抜きゲーみたいな島に派遣された対魔忍はどうすりゃいいですか?   作:不落八十八

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オナホ脱走。

「では、ブリーフィングを開始します」

 

 那須の家のリビング、中央に置かれたテーブルを囲むように対魔忍及びNLNSのメンバーが立ち並ぶ。椅子の数が足りない事もあって公平を期すため立ち話なったのである。本来仕様などが置かれているであろう各自の正面には冷えた麦茶が入ったコップが人数分置かれている。場所が秘密基地であれば麻沙音がリンクさせたブリーフィングテーブルで各種資料を公開し分かりやすく視覚的に捉える事ができただろう。だが、入居時と一室以外がほぼ変わっていない那須の家ではそれは叶わない。

 

 長方形の形をしているテーブルの両端に那須と淳之介が対面する形で立ち位置を決め、その隣を埋めるように女性陣もある程度の間隔で立つ。本来、対魔忍側とNLNS側で別れるだろうが、人数差もあるため無難な並び方になった。

 

 と、言っても那須の右側にゆきかぜ、左側に麻沙音が立ち、淳之介の右側に奈々瀬、左側に文乃が並んだ事で裏の意図まで感じ取れるものだった。相棒としての立ち位置を絶対譲らないという右側の意思と、寄り添い支える者としての立場を弁えていると言う左側の意思が透けて見えるようだった。

 

 そんな並びを見て両側からあぶれたヒナミと美岬は苦笑していた。皆が皆好きだと思っていたけれどこうも露骨だと逆に笑えて来てしまうからだ。どうにせよ、各自の想いは受取先が同じなのだから嫉妬心も湧いてこない。むしろ、仲が良いですねぇと自身の余裕を見せる始末だ。

 

 そんな水面下で静電気程度のばちばちをしているのをゆきかぜは微笑ましく思っていた。対魔忍は実力主義であり、そして選民主義が蔓延した社会を構築している。故に、最強と謳われるアサギは讃え恐れられるし、魔の血の入った者で血統の誉れの無い那須は容赦ない仕打ちをされている。

 

 そして、そこに実力と言う第二の視線が入る事で那須の立ち位置は概ねプラスマイナスを平坦にする事ができていた。生まれ悪き者でも功績を上げればその実力を讃えられるのが実力主義の社会だ。

 

 そして、良家で血筋も明るく、そして実力もあるゆきかぜは社会場として貴族社会のそれとは比べられないもののそれなりの会を渡っている。名のある一族の長が結託して顔見せの場と言う名のお見合い会場に、だ。

 

 本来社会場であれば顔や名声、血筋などに重きがかかるが、頭対魔忍と呼ばれる者たちだからこそ此処に実力主義の法則が当てはまってしまう。つまり、強い奴と強い奴を掛け合わせたら強い血筋になるじゃん凄いじゃんやったね万歳と言う理由でお見合いが進むのである。

 

 優秀な血筋の優秀な者へと熱の籠った視線が集まり、次点で普通な血筋だが優秀な者へと視線が動く。そのどちらも有しているゆきかぜは視線をこれでもかと受ける、受けるのだが、その視線が下に向かってすとんと床に落ちるため、あの幼児体型じゃなぁと高嶺の華になってしまっていたのである。

 

 そう、容姿と実力の位置が入れ替わった高嶺の華である。そのため、向かってくる視線が少ないために辺りを見回す余裕ができ、愛憎逆巻く肉食たちの狩場めいたお見合いを一歩引いた目で見れたのだった。

 

(いやほんと、此処の娘たちあの眼鏡に懸想してるってのにほのぼのしてるわね。こっちが微笑ましくなってくるくらいにピュアな光景だわ)

 

 もっとも、そんなピュアな娘たちが住んでいるこの島はハードコアな島であるが。よくもまぁそんな娘に育ったわね、と那須に教えて貰った青藍島の事を脳裏に浮かべつつゆきかぜは内心で苦笑していた。

 

「では、作戦の概要を説明します。明日、日付変更後に敵陣地への夜襲をかけ、懸念材料である裏風俗被害者たちの奪還、これを本任務の最重要項目とします。次点の重要事項として、裏風俗に関与する魔族の排除、これを対魔忍側が請け負い、その隙にNLNSが人質の奪還及び回収を行ないます。懸念事項としては、魔族の関与によって敵陣営の武装が進んでいる可能性があり、死亡リスクが跳ね上がっている事ですね。ですので、対魔忍側を陽動殲滅と護衛に分けます。ボクが魔族を潰し、ゆきかぜが皆さんの身を守ります。ゆきかぜは雷遁の術の使い手にして、若手対魔忍の中でも上位に位置する対魔忍です。幾らかの危険はありますが、その任を完遂してくれるでしょう」

「ええ、アッシュの資料を見るに今回の魔族は下級が主軸になってる。恐らく中級魔族が旗を振ってるのね。上級魔族の介入があればこんな杜撰な計画は建てない。島のヤクザたちを全員魔科医改造しててもおかしくないのにそれをしていない。と、なると今回の騒動は黒幕が居るわ。こっちに居るのは実働部隊で、本島の方のヤクザの本丸に黒幕は居るんでしょうね。青藍島の立地からして尻尾切りがしやすいから、どっちに転んでも相手からすれば良いんでしょうね」

「加えて、新情報として覚せい剤入りの飴玉を裏切ったSHO職員が配る行動を見せています。経験上の憶測ですが、黒幕はこの島が疲弊すれば動き出す事でしょう。この島を破綻させ落ちぶれかけた所で本命の上陸によって制する、恐らくこの島の乗っ取りが彼らの目的でしょうね」

 

 青藍島の乗っ取りという壮大な内容を聞いたNLNS側の反応は顕著だった。困惑と怒り、そして引き攣った口角から見て取れる恐怖だった。然もありなん、NLNSのメンバーはこの島から見て異常であると言うだけで、世間一般の一般人と言って相違無い。ましてや、彼らの目的はドスケベ条例の打破であってこの島の征服では無い。徹底抗戦の覚悟はあれど陣取り合戦をするつもりは無いのだからイメージが湧かなかった。

 

 そんな困惑な表情を見せるNLNS側にもう少し説明が必要かなと那須は思案する。何せ、お互いの知識の見方が現場とネット上のそれくらい違っているので噛み合っていないと感じていた。彼の予測であれば慄きはしても怒りを露わにしてくると思っていたが、困惑の色が強いのを見て理解できていないと察したのだった。

 

「この島を乗っ取った奴らは宴をする事でしょう。男性には強制労働と理不尽な暴力、女性には性奴隷めいた孕み袋や商品として扱い、そんな戦利品を彼らは嘲笑いながら踏みにじるでしょう。魔族。そう呼ばれるように彼らは生きている世界がそもそも違う、言わば侵略者なんですよ。魔族は土地を奪えば植民地だなんて生ぬるい事はせずに暴力で理不尽を強いる。逆らう気力すらも暴力で組み伏せて従順になった人間を金儲けや強欲に従って弄ぶ。言わば彼らは蛮族の侵略者です。そんな奴らからすれば、肉欲を満たせる土壌が出来上がっているこの島は格好の獲物ですね。ちょっとインフラを変更すれば、住民の身体で金を稼がせる風俗島の出来上がりですからね。ドスケベ条例だなんてものが浸透しているのですから、そこに料金の支払いを足すくらい簡単にできるでしょう。住民はノルマを課せられ合法化された非合法な風俗を決行、この島に訪れる成金や屑がお金を拾わせるように落として行き、その金で武力を高めた魔族が力を得て此処を拠点化する」

 

 その那須の淡々とした憶測語りに段々とNLNS側の顔が青褪めていく。覚せい剤入りの飴玉は恐らくその魔族側の未来を見据えての行動だ。住民を違法飴玉で中毒者とさせ、飴玉を買うために観光客から身体を使って儲けを出させ、安価な飴玉を法外な高さで売り叩けば悪循環な売り場が出来上がってしまう。

 

 首が回らなくなれば奴隷として捕らえて売り出し、ピルなどを廃止させ産めよ増やせよと人口を増やさせて牧場化する。魔族優位の社会が敷き終わればこの島だけ合法な違法風俗を増やし、世界から金を集める環境を作り上げる。何せ、金があれば良いから入島審査も必要無いため、断られていた者たちすらもこの島へ立ち入り喜んで金を落としていくだろう。

 

 正しく性による征服であった。

 漸く事態を呑み込めたNLNS側は確固とした表情で那須を見やる。それを阻止するための一番槍、それこそがこの作戦なのだと理解できたからだ。魔族の作戦は温床となる裏風俗並びにヤクザの存在があってのものだ。起点を潰してしまえばそこから続く事は無い。新しい部隊が送られてきても入島審査を強化すれば足並みを揃えさせる事は阻止できる。

 

 相手の鼻っ面を圧し折る、それが今回の作戦の肝であった。

 

「……成程な。随分と深刻な事になってたんだな。俺はただヤクザを潰せばどうにかなるって思ってたが違うみたいだ。那須君。俺は裏風俗が、人を人として扱わない奴らが大嫌いだ。人の嫌がる事を平気で出来る奴らが、大切な誰かを踏み躙って嘲笑う奴らが、憎い。かつて、この島で暮らしていた時に俺は巨根のコンプレックスから虐められていた。それを救ってくれたのは同じくして虐められていた女の子と……違法風俗に身を窶す人だった。あの子とあの人は、俺のコンプレックスを個性だと尊重してくれた。その一言で俺は救われたんだ。だが、俺は女の子に酷い事をしてしまって、そのまま逃げてしまった。それからあの人と会ったんだ。……裏風俗に窶すしかなかったあの人をこの島の住民は迫害して、石を投げつけて罵詈雑言で貶めた。……その結果、過労と衰弱でその人は死んだ。幼かった俺はあの人を守るための手段が無くて、それどころか守られるばっかりで、どうにもできなかった。……初恋の人を見殺しにしたも当然だ。だから、俺はこの島が嫌いだ。あの人を使い潰した裏風俗が嫌いだ。俺たちを貶めたドスケベ条例を妄信した島民が大嫌いだ。だから、いじめの原因を作り、あの人を殺したドスケベ条例を潰そうと思った。秘密基地が、NLNSが、仲間ができて可能性も見えて、これから漸くって時にこれだ。……あの時は力が無くて守れなかった。だが、今は違う。力を付けて、頼れる仲間を作って、そして、対魔忍の君たちが協力してくれる。今度こそ、俺は見殺しにはしない。今度こそ救ってやるんだ!」

 

 淳之介の本音の籠ったその言葉は悲痛で力強いものだった。どれだけ苦悩して、どれだけ悔しんだかを感じさせる魂の咆哮だった。その言葉に納得と共感を得たNLNSメンバーは頷きと引き締まった表情を魅せた。そして、唯一唖然としていた少女が居た。淳之介の左に立っていた文乃だ。

 

 それは、もしかしてと言う推測と、当時語っていた事の思い出が噛み合わさった憶測が入り混じったような悟りの表情だった。当時、気丈な振舞いで体調不良を隠していた母が今度連れて来ようかなと言っていたとある少年の話を思い出してしまったからだ。母が自分のために連れて来ようとしていた少年はきっと――。

 

 そっと瞼を伏せて文乃は静かに涙を零した。直ぐに裾で涙を拭いたものの胸に宿った暖かな思い出の温もりが涙を後押す。けれど、文乃は強い女ですから、と母が無理をしながらも強がった時の言葉を真似して奮い立たせる。正面でその様子を見ていた那須は何かしらの接点があったのだろうと憶測し、あえて触れようとはしなかった。生者であれば問い掛けただろうが、死者であればそっと黙して冥福を祈るべきだと感じたからだ。

 

「……そう、そう言う事だったのね淳。だから……あんなに……」

 

 そして、その話を聞いて段々と当時を思い出して納得する奈々瀬の姿もあった。隠していたコンプレックスを刺激されて取った行動は言葉足らずで強引なものだったが、ある程度の会話があればきっと受け入れていたに違いなかったIFの出来事。

 

 初等部に通う少年少女はドスケベ条例に守られた存在だった。未性年と言う括りでドスケベセックスをするには身体が出来ていないという理由で禁じられていた。だが、それは性年が未性年を、という話で、未性年同士が行う事は禁じられていなかった。

 

 故に、童貞や処女は悪態の言葉として使われていた。本島出身であった奈々瀬は本島の常識を持って育った両親を持っているが故に、そういった事は好きな人とやるべき行為だという認識を持っていた。だが、それは青藍島では異端のそれに等しい。故に、性器を理由にいじめられた淳之介と同様にいじめを受けていた。

 

 森の中で二人が出会い、友情を築くのも当然の事だった。同調圧力的な周りの行動は段々と性的いじめ染みた雰囲気を見せていた事もあって、それを目撃してしまった淳之介は焦ってしまった。若さゆえの過ちと称すれば笑い話になるだろうか、だが当時の彼らにとっては真剣な話題だったのは間違い無い。心優しき友人の大切な物を誰かに強引に奪われるくらいなら――だなんて、考えてしまっても仕方が無いのだろう。

 

 結局は未遂に終わり、正気に戻って罪悪感で死にたくなった淳之介はその場から逃げ去った。置いてけぼりにされた奈々瀬は思い詰めていた淳之介の表情と行動から、何となくであるが自分の事を思っての事だと理解できてしまった。

 

 だから、探して、歩き回って、漸く見つけた淳之介は沈痛な面持ちで俯いてしまっていた。気にしていないと言えれば、友達だよと言えれば良かったのだろう。だが、心優しき奈々瀬はそれをすればもっと傷付けてしまうかもしれないと思って口にできなかった。ましてや、初恋の人を亡くして呆然自失の姿を遠目で見てしまっていたら尚更にだった。

 

 タイミングを計ったものの母親の仕事の都合で預けられていた事もあって本島に戻らねばならず、お互いの家を知らないが故にお別れも告げる事は叶わなかった。妹である麻沙音を元気付けられた事が幸いだろう。それが無ければ罪悪感で胸を占めたまま引っ越しをする事になっていただろうから。

 

「……うちの兄がエロゲーの主人公だった件について」

 

 と、目の前で繰り広げられた伏線回収の場面を見て麻沙音はこっそり呟いた。麻沙音は奈々瀬が兄を励ましてくれた少女であると交流から気付いていたし、文乃の方は母親が過労で亡くなっている事を聞き及んでいるのでその線から獣の直感で結び付けていた。もっとも、初恋の人を亡くしたの件は麻沙音も知らなかったので素直に驚いていた。

 

 そして、そんな淳之介の覚悟を見ていたゆきかぜは腑に落ちた顔をしていた。麻沙音の方に視線が向いていたが、彼の心を変えたきっかけは淳之介なのだと察する事ができてしまった。何せ、人を人として扱わない奴らの下で働かされていた那須だ。こんなにも真っ直ぐに生きる人を友達に持ったならば、救われる思いもあったのだろうと。

 

 ゆきかぜは那須を後ろで支える役目ではなく、背中を合わせて守り合う関係で繋がっている。ゆきかぜの右腕は那須であり、那須の右腕はゆきかぜなのだ。ゆきかぜが銃で、那須が剣、寄り添い合う方法は戦友としてがベースだった。肩を寄り添って二人で支え合う事はあっても、どちらかの枷になるように依存しあう関係ではない。

 目の前の兄の背を見て育った妹であれば似たような成長をするだろう、そうゆきかぜは考えて麻沙音を見る。

 

 彼女の在り方は自分の出来なかったもう一つの道だ。故に、二人の在り方は被らないので心配が要らないと思えてしまった。那須を後ろから抱き締めるのが麻沙音で、隣に座って腕を取るのがゆきかぜなのだからお互いの場所を守れるためこじれない。案外気が合うかもしれないわね、と同じ人を好きになったよしみで笑みを作った。




此処だけの話、ちょいちょい妄想をねじ込んだ過去話をしているぞっと。
既にぬきたし1と2とスス子√まで終わらせている生ハメイトさんなら分かると思いますが細かい所を盛ってます。(内容的には1だけだけどね)
……一応ネタバレタグ付けておこうかな。
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