

「ふぅん、それなら良かったのかしらね。……にしても、この島、やばすぎない?」

「……だよねぇ」

 

 入島審査場ロビーから青藍島の港へと移った二人は湿気のある暖かな南国の風と、彼方此方から聞こえてくる嬌声に歓迎されて顔を曇らせた。そこらに居る男性は股間を膨らませて今か今かと発情しているし、そこらに居る女性は煽情的な恰好になって色気の込められた熱い視線を向け始めていた。どいつもこいつもヤる気が有り過ぎる、と二人はげんなりした。

 

 見た目美少女然とした那須とゆきかぜに対して熱の籠った視線を向ける男女が増え始めた事もあり、二人の歩みは必然的に早まった。もっとも、此処は序の口であり、此処からが地獄の三丁目と言った具合なのだが。それを知っている那須でさえも、改めてこの島の異常さに頭を抱えたくなる気分であった。

 

「そう言えば、ショタに涎零してた痴女警備員から飴玉貰ったんだけどハメドリくん味って何味?」

「さぁ? ていうか飴玉? そんなの上陸した時には貰えなかったんだけど。最近になって配り始めたのかな」

「知らないわよ。あ、注意書きが書いてある。……注意書きの書いてある飴って何なの……」

「それが青藍島だしなぁ……」

「あんた随分と毒されてるわね……。情操教育の場として劇薬が過ぎるんじゃないかしらこの島。えぇと、ハメドリくん味は69種類のフレーバーをミックスした甘じょっぱい味みたいらしいわよ」

「それほぼ添加物なのでは……?」

「あと、アクメイキ酸? 聞いた事の無いのが配合されてるみたいよ」

「アレが混入してるのか……。もはや媚薬か何かだよそれ」

「そうなの? あっ、そう言えば温泉の成分がーってネット記事に上がってた気がするわね」

「意外と認知されてるんだな……。って、何してんのゆきかぜ」

 

 艶めかしい小さな唇にハメドリくんキャンディを咥えたゆきかぜが悪戯っぽい笑みを浮かべていた。そして、口の中に含み小さな舌で弄ぶようにする様を那須に魅せ付ける。それはまるで口で精液を受け止めた後に味わうかのような淫靡さを孕んでおり、蠱惑な瞳も相まって那須も少しどきりとしてしまった。

 

 目線を逸らそうとした那須の腕を引っ張り、勢いを付けて背伸びしたゆきかぜの顔が近付いて――唇が触れ合った。腕を掴んでいた筈のゆきかぜの両手は那須の首裏に回されており、味を共有するように舌と舌が触れ合って絡まる。そして、ころりと飴玉が那須の方へと送られてから、銀糸を引いて唇が離れた。

 

「ふふっ、意外と美味しいわね」

「な、何を――ん?」

 

 人目のある場所でディープキスをかましたゆきかぜに苦言を伝えようとしていた那須だったが、口の中に広がるその特有の味を感じ取ってから様子が変わり険しい表情を浮かべた。それは表では合法ハーブとして売り出された事もあった、魔界産の麻薬素材になる魔草の味である。対魔忍の任務で押収したノマドの薬物の一つにそれはあった。

 

 齎す症状は、酔っぱらったような酩酊症状と性欲の促進と性機能の向上、そして、喉が渇くような中毒症状。これの出所は殆どが違法娼館の地下であり、媚薬と用いる事で効率的に性奴隷を作り出すノマドの薬物として知る人は知る違法薬物である。

 

「……ゆきかぜ、これをSHOの警備員が渡したって言ってたよね」

「そ、そうよ? 試作品のキャンディだって言ってたわ」

「不味い」

「味が?」

「事態が、だよ。これ、魔界の薬物が混じってる」

「は? 今回の任務ってSHOの――」

「違う、そっちじゃない。此処最近、SHOの職員の一部が離反しているんだ。恐らく洗脳されて奴らの手駒になっているのが居る。そして、こんなのをばらまき始めたんだ。随分と舐めた真似をしてくれるもんだ」

 

 違法薬物混入飴玉だなんてこの島に蔓延したらとんでもない事になる。飴玉の配布元へ中毒者が集い、新しい飴玉を貰うために何をさせられるか分かったものではない。増してやノマドと関わりのあるヤクザだ。裏風俗のための性奴隷として本島や外国に誘拐されて資金源になるだけではない、下級魔族を孕ませる肉袋として運用し始めたら目も当てられない惨事となる。

 

 薬物耐性のある那須が気付けて良かった、と忌々しい飴玉を吐き出してハンカチに包む。この島が魔族によって占拠されれば、ノマド傘下の風俗島になるどころか第二のアミダハラに成りかねない。そんなことをさせてたまるものか、と那須の双眸に殺意が灯った。

 

 隣で段々と怒りのボルテージを上げる那須を見てゆきかぜは肩を竦めた。逆鱗に触れたわね、と内心で溜息を吐く。この島で唯一対魔忍としての那須の実力を知るゆきかぜが匙を投げたのだった。もう止められない。篝火の対魔忍に殺意の炎が灯ってしまったのだから、と。




此処だけの話、私服のゆきかぜの画像が無いので作りました。

【挿絵表示】

えちえちのえちですが、健全なY猫ちゃんでございます。
(割とマジで私服のゆきかぜの画像が手に入らなかったのでオリジナルです)
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