抜きゲーみたいな島に派遣された対魔忍はどうすりゃいいですか?   作:不落八十八

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マ・ラ包囲網を破れ!

 あれ程までに熱狂的だった青藍島も休日の夕方を越え、夕飯の準備や朝からのハッスルによって力尽きる者も出て来て静かになりつつある。南国に近い気候であるのに関わらず何処か寒さを感じさせるのは、今立つ場所が森の中だからだろうか。6人の前を堂々とした様子で歩くゆきかぜの背を見ながら淳之介はそんな事を思いながら背筋を震わせた。

 

 前に脱出経路を模索して裏門から裏山を迷った時にはそんな気分にはならなかった。だが、横からズブリ♂奇襲作戦の決行に当たり、言葉に言い表せないような奇妙な感覚を感じ取れていた。それは、この森林に入ってからすぐに感じ始めた事であり、目の前の小さな背の導きがなければ既に迷い込んでいた気もしてくる程に違和感があった。ちらりと横顔を見せたゆきかぜが時折此方を見やるのは着いて来ているかどうかの確認をしているためだろう、だが、その頻度が高ければ段々とだが嫌な予感を覚えるのも無理が無かった。

 

「……随分と濃いのを仕掛けてるみたいね。奥に行くに連れて迷うような術が山林一帯に広がってる」

「術? それは忍者的なアレなのか?」

「忍術じゃなくて、魔術の方よ。感覚的な錯覚を強制的に植え付けて真っ直ぐ歩くのを困難にしているのよ。灯りも無ければ獣道も無い、道しるべの無いここは迷わせるのも容易。だから、例え簡易的な人払いの魔術でもここでは通用する。……多分、学園方面からSHOが来ると予想して散らすように仕掛けてるのね。少し回り道をするわよ」

「どうして? まーっすぐ行った方が良いんじゃないのかな」

「理由は二つあるわ。一つは術を仕掛けている時点で、一般人のSHOはこの森を通り抜けないし、潜んだ奴らに各個撃破されるのが目に見えてる。そうなると真っ直ぐに行くとそのまま本陣に出くわしちゃう可能性が高いわ。どーせ、あいつらの事だから散らばったのはオークとか下級魔族に任せて本陣で下卑た笑いを浮かべ合ってるでしょうからね」

「もう一つはなんです?」

「それはね……。此処に来る前に飲んだ物がヒントよ」

 

 ルートを変えつつ振り返って意地悪な笑みを浮かべるゆきかぜの言葉に各々が首を傾げる。此処へ来る前に那須から渡されたのは小さな小瓶だった。道中で飲み干したそれの説明をする前に那須は先行してしまったので聞けず仕舞い。説明ができそうなゆきかぜは何故か高揚気味にそれを味わうように飲んでいたため聞きそびれてしまっていたのだった。

 

 一同が小首を傾げる中、ふと麻沙音は那須の忍術がどういったものだったかを思い出して納得の顔を浮かべた。そして、同時に頬を赤らめた。那須のナニを利用したかは分からないが、素材が那須産である事は間違いなく、同時にバレンタインで血などを混ぜようとするエロゲヒロインの気持ちが少し分かってしまったからだ。

 

「媚毒の血清、ですか?」

「ふふん、やっぱり分かっちゃうもんなのね。そうよ、アッシュの血から作ったアイツの毒専用の特効薬よ。これが無きゃ、アッシュの媚毒に犯されて腰へこ絶頂マシーンに成り下がるからね」

「うわぁ……、うわぁ。えっ、那須君の術? ってのはそんなに凄いの?」

「ふーん? そんな見た目してるのに飲んだ事無いの。バイアグラとか精力剤とか興奮剤とか」

「悪かったわね、こう見えても清い体なのだわ」

「……逆に凄いわね、こんな島なのに。まぁ、いいわ。一応の予備知識として知っておいて欲しいのだけど、これから相手するであろう下級魔族は大体三種。下級オーク、下級淫魔、下級使い魔ね。こいつらは大概尖兵というか鉄砲玉で使われる下っ端―で、男は殺して女は犯すみたいな行動原理で動いてる雑魚よ。雑魚って言っても対魔忍から見て、ってのは言うまでも無いわね。一般人からすれば十分に脅威よ。成人男性複数人程の力や魔術や魔法を使い、生まれ持った力でゴリ押すような奴らね。で、オークは体液に媚薬効果があって、淫魔は文字通りそっち系の魔術を使ってくるんだけど、アッシュの媚毒は上級魔族に匹敵する効力があるの」

「……では、血清を飲んだ事で、抗体が出来る、という事ですか」

「そゆこと。まぁ、後は見た方が早いわね。多分、麻沙音が居るからあんまり派手にはやらないだろうし」

「へ?」

「愛されてますねぇアサちゃん!」

「うっせぇうっせぇうっせぇわふとりさん。忍んでるんだから騒ぐんじゃないやい。お得意のディルドイラマチオでもして静かにしてろぉ」

「んごぼっ、おっぐ、ぐぇ、じゅぼっ、じゅぼぼぼっ……」

「ねぇ、そいつ頭大丈夫……?」

「あっ、すみません、つい普段のノリで……」

 

 何処からともなく取り出したアナルディルドを喉元まで即尺した美岬の珍行動にゆきかぜが絶句してドン引きした。無論、そのノリについていけない他のメンバーも引いているが、まぁ、美岬だし、と言う感じで直ぐに呆れた表情になっていた。一つ溜息を吐いてゆきかぜは辺りを見回して気が散ってしまったルートの再編に取り組みつつ会話を元の道筋に戻した。

 

「えーっと、で、アッシュの戦闘スタイルは基本的に媚毒を用いた暗殺がメインね。施設の空調に媚毒を送り込んで頭が色に染まってるところをザクリ。上級魔族でも無ければ全滅必死の極悪殺法よ。……首から上が無いのに虚空に向かってずっと腰振ってる死体を見た時は本気でぞっとしたわ。基本戦術として媚毒を撒き散らして弱体化させて狩るって訳ね。――止まって、静かにしてて」

 

 左手で制したゆきかぜは睨み付けるように夜の帳の下りた山道を見やる。そこには我が物顔で両側に侍らせた女性SHO職員の胸を揉みしだきながらパトロールするオークの傭兵が歩いているのが見えた。淳之介たちはパトロールのし易い山道を避けて回り道をしていたのが功を奏したようで、先手を取りやすい盤面を得る事ができた。

 

 そっとジェスチャーで皆をしゃがませた後、ゆきかぜは腰元から二丁拳銃を取り外して構えた。幸いにも油断しているらしいオークはそのまま山道を進んで此方に気付く事は無かったようだった。ほっと息を吐いた一同はゆきかぜの静かな手振りに従い、薄暗い森をおっかなびっくり歩いて行く。中腹の手前まで歩みを進めた一同は小さな崖の窪みに身を潜ませる形で合図が来るまで待機する事となった。

 

 照明を落としたタブレットで時間を見やれば22時を過ぎた頃だった。後二時間もすればSHOによる一斉襲撃が開始され、本格的な戦いが始まる事になる。いざと言う時に飛び出せるようにゆきかぜは油断せずに二丁拳銃を構えたまま入口付近に立ち止まる。そんな姿を見て、面々は段々と緊張を帯び始める。

 

「ふぅ……、軽く索敵したけどここら辺はパトロールの範囲外みたいね。小声程度ならお喋りしても大丈夫よ」

「そ、そうか……」

「ふふっ、震えてるの? あんなに勇ましい啖呵を切った割には小心者なのね」

「身体を鍛えてるとは言えそれでも結局一般人だしな。速やかに被害者たちを移送する、それが俺たちの目的とは言えども緊張するさ」

「淳……」

「大丈夫だよ、淳くん」

「わたちゃん先輩……?」

「そうよ、淳。私たちにはあんたが作ってくれたT-A-Eもあるんだから」

「そうですよ。それにゆきかぜさんたちも居るんですからおほ船に騎乗したつもりで居て良いんです」

「お背中はお任せください……、ふんす」

「知らねぇ慣用句が出て来たんだが……。ありがとな。よし、もう一度おさらいしておくか。水城さんを先頭に、遊撃に俺と奈々瀬、美岬とヒナミは電子戦のアサちゃんの護衛、後方に文乃が狙撃支援。この布陣で山頂と中腹の間にある敵拠点を迂回しながら潜入。SHOの参戦を隠れ蓑にして被害者を連れて脱出、SHO本部へ引き渡して状況終了となる」

 

 流石にこの真剣な場面であだ名で呼ぶのもアレかと名前呼びした淳之介だったが、一応ちらりとヒナミを見やれば思いのほか満更でもない様子でにっこにこの笑顔が返って来た。d10oによる強化パーツを取り付けたパイプ椅子を握るヒナミの姿はこの場に相応しいやる気を見せていた。eggの点検をしつつ頷き返す奈々瀬、アナルビーズ型の新型T-A-E九頭竜尖を装備した美岬が笑みを返し、SHOの狙撃ライフルを抱えた文乃が視線を返す。そして、タブレットをバッテリーで充電し直した麻沙音が覚悟を決めた顔で頷いた。

 

 妹を守るために奔走し、ビッチ詐欺な奈々瀬を仲間にし、襲われていた美岬を助けて、危機一髪を文乃に助けられて、最後に仲間となった那須に導かれて此処まで来た。大切な人を見殺しにしたかつての自分では辿り着けないであろう所まで来ることができたのは幸いだった。だからこそ、最後までこの面子で笑顔で終わりたい。そう淳之介は皆の表情を見て笑みの頷きを返しながら思った。

 

 数秒、数分、数十分――時間が過ぎていく。23時の半ばに差し掛かった頃にそれは起きた。山林を明るく照らし出す照明弾が彼方此方から上がり始めたのは。予定よりも早いSHOの決起に一同が面食らうものの、致し方無いと状況の修正を図った。腰を持ち上げた淳之介たちだったが、それを押し留めたのは入口に居たゆきかぜだった。焦りの視線を淳之介が向けるも、知った事ではないと言わんばかりに鼻で笑った。

 

「さぁ、始まるわよ。盛大な合図がね」

 

 ――媚毒の術【酒池肉林大殺界】

 

 海から浜へと押し寄せる波のように赤い霧が中央から全方位に向かって解き放たれた。それは初めに近場の魔族たちを容易く呑み込み、追従するように魔族側のSHO職員たちにもそれは訪れた。数分程漂っていた赤い霧は寄せては返す波のように巻き戻るようにして消え失せてしまう。那須の対魔粒子の絶妙なコントロールによって被害を免れた淳之介たちは、足取りの軽いゆきかぜを追うようにして窪みから出て行った。

 

 山道を登ると開けた中間の広場に出る事が出来た面々、其処には酷い惨状が出来上がっていた。口から泡を吹きながら虚空に腰を振るオークたち、痙攣しっ放しで倒れ伏すSHO女性職員たちは腰元から水溜まりを作り出していた。媚毒に犯された脳は微かに吹く風にすら絶頂するような快楽を植え付けられて逝きっ放しになり、血清が無いが故にその絶望的な快楽から抜け出す手段が無い事で確実に戦闘不能と化していた。

 

 その酷い有様を見て絶句するNLNSの面々に、ゆきかぜは同調するように頷いた。これは酷い、と。戦術爆撃染みた戦果を叩き出した那須は既に赤い軌跡を虚空に描いて山頂へと向かっており、傍から見れば朱雷が走っているようにも見えた事だろう。これほどまでに囮に適した人物は居ない。ド派手な宣戦布告を叩き込んだ那須は黒く染まった鋼の対魔忍スーツに身を包み、両側の手甲噴出口から対魔粒子力ブレードを展開し、媚毒の爆撃を受けた敵本陣である木造建築の屋敷へとダイナミックエントリーを果たす。

 

 軽装に見えながらも鋼で覆われた対魔忍スーツは桐生佐馬斗によって作られた魔科医技術満載の代物である。彼は自身の触手を鋼鉄に混ぜ込んだ事で液状記憶合金もどきを生み出し、それを天才の感性で蠢かせて形作り、培養した那須の細胞を触手に取り組ませる事で主導権を那須本人に渡るように調整を重ねた。それにより待機状態は液状であり、那須の対魔粒子を当てる事で反応させて身に纏う特殊な対魔忍スーツが出来上がったのだった。

 

「ほう、貴様か。俺様の手下を影で葬っていた対魔忍は」

「随分とコテコテな恰好をしてやがるな、吸血鬼野郎」

 

 上下を左右に一閃し、襖を蹴り飛ばした先の部屋に立っていたのは現代におけるドラキュラのイメージを彷彿させる黒いマントに紳士服を組み合わせた金髪の青年だった。金色の双眸がギラリと妖しく輝き、視線を合わせた瞬間に何かしらの瞳術を掛けた事を那須はレジストした事で察した。

 

 吸血鬼の持つ誘いの魔術は視線を合わせた異性に対する特効を持つが、両性である那須に対して数パーセントの可能性はあったものの持ち得る上級魔族の耐魔力と対魔粒子によりあっさりと弾かれた。見た目美少女である那須に対して、確実に勝ったとほくそ笑んだ中級吸血鬼はプライドを傷つけられ舌打ちする。

 

「ふむ、目麗しいお嬢さんだと思っていたが、随分と恐ろしい棘を持っているようだな」

「誰が可愛らしいフロイラインだ、糞が、死ねっ」

「うぉっと!?」

 

 対峙した魔族に散々言われて来た容姿に対する感想にイラっと来た那須は両手のブレードを時間差で薙ぐ。虚空より取り出した鋼鉄のステッキを持ち出した中級吸血鬼は持ち前の身体能力でそれを受け止め、人外の膂力によって弾き飛ばす。お互いに人外の膂力を感じ取り、面倒だと内心舌打ちした。吸血鬼は下級から上級になるにつれて不死性を高めていく特徴を持っており、そして吸血鬼の恐ろしさとはその不死性だけではない。何よりも恐ろしいのはその人外の筋力に集約される。

 

 力比べでは勝ち得ないと那須は判断し、淳之介たちが仕事をしやすいように態と会話を挟みつつ、やや悔し気な演技をして後退して屋敷を飛び出した。驚異的な視力によってそれを見た中級吸血鬼は舌なめずりするように口角を上げ、自身のプライドを見せびらかすように優雅な足取りで庭園へと歩み下りる。

 

 那須にとって中級魔族は多少面倒だが倒せる程度のランクにはある。だが、目の前の吸血鬼は相性が悪い分類に入る。彼が用いる媚毒の術で足止めはできるだろうが、身体の一部を霧に変え毒を排出される可能性は非常に高い。そうなると対魔粒子で出来たブレードを心臓へと突き刺す必要が出てくるが、速度の速い一閃を受け止め弾ける技量からしてステッキを主軸とした近接戦に長けているのは間違いない。

 

「……面倒な」

 

 けど、やらねばならない。【酒池肉林大殺界】で屋敷の外に出ていた魔族は一網打尽にできた筈だが、全体を確認できている訳ではないため不安が残る。屋敷の中に居た比較的地位の高い魔族たちが那須を追い詰めるために続々と姿を見せるものの、厄介だと感じるのは目の前の吸血鬼だけだった。周りの魔族を殲滅しつつ、吸血鬼を狩る。それが今回課せられた自分の役目だと、尖兵を請け負った那須はブレードを構えた。




此処だけの話、転職やらなんやらで書く気力とモチベが上がらなかったんや……。
許して……許して……。
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